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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) F01N
管理番号 1122957
判定請求番号 判定2004-60055  
総通号数 70 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1991-01-31 
種別 判定 
判定請求日 2004-06-18 
確定日 2005-09-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第2857767号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号説明書に示す「粗面仕上金属箔」は、特許第2857767号請求項1に係る発明の技術的範囲に属する。 
理由 I.請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号説明書に示す粗面仕上金属箔(以下、「イ号物件」という)は、特許第2857767号請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

II.本件特許発明
本件特許発明は、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載されたとおりのものであって、その構成、目的及び効果は、以下のとおりである。

1.本件特許発明の構成要件
本件特許発明を構成要件に分説し、符号を付すと、次のとおりである(以下、「構成要件A」などという)
構成要件A:ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体に用いられる耐熱性ステンレス鋼製の金属箔において、
構成要件B:表面粗度Rmaxが0.7〜2.0μmである
構成要件C:ことを特徴とする粗面仕上金属箔。

2.本件特許発明の目的及び効果
本件明細書によれば、本件特許発明は「ろう付構造を有する金属ハニカムの欠点である平板と波板のろう接合性を改善し、かつ金属ハニカムの長所を最大限に発揮させる」(本件特許掲載公報第2頁第3欄第44〜46行)ということを目的とし、「自動車排気ガス触媒金属担体を製造するにあたり、表面を粗面仕上げに調整を行った箔材をハニカム形成材として用いることにより、ろう付け性が良好となると共にPt等の貴金属触媒の密着性も向上し、急速な加熱冷却にも耐える耐熱疲労性を有する金属担体を提供することを可能にしたものである。」(本件特許掲載公報第3頁第6欄第19〜24行)という効果を奏するものである。

III.イ号物件の構成
請求人は、判定請求書において、イ号物件を具体的には、「被請求人が製造し、少なくともドイツ国のエミテック社に対して販売しているステンレススチール箔」(判定請求書第7頁第18〜19行、第8頁第8〜12行)とし、別紙のイ号説明書でその構成を特定している。
これに対して、被請求人は、判定事件答弁書において、上記ステンレススチール箔がイ号説明書で正確に記述されたものであるかどうかについて争うことを留保しつつも、「しかしながら、今後、イ号説明書の記述に合致する製品を被請求人が日本国内において製造、販売する可能性は皆無ではないから、ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体の製造に用いられることを前提とするイ号物件について判定を請求することも無益ではないと考えられる。したがって、被請求人は判定請求の利益についてはあえて争わないこととする。」(判定事件答弁書第3頁第6〜10行)と、イ号説明書で特定されるイ号物件について判定することを争っていない。
したがって、イ号物件はイ号説明書で特定されるものとして、以下の判定を行う。
本件判定請求に添付されたイ号説明書には、イ号物件について、
「ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体の製造に用いられるFe-Cr-Al系ステンレス箔であって、基準長さを0.25mmとして測定した場合におけるRmaxが0.7μm未満であり、基準長さを0.8mmとして測定した場合におけるRmaxが0.7〜2.0μmである、粗面仕上金属箔。」
と記載されている。
ところが、請求人は平成16年12月8日付け上申書において、「イ号説明書を本上申書別紙のように訂正する。」(平成16年12月8日付け上申書第4頁第7行)とした。そして、新たな別紙のイ号説明書には、
「日本国内で製造され、国外に供給され国外においてろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体の製造に用いられるFe-Cr-Al系ステンレス箔であって、基準長さを0.25mmとして測定した場合におけるRmaxが0.7μm未満であり、基準長さを0.8mmとして測定した場合におけるRmaxが0.7〜2.0μmである、粗面仕上金属箔。」
と記載されている。
しかしながら、この記載において、「日本国内で製造され、国外に供給され国外において」の記載は、粗面仕上金属箔の製造場所、供給場所、用いられる場所を特定したものであり、粗面仕上金属箔の技術的特徴を何ら記載したものではないから、本件判定請求のイ号物件は、当初のイ号説明書から認定すべきものと云える。
そこで、イ号物件を当初のイ号説明書から構成に分説し、符号を付すと次のとおりである(以下、「構成a」などとという)。
構成a:ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体の製造に用いられるFe-Cr-Al系ステンレス箔であって、
構成b:基準長さを0.25mmとして測定した場合におけるRmaxが0.7μm未満であり、基準長さを0.8mmとして測定した場合におけるRmaxが0.7〜2.0μmである、
構成c:粗面仕上金属箔。

IV.当審の判断
イ号物件の構成a、cは、それぞれ本件特許発明の構成要件A、Cを充足することは明らかであるから、ここでは、イ号物件の構成bが本件特許発明の構成要件Bを充足するかどうかについて検討する。
そこで、イ号物件の構成bと本件特許発明の構成要件Bとを対比すると、構成bが「基準長さを0.25mmとして測定した場合におけるRmaxが0.7μm未満であり、基準長さを0.8mmとして測定した場合におけるRmaxが0.7〜2.0μmである」であり、構成要件Bが「表面粗度Rmaxが0.7〜2.0μmである」であるから、イ号物件の構成bが本件特許発明の構成要件Bを充足しているかどうかを判断する場合、イ号物件の構成bの「基準長さを0.25mmとして測定した場合におけるRmaxが0.7μm未満であり、」の部分については検討しなくてもよく「基準長さを0.8mmとして測定した場合におけるRmaxが0.7〜2.0μmである」について検討すればよいから、本件特許発明の構成要件Bにおいて、基準長さが0.8mmであるならば、イ号物件の構成bは本件特許発明の構成要件Bを充足していると云える。
したがって、本件特許発明の構成要件Bの基準長さについて検討する。
本件明細書には、Rmaxの測定方法について、「本発明は金属ハニカムを構成する金属箔を粗面仕上げに調整したものを用いることを特徴としており、JIS(B0601-1970)に規格化されている表面粗度(Rmax)は0.7〜2.0μm、好ましくは1.0〜1.5μmである。」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第11〜14行 )と記載されている。

そこで、JIS(B0601-1970)(甲第2号証)をみると、次のとおり記載されている。
(あ)「(1)表面あらさ 機械表面の表面あらさとは、その表面からランダムに抜き取った各部分におけるRmax、RzまたはRaのそれぞれの算術平均値とする。
備考1.一般に機械表面では個々の位置における表面あらさは一様でなく、相当に大きなばらつきを示すのが普通である。したがって、機械表面の表面あらさを求めるには、その母平均が効果的に推定できるように測定位置およびその個数を定める必要がある。」(第1頁)
(い)「3.最大高さ 3.1 抜き取り部分の最大高さ 断面曲線から基準長さだけ抜き取った部分(以下抜き取り部分という。)の平均線に平行な2直線で抜き取り部分をはさんだとき、この直線の間隔を断面曲線の縦倍率の方向に測定して、その値をミクロン単位(μ=0.001mm)で表したものを抜き取り部分の最大高さという。」(第1頁)
(う)「3.2 基準長さ 抜き取り部分の最大高さを求める場合の基準長さは、原則としてつぎの6種類とする。0.03、0.25、0.8、2.5、8、25 単位mm
3.3 基準長さの標準値 とくに指定する必要のない限り最大高さを求める場合の基準長さの標準値は、表1の区分による。」(第2頁)
(え)第2頁表1 最大高さを求めるときの基準長さの標準値には、次の表が記載されている。
最大高さの範囲
をこえ 以下 基準長さ (mm)
- 0.8μRmax 0.25
0.8μRmax 6.3μRmax 0.8
6.3μRmax 25μRmax 2.5
25μRmax 100μRmax 8
(お)「備考 最大高さは、まず基準長さを指定したうえで求めるが、表面あらさの表示や指示を行う場合、そのつどこれを指定するのは不便であるので、とくに指定する必要のない限りは、この表の値を用いる。」(第2頁)
(か)「3.4・・・備考 表1に示す基準長さの標準値を用いて得られた最大高さの値が表1に示す範囲にある場合は、基準長さの表示を省略することができる。」(第2頁)

このJIS規格から、本件特許発明の構成要件Bの基準長さを検討する。
本件明細書では、本件特許発明の粗面仕上金属箔について具体的には、
「かかる金属箔の製造法としては、たとえば♯80〜♯120番程度の研磨仕上げを行った圧延ロールを用いて冷間圧延を行うことにより、表面粗度Rmax0.7〜2.0μmの粗面仕上金属箔が得られる。」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第14〜18行)としている。
このように、本件特許発明における課題解決手段は、表面粗度のRmax(最大高さ)の数値範囲を限定することであり、具体的には0.7〜2μmとすることが特許請求の範囲に規定されている。
そしてJIS規格には、「3.4・・・備考 表1に示す基準長さの標準値を用いて得られた最大高さの値が表1に示す範囲にある場合は、基準長さの表示を省略することができる。」(上記(か))と記載されているから、本件特許請求の範囲において、基準長さの表示が省略されているのは、上記の条件をほぼ満足しているからと解するのが相当である。
Rmax(最大高さ)0.7〜2μmは、表1(上記(え))の0.8〜6.3μmの数値範囲に大部分が包含されるから、省略されている測定時の基準長さは0.8mmであることは明らかである。

ところで、被請求人は次のとおり主張している。
「・・・本件の本質的な問題は、基準長さを明記していないことにある。したがって、本来、記載不備の無効事由を論ずべきであることは答弁書ですでに指摘したとおりである。仮に、記載不備を不問にして技術的範囲を判断するのであれば、次の2つの原則が守られる必要がある。第1に、当業者の常識に従うこと、第2に、不明確さがある場合には、特許権者に不利益な推定をすることの2点である。
そこで、明細書の記載をあらためて検討すると、明細書に引用された1970年のJISでは、本件特許発明の表面粗度Rmaxの下限である0.7μmに対しては基準長さ0.25mmを適用し、上限である2.0μmに対しては基準長さ0.8mmを適用することになる。しかし、技術的範囲を確定するには、対象物件の表面組度は客観的、かつ、一義的に決定できなければならないから、両者に対して同一の基準長さを適用する必要がある。したがって、本来、適用すべき基準長さを明細書に明記しなければならない。しかるに、本件特許の明細書にはその記載がないのであるから、前記2つの原則に従って解釈されなければならない。まず、当業者の常識に基づいて解釈するならば、本件特許発明の効果を奏するためには表面粗度Rmaxの下限に意味があることが重要である(特許公報第2図参照)。また、請求人自身も主張するとおり、比較が意味を持つためには、同一の条件で従来技術との比較をすることが必要となるところ、本件特許公報において「通常の圧延箔の粗度 Rmax0.2〜0.3μm」(第4欄24〜25行目)との記載があるから、通常の圧延箔の表面粗度Rmaxの測定は基準長さ0.25mmで行ったと理解できる。本件特許の特許公報が引用している1970年のJISでは、Rmax0.8μm以下の場合の基準長さは0.25mmと規定されている(甲第2号証の表1参照)。したがって、本件特許発明の表面粗度Rmaxは、基準長さ0.25mmで測定されたものであることが明らかである。」(被請求人提出平成17年3月11日付け口頭審理陳述要領書第4頁第3〜27行)
この被請求人の主張は、突き詰めれば、本件特許発明の表面粗度Rmaxは、基準長さ0.25mmで測定されたものであるというにある。

そこで、この被請求人の主張について検討する。
本件明細書には、被請求人の言及する通常の圧延箔については、
「一般にハニカムを構成するステンレス鋼箔は、冷間圧延のままの状態で使用に供され、その表面は♯600番程度の研磨仕上げを行った圧延ロールが使用され表面粗度はRmaxで0.2〜0.3μm程度と極めて小さく、光沢も非常に良好であるのが特徴である。」(本件特許掲載公第2頁第3欄第19〜23行)と記載されている。
かかるステンレス鋼箔のRmaxを測定する場合、一般的には、被請求人が主張しているとおり、JIS規格(上記(え))からみて基準長さを0.25mmとしていると解するのが技術的にみて違和感がない。
しかしながら、本件特許発明の構成要件Bにおいては、ある範囲のRmaxから特定の数値範囲を選択しているのである。
すなわち、本件明細書においては、Rmaxの数値範囲を特定した要因を次のとおり記載している。
「本発明において、箔の表面粗度の下限をRmax0.7μm、上限をRmax2.0μmと定めたのは、ステンレス鋼箔へバインダーを塗布し、ぬれ性に及ぼす表面粗度の影響を検討した結果を第2図に示すごとく、表面粗度Rmax0.2〜0.6μmではぬれ性が著しく劣るのに対して、Rmax0.7μm以上では、ぬれ性ランクが2〜3ランクが向上し良好となる。またRmax2.0μmを超えても、ぬれ性は良好であるがそれほど変化はなく、箔の最適な表面粗度としては、Rmax0.7〜2.0μm、好ましくは1.0〜1.5μmである。」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第42行〜第3頁第5欄第1行)
そして、この要因を導くために検討した具体的なRmaxの数値について、本件明細書では、第1表によれば、比較例としてのRmaxの数値は0.26、0.31、0.35であり、本発明法としてのRmaxの数値は0.70、1.00、1.51であり、そして、第2図の箔の表面粗度がバインダーのぬれ性に及ぼす影響を示す図では、図面から判断すると、Rmaxの数値は、0.2、0.4、0.6、0.7、1.0、1.5、1.9、2.5、2.8等である。
してみると、本件特許発明の構成要件BのRmaxの特定には、その数値範囲前後の数値を検討していることがわかる。
上述のとおり、本件特許発明のRmax(最大高さ)0.7〜2μmの、省略されている測定時の基準長さは0.8mmであることは明らかである。
そして、表面粗度Rmax0.7〜2.0μmの粗面仕上金属箔の基準長さを0.8mmとした以上、上記第1表や第2図のRmaxは、表面粗度Rmax0.7〜2.0μmの粗面仕上金属箔の基準長さと同じ基準長さで測定してなければ意味がないから、本件特許発明の構成要件Bの省略されている基準長さの0.8mmで測定したものと考えるべきである。
したがって、通常の圧延箔から類推して、本件特許発明の構成要件Bの基準長さは、0.25mmであるという、被請求人の主張は採用できない。
したがって、イ号物件の構成bは本件特許発明の構成要件Bを充足する。

V.むすび
以上のとおりであるから、イ号説明書に示す粗面仕上金属箔は、特許第2857767号請求項1に係る発明の技術的範囲に属するものである。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲 イ号説明書
「ろう付け構造を有する自動車の排ガス触媒担体の製造に用いられるFe-Cr-Al系ステンレス箔であって、基準長さを0.25mmとして測定した場合におけるRmaxが0.7μm未満であり、基準長さを0.8mmとして測定した場合におけるRmaxが0.7〜2.0μmである、粗面仕上金属箔。」
 
判定日 2005-09-07 
出願番号 特願平1-155057
審決分類 P 1 2・ 1- YA (F01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 新居田 知生  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 鈴木 毅
野田 直人
登録日 1998-12-04 
登録番号 特許第2857767号(P2857767)
発明の名称 粗面仕上金属箔および自動車の排ガス触媒担体  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 増井 和夫  
代理人 田中 久喬  

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