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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02B
管理番号 1122310
審判番号 不服2002-14602  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-08-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-08-01 
確定日 2005-08-25 
事件の表示 平成7年特許願第17328号「単相三線式分電盤」拒絶査定不服審判事件〔平成8年8月20日出願公開、特開平8-214419号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
1.特許出願:平成7年2月3日
2.拒絶理由の通知:平成13年8月1日(発送:平成13年8月7日)
3.意見書、手続補正書の提出:平成13年10月9日
4.拒絶理由の通知:平成14年1月11日(発送:平成14年1月22日)
5.意見書、手続補正書の提出:平成14年3月25日
6.拒絶査定:平成14年6月27日(発送:平成14年7月2日)
7.審判請求書、手続補正書(明細書)の提出:平成14年8月1日

第2 平成14年8月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成14年8月1日付けの手続補正を却下する。
【理由】
1.補正の内容
(1)特許請求の範囲に係る補正の内容
特許請求の範囲を次のように補正する。
「【請求項1】 器台と、この器台に配設されて単相三線式電源に電気的に接続された互いに平行な3本の主幹バーと、これらの3本の主幹バーのうち2本の主幹バーに接続される一対の分岐バーと、この一対の分岐バーに接続される分岐ブレーカとを備え、前記一対の分岐バーのうちの少なくとも一方の分岐バーを、他方の分岐バーを接続した主幹バー以外の2本の主幹バーのいずれかに選択的に1本の取着螺子により電気的に接続する単相三線式分電盤において、
前記一方の分岐バーは、前記分岐ブレーカに接続される分岐接続部と、前記2本の主幹バー間を移動可能に前記分岐接続部に配設されて前記取着螺子により前記主幹バーのいずれかに固定される可動部とを有し、
かつ、前記主幹バーおよび前記分岐接続部間に絶縁間隔を設け、前記主幹バーおよび前記分岐接続部間を前記可動部を介して前記取着螺子により連結するものであり、
前記可動部は、前記取着螺子を通す孔を有して前記取着螺子を締付けた状態で前記主幹バーおよび分岐接続部間に圧接して挟持されるとともに、前記主幹バーおよび前記分岐接続部間で回動自在に前記器台または前記分岐接続部に軸支されることを特徴とする単相三線式分電盤。
・・・・・
【請求項4】 器台と、この器台に配設されて単相三線式電源に電気的に接続された互いに平行な3本の主幹バーと、これらの3本の主幹バーのうち2本の主幹バーに接続される一対の分岐バーと、この一対の分岐バーに接続される分岐ブレーカとを備え、前記一対の分岐バーのうちの少なくとも一方の分岐バーを、他方の分岐バーを接続した主幹バー以外の2本の主幹バーのいずれかに選択的に取着螺子により電気的に接続する単相三線式分電盤において、
前記一方の分岐バーを選択的に接続する2本の前記主幹バーは、中性バーから延設された舌片と電圧バーから延設された接続片とを有し、 前記一方の分岐バーは、前記分岐ブレーカに接続される分岐接続部と、前記舌片および接続片間を移動可能に前記分岐接続部に配設されて前記取着螺子により前記舌片および接続片のいずれかに固定される可動部とを有し、
かつ、前記舌片および接続片と前記分岐接続部との間に絶縁間隔を設け、前記舌片または接続片と前記分岐接続部との間を前記可動部を介して前記取着螺子により連結するものであり、
前記可動部は、前記取着螺子を通す孔を有して前記舌片または接続片と前記分岐接続部との間に挟持され、前記舌片及び接続片の前記可動部との接続箇所に、前記取着螺子が進入可能な切欠を形成し、前記分岐接続部に前記舌片および接続片間で前記取着螺子がスライド可能な長孔を形成するとともに、前記可動部の孔および長孔を貫通した前記取着螺子の先端にナット部材を螺合したことを特徴とする単相三線式分電盤。
(【請求項2】、【請求項3】、【請求項5】〜【請求項7】については、記載を省略する。)」
と補正する。
なお、下線は補正箇所を明確にするため、当審で付加したものである。

(2)発明の詳細な説明に係る補正の内容
特許請求の範囲の補正に整合させて、明細書段落【0009】、【0012】、【0013】、【0033】及び【0045】を本件補正書のとおりに補正する(記載省略)。

2.補正の目的の適否について
本件補正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法[第1条の規定]による改正前の特許法(以下、「平成6年改正前の特許法」という。)第17条の2第1項第5号に規定された、特許法第121条第1項の審判(拒絶査定に対する審判)を請求する場合において、その審判の請求から30日以内になされたものであり、その目的の適否について検討する。
拒絶査定時の明細書(以下、「原明細書」という。)の請求項1(以下、「補正前請求項1」という。)と本件補正により補正された請求項1(以下、「補正後請求項1」という。)とを比較すると、補正後請求項1においては、補正前請求項1における「取着螺子」について「1本の」という限定が付加されるとともに、補正前請求項1における「可動部」が「主幹バー」及び「分岐接続部」間で回動自在に軸支される態様として、「前記取着螺子を締付けた状態で前記主幹バーおよび分岐接続部間に圧接して挟持される」点が、さらに付加されている。
また、原明細書の請求項4(以下、「補正前請求項4」という。)と本件補正により補正された請求項4(以下、「補正後請求項4」という。)とを比較すると、補正後請求項4においては、補正前請求項4における「他方の分岐バーを接続した主幹バー以外の主幹バー以外の2本の主幹バー」の「一方の分岐バー」との連結構造について、「前記一方の分岐バーを選択的に接続する2本の前記主幹バーが、中性バーから延設された舌片と電圧バーから延設された接続片」を有する点等がさらに付加されている。
これらの補正は、新規事項を追加するものではなく、かつ産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である発明の構成に欠くことができない事項の範囲内において、さらに限定を付加するものであるから、平成6年改正前の特許法第17条の2第3項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後請求項1及び補正後請求項4に記載された発明(以下、それぞれ「本願補正発明1」及び「本願補正発明4」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうか(すなわち、平成6年改正前の特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に適合するものであるのかどうか)について、次に検討する。

3.本願補正発明1及び本願補正発明4の独立特許要件について
(1)本願補正発明1及び本願補正発明4
本願補正発明1及び本願補正発明4は、それぞれ、上記した補正後請求項1及び補正後請求項4に記載されたとおりのものと認める。

(2)引用文献
(2-1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された実願平3-82504号(実開平5-25907号)のCD-ROM(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(a)「【0008】
【実施例】
本考案に係る単相3線式分電盤の充電部電圧変換構造の構成を、実施例により以下説明する。
図1は単相3線式分電盤の充電部電圧変換構造の要部斜視図で、同図において、1は分岐ブレーカ、2はX相母線バー、3はY相母線バー、4は中性相母線バーとしてのN相母線バーである。
分岐ブレーカ1には、X相母線バー2のX相分岐バー2aが接続し、又、螺孔5aを有する接続端子5が接続している。
Y相母線バー3には、欠切部3aが削成され、又、N相母線バー4には、欠切部4aが削成されている。
6は接続バーで、立板6aの両端を互いに反対方向へ直角に折り曲げて上板6b及び下板6cを形成し、その上板6b及び下板6cには夫々螺孔6d,6eが設けられている。そして、その螺孔6d,6eに夫々螺合する第2止めネジ7と第1止めネジ8とが備えられている。
【0009】
上記の如き構成の充電部において、分岐ブレーカ1を電圧100Vの結線にするには、図2示のように、接続端子5に接続バー6の下板6cを重ね、第1止めネジ8を下板6cの螺孔6eから螺入して接続端子5の螺孔5aに螺着し、接続端子5に接続バー6を接続する。次に、接続バー6の螺孔6dに第2止めネジ7を少し浅めに螺着し、第2止めネジ7の首下部7aをN相母線バー4の欠切部4aに嵌入し、第2止めネジ7を締め付けると、接続バー6がN相母線バー4に接続して電圧100Vの結線となる。
【0010】
この接続バー6に螺着した第1止めネジ8と第2止めネジ7とを緩め、第1止めネジ8を回転の軸として、第2止めネジ7を螺着した接続バー6の上板6a側を上記と90度反対方向へ回転させて、図3示のように、第2止めネジ7の首下部7aをY相母線バー3の欠切部3aに嵌入し、第2止めネジ7を締め付けると、接続バー6がY相母線バー3に接続して、この分岐ブレーカ1は電圧200Vの結線となる。
この動作を逆に行なうと、分岐ブレーカ1は、図2示の如き元の電圧100Vの結線となる。
【0011】
このように、第1止めネジ8や第2止めネジ7や接続バー6を取り外すことなく、単に第2止めネジ7を緩めて接続バー6を回動させ、第2止めネジ7を締め直すだけで良いので、軽易に分岐ブレーカ1の電圧を100Vから200Vへ、又、逆に200Vから100Vへ変換することが出来る。」(明細書第5頁下から2行〜第7頁6行)

分電盤に係る通常の技術常識に照らして、単相3線式分電盤が器台を有し、上記の「X相母線バー2、Y相母線バー3及びN相母線バー4からなる3本の母線バー」が該器台に配設されていることは明らかであり、また、「接続バー6」は「第1止めネジ8」を介して「接続端子5」に螺着され、「接続端子5」と「Y相母線バー3」又は「N相母線バー4」のいずれか一方とを電気的に連結するものであるから、「Y相母線バー3」及び「N相母線バー4」と「接続端子5」との間に絶縁間隔が設けられていることは明白である。

したがって、上記記載事項及び図面の記載を総合すると、引用文献1には、次のような発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「器台と、この器台に配設されて電源接続された互いに平行なX相母線バー(2)、Y相母線バー(3)及びN相母線バー(4)からなる3本の母線バーと、これら3本の母線バーのうち2本の母線バーに接続されるX相分岐バー(2a)及び接続バー(6)と、このX相分岐バー(2a)及び接続バー(6)に接続される分岐ブレーカ(1)とを備え、前記接続バー(6)を、X相分岐バー(2a)を接続したX相母線バー(2)以外の2本の母線バーのいずれかに選択的に第2止めネジ(7)により電気的に接続する単相三線式分電盤において、
前記接続バー(6)は、前記分岐ブレーカ(1)に接続される接続端子(5)に第1止めネジ(8)により連結され、前記2本の母線バー間を移動可能に前記第2止めネジ(7)により前記母線バーの切欠部(3a、4a)のいずれかに固定され、
かつ、前記母線バー及び前記接続端子(5)間に絶縁間隔を設け、前記母線バー及び前記接続端子(5)間を接続バー(6)を介して前記第1止めネジ(8)及び第2止めネジ(7)により連結するものであり、
前記接続バー(6)は、前記第2止めネジ(7)を通す螺孔(6d)を有して前記第2止めネジ(7)を締め付けた状態で前記母線バーに圧接して固定されるとともに、前記母線バー及び前記接続端子(5)間で回動自在に前記接続端子(5)に軸支される単相三線式分電盤。」

(2-2)引用文献2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭54-179679号(実開昭56-96813号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(a)「固定ネジ(8)が挿入できる間隔の溝(61)を有する長円形の切替板(62)と開閉器に差し込む差込片(63)とを腕板(64)を介して一体的に形成し、前記切替板(62)は平行する三本のブスバーの中立線(1)及び他の一本のブスバー(2)若しくは(3)のいずれとも接続できるようにしてなる単相三線配線に於ける電圧切替分岐導体。」(明細書第1頁5〜11行)
(b)「以下本考案の実施例を図面を参照して説明する。(1)(2)(3)は並列された100V用開閉器(4)・・・(4)及び200V用開閉器(41)の端面にこれと平行するように配設したブスバーであり、中立線となる中央のブスバー(1)には両端に差込片(51)(51)を有するU(当審注;文書編集上、表記できない記号であるため「U」で代用する。)状の端子板(5)を取りつけるための螺孔(11)・・・(11)を穿設している。又他方のブスバー(2)(3)には外方に向かって差込片(21)・・・(21)及び(31)・・・(31)を突設した端子導体(22)・・・(22)及び(32)・・・(32)が所定間隔をおいて形成されている。・・・(略)・・・(6)は分岐導板であり一端には長円状の溝(61)を穿設した切替板(62)を形成し、他端には開閉器(4)(41)に挿入する差込片(63)を形成するとともにこの切替板(62)と差込片(63)とは腕板(64)で一体的に接続されている。・・・(略)・・・(7)は、切替板(62)と端子板(5)若しくは端子導体(22)(32)とを接続するジョイントスペーサーであり円筒状をしており中央の透孔(71)には固定ネジ(8)が挿通できるようにしている。・・・(略)・・・
本考案は叙上のように分岐導板(6)の構成を切替板(62)、差込片(63)及び腕板(64)の組合せとして構成したのでこれを100V用の開閉器(4)と接続する場合には第1図に例示するように切替板(62)の先端部分をブスバー(1)に固定した端子板(5)と接続し反対側の差込板(63)を開閉器(4)の一極と固定し、又他方の一極にはブスバー(2)に形成した端子導体(22)の差込片(21)を差し込んで固定すればブスバー(1)及び(2)による100Vの電圧回路を構成することができる。またこれを200V用の開閉器(41)に接続したいときには長円状をした切替板(62)の基端部分を利用してこれをブスバー(2)の端子導体(22)に接続固定し、他方の差込片(63)は前記と同じく開閉器(41)の一極に固定する。次いで開閉器(41)の他方の電極にはブスバー(3)の端子導体(32)から引き出した差込片(31)を差し込み固定すれば開閉器(41)はブスバー(2)及び(3)により200Vの電圧回路を構成することができるものであり、分岐導板(6)の先端に形成した長円状の溝(61)を有する切替板(62)の前後いずれかを接続個所として選定するだけで100V電圧及び200V電圧のいずれにも利用することができ従来の分岐導板のように電圧回路を変更する際に逐一分岐導板を反転せしめたり、別構造のものと交換する等の手間を完全になくすことができる特徴を有する。」(明細書第3頁7行〜第7頁2行)

分電盤に係る通常の技術常識に照らして、単相三線式分電盤が器台を有し、上記の「3本のブスバー(1,2,3)」が該器台に配設されていることは明らかであり、また、「分岐導板(6)」は「ジョイントスペーサー(7)」を介して「端子板(5)」又は「端子導体(22、32)」に螺着され、「分岐導板(6)の差込片(63)」と「ブスバー(1)」又は「ブスバー(3)」のいずれか一方とを電気的に連結するものであるから、「端子板(5)」及び「端子導体(22,32)」と「分岐導板(6)の差込片(63)」との間に絶縁間隔が設けられていることは明白である。
したがって上記記載事項(a)、(b)及び図面の記載を総合すると、引用文献2には、次のような発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「器台と、この器台に配設されて単相三線式電源に電気的に接続された互いに平行な3本のブスバー(1,2,3)と、これらの3本のブスバーのうち2本のブスバーに接続される差込片(21,31)及び分岐導板(6)と、この差込片(21,31)及び分岐導板(6)に接続される開閉器とを備え、前記分岐導板(6)を、差込片(21,31)を接続したブスバー以外の2本のブスバーのいずれかに選択的に固定ネジ(8)により電気的に接続する単相三線式分電盤において、
前記分岐導板(6)を選択的に接続する2本のブスバーは、中立線となるブスバー(1)に取り付けられた端子板(5)と他のブスバーに設けられた端子導体(22,32)とを有し、
前記分岐導板(6)は、前記開閉器に接続される差込片(63)、腕板(64)及び切替板(62)と、前記端子板(5)及び端子導体(22,32)間を移動可能に前記切替板(62)に配設されて前記固定ネジ(8)により前記端子板(5)及び端子導体(22,32)のいずれかに固定されるジョイントスペーサー(7)とを有し、
かつ、前記端子板(5)及び端子導体(22,32)と前記差込片(63)との間に絶縁間隔を設け、前記端子板(5)又は端子導体(22,32)と前記差込片(63)との間を前記腕板(64)、切替板(62)及びジョイントスペーサー(7)を介して前記固定ネジ(8)により連結するものであり、
前記ジョイントスペーサー(7)は、前記固定ネジ(8)を通す孔(71)を有して前記端子板(5)又は端子導体(22,32)と前記切替板(62)との間に挟持され、前記端子板(5)及び端子導体(22,32)の前記ジョイントスペーサー(7)との接続箇所に前記固定ネジ(8)が進入可能な孔を形成し、前記切替板(62)に前記端子板(5)及び端子導体(22,32)間で前記固定ネジ(8)の接続箇所を選定し得る長円状の溝(61)を形成するとともに、前記長円状の溝(61)及びジョイントスペーサー(7)の孔(71)を貫通した前記固定ネジ(8)の先端を前記端子板(5)の孔又は端子導体(22,32)の孔に螺合した単相三線式分電盤。」

(3)本願補正発明1の独立特許要件について
(3-1)対比
本願補正発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「X相母線バー(2)、Y相母線バー(3)及びN相母線バー(4)からなる3本の母線バー」は、その技術的意義や機能に照らして、本願補正発明1の「3本の主幹バー」に相当し、同様に「第2止めねじ(7)」は「取付螺子」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1における「X相分岐バー(2a)」及び「接続バー(6)及び接続端子(5)」は、本願補正発明1の「一対の分岐バー」に相当し、「接続端子(5)」は「分岐ブレーカに接続される分岐接続部」に、そして、「第1止めネジ(8)」を回転の軸として回転し得る「接続バー(6)」は「可動部」に、それぞれ相当するということができる。
さらに、引用発明1における「前記第2止めねじ(7)を締め付けた状態で前記母線バーに圧接して固定」されることと、本願補正発明1における「前記取着螺子を締付けた状態で前記主幹バーおよび分岐接続部間に圧接して挟持」されることとは、「前記取着螺子を締付けた状態で前記主幹バーに圧接して固定」される限りで一致する。
してみると、本願補正発明1と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
「器台と、この器台に配設されて単相三線式電源に電気的に接続された互いに平行な3本の主幹バーと、これらの3本の主幹バーのうち2本の主幹バーに接続される一対の分岐バーと、この一対の分岐バーに接続される分岐ブレーカとを備え、前記一対の分岐バーのうちの少なくとも一方の分岐バーを、他方の分岐バーを接続した主幹バー以外の2本の主幹バーのいずれかに選択的に取着螺子により電気的に接続する単相三線式分電盤において、
前記一方の分岐バーは、前記分岐ブレーカに接続される分岐接続部と、前記2本の主幹バー間を移動可能に前記分岐接続部に配設されて前記取着螺子により前記主幹バーのいずれかに固定される可動部とを有し、
かつ、前記主幹バー及び前記分岐接続部間に絶縁間隔を設け、前記主幹バー及び前記分岐接続部間を前記可動部を介して前記取着螺子により連結するものであり、
前記可動部は、前記取着螺子を締付けた状態で前記主幹バーに圧接して固定されるとともに、前記主幹バーおよび前記分岐接続部間で回動自在に前記分岐接続部に軸支される単相三線式分電盤。」

〈相違点1〉
本願補正発明1においては、「一方の分岐バーを、他方の分岐バーを接続した主幹バー以外の2本の主幹バーのいずれかに選択的に1本の取着螺子により電気的に接続」し、かつ、「前記主幹バーおよび前記分岐接続部間を前記可動部を介して前記取着螺子により連結する」のに対して、引用発明1においては、「前記接続バー(6)を、X相分岐バー(2a)を接続したX相母線バー(2)以外の2本の母線バーのいずれかに選択的に第2止めねじ(7)により電気的に接続」し、かつ、「前記母線バー及び前記接続端子(5)間を接続バー(6)を介して前記第1止めネジ(8)及び第2止めネジ(7)により連結する」点。
〈相違点2〉
本願補正発明1においては、「前記可動部は、前記取着螺子を通す孔を有して前記取着螺子を締付けた状態で前記主幹バーおよび分岐接続部間に圧接して挟持」されるのに対して、引用発明1においては、「前記接続バー(6)は、前記第2止めねじ(7)を通す螺孔(6d)を有して前記第2止めねじ(7)を締め付けた状態で前記母線バーに圧接して固定」される点。

(3-2)相違点についての検討及び判断
(3-2-1)相違点1について
引用文献1には、「【0010】この接続バー6に螺着した第1止めネジ8と第2止めネジ7とを緩め、第1止めネジ8を回転の軸として、第2止めネジ7を螺着した接続バー6の上板6a側を上記と90度反対方向へ回転させて、図3示のように、第2止めネジ7の首下部7aをY相母線バー3の欠切部3aに嵌入し、第2止めネジ7を締め付けると、接続バー6がY相母線バー3に接続して、この分岐ブレーカ1は電圧200Vの結線となる。・・・・・」と記載されていることから、引用発明1の「第1止めネジ(8)」は、「接続バー(6)」を「接続端子(5)」に回動可能に連結すれば足りるものと解される。
そして、特定の部材を回動可能に連結するにあたり、その回動軸をネジとするか、ネジ以外の回転軸とするかは、当業者が設計上適宜選択し得る程度の事項であるから、「第1止めネジ(8)」をネジ以外の回動軸として、この回転軸に「接続バー(6)」を回動自在に接続し、本願補正発明1の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(3-2-2)相違点2について
引用発明1の「接続バー(6)」については、「第1の止めネジ(8)」により「接続端子(5)」に連結され、「第2の止めネジ(7)」により母線バーに連結されているが、例えば、「接続端子(5)」を「Y相母線バー(3)」及び「N相母線バー(4)」のいずれにも対向するような形状とし、「接続バー(6)」を「Y相母線バー(3)」又は「N相母線バー(4)」と「接続端子(5)」間で挟持するなど、「接続バー(6)」、「Y相母線バー(3)」、「N相母線バー(4)」及び「接続端子(5)」の配置を含め、これらの連結構造を適宜変更することは、当業者が適宜選択し得る程度の事項と解される。
そして、引用発明2においては、「ジョイントスペーサー(7)」(可動部に相当)により「ブスバー(2、3)」(主幹バーに相当)と「切換板(62)」(分岐接続部に相当)とを連結するにあたり、「ジョイントスペーサー(7)」が「固定ネジ(8)を通す孔(71)」を有して、「固定ネジ(8)」を締め付けた状態で、「端子板(5)」又は「端子導体(22、32)」と「切換板(62)」(分岐接続部に相当)との間に圧接して挟持されることが記載されている。
引用発明1及び引用発明2は、ともに単相三線式分電盤という共通する技術分野に属し、共通の技術的課題を有するものであるから、引用発明1の「接続バー(6)」の母線バーとの「第2の止めネジ(7)」による連結構造として、引用発明2の上記連結構造を採用し、本願補正発明1の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3-2-3)相違点についての検討及び判断のむすび
本願補正発明1は、全体構成でみても、引用発明1及び引用発明2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。
したがって、本願補正発明1は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-3)本願補正発明1の独立特許要件についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明1は、特許出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)本願補正発明4の独立特許要件について
(4-1)対比
本願補正発明4と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「3本のブスバー(1,2,3)」は、その技術的意義や機能に照らして、本願補正発明4の「3本の主幹バー」に相当し、以下同様に「差込片(21、31)及び分岐導板(6)」は「一対の分岐バー」に、「開閉器」は「分岐ブレーカ」に、「固定ネジ(8)」は「取付螺子」に、「端子板(5)」は「舌辺」に、「端子導体(22、32)」は「接続片」に、「差込片(63)、腕板(63)、切替板(62)」は「分岐接続部」に、そして、「ジョイントスペーサー(7)」は「可動部」に、それぞれ相当する。
さらに、引用発明2における「他のブスバーに設けた端子導体(22,32)」は、「電圧バーから延設された接続片」といい得るものであり、引用発明2の「固定ネジ(8)が進入可能な孔」と本願補正発明4の「取付螺子が進入可能な切欠」とは、「取付螺子が進入可能な部分」の限りで一致し、同様に「前記固定ネジ(8)の先端を前記孔に螺合した」と「前記取着螺子の先端にナット部材を螺合した」とは、「前記固定ネジ(8)の先端を螺合した」の限りで一致する。
してみると、本願補正発明4と引用発明2との一致点、相違点は次のとおりである。

〈一致点〉
「器台と、この器台に配設されて単相三線式電源に電気的に接続された互いに平行な3本の主幹バーと、これらの3本の主幹バーのうち2本の主幹バーに接続される一対の分岐バーと、この一対の分岐バーに接続される分岐ブレーカとを備え、前記一対の分岐バーのうちの少なくとも一方の分岐バーを、他方の分岐バーを接続した主幹バー以外の2本の主幹バーのいずれかに選択的に取着螺子により電気的に接続する単相三線式分電盤において、
前記一方の分岐バーを選択的に接続する2本の前記主幹バーは、中性バーに設られた舌片と電圧バーから延設された接続片とを有し、
前記一方の分岐バーは、前記分岐ブレーカに接続される分岐接続部と、前記舌片および接続片間を移動可能に前記分岐接続部に配設されて前記取着螺子により前記舌片および接続片のいずれかに固定される可動部とを有し、
かつ、前記舌片および接続片と前記分岐接続部との間に絶縁間隔を設け、前記舌片または接続片と前記分岐接続部との間を前記可動部を介して前記取着螺子により連結するものであり、
前記可動部は、前記取着螺子を通す孔を有して前記舌片または接続片と前記分岐接続部との間に挟持され、前記舌片及び接続片の前記可動部との接続箇所に、前記取着螺子が進入可能な部分を形成し、前記分岐接続部に長孔を形成するとともに、前記可動部の孔及び長孔を貫通した前記取着螺子の先端を螺合した単相三線式分電盤。」

〈相違点1〉
本願補正発明4においては、 「舌片」が「中性バーから延設」されているのに対して、引用発明2においては、「端子板(5)」が「中立線となるブスバー(1)」に取り付けられている点。
〈相違点2〉
本願補正発明4においては、「前記舌片及び接続片の前記可動部との接続箇所に、前記取着螺子が進入可能な切欠を形成し、前記分岐接続部に前記舌片および接続片間で前記取着螺子がスライド可能な長孔を形成するとともに、前記可動部の孔および長孔を貫通した前記取着螺子の先端にナット部材を螺合した」のに対して、引用発明2においては、「前記端子板(5)及び端子導体(22,32)の前記ジョイントスペーサー(7)との接続箇所に前記固定ネジ(8)が進入可能な孔を形成し、前記切替板(62)に前記端子板(5)及び端子導体(22,32)間で前記固定ネジ(8)の接続箇所を選定し得る長円状の溝(61)を形成するとともに、前記長円状の溝(61)及びジョイントスペーサー(7)の孔(71)を貫通した固定ネジ(8)の先端を前記端子板(5)の孔又は端子導体(22,32)の孔に螺合した」点。

(4-2)相違点についての検討及び判断
(4-2-1)相違点1について
連結される二部品を設計するにあたり、一部品を他部品から延設するか、ボルト等により取付けるかは、当業者が設計にあたり適宜選択し得る程度の事項であり、現に引用文献2には、第3図等を参酌すれば、端子導体(22,32)や差込片(21,31)をブスバー(2、3)から延設することが記載されているということができる。
したがって、本願補正発明4の相違点1に係る構成は、当業者が容易になし得ることである。

(4-2-2)相違点2について
上記した引用文献2の記載事項(a)によれば、引用発明2における切替板(62)に形成された長円状の溝(61)は、固定ネジ(8)が挿入できる間隔を有するものであり、また図面をも総合すると、固定ネジ(8)を溝(61)内にスライドさせ得るものと解され、その際、「ジョイントスペーサー(7)」(可動部に相当)等が落下しないようにすることは、当業者がごく自然に想起し得る程度の技術的課題と解されるところ、前述のように、引用文献1には、「母線バー」(主幹バーに相当)の「接続バー(6)」(可動部に相当)との接続箇所に、「第2止めネジ(7)」(取着螺子に相当)が進入可能な切欠を形成することが記載されており、しかも、「・・・【0011】このように、第1止めネジ8や第2止めネジ7や接続バー6を取り外すことなく、単に第2止めネジ7を緩めて接続バー6を回動させ、第2止めネジ7を締め直すだけで良いので、軽易に分岐ブレーカ1の電圧を100Vから200Vへ、又、逆に200Vから100Vへ変換することが出来る。・・・」と記載されている。
また、特定の二部品を固定するにあたり、上記した引用文献1の記載にみられるように、一の部品に形成された切欠に、予め他の部品に浅く螺合したネジを進入させ、このネジを締め付けるか、あるいはネジを上記他の部品に形成した孔に通し、ナット部材を螺合させ、一の部品に形成された切欠に、このネジを進入させ、ネジを締め付けるかは、当業者が設計上適宜選択し得る程度の事項にすぎないものである。
そうすると、引用発明2において、「固定ネジ(8)」と「ジョイントスペーサー(7)」を移動させ、この「固定ネジ(8)」を「端子板(5)の孔」又は「端子導体(22、32)の孔」に螺合させるにあたり、止めネジを取り外すことなく、選択した切欠に進入させ締め直すという引用文献1に記載された技術的事項を適用し、「端子板(5)」及び「端子導体(22、32)」に切欠を形成し、かつ止めネジを螺合させるものとして周知のナット部材を採用して、本願補正発明4の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(4-2-3)相違点についての検討及び判断のむすび
本願補正発明4は、全体構成でみても、引用発明2及び上記した引用文献1に記載された技術的事項から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。
したがって、本願補正発明4は、引用発明2及び上記した引用文献1に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4-3)本願補正発明4の独立特許要件についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明4は、特許出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)独立特許要件についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明1及び本願補正発明4は、特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
よって、本件補正は、平成6年改正前の特許法第17条の2第4項において読み替えて準用する同法第126条第3項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明を拒絶する理由
1.本願発明
平成14年8月1日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明4」という。)は、平成14年3月25日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び4に記載されたとおりのものと認める。

2.拒絶査定の理由の概要
拒絶査定の理由は、上記「第1 手続の経緯」、4.の拒絶理由通知書及び同6.の拒絶査定書の記載からみて、概略、次のようなものである。
「この出願の請求項1、4に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物である実願平3-82504号(実開平5-25907号)のCD-ROM(上記引用文献1。)、実願平4-29911号(実開平5-84108号)のCD-ROM、実願昭54-179679号(実開昭56-96813号)のマイクロフィルム(上記引用文献2)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

3.引用文献
引用文献1及び引用文献2の記載事項は、前記第2の【理由】3.(2)に記載したとおりである。

4.対比・判断
上記「第2 平成14年8月1日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2.補正の目的の適否」によれば、本願発明1は、本願補正発明1の構成から、「前記取着螺子を締付けた状態で前記主幹バーおよび分岐接続部間に圧接して挟持される」点が削除され、また、本願発明4は、本願補正発明4の構成から、「前記一方の分岐バーを選択的に接続する2本の前記主幹バーが、中性バーから延設された舌片と電圧バーから延設された接続片」を有する点等が削除されたものに相当する。
そうすると、本願発明1,本願発明4の構成をすべて含み、さらに構成を付加したものに相当する本願補正発明1,本願補正発明4が、上記第2の「3.独立特許要件について」に示したとおり、引用発明1,引用発明2及び前述した引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1,本願発明4も同様の理由により、引用発明1,引用発明2及び前述した引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明1及び本願発明4は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-23 
結審通知日 2005-06-28 
審決日 2005-07-14 
出願番号 特願平7-17328
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02B)
P 1 8・ 575- Z (H02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 忠博  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 内藤 真徳
平上 悦司
発明の名称 単相三線式分電盤  
代理人 宮井 暎夫  

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