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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B41J |
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管理番号 | 1122820 |
異議申立番号 | 異議2003-73876 |
総通号数 | 70 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2001-07-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-26 |
確定日 | 2005-06-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3473697号「インクジェット式記録装置」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3473697号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3473697号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成5年12月10日に出願した特願平5-341309号の一部を平成13年1月12日に新たな特許出願としたものであって、平成15年9月19日にその特許権の設定の登録がなされ、その特許について、渡辺等より特許異議の申し立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年1月5日に訂正請求(後日取り下げ)がなされ、その後、再度の取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成17年5月12日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否 (1)訂正の内容 特許権者の求めている訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所にアンダーラインを付した。)。 ア.訂正事項ア 特許請求の範囲の 「【請求項1】 ノズル開口を有する第1、第2のインクジェット式記録ヘッドを搭載したキャリッジと、第1、及び第2の記録ヘッドのノズル開口を封止するとともに、吸引手段に接続する吸引口を有し、前記吸引手段から負圧の供給を受ける第1、第2のキャップ部材とを備えたインクジェット式記録装置において、 前記吸引手段が、同一の回転駆動源に接続された第1のチューブポンプと第2のチューブポンプとにより構成され、一方の方向への回転では前記第1のチューブポンプだけが吸引動作を実行し、また他方の方向への回転では前記第2のチューブポンプだけが吸引動作を実行するインクジェット式記録装置。 【請求項2】 前記吸引手段を構成する前記第1のチューブポンプが、回転駆動源に接続された駆動輪と、前記駆動輪の径方向に移動可能で、かつ回転可能に前記駆動輪に支持され、前記回転駆動源の前記一方の方向への回転により外周方向に移動してチューブを押圧し、また前記他方の方向への回転により中心方向に移動して前記チューブの押圧を解除するローラと、前記駆動輪の一方への回転により前記ローラが前記チューブを押圧を開始する直前に前記ローラを前記駆動輪の外周側に強制的に移動させ、また前記駆動輪の他方への回転により前記ローラが前記チューブの押圧を解除した直後に前記ローラを中心側に強制的に移動させるローラ押圧片とにより構成され、 また前記吸引手段を構成する前記第2のチューブポンプが、同一の前記回転駆動源に接続された駆動輪と、前記駆動輪の径方向に移動可能で、かつ回転可能に前記駆動輪に支持され、前記回転駆動源の前記他方の方向への回転により外周方向に移動してチューブを押圧し、また前記一方の方向への回転により中心方向に移動して前記チューブの押圧を解除するローラと、前記駆動輪の他方への回転により前記ローラが前記チューブを押圧を開始する直前に前記ローラを前記駆動輪の外周側に強制的に移動させ、また前記駆動輪の一方への回転により前記ローラが前記チューブの押圧を解除した直後に前記ローラを中心側に強制的に移動させるローラ押圧片とにより構成されている請求項1に記載のインクジェット式記録装置。」 を、 「【請求項1】 ノズル開口を有する第1、及び第2のインクジェット式記録ヘッドを搭載したキャリッジと、第1、及び第2の記録ヘッドのノズル開口を封止するとともに、吸引手段に接続する吸引口を有し、前記吸引手段から負圧の供給を受ける第1、第2のキャップ部材とを備えたインクジェット式記録装置において、 前記吸引手段が、同一の回転駆動源に接続された第1のチューブポンプと第2のチューブポンプとにより構成され、 前記第1のチューブポンプと前記第2のチューブポンプは、それぞれ、ポンプチューブと、回転駆動源に接続された駆動輪と、前記駆動輪に形成された周方向における中心からの距離が変化する長溝に移動自在に遊嵌されたローラーと、前記ローラに弾圧して前記ローラを、前記長溝に沿って前記駆動輪の回転方向に対応する位置に強制的に移動させるための静止部材に配置されたローラ押圧片とにより構成され、前記回転駆動源の一方の方向への回転では前記第1のチューブポンプだけが吸引動作を実行し、また前記駆動源の他方の方向への回転では前記第2のチューブポンプだけが吸引動作を実行するインクジェット式記録装置。」 と訂正する。 イ.訂正事項イ 段落【0005】を、 「【課題を解決するための手段】 このような問題を解消するために本発明においては、ノズル開口を有する第1、及び第2のインクジェット式記録ヘッドを搭載したキャリッジと、第1、及び第2の記録ヘッドのノズル開口を封止するとともに、吸引手段に接続する吸引口を有し、前記吸引手段から負圧の供給を受ける第1、第2のキャップ部材とを備えたインクジェット式記録装置において、 前記吸引手段が、同一の回転駆動源に接続された第1のチューブポンプと第2のチューブポンプとにより構成され、 前記第1のチューブポンプと前記第2のチューブポンプは、それぞれ、ポンプチューブと、回転駆動源に接続された駆動輪と、前記駆動輪に形成された周方向における中心からの距離が変化する長溝に移動自在に遊嵌されたローラーと、前記ローラに弾圧して前記ローラを、前記長溝に沿って前記駆動輪の回転方向に対応する位置に強制的に移動させるための静止部材に配置されたローラ押圧片とにより構成され、前記回転駆動源の一方の方向への回転では前記第1のチューブポンプだけが吸引動作を実行し、また前記駆動源の他方の方向への回転では前記第2のチューブポンプだけが吸引動作を実行するように構成されている。」 と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項アは、以下の訂正事項を含んでいる。 訂正事項a 請求項1において、第1のチューブポンプ及び第2のチューブポンプそれぞれの構成を限定する。 訂正事項b 請求項2を削除する。 上記訂正事項aに関して、願書に添付した明細書及び図面(以下、「特許明細書等」という。)には、「図中符号92は、ゴム等の弾性部材で構成されたローラ押圧片で、駆動輪72が回転した場合に、ローラ85に弾圧して、ローラ85を長溝90に沿って、モータの回転方向に対応する位置に強制的に移動させるためのものである。」(段落【0019】参照)が、チューブポンプが、ポンプチューブ33と、回転駆動源に接続された駆動輪72と、前記駆動輪72に形成された周方向における中心からの距離が変化する長溝90に移動自在に遊嵌されたローラー85と、前記ローラ85に弾圧して前記ローラ85を、前記長溝90に沿って前記駆動輪72の回転方向に対応する位置に強制的に移動させるための静止部材に配置されたローラ押圧片92とにより構成されていることを示す図示(【図8】(イ)及び(ロ))と共に記載されているから、上記訂正事項aは、特許明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものである。 そうすると、上記訂正事項アは、特許明細書等に記載されていた事項の範囲内で、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。 また、上記訂正事項イは、上記訂正事項アに伴い、特許請求の範囲の記載との整合を図るために、発明の詳細な説明の記載を訂正したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 さらに、上記訂正事項ア及びイは、いずれも、実質的に特許請求の範囲を拡張変更するものでない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議申し立てについて (1)特許異議の申し立ての概要 申立人渡辺等は、証拠として、甲第1号証(特開昭63-224957号公報)及び甲第2号証(特開昭58-77189号公報)を提出し、本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨の主張をしている。 (2)本件発明 本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記、2.(1)ア.参照。)。 (3)甲各号証に記載された発明 申立人の提出した上記甲各号証には、本件発明に関連する事項として、以下のような事項が記載されている。 ア.甲第1号証 「複数の記録ヘッドを備え、かつ吸引チューブを介して負圧源に連結されたキャップを各記録ヘッドに密着可能にしたインクジェット記録装置において、各キャップに接続された複数の吸引チューブを1つの負圧源に連結するとともに、各吸引チューブごとに切替え弁を設けてその連通をオンオフするように構成したインクジェット記録装置。」(特許請求の範囲第1項) イ.甲第2号証 「モータが運転するとき,少なくとも2つのロータが各々1つの分離して結びつけられた弾力性のある圧縮できるチューブを通過するように動作的に連結された単一の可逆性のモータから構成された蠕動ポンプにおいて,各ロータ(7,8)は2つの以上のローラ(16)から成り,各ロータのローラは伸縮自在であって,モータ(3)が一方の方向に回転するとき,第1のロータ(7)のローラ(16)は伸ばされ,かつ第2のロータ(8)のローラ(16)は引っ込められ,モータが逆に回転するときは反対になるように構成され・・・各ロータ(7,8)が,モータ出力シャフト(4)上に・・・取り付けられたキャリヤー(19)から成り,即ちローラ(16)がキャリヤー(19)を軸として回転する分離したローラ据え付け部(17,18)の中に回転するために個別に据え付けられており、ストップ(30,31;J-K,J1-K1;P-Q,P1-Q1;24)がローラ据え付け部の回転運動を制限するためにキャリヤー(19)と各ローラ据え付け部(17,18)上に備えられ・・・キャリヤー(19)が,反対側にある交差部(30,31)によって空間的に引き離された2つの平行平板(28)から成り,・・・交差部(30,31)が,ローラ据え付け部(17,18)上に形成されたストップ(J-K,J1-K1;P-Q,P1-Q1;24)とあいまって働くためのストップを構成し・・・各ローラ据え付け部(17,18)が,キャリヤー(19)の平板(28)の間に配置される実質上U字形のチャネルの形をしており,チャネルのリム(22,23)が,キャリヤー(19)の一方の交差部(30又は31)とあいまって働くためにローラ据え付け部の一方のストップを形成するための斜めの縁(J-K,J1-K1又はP-Q,P1-Q1)を形造るために一方の端の角がそがれており,チャネル基底(24)が,他の交差部(31又は30)とあいまって働くためのもう一方のストップを形成し・・・各ロータ(7,8)のローラ据え付け部(17,18)が,一方のロータ(7)の据え付け部(17,18)の斜めの縁(J-K,J1-K1;P-Q,P1-Q1)がモータシャフト(4)の一方の回転方向に向くように,かつ他方のロータ(8)の据え付け部の斜めの縁がシャフト回転の逆の方向に向くように,キャリヤー(19)を枢軸として回転する・・・蠕動ポンプ。」(特許請求の範囲第1〜6項) (4)対比・判断 本件発明と上記甲各号証に記載された発明とを対比すると、 上記甲各号証のいずれにも、本件発明の構成要件である、 「同一の回転駆動源に接続された第1のチューブポンプと第2のチューブポンプは、それぞれ、ポンプチューブと、回転駆動源に接続された駆動輪と、前記駆動輪に形成された周方向における中心からの距離が変化する長溝に移動自在に遊嵌されたローラーと、前記ローラに弾圧して前記ローラを、前記長溝に沿って前記駆動輪の回転方向に対応する位置に強制的に移動させるための静止部材に配置されたローラ押圧片とにより構成され」ている点 について、記載も示唆もされていない。 敷衍すると、甲第1号証には、吸引ポンプの具体的構成が何ら記載されておらず、また、甲第2号証に記載の「蠕動ポンプ」(チューブポンプ)は、回転駆動源に接続されたロータ(7,8)(駆動輪)に対するローラの支持が、上記ロータ(7,8)(駆動輪)に形成された周方向における中心からの距離が変化する長溝に移動自在に遊嵌されるものでなく、また、ローラを駆動輪の回転方向に対応する位置に強制的に移動させるための静止部材に配置されたローラ押圧片を備えるものでもない。 また、チューブポンプの技術分野において、回転駆動源の回転方向を異ならせることにより、選択的に吸引動作を行わせるための構成として、上記点は、周知のことでもない。 したがって、本件発明は、上記甲第1及び2号証に記載された発明と同一といえないばかりでなく、これらに記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 (5)むすび 以上のとおりであるから、特許異議申し立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1に係る発明についての特許を取り消すことができない。 また、他に本件請求項1に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件請求項1に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 インクジェット式記録装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】ノズル開口を有する第1、及び第2のインクジェット式記録ヘッドを搭載したキャリッジと、第1、及び第2の記録ヘッドのノズル開口を封止するとともに、吸引手段に接続する吸引口を有し、前記吸引手段から負圧の供給を受ける第1、第2のキャップ部材とを備えたインクジェット式記録装置において、 前記吸引手段が、同一の回転駆動源に接続された第1のチューブポンプと第2のチューブポンプとにより構成され、 前記第1のチューブポンプと前記第2のチューブポンプは、それぞれ、ポンプチューブと、回転駆動源に接続された駆動輪と、前記駆動輪に形成された周方向における中心からの距離が変化する長溝に移動自在に遊嵌されたローラーと、前記ローラに弾圧して前記ローラを、前記長溝に沿って前記駆動輪の回転方向に対応する位置に強制的に移動させるための静止部材に配置されたローラ押圧片とにより構成され、前記回転駆動源の一方の方向への回転では前記第1のチューブポンプだけが吸引動作を実行し、また前記回転駆動源の他方の方向への回転では前記第2のチューブポンプだけが吸引動作を実行するインクジェット式記録装置。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、記録用紙の幅方向に移動する複数のインクジェット式記録ヘッドを有し、印刷デ-タに一致して複数色のインクを記録用紙に噴射してカラー画像を印刷するインクジェット式プリンタや、同一キャリッジに複数のインクジェット式記録ヘッドを搭載して高い密度での印刷を可能としたインクジェット式記録装置、より詳細にはこのような記録装置に適したインクジェット式記録ヘッドを封止するためのキャッピング装置に適したチューブポンプに関する。 【0002】 【従来の技術】 圧力発生室で加圧したインクをノズルからインク滴として記録用紙に吐出させて印刷デ-タを記録するオンデマンド型インクジェット式記録装置は、ノズル開口からのインク溶剤の蒸発による粘度の上昇や、インクの乾燥、塵埃の付着、さらには気泡の混入などにより印刷不良を生じるという問題を抱いている。このため、インクジェット式記録装置は、非印刷時にノズル開口を封止するためのキャッピング装置を備えている。 このようなキャッピング装置としては、例えば特開平1-125239号公報に開示されたようにホ-ムポジションに移動して来たキャリッジに押されて移動するスライダを、フレ-ムに設けた傾斜案内面に沿わせてヘッドのノズル面側に移動させ、スライダの表面に設けたキャップ部材を記録ヘッドに圧接させてノズルを封止するようにしたものが提案されている。 【0003】 一方、パーソナルコンピュータの発達によりグラフィック処理が比較的簡単に実行できるようになったため、デイスプレイに表示されているカラー画像のハードコピーを出力できるプリンタが求められている。このようなカラー印刷を可能ならしめるインクジェット式プリンタは、色彩間でのインクの消費量、記録密度の相違、さらには休止時の混色の防止を考慮して、黒色印刷用の記録ヘッドと、カラー印刷用のヘッドとの2つの記録ヘッドがキャリッジに搭載して構成されている。 このため、複数のインクジェット式記録ヘッドのそれぞれに対応してキャッピング装置を設けることが行われているが、各記録ヘッドのノズルの目詰まりを解消等のために独立して負圧を供給する独立した吸引ポンプが必要となり、プリンタ全体の構造が複雑化するという問題がある。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、構造の複雑化を招くことなく、複数の記録ヘッドを封止する複数のキャップ部材に負圧を供給することができる吸引ポンプを備えたインクジェット式記録装置を提供することである。 【0005】 【課題を解決するための手段】 このような問題を解消するために本発明においては、ノズル開口を有する第1、及び第2のインクジェット式記録ヘッドを搭載したキャリッジと、第1、及び第2の記録ヘッドのノズル開口を封止するとともに、吸引手段に接続する吸引口を有し、前記吸引手段から負圧の供給を受ける第1、第2のキャップ部材とを備えたインクジェット式記録装置において、 前記吸引手段が、同一の回転駆動源に接続された第1のチューブポンプと第2のチューブポンプとにより構成され、 前記第1のチューブポンプと前記第2のチューブポンプは、それぞれ、ポンプチューブと、回転駆動源に接続された駆動輪と、前記駆動輪に形成された周方向における中心からの距離が変化する長溝に移動自在に遊嵌されたローラーと、前記ローラに弾圧して前記ローラを、前記長溝に沿って前記駆動輪の回転方向に対応する位置に強制的に移動させるための静止部材に配置されたローラ押圧片とにより構成され、前記回転駆動源の一方の方向への回転では前記第1のチューブポンプだけが吸引動作を実行し、また前記回転駆動源の他方の方向への回転では前記第2のチューブポンプだけが吸引動作を実行するように構成されている。 【0006】 【作用】 駆動源の回転方向を切替ることにより、2つのキャップに独立して負圧を供給することができる。 【0007】 【実施例】 そこで以下に本発明の詳細を図示した実施例に基づいて説明する。 図1は、本発明のチューブポンプが適用されるインクジェット式記録装置の印刷機構周辺の概要を示すものであって、図中符号1はキャリッジで、ガイド部材2に支持されるとともに、タイミングベルト3を介してパルスモータ23に接続されていて、プラテン5に平行に往復動可能に構成されている。 【0008】 キャリッジ1には記録用紙6にノズル開口を向けるようにして黒色印刷用の第1の記録ヘッド7と、カラー印刷用の第2の記録ヘッド8(図4)が搭載され、これら各記録ヘッド7、8の上部には黒色インクカートリッジ9と、カラーインクカートリッジ10が着脱自在に搭載されている。 このような構成によりフレキシブルケーブル11を介して図示しないヘッド駆動回路からの駆動信号を受けると、インクカートリッジ9、10からインクが記録ヘッド7、8に流入して記録用紙6に黒色、及び有色のドットを形成することができる。 【0009】 図2は、前述のキャッピング装置近傍の上面を示す図であって、図中符号20は、紙送りローラで、回転軸21の一端に固定された歯車22によりパルスモータからなる紙送り兼ポンプモータ24に接続して、記録用紙6を印刷工程に合わせて搬送するものである。 図中符号12は、キャリッジ1の移動経路の印刷領域外に配置された前述のキャッピング装置で、キャリッジ1の移動に連動して2つの記録ヘッド7、8のノズル開口面を覆うキャッピング位置と、ノズル開口面から離れる非キャッピング位置との2位置を占めるスライダ30に、弾性材料によりカップ状に形成された第1のキャップ部材31、第2のキャップ部材32が設けられている。これらキャプ部材31、32は、それぞれ対応する第1の記録ヘッド7と第2の記録ヘッド8のサイズに合わせて開口面積が選択されている。 【0010】 第1、第2のキャップ部材31、32は、その吸引口31a、32aをそれぞれポンプ37、38の一部を構成するチューブ33、34の一端に接続されていて、後述する第1、第2のチューブポンプ37、38からの吸引力を受けるようになっている。第1、第2のチューブポンプ37、38は、輪列40を介して紙送り兼ポンプモータ24に選択的に、つまりモータ24の逆転時には第1のチューブポンプ37だけが吸引動作を、また正転時には第2のチューブポンプ38だけが吸引動作を行うようになっている。 【0011】 図3、4は、それぞれ上述したキャッピングユニットの一実施例を示すものであって、図中符号30はスライダで、キャリッジ1に搭載された2つの記録ヘッド7、8の間隔に一致させて第1、第2のキャップ部材31、32が、軸31c、32cにより揺動可能に設けられている。図中符号41、42は、第1、第2のガイド片で、キャリッジ1の第1、第2の記録ヘッド7、8の幅に合わせて両側に配置され、またキャリッジ1が所定位置にセットされた時、各記録ヘッド7、8に対向できる間隔を離して設けられている。またスライダ30の先端、図中では右端には、キャリッジ1が第1、第2のキャップ部材31、32と第1、第2の記録ヘッド7、8とが丁度対向する箇所に移動したとき、キャリッジ1の下端の突起44に当接するフラッグ片45が形成されている。フラッグ片45よりもさらに先端には係合片46が設けられていて、基台に固定されたガイド部材47に当接、離間するようになっている。 【0012】 ガイド部材47には、スライダ30の抜けを防止する凸部47aと、常時は、スライダ1を記録ヘッド7、8の下端と一定の間隔を形成する位置に、またキャッピング時にはキャップ部材31、32を記録ヘッド7、8に弾接する位置とを結ぶ斜面47bが形成されている。 【0013】 一方、スライダ30の下部には、その中央にキャリッジ1の移動方向に直交する軸50が設けられ、この軸50の両側を、下端が長溝52aを介して基台53の軸54に揺動可能に取り付けられたレバー52に遊嵌されている。そしてスライダ30は、下端が基台53に固定されて印刷領域側に傾斜するとともに非印刷領域側に座屈ぎみのコイルバネ56の上端が取り付けられている。 【0014】 これにより非キャッピング時には、スライダ30は、一端をガイド部材47の斜面47bの最下端に、また中央部をレバー52に規制されながらコイルバネ56により印字領域側に付勢されて、記録ヘッド7、8が各キャップ部材31、32に接しない程度の間隔gを形成できる高さに、水平に位置することになる。 【0015】 また、スライダ30のケース61側には、各キャップ部材31、32に設けられている大気開放口31b、32bと接続するバルブユニット60が設けられている。バルブユニット60からは作動杆62が突出していて、スライダ30がキャッピング位置まで移動して、作動杆62がケース61に当接したとき、作動杆62が印刷領域側に押し込まれることにより大気開放口31b、32bがバルブユニット60により閉塞するようなっている。 【0016】 図5、6、7は、本発明が特徴とする吸引ポンプ13の一実施例を示すものであって、一方のポンプ37の駆動輪72が輪列70を介して紙送り兼ポンプモータ24に接続可能に構成されている。各キャップ部材31、32と廃インクタンク14とを接続しているポンプチューブ33、34は、その外側をほぼ円形状となるようにカバーケース73、74により覆われ、それぞれ接続部材76を介して連結されている回転軸77、78の両端に固定された駆動輪列72、81、82、83の後述する長溝に移動自在に遊嵌された2つのロ-ラ85、85、86、86により弾圧されるようになっている。 【0017】 図8(イ)、(ロ)は、それぞれこれらロ-ラ85、85、86、86を支持している駆動輪に形成された前述の案内溝90、90の一実施例を示すもので、この中心からの距離が徐々に変化する長溝として形成されており、紙送り兼ポンプモータ24が逆転(符号A)したときにはローラ85の軸85aが長溝90、90に沿って外周側に移動する。これによりロ-ラ85、85がチュ-ブ33を圧接しながら回動して吸引力を発生することになり、またモータ24が正転(符号B)したときには軸85aが中心方向に移動してローラ85、85がチューブ33から離れてポンプ作用を失うことになる。 【0018】 第2のチューブポンプ38は、第1のチューブポンプ37とは逆に動作するように構成されている。すなわちモータ24が逆転したときにはローラ86が中心方向に移動してポンプ作用を失い、またモータ24が正転するとローラ86、86が外周側に移動してチューブ34を弾圧しながら回動して吸引力を発生するようになっている。 【0019】 これによりモータ24の回転方向を切換えることにより、吸引力を発生させるポンプを選択することができる。なお図中符号92は、ゴム等の弾性部材で構成されたローラ押圧片で、駆動輪72が回転した場合に、ローラ85に弾圧して、ローラ85を長溝90に沿って、モータの回転方向に対応する位置に強制的に移動させるためのものである。 【0020】 次にこのように構成した装置の動作について説明する。 2つの記録ヘッド7、8を搭載したキャリッジ1が図9中矢印Cで示す方向に移動すると、キャリッジ1の下部に設けられた軸100を中心に矢印101に回動するレバー102が、斜面103に接触して回動され、この回動によりスライド歯車104がバネ105に抗して移動し、紙送り兼ポンプモータ24の動力が吸引ポンプ13に伝達される。このようにしてキャリッジ1が印刷領域外に位置するスライダ30に到達すると、第1の記録ヘッド7がスライダ30に設けられている第2のガイド42に係合する。この状態でさらにキャリッジ1がさらに移動すると、第1の記録ヘッド7が第1のガイド41に、また第2の記録ヘッド8が第2のガイド42に係合することになる。これによりスライダ30がキャリッジ1に対応する姿勢に整列される。この状態でさらにキャリッジ1が移動すると、キャリッジ1の先端に設けられている凸片44がスライダ30のフラッグ片45に当接する。これによりスライダ30の第1、第2のキャップ部材31、32は、キャリッジ1の第1、第2の記録ヘッド7、8を収容可能な位置に一定の間隙gを隔てて対向する。 【0021】 この状態で更にキャリッジ1が移動すると、スライダ30は、そのフラッグ片45がキャリッジ1の突起44を介してキャリッジ1からの力を受け、また上部がキャリッジ1の移動方向に座屈ぎみのコイルバネ56の付勢力を受けているレバー52の抵抗力を受けるため、前のめりとなり図中符号Dで示すようにスライダ30の後端を上部に持ち上げようとする力が作用する。 【0022】 この結果、スライダ30は、軸50を回動支点として後部が持ち上がり、軸50より後部(印刷領域側)に位置する第2のキャップ部材32が第2の記録ヘッド8に最初に当接する。このとき、キャップ部材32は、スライダ30に或程度揺動可能に取り付けられ、またスライダ30もレバー52を介して基台53に揺動可能であるため、第2の記録ヘッド8にガイドされながら上昇して第2の記録ヘッド8を封止できる位置でこれに当接する(図10)。 【0023】 さらにキャリッジ1がケース61側に移動すると、コイルバネ56はキャリッジ1からの力に抗し切れなくなって座屈し始め、スライダ30を上部(図中符号E)に持ち上げることになる。これによりスライダ30は、そのケース側を第2のキャップ部材32を第2の記録ヘッド8に嵌装した状態でそのまま持ち上げられ、第1のキャップ部材31を第1の記録ヘッド7に嵌装することになる。いうまでもなく、スライダ30が基台53に対して揺動するとともに、第1、及び第2のキャップ部材31、32は、スライダ30に対して或程度揺動でき、しかも自身が弾性部材で構成されているため、各記録ヘッド7、8の縁に案内されるようにして記録ヘッド7、8に填まり込む(図11)。 【0024】 このようにしてさらにキャリッジ1が移動すると、スライダ30は、その上面を記録ヘッド7、8に規制されながら水平にケース61に移動する。そしてスライダ30の先端から突出している作動杆62がケース61に当接し、図中符号方向に押し込まれ、各キャップ部材31、32の大気開放口31b、32bを大気と遮断する。 この状態では、コイルバネ56が大きく座屈するため、スライダ30は、コイルバネ56の弾性力で上部に持ち上げられ、したがって各キャップ部材31、32は、記録ヘッド7、8に弾接してこれを確実に密封することになる(図12)。 【0025】 このようにキャップ部材31、32が記録ヘッド7、8に弾接している状態では、レバー102により紙送り兼ポンプモータ24がチューブポンプ37の駆動輪72に接続されているので、モータ24を逆転させると、第1のチューブポンプ37、及び接続機構76を介して接続された第2のチューブポンプ38が回転する。第1のチューブポンプ37は、駆動輪72の図中矢印F方向の回転によりローラ85が長溝90にガイドされて外周方向に移動してチューブ33に弾接して吸引動作を始める(図13(イ))。 【0026】 一方、第2の第2のチューブポンプ38は、駆動輪が矢印Gの方向に回転するため、ローラ86、86が中心方向に移動してチューブ34を弾圧しない位置で実質的に空回りする(図13(ロ))。これにより、第1のキャップ部材31だけが吸引力を受けて第1の記録ヘッド7からインクを吸引する。第1の記録ヘッド7からキャップ部材31に吐出したインクは、チューブ33を経て廃インクタンク14に排出される。 【0027】 このようにして第1の記録ヘッド7からのインクの吸引が終了した段階で、モータ24を正転させると、第2のチューブポンプ38は、その駆動輪が矢印H方向に回転してローラ86、86を外側に移動させ、チューブ34に弾接する(図14(イ))。また第1のチューブポンプ37は、駆動輪が図中矢印J方向に回転してローラ85、85が中心方向に移動してチューブ33を弾圧しない位置に離れる(図14(ロ))。これにより第2のキャップ部材32が記録ヘッド7からインクを吸い出すことになる。第2のキャップ部材32に吐出されたインクはチューブ34を経て廃インクタンク14に排出される。 【0028】 紙送り兼ポンプモータ24の回転方向を選択することにより、吸引を必要とする一方の記録ヘッド7、あるいは8からだけインクを吸引するため、インク吸引を必要としない側のヘッドからのインク吸引を防止することができるばかりでなく、ポンプ1台を駆動するに要するトルクを賄うだけの小さな定格のモータを使用することができる。 【0029】 吸引動作が終了した段階で、最後に作動させたポンプ、この実施例では第2のチューブポンプ38の吸引力発生方向とは反対の方向に、駆動輪72、83を回転角度60乃至150度程回転させると、第1のポンプ37のローラ85、85は、チューブ33とローラ押圧片92によって、また回転角度150以下ではローラ85、85の位置に関りなくローラ押圧片95を乗り越えてチューブ33を弾圧するには至らず、また第2のポンプ38のチューブ34を弾圧していたローラ86、86は、長溝90の形状によって回転角度60度以上でチューブ34の弾性力によってチューブ34を弾圧しない位置に移動するため、第1、第2のチューブポンプ37、38は、各ローラ85、85、及び86、86がそれぞれのチューブ33、34を弾圧しない位置で停止状態となる(図15(イ)(ロ))。これにより第1、第2のキャップ部材37、38はそれぞれポンプを構成しているチューブ33、34を介して大気と連通することができて、気温の変化に起因する大気圧変動による記録ヘッドの印字不良を防止できるばかりでなく、ローラ85、85、86、86によるチューブの長時間の押潰しを防止することができる。 【0030】 一連の操作が終了して印刷デ-タが存在せず、休止状態に移る場合にはこの状態を維持する。他方、さらに引き続いて印刷を実行する場合には、キャリッジ1を図12の符号Kの方向に移動させると、第1、第2のキャップ部材31、32が記録ヘッド7、8に嵌合しているため、スライダー30がキャリッジ1の移動に追従して図中符号の方向に移動する。このようにしてスライダの突起46がガイド部材47の斜面47b最下部に到達すると(図9)、スライダ30がコイルバネ56により付勢されて下方に降下し、水平状態となる。これにより記録ヘッド7、8とスライダ30との間に間隙gが生じ、キャリッジが自由に主走査方向に移動可能となるから、記録ヘッドは、そのまま印刷領域に移動して印刷データに基づいて印刷動作を実行することになる。この状態ではスライダ30の係合片46がガイド片47の凸部47aに係合するから、所定の位置に静止することのなる。 【0031】 なお、上述の実施例においては記録ヘッドのノズル開口を下方に向けて配置したものに例を採って説明したが、ノズル開口を上向き、または水平に向けて配置された記録ヘッドに対しても、これら記録ヘッドの配置形態に対応するように、つまりノズル開口の面に対向する姿勢となるようにキャップを配置しても同様の作用を奏することは明らかである。 さらに上述の実施例においてはカラープリンタに例を採って説明したが、同色のインク滴を吐出する2つのインクジェット式記録ヘッドを同一のキャリッジに搭載して、記録密度を向上させるプリンタに適用しても同様の作用を奏することは明らかである。 【0032】 【発明の効果】 以上説明したように本発明によれば、駆動源を共用して2つのキャップに独立して負圧を供給することができ、記録装置の簡素化を図ることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明のインクジェット式記録装置の印刷機構周辺の構造を示す斜視図である。 【図2】 キャッピング装置を中心にして示す上面図である。 【図3】 キャッピング装置の一実施例を示す上面図である。 【図4】 キャッピング装置の一実施例を記録ヘッドに当接した状態で示す正面図である。 【図5】 紙送り兼ポンプモータが吸引ポンプに接続された状態を示す図である。 【図6】 本発明が特徴とする吸引ポンプを構成するチューブポンプの縦断面の構造を示す図である。 【図7】 チューブポンプの横断面の構造を示す図である。 【図8】 チューブポンプを構成している駆動輪に形成された長溝の形状を第1のチューブポンプでもって示す図である。 【図9】 キャリッジが、各記録ヘッドが各キャップ部材に対向する位置まで移動した状態を示す図である。 【図10】 キャリッジが、一方の記録ヘッドが一方のキャップ部材に当接した状態を示す図である。 【図11】 キャリッジが、2つの記録ヘッドが各キャップ部材に当接する位置に移動した状態を示す図である。 【図12】 キャリッジが、吸引可能位置に移動した状態を示す図である。 【図13】 図(イ)、(ロ)は、それぞれ紙送り兼ポンプモータが逆転した時の第1及び第2のチューブポンプの状態を示す図である。 【図14】 図(イ)、(ロ)は、それぞれ紙送り兼ポンプモータが正転した時の第2、及び第1のチューブポンプの状態を示す図である。 【図15】 図(イ)、(ロ)は、それぞれ紙送り兼ポンプモータが停止した時の第2、及び第1のチューブポンプの状態を示す図である。 【符号の説明】 1 キャリッジ 7、8 インクジェット式記録ヘッド 12 キャッピング装置 13 吸引ポンプ 24 紙送り兼ポンプモータ 30 スライダ 31、32 キャップ部材 37、38 チューブポンプ 41、42 ガイド部材 50 回動軸 52 レバー 56 コイルバネ 60 バルブユニット 61 ケース |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-05-24 |
出願番号 | 特願2001-5227(P2001-5227) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(B41J)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 門 良成 |
特許庁審判長 |
番場 得造 |
特許庁審判官 |
津田 俊明 藤井 靖子 |
登録日 | 2003-09-19 |
登録番号 | 特許第3473697号(P3473697) |
権利者 | セイコーエプソン株式会社 |
発明の名称 | インクジェット式記録装置 |
代理人 | 木村 勝彦 |
代理人 | 木村 勝彦 |