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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H02M |
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管理番号 | 1124322 |
異議申立番号 | 異議2003-72988 |
総通号数 | 71 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-12-08 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-09 |
確定日 | 2005-10-01 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3413754号「電源装置、蛍光ランプ装置および照明装置」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3413754号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 (1)本件特許第3413754号の請求項1ないし10に係る発明についての出願は、平成9年5月23日に特許出願され、平成15年4月4日にその発明について特許権の設定登録がなされ、平成15年6月9日にその特許公報が発行された。 (2)これに対し、平成15年12月9日に松下電器産業株式会社より特許異議の申立てがなされ、当審において平成17年1月19日付けで「特許第3413754号の請求項1ないし10に係る特許を取り消す。」との決定がなされた。 (3)本件発明の特許権者は、平成17年3月4日付けで東京高等裁判所に特許取消決定を取り消すことを求めた訴訟を提起した(平成17年行ケ第10387号)。 (4)本件発明の特許権者は、平成17年5月31日付けで本件特許につき、特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判の請求をしたところ(訂正2005-39085号)、平成17年6月23日付けで当該訂正を認める旨の審決がなされた。 (5)その後、知的財産高等裁判所において、特許取消決定を取り消す旨の判決(平成17年7月19日言渡)がなされた。 第2.本件発明 平成17年6月23日付けで訂正認容審決がなされたため、本件特許第3413754号の請求項1ないし9に係る発明(以下、「本件発明1」、・・・「本件発明9」という。)は、当該訂正審判請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載されている事項により特定される、以下のとおりのものであると認められる。 「【請求項1】全波整流器と; この全波整流器の出力を平滑する平滑コンデンサと; 平滑コンデンサに対して並列に接続されたNチャネルのトランジスタおよびPチャネルのトランジスタの直列回路を主スイッチング素子としたハーフブリッジ型のインバータ回路と; 直列に接続されたインダクタおよびコンデンサの共振回路を有し、この共振回路の共振によりNチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートに交互に電圧を印加してこのインバータ回路のNチャネルのトランジスタおよびPチャネルのトランジスタを制御する制御手段と; 平滑コンデンサの一端とNチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートとの間に接続された抵抗およびPチャネルのトランジスタのドレイン、ソース間に接続された抵抗を有し、これらの抵抗を介してNチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートに電圧を印加する起動回路と; を具備したことを特徴とする電源装置。 【請求項2】 Nチャネルのトランジスタは、高電位側に位置する ことを特徴とする請求項1記載の電源装置。 【請求項3】 インバータ回路に接続されたバラストチョークを備え、 制御手段は、このバラストチョークに磁気的に接続された二次巻線を有し、 この二次巻線に誘起された電圧で共振回路のインダクタおよびコンデンサが共振してNチャネルのトランジスタおよびPチャネルのトランジスタを駆動する ことを特徴とする請求項1または2記載の電源装置。 【請求項4】 トランジスタは、MOS型電界効果トランジスタおよびIGBTのいずれかである ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載の電源装置。 【請求項5】 起動回路は、共振回路のコンデンサに直列に接続されNチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートに電圧を印加するコンデンサを有する ことを特徴とする請求項1ないし4いずれか一記載の電源装置。 【請求項6】 請求項1ないし5いずれか一記載の電源装置と; この電源装置により点灯される蛍光ランプと; を具備したことを特徴とする蛍光ランプ装置。 【請求項7】 口金を有する基体と; この基体に収容される請求項1ないし5いずれか一記載の電源装置と; 基体に取り付けられインバータにより点灯される蛍光ランプと; を具備したことを特徴とする蛍光ランプ装置。 【請求項8】 基体に取り付けられこの基体とともにほぼ電球型となるグローブ を具備したことを特徴とする請求項7記載の蛍光ランプ装置。 【請求項9】 請求項6ないし8いずれか一記載の蛍光ランプ装置と; 蛍光ランプ装置が取り付けられる器具本体と; を具備したことを特徴とする照明装置。」 第3.特許異議申立の理由の概要 異議申立人は、訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、下記の2点の理由により取り消すべきでものである旨主張している。 (1)理由1 訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、本件特許の出願日前の米国出願である米国出願第709062号(異議申立人が提出した甲第2号証)を基礎としてなされた出願であり、かつ本件特許の出願後に公開された特開平10-162983号公報(特願平9-240521号、異議申立人が提出した甲第1号証)に記載された発明であり、また出願人が同一でなく、発明者も同一でないから特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであり、上記各発明に係る特許はいずれも特許法第113条第1項第2号により取り消すべきものである。 (2)理由2 訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、特開昭63-310597号公報(異議申立人の提出した甲第3号証)及び特開昭63-73884号公報(異議申立人が提出した甲第4号証)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、上記各発明に係る特許はいずれも特許法第113条第1項第2号により取り消すべきものである。 第4.理由1の検討 1.先願発明 特願平9-240521号(特開平10-162983号)の明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、以下の記載がある。 a.「【0009】 【好適実施例の記載】 発明の第一の態様 図1-6により、本発明の第一の態様を説明する。図1は、本発明の第一の態様によるガス放電ランプ12のための安定回路10を示す。スイッチQ1およびQ2は、電源14からの直流電流、たとえば全波ブリッジ(図示しない)の出力を、共振インダクタLRおよび共振コンデンサCRを含む共振負荷回路16が受ける交流電流に変換するように、それぞれ制御される。導体18と基準導体20との間に直流バス電圧VBUSが存在する。便宜上、基準導体20は地気として示されている。共振負荷回路16には、ランプ12も含まれている。図示するように、ランプ12は共振コンデンサCRに並列接続してもよい。コンデンサ22および24は、それらの共通に接続された節点23をバス電圧VBUSの約1/2に維持するための標準の「ブリッジ」コンデンサである。共振負荷回路16内にランプ12を相互接続するための他の構成、およびブリッジコンデンサ22および24の代替構成は当業者には知られている。 【0010】図1の安定回路10では、スイッチQ1とQ2は互いに相補形である。たとえば、スイッチQ1を図示するようにnチャネルエンハンスメントモードのデバイスとし、スイッチQ2を図示するようにpチャネルエンハンスメントモードのデバイスとする。これらはMOSFETスイッチの公知の形式であるが、たとえば、バイポーラ接合型トランジスタスイッチを使用することもできる。各スイッチQ1、Q2はそれぞれのゲート、すなわち制御端子G1、G2をそなえている。スイッチQ1のゲートG1からソースS1までの電圧が、そのスイッチの導電状態を制御する。同様に、スイッチQ2のゲートG2からソースS2までの電圧が、そのスイッチの導電状態を制御する。図示するように、ソースS1とソースS2は共通の節点26で一緒に接続されている。ゲートG1とゲートG2が共通制御節点28で相互接続され、制御節点28と共通節点26との間の単一の電圧が、両方のスイッチQ1およびQ2の導電状態を制御する。スイッチのドレーンD1およびD2は、それぞれバス導体18および基準導体20に接続されている。」 b.「【0015】次に、図1の回路からインダクタ34を除くと、次の回路解析はゲート駆動回路30の動作を説明する。図4を参照し、上記のように定義されたI0のような項を用いて、双方向電圧クランプ36の逆直列接続されたツェナーダイオードが導電状態にあるときの状態について説明する。電流I0は次の式で表すことができる。 【0016】 I0=(LR/nL32)IR (5) ここでLR(図1)は共振インダクタ、nはLRとLDとの間のターン比、そしてIRは共振インダクタLRの電流である。ツェナーダイオード36を通る電流I36は次の式で表すことができる。 【0017】 I36=I0-I32 (6) ツェナーダイオード36が導電状態にあるとき、コンデンサ38(図1)を通る電流は零であり、I0の大きさはI32より大きい。このときツェナーダイオード36の両端間の電圧V36(ゲート-ソース間電圧)は、活動状態すなわちクランプしている一方のツェナーダイオードの定格クランプ電圧(たとえば7.5ボルト)と他方の非クランプダイオードの両端間の電圧降下(たとえば0.7ボルト)との和に+または-の符号をつけたものとなる。 【0018】次にツェナーダイオード36が導電状態にないときは、コンデンサ38(図1)の両端間の電圧は負の値から正の値へ、または正の値から負の値へと状態を変える。この変化の間のこのような電圧の値は、スイッチQ1およびQ2の一方をターンオンさせ、他方をターンオフさせるのに充分である。上記のようにコンデンサ38は、ゲート-ソース電圧の予測可能な変化速度を保証する。更に、ツェナーダイオード36が導電状態にないときは、I32の大きさはI0の大きさより大きい。このとき、コンデンサ38の電流IC は次のように表すことができる。 【0019】 Ic=I0-I32 (7) 電流I32は三角波形である。電流I36(図4)は、ゲート-ソース電圧が一定である(すなわち、ツェナーダイオード36が導電状態にある)間、I0とI32との差である。電流ICは、ツェナーダイオード36が導電状態にないときにI0とI32との差によって生じる電流である。したがってICにより、コンデンサ38の両端間の電圧(すなわち、ゲート-ソース電圧)が状態を変え、これによりスイッチQ1およびQ2が上記のようにスイッチングする。ゲート-ソース電圧は、正電圧から負電圧への遷移と負電圧から正電圧への遷移により、ほぼ方形波となり、コンデンサ38を含めることにより予測可能となる。」 以上のことから、先願明細書には、自明の事項も考慮すると次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているものと認められる。 「全波ブリッジと; 全波ブリッジに対して並列に接続されたnチャンネルエンハンスモードのスイッチQ1およびpチャンネルエンハンスモードのスイッチQ2の直列回路を主スイッチング素子としたハーフブリッジ型の安定回路10と; nチャンネルエンハンスモードのスイッチQ1のゲートG1およびpチャンネルエンハンスモードのスイッチQ2のゲートG2に交互に電圧を印加してこの安定回路10のnチャンネルエンハンスモードのスイッチQ1およびpチャンネルエンハンスモードのスイッチQ2を制御するゲート駆動回路30と; を備えたガス放電ランプ用安定回路。」 2.対比・判断 (1)本件発明1についての判断 本件発明1と先願発明とを対比すると、後者における「全波ブリッジ」がその作用・機能からみて前者における「全波整流器」に相当し、以下同様に、後者の「nチャンネルエンハンスモードのスイッチQ1およびpチャンネルエンハンスモードのスイッチQ2」が前者の「NチャネルのトランジスタおよびPチャネルのトランジスタ」に、後者の「安定回路」が前者の「インバータ回路」に、後者の「ガス放電ランプ用安定回路」が前者の「電源装置」に相当し、後者の「ゲート駆動回路」と前者の「制御手段」とは、いずれも「NチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートに交互に電圧を印加してこのインバータ回路のNチャネルのトランジスタおよびPチャネルのトランジスタを制御する制御手段」という概念で共通する。 以上のことから、本件発明1と先願発明とは以下の一致点及び相違点を有することとなる。 (一致点) 「全波整流器と; 全波整流器に対して並列に接続されたNチャネルのトランジスタおよびPチャネルのトランジスタの直列回路を主スイッチング素子としたハーフブリッジ型のインバータ回路と; NチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートに交互に電圧を印加してこのインバータ回路のNチャネルのトランジスタおよびPチャネルのトランジスタを制御する制御手段と; を具備した電源装置。」 (相違点) 本件発明1が「全波整流器の出力を平滑する平滑コンデンサ」及び「平滑コンデンサの一端とNチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートとの間に接続された抵抗およびPチャネルのトランジスタのドレイン、ソース間に接続された抵抗を有し、これらの抵抗を介してNチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートに電圧を印加する起動回路」を備えるとともに、「制御手段」が「直列に接続されたインダクタおよびコンデンサの共振回路」を有するのに対し、先願発明はかかる平滑コンデンサ、起動回路、共振回路を備えていない点で相違する。 そうすると、先願発明は、本件発明1の必須の構成である「平滑コンデンサ」、「起動回路」及び「共振回路」を備えておらず、本件発明1が先願発明と同一であるとすることはできない。 (2)本件発明2ないし9についての判断 本件発明2ないし9は、いずれも本件発明1の構成を更に限定したものに相当するから、本件発明1が先願発明と同一であるとすることができない以上、同様の理由により、本件発明2ないし9についても先願発明と同一であるとすることはできない。 第5.理由2の検討 1.引用刊行物 (1)特開昭63-310597号公報(異議申立人の提出した甲第3号証) 上記刊行物(1)(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の記載がある。 a.「本発明の目的は従来の変換器における欠点を除去すると共に、回路に必要とされる部品を最少に減らすように適切に接続配置した直流-交流変換器を提供することにある。 本発明は、冒頭にて述べた種類の直流-交流変換器において、前記第2スイッチング素子の制御回路が前記第1スイッチング素子の制御回路に接続した整流素子に接続される電圧測定点を有することを特徴とする。 第2スイッチング素子の制御回路は主制御回路として機能し、かつ第2スイッチング素子の制御回路は補助制御回路として機能する。第2スイッチング素子の瞬時導通状態は斯かる補助制御回路にて整流素子を介して固定される。第1スイッチング素子は、第2スイッチング素子の制御回路の電圧値に基いて第2スイッチング素子の導通状態とは反対の導通状態に持たされる。」(2頁下段左欄3-20行。) b.「さらに、従来の変換器と比較するに、回路に必要とされる電気部品の数も少なくて済む。さらにまた、(例えば「表面取付デバイス」技法により)部品の集積化が一層実用的となる。これにより、一般的な照明目的用の白熱ランプに取って替わるコンパクトな放電ランプに変換器を首尾良く使用することができる。」(2頁下段右欄6-12行。) c.「第2図における第1図の素子と同一素子を示すものには同一符号を付して示してある。12及び13は直流電圧源(220V、50Hz)に接続する入力端子を示す。入力端子12を抵抗14を介してダイオードブリッジ15の入力端子に接続する。ブリッジ15の2つの端子はコンデンサ16によって相互接続する。抵抗14とコンデンサ16は入力フィルタを構成する。ブリッジ15の出力端子を平滑コンデンサ17によって相互接続する。」(3頁下段右欄11-19行。) d.「コイル19はコイル5における補助巻線21を介してコイル5に電気的に接続する。」(4頁上段右欄4-5行。) e.「変換器は始動回路も具えており、この始動回路は抵抗33と34の接続点と、第2スイッチング素子7の制御電極との間に配置する抵抗31と二方向性のブレークダウン素子(ダイアック)32との直列回路で構成する。抵抗33と34との接続点と、前記接続点Aとの間にはコンデンサ35も接続する。」(4頁下段左欄3-9行。) f.「本発明による変換器はつぎのように作動する。端子12及び13を給電幹線(220V,50Hz)に接続すれば、コンデンサ17はダイオードブリッジ15を介して充電される。これによりコンデンサ4及び11もコイル18を経て充電される。始動コンデンサ35も回路18,33,35及びA、Dを経て充電される。コンデンサ35の電圧が回路素子32のスレッショールド電圧に達すると、この素子32が導通して、これは回路素子31を介して第2半導体スイッチング素子7を導通させる。」(4頁下段左欄14行-同右欄3行。) g.「第1スイッチング素子6を導通させる制御信号はコンデンサ4及び11の電圧によって直接供給される。コイル19とコンデンサ20(LC発振回路)によって周波数が極めて正確に決定される直流電圧が点PとAとの間のコンデンサ20の両端間に発生する。この直流電圧に応答して第2スイッチング素子7をスイッチ・オフさせることができる。電流が依然コイル5を経て流れている間は第1スイッチング素子6にフリーホイール電流が流れて第2スイッチング素子7はスイッチ・オフされる。従って、点Aの電位は点Dにおける電位と同じとなる。点Pにおける電圧が点Aにおける電圧に対して負となる場合に、補助トランジスタ22の制御が整流素子10を介してオフセットされ、この補助トランジスタ22はターン・オフする。しかし、点PとAとの間の電圧差が再び零となるや歪や補助トランジスタ22はターン・オンし、第1スイッチング素子6は非導通となる。ついで第2スイッチング素子7が再び導通し、このような状態が繰返えされる。従って、点Pの電圧は第2スイッチング素子7の制御回路9にて測定され、この測定電圧は第1スイッチング素子6を導通させる時点を決定する。」(4頁下段右欄7行-5頁上段左欄9行。) h.「MOST-FET6:タイプBST78 MOST-FET7:タイプBST78」(5頁上段右欄3-4行。) 上記引用例1の記載によれば以下のことが明らかである。 ア.上記aないしh及び図面から、引用例1の第2半導体スイッチング素子7及び第1半導体スイッチング素子6の実施例として、それぞれ同一タイプ(タイプBST78)のMOST-FET7及びMOST-FET6が記載され、これら2つのMOST-FETはトランジスタであって、この2つのトランジスタをスイッチング素子とした回路は、ハーフブリッジ型のインバータ回路を成すといえる。 イ.上記a、gから、上記2つのスイッチング素子のうち、MOST-FET6は、補助トランジスタ22及び整流素子10よりなる制御回路8(補助制御回路)により制御されるものであるといえる。 ウ.上記g及び第2図から、制御回路9および補助制御回路8は、直列に接続されたインダクタ(コイル19)およびコンデンサ(コンデンサ20)の共振回路(LC発振回路)を有し、この共振回路の共振により前記同一タイプより成るMOST-FET7のゲート及び(整流素子10と補助トランジスタ22等により構成される)補助制御回路8によりMOST-FET6のゲートに交互に電圧を印加して前記インバータ回路のMOST-FET7およびMOST-FET6を制御する制御手段であるといえる。 エ.引用例1の直流-交流変換器は、その全体として電源装置を構成するといえる。 オ.上記e、f及び第2図から、電源装置(直流-交流変換器)は、全波整流器(ダイオードブリッジ15)と、この全波整流器の出力を平滑化するとともにインバータ回路のMOST-FET7およびMOST-FET6の直列回路が並列に接続された平滑コンデンサ(平滑コンデンサ17)と、この平滑コンデンサの一端に接続された起動用の抵抗(抵抗33)を有し、少なくとも起動用の抵抗を介してインバータ回路のMOST-FET7に電圧を印加する起動回路(始動回路)とを具備する。 以上のことから、引用例1には、自明の事項も考慮すると次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「全波整流器(ダイオードブリッジ15)と、 この全波整流器の出力を平滑する平滑コンデンサ17と、 平滑コンデンサに対して並列に接続された同一タイプのMOST-FET7からなるトランジスタおよび補助制御回路8により制御されるMOST-FET6からなるトランジスタの直列回路をスイッチング素子としたハーフブリッジ型のインバータ回路と、 直列に接続されたインダクタ(コイル19)およびコンデンサ(コンデンサ20)の共振回路を有し、この共振回路の共振によりMOST-FET7からなるトランジスタのゲートおよび補助制御回路8を介してMOST-FET6からなるトランジスタのゲートに交互に電圧を印加してこのインバータ回路のMOST-FET7からなるトランジスタおよびMOST-FET6からなるトランジスタを制御する制御手段(制御回路9および補助制御回路8)と、 平滑コンデンサの一端とブレークダウン素子(ダイアック)32と抵抗31を介してMOST-FET7からなるトランジスタのゲートとの間に接続された起動用の抵抗(抵抗33)と、平滑コンデンサに並列に接続された抵抗33と抵抗34との直列回路における抵抗33と抵抗34との接続点とMOST-FET7とMOST-FET6との接続点との間に接続された起動コンデンサ35とを有し、該起動コンデンサ35が充電されブレークダウン素子のスレッショールド電圧に達して導通状態となることにより該起動用の抵抗を介してインバータ回路のMOST-FET7に電圧を印加する起動回路(始動回路)と、 を具備したことを特徴とする電源装置。」 (2)特開昭63-73884号公報(異議申立人が提出した甲第4号証) 上記刊行物(2)(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に以下の記載がある。 a.「NチャンネルMOSFETとPチャンネルMOSFETの各ゲート端子及び各ソース端子を接続し、該ゲート端子及びソース端子間に正、負のゲート電圧を加えるゲート駆動回路を備えて構成したことを特徴とするパワーMOSFETによるインバータ回路。」(特許請求の範囲) b.「〔従来の技術〕 従来この種のインバータ回路として第4図のものが知られている。この従来構造は2個のNチャンネルMOSFET51・52と2組の互いに絶縁されたゲート駆動回路53・54とで構成されている。 〔発明が解決しようとする問題点〕 この回路構成の場合素子のターンオフ遅れやゲートパルスの伝達遅れに伴いスイッチング時に上下の素子が同時導通するアーム短絡が生じ、素子の定格を脅かし、スイッチング損失を増大させるなどの不都合を生じる。 この短絡防止対策として第5図の如くアームを構成する上下の素子の制御パルスに一定のデッドタイムを設ける方法がある。 しかしながらこの方法の場合、素子のターンオフ時間は負荷電流の大きさや温度条件により変化し、またゲートドライブ回路の影響も受けるため十分な余裕をとってデッドタイムを設定する必要がある。 またデッドタイムを持たせることはゲート駆動回路を複雑にするとともにインバータの出力波形の精度を低下し、素子の利用率の低下や制御系の不安定現象を生じさせることがあるという不都合を有している。」(1頁下段左欄20行-2頁上段左欄8行。) c.「〔作用〕 NチャンネルMOSFETとPチャンネルMOSFETの両ゲート端子間及び両ソース端子間の電圧は同一となり、同時導通は起こり得ず、スイッチング過渡時のアーム短絡は回避される。」(2頁上段右欄18行-同下段左欄2行。) d.「〔実施例〕 第1図乃至第3図は本発明の実施例を示し、1はNチャンネルMOSFET、2は同一定格のPチャンネルMOSFETであって、各ゲート端子3,4を直結している。 5はゲート駆動回路である。 第3図は、第1図の回路を100〔V〕の直流電源に接続し、ゲート端子3・4間とすでに直結されているソース端子間を第2図の正、負のゲート電圧で駆動して無負荷運転したときに得られた波形である。 すなわち第3図から、大きなピーク電流や素子電圧の上昇は生ぜず、短絡現象の起こっていないことが理解される。」(2頁下段左欄3-20行。) e.「〔発明の効果〕 本発明は上述の如く、スイッチング過渡時の電源短絡を回避でき、このためパワーMOSFET固有の高速スイッチング性能を充分に活用でき、高周波大電力のスイッチングが容易にできるとともにゲート駆動回路も一組でよく部品点数の減少や装置の小型、軽量化を図ることができ、かつゲートとソース間を直接駆動するため電源や負荷条件に関係なくスイッチングでき、電力変換回路への適用が可能となる。」(2頁下段右欄5-18行) 上記引用例2の記載によれば以下のことが明らかである。 ア.そのNチャンネルMOSFET1及びPチャンネルMOSFET2はMOS型電界効果トランジスタ、即ちトランジスタである。 イ.第1図の回路は、前記トランジスタを主スイッチング素子としたハーフブリッジ型のインバータ回路である。また、それが電力変換回路へ適用された場合に電源装置として利用できることは当業者に自明である。 以上のことから、引用例2には、自明の事項も考慮すると次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「NチャンネルのトランジスタおよびPチャンネルのトランジスタを主スイッチング素子としたハーフブリッジ型のインバータ回路と、 (第2図の正、負のゲート電圧を発生する)駆動回路を有し、この駆動回路の駆動によりNのチャンネルのトランジスタのゲートおよびPチャンネルのトランジスタのゲートに交互に電圧を印加してこのインバータ回路のNチャンネルのトランジスタおよびPチャンネルのトランジスタを制御する制御手段と、 を具備したことを特徴とする電源装置。」 2.本件発明1についての判断 (1)本件発明1と引用発明1との対比 上記本件発明1(前者)と引用発明1(後者)とを以下に対比する。 前者の「NチャネルのトランジスタおよびPチャネルのトランジスタ」も、後者の「同一タイプのMOST-FET7からなるトランジスタおよび補助制御回路8により制御されるMOST-FET6からなるトランジスタ」も、共に少なくともそれらをハーフブリッジ型のインバータ回路のスイッチング素子とした「2つのトランジスタ」であるといえる。 前者の制御手段が「共振回路の共振によりNチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートに交互に電圧を印加してこのインバータ回路のNチャネルのトランジスタおよびPチャネルのトランジスタを制御する」ことも、また、後者の制御手段が「共振回路の共振によりMOST-FET7からなるトランジスタのゲートおよび補助制御回路8を介してMOST-FET6からなるトランジスタのゲートに交互に電圧を印加してこのインバータ回路のMOST-FET7からなるトランジスタおよびMOST-FET6からなるトランジスタを制御する」ことも、共に少なくとも「共振回路の共振により2つのトランジスタのゲートに交互に電圧を印加してこのインバータ回路の2つのトランジスタを制御する」ことであるといえる。 前者の起動回路が「平滑コンデンサの一端とNチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートとの間に接続された抵抗およびPチャネルのトランジスタのドレイン、ソース間に接続された抵抗を有し、これらの抵抗を介してNチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートに電圧を印加する」ことも、後者の起動回路が「平滑コンデンサの一端とブレークダウン素子(ダイアック)32と抵抗31を介してMOST-FET7からなるトランジスタのゲートとの間に接続された起動用の抵抗(抵抗33)と、平滑コンデンサに並列に接続された抵抗33と抵抗34との直列回路における抵抗33と抵抗34との接続点とMOST-FET7とMOST-FET6との接続点との間に接続された起動コンデンサ35とを有し、該起動コンデンサ35が充電されブレークダウン素子のスレッショールド電圧に達して導通状態となることにより該起動用の抵抗を介してインバータ回路のMOST-FET7に電圧を印加する」ことも、共に少なくとも「平滑コンデンサの一端と少なくとも一方のトランジスタのゲートとの間に接続された抵抗を有し、少なくとも該抵抗を介してインバータ回路のトランジスタに電圧を印加する」ことであるといえる。 以上のことから、本件発明1と引用発明1とは以下の一致点及び相違点を有することとなる。 (一致点) 「2つのトランジスタをスイッチング素子としたハーフブリッジ型のインバータ回路と、; 直列に接続されたインダクタおよびコンデンサの共振回路を有し、この共振回路の共振により2つのトランジスタのゲートに交互に電圧を印加してこのインバータ回路の2つのトランジスタを制御する制御手段と; 平滑コンデンサの一端と少なくとも一方のトランジスタのゲートに接続された抵抗を有し、少なくとも該抵抗を介してインバータ回路のトランジスタに電圧を印加する起動回路と; を具備したことを特徴とする電源装置。」 (相違点1) ハーフブリッジ型のインバータ回路のスイッチング素子として、本件発明1はNチャネルのトランジスタおよびPチャネルのトランジスタを主スイッチング素子としたものであるのに対し、引用発明1は同一タイプのMOST-FET7からなるトランジスタおよび補助制御回路8により制御されるMOST-FET6からなるトランジスタをスイッチング素子としたものであり、そのことに伴って、本件発明1の制御手段は共振回路の共振によりNチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートに交互に電圧を印加してこのインバータ回路のNチャネルのトランジスタおよびPチャネルのトランジスタを制御するのに対し、引用発明1の制御手段は共振回路の共振によりMOST-FET7からなるトランジスタのゲートおよび補助制御回路8を介してMOST-FET6からなるトランジスタのゲートに交互に電圧を印加してこのインバータ回路のMOST-FET7からなるトランジスタおよびMOST-FET6からなるトランジスタを制御する点。 (相違点2) 起動回路に関して、本件発明1は平滑コンデンサの一端とNチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートとの間に接続された抵抗およびPチャネルのトランジスタのドレイン、ソース間に接続された抵抗を有し、これらの抵抗を介してNチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートに電圧を印加するのに対し、引用発明1は平滑コンデンサの一端とブレークダウン素子(ダイアック)32と抵抗31を介してMOST-FET7からなるトランジスタのゲートとの間に接続された起動用の抵抗(抵抗33)と、平滑コンデンサに並列に接続された抵抗33と抵抗34との直列回路における抵抗33と抵抗34との接続点とMOST-FET7とMOST-FET6との接続点との間に接続された起動コンデンサ35とを有し、該起動コンデンサ35が充電されブレークダウン素子のスレッショールド電圧に達して導通状態となることにより該起動用の抵抗を介してインバータ回路のMOST-FET7に電圧を印加する点。 (2)本件発明1と引用発明1との相違点についての判断 (相違点1)について 上記3.(2)において示したように、引用例2には引用発明2が記載されている。この引用発明2は、ハーフブリッジ型のインバータ回路のスイッチング素子として、NチャンネルのトランジスタおよびPチャンネルのトランジスタをスイッチング素子としたものであるから、引用発明1のハーフブリッジ型のスイッチング素子として、同一タイプのMOST-FET7からなるトランジスタおよび補助制御回路8により制御されるMOST-FET6からなるトランジスタに替えて、この引用発明2のNチャネルのトランジスタおよびPチャネルのトランジスタを適用して本件発明1の前記相違点1に係る発明特定事項を想到することは、その適用により本件発明1の前記発明特定事項が自動的(必然的)に得られ、また、前記適用を阻害すべき特段の事情も認められない以上、当業者が適宜容易になし得た程度のものであり、その効果も前記適用により当然に予測されるものにすぎない。 (相違点2)について 本件発明1も引用発明1も共に「起動回路」を備えているものの、その具体的構成は異なる。 すなわち、本件発明1の起動回路は、平滑コンデンサの一端とNチャネルのトランジスタのゲートおよびPチャネルのトランジスタのゲートとの間に接続された抵抗およびPチャネルのトランジスタのドレイン、ソース間に接続された抵抗を有し、これらの抵抗を介してインバータ回路のトランジスタに電圧を印加するものであるのに対し、引用発明1の起動回路は、抵抗33のほかに、抵抗33とトランジスタとの間にブレークダウン素子(ダイアック)32及び始動コンデンサ35を備えており、引用発明1は起動時に始動コンデンサ35が充電され、コンデンサ35の電圧がブレークダウン素子32のスレッショールド電圧に達してこの素子32が導通状態となることでインバータ回路のトランジスタに電圧を印可するものである点で相違する。 そして、引用発明1はコンデンサ35の電圧がブレークダウン素子32のスレッショールド電圧に達してこの素子32が導通状態となることを起動のための必須の構成とするものであるから、当業者といえども、直ちに引用発明1の起動回路からコンデンサ35及びブレークダウン素子32を省略し、本件発明1の起動回路を想起し得るものともいえない。 さらに、引用発明1の起動回路はコンデンサ35及びブレークダウン素子32を備えた複雑な構成のものであるのに対し、本件発明1はこれらの素子を不要とし、起動回路の簡素化という引用発明1にはない格別な効果を奏するものである。 また、引用発明2は起動回路を備えておらず、引用発明1と引用発明2とをいかに組み合わせても、本件発明1の相違点2に係る構成とすることはできない。 したがって、本件発明1の相違点2に係る構成については、引用例1及び2のいずれにも記載されておらず、また、当業者が容易に想到し得たものとすることはできないから、本件発明1が引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものとすることはできない。 3.本件発明2ないし9についての判断 本件発明2ないし9は、いずれも本件発明1の構成を更に限定したものに相当するから、本件発明1が引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものとすることはできない以上、同様の理由により、本件発明2ないし9についても引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものとすることはできない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、請求項1ないし9に係る発明の特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし9に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2005-01-19 |
出願番号 | 特願平9-133899 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H02M)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 川端 修 |
特許庁審判長 |
田良島 潔 |
特許庁審判官 |
佐々木 芳枝 安池 一貴 |
登録日 | 2003-04-04 |
登録番号 | 特許第3413754号(P3413754) |
権利者 | 東芝ライテック株式会社 |
発明の名称 | 電源装置、蛍光ランプ装置および照明装置 |
代理人 | 中島 司朗 |
代理人 | 和泉 順一 |