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審決分類 審判 全部無効 発明同一  G03F
管理番号 1121914
審判番号 無効2004-80259  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-12-08 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-12-17 
確定日 2005-08-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第3035297号発明「プリント基板の製造装置および製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3035297号の請求項1〜4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

(1)本件特許である第3035297号特許は、平成11年5月27日に出願され、平成12年2月18日に特許権の設定登録がなされた。

(2)これに対し、平成16年12月17日に請求人株式会社オーク製作所より本件特許無効審判の請求がなされ、証拠方法として本件特許公報および甲第1号証〜甲第7号証を提出し、
(a)本件特許の請求項1乃至請求項4に係る発明は、甲第1号証の明細書および図面に記載の発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に該当するため、特許を受けることができない。従って、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである
(b)本件特許の請求項1乃至請求項4に係る発明は、甲第2号証乃至甲第5号証に記載の発明に基づき当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当するため、特許を受けることができない。従って、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである
旨、主張している。

(3)これにつき、被請求人に対し、平成17年1月17日付けで上記審判請求書副本を、答弁書の提出期間を60日と指定して送達したところ、指定期間内に答弁書の提出がおこなわれなかった。そこで、被請求人に答弁書の提出がない旨の連絡を行ったところ、被請求人は答弁書を提出しなかったこと及び今後上申書を提出する意思もないことを表明した。

2.請求人が提出した証拠

(1)甲第1号証(特開2000-292942号公報)
(2)甲第2号証(特開平11-194507号公報)
(3)甲第3号証(特開昭59-37545号公報)
(4)甲第4号証(「プリント回路ハンドブック 原書第3版」、C.F.クームズ,Jr.編 プリント回路学会監訳 株式会社近代科学社 1991年11月1日発行)
(5)甲第5号証(特開平6-77112号公報)
(6)甲第6号証(特開平8-250387号公報)
(7)甲第7号証(特開平8-321455号公報)

3.本件特許発明

本件特許の請求項1乃至請求項4に係る発明は、以下のとおりのものである。
【請求項1】 プリント基板への露光工程において、配線パターン領域と該配線パターン領域の周囲に識別マーク領域とを有する原版マスクを、該プリント基板への露光位置を逐次移動しながら複数回の露光を行うプリント基板の製造装置であって、
前記原版マスクをプリント基板の被露光面側に設け、
前記原版マスクのプリント基板との反対面側に不透明の遮蔽部材を設け、
該遮蔽部材が該原版マスクの識別マーク領域を選択的に遮蔽することを特徴とするプリント基板の製造装置。
【請求項2】 前記遮蔽部材は、プリント基板の露光位置に従って、選択的に原版マスクの識別マーク領域を遮蔽可能な遮蔽板であることを特徴とする請求項1に記載のプリント基板の製造装置。
【請求項3】 前記遮蔽部材は、プリント基板の露光位置に従って、選択的に原版マスクの識別マーク領域を遮蔽可能な液晶パネルであることを特徴とする請求項1に記載のプリント基板の製造装置。
【請求項4】 プリント基板への露光工程において、配線パターン領域と該配線パターン領域の周囲に識別マーク領域とを有する原版マスクを、該プリント基板への露光位置を逐次移動しながら複数回の露光を行うプリント基板の製造方法であって、
隣接して露光される配線パターン領域間には識別マーク領域が露光されないように、識別マーク領域を遮蔽しながら複数回の露光を行うプリント基板の製造方法。」

4.請求人の主張

(1)本件特許の請求項1乃至請求項4に係る各発明は、本件特許の出願前である平成11年4月6日に出願され、平成12年10月20日に特開2000-292942号公報(甲第1号証)として公開された出願の明細書および図面に記載の発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に該当するため、特許を受けることができず、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものであるとし、
証拠として、甲第1号証の
「前記パターンを露光する、ことを特徴とする露光方法。」(第1欄第31〜32行)
「この発明はプリント配線基板などを作成する際に、原版の回路パターン等を被配線基板に露光するための露光装置に関する。」(第1欄第35〜37行)
「同一のマスクで大判の基板に複数回の露光を行うことができ、しかも基板情報等マスクの外周部の情報を任意に露光することが可能になる。なお前記各領域間の移動は高速でステップ移動させ、」(第2欄第43〜46行)
「アライメントステージ50の上にはマスク1が位置し、更にその上に光源装置6が設置されている。このマスク1はそこに描かれたパターンを光源装置6からの光によりプリント配線基板W上に投影して焼き付けられるように構成されている。」(第3欄第25〜29行)
「ガラスマスク1には、描くべきパターンの他にそのマスク外周部FMに基板情報10、11、12、13が描かれている。」(第3欄第29〜31行)
「光源装置6とガラスマスク1との間には遮光装置2が設けられている。」(第4欄第36〜37行)
「各遮光板20、21、22、23はそれぞれ基板情報10、11、12、13を選択的に覆って、該部分を露光させないことができるように構成されている。」(第4欄第42〜45行)
なる記載および【図1】、【図2】を提示するとともに、遮蔽部材を液晶パネルとする点は周知技術であるとして、甲第5号証(特開平6-077112号公報)、甲第6号証(特開平8-250387号公報)、甲第7号証(特開平8-321455号公報)を提示した。
そして、上記証拠に基づき、以下の主張を行った。
本件特許の請求項1に係る発明は、配線パターン領域と周囲の識別マーク領域を有する原版マスクを逐次移動しながら複数回の露光を行うプリント基板の製造装置であって、被露光面に設けた原版マスクに対して、光を遮蔽する遮蔽部材を設け、その遮蔽部材がマスクの識別マークを選択的に遮蔽することを特徴とするプリント基板製造装置であり、甲第1号証には原版の回路パターンを被配線基板に露光するための露光装置が記載されており、描くべきパターンの他にそのマスク外周部FMに基板情報が描かれているガラスマスクを光源装置とガラスマスクとの間に位置する遮光装置にてそれぞれ基板情報を選択的に覆って、該部分を露光させないことができることが示されており、甲第1号証の発明と同一である。
本件特許の請求項2に係る発明に関しては、遮蔽部材が、プリント基板の露光位置に従って、選択的に原版マスクの識別マーク領域を遮蔽可能な遮蔽板であることは甲第1号証に記載されている。
本件特許の請求項3に係る発明に関しては、遮蔽部材が、プリント基板の露光位置に従って、選択的に原版マスクの識別マーク領域を遮蔽可能な液晶パネルとしたことは、周知技術である。
本件特許の請求項4に係る発明は、隣接して露光される配線パターン領域間には識別マーク領域が露光されないように、識別マーク領域を遮蔽しながら複数回の露光を行うプリント基板の製造方法であるが、甲第1号証には識別マーク領域が露光されないように、識別マーク領域を遮蔽しながら順次露光位置を移動して複数回の露光を行うプリント基板の製造方法が実質上記載されており、甲第1号証の発明と同一である。

(2)本件特許の請求項1乃至請求項4に係る各発明は、甲第2号証乃至甲第4号証の発明を組み合わせること、また、甲第2号証乃至甲第5号証(甲第6号証または甲第7号証)の発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2甲の規定に違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきものである。

5.被請求人の主張

被請求人に対し、平成17年1月17日付けの請求書副本の送達通知において、60日の期間を指定して答弁の機会を与えたが、前記「1.手続の経緯」で述べたとおり、答弁書の提出がなされなかった。

6.先願明細書記載の発明

本件特許の出願日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願平11-98412号(特開2000-292942号公報参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、
「【0001】
【産業上の利用分野】
この発明はプリント配線基板などを作成する際に、原版の回路パターン等を被配線基板に露光するための露光装置に関する。」
「【0004】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の露光装置は、被露光基板を載置する基台装置と、該基台上の被露光基板に投影する所定のパターンを備え、前記被露光基板に接触又は近接可能に位置するマスクと、前記マスクと前記基台の少なくとも一方を移動させ、両者の相対的な位置関係を変更設定する移動装置と、前記露光基板を前記マスクに対応して任意の領域に区分し、前記移動装置を制御して該領域毎に前記マスクと被露光基板との位置合わせを行う位置合わせ装置と、前記マスクのパターンを基台装置上の被露光基板に投影させる光源装置と、前記マスクの任意の位置を露光させる露光調整装置と、を有することを特徴とする。
以上の構成により、マスク外周部の基板情報などを選択的に適宜露光させないことが可能になる。
マスクの任意の位置を露光する構成としては、種々の態様をとることが可能であり、例えば前記マスクの任意の位置を遮光可能である遮光装置を備えること等が可能である。この遮光装置により、マスクの外周部の基板情報の全部又は一部を必要に応じて遮光することが可能になる。また光源装置に任意位置を露光させる機能を持たせても良い。
以上の構成により、同一のマスクで大判の基板に複数回の露光を行うことができ、しかも基板情報等マスクの外周部の情報を任意に露光することが可能になる。
なお前記各領域間の移動は高速でステップ移動させ、次いで位置合わせを行わせるように制御することが望ましい。また前記マスクと露光基板とがほぼ平行に位置し、移動装置がマスクと露光基板の少なくとも一方をXY方向及び回転方向に平行移動させ、且つマスクと露光基板を近接又は密着或いは離間させる、ように動作することが望ましい。更に、通常マスクと被露光装置は垂直方向に配置され、前記マスクを被露光基板の垂直方向上方に位置させるように配置するが、マスクと被露光装置を立設し、マスクと被露光基板がほぼ水平方向に離間して位置するように配置することも可能である。」
「【0007】
前記した様にアライメントステージ50の上にはマスク1が位置し、更にその上に光源装置6が設置されている。このマスク1はそこに描かれたパターンを光源装置6からの光によりプリント配線基板W上に投影して焼き付けるように構成されている。ガラスマスク1には、描くべきパターンの他にそのマスク外周部FMに基板情報10、11、12、13が描かれている。この基板情報としては、露光基板の番号、解像度チャート、シリアル番号、製造者名、パターンなどが一般的であるが他のどのような情報や記号であっても良い。また、この実施形態ではガラスマスク1の4辺にすべて設けられているが、4辺の中の何辺かに設けられていても良いし、或いは辺の一部に設けられていても良い。
なお光源装置6の照射エリアはマスク外周部FMを含むマスク1のサイズとほぼ同一としてある。」
「【0014】
光源装置6とガラスマスク1との間には遮光装置2が設けられている。この遮光装置2は光源装置6の一部として構成しても良いし、この実施形態のように独立した装置として実現しても良い。
遮光装置2は遮光板20、21、22、23とこれをガラスマスク1のマスク外周部FM上に進退させるエアシリンダ25、26、27、28から構成されている。各遮光板20、21、22、23はそれぞれ基板情報10、11、12、13を選択的に覆って、該部分を露光させないことができるように構成されている。この実施形態では、領域Aを露光する際には、基板情報11を遮光板21で覆い、基板情報12を遮光板22で覆って露光を行うようになっている。同様に領域Bを露光する際には基板情報12を遮光板22で覆い、基板情報13を遮光板23で覆って露光を行うようになっている。領域Cを露光する際には、基板情報10を遮光板20で覆い、基板情報13を遮光板23で覆って露光するようになっている。更に領域Dを露光する際には基板情報10を遮光板20で覆い、基板情報11を遮光板21で覆って露光するようになっている。」

7.先願明細書記載の発明との比較、および当審の判断

(1)本件特許の請求項1に係る発明と先願明細書記載の発明との比較・判断
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件第1発明」という。)は、[3.本件特許発明]の記載のとおりであり、分説すれば、
A.プリント基板への露光工程において、
B.配線パターン領域と該配線パターン領域の周囲に識別マーク領域とを有する原版マスクを、
C.該プリント基板への露光位置を逐次移動しながら複数回の露光を行うプリント基板の製造装置であって、
D.前記原版マスクをプリント基板の被露光面側に設け、
E.前記原版マスクのプリント基板との反対面側に不透明の遮蔽部材を設け、
F.該遮蔽部材が該原版マスクの識別マーク領域を選択的に遮蔽する
G.ことを特徴とするプリント基板の製造装置。
となる。
先願明細書【0001】段落には「プリント配線基板などを作成する際に、・・・被配線基板を露光するための露光装置」との記載があり、「被配線基板」は「プリント配線基板」であり、本件第1発明における「プリント基板」に相当し、「露光する」旨の記載があることから、先願明細書には本件第1発明の分説Aの構成に相当する構成が記載されている。また、プリント配線基板の製造装置でもあることから、本件第1発明の分説Gの構成に相当する構成も記載されている。
先願明細書【0007】段落には「ガラスマスク1には、描くべきパターンの他にそのマスク外周部FMに基板情報10、11、12、13が描かれている。この基板情報としては、露光基板の番号、解像度チャート、シリアル番号、製造者名、パターンなどが一般的であるが他のどのような情報や記号であっても良い。」との記載があり、「ガラスマスク1」は本件第1発明の「原版マスク」に相当し、「基板情報」は本件第1発明の「識別マーク」に相当するので、「識別マーク領域」は本件第1発明の「マスク外周部FM」に相当することから、先願明細書には本件第1発明の分説Bの構成に相当する構成が記載されている。
先願明細書【0004】段落には「被露光基板を載置する基台装置」と「基台上の被露光基板に投影する所定のパターンを備え、前記被露光基板に接触又は近接可能に位置するマスク」と「露光基板を前記マスクに対応して任意の領域に区分し、前記移動装置を制御して該領域毎に前記マスクと被露光基板との位置合わせを行う位置合わせ装置」により「同一のマスクで大判の基板に複数回の露光を行う」ことが記載されており、「被露光基板」は本件第1発明の「プリント基板」に相当し、同様に「領域毎に前記マスクと被露光基板との位置合わせを行う」は「露光位置を逐次移動」に相当することから、先願明細書には本件第1発明の分説Cの構成に相当する構成が記載されている。
先願明細書【0007】段落の「アライメントステージ50の上にはマスク1が位置し、更にその上に光源装置6が設置されている。このマスク1はそこに描かれたパターンを光源装置6からの光によりプリント配線基板W上に投影して焼き付けるように構成されている。」なる記載および図面【図1】により、先願明細書には「マスク」を「プリント配線基板」の被露光面側に設けていることが読み取れるので、先願明細書には本件第1発明の分説Dの構成に相当する構成が記載されている。
先願明細書【0014】段落には「光源装置6とガラスマスク1との間には遮光装置2が設けられている。」との記載および図面【図1】を参照すれば、プリント配線基板Wはガラスマスク1からみて光源装置6と反対の側にあり、「ガラスマスク」、「遮光装置」、「プリント配線基板」はそれぞれ本件第1発明における「原版マスク」、「不透明の遮蔽部材」、「プリント基板」に相当することから、先願明細書には本件第1発明の分説Eの構成に相当する構成が記載されている。
さらに同【0014】段落には「各遮光板20、21、22、23はそれぞれ基板情報10、11、12、13を選択的に覆って、該部分を露光させないことができるように構成されている。」との記載があることから、本件第1発明の分説Fの構成に相当する構成が記載されている。

以上、先願明細書には本件第1発明の構成要件のすべてが記載されていることから、本件第1発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本件第1発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件第1発明は、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。

(2)本件特許の請求項2に係る発明と先願明細書記載の発明との比較・判断
本件特許の請求項2に係る発明(以下、「本件第2発明」という。)は[3.本件特許発明]の記載のとおりであり、分説すれば、
H.前記遮蔽部材は、プリント基板の露光位置に従って、選択的に原版マスクの識別マーク領域を遮蔽可能な遮蔽板である
I.ことを特徴とする請求項1に記載のプリント基板の製造装置。
となる。
先願明細書【0014】段落には「この実施形態では、領域Aを露光する際には、基板情報11を遮光板21で覆い、基板情報12を遮光板22で覆って露光を行うようになっている。同様に領域Bを露光する際には基板情報12を遮光板22で覆い、基板情報13を遮光板23で覆って露光を行うようになっている。領域Cを露光する際には、基板情報10を遮光板20で覆い、基板情報13を遮光板23で覆って露光するようになっている。更に領域Dを露光する際には基板情報10を遮光板20で覆い、基板情報11を遮光板21で覆って露光するようになっている。」との記載があり、露光する領域に従って、選択的に基板情報を遮光すること、すなわち、本件第2発明の分説Hの構成は先願明細書に記載されている。
また、分説Iは先の(1)で示したように同じく先願明細書に記載されている。
したがって、先願明細書には本件第2発明の構成要件のすべてが記載されていることから、本件第2発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本件第2発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件第2発明は、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。

(3)本件特許の請求項3に係る発明と先願明細書記載の発明との比較・判断
本件特許の請求項3に係る発明(以下、「本件第3発明」という。)は[3.本件特許発明]の記載のとおりであり、分説すれば、
J.前記遮蔽部材は、プリント基板の露光位置に従って、選択的に原版マスクの識別マーク領域を遮蔽可能な液晶パネルである
K.ことを特徴とする請求項1に記載のプリント基板の製造装置。
となり、本件第3発明の分説Jは本件第2発明における分説Hの「遮蔽板」を「液晶パネル」としたものである。
一方、特開昭61-219954号公報には、「本発明はプリント基板の画像焼付等に用いられるパターン形成方法に係り、特にアートワークフィルムの代わりに液晶ユニットを用い、作図データにより描画された液晶面のパターン画像を、直接プリント基板上に露光可能ならしめる液晶パネルによるパターン形成方法に関する。」(第1頁右欄第3〜8行)との記載がある。
また、請求人が提示した「露光装置における遮光領域制御機構」の発明が記載された甲第5号証(特開平6-77112号公報)には、
「【0010】次に、この遮光領域制御機構の動作について説明する。まず、入力設定部2aに必要とするレチクル3のパターン領域の各角の座標値を入力する。このことにより入力設定部2aにおける演算部で駆動回路2の選択スイッチ回路にON-OFF信号を出力する。次に、駆動回路2はON-OFF信号に応じた電圧を出力し、液晶板1の液晶素子はONあるいはOFF状態により、遮光すべき領域は黒色となり、露光光を遮断する。」
なる記載があり、また【図1】からはレティクルの光源側に駆動回路で駆動される液晶板を設け、光を制御するようにした構成を読み取ることができる。
更に、同「縮小投影露光装置」の発明が記載された甲第6号証(特開平8-250387号公報)には、
「【0012】
【実施例】以下、この発明の実施例を図について説明する。図1はこの発明の一実施例に係る縮小投影露光装置における液晶シャッタを示す図であり、図1の(a)はそのパネル構成を示す断面図、図1の(b)はその電極構成を示す平面図であり、図において図3に示した従来の液晶アレイパネルと同一または相当部分には同一符号を付し、その説明を省略する。図において、30は2次光源形成フィルタを構成する液晶シャッタであり、この液晶シャッタ30は第1の液晶アレイパネル31aと第2の液晶アレイパネル31bとを重ね合わせて構成されている。なお、この実施例は、2次光源形成フィルタが液晶シャッタ30で構成されている点を除いて、図2に示した従来の縮小投影露光装置と同様に構成されている。」なる記載がある。
これらの記載からみて、プリント基板等にパターンを焼付ける露光装置において、液晶ユニット、液晶板、液晶アレイパネルによって露光を遮光することは慣用されている。
とするならば、本件第3発明は、先の(2)において示した先願明細書に記載された本件第2発明と同一の発明における「遮光板」を単に当該技術分野における慣用手段である「液晶パネル」に置き換えたものであり、本件第3発明は先願明細書に記載の発明と実質的に同一の発明である。
したがって、本件第3発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本件第3発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件第3発明は、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。

(4)本件特許の請求項4に係る発明と先願明細書記載の発明との比較・判断
本件特許の請求項4に係る発明(以下、「本件第4発明」という。)は[3.本件特許発明]の記載のとおりであり、分説すれば、
L.プリント基板への露光工程において、
M.配線パターン領域と該配線パターン領域の周囲に識別マーク領域とを有する原版マスクを、
N.該プリント基板への露光位置を逐次移動しながら複数回の露光を行うプリント基板の製造方法であって、
O.隣接して露光される配線パターン領域間には識別マーク領域が露光されないように、識別マーク領域を遮蔽しながら複数回の露光を行う
P.プリント基板の製造方法
となる。
まず、分説Lは分説Aと、分説Mは分説Bと、それぞれ同一であるので、先の(1)で示したように、分説L、分説Mと同一の構成は先願明細書に記載されている。
また、先の(1)で、先願明細書には製造装置としての分説Cの構成が記載されてことを示したので、分説Cの記載内容を方法として記載した分説Nの構成も先願明細書に記載されている。
さらに、先願明細書【0014】段落および図面【図1】を参照すれば、たとえば領域Aを露光する際に、隣接する領域Bの間の基板情報11が露光されないように、遮光板21で遮蔽すること、領域B、領域C、領域Dの露光に際しても同様にすることが読み取れるので、先願明細書には本件第4発明の分説Oの構成と同一の構成が記載されている。
そして、先願明細書には先の(1)で示したように「プリント基板の製造装置」の発明が記載されているので、実質的には「プリント基板の製造方法」も記載されていることになる。

したがって、先願明細書には実質的に本件第4発明の構成要件のすべてが記載されていることから、本件第4発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本件第4発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件第4発明は、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。

(5)まとめ
以上、本件の請求項1乃至4に係る各特許発明は、それぞれ特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであるので、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件の請求項1乃至4の特許は無効とする。

なお、上記理由により本件の請求項1乃至4の特許は無効となるので、請求人の特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとの主張に基づく検討は行わない。

8.むすび

以上のとおりであるから、本件の請求項1乃至4に係る各特許発明は、それぞれ先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件の請求項1乃至4に係る各特許発明は、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができないから、本件特許第3035297号の特許請求項1乃至4に記載された発明についての特許を無効とする。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-15 
結審通知日 2005-06-20 
審決日 2005-07-04 
出願番号 特願平11-148579
審決分類 P 1 113・ 161- Z (G03F)
最終処分 成立  
特許庁審判長 上野 信
特許庁審判官 青木 和夫
鹿股 俊雄
登録日 2000-02-18 
登録番号 特許第3035297号(P3035297)
発明の名称 プリント基板の製造装置および製造方法  
代理人 宮尾 明茂  
代理人 富田 哲雄  
代理人 藤本 英介  
代理人 神田 正義  
代理人 磯野 道造  

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