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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 特174条1項 H01L 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01L 審判 全部申し立て 特39条先願 H01L 審判 全部申し立て 産業上利用性 H01L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L |
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管理番号 | 1121140 |
異議申立番号 | 異議2003-71925 |
総通号数 | 69 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2001-03-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-07-28 |
確定日 | 2005-06-06 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3371333号「絶縁膜の形成方法」の請求項1〜7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3371333号の請求項1、3〜6に係る特許を維持する。 |
理由 |
[1]手続の経緯 本件特許第3371333号の請求項1〜7に係る発明は、平成12年8月4日にその原出願(特願平8-21206号、平成8年2月7日出願)の特許法第44条第1項の規定による出願の分割がなされ、平成14年11月22日にその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人鈴木三男より、請求項1〜7に係る特許について特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年4月11日に訂正請求がなされたものである。 [2]訂正の適否についての判断 [2-1]訂正事項 (1)訂正事項a 本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1を次のとおり訂正する。 「【請求項1】シリコン基板上にSi-H結合を含む無機系の絶縁膜材料を塗布した後、上記シリコン基板を焼成炉内に導入し、上記焼成炉内を減圧し、当該焼成炉内の酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気中で上記絶縁膜材料を焼成して得られる塗布型絶縁膜の比誘電率εを、シリコン酸化膜にフッ素原子を添加して形成したSiOF膜の比誘電率3.5よりも低比誘電率とすることを特徴とする絶縁膜の形成方法。」 (2)訂正事項b 特許明細書の特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項c 特許明細書の特許請求の範囲の請求項7を削除する。 (4)訂正事項d 特許明細書の段落【0007】の記載を次のとおり訂正する。 「【課題を解決するための手段】 上述の目的を達成するために完成された本発明に係る絶縁膜の形成方法は、シリコン基板上にSi-H結合を含む無機系の絶縁膜材料を塗布した後、上記シリコン基板を焼成炉内に導入し、上記焼成炉内を減圧し、当該焼成炉内の酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気中で上記絶縁膜材料を焼成して得られる塗布型絶縁膜の比誘電率εを、シリコン酸化膜にフッ素原子を添加して形成したSiOF膜の比誘電率3.5よりも低比誘電率とすることを特徴とするものである。ここで、塗布型絶縁膜を焼成する際の酸素濃度は、より好ましくは3ppm以下とする。」 (5)訂正事項e 特許明細書の段落【0008】の記載を次のとおり訂正する。 「なお、上記絶縁膜の形成方法において、塗布型絶縁膜を焼成する際に酸素濃度を低下させ形成される塗布型絶縁膜の比誘電率をSiOF膜の比誘電率3.5よりも低比誘電率とするには、例えば、焼成炉内の雰囲気を減圧する。」 [2-2]訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び拡張・変更の存否 (1)訂正事項aについて 訂正事項aは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されていた「Si-H結合を含む無機系の塗布型絶縁膜を形成」の前に「シリコン基板上に」を付加するとともに、「塗布型絶縁膜を形成」することを「絶縁膜材料を塗布」することのみとして「シリコン基板上にSi-H結合を含む無機系の絶縁膜材料を塗布」に限定し、「酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気中で上記絶縁膜材料を焼成」の前に「上記シリコン基板を焼成炉内に導入し、上記焼成炉内を減圧し、当該焼成炉内の」を付加して「上記シリコン基板を焼成炉内に導入し、上記焼成炉内を減圧し、当該焼成炉内の酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気中で上記絶縁膜材料を焼成」に限定し、「SiOF膜」、「比誘電率」、をそれぞれ「シリコン酸化膜にフッ素原子を添加して形成したSiOF膜」、「比誘電率3.5」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、当該訂正事項は、特許明細書の段落【0014】における「この塗布型絶縁膜5を形成する際は、先ず、シリコン基板1上に絶縁膜材料をスピンコートする。」との記載、同段落【0016】における「次に、・・・シリコン基板1を焼成炉内に導入し、焼成炉内の雰囲気中の酸素濃度を低下させた上で、この絶縁膜材料を焼成する。」、「本実施の形態では、焼成炉内の雰囲気を5×10-3Torrに減圧することによって雰囲気中の酸素濃度を3ppm以下にした上で、400℃にて60分間の焼成を行った。」、同段落【0003】における「シリコン酸化膜にフッ素原子を添加したSiOF膜が使用されるようになってきている。・・・このSiOF膜の比誘電率εは3.5程度である。」との記載に基づくものであるから、特許明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項b、cについて 訂正事項b、cは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項2、7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、当該訂正事項は、特許明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項d、eについて 訂正事項d、eは、特許請求の範囲における訂正事項aの訂正に伴い、特許請求の範囲の記載に対応する発明の詳細な説明の記載の整合を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。また、当該訂正事項は、訂正事項aと同様、特許明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 [2-3]まとめ 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書き、及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 [3]取消理由、及び異議申立理由の概要 平成17年2月1日付で通知した取消理由の概要は、訂正前の請求項2、7に係る発明が、本件特許出願の原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されていた発明ではないから、本件特許出願は、その原出願から適法に分割されたものとはいえず、特許法第44条第2項の規定による出願日の遡及が認められないとした上で、 (理由1)訂正前の請求項1、3〜6に係る発明は、本件の出願前に頒布された下記の刊行物1に記載された発明であり、また、仮にそうでないにしても、同刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であり、また、同請求項2、7に係る発明は、本件の出願前に頒布された下記の刊行物1、3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であり、また、同請求項1〜7に係る発明は、本件の原出願前に頒布された刊行物2、3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であり(特許法第29条第1項、第2項違反)、 (理由2)同請求項1を引用する同請求項2に係る発明は、平成14年6月17日付け、及び平成14年9月17日付けの各手続補正書による補正により、「減圧雰囲気中で上記塗布型絶縁膜を焼成」することと、「焼成炉内の雰囲気を不活性ガスで置換すること」を共に発明特定事項として具備するものとなったが、減圧と不活性ガスによる焼成炉内雰囲気の置換を併用することは、本件特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には記載されておらず、同明細書、特許請求の範囲又は図面の記載から自明の事項でもないから、上記の補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず(特許法第17条の2第3項違反)、 (理由3)同請求項1〜7において、「SiOF膜の比誘電率」は高低幅があって一定ではないから、「塗布型絶縁膜の比誘電率ε」が明確に特定されず、また、同請求項2、7に係る発明は、塗布型絶縁膜の焼成において、減圧と不活性ガスによる焼成炉内雰囲気の置換を併用するものであるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明、又は図面には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、また、同請求項1における「・・・塗布型絶縁膜を形成した後に、・・・減圧雰囲気中で上記塗布型絶縁膜を焼成し、」は、該塗布型絶縁膜の「形成」と「焼成」の関係が明瞭でなく、また、同請求項1、2、7における「酸素濃度を100ppm以下に低下させ」の「100ppm」は、酸素量を何と比較し、どのように導き出される酸素濃度のことか、意味不明瞭である(特許法第36条第4項、第6項違反)というものである。 また、特許異議申立人は、上記の取消理由の他に、 (理由4)本件特許明細書には、酸素濃度を3ppmにした減圧雰囲気中で塗布型絶縁膜を焼成した場合の実施例しか示されておらず、焼成雰囲気中の酸素濃度が3ppmを超え100ppm以下の場合、及び焼成雰囲気を不活性ガスで置換して酸素濃度を100ppm以下にした場合に、その発明の目的を達成し得るとは限らないから、同請求項1〜7に係る発明は発明未完成であり(特許法第29条第1項柱書き違反)、 (理由5)同請求項1に係る発明は、本件特許出願と同日に特許出願された下記の刊行物4(本件特許出願の原出願に係る特許公報)に係る発明と同一である(特許法第39条第2項違反)旨主張している。 ところで、上述したように、訂正によって特許明細書の特許請求の範囲の請求項2、7が削除され、同請求項2、7については検討を要しないこととなった。したがって、上記(理由1)〜(理由4)のうち、同請求項2、7に係る発明についてのものは、以下において検討をしない。 記 刊行物1:特開平9-213693号公報(特許異議申立人鈴木三男の提出した甲第1号証、本件特許出願の原出願に係る公開特許公報) 刊行物2:特開平6-177122号公報(同上、甲第2号証) 刊行物3:特開平6-345417号公報(同上、甲第3号証) 刊行物4:特許第3209072号公報(同上、甲第4号証、本件特許出願の原出願に係る特許公報) 参考資料:特開2002-134609号公報(同上、参考資料) [4]刊行物、参考資料の記載事項 [4-1]刊行物1(本件特許出願の原出願に係る公開特許公報) 刊行物1には、 「【請求項1】Si-H結合を含む無機系の塗布型絶縁膜を形成する際に、酸素濃度を低下させた雰囲気中で上記塗布型絶縁膜を焼成することを特徴とする絶縁膜の形成方法。 【請求項2】前記塗布型絶縁膜を焼成する際の酸素濃度を3ppm以下とすることを特徴とする請求項1記載の絶縁膜の形成方法。 【請求項3】前記塗布型絶縁膜を焼成する際に、焼成炉内の雰囲気を減圧することにより、酸素濃度を低下させることを特徴とする請求項1記載の絶縁膜の形成方法。 【請求項4】前記塗布型絶縁膜を焼成する際に、焼成炉内の雰囲気を不活性ガスで置換することにより、酸素濃度を低下させることを特徴とする請求項1記載の絶縁膜の形成方法。」(特許請求の範囲)、 「【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するために完成された本発明に係る絶縁膜の形成方法は、Si-H結合を含む無機系の塗布型絶縁膜を形成する際に、酸素濃度を低下させた雰囲気中で上記塗布型絶縁膜を焼成することを特徴とするものである。ここで、塗布型絶縁膜を焼成する際の酸素濃度は、およそ100ppm以下とし、より好ましくは3ppm以下とする。」(段落【0007】)、 「【0009】上記絶縁膜の形成方法では、酸素濃度を低下させた雰囲気中で塗布型絶縁膜を焼成するので、形成された絶縁膜に含まれる酸素の量は低く抑えられる。そして、Si-H結合を含む無機系の塗布型絶縁膜は、酸素含有量が少ない方が誘電率の値は小さくなる。したがって、上記絶縁膜の形成方法によれば、誘電率の小さな絶縁膜を形成することができる。」(段落【0009】)が記載されている。 [4-2]刊行物2 刊行物2には、 「【請求項1】基材表面に水素シルセスキオキサン樹脂膜を形成し、次いで該樹脂膜の形成された該基材を不活性ガス雰囲気下、250℃〜500℃(ただし、500℃は含まない。)で、生成した酸化ケイ素中のケイ素原子結合水素原子の含有量が該水素シルセスキオキサン樹脂中のケイ素原子結合水素原子の含有量に対して80%以下となるまで加熱して、該水素シルセスキオキサン樹脂をセラミック状酸化ケイ素にすることを特徴とする、酸化ケイ素膜の形成方法。」(特許請求の範囲)、 「水素シルセスキオキサン樹脂膜を形成するために使用する基材は・・・特に好ましくは半導体デバイスである。このような半導体デバイスは表面に凹凸を有していてもよく、本発明の酸化ケイ素膜の形成方法により、このような半導体デバイス表面の凹凸を平坦化することができる。」(段落【0013】)、 「【0015】本発明において、使用することのできる不活性ガスは・・・具体的には、窒素ガス,アルゴンガス,ヘリウムガス,ネオンガスが例示され、産業上入手が容易で、安価であることから窒素ガスであることが好ましい。」(段落【0015】)、 「加熱する時間は、生成する酸化ケイ素中のケイ素原子結合水素原子の含有量が原料の水素シルセスキオキサン樹脂中のケイ素原子結合水素原子の含有量に対して80%以下となるような時間であれば特に限定されない。・・・例えば、450℃では1時間前後であり、400℃では2時間前後であり、350℃では3時間前後であり、300℃では3時間前後であり、250℃では4時間前後であることが好ましい。」(段落【0016】)、 「酸化ケイ素膜中のケイ素原子結合水素原子の含有量が、原料である水素シルセスキオキサン樹脂中のケイ素原子結合水素原子の含有量に対して80%以下となる時間は、赤外線分光光度計により、水素シルセスキオキサン樹脂膜中のSiOSiピーク(1100cm-1付近)に対するSiHピーク(2250cm-1付近)の強度Kと、生成する酸化ケイ素中のSiOSiピーク(1100cm-1付近)に対するSiHピーク(2250cm-1付近)の強度K’とにより、その強度比(K’/K)から容易に求めることができる。」(段落【0017】)、 「【実施例1】水素シルセスキオキサン樹脂B・・・の溶液を半導体デバイス基板(段差1.0μm)上にスピンコートし、最大厚さ1.39μmの水素シルセスキオキサン樹脂膜を得た。膜形成後、この半導体デバイス基板を、純窒素雰囲気下、25℃で20時間放置し、引き続き400℃で2時間加熱した。その後、純窒素雰囲気で徐冷し、室温まで冷却した。半導体デバイス基板上に形成された酸化ケイ素膜の特性を測定したところ、最大厚さ1.23μmであり、半導体デバイス表面の凸凹を均一に平坦化できており、またこの酸化ケイ素膜にはクラックおよびピンホールがないことが確認された。また、酸化ケイ素膜中のケイ素原子結合水素原子の含有量が、赤外線分光光度計による定量の結果、加熱前の水素シルセスキオキサン樹脂膜中のケイ素原子結合水素原子の含有量に対して51%になっていることが確認された。」(段落【0024】)、 「【実施例2】水素シルセスキオキサン樹脂B・・・の溶液を半導体デバイス基板(段差0.75μm)上にスピンコートし、最大厚さ1.20μmの水素シルセスキオキサン樹脂膜を形成した。膜形成後、半導体デバイス基板を純窒素雰囲気下、25℃で20時間放置し、引き続き450℃で1時間加熱した。純窒素雰囲気で徐冷し、室温になるまで冷却した。半導体デバイス基板上に形成された酸化ケイ素膜の特性を測定したところ、最大厚さ1.00μmであり、半導体デバイス表面の凸凹を均一に平坦化できており、またこの酸化ケイ素膜にはクラックおよびピンホールがないことが確認された。また、酸化ケイ素膜中のケイ素原子結合水素原子の含有量が、赤外線分光光度計による定量の結果、加熱前の水素シルセスキオキサン樹脂膜中のケイ素原子結合水素原子の含有量に対して28%になっていることが確認された。」(段落【0025】)が記載されている。 [4-3]刊行物3 刊行物3には、 「【請求項1】水素シルセスキオキサン樹脂及び充填剤を含む塗布組成物をサブストレートに塗布し、そして塗布したサブストレートを50から1000℃の温度において3時間以下加熱して塗布組成物をセラミック塗膜に変えることを含むサブストレートに塗膜を形成する方法。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【請求項4】塗布されたサブストレートは空気、酸素、酸素プラズマ、不活性ガス、アンモニア、アミン、湿気及び酸化二窒素(N2O)から選ばれた雰囲気で加熱される請求項2記載の方法。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 【請求項14】セラミック塗膜は低誘電率を有する請求項1記載の方法。」(特許請求の範囲)、 「【0011】本発明において使用されるH-樹脂は、・・・全体的に縮合した(HSiO3/2)n 又は一部加水分解したもの(例えば、或種のSi-ORを含む)及び/又は部分的に縮合したもの(例えば、或る種のSi-OHを含む)であることができる。この種の構造によって表わすことはできないが、これらの樹脂の製造又は取扱いを含めた種々の要因によって、0又は2個の水素原子のづれかが珪素原子に結合したものを少量(例えば、10%以下)含むことができる。」(段落【0011】)、 「【0029】H-樹脂及び充填剤塗膜は、次いで十分な温度に加熱してセラミックに変換する。一般に、温度は熱分解雰囲気によるが、50から1000℃の範囲である。好ましい温度は50から800℃の範囲であり、また最も好ましくは、50-500℃である。加熱はセラミックにするのに十分な時間行われるが、一般には6時間にも及ぶが、しかし3時間以内が好ましい。 【0030】上記の加熱は、真空から過圧までの効果的な雰囲気の圧力のもと、そして空気、O2、不活性ガス(N2等)、アンモニア、アミン、湿気及びN2Oの如き酸化又は非酸化ガスの雰囲気のもとで行うことができる。」(段落【0029】,【0030】)が記載され、また、表1、表4、表5(段落【0035】,【0041】,【0043】)には、例1、3、4で得た塗膜の誘電率が1.82〜2.43の範囲にあることが示されている。 [4-4]刊行物4(本件特許出願の原出願に係る特許公報) 刊行物4には、 「【請求項1】Si-H結合を含む無機系の塗布型絶縁膜を形成する際に、焼成炉内の雰囲気を減圧することにより、酸素濃度を3ppm以下に低下させ、この酸素を低下させた雰囲気中で上記塗布型絶縁膜を焼成することを特徴とする絶縁膜の形成方法。」(特許請求の範囲)が記載されている。 [4-5]参考資料(特開2002-134609号公報) 参考資料には、従来層間絶縁膜として用いられているシリコン酸化膜の比誘電率は4.0〜4.5であり、フッ素含有シリコン酸化膜の比誘電率は3.2〜3.7であることが記載されている。 [5]本件特許明細書の記載不備(理由3)について 上述したように、請求項2、7が削除され、請求項2、7についての記載不備は解消された。そして、それ以外の記載不備とされているのは、請求項1、3〜6において、「SiOF膜の比誘電率」が高低幅があって一定ではないから、「塗布型絶縁膜の比誘電率ε」が明確に特定されず、また、請求項1における「・・・塗布型絶縁膜を形成した後に、・・・減圧雰囲気中で上記塗布型絶縁膜を焼成し、」は、該塗布型絶縁膜の「形成」と「焼成」の関係が明瞭でなく、請求項1における「酸素濃度を100ppm以下に低下させ」の「100ppm」は、酸素量を何と比較し、どのように導き出される酸素濃度のことか意味不明瞭であるという点にある。 しかしながら、請求項1において、「SiOF膜の比誘電率」が「SiOF膜の比誘電率3.5」と訂正され、「Si-H結合を含む無機系の塗布型絶縁膜を形成」が「シリコン基板上にSi-H結合を含む無機系の絶縁膜材料を塗布」と訂正され、「酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気中で上記絶縁膜材料を焼成」が「上記シリコン基板を焼成炉内に導入し、上記焼成炉内を減圧し、当該焼成炉内の酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気中で上記絶縁膜材料を焼成」と訂正された結果、上記の記載不備はいずれも解消された。 [6]特許法第29条第1項柱書き違反(理由4)について 上述したように、請求項2、7が削除され、焼成雰囲気を不活性ガスで置換して酸素濃度を100ppm以下に低下させるものは除かれた。そして、本件特許明細書には、「酸素濃度が非常に低い雰囲気下で焼成した第1の塗布型絶縁膜の比誘電率εは約2.7であった。・・・このような誘電率の低下は、焼成時の酸素濃度が100ppmを下回る頃から生じ始め、これよりも酸素濃度が下がるに従って誘電率がより低くなる傾向にある。」(段落【0027】)、「本発明を適用した絶縁膜の形成方法により、更に塗布型絶縁膜5を形成する。ここで、塗布型絶縁膜5は、表面を精度良く平坦化することが可能なスピンコート法によって形成される」(段落【0013】)、「Si-H結合を含む無機系の塗布型絶縁膜5は、膜ストレス、リーク電流、吸湿性等が優れているので、この塗布型絶縁膜5を用いることにより、十分な長期信頼性が得られる。しかも、このようにスピンコート法によって形成される塗布型絶縁膜5は、上述したように、その表面が精度良く平坦化される。」(段落【0018】)と記載されているので、焼成時の減圧雰囲気中の酸素濃度を100ppm以下とすることで、同酸素濃度が3ppmを超えていても、より低誘電率で信頼性の高い平坦な絶縁膜を形成するという、発明の目的を達成し得ることは明らかである。 してみると、本件請求項1、3〜6に係る発明は、発明未完成とはいえず、特許法第29条第1項柱書きに規定する要件を満たしていないとすることはできない。 [7]本件発明 上述したように、本件訂正は適法なものであり、該訂正により本件特許明細書の記載不備は解消され、また、本件請求項1、3〜6に係る発明は発明未完成とはいえないから、本件特許の請求項1、3〜6に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明3」〜「本件発明6」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、3〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「【請求項1】シリコン基板上にSi-H結合を含む無機系の絶縁膜材料を塗布した後、上記シリコン基板を焼成炉内に導入し、上記焼成炉内を減圧し、当該焼成炉内の酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気中で上記絶縁膜材料を焼成して得られる塗布型絶縁膜の比誘電率εを、シリコン酸化膜にフッ素原子を添加して形成したSiOF膜の比誘電率3.5よりも低比誘電率とすることを特徴とする絶縁膜の形成方法。」 【請求項3】プラズマCVD法により絶縁膜を形成し、この上に上記塗布型絶縁膜を形成することを特徴とする請求項1記載の絶縁膜の形成方法。 【請求項4】上記絶縁膜がSiOx膜であることを特徴とする請求項3記載の絶縁膜の形成方法。 【請求項5】上記塗布型絶縁膜上にプラズマCVD法により絶縁膜を形成することを特徴とする請求項1又は請求項3記載の絶縁膜の形成方法。 【請求項6】 上記絶縁膜がSiOx膜であることを特徴とする請求項5記載の絶縁膜の形成方法。 [8]特許法第39条第2項違反(理由5)について 刊行物4は本件特許出願の原出願の特許公報に該当し、その特許請求の範囲には、「Si-H結合を含む無機系の塗布型絶縁膜を形成する際に、焼成炉内の雰囲気を減圧することにより、酸素濃度を3ppm以下に低下させ、この酸素を低下させた雰囲気中で上記塗布型絶縁膜を焼成することを特徴とする絶縁膜の形成方法」の発明(以下、「原特許発明」という。)が記載されている。これに対して、本件発明1は、上記[7]で認定したとおりに、「シリコン基板上にSi-H結合を含む無機系の絶縁膜材料を塗布した後、上記シリコン基板を焼成炉内に導入し、上記焼成炉内を減圧し、当該焼成炉内の酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気中で上記絶縁膜材料を焼成して・・・3.5よりも低比誘電率とする」ことを発明特定事項として具備する。そして、両発明を対比すると、焼成雰囲気の酸素濃度について、本件発明1が「100ppm以下」であるのに対して、原特許発明は、それを更に「3ppm以下」に限定したものであるから、両発明は、焼成雰囲気の酸素濃度が上位と下位の範囲の関係にあり、且つ該「3ppm以下」とこの範囲を除く「100ppm以下」とでは、得られる絶縁膜の比誘電率が異なるといえる。 してみると、両発明は、同日に出願された同一の発明とすることはできず、本件発明1に係る特許が特許法第39条第2項の規定に違反するという特許異議申立人の主張は採用できない。 [9]特許法第29条第1項、第2項違反(理由1)について 上述したように、訂正によって本件請求項2、7が削除されたので、本件特許出願は、その原出願から適法に分割されたものと認められ、そして、特許法第44条第2項の規定による出願日の遡及が認められる。そうすると、刊行物1は、本件特許出願の原出願前に頒布された刊行物ではなく、特許法第29条第1項、第2項違反の証拠とすることはできなくなったので、以下では、刊行物2、3に記載された発明を本件発明1、3〜6と対比させる。 本件発明1、3〜6はいずれも、上記[7]で認定したとおり、「焼成炉内を減圧し、当該焼成炉内の酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気中で上記絶縁膜材料を焼成」することを発明特定事項として具備するものであり、この発明特定事項を具備することにより、絶縁膜に含まれる酸素の量を低く抑えて、誘電率を小さくすることが可能となり、半導体デバイス等の配線間の絶縁膜を形成することにより、デザインルールが微細化しても、配線間の容量を低減することが可能となり、その結果、デバイスの動作速度を向上することができるという、訂正明細書に記載されているとおりの顕著な効果を奏するものである。これに対して、刊行物2には、水素シルセスキオキサン樹脂膜を半導体デバイス基板上に塗布し、純窒素雰囲気下で焼成して半導体デバイス基板上に酸化ケイ素膜を得ることが記載されてはいるものの、焼成雰囲気を酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気とすることは記載されておらず、それを示唆する記載もない。また、刊行物3には、水素シルセスキオキサン樹脂を含む塗布組成物をサブストレートに塗布し、該サブストレートを50から1000℃の温度において3時間以下加熱して塗布組成物をセラミック塗膜に変える方法において、「上記の加熱は、真空から過圧までの効果的な雰囲気の圧力のもと、そして空気、O2、不活性ガス(N2等)、アンモニア、アミン、湿気及びN2Oの如き酸化又は非酸化ガスの雰囲気のもとで行うことができる。」(段落【0030】)と記載されてはいるものの、その加熱雰囲気を酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気とすることは記載されておらず、それを示唆する記載もない。 してみると、刊行物2、3には、本件発明1、3〜6の上記発明特定事項は記載も示唆もされていないので、かかる刊行物2、3の記載をいかに組み合わせても、本件発明1、3〜6の上記発明特定事項を具備する発明を導き出すことはできない したがって、本件発明1、3〜6は、刊行物2、3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 [10]むすび 以上のとおりであるから、取消理由、及び特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1、3〜6の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1、3〜6の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 絶縁膜の形成方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 シリコン基板上にSi-H結合を含む無機系の絶縁膜材料を塗布した後、上記シリコン基板を焼成炉内に導入し、上記焼成炉内を減圧し、当該焼成炉内の酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気中で上記絶縁膜材料を焼成して得られる塗布型絶縁膜の比誘電率εを、シリコン酸化膜にフッ素原子を添加して形成したSiOF膜の比誘電率3.5よりも低比誘電率とすることを特徴とする絶縁膜の形成方法。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 プラズマCVD法により絶縁膜を形成し、この上に上記塗布型絶縁膜を形成することを特徴とする請求項1記載の絶縁膜の形成方法。 【請求項4】 上記絶縁膜がSiOX膜であることを特徴とする請求項3記載の絶縁膜の形成方法。 【請求項5】 上記塗布型絶縁膜上にプラズマCVD法により絶縁膜を形成することを特徴とする請求項1又は請求項3記載の絶縁膜の形成方法。 【請求項6】 上記絶縁膜がSiOX膜であることを特徴とする請求項5記載の絶縁膜の形成方法。 【請求項7】(削除) 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、絶縁膜の形成方法に関し、特に、半導体デバイス等に使用される絶縁膜の平坦化を図りながら誘電率を低下させることを可能とした新規な絶縁膜の形成方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 半導体デバイスは、高集積化に伴ってデザインルールの微細化がますます進んでおり、現在、ハーフミクロンの世代からサブハーフミクロンの世代に入ってきている。しかし、デザインルールを微細化すると、配線間の容量増加により、デバイスの動作速度が低下してしまう。そのため、デザインルールの微細化が進むに従って、配線間の容量を低減することが重要な課題となってきている。 【0003】 そして、配線間の容量を低減するには、配線間に配される絶縁膜の誘電率を低くすることが有効である。そこで、近年、デザインルールの微細化が進んだ半導体デバイスでは、配線間に配される絶縁膜として、シリコン酸化膜にフッ素原子を添加したSiOF膜が使用されるようになってきている。従来、広く使用されている絶縁膜であるSiOX膜の比誘電率εが3.9程度であるのに対して、このSiOF膜の比誘電率εは3.5程度である。したがって、配線間に配される絶縁膜として、SiOF膜を使用することにより、配線間の容量を低減して、半導体デバイスの動作速度を向上することが可能となっている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 上述したように、SiOF膜は、従来から使用されているSiOXからなる絶縁膜に比べて誘電率が比較的に低くなっている。しかし、SiOF膜であっても比誘電率εは3.5程度であり、よりデザインルールの微細化が進んだ世代の半導体デバイス等においては、十分に低誘電率の絶縁膜とはなりえない。更に、SiOF膜は、膜ストレス、リーク電流、吸湿性等において、SiOX膜よりも劣り、例えば単独で層間絶縁膜として用いるには、長期信頼性が不十分である。したがって、よりデザインルールの微細化が進んだ世代の半導体デバイス等に用いる絶縁膜として、より低誘電率で信頼性の高い絶縁膜が望まれている。 【0005】 また、このような絶縁膜には、単に誘電率が低いだけではなく、表面を精度良く平坦化することが可能であることも望まれている。 【0006】 本発明は、このような課題を解決するために提案されたものであり、デザインルールを微細化して高集積化を進めてもデバイスの動作速度が低下しないように、より低誘電率の絶縁膜を平坦に形成することが可能な絶縁膜の形成方法を提供することを目的としている。 【0007】 【課題を解決するための手段】 上述の目的を達成するために完成された本発明に係る絶縁膜の形成方法は、シリコン基板上にSi-H結合を含む無機系の絶縁膜材料を塗布した後、上記シリコン基板を焼成炉内に導入し、上記焼成炉内を減圧し、当該焼成炉内の酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気中で上記絶縁膜材料を焼成して得られる塗布型絶縁膜の比誘電率εを、シリコン酸化膜にフッ素原子を添加して形成したSiOF膜の比誘電率3.5よりも低比誘電率とすることを特徴とする。ここで、塗布型絶縁膜を焼成する際の酸素濃度は、より好ましくは3ppm以下とする。 【0008】 なお、上記絶縁膜の形成方法において、塗布型絶縁膜を焼成する際に酸素濃度を低下させ形成される塗布型絶縁膜の比誘電率をSiOF膜の比誘電率よりも低比誘電率とするには、例えば、焼成炉内の雰囲気を減圧する。 【0009】 上記絶縁膜の形成方法では、酸素濃度を低下させた雰囲気中で塗布型絶縁膜を焼成するので、形成された絶縁膜に含まれる酸素の量は低く抑えられる。そして、Si-H結合を含む無機系の塗布型絶縁膜は、酸素含有量が少ない方が誘電率の値は小さくなる。したがって、上記絶縁膜の形成方法によれば、誘電率の小さな絶縁膜を形成することができる。 【0010】 【発明の実施の形態】 以下、本発明を適用した具体的な実施の形態として、半導体デバイスの1層目のAl配線を覆う層間絶縁膜の形成に本発明を適用した例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で条件等を任意に変更することが可能であることは言うまでもない。特に、以下の説明では半導体デバイスの一例を挙げるが、本発明は絶縁膜の形成方法に関するものであり、半導体デバイスの構造等は任意に変更可能である。 【0011】 本発明を適用して半導体デバイスを作製する際は、例えば、先ず、図1に示すように、予めトランジスタ等の素子(図示せず)が形成されたシリコン基板1上に層間絶縁膜2を形成し、更に、この層間絶縁膜2上に、線幅t1が0.5μm、配線間スペースt2が0.5μmのAlからなる第1層目の配線3を形成する。 【0012】 次に、図2に示すように、配線3をコンフォーマルに覆うように、SiOXからなる絶縁膜4を形成する。ここで、絶縁膜4は、ステップカバレージが良好となるように、プラズマを用いた化学的気相成長法、すなわちプラズマCVD法により、TEOS、すなわちテトラエトキシシラン(Si(OC2H5)4)を原料ガスとして、膜厚が300nmとなるように形成する。 【0013】 次に、図3に示すように、SiOXからなる絶縁膜4上に、本発明を適用した絶縁膜の形成方法により、更に塗布型絶縁膜5を形成する。ここで、塗布型絶縁膜5は、表面を精度良く平坦化することが可能な、スピンコート法によって形成されるSOG(Spin On Glass)膜である。 【0014】 この塗布型絶縁膜5を形成する際は、先ず、シリコン基板1上に絶縁膜材料をスピンコートする。本実施の形態では、初めにプリスピンとして、シリコン基板1を500rpmで1.5秒間回転させ、その後、メインスピンとして、シリコン基板1を2000rpmで15秒間回転させて、絶縁膜材料をスピンコートした。ここで、絶縁膜材料には、Si-H結合を含む無機系の材料である東レダウコーニング社製の「FOx」のうち、SiO2換算濃度が15%のFOx15を使用した。このFOxは、主成分であるSi化合物の化学名をハイドロゲンシルセスキオキサンと称するものである。なお、この絶縁膜材料は、Si-H結合を含む無機系の材料であればよく、例えば、東京応化社製の「T-10」等も使用可能である。 【0015】 次に、絶縁膜材料がスピンコートされたシリコン基板1をホットプレート上に配して、プリベーキングを行う。本実施の形態では、このプリベーキングとして、先ず、150℃にて1分間ベーキングし、次に、200℃にて1分間ベーキングし、更に、300℃にて1分間ベーキングした。 【0016】 次に、絶縁膜材料に架橋反応を起こさせるために、プリベーキングが完了したシリコン基板1を焼成炉内に導入し、焼成炉内の雰囲気中の酸素濃度を低下させた上で、この絶縁膜材料を焼成する。本実施の形態では、焼成炉内の雰囲気を5×10-3Torrに減圧することによって雰囲気中の酸素濃度を3ppm以下にした上で、400℃にて60分間の焼成を行った。なお、ここでは、減圧することによって焼成炉内の酸素濃度を低下させたが、焼成炉中にN2ガスやHeガス等の不活性ガスを大量に流し、不活性ガスで焼成炉内の雰囲気を置換することにより、焼成炉内の酸素濃度を下げるようにしてもよい。 【0017】 以上の工程により、Si-H結合を含む無機系の塗布型絶縁膜5が形成される。そして、本実施の形態では、この塗布型絶縁膜5の比誘電率εは約2.7となった。この値は、0.25μmルールの世代や、更にその次の世代である0.18μmルールの世代の半導体デバイスにおいても、配線間の容量を十分に低減することができる程の非常に低い値である。すなわち、本発明を適用して塗布型絶縁膜を形成することにより、配線間の容量を低減することが可能であり、その結果、半導体デバイスの動作速度を大幅に向上することができる。 【0018】 また、Si-H結合を含む無機系の塗布型絶縁膜5は、膜ストレス、リーク電流、吸湿性等が優れているので、この塗布型絶縁膜5を用いることにより、十分な長期信頼性が得られる。しかも、このようにスピンコート法によって形成される塗布型絶縁膜5は、上述したように、その表面が精度良く平坦化される。 【0019】 そして、以上のように塗布型絶縁膜5が形成された後、図4に示すように、塗布型絶縁膜5上に、SiOXからなる絶縁膜6を形成する。ここで、この絶縁膜6は、プラズマCVD法により、TEOSを原料ガスとして、膜厚が400nmとなるように形成する。 【0020】 以上の工程により、絶縁膜4、塗布型絶縁膜5及び絶縁膜6の形成が完了し、これにより、配線を覆うと共に、その表面が平坦化された層間絶縁膜7が形成されたこととなる。そして、これらの工程の後、配線3と、層間絶縁膜7上に後工程で形成される配線との接続を行うための開口部を層間絶縁膜7に形成する工程や、層間絶縁膜7上に更に配線を形成する工程等を経て、半導体デバイスが完成することとなる。 【0021】 なお、この半導体デバイスの例では、塗布型絶縁膜5の上下にSiOXからなる絶縁膜4,6を形成したが、これらの絶縁膜4,6を形成する際に原料ガスにフッ素を添加して、これらの絶縁膜4,6をSiOF膜としてもよい。このように、塗布型絶縁膜7の上下に形成される絶縁膜4,6をSiOF膜としたときには、これらの絶縁膜4,6の誘電率がSiOX膜よりも低く抑えられるので、配線間の容量が更に低下し、半導体デバイスの動作速度を更に向上することができる。 【0022】 また、この半導体デバイスの例では、塗布型絶縁膜5の上下に絶縁膜4,6を形成して層間絶縁膜7を3層構造としたが、この層間絶縁膜7は、上層の絶縁膜6の形成を略して、絶縁膜4上に塗布型絶縁膜5を形成した2層構造の層間絶縁膜としてもよいし、或いは、下層の絶縁膜4の形成を略して、塗布型絶縁膜5上に絶縁膜6を形成した2層構造の層間絶縁膜としてもよい。 【0023】 つぎに、焼成時の酸素濃度を変えて複数の塗布型絶縁膜を形成し、それらの膜質を調べた結果について説明する。なお、以下に挙げる塗布型絶縁膜の成膜条件は、焼成時の酸素濃度を変化させた以外は、上述の塗布型絶縁膜の成膜条件と同じとした。そして、形成された塗布型絶縁膜の膜質は、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを測定することによって調べた。結果を図5に示す。 【0024】 この図5において、スペクトルAは、比較例として、プリベークだけを行い、焼成を行わずに形成した塗布型絶縁膜のFT-IRスペクトルを示している。また、スペクトルBは、第1の塗布型絶縁膜として、焼成炉内の雰囲気を5×10-3Torrに減圧した上で焼成した塗布型絶縁膜のFT-IRスペクトルを示している。また、スペクトルCは、第2の塗布型絶縁膜として、焼成炉内にN2ガスを2000sccmの流量で導入して、焼成炉内の雰囲気をN2ガスによって置換した上で焼成した塗布型絶縁膜のFT-IRスペクトルを示している。また、スペクトルDは、第3の塗布型絶縁膜として、焼成炉内にN2ガスを400sccmの流量で導入して、焼成炉内の雰囲気をN2ガスによって置換した上で焼成した塗布型絶縁膜のFT-IRスペクトルを示している。また、スペクトルEは、第4の塗布型絶縁膜として、焼成炉内の雰囲気が大気のままの状態で焼成した塗布型絶縁膜のFT-IRスペクトルを示している。 【0025】 ここで、第1の塗布型絶縁膜を焼成する際には、焼成炉内の雰囲気が十分に減圧されているので、焼成炉内の酸素濃度は3ppm以下となっている。また、第2の塗布型絶縁膜を焼成する際も、焼成炉内の雰囲気がN2ガスによって置換されているので、焼成炉内の酸素濃度は低くなっている。ただし、この程度のN2ガスの流量では、焼成炉内の雰囲気がN2ガスによって完全に置換される訳ではなく、焼成炉内の酸素濃度は、第1の塗布型絶縁膜の焼成時に比べるとやや高くなっている。また、第3の塗布型絶縁膜を焼成する際も、焼成炉内にN2ガスを導入しているが、このときは、N2ガスの流量が少ないために、焼成炉内の酸素濃度はあまり低くなっていない。 【0026】 そして、この図5に示すように、FT-IRスペクトルにおけるSi-Hのピークは、焼成時の酸素濃度に依存して変化しており、焼成を行っていない塗布型絶縁膜の波数2250cm-1におけるSi-Hピークの高さを100とすると、第1の塗布型絶縁膜でのSi-Hピークの高さは97、第2の塗布型絶縁膜でのSi-Hピークの高さは54、第3の塗布型絶縁膜でのSi-Hピークの高さは27、第4の塗布型絶縁膜でのSi-Hピークの高さは29となっている。 【0027】 この結果から、酸素濃度をより低くして焼成した塗布型絶縁膜の方が、Si-Hピークが大きく、Si-H結合を多く持っていることが分かる。そして、Si-H結合を含む無機系の塗布型絶縁膜では、Si-H結合を多く持っているほうが、吸湿量が小さく、誘電率の低い膜となる。したがって、酸素濃度をより低くして焼成した方が、塗布型絶縁膜の誘電率を低くすることができることとなる。具体的には、酸素濃度が非常に低い雰囲気下で焼成した第1の塗布型絶縁膜の比誘電率εは約2.7であった。すなわち、焼成時の酸素濃度を3ppm以下とすることにより、形成される塗布型絶縁膜の誘電率を大幅に下げることが可能となっている。なお、このような誘電率の低下は、焼成時の酸素濃度が100ppmを下回る頃から生じ始め、これよりも酸素濃度が下がるに従って誘電率がより低くなる傾向にある。 【0028】 一方、酸素濃度が高い雰囲気下で焼成したときには、塗布型絶縁膜のSi-H結合が減少し、図5の波数3700cm-1近傍にSi-OHピークが出現することからも分かるように、Si-OH結合が増えることとなる。 【0029】 ここで、図6に、各塗布型絶縁膜について昇温脱離ガス分析(TDS)を行い、水分の脱ガス波形面積比を測定した結果を示す。この図6において、測定結果Aは、プリベークだけを行い、焼成を行わずに形成した塗布型絶縁膜について、測定結果Bは第1の塗布型絶縁膜について、測定結果Cは第2の塗布型絶縁膜について、測定結果Dは第3の塗布型絶縁膜について、測定結果Eは第4の塗布型絶縁膜についてのTDS特性を示している。 【0030】 この図6からも分かるように、酸素濃度が高い雰囲気下で焼成したときには、塗布型絶縁膜の吸湿量が多くなる。そして、このように吸湿量が多くなると、塗布型絶縁膜の誘電率が高くなってしまう。具体的には、酸素濃度があまり低くない雰囲気下で焼成した第3の塗布型絶縁膜の比誘電率εは4.1であった。これは、N2ガスの流量が400sccm程度では、大気に含まれていた酸素が十分に置換されないために、焼成炉内に残存した酸素と、塗布型絶縁膜内のSi-Hとが反応し、Si-OH結合が増えてしまい、その結果、吸湿量が増加し、誘電率が増大してしまうからである。 【0031】 【発明の効果】 以上の説明から明らかなように、本発明に係る絶縁膜の形成方法では、Si-H結合を含む無機系の塗布型絶縁膜を形成した後に、酸素濃度を100ppm以下に低下させた減圧雰囲気中で塗布型絶縁膜を焼成することにより、絶縁膜に含まれる酸素の量を低く抑えて、誘電率を小さくすることが可能となっている。 【0032】 したがって、本発明を適用して半導体デバイス等の配線間の絶縁膜を形成することにより、デザインルールが微細化しても、配線間の容量を低減することが可能となり、その結果、デバイスの動作速度を向上することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 半導体デバイスの製造工程を順次示すものであり、シリコン基板上に層間絶縁膜及び配線が形成された状態を示す断面図である。 【図2】 半導体デバイスの製造工程を順次示すものであり、配線を覆うように絶縁膜が形成された状態を示す断面図である。 【図3】 半導体デバイスの製造工程を順次示すものであり、絶縁膜上に塗布型絶縁膜が形成された状態を示す断面図である。 【図4】 半導体デバイスの製造工程を順次示すものであり、塗布型絶縁膜上に絶縁膜が形成された状態を示す断面図である。 【図5】 塗布型絶縁膜のFT-IRスペクトルを示す図である。 【図6】 塗布型絶縁膜のTDS特性を示す図である。 【符号の説明】 1 シリコン基板 2 層間絶縁膜 3 配線 4 絶縁膜(SiOX) 5 塗布型絶縁膜(SOG) 6 絶縁膜(SiOX) 7 層間絶縁膜 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-05-18 |
出願番号 | 特願2000-237663(P2000-237663) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YA
(H01L)
P 1 651・ 55- YA (H01L) P 1 651・ 14- YA (H01L) P 1 651・ 536- YA (H01L) P 1 651・ 4- YA (H01L) P 1 651・ 121- YA (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 池渕 立、田中 永一 |
特許庁審判長 |
城所 宏 |
特許庁審判官 |
瀬良 聡機 市川 裕司 |
登録日 | 2002-11-22 |
登録番号 | 特許第3371333号(P3371333) |
権利者 | ソニー株式会社 |
発明の名称 | 絶縁膜の形成方法 |
代理人 | 田村 榮一 |
代理人 | 伊賀 誠司 |
代理人 | 伊賀 誠司 |
代理人 | 小池 晃 |
代理人 | 田村 榮一 |
代理人 | 小池 晃 |