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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1122456
審判番号 不服2003-14682  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-07-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-30 
確定日 2005-09-15 
事件の表示 平成9年特許願第288535号「耐火構造体及び耐火壁の施工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年7月14日出願公開、特開平10-183816〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 一、手続の経緯
本願は、平成8年10月31日に出願された特願平8-290259号の特許出願を基礎として、平成9年10月21日に国内優先権主張された特願平9-288535号の特許出願であって、審査請求に伴い平成14年6月28日に手続補正がなされたのちに、原審がした平成14年10月1日付けの拒絶理由の通知に対する平成14年12月2日付けの意見書の提出とともに同日付けの手続補正がなされ、これに対し、平成15年6月26日付けで拒絶査定がなされ、前記拒絶査定を不服として、平成15年7月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成15年8月29日に手続補正がなされたものである。

二、平成15年8月29日の手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成15年8月29日の手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の
「【請求項1】 厚み5〜100mmの不燃材料からなるボード(a)の少なくとも片面に、厚み0.5〜40mmの耐火膨張シート(b)を設けてなる耐火構造体であって、当該耐火構造体をJIS A 1304に準拠して、炉内温度を1時間で925℃まで昇温した後に、前記耐火膨張シート(b)の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=2.5〜15の範囲内となることを特徴とする耐火構造体。
【請求項2】 前記耐火膨張シート(b)が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛及び無機充填剤からなることを特徴とする請求項1記載の耐火構造体。
【請求項3】 前記リン化合物及び中和処理された熱膨張性黒鉛の配合量は前記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部に対して合計量で20〜200重量部、前記無機充填剤の配合量は前記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部に対して50〜500重量部であり、
前記中和処理された熱膨張性黒鉛と前記リン化合物との重量比〔(中和処理された熱膨張性黒鉛)/(リン化合物)〕が0.01〜9の範囲内であり、かつ、前記無機充填剤と前記リン化合物との重量比〔(無機充填剤)/(リン化合物)〕が0.6〜1.5の範囲内であることを特徴とする請求項2記載の耐火構造体。
【請求項4】 前記耐火膨張シート(b)が、粘着付与剤を含有する樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1又は2記載の耐火構造体。
【請求項5】 前記不燃性材料からなるボード(a)が、けい酸カルシウム板であることを特徴とする請求項1記載の耐火構造体。
【請求項6】 前記不燃材料からなるボード(a)が、無機系ボード及び/又は金属系ボードを複数枚合わせた複合ボード(a’)であることを特徴とする請求項1記載の耐火構造体。
【請求項7】 前記複合ボード(a’)が、厚み0.1mmから5.0mmの金属板及び厚み5mmから40mmのけい酸カルシウム板又は石膏ボードを合わせてなることを特徴とする請求項6記載の耐火構造体。
【請求項8】 前記複合ボード(a’)が、厚み0.1mmから5.0mmの金属板及び厚み5mmから40mmの窯業系サイディングを合わせてなることを特徴とする請求項6記載の耐火構造体。
【請求項9】 前記耐火膨張シート(b)の層上に、前記耐火膨張シート(b)の膨張を妨げずに前記耐火膨張シート(b)が加熱時に膨張する形状を保持する部材(c)が設けてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐火構造体。
【請求項10】 壁材の少なくとも片面に、厚み0.5〜40mmの耐火膨張シート(b)を設けてなる耐火構造体であって、当該耐火構造体をJIS A 1304に準拠して炉内温度を1時間で925℃まで昇温した後の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=2.5〜15の範囲内となる前記耐火膨張シート(b)を設置し、更にその上に、前記耐火膨張シート(b)の膨張を妨げずに前記耐火膨張シート(b)が加熱時に膨張する形状を保持する部材(c)を設置することを特徴とする耐火壁の施工方法。」
の記載を、
「【請求項1】 厚み5〜100mmの不燃材料からなるボード(a)の少なくとも片面に、厚み0.5〜40mmの耐火膨張シート(b)を設けてなる耐火構造体であって、当該耐火構造体をJIS A 1304に準拠して、炉内温度を1時間で925℃まで昇温した後に、前記耐火膨張シート(b)の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=2.5〜15の範囲内となり、かつ、当該耐火膨張シート(b)は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛及び無機充填剤からなり、上記リン化合物及び中和処理された熱膨張性黒鉛の配合量が、上記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部に対して合計量で20〜200重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛と上記リン化合物との重量比〔(中和処理された熱膨張性黒鉛)/(リン化合物)〕が、0.01〜9、上記無機充填剤の配合量が、上記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部に対して50〜500重量部、上記無機充填剤と上記リン化合物との重量比〔(無機充填剤)/(リン化合物)〕が、0.6〜1.5の樹脂組成物であることを特徴とする耐火構造体。
【請求項2】 厚み5〜100mmの不燃材料からなるボード(a)の少なくとも片面に、厚み0.5〜40mmの耐火膨張シート(b)を設けてなる耐火構造体であって、当該耐火構造体をJIS A 1304に準拠して、炉内温度を1時間で925℃まで昇温した後に、前記耐火膨張シート(b)の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=2.5〜15の範囲内となり、かつ、当該耐火膨張シート(b)は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質、リン化合物及び上記アルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期律表IIb族金属の金属炭酸塩からなり、上記リン化合物及び金属炭酸塩の合計量が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部に対して50〜900重量部、上記金属炭酸塩と上記リン化合物との重量比〔(金属炭酸塩)/(リン化合物)〕が、0.6〜1.5の樹脂組成物であることを特徴とする耐火構造体。
【請求項3】 厚み5〜100mmの不燃材料からなるボード(a)の少なくとも片面に、厚み0.5〜40mmの耐火膨張シート(b)を設けてなる耐火構造体であって、当該耐火構造体をJIS A 1304に準拠して、炉内温度を1時間で925℃まで昇温した後に、前記耐火膨張シート(b)の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=2.5〜15の範囲内となり、かつ、当該耐火膨張シート(b)は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質、リン化合物、上記アルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期律表IIb族金属の金属炭酸塩並びに含水無機物及び/又はカルシウム塩からなり、上記リン化合物、金属炭酸塩並びに含水無機物及び/又はカルシウム塩の合計量が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部に対して50〜900重量部、上記金属炭酸塩並びに含水無機物及び/又はカルシウム塩の合計量と上記リン化合物との重量比〔(金属炭酸塩並びに含水無機物及び/又はカルシウム塩の合計量)/(リン化合物)〕が、0.6〜1.5、含水無機物及び/又はカルシウム塩の合計量が、上記金属炭酸塩100重量部に対して1〜70重量部の樹脂組成物であることを特徴とする耐火構造体。
【請求項4】 厚み5〜100mmの不燃材料からなるボード(a)の少なくとも片面に、厚み0.5〜40mmの耐火膨張シート(b)を設けてなる耐火構造体であって、当該耐火構造体をJIS A 1304に準拠して、炉内温度を1時間で925℃まで昇温した後に、前記耐火膨張シート(b)の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=2.5〜15の範囲内となり、かつ、当該耐火膨張シート(b)は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質、リン化合物、多価アルコール及び上記アルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期律表IIb族金属の金属炭酸塩からなり、上記リン化合物、多価アルコール及び金属炭酸塩の合計量が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部に対して50〜900重量部、上記多価アルコールと上記リン化合物との重量比〔(多価アルコール)/(リン化合物)〕が、0.05〜20、上記金属炭酸塩と上記リン化合物との重量比〔(金属炭酸塩)/(リン化合物)〕が、0.01〜50の樹脂組成物であることを特徴とする耐火構造体。
【請求項5】 厚み5〜100mmの不燃材料からなるボード(a)の少なくとも片面に、厚み0.5〜40mmの耐火膨張シート(b)を設けてなる耐火構造体であって、当該耐火構造体をJIS A 1304に準拠して、炉内温度を1時間で925℃まで昇温した後に、前記耐火膨張シート(b)の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=2.5〜15の範囲内となり、かつ、当該耐火膨張シート(b)は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛、多価アルコール並びにアルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期律表IIb族金属の金属炭酸塩からなり、上記リン化合物、上記中和処理された熱膨張性黒鉛、上記多価アルコール及び金属炭酸塩の合計量が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部に対して50〜900重量部、上記多価アルコールと上記リン化合物との重量比〔(多価アルコール)/(リン化合物)〕が、0.05〜20、上記中和処理された熱膨張性黒鉛と上記リン化合物との重量比〔(中和処理された熱膨張性黒鉛)/(リン化合物)〕が、0.01〜9、上記金属炭酸塩と上記リン化合物との重量比〔(金属炭酸塩)/(リン化合物)〕が、0.01〜50の樹脂組成物であることを特徴とする耐火構造体。
【請求項6】 前記耐火膨張シート(b)が、粘着付与剤を含有する樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の耐火構造体。
【請求項7】 前記不燃性材料からなるボード(a)が、けい酸カルシウム板であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の耐火構造体。
【請求項8】 前記不燃材料からなるボード(a)が、無機系ボード及び/又は金属系ボードを複数枚合わせた複合ボード(a’)であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の耐火構造体。
【請求項9】 前記複合ボード(a’)が、厚み0.1mmから5.0mmの金属板及び厚み5mmから40mmのけい酸カルシウム板又は石膏ボードを合わせてなることを特徴とする請求項8記載の耐火構造体。
【請求項10】 前記複合ボード(a’)が、厚み0.1mmから5.0mmの金属板及び厚み5mmから40mmの窯業系サイディングを合わせてなることを特徴とする請求項8記載の耐火構造体。
【請求項11】 前記耐火膨張シート(b)の層上に、前記耐火膨張シート(b)の膨張を妨げずに前記耐火膨張シート(b)が加熱時に膨張する形状を保持する部材(c)が設けてなることを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の耐火構造体。
【請求項12】 壁材の少なくとも片面に、厚み0.5〜40mmの耐火膨張シート(b)を設けてなる請求項1〜11の何れかに記載の耐火構造体であって、当該耐火構造体をJIS A 1304に準拠して炉内温度を1時間で925℃まで昇温した後の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=2.5〜15の範囲内となる前記耐火膨張シート(b)を設置し、更にその上に、前記耐火膨張シート(b)の膨張を妨げずに前記耐火膨張シート(b)が加熱時に膨張する形状を保持する部材(c)を設置することを特徴とする耐火壁の施工方法。」
と補正することを含むものである。

2.本件補正が、特許法第17条の2第1項第3号に該当する補正であるか否かについての検討
本件補正は、拒絶査定に対する審判請求がなされた平成15年7月30日から30日以内である平成15年8月29日になされた手続補正であるから、特許法第17条の2第1項第3号に規定されているところの「第121条第1項〔拒絶査定に対する審判〕の審判を請求する場合において、その審判の請求の日から30日以内にするとき。」に該当する補正であることは、明らかである。

3.本件補正の目的が、特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号に掲げる事項に該当するか否かについての検討
本件補正は、本件補正前の請求項2及び請求項3の発明特定事項を、本件補正前の請求項1に繰り入れることにより、前記請求項2及び請求項3を削除して、本件補正前の請求項1に記載されていた発明特定事項の「耐火膨張シート(b)」を、請求項2から請求項5までの4個の請求項に展開することにより、実質的に新たな請求項を4個増加させるとともに、本件補正前の請求項4ないし請求項10を、本件補正後の請求項6ないし請求項12に請求項の順に請求項の番号を繰り下げ、さらに、本件補正により特許請求の範囲における請求項の項数が本件補正前の10個から本件補正後の12個に増加したことに伴い、引用形式で記載された本件補正前の請求項4ないし請求項9における引用請求項の番号を、累増した新たな請求項を含むような表記に増加させ、そして、本件補正前は引用形式で記載されていなかった請求項10の記載を、本件補正後の請求項12では、「請求項1〜11の何れか」を引用する形式に補正したものである。
以上のとおり、本件補正により、特許請求の範囲に記載された請求項の項数が、本件補正前の10個の請求項から本件補正後の12個の請求項へと、2個増加している。
そこで、本件補正における前記2個の項数の増加の内訳を精査すると、本件補正は、本件補正前の請求項2及び請求項3の発明特定事項を、本件補正前の請求項1に繰り入れて、実質的に前記請求項2及び請求項3を削除することにより、請求項の項数を2個削減した上で、本件補正前の請求項1に記載されていた発明特定事項の「耐火膨張シート(b)」を、さらに本件補正後の請求項2から請求項5までの新たな4個の請求項に展開させることにより、実質的に4個の新たな請求項が追加記載されたものであり、その結果として、本件補正により、差し引き2個の請求項が増加していることになる。
そうすると、本件補正後の特許請求の範囲に記載の請求項の項数が実質的に増加したことにより、本件補正後の特許請求の範囲に記載された請求項に係る発明が、本件補正前のものに比較して拡張したものとなり、本件補正は、明らかに特許請求の範囲の拡張に該当するから、本件補正は、少なくとも特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当するということができない。

4.むすび
以上のとおりであり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正に該当しないから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

三、本願発明について
1.本願発明
平成15年8月29日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成14年12月2日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項10に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、そのうち、本願の請求項1に係る発明は、請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、これを「本願発明1」という。)である。
「【請求項1】 厚み5〜100mmの不燃材料からなるボード(a)の少なくとも片面に、厚み0.5〜40mmの耐火膨張シート(b)を設けてなる耐火構造体であって、当該耐火構造体をJIS A 1304に準拠して、炉内温度を1時間で925℃まで昇温した後に、前記耐火膨張シート(b)の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=2.5〜15の範囲内となることを特徴とする耐火構造体。」

2.原審における拒絶査定の理由の概要
原審における拒絶査定(以下、「原査定」という。)の理由の概要は、次のとおりである。
[理由A]:特許法第29条第2項の特許要件違反
引用文献1〔特開平7-276552号公報〕には、発泡耐火性材料のシートを鋼板等(不燃性材料からなるボード)に貼着する耐火構造体(実施例9等参照)が記載されている。
また、上記引用文献1に記載の発明において、各層の厚み、加熱前後の厚みの比を請求項1に記載される数値範囲とすることは、当業者が適宜なし得る数値限定にすぎない。
したがって、本願発明1は、本願出願前日本国内又は外国において頒布された上記引用文献1に記載の発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[理由B]:特許法第36条第6項第2号の特許請求の範囲の記載要件違反
この出願は、特許請求の範囲の記載が次の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項1の「耐火膨張シートは、300℃に加熱した場合において、加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D’)との関係が、D’/D=1.1〜20である」という記載が不明瞭である(一般に、耐火膨張シート等の発泡倍率は、加熱温度のほか、保持時間、昇温速度等によって大きく変動するものである。さらに、300℃という温度は、炉内温度を指すのか、耐火膨張シートの温度を指すのか、それとも不燃性材料の温度を指すのかが不明であり、どの部分の温度を意味するのかによって発泡倍率は大きく変動する。よって、上記記載は、どのような加熱条件における発泡倍率なのか特定できず、不明瞭である。)。
なお、本願の【0106】段落において、耐火性試験については「JIS A1304」に準拠して昇温することが記載されているものの、評価法について記載されるのみで、本願発明における耐火膨張シートの発泡倍率を具体的に規定するための記載はない。
よって、請求項1に係る発明は明確でない。
(2)請求項1には、耐火膨張シートについて、加熱前後の厚みの比を記載しているが、該数値により特定される具体的な物が特定できず、請求項1に係る発明の範囲は依然として不明瞭である。
なお、補正後の請求項1の「JIS A 1304に準拠して、・・・・・・D’/D=2.5〜15の範囲となる」という記載について、出願人は意見書において、段落番号【0106】、表1、2に記載される実施例1〜12を補正の根拠として挙げているが、当該実施例には、実施例1〜12それぞれに対応するD’/Dが記載されており、D’/D=2.5〜15という数値範囲は記載されておらず、該記載は新規事項を追加するものである点留意されたい。

3.引用文献及び該引用文献に記載の事項
(1)原査定の理由に引用された、本願の国内優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用文献1〔特開平7-276552号公報〕には、発泡耐火性積層体とその形成方法に関し、次の事項が記載されている。
「【請求項1】火災により周辺温度が所定の発泡温度に達すると発泡し、不燃性ガスの発生と炭化断熱層の形成を行う発泡耐火性材料からなる主材層上に、正常時には主材層を保護し、且つ火災時には主材層の発泡温度以下で熱分解を起こす保護仕上層を積層したことを特徴とする発泡耐火性積層体。」(2頁1欄2行〜7行)
「【0035】発泡耐火性塗料からなる主材層の発泡温度は、火災発生による温度上昇と躯体の強度低下との相関関係から300〜350℃程度に設定されているので、これより低温の熱分解温度を有する保護仕上層を主材層上に積層すればよい、但し、保護仕上層の熱分解温度が100℃よりも低くなると、未発泡時に発泡耐火性材料乃至塗料からなる主材層を保護して、長期耐久性を維持するという所望の機能を果たさなくなるので、保護仕上層の熱分解温度は、主材層の発泡温度以下でかつ100〜325℃の範囲とすることが望ましい。
【0036】本発明の発泡耐火性材料乃至塗料により構成される主材層は、火災などに際しての温度上昇時に発泡し且つ炭化して、炭化断熱層を形成し、被塗物に耐火性を付与するものである。
【0037】主材層を形成するための発泡耐火性塗料は、バインダー、難燃剤、発泡剤、炭化剤および充填剤ならびに塗料を液状とするための溶剤を必須成分とする。」(6頁10欄12行〜29行)
「【0055】この様にして得られた発泡耐火性塗料を耐火性を付与すべき躯体に対し、火災発生時において必要とされる耐火性を発揮するに十分な厚さの発泡炭化断熱層を形成できる量で塗付する。耐火性を付与すべき躯体としては、特に限定されるものではないが、例えば、鉄骨(梁、柱)、間仕切壁、耐火扉内側、耐火金庫内側、トンネル内壁、燃料タンク、溶剤貯蔵タンク、ガスおよび石油パイプラインおよびその支持体;モーター、ポンプ、発電機などの火花を発生する可能性のある設備の防護カバー;防火区画の貫通部のシール材、電線などが挙げられる。塗付は、常法に従って、スプレーガン、エアレススプレーガン、圧送機などによる吹付塗付、コテ塗り、ローラー塗り、刷毛塗りなどにより、行えば良い。」(8頁14欄3行〜15行)
「【0060】本発明による発泡耐火性積層体は、発泡耐火性塗料を発泡耐火材料として予めシート状に成形しておき、接着剤を使用して躯体に貼着する方法或いは粘着剤を積層したシートを介して躯体に貼着する方法で使用しても良い。」(8頁14欄42行〜46行)
「【0071】I.耐火性能および発泡倍率 JIS A 1304「建築構造部分の耐火試験方法」の4.「加熱等級;付図1」に規定する標準曲線に基づいて、電気炉にて試験片の一面を加熱昇温し、熱間亜鉛鋼板の裏面温度が600℃に達した時点での経過時間(分)を耐火性能とし、また、その試験片について、乾燥塗膜に対する発泡倍率を測定した。」(9頁16欄50行〜10頁17欄6行)
「【0084】実施例9
表2に示す発泡耐火性材料を使用し、表3に示す配合処方例9に基づいて、発泡耐火性塗料を製造した。製造に際しては、まず混合撹拌タンク中にバインダーと希釈用溶剤を投入し、ディゾルバーにより撹拌混合しながら、その他の成分である難燃剤、発泡剤、炭化剤および充填剤を順次投入した後、これら構成成分が均一に混合された時点で、撹拌を終了して、粘度130PSの発泡耐火性塗料を得た。
【0085】この様にして製造した発泡耐火性塗料を剥離処理した紙シート面にフローコーターを使用して、塗付量3kg/m2 で塗付し、養生乾燥した。形成された発泡耐火性塗料からなる主材層の膜厚は、1.5mmであった。次いで、この発泡耐火性主材層表面に、保護仕上層として前記に示すビニル重合型フッ素系樹脂を樹脂成分とする保護仕上層形成用塗料(エスケー化研株式会社製「弾性フッソロンエナメル」)を塗付量0.30kg/m2 にて吹付塗付し、乾燥養生した後、紙シートを剥離した。
【0086】この様にして作製した発泡耐火性積層シートをさらに2週間養生した後、JIS K 5400「塗料一般試験方法」の8.1「耐屈曲性試験」に供したところ、8mmとなり、また、JIS A 6021「屋根用塗膜防水材」の5.3「引張性能」に供したところ、引張強度は118N/cm2 となった。
【0087】この発泡耐火性積層シートの保護仕上層と反対の面に、アクリル酸エステル重合物系の粘着剤を厚み250μmの粘着剤層を形成するように積層することにより、発泡耐火性積層粘着シートを得た。
【0088】この発泡耐火性積層粘着シートを300mm×300mm×9mmの熱間圧延鋼板に貼着して2週間養生し、試験体とした。この試験体について実施例1と同様の試験を行ったところ、表2に示す結果が得られた。」(11頁19欄37行〜12頁21欄3行)
そして、表2に表示されている実施例9についての結果の主要な項目は、主材層発泡開始温度が345℃、保護仕上層熱分解温度が313℃、耐火性能が52分、発泡倍率が34.9倍となっている。
そうすると、上記引用文献1における前記摘記事項からみて、引用文献1には、「バインダー、難燃剤、発泡剤、炭化剤および充填剤ならびに塗料を液状とするための溶剤から成り、火災などに際しての温度上昇時に発泡し、炭化して炭化断熱層を形成する発泡耐火性塗料を塗付乾燥して形成した、膜厚が1.5mmの主材層の表面に、保護仕上層として保護仕上層形成用塗料を吹付塗付して発泡耐火性積層シートを作製し、該発泡耐火性積層シートの保護仕上層と反対の面に、粘着剤を厚み250μmの粘着剤層を形成するように積層することにより得られた発泡耐火性積層粘着シートを、厚さ9mmの熱間圧延鋼板に貼着して形成した積層体であって、JIS A 1304「建築構造部分の耐火試験方法」の4.「加熱等級;付図1」に規定する標準曲線に基づいて、電気炉にて前記積層体の一面を加熱昇温したときの、熱間亜鉛鋼板の裏面温度が600℃に達した時点での耐火性能としての経過時間が52分で、発泡耐火性塗料の乾燥塗膜の発泡倍率が34.9倍である積層体」の発明(以下、これを「引用発明」という。)の記載が認められる。

4.本願発明1と引用文献1に記載の発明との対比及び一致点・相違点
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「熱間圧延鋼板」が、本願発明1の「不燃材料からなるボード(a)」に相当し、また、引用発明の「発泡耐火性塗料を塗付乾燥して形成した主材層」が、本願発明1の「耐火膨張シート(b)」に相当するということができるから、引用発明の「厚さ9mmの熱間圧延鋼板」及び「火災などに際しての温度上昇時に発泡し、炭化して炭化断熱層を形成する発泡耐火性塗料を塗付乾燥して形成した、膜厚が1.5mmの主材層」のそれぞれは、本願発明1の「厚み5〜100mmの不燃材料からなるボード(a)」及び「厚み0.5〜40mmの耐火膨張シート(b)」に対応し、また、引用発明の「積層体」が、本願発明1の「耐火構造体」に対応する。
そして、引用発明における「JIS A 1304「建築構造部分の耐火試験方法」の4.「加熱等級;付図1」に規定する標準曲線に基づいて、電気炉にて前記積層体の一面を加熱昇温した」と、本願発明1における「JIS A 1304に準拠して、炉内温度を1時間で925℃まで昇温した」とは、いずれもJIS A 1304「建築構造部分の耐火試験方法」の標準加熱曲線に基づいて加熱昇温させる耐火試験のことであるから、引用発明の「JIS A 1304「建築構造部分の耐火試験方法」の4.「加熱等級;付図1」に規定する標準曲線に基づいて、電気炉にて前記積層体の一面を加熱昇温したときの、熱間亜鉛鋼板の裏面温度が600℃に達した時点で」と本願発明1の「当該耐火構造体をJIS A 1304に準拠して、炉内温度を1時間で925℃まで昇温した後に」とは、共に「JIS A 1304の耐火試験方法に基づく耐火試験における所要の計測基準」である点で共通する。
さらに、引用発明における「発泡耐火性塗料の乾燥塗膜の発泡倍率」と、本願発明1における「耐火膨張シート(b)の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係D′/D」とは、共にJIS A 1304「建築構造部分の耐火試験方法」の標準加熱曲線に基づいて加熱昇温させる耐火試験での耐火膨張シートの加熱前後の厚み変化の比のことであり、両者は等しい概念であるといえるから、引用発明の「発泡耐火性塗料の乾燥塗膜の発泡倍率」が、本願発明1の「耐火膨張シート(b)の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係D′/D」に対応する。
そうすると、本願発明1と引用発明の両者は、「厚み5〜100mmの不燃材料からなるボード(a)の少なくとも片面に、厚み0.5〜40mmの耐火膨張シート(b)を設けてなる耐火構造体であって、当該耐火構造体をJIS A 1304の耐火試験方法に基づく耐火試験における所要の計測基準での耐火膨張シート(b)の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係D′/Dが所定の範囲となる耐火構造体」である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。
相違点1:JIS A 1304の耐火試験方法に基づく耐火試験における所要の計測基準が、本願発明1では「当該耐火構造体をJIS A 1304に準拠して、炉内温度を1時間で925℃まで昇温した後に」であるのに対し、引用発明では「JIS A 1304「建築構造部分の耐火試験方法」の4.「加熱等級;付図1」に規定する標準曲線に基づいて、電気炉にて前記積層体の一面を加熱昇温したときの、熱間亜鉛鋼板の裏面温度が600℃に達した時点」である点。
相違点2:耐火膨張シート(b)の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係D′/Dの所定の範囲が、本願発明1では「2.5〜15の範囲内」であるのに対し、引用発明では「34.9倍」である点。

5.相違点についての検討
(1)相違点1について
引用文献1に「【0071】I.耐火性能および発泡倍率 JIS A 1304「建築構造部分の耐火試験方法」の4.「加熱等級;付図1」に規定する標準曲線に基づいて、電気炉にて試験片の一面を加熱昇温し、熱間亜鉛鋼板の裏面温度が600℃に達した時点での経過時間(分)を耐火性能とし、また、その試験片について、乾燥塗膜に対する発泡倍率を測定した。」と記載されているとおり、JIS A 1304に基づく耐火試験方法では、JIS A 1304「建築構造部分の耐火試験方法」の4.「加熱等級;付図1」に規定する標準曲線に基づいて、加熱炉にて試験体の一面を加熱昇温させるのであり、このときの加熱温度を「付図1に規定する標準曲線」に沿うべく、加熱炉内の試験体の一面を試験開始から10分経過後に705℃、20分経過後に795℃、30分経過後に840℃、・・60分経過後に925℃、・・90分経過後に980℃、・・120分経過後に1010℃、・・180分経過後に1050℃、・・240分経過後に1095℃となるように次第に昇温するように加熱して、このような状態にある試験体の変化を観察して、その時の経過時間(分)を計測し、この経過時間(分)を試験体の耐火性能とするものである。
しかして、上記相違点1における引用発明と本願発明1との相違は、耐火試験における計測基準を、引用発明における「熱間亜鉛鋼板の裏面温度が600℃に達した時点」のように、試験体の裏面温度が一定温度に達する時点とするのか、或いは、本願発明1における「当該耐火構造体をJIS A 1304に準拠して、炉内温度を1時間で925℃まで昇温した後に」のように、昇温加熱後の一定時間経過(分)した時の加熱炉内の試験体の表面温度とするのか、という計測するときの基準とする設定条件の相違にすぎない。
そして、前記耐火試験の計測における基準とする条件を適切に設定することは、当業者が目的に応じて適宜なし得る設計事項であるから、引用発明におけるJIS A 1304に基づく耐火試験の計測における基準とする条件を適宜変更して、本願発明1の前記相違点1に係る「当該耐火構造体をJIS A 1304に準拠して、炉内温度を1時間で925℃まで昇温した後に」とすることは、当業者が格別の困難を伴うことなく容易に成し得ることである。

(2)相違点2について
引用発明における発泡耐火性塗料を塗付乾燥して形成した主材層は、火災などに際しての温度上昇時に発泡し且つ炭化して、炭化断熱層を形成し、被塗物に耐火性を付与するものであり、発泡耐火性塗料を塗付乾燥して形成した主材層の所要の耐火時間は、このような火災発生による温度上昇と躯体の強度低下との相関関係において求められるものであるから、耐火性を付与すべき躯体に対し、火災発生時において必要とされる耐火性を発揮するに十分な厚さの発泡炭化断熱層を形成できる発泡耐火性塗料の塗付量は、すぐれて当業者が目的及び必要とする条件に応じて所要の量とすべく設計し得る事項にすぎないことである。
そうすると、耐火膨張シート(b)の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係D′/Dの所定の範囲として、引用発明における「34.9倍」の発泡耐火性塗料の乾燥塗膜の発泡倍率を、その目的及び必要とする設計条件に合わせて所要の厚み変化の比となるように変更することにより、本願発明1の前記相違点2に係る「耐火膨張シート(b)の加熱前の厚み(D)と加熱後の厚み(D′)との関係が、D′/D=2.5〜15の範囲内」となるように設定することは、当業者が格別の困難性を要せずに容易になし得ることである。

そして、本願発明1の奏する作用効果に、引用発明以上の格別のものを認めることができない。
したがって、本願発明1は、上記引用文献1に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであり、本願の請求項1に係る発明(本願発明1)が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、また、他の拒絶査定の理由を検討するまでもなく、本願特許出願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-02-17 
結審通知日 2004-02-18 
審決日 2004-03-03 
出願番号 特願平9-288535
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04B)
P 1 8・ 575- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五十幡 直子  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 佐藤 昭喜
新井 夕起子
発明の名称 耐火構造体及び耐火壁の施工方法  

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