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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1122048
審判番号 不服2002-20141  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-03-03 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-16 
確定日 2005-08-18 
事件の表示 平成10年特許願第240149号「カラー陰極線管の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月 3日出願公開、特開2000- 67748〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成10年8月26日の出願であって、平成14年9月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月16日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月15日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成14年11月15日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成14年11月15日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】 枠状に形成されたマスクフレームに、少なくとも1対の対向する各辺間の間隔が縮む方向に圧縮力を加え、シャドウマスクに引張力を加えた状態で、前記シャドウマスクと前記マスクフレームとを溶接するカラー陰極線管の製造方法であって、
前記圧縮力の印加は、前記圧縮力の印加された前記各辺の外側のエッジがたわみ曲線を形成するようにし、
ローラ式抵抗溶接機のローラ電極の電極面と前記マスクフレームの前記たわみ曲線を形成した外側のエッジとが前記シャドウマスクを介して当接している状態で、前記たわみ曲線の全長にわたって前記電極面が接触し得る所定の幅を有する前記ローラ電極を水平移動させて転がしながら、前記外側のエッジのたわみ曲線に応じて前記電極面と前記外側のエッジとの当接位置関係がずれながら前記溶接を行うことを特徴とするカラー陰極線管の製造方法。」
と補正された。
上記補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ローラ電極」について「たわみ曲線の全長にわたって電極面が接触し得る所定の幅を有する」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法等の一部を改正する法律(平成15年法律第47号)附則第2条第7項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法[第1条の規定]による改正前の特許法(以下、「平成15年改正前特許法」という。)第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-147759号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。
a.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数の細条グリッドを有する薄板状の色選別マスクと、該色選別マスクが架張され該色選別マスクに所定の張力を付与するための弾性を有するフレームとが該フレームの端部で接合されたカラー陰極線管用色選別電極構体であって、前記フレームが前記色選別マスクと接触する幅4mm以下の接触面を具備し、前記フレームと前記色選別マスクとの接合部が前記接触面の外側エッジ部にあることを特徴とするカラー陰極線管用色選別電極構体。
・・・
【請求項4】 複数の細条グリッドを有する薄板状の色選別マスクを弾性を有するフレームに架張して、前記フレームの前記色選別マスクと接触する幅4mm以下の接触面に密着させる工程と、前記フレームの前記色選別マスクと接触する接触面に対してフレームの外方に傾けた溶接電極により、前記接触面の外側エッジ部で前記フレームと前記色選別マスクとを溶接する工程とを備えたカラー陰極線管用色選別電極構体の組立方法。
【請求項5】 複数の細条グリッドを有する薄板状の色選別マスクと、該色選別マスクが架張され該色選別マスクに所定の張力を付与するための弾性を有するフレームとを該フレーム端部の前記色選別マスクとの接触面に沿って接合する溶接電極を備えたカラー陰極線管用色選別電極構体組立装置であって、溶接時に前記色選別マスクを介して前記フレームと接触する前記溶接電極の先端部の、接合方向に対する断面が直線形状であることを特徴とするカラー陰極線用色選別電極構体の組立装置。
【請求項6】 溶接電極の先端部の接合方向に対する断面の直線形状部の長さが、前記色選別マスクの接触面の接合方向に対する断面における長さよりも長いことを特徴とする請求項5に記載のカラー陰極線管用色選別電極構体の組立装置。」
b.「【0003】従来のカラー陰極線管用色選別電極構体の一般的な構成を図11に示す。図において、色選別マスク101は金属薄板を選択的にエッチングした複数の細条グリ
ッド110を有し、支持部材121との接触面123の接合部111で一対の支持部材121に固定されている。一対の支持部材121と、該一対支持部材121相互を接続し弾性を有する一対の弾性部材122とからフレーム102は構成される。また、一端がフレーム102に固定された支持構体103はその他端がカラー陰極線管のガラス容器内に設けられたピン(図示せず)に係止するための嵌合孔311を有する。・・・
【0004】次に、従来のカラー陰極線管用色選別電極構体の組立方法について説明する。図12は色選別マスク101をカラー陰極線管用色選別電極構体にセットする工程を示した図である。色選別マスク101は複数の細条グリッド110を有する部分と複数の細条グリッド110のない周辺部112とから構成され、フラット状のマスクである。このフラット状の色選別マスク101をターンバックルの架けられたフレーム102上に配設してセットし(矢印a)、次にこのフラット状色選別マスク101にフレーム102をつきあげるように(矢印b)する。これで、これらフラット状色選別マスク101とフレーム102は密着される。図13は、フラット状色選別マスク101とフレーム102を溶接する工程を示した図である。ローラー状の溶接電極106を支持部材121上で転動させることにより支持部材121と色選別マスク101が接触する面123内側で溶接固着される。なお、溶接は一対の支持部材121の両方で実施される。溶接固着後はフレーム102のターンバックルが解放されフレーム102の弾性力で色選別マスク101は展張保持される。
【0005】色選別マスク101とフレーム102が溶接固着される際の溶接電極106と色選別マスク101、支持部材121との位置関係を図14に示す。図14は図13の一部拡大図である。また、図15は図14中のB-B’線の断面概略図である。フレーム102には色選別マスク101の張力確保の為に弾性と剛性が要求され、例えば高耐力の金属材が使用される。支持部材121は一般に引き抜き加工後に曲げたものや平板をプレス成形したものが使用されるが、十分に色選別マスク101に張力を確保する為、断面形状の幅寸法つまり図15のb寸法は4mm以上確保する必要がある。つまり前記接触面123の幅は4mm以上確保されていることになる。又、フレーム102のターンバックル量はフレーム102の外形を基準に所定の変位量を付加する方法か所定の加圧力をフレーム102に付加する方法が一般的であり、その為フレーム102の寸法変動等で図15中の波線で示した様に支持部材121の位置がずれた場合、接触面123と溶接電極106の位置関係もずれていくことになる。更に溶接電極106が支持部材121上を移動して溶接固着する際の移動軌跡はロボット等にフレーム102の基本形状を記憶させて動作させる方法がとられているが、この場合でもフレーム102と基本形状との差により接触面123と溶接電極106の位置関係ずれが生じることになる。この様な方法で組み立てた場合、接触面123と溶接電極106のズレは最大で±2mm程度発生してしまう。しかし、現状では接触面123の幅が4mm以上確保されているために溶接電極106は接触面123から脱落することなく色選別マスク101とフレーム102を溶接固着することが可能となっている。」
c.「【0006】
【発明が解決しようとする課題】色選別マスク101はフレーム102の弾性力により所定の応力で展張保持されており色選別マスク101に架かる応力と張力は次式(1)の様な関係がある。
σ=T/S ・・・・・・・(1)
ここで、σは色選別マスク1に架かる応力、Tは色選別マスク101に架けられた張力、Sは色選別マスク101の断面積を示す。つまり、色選別マスク101に所定の応力を得る場合は色選別マスク101の断面積が小さくなれば、すなわち色選別マスク101が薄いほど張力も少なくてすむ。また、必要とされる張力が小さくなればフレーム102の弾性力も少なくてすむため、フレーム102に必要とされる剛性も低くなり軽量化が可能となり、低コスト化が実現できる。・・・
【0007】この場合、フレーム102に要求される剛性が低くなると、フレーム102の支持部材121の断面積が小さくなり、色選別マスク101との接触面123の長さは4mm以下となる。その為、前述した従来の溶接方法では、フレーム102の色選別マスク101との接触面123と溶接電極106の位置決めバラツキが大きい為、溶接電極106がフレーム102の支持部材121から脱落して溶接不良となる問題が発生する。この対策としてはフレーム寸法精度の向上、製造装置の高精度化が考えられるがこのような方法では部品コスト、製造コストが大幅に上昇してしまう問題が起こる。
【0008】本発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、カラー陰極線管用色選別電極構体の低コスト化のため色選別マスクの薄板化とフレームの軽量化により、フレームの色選別マスクとの接触面の幅が小さくなった場合でも、現状精度の部品、製造装置を用いて溶接電極がフレームから脱落することなく色選別マスクとフレームを良好に溶接固着することが可能となるカラー陰極線管用色選別電極構体、その組立方法及びその組立装置を提供することを目的とする。」
d.「【0015】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.以下、この発明の実施の形態1を図について説明する。図1は本発明の一実施の形態を示す例えば21インチディスプレイモニタに使用されるカラー陰極線管用色選別電極構体の概略図である。図2は図1中A-A’線における断面側面図である。ここでは、金属薄板からなる色選別マスク1は特願平6-260299号で記載したように、板厚は0.1mmより薄い、0.025mmのものを用いた。また、エッチングによって形成されたピッチ0.30mmの細条グリッド10を有する。フレーム2はそれぞれが引き抜き加工後に曲げ加工を施された支持部材21と弾性部材22とが溶接により組み立てられており、このとき支持部材21の色選別マスク1との接触面21の幅は3mm程度である。・・・また、11は色選別マスク1のフレーム2との接合部である。
【0016】前記の様な薄板の色選別マスク1と接触面23の幅の狭いフレーム2を接合する際、フレーム2に基本形状からのずれが生じても接触面23は色選別マスク1と平行に保たれ且つ色選別マスク1と接触面23は少なくとも外側エッジ部で接している。よって接触面23の外側エッジ部24で溶接固着すれば、色選別マスク1とフレーム2は常に接触状態が密着した良好な箇所で溶接固着されるため溶接強度に劣化がなく一様な溶接強度で固着されるようになる。よってこのように従来よりも薄い色選別マスクとそれに伴う低剛性かつ軽量化されたフレームに対して良好な溶接固着が可能となる。
【0017】次に、接触面23の外側エッジ部24での具体的な溶接方法について示す。図3は色選別マスク1と接触面23とを外側エッジ部で溶接する方法を説明する図である。色選別マスク1は支持部材21に押さえつけられる形で接触されている。従来のような板厚0.1mm程度の色選別マスク1では、支持部材21に色選別マスク1を押さえつけた際色選別マスク1自体の剛性により支持部材21と色選別マスク1間で隙間ができ密着性が悪くなる。しかし、板厚0.025mmの薄い色選別マスク1と支持部材21で色選別マスク1の接触面23幅が3mmのような場合には、色選別マスク1との密着性が良好である。色選別マスク1はフレーム2との接触面23の外側エッジ部24で溶接固着される。その際図のように、溶接電極6は色選別マスク面に垂直な方向から外側の面に垂直な方向から所定の角度で外側に傾けられてこの外側エッジ部を溶接することにより、もともと密着性良く接触された色選別マスク1と支持部材21とのエッジ部を確実に高品質で接合できる。また、溶接電極6を傾けることにより、溶接時に確実にエッジ部と電極との間で電圧が印加されることになる。
【0018】また、接合が完了すると、後工程で色選別マスク1の周辺部12は除去される。」
e.「【0025】実施の形態3.この発明の他の実施の形態を図について説明する。図6は図3と同様、図3は色選別マスク1と接触面23とを外側エッジ部で溶接する方法を説明する図で、溶接方向に対して直交する断面図である。図において、色選別マスク1は支持部材21に押さえつける形で接触されている。これまでのような板厚0.1mm程の色選別マスク1では支持部材21に押さえつけたとき色選別マスク1自体の剛性により支持部材21と色選別マスク1間で隙間ができるため密着性が悪いのに対して板厚0.025mmの薄い色選別マスク1では支持部材21との密着性が良好である。溶接電極6の先端部では溶接方向に直角な方向の断面が色選別マスク1を介してフレーム2と接触する部分61を含む接触部62で直線状となっている。又溶接電極6の接触面線の長さaは6mmで、フレーム2と色選別マスク1の接触面23の溶接方向に対して直角な断面長さbは3mmでa>bとしている。このように、溶接電極6の先端部が溶接方向に対して、直線形状であって、その長さが、フレームの接触面23の断面長さより十分大きいと、溶接電極6の軌道がずれても常に色選別マスク1と支持部材21とで一定の接触面積を保つことができ良好な溶接が可能となる。
【0026】上記、実施の形態では、溶接電極の断面形状が矩形であった例について示したが、溶接電極6の先端部が溶接方向に対して、直線形状であって、その長さが、フレームの接触面23の断面長さより十分大きいという条件を満たせば、他の矩形にこだわることはない。例えば、図7、図8のような凸型、台形型の形状でもよい。」

(3)対比・判断
上記引用刊行物に関しては、上記(2)a.乃至e.の記載から、以下の事項が読み取れる。
・従来のカラー陰極線管用色選別電極構体は、フラット状の色選別マスク101をターンバックルの架けられた、即ち、ターンバックル荷重が加えられたフレーム102に密着し、ローラー状の溶接電極106を転動させてフレーム102とマスク101を溶接固着し、溶接固着後はフレーム102のターンバックルが解放されフレーム102の弾性力でマスク102が展張保持されるようにして組み立てられること。また、フレーム102は一対の支持部材121と、該一対支持部材121相互を接続し弾性を有する一対の弾性部材122とから構成されており、フレーム102にはマスク101の張力確保のため弾性と剛性が要求され、例えば、高耐力の金属材が使用されること。((2)b.の記載参照)
・引用刊行物の発明は、カラー陰極線管用色選別電極構体、その組立方法及びその組立装置に関するものであり、カラー陰極線管用色選別電極構体の低コスト化のため色選別マスクの薄板化とフレームの軽量化により、フレームの色選別マスクとの接触面の幅が小さくなった場合でも、現状精度の部品、製造装置を用いて溶接電極が色選別マスクとフレームを良好に溶接固着することを可能にすることを目的としたものであること。即ち、引用刊行物の発明は、上記(2)b.の記載も参酌すれば、フレームへのターンバックル荷重の印加、マスクのフレームへの密着、ローラー状の溶接電極を転動させて行うフレームとマスクの溶接固着、溶接固着後のフレームのターンバックルの解放等の従来の組立工程を用いて、フレームの色選別マスクとの接触面の幅が小さくなった場合でも色選別マスクとフレームを良好に溶接固着することを可能にすることを目的としたものであること。((2)c.の記載参照))
・引用刊行物の色選別マスク1は、フレーム2の接触面23の外側エッジ部24でフレーム2と溶接固着されるが、その際、溶接電極6は色選別マスク面に垂直な方向から外側の面に垂直な方向から所定の角度で外側に傾けられてこの外側エッジ部を溶接することにより、色選別マスク1とフレーム2のエッジ部を確実に高品質で接合できること。また、溶接電極6の接触面線の長さは、接触面23の断面長さより大きくとっており、溶接電極6の先端部が溶接方向に対して、直線形状であって、その長さが、フレームの接触面23の断面長さより十分大きいと、溶接電極6の軌道がずれても常に色選別マスク1とフレーム2との間で一定の接触面積を保つことができ良好な溶接が可能となること。((2)a.、d.及びe.の記載参照))
したがって、上記引用刊行物には、以下の発明(以下、「引用刊行物記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「フレームにターンバックル荷重を加え、色選別マスクとフレームを溶接固着するカラー陰極線管用色選別電極構体の組立方法であって、マスクをフレームに密着させた状態で、電極の接触面線の長さがフレームの接触面の断面長さより十分大きなローラー状の溶接電極を転動させて、溶接電極とフレームの外側エッジ部の当接位置関係のずれを許容して色選別マスクをフレームの接触面の外側エッジ部に溶接するもの」
本願補正発明(前者)と上記引用刊行物記載の発明(後者)とを対比する。
・後者の「フレーム」は、引用刊行物の段落【0015】の「フレーム2はそれぞれが引き抜き加工後に曲げ加工を施された支持部材21と弾性部材22とが溶接により組み立てられており」との記載及び第1図からみて、枠状に形成されていることは明らかであるから、前者の「枠状に形成されたマスクフレーム」の相当し、後者の「色識別マスク」は、前者の「シャドウマスク」に相当する。
・後者の「ターンバックル荷重」とは、フレームの対向する支持部材を互いに引き寄せるようにフレームに加えられる外力であり、前者のマスクフレームに加えられる「少なくとも1対の対向する各辺間の間隔が縮む方向に加えられる圧縮力」に相当するものである。
・後者の「カラー陰極線管用色選別電極構体」は、カラー陰極線管を構成する部品であり、その組立は、カラー陰極線管の製造の一部をなすから、後者の「カラー陰極線管用色選別電極構体の組立方法」は、前者の「カラー陰極線管の製造方法」に相当する。
・後者の「ローラ状の溶接電極」は、後者も、抵抗溶接を行っていることは明らかであるから、前者の「ローラ式抵抗溶接機のローラ電極」に相当する。
・後者の「マスクをフレームに密着させた状態で、電極の接触面線の長さがフレームの接触面の断面長さより十分大きなローラー状の溶接電極を転動させて、溶接電極とフレームの外側エッジ部の当接位置関係のずれを許容して色選別マスクをフレームの接触面の外側エッジ部に溶接する」ことと、前者の「ローラ式抵抗溶接機のローラ電極の電極面と前記マスクフレームのたわみ曲線を形成した外側のエッジとが前記シャドウマスクを介して当接している状態で、前記たわみ曲線の全長にわたって前記電極面が接触し得る所定の幅を有する前記ローラ電極を水平移動させて転がしながら、前記外側のエッジのたわみ曲線に応じて前記電極面と前記外側のエッジとの当接位置関係がずれながら前記溶接を行う」ことは、前記相当関係も勘案すれば、ともに、「ローラ式抵抗溶接機のローラ電極の電極面とマスクフレームの外側のエッジとがシャドウマスクを介して当接している状態で、十分大きな接触幅を有する前記ローラ電極を水平移動させて転がしながら、前記電極面と前記外側のエッジとの当接位置関係のずれを許容して溶接を行う」ことである。
以上より、両者は、
「枠状に形成されたマスクフレームに、少なくとも1対の対向する各辺間の間隔が縮む方向に圧縮力を加え、シャドウマスクに引張力を加えた状態で、前記シャドウマスクと前記マスクフレームとを溶接するカラー陰極線管の製造方法であって、
ローラ式抵抗溶接機のローラ電極の電極面と前記マスクフレームの外側のエッジとが前記シャドウマスクを介して当接している状態で、十分大きな接触幅を有する前記ローラ電極を水平移動させて転がしながら、前記電極面と前記外側のエッジとの当接位置関係のずれを許容して溶接を行うことを特徴とするカラー陰極線管の製造方法。」
の点の構成で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
前者が、マスクフレームに圧縮力を加え、シャドウマスクに引張力を加えているのに対し、後者は、フレームにターンバックル荷重を加えてはいるものの、色選別マスクに引張力を加えることは明記されていない点。
[相違点2]
前者が、圧縮力の印加されたマスクフレームの各辺の外側のエッジがたわみ曲線を形成するようにし、ローラ電極の幅を前記たわみ曲線の全長にわたって前記電極面が接触し得る所定の幅としているのに対し、後者は、フレームにターンバックル荷重を加えてはいるものの、たわみ曲線に関する明示はなく、また、電極の接触面線の長さを十分大きくとって溶接電極とフレームの外側エッジ部の当接位置関係のずれを許容してはいるものの、電極の幅をたわみ曲線との関連で規定してはいない点。
上記各相違点について検討する。
[相違点1]について
マスクフレームに圧縮力を加え、シャドウマスクに引張力を加えた状態でマスクをフレームに溶接して固着することは、例えば、特開昭63-298936号公報、特開平8-55577号公報に示されるように従来周知であり、このような従来周知の事項を引用刊行物記載の発明に適用して本願補正発明のように構成する点に格別の困難性は認められない。

「相違点2」について
マスクフレームに圧縮力を加えた場合にフレームにたわみが生じることは明らかであり(例えば、本願明細書中で従来の技術として例示されている特開昭64-84540号公報にも、その1ページの[従来の技術]の欄に「このとき、フレーム(5)の支持部材(1),(2)を互いに引き寄せる方向に外力を与えて一定量たわませて置き」との記載がある。)、また、このようなマスクフレームに生じるたわみに起因して、マスクフレームの外側のエッジがたわみ曲線を形成することも明らかなこと(例えば、上記周知例の特開平8-55577号公報には、「【0009】【作用】請求項1に記載の発明においては、相対向する2辺の支持端部間に多数のアパーチャを配列してなる方形状のグリル板またはマスク板の両支持端部を、相反する2方向へ引っ張って板面に均一分布の引っ張り力を生じさせる一方、フレームの対向2辺を形成する1対の弾性支持片を、各辺方向における力の分布が前記引っ張り力の分布にほぼ釣り合うように内方へ押圧し、かつ、前記支持端部を前記弾性支持片に固着するので、前記押圧が前記弾性支持片の各中央部で極小値となる曲線分布でなされ、」、「【0025】図8の(a)に示すフレーム16は、幅360mmの対向2辺たる弾性支持片19、20を有し、これに対する強制変位量の分布は、両弾性支持片19、20の各中間で極小値を示す曲線aとなっている。」等記載されており、曲線の形成について示唆されている。)であるから、「圧縮力の印加されたマスクフレームの各辺の外側のエッジがたわみ曲線を形成するようにした」点は、自明な事項を明示したものにすぎない。
また、ローラ電極の幅を前記たわみ曲線の全長にわたって前記電極面が接触し得る所定の幅とする点も、これによって、外側のエッジのたわみ曲線に応じて前記電極面と前記外側のエッジとの当接位置関係がずれながら前記溶接を行うことを可能にするものであるが、後者に「電極の接触面線の長さを十分大きくとって溶接電極とフレームの外側エッジ部の当接位置関係のずれを許容する」点が示されており、このような公知の技術事項を勘案すれば、フレームのたわみによって生じる電極面とフレームの外側のエッジとの当接位置関係のずれを補償するために、本願補正発明のようにローラ電極の幅を前記たわみ曲線の全長にわたって前記電極面が接触し得る所定の幅とすることは、当業者が格別の推考力を要することなくなし得る程度のことと認められる。

そして、本願補正発明による効果も、上記引用刊行物の記載及び周知事項から当業者が予測しうる範囲のものにすぎない。
したがって、本願補正発明は、引用刊行物に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条第4項の規定に違反するものであり、特許法159条第1項において読み替えて準用する同法53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成14年11月15日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至8に係る発明は、平成14年7月22日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載された事項によって特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項1】 枠状に形成されたマスクフレームに、少なくとも1対の対向する各辺間の間隔が縮む方向に圧縮力を加え、シャドウマスクに引張力を加えた状態で、前記シャドウマスクと前記マスクフレームとを溶接するカラー陰極線管の製造方法であって、
前記圧縮力の印加は、前記圧縮力の印加された前記各辺の外側のエッジがたわみ曲線を形成するようにし、
ローラ式抵抗溶接機のローラ電極の電極面と前記マスクフレームの前記たわみ曲線を形成した外側のエッジとが前記シャドウマスクを介して当接している状態で、前記ローラ電極を水平移動させて転がしながら、前記外側のエッジのたわみ曲線に応じて前記電極面と前記外側のエッジとの当接位置関係がずれながら前記溶接を行うことを特徴とするカラー陰極線管の製造方法。」

4.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりのものである。

5.対比・判断
請求項1記載の発明の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)」に記載したとおり引用刊行物記載の発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明も、同様の理由により、引用刊行物記載の発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、請求項1に係る発明は、引用刊行物記載の発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-14 
結審通知日 2005-06-16 
審決日 2005-07-05 
出願番号 特願平10-240149
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
P 1 8・ 575- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 向後 晋一  
特許庁審判長 上田 忠
特許庁審判官 山川 雅也
杉野 裕幸
発明の名称 カラー陰極線管の製造方法  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

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