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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A63F
管理番号 1121162
異議申立番号 異議2001-73253  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-05-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-04 
確定日 2005-08-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第3172641号「遊技機」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについてされた平成16年7月26日付け取消決定に対し、東京高等裁判所において、上記決定を取り消す旨の判決(平成17年(行ケ)第10218号、平成17年4月13日判決言渡)があったので、更に審理の上、次のとおり決定する。 
結論 特許第3172641号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3172641号の請求項1ないし7に係る発明についての出願は、平成6年10月28日に特許出願され、平成13年3月23日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、本件請求項1ないし7に係る発明の特許に対し、安孫子貞子より特許異議の申立てがなされ、平成16年7月26日付けで請求項1ないし6に係る発明の特許を取り消す旨の決定がなされたところ、アルゼ株式会社はこれを不服として東京高等裁判所に当該決定の取消を求める訴(平成17年(行ケ)第10218号)を提起するとともに、平成16年12月7日に訂正審判(訂正2004-39277号)を請求し、この審判については審理の結果、平成17年2月16日付けで訂正を認める旨の審決がなされて確定し、上記特許を取り消す旨の決定は平成17年4月13日言渡の判決によって取り消された。

2.特許異議申し立て理由の概要
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、下記の甲第1号証ないし甲第5証に記載された発明に基いて、その発明の属する分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

甲第1号証:特開昭59-186580号公報
甲第2号証:月刊「パチスロ必勝ガイド 平成3年11月号」 白夜書房
平成3年11月1日発行 第47-49頁
甲第3号証:月刊「パチスロ必勝ガイド 平成5年12月号」 白夜書房
平成5年12月1日発行 第35-37頁
甲第4号証:実願昭60-74971号(実開昭61-191081号)の マイクロフイルム
甲第5号証:実願昭60-36593号(実開昭61-151784号)の マイクロフイルム

3.本件特許発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、上記平成16年12月7日付け訂正審判請求書に添付した訂正明細書における特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 複数の図柄を可変表示する可変表示部と、
ゲーム毎にサンプリングされる一の乱数値が遊技機が揃えようとする一の入賞図柄組合せにのみ対応するように予め設定された入賞確率テーブル中のデータと前記乱数値とを照合することにより内部的当選役を判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に従い内部的当選役の発生を記憶する内部的当選役記憶手段と、
前記内部的当選役記憶手段に記憶された内部的当選役に対応する図柄の組合せが出現するように前記可変表示部の可変表示動作を停止制御する制御部と、
遊技者の停止操作に応じて前記制御部に前記可変表示動作の停止制御を実行させる信号を発生する可変表示停止手段と、
遊技者に内部的当選をした入賞役を報知する報知手段と、
を備えた遊技機において、
前記入賞確率テーブルは、入賞役と、
当該一の入賞役を構成し、当選確率を同じくする複数の内部的当選役と、 当該内部的当選役とそれぞれ一対一に対応する入賞図柄組合せを示すデータとを含み、
前記制御部は、前記入賞確率テーブルを格納する記憶手段を有し、前記乱数値がサンプリングされた時、その乱数値を前記入賞確率テーブル中のデータと照合して前記複数の内部的当選役のいずれかに該当する場合には、前記可変表示停止手段での前記信号の発生タイミングに応じて当該内部的当選役を示す入賞図柄組合せを表示するように前記可変表示部の動作を制御し、
前記内部的当選役記憶手段は、前記判定手段で判定された内部的当選役が特定の内部的当選役である場合について、前記可変表示停止手段に基づく可変表示結果が前記内部的当選役に対応する図柄の組合せとは異なる場合には当該内部的当選役に対応する図柄の組合せが揃うまで当該内部的当選役の発生した状態を保持し、
前記報知手段は、前記内部的当選役記憶手段で内部的当選役の発生した状態が保持される場合に、その内部的当選をした入賞役を報知することを特徴とする遊技機。
【請求項2】
請求項1の遊技機において、前記制御部は、前記乱数値が前記内部的当選役のいずれかに該当するか否かの判断を、遊技者に付与する利益の大きい内部的当選役から始めて該利益の小さい内部的当選役まで順次行うことを特徴とする遊技機。
【請求項3】
請求項1の遊技機において、前記可変表示部は外周に複数の図柄を配列した複数の回転リールで構成され、前記報知手段は前記回転リールの内側に設置された発光体で構成されていることを特徴とする遊技機。
【請求項4】
請求項1の遊技機において、前記報知手段は前記制御部からの制御信号に応じて動作する効果音発生手段で構成されていることを特徴とする遊技機。
【請求項5】
請求項1の遊技機において、前記制御部は、前記乱数値が前記内部的当選役のいずれかに該当するとき、前記可変表示動作の停止により前記可変表示部に出現し得る図柄の組合せが特定の入賞図柄でない場合は、予め設定された所定の図柄を出現させるように前記可変表示部を制御することを特徴とする遊技機。」

4.甲号各証に記載の発明
本件出願前に頒布された刊行物である、甲第1ないし5号証には、次の事項が記載されている。
(1)甲第1号証(特開昭59-186580号公報)には、以下の記載が認められる。
1-a「1 スタートレバーの操作により回転駆動される複数のリールと、これらのリールを停止させるリールストップ手段とを有するスロットマシンにおいて、前記リールの回転駆動後に、順次発生される乱数列から一つの乱数を特定するサンプリング手段と、前記特定された乱数が確率テーブル中のいかなる群に属するかを比較照合する手段と、前記比較照合の結果を入賞ランク別のリクエスト信号として出力するリクエスト発生手段と、前記リクエスト信号を評価し、前記リールのストップ位置を設定すると共に、前記リールストップ手段を制御するリールストップ制御手段とを備えたことを特徴とするスロットマシン。
2 前記リールを停止させるべく操作されるストップボタンを設け、前記リールストップ制御手段がこのストップボタンの操作信号によって起動される特許請求の範囲第1項に記載のスロットマシン。」(第1頁下段左欄5行-下段右欄3行)
1-b「第6図は本発明スロットマシンに利用されるマイクロコンピュータの一例を示すシステムブロック図である。第6図において破線ブロックAはメインCPU50、ROM51、RAM52を含むメインコントロール部である。ROM51には前述したシンボルマークとシンボルマークコードとの対応表、入賞に相当するシンボルマークコードおよび入賞メダル支払い枚数表の他、実行されたゲームに関して入賞させるか否かを決定し、入賞させる場合にその入賞の高低に応じたヒットリクエストを発生させる入賞確率テーブルなどがストアされている。」(第3頁右下欄20行-第4頁左上欄10行)
1-c「破線ブロックBはリール駆動監視ブロックである。・・・ブロツクCはストツプ操作ブロツクで、・・・ストツプボタンST1〜ST3、その押圧操作を検出するストツプ信号発生部65を含む。」(第4頁右上欄7行-左下欄1行)
1-d「以上のシステム構成によれば、前述してきたフローチヤートにより示した基本的ゲーム進行に関する判断処理は所謂メインCPU50による所定の実行プログラムに従って行ない得る。」(第4頁左下欄16-19行)
1-e「次に本発明の特徴であるヒットリクエストの発生に関して詳述する。ヒットリクエストの発生は、前述のようにゲーム開始時にサンプリングされる乱数値と、ROM上の入賞テーブルにストアされた入賞を与えるべき数値群との照合の結果得られることになる。」(第4頁左下欄20行-右下欄5行)
1-f「第9図は発生、更新される乱数値のサンプリング、ヒットリクエストチェック処理のフローチャートである。・・・ゲーム開始後例えばスタートレバーの操作後の所定のタイミング信号・・・により、その時点で乱数値RAM80(第8図)に存在する乱数値をそのゲームの乱数値として決定する。こうして決定された乱数値は第9図のフローチャートに従い、後述する入賞確率テーブルと照合され、大ヒットに該当する数値であれば大ヒットリクエスト信号の発生、また中ヒットに該当する数値であれば中ヒットリクエスト信号の発生というように小ヒットまでの判断、処理がなされいずれかのヒットリクエストが発生されるかあるいはヒットリクエストなしかがチエツクされることになる。」(第5頁左上欄12行-右上欄9行)
1-g「第10図は入賞確率テーブルの概念図である。・・・B1、M1、S1それぞれの値が100、500、1000であるとすると、サンプリングされた乱数値が100未満であれば大ヒット、100以上500未満であると中ヒット、500以上1000未満なら小ヒットの各リクエストが発生され、1000以上ではヒットリクエストなしとなるものである。従つてこの入賞確率テーブルはいわば入賞の確率を決定する機能をもつと言える。」(第5頁右上欄14行-左下欄13行)
1-h「これまでに述べてきた大、中、小の各ヒツトの例としては、大ヒツトが15枚のメダル支払いの後ボーナスゲームができるようになるもの、中ヒツトが10〜15枚のメダル支払い、小ヒツトが2〜5枚程度のメダル支払など適宜設定される。ボーナスゲームとしては、例えばメダル1枚の投入毎に1個のリールのみでゲームを実行し、その1個のリールについてある種のシンボルマークが出ればそのまま15枚のメダル支払いがなされ、このような手順で数回のゲームができるようにすることなどが考えられる。」(第5頁右下欄8-18行)
1-i「このヒツトリクエストの発生に伴うリールの回転停止制御について述べる。」(第5頁右下欄20行-第6頁左上欄1行)
1-j「まずストツプボタンの操作後、シンボルマークが例えば4個分移動するまでの間にリールを停止させるようにするものとする。そしてストツプボタンが操作された時点でのリールの位置から、これに後続しているシンボルマーク4個までの計5個のシンボルマークが何であるかをチエツクするようにしてある。このようにシンボルマークをチェックして、すでにセツトアップされたヒツトリクエストに対応するシンボルマークの組み合わせを得るのに必要なシンボルマークがその5個のチエツク範囲内にあればそこでリールを停止させることになる。」(第6頁左下欄17行-右下欄8行)
1-k「リールの処理は4コマずれを想定して説明してきたが、このためヒツトリクエストに対応したシンボルがその4コマずれの範囲内に存在しないこともあり得る。(特に大ヒツトシンボルは少ないため、充分あり得る。)このような場合にはヒツトリクエストを満足しない結果となつてしまい、設定された入賞確率が低下することになり、特に大ヒツトでその影響が大きくなる。これを適正化するためには、ヒツトリクエストが発生されながらも入賞なしとなつた場合にはそのヒツトリクエストを次回のゲームまで保存するようにすればよい。」(第9頁右下欄10行-第10頁左上欄1行)
1-l「本発明によれば、まずスタートレバーの操作タイミングという任意性のある時点で、乱数値をサンプリングし、このサンプリングされた値を入賞確率テーブルと照合してヒツトリクエストを発生させる。そして、このヒツトリクエストに応じた入賞が得られるように各リールを制御すると共に、このリール制御にゲーム者のストツプボタン操作タイミングという限定条件を加味することによつて、ランダム性と遊戯者の技術とをミツクスすることができることになる。」(第10頁左上欄11-20行)
1-m 第9図のフローチャートには、「大ヒット」、「中ヒット」、「小ヒット」の順にヒットリクエストチエツク処理が行われることが示されている。1-n 第15図の入賞シンボルテーブルには、大ヒットのシンボルマークの組合せとして「A A A」、「B B B」、「C C C」があることが示されている。
上記記載によると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲第1号証の発明」という。)が記載されていると認められる。
「スタートレバーの操作により回転駆動される複数のシンボルマークが付されたリールと、スタートレバーの操作後の所定のタイミング信号により、その時点で乱数値RAM80に存在する乱数値をサンプリングして、そのゲームの乱数値として決定し、決定された乱数値は入賞確率テーブルと照合され、大ヒットに該当する数値であれば大ヒットリクエスト信号の発生、または中ヒットに該当する数値であれば中ヒットリクエスト信号の発生というように小ヒットまでの判断、処理がなされいずれかのヒットリクエストが発生されるかあるいはヒットリクエストなしかがチエツクされ、前記リクエスト信号を評価し、前記リールのストップ位置を設定すると共に、リールのストップを制御するリールストップ制御手段とを備え(摘記事項1-a、1-f)たスロットマシンにおいて、前記リールストップ制御手段は、ストップボタンの操作信号によって起動され、ストップボタンが操作された時点でのリールの位置から、これに後続しているシンボルマーク4個までの計5個のシンボルマークをチェックして、すでにセットアップされたヒットリクエストに対応するシンボルマークの組み合わせを得るのに必要なシンボルマークがこの5個のチェック範囲内にあればそこでリールを停止させる(摘記事項1-j)ものであり、スロットマシンに利用されるマイクロコンピュータはメインコントロール部A、リール駆動監視ブロックB、ストツプ操作ブロツクCより成り(摘記事項1-b、1-c)、メインコントロール部AはCPU50、ROM51、RAM52を含み、上記ROM51には、シンボルマークとシンボルマークコードとの対応表、実行されたゲームに関して入賞させるか否かを決定し、入賞させる場合にその入賞の高低に応じたヒットリクエストを発生させる入賞確率テーブルがストアされており(摘記事項1-b)、大ヒットのシンボルマークの組合せには、「A A A」、「B B B」、「C C C」があり(摘記事項1-n)、大ヒツトのヒツトリクエストが発生されながらも入賞なしとなつた場合にはそのヒツトリクエストを次回のゲームまで保存するようにし(摘記事項1-k)た、スロットマシン。」

(2)甲第2号証(月刊「パチスロ必勝ガイド 平成3年11月号」 白夜書房 平成3年11月1日発行 第47-49頁)には、以下の記載が認められる。
2-a「まずは、役の種類を覚えておこう。ビッグボーナスとレギュラーボーナスはもちろんのこと、外面的にはほかに5種類の小役がある。順にあげると王冠(15枚)、ベル(15枚)、コイン(15枚)、プラム(4枚)、チェリー(2枚)となる。」(第48頁2段18-27行)
2-b「ありふれた例えではあるが、マジカルベンハーの役の決定システムを『くじ引き』になぞらえてみよう。くじ引きは2回、1回目はプログラムの初期段階に、2回目はレバーのたたかれた瞬間に行なわれる。1本目のくじは予選用、2本目のくじが本選用のものになる。両方のくじが当って初めてなんらかの役がつくわけだ。いずれのくじも総本数は256、1本1本に0〜255の番号が書いてある。用意されている当たりくじは5種類。列挙しよう。『ビッグボーナス』『レギュラーボーナス』『王冠』『ベル・コイン』『プラム・チェリー』。」(第49頁1段3-16行)
2-c 48頁右上の「マジカルベンハー払い出し表」には、ビッグボーナスゲームには、「7 7 7」と「3 3 3」の2種の当たり図柄が、レギュラーボーナスゲームには、「7 7 3」と「3 3 7」の2種の当たり図柄が、それぞれあることが示されている。

(3)甲第3号証(月刊「パチスロ必勝ガイド 平成5年12月号」白夜書房 平成5年12月1日発行 第35-37頁)の35頁左下の「ソレックス払い出し表」には、「BIGCHANCE」には「7 7 7」が、「SINGLEBONUS」には「ベル ベル ベル」の、それぞれ1種の当たり図柄があることが示されている。

(4)甲第4号証(実願昭60-74971号(実開昭61-191081号)のマイクロフイルム)には、以下の記載が認められる。
4-a「複数のシンボル列の移動を、ゲーム中に発生された入賞リクエスト信号によって停止制御するようにしたスロットマシンにおいて、前記入賞リクエスト信号が発生されたことに応答して作動する表示装置を設け、入賞リクエスト信号が発生されたことを報知するようにしたことを特徴とするスロットマシン。」(第1頁5-11行)
4-b「サンプリングされた乱数値は、カウンタ37にストアされる。リクエスト信号発生回路38は、こうして得られた乱数値をROM39のデータと比較し、一定範囲内のときにはリクエスト信号を出力する。」(第10頁10-14行)
4-c「リクエスト信号発生回路38からリクエスト信号が発生されたときには、表示ランプ駆動回路55に駆動信号が出力される。この結果、配当パネル15内に設けられた表示ランプ16が点灯動作してリクエスト信号の発生、すなわちボーナスゲームとなるシンボルの組み合わせが得やすいように、リール4〜6が停止制御される状態になっていることを表示する。」(第12頁4-11行)
4-d「なお、リクエスト信号が発生されたことを表示するために、前記表示ランプ16に代えて発音表示装置を使用してもよい。」(第14頁18-20行)

(5)甲第5号証(実願昭60-36593号(実開昭61-151784号)のマイクロフイルム)には、以下の記載が認められる。
5-a「本考案はスロットマシンにおけるリール装置の改良に関する。」(第1頁16-17行)
5-b「照明具20のランプ21は勝ちゲームに該当するシンボル19を照明するように構成され、例えば第2図において中央のライン7上のシンボル19の組合せが勝ちゲームのときには、それに対応する各ランプ21が発光して、これらシンボル19が照明により浮き上り、プレイヤーに直接且つ強烈にアピールできるようになっている。」(第6頁1-7行)

5.対比・判断
5-1.請求項1に係る発明について
本件請求項1に係る発明(以下、「請求項1の発明」という。)と甲第1号証の発明とを対比すると、甲第1号証の発明における「回転駆動される複数のシンボルマークが付されたリール」は請求項1の発明における「複数の図柄を可変表示する可変表示部」に対応し、同様に、「大ヒツト」は「一の入賞役」に、「スロットマシン」は「遊技機」に、それぞれ対応しており、さらに甲第1号証の発明について以下のことがいえる。
(i) 甲第1号証の発明は、「スタートレバーの操作後の所定のタイミング信号により、その時点で乱数値RAM80に存在する乱数値をサンプリングして、そのゲームの乱数値として決定」するもので、上記「サンプリング」は「スタートレバーの操作」により開始されるゲーム毎に行われるものであるから、甲第1号証の発明は、請求項1の発明における「ゲーム毎にサンプリングされる」「乱数値」の構成に対応する構成を備えている。
(ii)甲第1号証の発明は、「決定された乱数値は入賞確率テーブルと照合され、大ヒットに該当する数値であれば大ヒットリクエスト信号の発生、または中ヒットに該当する数値であれば中ヒットリクエスト信号の発生というように小ヒットまでの判断、処理がなされいずれかのヒットリクエストが発生されるかあるいはヒットリクエストなしかがチエツクされ」るものである。そして、甲第1号証の発明における、上記の「(乱数値を)入賞確率テーブルと照合」することは、実質上「入賞確率テーブル」中のデータと「照合」することであり、また、上記の「大ヒットリクエスト」「中ヒットリクエスト」「小ヒットリクエスト」は請求項1の発明における「内部的当選役」に対応するとともに、「いずれかのヒットリクエストが発生されるかあるいはヒットリクエストなしか」を「チエツク」する手段は、請求項1の発明における「内部的当選役を判定する判定手段」に対応しているといえる。そうすると、甲第1号証の発明は、請求項1の発明における「予め設定された入賞確率テーブル中のデータと前記乱数値とを照合することにより内部的当選役を判定する判定手段」の構成に対応する構成を備えているといえる。
(iii)甲第1号証の発明は、「大ヒツトのヒツトリクエストが発生されながらも入賞なしとなつた場合にはそのヒツトリクエストを次回のゲームまで保存するようにし」たもので、上記「ヒットリクエスト」の「発生」は、請求項1の発明における「判定手段の判定結果に従」った「内部的当選役の発生」に対応しており、同じく「保存」は、請求項1の発明における「記憶(手段)」に対応するものといえるから、甲第1号証の発明は、請求項1の発明における「判定手段の判定結果に従い内部的当選役の発生を記憶する内部的当選役記憶手段」の構成に対応する構成を備えているといえる。
(iv)甲第1号証の発明は、「リールストップ制御手段」により、「すでにセットアップされたヒットリクエストに対応するシンボルマークの組み合わせを得るのに必要なシンボルマークがチェック範囲内にあればそこでリールを停止させる」ものである。そして、上記(iii)に記載したように甲第1号証の発明における上記「ヒットリクエスト」(「内部的当選役」)は「保存」(「記憶」)されるものであり、上記「すでにセットアップされ」た「ヒットリクエスト」(「内部的当選役」)は、請求項1の発明における「内部的当選役記憶手段に記憶された内部的当選役」に実質的に対応するということができる。また、上記「リールストップ制御手段」は「シンボルマークの組み合わせを得るのに必要なシンボルマークがチェック範囲内にあればそこでリールを停止させる」ものであり、該構成は、請求項1の発明における「図柄の組合せが出現するように前記可変表示部の可変表示動作を停止制御する」の構成に対応している。そして、甲第1号証の発明において、上記した「リールストップ制御」を実行するのは、「メインコントロール部A、リール駆動監視ブロックB、ストツプ操作ブロツクCより成」る「マイクロコンピュータ」(摘記事項1-b、1-c)であるということができ、該「マイクロコンピュータ」は、請求項1の発明における「制御部」に対応しているということができる。そうすると、甲第1号証の発明は、請求項1の発明における「内部的当選役記憶手段に記憶された内部的当選役に対応する図柄の組合せが出現するように前記可変表示部の可変表示動作を停止制御する制御部」の構成に対応する構成を備えているといえる。
(v)甲第1号証の発明における上記「リールストップ制御手段」は、遊技者の「ストップボタンの操作」に応じて発生する、「ストップボタンの操作信号」により「起動され」て、「リールストップ制御」を実行するものである。そして上記(iv)に記載したとおり、「リールストップ制御手段」を備えるのは「マイクロコンピュータ」(請求項1の発明における「制御部」に対応している)であるから、上記した「ストップボタンの操作信号」は「マイクロコンピュータ」(「制御部」)に対して「リールストップ制御」を実行させるための信号であるということができる。そうすると、甲第1号証の発明は、請求項1の発明における「遊技者の停止操作に応じて前記制御部に前記可変表示動作の停止制御を実行させる信号を発生する可変表示停止手段」の構成に対応する構成を実質的に備えているといえる。
(vi)上記したとおり、甲第1号証の発明における「マイクロコンピュータ」は、請求項1の発明における「制御部」に対応しており、該「マイクロコンピュータ」は、「乱数値をサンプリングし」て「入賞確率テーブルと照合」し、「ヒットリクエスト信号」を「発生」させるかどうかの「判断、処理」をし、さらに「リクエスト信号を評価し」、「ヒットリクエスト」が「セットアップされ」ている時には、「ストップボタンの操作信号」に応じて、「ヒットリクエストに対応するシンボルマークの組み合わせを得るのに必要なシンボルマーク」が「チェック範囲内にあればそこでリールを停止させる」ように制御するものである。そうすると、甲第1号証の発明は、請求項1の発明における、「制御部は、前記入賞確率テーブルを格納する記憶手段を有し、前記乱数値がサンプリングされた時、その乱数値を前記入賞確率テーブル中のデータと照合して内部的当選役に該当する場合には、前記可変表示停止手段での前記信号の発生タイミングに応じて当該内部的当選役を示す入賞図柄組合せを表示するように前記可変表示部の動作を制御し」の構成に対応する構成を実質的に備えているといえる。
(vii)上記(iii)に記載したように、甲第1号証の発明は、請求項1の発明における「判定手段の判定結果に従い内部的当選役の発生を記憶する内部的当選役記憶手段」の構成に対応する構成を備えている。そして、甲第1号証の発明における「大ヒツトのヒツトリクエストが発生されながらも入賞なしとなつた場合には」の構成は、請求項1の発明における「判定手段で判定された内部的当選役が特定の内部的当選役である場合について、可変表示停止手段に基づく可変表示結果が前記内部的当選役に対応する図柄の組合せとは異なる場合には」の構成に実質上対応するものといえる。そうすると、甲第1号証の発明は、請求項1の発明における「内部的当選役記憶手段は、前記判定手段で判定された内部的当選役が特定の内部的当選役である場合について、可変表示停止手段に基づく可変表示結果が前記内部的当選役に対応する図柄の組合せとは異なる場合には」及び「当該内部的当選役の発生した状態を保持」の構成に対応する構成を備えているといえる。
そうすると、請求項1の発明と甲第1号証の発明とは以下の点で一致し、また相違していると認められる。
一致点;
複数の図柄を可変表示する可変表示部と、ゲーム毎にサンプリングされる乱数値と予め設定された入賞確率テーブル中のデータとを照合することにより内部的当選役を判定する判定手段と、前記判定手段の判定結果に従い内部的当選役の発生を記憶する内部的当選役記憶手段と、前記内部的当選役記憶手段に記憶された内部的当選役に対応する図柄の組合せが出現するように前記可変表示部の可変表示動作を停止制御する制御部と、遊技者の停止操作に応じて前記制御部に前記可変表示動作の停止制御を実行させる信号を発生する可変表示停止手段と、を備えた遊技機において、前記制御部は、前記入賞確率テーブルを格納する記憶手段を有し、前記乱数値がサンプリングされた時、その乱数値を前記入賞確率テーブル中のデータと照合して前記内部的当選役のいずれかに該当する場合には、前記可変表示停止手段での前記信号の発生タイミングに応じて当該内部的当選役を示す入賞図柄組合せを表示するように前記可変表示部の動作を制御し、前記内部的当選役記憶手段は、前記判定手段で判定された内部的当選役が特定の内部的当選役である場合について、前記可変表示停止手段に基づく可変表示結果が前記内部的当選役に対応する図柄の組合せとは異なる場合には当該内部的当選役の発生した状態を保持する遊技機、である点。
相違点;
(A)請求項1の発明は、入賞確率テーブルが、入賞役と、当該一の入賞役を構成し、当選確率を同じくする複数の内部的当選役と、当該内部的当選役とそれぞれ一対一に対応する入賞図柄組合せを示すデータとを含み、該データが、一の乱数値が遊技機が揃えようとする一の入賞図柄組合せにのみ対応するように予め設定されており、入賞確率テーブル中のデータとの照合が、前記複数の内部的当選役のいずれかに該当するか否かによる照合であるのに対して、甲第1号証の発明は、入賞確率テーブルが、入賞役と、当該入賞役とそれぞれ一対一に対応するデータを含んでおり、一の入賞役は当選確率を同じくする複数の内部的当選役を含んでおらず、また当該内部的当選役とそれぞれ一対一に対応する入賞図柄組合せを示すデータを含んでおらず、該データが、一の乱数値が遊技機が揃えようとする一の入賞役にのみ対応するように予め設定されており、入賞確率テーブル中のデータとの照合が、前記入賞役のいずれかに該当するか否かによる照合である点。
(B)請求項1の発明は、遊技者に内部的当選をした入賞役を報知する報知手段を備えており、前記報知手段は、前記内部的当選役記憶手段で内部的当選役の発生した状態が保持される場合に、その内部的当選をした入賞役を報知するものであるのに対して、甲第1号証の発明は遊技者に内部的当選をした入賞役を報知する報知手段を備えていない点。
(C)内部的当選役の発生した状態の保持が、請求項1の発明は、当該内部的当選役に対応する図柄の組合せが揃うまで保持するものであるのに対して、甲第1号証の発明は次回のゲームまで保存(保持)するようにしたものであり、次回以降、大ヒット(内部的当選役)に対応する図柄の組合せが揃うまで大ヒット(内部的当選役)の発生した状態を保存(保持)するものであるか否か明らかではない点。
上記の相違点について検討する。
(A)の相違点に関して甲第1号証の発明をさらにみると、同甲第1号証の発明は、一の入賞役である「大ヒット」を構成するシンボルマークの組合せとして「A A A」、「B B B」、「C C C」を備えている(甲第1号証の摘記事項1-n)が、これらの各シンボルマークの組合せは入賞確率テーブルにおいて複数の内部的当選役を構成するものではなく、まして当選確率を同じくする複数の内部的当選役を構成するものではない。また入賞確率テーブルにおけるデータは、「大ヒット」、「中ヒット」、「小ヒット」に一対一に対応するデータ(甲第1号証の摘記事項1-g)であって、上記の各シンボルマークの組合せのそれぞれに一対一に対応するデータは設定されていない。そして入賞確率テーブル中のデータとの照合も、上記の各シンボルマークの組合せに対応して個別に行うものではなく、各シンボルマークを包括して「大ヒット」に該当するか否かを照合するものである。
そうすると、甲第1号証の発明において、上記の各シンボルマークの組合せのそれぞれが入賞確率テーブルにおいて複数の内部的当選役を構成し、しかもそれぞれの内部的当選役の当選確率が同じとなるように設定し、入賞確率テーブルが、入賞役と、当該一の入賞役を構成し、当選確率を同じくする複数の内部的当選役と、当該内部的当選役とそれぞれ一対一に対応するシンボルマークの組合せを示すデータを含むようにするとともに、該データが、一の乱数値が遊技機が揃えようとする一のシンボルマークの組合せにのみ対応するように予め設定し、さらに入賞確率テーブル中のデータとの照合が、各シンボルマークの組合せに対応した、複数の内部的当選役のいずれかに該当するか否かによる照合として、上記(A)の相違点に係る構成を得ることは当業者にとって容易なこととはいえない。
また上記(A)の相違点に関して甲第2ないし5号証を検討すると、甲第2号証に記載された発明(以下、「甲第2号証の発明」という。)において、ビッグボーナスゲームには、「7 7 7」と「3 3 3」の2種の当たり図柄を、またレギュラーボーナスゲームには、「7 7 3」と「3 3 7」の2種の当たり図柄を、それぞれ備えているが、これらの2種ずつの当たり図柄が入賞確率テーブルにおいて複数の内部的当選役を構成することは甲第2号証に記載がなく、まして当選確率を同じくする複数の内部的当選役を構成することは記載も示唆もされていない。同様に、入賞確率テーブルにおけるデータが、上記の2種ずつの当たり図柄に一対一に対応するデータであることは同甲第2号証に記載がなく、入賞確率テーブル中のデータとの照合が、上記の2種ずつの当たり図柄のいずれかに該当するか否かによる照合であることも記載も示唆もされていない。また甲第3号証に記載された発明(以下、「甲第3号証の発明」という。)は、「BIGCHANCE」及び「SINGLEBONUS」がそれぞれ1種ずつの当たり図柄しか備えておらず、さらに、甲第4号証に記載された発明(以下、「甲第4号証の発明」という。)は「表示ランプ16」または「発音表示装置」により内部的当選を報知するものであり、甲第5号証に記載された発明(以下、「甲第5号証の発明」という。)は「照明具20のランプ21」により「勝ちゲームに該当するシンボル19を照明する」スロットマシンであって、これら甲第2ないし5号証の発明のいずれも、上記(A)の相違点の構成を開示しておらず、また示唆してもいない。
そして、請求項1の発明は、上記(A)の相違点に係る構成に伴って、「サンプリングされる乱数値」と「入賞確率テーブル中のデータとの照合」を、「一の入賞役を構成し、当選確率を同じくする複数の内部的当選役」と「それぞれ一対一に対応する入賞図柄組合せを示すデータ」との「照合」により行い、「内部的当選役」が発生し、「可変表示停止手段に基づく可変表示結果が前記内部的当選役に対応する図柄の組合せとは異なる場合」には、上記(C)の相違点に係る構成に伴って、「当該内部的当選役に対応する図柄の組合せが揃うまで当該内部的当選役の発生した状態を保持」し、上記(B)の相違点に係る構成に伴って、「内部的当選役記憶手段で内部的当選役の発生した状態が保持される場合に、その内部的当選をした入賞役を報知する」ものであり、これらの各相違点に係る構成が相俟って、本件の明細書に記載された、「一の入賞組合せに対して一の内部的当選役が設定された状態で複数の入賞組合せが設けられていることから、入賞までのゲーム数を増やして遊技者の技術がゲームに与える影響を大きくすることができる。一方、当初の出玉率を維持することで、結果的に内部的当選が発生したゲームにおいて入賞しないとき、その後のゲームで入賞するまで当該内部的当選が発生した状態にする一の入賞役における内部的当選確率も上げることができる。また、表面上の入賞図柄組合せと内部的当選役とが一致しているので、遊技者に信頼感を与えることができる。」「また、遊技者に内部的当選状態をした入賞役を報知する報知手段を設けることにより、遊技者に入賞への期待感を持たせ、ゲームの興趣を一層高めることも可能である。」という作用効果を奏するものである。
したがって、上記(B)及び(C)の相違点についてさらに検討するまでもなく、請求項1の発明は、甲第1ないし5号証の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

5-2.請求項2ないし5に係る発明について
請求項2ないし5に係る発明は、請求項1に係る発明をさらに限定するものであるから、上記「5-1.請求項1に係る発明について」に記載した理由により、甲第1ないし5号証の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1ないし5に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし5に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1ないし5に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-07-26 
出願番号 特願平6-265014
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A63F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 土屋 保光  
特許庁審判長 二宮 千久
特許庁審判官 渡戸 正義
渡部 葉子
登録日 2001-03-23 
登録番号 特許第3172641号(P3172641)
権利者 アルゼ株式会社
発明の名称 遊技機  
代理人 松尾 憲一郎  
代理人 中嶋 裕昭  
代理人 堀 進  

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