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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A45C
管理番号 1121198
判定請求番号 判定2004-60089  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2004-08-26 
種別 判定 
判定請求日 2004-11-09 
確定日 2005-08-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3524547号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「背負いベルト取付具」は、特許第3524547号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定請求は、イ号図面およびその説明書に記載する「背負いベルト取付具」(以下「イ号物件」という)が、特許第3524547号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。
判定請求書及び当審の審尋に対する請求人の回答書によると、イ号物件は、被請求人である株式会社 協和が製造し、イオン(株)ジャスコ高岡南店で販売している、イオンオリジナル24色ランドセル「トップバリュ24色カラーランドセル」(甲第2号証)に用いられた「背負いベルト取付具」である。

2.本件特許発明
本件特許発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載されたとおりのものであって、構成要件ごとにA〜Fの符号を付して分説すれば、次のとおりのものと認められる。

A.背負い鞄1の背板2に固定されるケース体3に二本の揺動アーム4,4を左右対称に備え、
B.各揺動アームの上部に背負いベルト7の取付環5の挿通部6を横長に有し、
C.挿通部の端部に取付環の回動規制部8a,8bを有し、
D.取付環のベルト係止部9に、背負いベルトを止める鋲10が貫通するベルト固定部11が形成してあり、
E.背負いベルト7の付け根が上向きに保持されることを特徴とする
F.背負いベルト取付具。

3.イ号物件
請求人が提出した判定請求書中の「(5)イ号の説明」及び「イ号図面」並びに同請求書に添付された「甲第2号証 イ号を用いたランドセルのカタログ」、「甲第3号証 イ号を用いたランドセルの写真」に、それぞれ記載された内容は明確ではなく、これらの記載のみからはイ号物件の内容を正確に認定することができない。
一方、当審の審尋に応じて、請求人は平成16年12月27日付け回答書を提出し、甲第5,6号証として、イ号物件の詳細構造について、オレンジ色の当該ランドセルに取り付けられた「背負いベルト取付具」の取付状態及び取付手順を示す写真を提出した。
また、被請求人は、平成17年2月22日付けの判定答弁書において、乙第4号証として、イ号物件の各部品及び可動状態を示した写真を提出するとともに、イ’号図面(イ号の補足図面)及びその説明書を提出した。
そこで、判定請求書中の「(5)イ号の説明」及び「イ号図面」の記載に、請求人が提出した甲第5,6号証の写真、並びに、被請求人が提出した乙第4号証の写真及びイ’号図面(イ号の補足図面)とその説明書の記載を参酌すると、次の事項が認められる。

1.イ号物件は、背負い鞄に背負いベルトを取り付けるための背負いベルト取付具である。
2.イ号物件のケース体1は、背負い鞄の背板に固定されるものであり、ケース体1には、二本の揺動アーム4,4が左右対称に、揺動可能に取り付けられている。
3.背負いベルトの取付環5には、先端両側に小孔(イ’号図面の5a)があり、各揺動アームの上部には、貫通孔を具えた挿通部6が横長に設けられ、小孔と挿通部とに取付ピン(イ’号図面の6a)を貫通することにより、取付環が揺動アームに回動可能に取り付けられる。
4.挿通部の下側には、取付環の偏心突部(イ’号図面の5b)と係合して取付環の回動を規制する櫛歯状のストッパー7が備えられている。
5.取付環のベルト係止部8には、複数の穴(イ’号図面の9b)がある板状部材(イ’号図面の補強芯片9a)が一体に形成されていて、取付環に背負いベルトを止める鋲は、板状部材を貫通する。
6.取付環を前方に、すなわち、使用者側に回動させると回動が規制され、背負いベルトの付け根は上向きに保持される。

したがって、イ号物件は、次のa〜fの構成からなるものとするのが相当であると認められる。

a.背負い鞄の背板に固定されるケース体に二本の揺動アームを左右対称に備え、
b.各揺動アームの上部に背負いベルトの取付環を取り付ける取付ピンの挿通部を横長に有し、
c.挿通部の下側に取付環の偏心突部と係合して取付環の回動を規制する櫛歯状のストッパーを備え、
d.取付環のベルト係止部に、背負いベルトを止める鋲が貫通する板状部材を一体的に形成してあり、
e.取付環を前方に、すなわち、使用者側に回動させると回動が規制され、背負いベルトの付け根が上向きに保持される、
f.背負いベルト取付具。

4.対比
(1)構成要件Aについて
本件特許発明の構成要件Aは、「背負い鞄1の背板2に固定されるケース体3に二本の揺動アーム4,4を左右対称に備え」である。
一方、イ号物件の構成aは、「背負い鞄の背板に固定されるケース体に二本の揺動アームを左右対称に備え」であり、その「背負い鞄」、「背板」、「ケース体」、「揺動アーム」は、それぞれ、本件特許発明の構成要件Aの、「背負い鞄1」、「背板2」、「ケース体3」、「揺動アーム4,4」に相当するので、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Aを充足する。

(2)構成要件Bについて
本件特許発明の構成要件Bは、「各揺動アームの上部に背負いベルト7の取付環5の挿通部6を横長に有し」である。
一方、イ号物件の構成bは、「各揺動アームの上部に背負いベルトの取付環を取り付ける取付ピンの挿通部を横長に有し」である。
そして、本件特許発明の「挿通部6」は、「取付環5」の挿通部、すなわち、取付環5を挿通する部分であるのに対し、イ号物件の「挿通部」は、取付環ではなく、取付ピンを挿通する部分であるので、構成bは、構成要件Bと相違する。
したがって、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Bを、文言上充足すると言えない。

(3)構成要件Cについて
本件特許発明の構成要件Cは、「挿通部の端部に取付環の回動規制部8a,8bを有し」である。
一方、イ号物件の構成cは、「挿通部の下側に取付環の偏心突部と係合して取付環の回動を規制する櫛歯状のストッパーを備え」であり、その「櫛歯状のストッパー」は、取付環の回動を規制するものである点で、本件特許発明の構成要件Cの「回動規制部8a,8b」に対応するものであるが、本件特許発明の「回動規制部8a,8b」が挿通部の端部に配置されているのに対して、イ号物件の「櫛歯状のストッパー」が挿通部の下部に配置されている点で相違するので、構成cは、構成要件Cと相違する。
したがって、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Cを、文言上充足すると言えない。

(4)構成要件Dについて
本件特許発明の構成要件Dは、「取付環のベルト係止部9に、背負いベルトを止める鋲10が貫通するベルト固定部11が形成してあり」である。
一方、イ号物件の構成dは、「取付環のベルト係止部に、背負いベルトを止める鋲が貫通する板状部材を一体的に形成してあり」であり、その「板状部材」は、取付環のベルト係止部に形成されているとともに、背負いベルトを止める鋲が貫通するものであるから、本件特許発明の構成要件Dの、「ベルト固定部11」に相当するので、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Dを充足する。
なお、判定被請求人は、判定答弁書で、「板状部材」にあたる部材は、背負いベルトの先端部に美しい湾曲した形状を保たせるための補強芯片である旨述べているが、これがベルトの形状を保持する機能を有するものであるとしても、「板状部材」が、取付環のベルト係止部に形成されているとともに、背負いベルトを止める鋲が貫通するものである点には相違がないので、上記のとおりに認める。

(5)構成要件Eについて
本件特許発明の構成要件Eは、「背負いベルト7の付け根が上向きに保持されることを特徴とする」である。
一方、イ号物件の構成eは、「取付環を前方に、すなわち、使用者側に回動させると回動が規制され、背負いベルトの付け根が上向きに保持される」である。
ここで、「上向きに保持される」について、本件特許明細書の記載を参酌すると、【0004】段落に、次の記載がある。
「回動規制部は、取付環を上向きの一定の角度に固定する形態であっても良いが、上向きの一定の角度範囲だけに回動を規制する形態であっても良い。要は、背負い鞄を背中に担いだ時に、取付環がある角度以上前側(体側)に倒れないようになっていれば良い。ランドセルは、梱包用の箱に詰める際には背負いベルトをランドセルの周りに巻いて止めておくので、そのためには取付環が後ろ側(ランドセル側)には倒れるようになっていた方が、背負いベルトの付け根をランドセルにぴったりと沿わせられるので都合が良い。」
そこで、本件特許発明の「上向きに保持される」とは、取付環がある角度以上前側(体側)に倒れないようになっていることにより、背負いベルト7の付け根が上向きに保持されることを意味するものと解することができる。
してみると、イ号物件の構成eは、本件特許発明の構成要件Eに相当するので、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Eを充足する。

(6)構成要件Fについて
本件特許発明の構成要件Fは、「背負いベルト取付具」である。
一方、イ号物件の構成fは、「背負いベルト取付具」であり、本件特許発明の構成要件Fに相当するので、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Fを充足する。

以上を整理すると、イ号物件は、本件特許発明の構成要件A,B及びD〜Fを文言上充足すると言えるものの、構成要件B、Cを文言上充足しない。

5.均等の判断
判定請求人は、判定請求書で、次のように主張している。
「本件特許発明の技術的特徴は、背負いベルトの付け根が上向きに保持されるように、ベルトの取付環の回動を規制するための回動規制部を備えている点にある。・・・・・・付け根が上向きに保持されるようにベルト取付環の回動が規制されれば足り、回動規制部の位置がどこにあるかは、本件特許発明の本質的部分ではない。したがって、『回動規制部』の位置と『櫛歯状のストッパー(回動規制部)』の位置とが異なる部分は本件特許発明の本質部分ではなく、しかも、その部分をイ号におけるものと置き換えても、本件特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏する。また、前記のように置き換えることに、いわゆる当業者が、イ号の製造等の時点において容易に想到することができたものである。以上より、イ号の本件特許発明と異なる部分、すなわち相違点は均等論の適用により構成要件を充足するものである。」

ところで、最高裁平成6年(オ)第1083号(平成10年2月24日)判決は、均等の条件について、次のように述べている。
「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」

そこで、本件特許発明の構成要件B、Cが、本件特許発明の本質的部分であるか否かについて検討する。
本件特許発明は、「背負いベルト7の付け根が上向きに保持される」ようにした「背負いベルト取付具」に係るものであるが、背負いベルト取付具において、背負いベルトの付け根を上向きに保持すること自体は、例えば、実願昭61-49143号(実開昭62-159731号)のマイクロフィルム、実願平1-13289号(実開平2-105726号)のマイクロフィルム)及び特開平9-252820号公報にそれぞれ示すように、従来周知の事項である。
さらに、揺動アームに設けた、取付環に相当する部材に、背負いベルトを係止する種類の背負いベルト取付具にあっても、取付環に相当する部材を上向きに保持して、背負いベルトの付け根を上向きに保持するようにしたものが、実願平4-44998号(実開平6-3122号)のCD-ROMに示すように公知であることから、本件特許発明の本質的部分は、単に、背負いベルトの付け根を上向きに保持するために、取付環の回動が規制されている点にあるのではなく、それを可能とする、揺動アームの上部への取付環の具体的な取付構成と、それを前提とした回動規制構成にあると言える。
してみると、本件特許発明の構成要件B、Cは、本件特許発明の本質的部分であると認められるので、イ号物件は、本件特許発明の本質的部分において相違すると言える。
以上のことから、イ号物件は、上記均等の条件の(1)の条件を満たさないのであるから、他の条件について検討するまでもなく、イ号物件が、本件特許請求の範囲の請求項1に記載された構成と均等なものとして、本件特許発明の技術的範囲に属するものと解することはできない。

6.むすび
したがって、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
 
別掲
 
判定日 2005-07-27 
出願番号 特願2003-193084(P2003-193084)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A45C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 誠  
特許庁審判長 山崎 豊
特許庁審判官 大元 修二
内藤 真徳
登録日 2004-02-20 
登録番号 特許第3524547号(P3524547)
発明の名称 背負いベルト取付具  
代理人 宮田 信道  
代理人 田代 和夫  

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