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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G01W
管理番号 1122668
審判番号 不服2001-14469  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-06-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-08-16 
確定日 2005-09-13 
事件の表示 平成11年特許願第333933号「積雪量予測装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年6月8日出願公開、特開2001-153968〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願は、平成11年11月25日の出願であって、その明細書の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
【請求項1】
樹木に伝わる音を該樹木の高さ方向に沿って測定する樹木音測定手段と、前記樹木音測定手段で測定された音の前記樹木の高さ方向における変化に基づいて積雪量を予測する積雪量予測手段と、
を有することを特徴とする積雪量予測装置。
【請求項2】
請求項1記載の積雪量予測装置において、
前記樹木の高さ方向における前記音の変化は、前記樹木の高さ方向における前記音の音圧の変化であることを特徴とする積雪量予測装置。
【請求項3】
請求項2記載の積雪量予測装置において、
前記積雪量予測手段は、前記樹木の高さ方向における前記音圧の正側ピークが発生する位置を予想最深積雪として予測することを特徴とする積雪量予測装置。
【請求項4】
樹木に伝わる音を該樹木の高さ方向に沿って測定するステップと、前記樹木の高さ方向における前記音の変化に基づいて積雪量を予測するステップと、
を有することを特徴とする積雪量予測方法。
【請求項5】
請求項4記載の積雪量予測方法において、
前記樹木の高さ方向における前記音の変化は、前記樹木の高さ方向における前記音の音圧の変化であり、
前記積雪量を予測するステップにおいては、前記樹木の高さ方向における前記音圧の正側ピークが発生する位置が予想最深積雪として予測されることを特徴とする積雪量予測方法。

2.原査定の拒絶の理由の概要は、「本願発明の構成と効果との相互関係、特に樹木に伝わる音と積雪量との関係が不明りょうであり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1〜5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ充分に記載されていない。樹木に伝わる音と積雪量との関係が原理的に不明であり、また、この発明によって良好な結果が得られたというデータ等も明細書には十分に開示されていない。したがって、明細書及び図面の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」というものである。

3.上記の点につき、以下、検討する。
3-1 本件明細書には、次の各記載がある。
「【0075】
『積雪量予測装置』
次に、この発明の一実施の形態に係る積雪量予測装置について説明する。【0076】
図12は、この発明の一実施の形態に係る積雪量予測装置150の構成を示している。
【0077】
積雪量予測装置150は、複数(例えば、8個)の振動センサ12(m)(m=1-8)と、樹木音観測装置152と、データ処理装置154を備えている。
【0078】
図13は、振動センサ12(m)が樹木τの幹(枝でもよい)に取り付けられた状態を示している。なお、この振動センサ12(m)の構成は、図1に示す気象予測装置10を構成するものと同じである。」

「【0085】
信号出力部46からの電圧Vは、信号入力部50においてサンプリングされ、かつ、A/D変換された後に、樹木音Aの音圧の大きさに対応する音圧レベルVdとして予測判定処理部162に供給される。なお、予測判定処理部162には、この音圧レベルVdに対応する(この音圧レベルVdを取得した)振動センサ12(m)を識別する情報が供給されているものとする。
【0086】
予測判定処理部162は、信号入力部50からの各振動センサ12(m)に対応する音圧レベルVdに基づいて、樹木τの高さY方向における音圧レベルVdの変化を検出する。そして、この音圧レベルVdの変化に基づいて、その年の予測積雪量Lを求める。
【0087】
図14は、高さYに対する音圧レベルVdの特性の一例を示している。この図14に示すように、音圧レベルVdには、特定の高さY位置(図14に示す例ではy6)に正側のピークPが存在する。そして、このピークPに対応する高さYが、その年の最深積雪と一致することが、この出願の発明者により実験的に確認されている。従って、音圧レベルVdのピークPを検出し、このピークPに対応する高さYを特定することによって、その年の予測積雪量(すなわち、予想最深積雪)Lを得ることができる。
【0088】
ただし、樹木τが予想最深積雪Lの倍以上の高さである場合には、音圧レベルVdに複数のピークPが存在することがあるが、この場合には、これら各ピークPに対応する高さYのうち、最も値が小さいもの(位置が低いもの)を予想最深積雪Lとして採用することができる。
【0089】
なお、正確な予想最深積雪Lを得るためには、観測期間を、例えば、降雪が始まる時期の3ヶ月前-6ヶ月前の間とすることが好ましい。」

3-2 上記記載においては樹木の種類や大きさを説明しておらず、すべての樹木に振動センサで検知できる樹木音が存在するか不明であるばかりでなく、検知できたとしても音圧にピーク位置が存在するか不明である。
さらに、仮に、ある樹木Aで樹木音が検知できたとしても、積雪が多い地域、積雪が少ない地域、積雪がない地域に存在している各樹木Aの間で音圧分布に変化が生じる根拠が不明である。まして、実際の積雪の数ヶ月前に音圧分布に変化が生じる根拠が不明である。
本願明細書のFIG.14は出願人が自ら描いた模式的な図であって、上記疑問を解消する実験データと認めることはできない。
そして、高さYに対する音圧レベルVdに、特定の高さY位置(図14に示す例ではy6)に正側のピークPが存在するか否かの根拠が不明であるが、仮に、ピークが存在するとしても、高さYがその年の最深積雪と一致するという根拠が不明である。
すなわち、降雪が始まる時期の3ヶ月前-6ヶ月前の間での観測値が、不確定要素を多く含む未来の最深積雪Lと一致することの根拠はなく、仮に、音圧レベルのピークの高さ位置を表示できたとしても、単に、ピークの高さ位置を表示したにとどまり、未来の最深積雪値を予測したことにはならない。
また、「正確な予想最深積雪Lを得るためには、観測期間を、例えば、降雪が始まる時期の3ヶ月前-6ヶ月前の間とすることが好ましい。」とする根拠が不明である。

上記【0087】には、「そして、このピークPに対応する高さYが、その年の最深積雪と一致することが、この出願の発明者により実験的に確認されている。」と記載されているが、その実験結果は本件明細書に記載されていないばかりでなく、第3者によって確認されてもいない。

3-3 この点に関し、請求人は、審判請求書において、次の主張をしている。
「また、積雪量予測手段(β)は、段落[0084]に記載してしている「予測判定処理部(積雪量予測手段)162」が該当することが明らかであり、この予測判定処理部162のハード構成は、同段落に、データ処理装置16の予測判定処理部52とほぼ同じであると記載されている。
そして、この予測判定処理部52は、段落[0031]及び段落[0032]に、「データ処理装置16は、実際には、汎用コンピュータ(パーソナルコンピュータを含む。)等によって構成されており、予測判定処理部52は、実質的に、CPU(Central Processing Unit)(周辺装置を含む。)によって構成されている。」と記載され、当業者であれば、汎用コンピュータを利用して作成できかつ使用できることに疑いがない。
特許法第36条第4項は、次に、「明確かつ十分」に記載することを要件としているが、この要件は、特別な知識を付加しなくても追試してその発明を再現することができることと解されている。
この出願の発明の場合、当業者であれば、振動センサ12により樹木に伝わる音を該樹木の高さ方向に沿って測定し、データ処理装置154において、振動センサ12により測定された音の樹木の高さ方向に基づいて積雪量を予測することを、追試して発明を再現することが可能である。」

しかしながら、データ処理装置16に入力される信号は、音圧レベルであり、予測積雪量ではなく、予測判定処理部でどのような演算を実行するか、測定した音圧レベルからどのようにして未来の最深積雪値を予測するか、についての記載はないから、それらの演算や予測を当業者は容易に実施することができない。

3-4 請求人は、また、審判請求書において、
「なお、樹木に伝わる音と積雪量との関係については、平成13年1月29日付けで提出の意見書の第3頁9行-第4頁26行に「この出願に係る発明についての構成と効果との相互関係、特に樹木に伝わる積雪量との関係に関する補足説明」として詳細に述べている。」と主張しており、該意見書をみると、次の主張をしている。
「(5)この出願に係る発明についての構成と効果との相互関係、特に樹木に伝わる音と積雪量との関係に関する補足説明
この出願に係る発明の動機づけは、拒絶理由通知書の「先行技術文献調査結果の記録」に記載された文献に開示されています。すなわち、この動機づけの前提は、この出願の発明者の長年の研究結果による「カマキリが樹木に産みつける卵のうの高さが、その年の最大積雪深に深い関係がある。」ということです。しかし、カマキリの卵のうの高さを利用する積雪深の予測技術は、予測したい地域に、肝心のカマキリが生息していることが前提となり、生息していない場合には使用することができないという難点があります。
「カマキリが生息していない場所・地域で積雪深を予測することが可能とならないか。」ということがこの発明の動機です。
そして「カマキリは、何を基準に、卵のうを産みつける高さを決めているのか。」という課題に直面し、この課題を解決することができれば、最大積雪深を、カマキリの生息していない地域でも予測することが可能となり、しかもカマキリの卵のうを探索するよりもより科学的かつ容易に積雪深の予測ができるのではないかという考えに到達しました。
そして、この課題について、何度も何度もカマキリの卵のうを見ながら考えているとき、偶然のひらめきにより、樹木から音が発生しているような予感がし、樹木に耳を押しつけてみました。
そうしましたところ、驚くほどさまざな音が聞こえてきました。そこで、次に、聞く位置を木の高さ方向に変えてみましたところ、その音の最大点が、カマキリの卵のうの位置付近に一致することをつきとめました。この後、耳で観測することが不便であることから、実際に、明細書に記載しています振動センサ12を製作し、明細書の詳細な説明に記載した積雪量予測装置150により、何度も、何カ所も測定して、この考え方が正しいことを実証し、出願に至りました。
この発明によれば、カマキリが生息していなくとも、木さえ生えていれば、積雪量予測装置150で測定することだけで、当業者であれば誰でも簡易に積雪深を予測することが可能になるものと確信致します。」

しかしながら、「カマキリが樹木に産みつける卵のうの高さが、その年の最大積雪深に深い関係がある。」が公に実証されていると認めることはできず、しかも、公に実証されていると認めるに足りる記載は本件明細書にない。
そして、カマキリが樹木に産みつける卵のうの位置(高さ)を、樹木音の音圧レベルのピーク位置によって決めていることは本願明細書に記載されておらず、そのようなことが公に実証されていると認めるに足りる記載も本件明細書にはない。
さらに、カマキリの卵のうの高さは、「カマキリが生息していない場所・地域で積雪深を予測すること」の根拠とはならないことは明らかである。(カマキリが生息してないのであるから根拠となりようもない。)

3-5 請求人は、また、同意見書において次の主張をしている。
「次に、残余の構成要件である積雪量予測手段(β)は、この実施の形態では、段落[0084]に記載していますように、「予測判定処理部(積雪量予測手段)162」が該当することが明らかです。
そして、この予測判定処理部162により、請求項1中、「樹木音測定手段で測定された音の前記樹木の高さ方向における変化に基づいて積雪量を予測する」ことが、図14および図15を参照して段落[0086]、[0087]、[0091]-「0093」に説明されております。たとえば、段落[0086]には「樹木τの高さY方向における音圧レベルVdの変化を検出する。そして、この音圧レベルVdの変化に基づいて、その年の予測積雪量Lを求める。」と明確に記載しています。」

しかしながら、3-2で説示のとおり、
高さYに対する音圧レベルVdに、特定の高さY位置(図14に示す例ではy6)に正側のピークPが存在するか否か根拠が不明であるが、仮に、存在するとしても、高さYがその年の最深積雪と一致するという根拠が不明である。
仮に、音圧レベルのピークの高さ位置を表示できたとしても、単に、測定時点でのピークの高さ位置を表示したにとどまり、未来の最深積雪値を予測できたことにはならない。

4.以上の検討によれば、本願明細書の記載と図面では、本願発明の構成と効果との相互関係、特に、樹木に伝わるという音の存在や音のピークの存在、その音のピークと積雪量との関係が不明りょうであるとともに、原理的に不明であり、また、この発明によって良好な結果が得られたというデータ等も明細書等に開示されていないから、当業者が容易に実施することができる程度に説明されているとは認められず、本件出願は、明細書及び図面の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-08-26 
結審通知日 2004-08-31 
審決日 2004-09-13 
出願番号 特願平11-333933
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G01W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 孝徳本郷 徹野村 伸雄  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 水垣 親房
長井 真一
発明の名称 積雪量予測装置および方法  
代理人 佐藤 辰彦  
代理人 千葉 剛宏  

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