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審決分類 審判 一部無効 特29条の2 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A21D
審判 一部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A21D
審判 一部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A21D
管理番号 1124801
審判番号 無効2004-80084  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-03-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-06-23 
確定日 2005-08-15 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2030955号発明「パン生地用米粉」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2030955号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由
I.手続の経緯

本件特許2030955号の請求項1乃至5に係る発明についての出願は、平成3年10月7日(優先権主張 平成3年7月15日)に特願平3-289282号として出願され、平成7年6月28日に特公平7-59173号として出願公告後、平成8年3月19日に特許の設定登録がなされた。
これに対して、新潟製粉株式会社より平成16年6月23日付で請求項1,2及び4について、本件無効審判の請求がなされ、指定期間内である平成16年11月12日付で被請求人菅原則行より訂正請求がなされ、平成17年2月24日付で当審の職権審理による無効理由が通知された後、被請求人より平成17年4月28日付で意見書が提出されたものである。

II.訂正請求について

1.訂正の内容

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の【請求項4】に係る記載、
「【請求項4】米粒の細胞膜を加水分解したり又は軟化せしめるへミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ等の酵素含有水溶液に適宜時間米粒を浸漬した後、乾燥並びに微細粉化し、更に前記微細粉を乾式熱処理して澱粉の一部をデキストリンに加熱分解し、損傷デンプンの一部を修復すると共に吸水性を減少せしめ、しかる後所定量の活性グルテンを添加してなることを特徴とするパン生地用米粉。」を、
「【請求項1】米粒の細胞膜を加水分解したり又は軟化せしめるへミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ等の酵素含有水溶液に適宜時間米粒を浸漬した後、水切りしてジェット乾燥機による1〜2分間の乾燥並びに微細粉化し、更に前記微細粉を、数分間の乾式熱処理をして澱粉の一部をデキストリンに加熱分解するが、損傷デンプンの一部を修復すると共に、正常デンプンのミセルを堅牢として全体の吸水性を減少せしめ、しかる後メッシュ200以上の前記微細粉に所定量の活性グルテンを添加してなることを特徴とするパン生地用米粉。」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の【請求項1】乃至【請求項2】を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の「【請求項3】」を「【請求項2】」に、「【請求項5】」を「【請求項3】」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の段落【0005】の記載、
「【課題を解決するための手段】本発明に係るパン生地用米粉は、米粒の細胞膜を加水分解したり又は軟化せしめるヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ等の酵素含有水溶液に適宜時間米粒を浸漬した後、乾燥並びに微細粉化し、前記微細粉に所定量の活性グルテンを添加してなることを特徴とするものである。」を、
「【課題を解決するための手段】本発明に係るパン生地用米粉は、米粒の細胞膜を加水分解したり又は軟化せしめるへミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ等の酵素含有水溶液に適宜時間米粒を浸漬した後、水切りしてジェット乾燥機による1〜2分間の乾燥並びに微細粉化し、更に前記微細粉を、数分間の乾式熱処理をして澱粉の一部をデキストリンに加熱分解するが、損傷デンプンの一部を修復すると共に、正常デンプンのミセルを堅牢として全体の吸水性を減少せしめ、しかる後メッシュ200以上の前記微細粉に所定量の活性グルテンを添加してなることを特徴とするものである。」と訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の段落【0006】の記載、
「また米粒を微細粉化した後乾式熱処理を施し、澱粉の一部をデキストリンに加熱分解し、更に損傷デンプンの一部を修復すると共に吸水性を減少せしめ、しかる後所定量の活性グルテンを添加してなることを特徴とするものである。また更に米粒を微細粉化した後、オゾン濃度15PPM以下のオゾン雰囲気中で気中攪拌し、しかる後所定量の活性グルテンを添加してなることを特徴とするものでる。」を、
「また本発明は、米粒を微細粉化した後、オゾン濃度15PPM以下のオゾン雰囲気中で気中攪拌し、しかる後所定量の活性グルテンを添加してなることを特徴とするものでる。」と訂正する。

(6)訂正事項6
明細書の段落【0008】の記載、
「また微細粉化した米粉を乾式熱処理すると、澱粉の加熱分解によって焙焼デキストリンが生成され、澱粉化の過程で生じた損傷デンプンを修復すると共に、正常デンプンもミセルが堅牢となって全体の吸水性が減少する。従ってこの熱処理した微細米粉に活性グルテンを添加し、この粉を用いて常法通りパンを製造すると、グルテンに十分な水が供給され、グルテンによる網状組織形成が完全になされ、ふっくらとしたパンを製出できることになる。」を、
「また微細粉化した米粉を、数分間の乾式熱処理を施すと、澱粉の加熱分解によって焙焼デキストリンが生成され、微細粉化の過程で生じた損傷デンプンを修復すると共に、正常デンプンもミセルが堅牢となって全体の吸水性が減少する。従ってこの熱処理した微細米粉に活性グルテンを添加し、この粉を用いて常法通りパンを製造すると、グルテンに十分な水が供給され、グルテンによる網状組織形成が完全になされ、ふっくらとしたパンを製出できることになる。」と訂正する。

(7)訂正事項7
明細書の段落【0012】の記載、
「前記の微細粉化工程で形成した微細粉に、活性グルテンを15〜8%を添加する(グルテン添加工程)と、パン生地用粉が製出される。前記のパン生地は定形粒体の粉体のため、加水加塩して混練した際グルテンの網状組織が粉粒の包込むようになるため、通常の麦類の粉と同様にパン生地として使用が可能ととなるものである。」を、
「前記の微細粉化工程で形成した微細粉に、活性グルテンを15〜8%を添加する(グルテン添加工程)と、パン生地用粉が製出される。前記のパン生地は定形粒体の粉体のため、加水加塩して混練した際グルテンの網状組織が粉粒の包込むようになるため、通常の麦類の粉と同様にパン生地として使用が可能となるものである。」と訂正する。

2.訂正の適否

(1)訂正事項1について
上記訂正事項1は、発明を特定する事項である「乾燥」、「乾式熱処理」、「吸水性」、および「微細粉」を夫々、これに含まれる事項である「水切りしてジェット乾燥機による1〜2分間の乾燥」、「数分間の乾式熱処理」、「正常デンプンのミセルを堅牢として全体の吸水性」、「メッシュ200以上の微細粉」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件特許明細書には、「・・・微細粉化工程の実施例を詳細に説明すると、精白米を水洗し、水に対して0.005〜0.01%の酵素(ペクチナーゼ)並びに酵素反応を助けるクエン酸ナトリウム0.1〜0.5%を溶かして酵素溶液を作り、水洗した米を米と同量の前記酵素溶液に6〜24時間浸漬し、所定時間経過後米を取り出し水切りをした後ジェット乾燥機による1〜2分間のかるい乾燥を施し、微粉砕機(ジエット気流粉砕機)で微粉状(メツシュ:200以上)とし、更に熱風乾燥で乾燥する。」(段落【0011】)と、また「・・・中間処理工程は熱処理か或はオゾン処理を行うもので、熱処理は乾式で行うもので、約200℃で数分間(米粉の含水量「一般に約20%の水分を含む」によって多少異なる)加熱すると、一部は水を失いデキストリンに変化すると共に、損傷デンプンのミセル構造が修復されると共に、正常デンプンのミセル構造も堅牢となる。・・・」(段落【0014】)と記載されているから、上記訂正事項は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものである。
また、上記訂正事項が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項2に伴うものであり、特許請求の範囲の請求項の一部を削除したことに伴う請求項の表示の訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、上記訂正事項が、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(4)訂正事項4乃至6について
訂正事項4乃至6は、訂正事項1に伴うものであり、特許請求の範囲を訂正したことに伴い、発明の詳細な説明欄の記載を整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、上記訂正事項が、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(5)訂正事項7について
訂正事項7は、誤記の訂正を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

3.むすび

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項、4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.当事者の主張及び当審による無効理由通知の概要

1.請求人の主張

請求人は、「特許第2030955号の請求項1、請求項2及び請求項4に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証乃至甲第7号証及び参考資料1乃至4を提出し、その理由として、
(1)訂正前の本件請求項1に係る発明は、甲第3号証先願の出願当初の明細書に記載された発明と同一であって、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである、
(2)訂正前の本件請求項1に係る発明は、甲第4号証刊行物に記載された発明に基づいて、また、訂正前の本件請求項2及び4に係る発明は、甲第4及び6号証刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである、
(3)甲第7号証を斟酌すれば、訂正前の本件請求項2,4の記載は、特許法第36条に規定する要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである、旨主張している。
また、証人尋問を申請し、甲第5号証陳述書の内容を証人尋問により立証し、請求人が利害関係人であることを立証しようとしている。

甲第1号証:特許第2030955号の原簿
甲第2号証:特公平7-59173号公報
甲第3号証:特願平3-130730号(特開平4-287652号の願書及びそれに最初に添付された明細書及び図面)
甲第4号証:「新潟日報」平成2年10月29日付け第8面
甲第5号証:陳述書
甲第6号証:特開昭51-44670号公報
甲第7号証:二国二郎編「デンプンハンドブック」(昭和39年3月10日4版) 株式会社 朝倉書店 609〜611頁
参考資料1:特願平3-130730号の出願情報
参考資料2:特願平3-130730号に係る平成7年3月20日付け手続補正書
参考資料3:特公平4-73979号公報
参考資料4:中村外1名編「澱粉・関連糖質実験法」(1986年10月10日初版) 株式会社 学会出版センター 273〜274頁

2.被請求人の主張

一方、被請求人は、乙第1号証を提出して請求人の提出した証拠方法によっては、本件特許を無効にすることができないと主張している。

乙第1号証:実験結果報告書

3.当審による無効理由通知の概要

平成17年2月23日付の当審の職権審理による無効理由通知の概要は、本件明細書の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである、というものである。

IV.本件発明

訂正後の本件請求項1乃至3に係る発明は、訂正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されるものであるが、訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】米粒の細胞膜を加水分解したり又は軟化せしめるへミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ等の酵素含有水溶液に適宜時間米粒を浸漬した後、水切りしてジェット乾燥機による1〜2分間の乾燥並びに微細粉化し、更に前記微細粉を、数分間の乾式熱処理をして澱粉の一部をデキストリンに加熱分解するが、損傷デンプンの一部を修復すると共に、正常デンプンのミセルを堅牢として全体の吸水性を減少せしめ、しかる後メッシュ200以上の前記微細粉に所定量の活性グルテンを添加してなることを特徴とするパン生地用米粉。」

V.当審の判断

1.請求人適格について

特許法第123条第2項によれば、特許無効審判は、何人も請求することができるから、証人尋問は不必要であり、証人尋問は行わない。

2.特許法第36条第4項違反について

平成17年2月23日付の当審の職権審理による無効理由通知の概要は、以下のとおりのものである。
本件特許明細書の段落【0014】には、「<第二実施例> 第二実施例は前記酵素前処理を行った微細粉化工程で製出した微細粉や、或は米粒を単に微細粉化して製出した微細粉に対して中間処理を施す。中間処理工程は熱処理か或はオゾン処理を行うもので、熱処理は乾式で行うもので、約200℃で数分間(米粉の含水量「一般に約20%の水分を含む」によって多少異なる)加熱すると、一部は水を失いデキストリンに変化すると共に、損傷デンプンのミセル構造が修復されると共に、正常デンプンのミセル構造も堅牢となる。次にグルテン添加工程を行うもので、前記熱処理を施した米粉に活性グルテンを15%〜8%(12%前後が望ましい)を添加する。」と、段落【0015】には、「この様にして製出したパン生地用米粉は、第一実施例の粉と同様に、加水加塩し、必要に応じて補助剤(他の粉、多糖類、砂糖、油脂、牛乳、イーストワード、香味料)を加えて混捏し、而る後醗酵、焙焼と常法通りの製パンを行うものであるが、この混捏に際して、前記米粉は特に熱処理を施しているためデキストリンを含み、且つ損傷デンプンの修復がなされデンプンの吸水性を減少せしめているので、加水に於いて、グルテンにも充分水分が供給されグルテン形成が完全になされることになる。また特にデキストリンは食物繊維であって、消化酵素によって分解されないため製出されたパンはカロリーが低く、所謂ダイエット食品となり得るものである。」と記載されているから、本件明細書の発明の詳細な説明には、「数分間の乾式熱処理、具体的には約200℃で数分間約20%の水分を含むデンプンの熱処理をして、澱粉の一部をデキストリンに加熱分解するが、損傷デンプンの一部を修復すると共に、正常デンプンのミセルを堅牢として全体の吸水性を減少させる。」ことが記載されているといえる。
一方、請求人の提出した甲第7号証には、「・・・まず、デンプンを粉砕し、120〜130°の温度で脱水乾燥した後、200°前後の温度に上昇させる。・・・」(第609頁第20〜21行)また、「a.乾式製造法 (i)無酸バイ焼法 水分の非常に少ないデンプンを無酸バイ焼してデキストリンを製造する場合の分解は明らかではないが,まず,熱によりデンプンの分子配列が崩され,次に分子鎖のひずみの大きい部分の崩壊が起こるものと考えられる。・・・」(第609頁第6〜9行)また、「デキストリン化がすすむにつれて粘度が低下し、冷水可溶成分が増加する。・・・」(第609頁第22〜23行)と記載されているから、甲第7号証には、「デンプンを粉砕し、120〜130°の温度で脱水乾燥した後、200°前後に加熱すると、熱によりデンプンの分子配列が崩されて、デキストリン化が進み、粘度が低下し、冷水可溶成分が増加する。」ことが記載されているといえる。
また、請求人の提出した参考資料4にも、デンプンの湿熱処理(27%水分、100℃、16時間処理)による変化として、吸水率が上昇したこと(表VIII-2)が示されている。
そうすると、甲第7号証、参考資料4及び技術常識を考慮すると、訂正後の本件請求項1及びそれに関連する本件明細書の記載には以下の点で不備がある。
(i)加熱によりデンプンの崩壊が進行し、損傷デンプンになるものと考えられるが、デンプンの崩壊は、不可逆的に進行するものと考えられるから、一度損傷したデンプンが修復するとは考え難い。
(ii)仮に、一度損傷したデンプンが修復するとしても、本件発明の200℃というより高温での熱処理温度ではデキストリン化がより進み、本件発明の数分間というごく短時間の熱処理で一度損傷したデンプンが修復するとは考え難いし、また、本件発明のデキストリン化が進む200℃という熱処理温度では、正常デンプンのミセルを堅牢化させることはできるものとは考え難い。
(iii)デンプンの乾熱処理により、デンプンの吸水率が上昇すると考えることが自然であり、デンプンの吸水性が減少するとは考え難い。

これに対して、被請求人は、平成17年4月28日付で意見書において、「加熱による損傷デンプンの修復」及び「デンプンのミセルを堅牢化」との記載は、技術的に誤りであることを自認したが、訂正はなされなかった。
そうすると、発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に本件発明1が記載されていないことになるから、本件明細書の記載は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
なお、被請求人は同意見書において訂正案を提示し訂正の機会を求めているが、上記無効理由通知に対して訂正請求する機会があったにもかかわらず、被請求人は訂正請求をしなかったものであるし、また訂正案を認めたとしても、訂正案により訂正された発明は、依然として特許法第29条の2及び特許法第29条第2項に違反するものである。

3.特許法第29条の2違反について

3.1 本件発明1

本件発明1は、米粒の細胞膜を加水分解したり又は軟化せしめるへミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ等の酵素含有水溶液に適宜時間米粒を浸潰した後、水切りしてジェット乾燥機による1〜2分間の乾燥並びに微細粉化し、更に前記微細粉を、数分間の乾式熱処理をして、しかる後メッシュ200以上の前記微細粉に所定量の活性グルテンを添加してなるパン生地用米粉であって、米粉を微細粉化する前に酵素処理を施すことで、米粉のグルテンとの親和性が向上し、而もグルテンの網状組織形成が充分なされるようにしたもので、米粉を主体としても充分なガス保持力を有するパン生地を得ることができるものである。

3.2 先願発明

これに対して、本件特許の出願前に出願され、本件特許の出願後に公開された甲第3号証先願:特願平3-130730号(特開平4-287652号)の願書に最初に添付された明細書及び図面には、以下の事項が記載されている。

(3-1)【請求項1】玄米、精白米、砕米等の原料米にマセレイティング酵素処理を行なった後、従来方式での製粉、及び気流粉砕することを特徴とする米粉の製造方法。
【請求項2】酵素処理前、又は処理後に水分を4〜16%に調整し、120〜200℃で熱処理を行なう請求項1の方法。
【請求項3】玄米、精白米、砕米等の原料米にマセレイティング酵素処理を行なった後、従来方式での製粉、及び気流粉砕後、さらに米粉以外の各種の粉末と混合することを特徴とする米粉調整品の製造方法。
【請求項4】米粉調整品が米粉に蛋白質、グルテン及びその分解物、デンプン及びセルロースを除く天然多糖類を単独あるいは複合して混合されたものである請求項3の方法。
【請求項5】米粉調整品が小麦粉等、原料粉を配合されたものである請求項3の方法。(特許請求の範囲)
(3-2)本発明はパン、菓子、麺等の加工に適した米粉及び米粉加工品の製造法に関する。(段落【0001】)
(3-3)本発明は原料米にマセレイティング酵素を作用させ細胞壁組織成分を低分子化させることにより微粉化をはかるものであり、特に原料米を気流粉砕、または圧扁後に気流粉砕することにより粒度のそろった微細な米粉を得るとともに、原料米・米粉の水分を4〜16%に調整し、120〜200熱処理を行なうことによって米粉特性の改質を行なうものである。(段落【0009】)
(3-4)本発明の製粉手段により米粉の微粉化、糊化開始温度の低下、老化の遅延、付着性の低下、吸水率の減少、ヌレ特性の上昇等の改質効果が得られ、この改質により他資材との適合性が増大する。また改質した米粉単独の利用だけでなく蛋白質、グルテン、天然多糖類、小麦粉などの他資材と配合することにより小麦粉の代替品ではなく、小麦粉を用いた場合よりも一段と優れた外観、食感、物性等を有するように作用する。(段落【0012】)
(3-5)実施例1 米粉の製造 原料米を水洗後、米粉を製造するときの方式を図1に示した。各製造方法を「米粉製造法1」、「米粉製造法2」、「米粉製造法3」、「米粉製造法4」、「米粉製造法5」、「米粉製造法6」、「米粉製造法7」とする。例えば「米粉製造法4」による米粉を製造する場合、精白米の水分を14%に調製し密閉容器中で150℃、1時間保った後に放冷し、酵素処理を25℃、12時間行ない、その後、脱水、製粉を行なった。(段落【0014】)
(3-6)実施例2 パン加工性 図1の「米粉製造法2」で得た米粉(胴搗方式製粉)を用いパンを製造した。この米粉に活性グルテンを15%になるように添加して米粉組成物Aを、米粉組成物Aにガムを1%になるように添加して米粉組成物Bを得た。また、対照として図1の「米粉製造法7」で得た米粉(胴搗方式製粉)に活性グルテンを15%になるように添加した米粉組成物を用いた。次いで米粉組成物500g、イースト15g、食塩10g、砂糖20g、ショートニング30g、水適量の配合によりパンの製造を行なった。 この米粉組成物の70%とイースト、水を均一に混ねりした後、4時間発酵させた。その後、残りの米粉組成物、食塩、砂糖、ショートニング、水を加えて混ねりし生地を作った。次いで、30分のフロアータイムをとり仕上げを行ない、1時間ホロイで発酵させた。これをオーブンにて焼成した。表2に示したように、米粉組成物A、Bから得られたパンは両者ともに食味、外観、作業性の優れたものとなった。 又、米の風味を残した独特のパンとなり、外皮はパリッとして内層は柔らかく、しっとりした食感であった。それと共に、従来米粉を用いたパンにみられる老化が早いという欠点がなく、かえって小麦粉のみを主原料としたパンよりも老化の遅い優れた品質となった。(段落【0017】〜【0021】)
(3-7)本発明の方法によれば米粉の単粒化による極微細粉の製造が可能であり、それによってこれまでに得られなかった高品質の製品を得ることができるばかりでなく、小麦粉の代替原料としても米を使用できるため米需要の著しい増大に資するものということができる。(段落【0029】) (3-8)米粉製造法2として、原料を酵素処理後、製粉して水分調整・熱処理するフローチャートが示されている。(図【1】)

上記記載事項、特に、(3-3)、(3-4)および(3-6)から、先願明細書には、「原料米にマセレイティング酵素処理して細胞壁組織成分を低分子化させることにより微粉化し、気流粉砕等により製粉し、水分を4〜16%に調整し、120〜200℃で熱処理を行なうことによって米粉の微粉化、糊化開始温度の低下、老化の遅延、付着性の低下、吸水率の減少、ヌレ特性の上昇等の米粉特性の改質を行ない、それにグルテンを添加したパン生地用米粉。」が記載されているといえる。(以下、「先願発明」という。)

3.3 対比・判断

(1)一致点・相違点
本件発明1と先願発明とを対比すると、後者の「マセレイティング酵素処理」は、前者の「酵素による処理」に相当するから、両者は、「米粒の細胞膜を加水分解したり又は軟化せしめる酵素により処理した後、微細粉化し、更に前記微細粉を熱処理して、この微細粉に所定量の活性グルテンを添加し製出してなるパン生地用米粉。」である点で一致しており、(a)前者が水切りしてジェット乾燥機による1〜2分間の乾燥をしているのに対して、後者にその旨記載されていない点、(b)熱処理に関して、前者が数分間の乾式熱処理をして澱粉の一部をデキストリンに加熱分解するが、損傷デンプンの一部を修復すると共に、正常デンプンのミセルを堅牢として全体の吸水性を減少せしめているのに対して、後者は水分を4〜16%に調整し、120〜200℃で熱処理を行うとしている点、(c)微細粉の粒度について、前者がメッシュ200以上としているのに対して、後者にその旨記載されていない点、(d)酵素処理について、前者が酵素含有水溶液に適宜時間米粒を浸漬しているのに対して、後者にその旨記載されていない点で、両者は一応相違している。

そこで、これらの相違点について検討する。

(2)相違点(a)について
本件発明1において、「水切りしてジェット乾燥機による1〜2分間の乾燥する」ことについては、本件明細書には、「・・・所定時間経過後米を取り出し水切りをした後ジェット乾燥機による1〜2分間のかるい乾燥を施し、微粉砕機(ジエット気流粉砕機)で微粉状(メツシュ:200以上)とし、更に熱風乾燥で乾燥する。」(段落【0011】)と記載されているだけで、その技術的意義は必ずしも明らかではないが、粉砕を容易にするためと解される。
先願発明において、製粉前に乾燥する点は記載されていないが、浸漬米を製粉する際に米を乾燥することは周知のこと(必要なら、特開昭52-90646号公報参照。)であり、乾燥方法としてジェット乾燥機により短時間乾燥することも周知のことであるから、「水切りしてジェット乾燥機による1〜2分間の乾燥をする」ことは、周知技術の付加にすぎず、それにより新たな効果を奏するものでもないから、この点は、課題解決のための具体化手段における微差であるといえる。

(3)相違点(b)について
まず、「加熱による損傷デンプンの修復」及び「デンプンのミセルを堅牢化」との記載は、本件発明1の作用を技術的に説明したものであるが、前記2.に記載したとおり、技術的に誤りであり、この点は相違点とはいえない。
本件発明1における「数分間の乾式熱処理」については、本件明細書には、「・・・熱処理は乾式で行うもので、約200℃で数分間(米粉の含水量「一般に約20%の水分を含む」によって多少異なる)加熱すると、米分は熱による変性(一部は水を失いデキストリンに変化して保水性が減少すると推測される)が生ずる。・・・」(段落【0014】)と記載されており、乾式処理とはいえ水分を米粉の含水量程度即ち約20%の水分を含むものであり、米粉特性を改質するためのものであると解される。
一方、先願発明における「120〜200℃」の熱処理は、上記記載事項(3-3)のとおり、米粉の水分を4〜16%に調整し、120〜200℃で熱処理を行うことによって米粉特性の改質を行なうものである。
両者は水分を含む米粉を約200℃で熱処理して米粉特性を改質する点で軌を一にしており、熱処理時間は、米粉特性の改質程度に応じて当業者が適宜選定するものであり、熱処理時間を「数分間」とすることにより、新たな効果を奏するものでもないから、この点も、課題解決のための具体化手段における微差であるといえる。
被請求人は、平成17年4月28日付意見書において、先願発明においては、上記記載事項(3-5)のとおり、実施例1において、「150℃、1時間」の熱処理を示しているにすぎないから、本件発明1と相違する旨主張している。
しかしながら、上記記載事項(3-1)のとおり、先願の請求項2に係る発明は「水分を4〜16%に調整し、120〜200℃で熱処理を行なう」ことを発明の特定事項としており、先願明細書を検討しても、実施例1以外に熱処理時間に言及するところはない。そして、実施例は具体例にすぎず、先願発明を実施例に限定して解釈する理由も見出せないから、請求人の主張は採用できない。

(4)相違点(c)について
本件発明1において、「微細粉の粒度をメッシュ200以上」とすることについては、本件明細書には、「・・・所定時間経過後米を取り出し水切りをした後ジェット乾燥機による1〜2分間のかるい乾燥を施し、微粉砕機(ジエット気流粉砕機)で微粉状(メツシュ:200以上)とし、更に熱風乾燥で乾燥する。」(段落【0011】)と記載されているだけで、その技術的意義は必ずしも明らかではないが、パン生地原料として使用するための粒度調整であるものと解される。
先願発明において、実施例2において「米粉製造法2」で得た米粉の粒度は記載されていないが、パンにするときの穀粉の平均粒径が30〜50μmであることは周知のことであり(必要なら、甲第4号証、或いは本件明細書の段落【0003】記載の特公昭60-55090号公報参照。)、先願発明においても、米粉をパン生地に使用しているのだから、米粉の平均粒径は「200メッシュ超」即ち、粒径が75μm以下としているものと解される。
よって、この点は相違点とはいえない。

(5)相違点(d)について
酵素処理を水の存在下で行うことは周知のことであるし、先願発明においても、上記記載事項(3-5)のとおり、酵素処理後に脱水しているところ、酵素含有水溶液に適宜時間米粒を浸漬しているものと解されるから、この点は相違点とはいえない。

(6)総合的な判断
上記のとおり、本件発明1に係るパン生地用米粉の製造方法と先願発明に係るパン生地用米粉の製造方法は、課題解決のための具体化手段における微差しか有しておらず、ましてや、その製造方法により製造される本件発明1に係るパン生地用米粉自体が、先願発明に係るパン生地用米粉自体と相違するものとは到底いえない。

したがって、本件発明1は、甲第3号証先願の出願当初の明細書に記載された発明と同一である。
そして、本件出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、本件出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないから、本件発明1は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない

4.特許法第29条第2項違反について

4.1 甲号証の記載事項

本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証および参考資料4には、以下の事項が記載されている。

甲第4号証:「新潟日報」平成2年10月29日付け第8面
(4-1)従来の製粉技術ではどんなに細かくしても平均100ミクロン粒子が限度だった。これを小麦粉並の30-50ミクロンにしようというもの。(第1段目7行〜第2段目2行)
(4-2)コメが細かくならないのはコメ粒が繊維のような組織でがっちり固められているためだ。粉にする前にこの組織を柔らかくしてやればよいわけだがここで登場するのが酵素。県食研ではペクチナーゼという酵素が徴粉化に有効なこと・・・を突き止めた。(第3段目3行〜第4段目2行)
(4-3)この酵素を米粉製造工程の水漬け段階で添加してやることで粒子の細かい粉が得られる。(第4段目7〜10行) (4-4)小麦粉分野に参入するにはこれに加えて米粉に小麦粉の成分であるグルテンを添加しなければならないが、この手法も県食研で確立されている。(第4段目10行目〜15行)
(4-5)これが実用化されるとパンをはじめケーキ、新しいめん類などに利用分野が広がる。米粉パンの場合、小麦粉パンより水分の多いものが作れ、刺し身をおかずにしてパンを食べるということもできる。(4段目16〜22行)

参考資料4:中村外1名編「澱粉・関連糖質実験法」(1986年10月10日初版) 株式会社 学会出版センター 273〜274頁
(5-1)湿潤状態で、澱粉粒子を損傷しないように加熱して、糊化特性などの物性を著しく変化させることができる。(第273頁3〜4行)

4.2 対比・判断

(1)一致点・相違点
本件出願の出願日前に頒布された甲第4号証刊行物(以下、「引用例」という。)には、上記記載事項から、「米粉の微粉化に有効な酵素を米粉製造工程の水漬け段階で添加することで粒子の細かい粉を得、この米粉に小麦粉の成分であるグルテンを添加し、米粉パンの製造などに利用する」ことが記載されているといえる。
本件発明1と甲第4号証刊行物に記載された発明(以下、「引用例発明」という。)とを対比すると、両者は、「米粒の細胞膜を加水分解したり又は軟化せしめる酵素含有水溶液に適宜時間米粒を浸漬した後、微細粉化し、この微細粉に所定量の活性グルテンを添加し製出してなるパン生地用米粉。」である点で一致しており、(e)前者が浸漬した後水切りしてジェット乾燥機による1〜2分間の乾燥をしているのに対して、後者にその旨記載されていない点、(f)熱処理に関して、前者が数分間の乾式熱処理をして澱粉の一部をデキストリンに加熱分解するが、損傷デンプンの一部を修復すると共に、正常デンプンのミセルを堅牢として全体の吸水性を減少せしめているのに対して、後者にその旨記載されていない点、(g)微細粉の粒度について、前者がメッシュ200以上としているのに対して、後者にその旨記載されていない点で、両者は相違している。

そこで、これらの相違点について検討する。

(2)相違点(e)について
本件発明1において、「水切りしてジェット乾燥機による1〜2分間の乾燥する」ことについては、本件明細書には、「・・・所定時間経過後米を取り出し水切りをした後ジェット乾燥機による1〜2分間のかるい乾燥を施し、微粉砕機(ジエット気流粉砕機)で微粉状(メツシュ:200以上)とし、更に熱風乾燥で乾燥する。」(段落【0011】)と記載されているだけで、その技術的意義は必ずしも明らかではないが、粉砕を容易にするためと解される。
引用例発明において、製粉前に乾燥する点は記載されていないが、浸漬米を製粉する際に米を乾燥することは周知のこと(必要なら、特開昭52-90646号公報参照。)であり、乾燥方法としててジェット乾燥機により短時間乾燥することも周知のことであるから、引用例発明において「水切りしてジェット乾燥機による1〜2分間の乾燥をする」ことは、周知技術の付加にすぎず、それにより予期し得ない効果を奏するものでもない。

(3)相違点(f)について
まず、「加熱による損傷デンプンの修復」及び「デンプンのミセルを堅牢化」との記載は、本件発明1の作用を技術的に説明したものであるが、前記2.に記載したとおり、技術的に誤りであり、この点は相違点とはいえない。
本件発明1の「数分間の乾式熱処理」については、本件明細書には、「・・・熱処理は乾式で行うもので、約200℃で数分間(米粉の含水量「一般に約20%の水分を含む」によって多少異なる)加熱すると、米粉は熱による変性(一部は水を失いデキストリンに変化して保水性が減少すると推測される)が生ずる。・・・」(段落【0014】)と記載されており、乾式処理とはいえ水分を米粉の含水量程度含むものであり、米粉特性を改質するためのものであると解される。
ここで、水分を含む米粉を熱処理して米粉特性を改質することは周知のことであり(必要なら、甲第7号証或いは参考資料4参照)、また、熱処理時間については、米粉特性の改質程度に応じて当業者が適宜選定するものであるから、引用例発明において、微粉化後数分間の乾式熱処理をすることに困難性は認められず、それにより予期し得ない効果を奏するものでもない。

(4)相違点(g)について
本件発明1において、「微細粉の粒度をメッシュ200以上」とすることについては、本件明細書には、「・・・所定時間経過後米を取り出し水切りをした後ジェット乾燥機による1〜2分間のかるい乾燥を施し、微粉砕機(ジエット気流粉砕機)で微粉状(メツシュ:200以上)とし、更に熱風乾燥で乾燥する。」(段落【0011】)と記載されているだけで、その技術的意義は必ずしも明らかではないが、パン生地原料として使用するための粒度調整であるものと解される。
引用例発明において、上記記載事項(4-1)のとおり、従来の製粉技術ではどんなに細かくしても平均100ミクロン粒子が限度だった米粉を小麦粉並の30-50ミクロンにしパンに使用しようとするものであるから、引用例発明において、米粉の平均粒径を「200メッシュ超」即ち、粒径が75μm以下とすることに何ら困難性はない。

(5)総合的な判断
本件発明1に係るパン生地用米粉の製造方法は、引用例発明と比較して予期し得ない効果を奏するものでもないから、本件発明1に係るパン生地用米粉の製造方法は、引用例発明に係るパン生地用米粉の製造方法から当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本件発明1に係るパン生地用米粉自体が、引用例発明のパン生地用米粉自体と比較して格別の効果を奏するものでもない。

したがって、本件発明1は、甲第4号証刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

VI.むすび

以上のとおり、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものであり、本件請求項1に係る発明の特許は、甲第3号証先願の出願当初の明細書に記載された発明と同一であって、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、また、本件請求項1に係る発明の特許は、本件出願の出願日前に頒布された甲第4号証刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件請求項1に係る発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
パン生地用米粉
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】米粒の細胞膜を加水分解したり又は軟化せしめるヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ等の酵素含有水溶液に適宜時間米粒を浸漬した後、水切りしてジェット乾燥機による1〜2分間の乾燥並びに微細粉化し、更に前記微細粉を、数分間の乾式熱処理をして澱粉の一部をデキストリンに加熱分解するが、損傷デンプンの一部を修復すると共に、正常デンプンのミセルを堅牢として全体の吸水性を減少せしめ、しかる後メッシュ200以上の前記微細紛に所定量の活性グルテンを添加してなることを特徴とするパン生地用米粉。
【請求項2】米粒を微細粉化した後、オゾン濃度15PPM以下のオゾン雰囲気中で気中攪拌し、しかる後所定量の活性グルテンを添加してなることを特徴とするパン生地用米粉。
【請求項3】米粒の細胞膜を加水分解したり又は軟化せしめるヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ等の酵素含有水溶液に適宜時間米粒を浸漬した後、乾燥並びに微細粉化し、前記微細粉をオゾン濃度15PPM以下のオゾン雰囲気中で気中攪拌し、しかる後に所定量の活性グルテンを添加してなることを特徴とするパン生地用米粉。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はパン生地に利用できる米粉に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
余剰米の有効利用手段として米の粉食化特にパンへの使用が望まれている。しかし、米粉を小麦粉に添加したのみでは良好なパンを得ることができなかった。その主たる理由として、米は澱粉粒が複粒であり強固な細胞壁組織で包まれているため、無加熱粉タイプの場合、粗い粗粉しか生産できず、無理に粉砕を行うと澱粉粒が損傷を受け加工性、品質ともに著しく低下してしまい、また他の澱粉に比べ澱粉が糊化する場合の温度が高く、そのとき必要とする水の量も多く、而も米粉自体の吸水性も大きいため、べた付きやダレを生じ易く加工性に劣るためである。そこで種々の改善案が提案されている。
【0003】
例えば特公昭56-29488号では、天然蛋白質分解物(ポリペプチド)を添加することが提案されており、これによって米粉を混入したことによって生ずる凝集性の減少、付着性の増加を改善している。また同56-43209号では特別な自然種生地を作り、これに米粉又はα米粉を混入した小麦数を加えてパンを製造することが提案されており、更に同60-55090号公報には、粒径を200μ以下に粉砕して、損傷デンプン含量を10〜30重量%の生米粉を小麦粉に混合することで吸水率の調整を行っている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前述した従来技術ではあくまでも小麦粉の一部代替であって、米粉100%での製パンは実施されていない。これは米粉とグルテンとの混和性に問題があったのである。即ち米粒は数マイクロメーターの微細粒が集合した複粒体胚芽で、而も複粒細胞膜が堅いため、機械的に直接微細粉化を行うと粉体粒そのものが不定形となり、そのままグルテンと混和してもグルテンが粉体粒を包みこむように形成されないし、更に米粉自体の吸水性が大きいため、加水混練の際にグルテンの網状組織形成が充分に行われず、気泡の内在したパンの製出が困難であった為である。そこで本発明は100%米粉でもパンを製出できるパン生地用米粉を提供せんとしたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るパン生地用米粉は、米粒の細胞膜を加水分解したり又は軟化せしめるヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ等の酵素含有水溶液に適宜時間米粒を浸漬した後、水切りしてジェット乾燥機による1〜2分間の乾燥並びに微細粉化し、更に前記微細粉を、数分間の乾式熱処理をして澱粉の一部をデキストリンに加熱分解するが、損傷デンプンの一部を修復すると共に、正常デンプンのミセルを堅牢として全体の吸水性を減少せしめ、しかる後メッシュ200以上の前記微細粉に所定量の活性グルテンを添加してなることを特徴とするものである。
【0006】
また本発明は、米粒を微細粉化した後、オゾン濃度15PPM以下のオゾン雰囲気中で気中攪拌し、しかる後所定量の活性グルテンを添加してなることを特徴とするものでる。
【0007】
【作用】
米粒をヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼのような植物の細胞膜を加水分解したりして軟化する酵素の溶液に浸漬すると、米澱粉の複粒体が壊れ易くなり、通常の手段で微細粉化を行うと、定形粒体(顕微鏡的視点で観察すると球体状の塊に近く、複雑な突出部分が無い)の粉体となり、パン生地生成時にグルテンの網状組織での粉粒の包込みが可能となる。
【0008】
また微細粉化した米粉に数分間の乾式熱処理を施すと、澱粉の加熱分解によって焙焼デキストリンが生成され、微細粉化の過程で生じた損傷デンプンを修復すると共に、正常デンプンもミセルが堅牢となって全体の吸水性が減少する。従ってこの熱処理した微細米粉に活性グルテンを添加し、この粉を用いて常法通りパンを製造すると、グルテンに十分な水が供給され、グルテンによる網状組織形成が完全になされ、ふっくらとしたパンを製出できることになる。
【0009】
また微細粉化した米粉をオゾン濃度15PPMの雰囲気中で気中攪拌すると、米粉の周囲にオゾン分子が吸着状態となり、これに活性グルテンを添加すると、オゾンによってデンプン粒子とそのデンプン粒子の周囲に位置するグルテンが結合してデンプンの糊化を防止すると共に、グルテン自体の結合力が米粉に吸着したオゾンによって酸化促進され網状組織を生成し易くなるので、多少グルテンへの水の供給が不完全でも、グルテン形式は完全となり、パンの製造に採用できることになる。
【0010】
【実施例】
次に本発明の実施例について説明する。本発明に係るパン生地用米粉を製出するには微細粉化工程とグルテン添加工程を経る手段(第一実施例)と、微細粉化工程、中間処理工程及びグルテン添加工程を経てなる手段(第二実施例)がある。
【0011】
<第一実施例>微細粉化工程は、米粒を粒径50ミクロン以下に微細粉化するもので、微細粉化手段は、酵素による前処理を行った後、公知のロールミル機で米粉を粉砕したり、或は粉砕粉を更に気流粉砕機で再粉化する等任意の手段を採用できるものである。微細粉化工程の実施例を詳細に説明すると、精白米を水洗し、水に対して0.005〜0.01%の酵素(ペクチナーゼ)並びに酵素反応を助けるクエン酸ナトリウム0.1〜0.5%を溶かして酵素溶液を作り、水洗した米を米と同量の前記酵素溶液に6〜24時間浸漬し、所定時間経過後米を取り出し水切りをした後ジェット乾燥機による1〜2分間のかるい乾燥を施し、微粉砕機(ジエット気流粉砕機)で微粉状(メツシュ:200以上)とし、更に熱風乾燥で乾燥する。
【0012】
前記の微細粉化工程で形成した微細粉に、活性グルテンを15〜8%を添加する(グルテン添加工程)と、パン生地用粉が製出される。前記のパン生地は定形粒体の粉体のため、加水加塩して混練した際グルテンの網状組織が粉粒の包込むようになるため、通常の麦類の粉と同様にパン生地として使用が可能となるものである。
【0013】
尚パンの製造に於いては、前記のパン生地用粉を用いて行うものであるが、製造しようとするパンの種類によって、混練時に他の粉例えばコーンミール、バーボイルドライス粉、ホットロール米粉を適宜添加したり、更に粘性増大や保形性増大手段として、キサンタンガム等の多糖類の添加するなどパンの製造自体は全く任意に実施できるものである。
【0014】
<第二実施例>第二実施例は前記酵素前処理を行った微細粉化工程で製出した微細粉や、或は米粒を単に微細粉化して製出した微細粉に対して中間処理を施す。中間処理工程は熱処理か或はオゾン処理を行うもので、熱処理は乾式で行うもので、約200℃で数分間(米粉の含水量「一般に約20%の水分を含む」によって多少異なる)加熱すると、一部は水を失いデキストリンに変化すると共に、損傷デンプンのミセル構造が修復されると共に、正常デンプンのミセル構造も堅牢となる。次にグルテン添加工程を行うもので、前記熱処理を施した米粉に活性グルテンを15%〜8%(12%前後が望ましい)を添加する。
【0015】
この様にして製出したパン生地用米粉は、第一実施例の粉と同様に、加水加塩し、必要に応じて補助剤(他の粉、多糖類、砂糖、油脂、牛乳、イーストフード、香味料)を加えて混捏し、而る後醗酵、焙焼と常法通りの製パンを行うものであるが、この混捏に際して、前記米粉は特に熱処理を施しているためデキストリンを含み、且つ損傷デンプンの修復がなされデンプンの吸水性を減少せしめているので、加水に於いて、グルテンにも充分水分が供給されグルテン形成が完全になされることになる。また特にデキストリンは食物繊維であって、消化酵素によって分解されないため製出されたパンはカロリーが低く、所謂ダイエット食品となり得るものである。
【0016】
次に中間処理工程に於いて、前記した熱処理を採用せずに、オゾン処理を行う場合について説明する。オゾン処理は、オゾン15PPM以下の雰囲気中で米粉を空中攪拌し、その後にグルテン添加工程を行うものである。前記オゾン処理を経た米粉は、デンプン粒の表面に多数のオゾン分子が吸着された状態となり、グルテンを添加するとデンプン粒の周囲にグルテンが結合すると共に、グルテン自体がオゾンによって酸化が促進され、グルテン相互の結合が強固となる。このため、パン生地とするための加水、加塩並びに補助剤を添加して混捏する際、グルテンへの水の供給が不充分であっても、グルテン形成(網状組織)が完全になされ、生地のまとまりが良く、ダレがなくなるものである。
【0017】
【発明の効果】
本発明は以上のように米粒を単に微細粉化し、これにグルテンを添加したのみでは、米自体が複粒体で且つ細胞膜が堅牢であるためその微細粉が不定形でグルテンの網状組織に包込まれないためパン生地用粉として不適当であり、また微細米粉が小麦粉に比して吸水性が強いため、加水混練時のグルテンの網状組織形成が適切になされず、このためパン生地用の主粉としては使用できなかったものを、微細粉を行う前に酵素処理を施したり、或は熱処理若しくはオゾン処理を施すことで、グルテンとの親和性が向上し、而もグルテンの網状組織形成が充分なされるようにしたもので、米粉を主体としても充分なガス保持力を有するパン生地を得ることができたものである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-06-16 
結審通知日 2005-06-20 
審決日 2005-07-04 
出願番号 特願平3-289282
審決分類 P 1 122・ 121- ZA (A21D)
P 1 122・ 531- ZA (A21D)
P 1 122・ 16- ZA (A21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 植野 浩志  
特許庁審判長 河野 直樹
特許庁審判官 田中 久直
鵜飼 健
登録日 1996-03-19 
登録番号 特許第2030955号(P2030955)
発明の名称 パン生地用米粉  
代理人 吉井 雅栄  
代理人 吉井 剛  
代理人 近藤 彰  
代理人 近藤 彰  

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