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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない A61C
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効としない A61C
管理番号 1124978
審判番号 無効2003-35495  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-03-09 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-11-28 
確定日 2005-11-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第2873725号発明「根管長測定器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人らの負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第2873725号(平成2年7月13日出願、平成11年1月14日設定登録。)の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】根管内に挿入されている測定電極の先端位置に対応した測定データを逐次検出するデータ検出手段と、
上記データ検出手段で得られる測定データを逐次補正し、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータとなるように処理するデータ処理手段と、
上記データ処理手段で得られた補正後データを表示する表示手段、
とを備えたことを特徴とする根管長測定器。(本件発明1)

【請求項2】測定データを目標とする補正後データに変換するための補正用テーブルを記憶手段に記憶しており、このテーブルから得られる補正値を測定データに加算して補正を行うようにした請求項1記載の根管長測定器。(本件発明2)

【請求項3】測定データを目標とする補正後データに変換するための演算式を記憶手段に記憶しており、この演算式を用いて測定データの補正を行うようにした請求項1記載の根管長測定器。(本件発明3)」

2.請求人らの主張
これに対して、請求人らは、証拠方法として下記の甲第1〜17号証を提出すると共に、大略次の理由を挙げ、本件発明1ないし3に係る特許を無効とすべき旨主張している。
(1)本件特許明細書(甲第1号証)の発明の詳細な説明には、本件発明1の構成要件である「上記データ検出手段で得られる測定データを逐次補正し、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータとなるように処理するデータ処理手段」(以下、「構成要件(B)」という。)におけるデータ処理手段を当業者が容易に実施できる程度に説明されておらず、また、請求項2及び3は請求項1に従属して請求項1の構成要件をすべて含むことから、本件発明1ないし3に係る特許は特許法第36条第3項(昭和62年法律第27号によるもの。以下同じ)の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「無効理由1」という。)。
(2)本件発明1の上記構成要件(B)は、不明確あるいは不明瞭な記載であって、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではなく、また、請求項2及び3は請求項1に従属して請求項1の構成要件をすべて含むことから、本件発明1ないし3に係る特許は特許法第36条第4項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「無効理由2」という。)。
(3)本件発明1の上記構成要件(B)は、補正後データを単に「・・・リニアまたはほぼリニアに変化するデータ・・・」と規定するが、この規定による補正後データは本件特許発明の目的を達成できないデータをも含み、また、請求項2及び3は請求項1に従属して請求項1の構成要件をすべて含むことから、本件発明1ないし3に係る特許は特許法第36条第4項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである(以下、「無効理由3」という。)。
(証拠方法)
甲第1号証 特許第2873725号公報
甲第2号証 大阪地方裁判所に出訴された特許権及び実用新案権に
基づく差止請求並びに損害賠償請求事件(平成13年
(ワ)第1334号)における原告準備書面12
甲第3号証 財団法人日本品質保証機構作成の試験成績書(歯牙NO.
前歯-1および2、臼歯-1ないし4)
甲第4号証 財団法人日本品質保証機構作成の試験成績書(歯牙NO.
前歯-3ないし30、臼歯-5ないし30)
甲第5号証 歯牙NO.前歯-1ないし6および臼歯-1ないし4の合
計10本の歯牙について、甲第3号証および甲第4号証の
補正後データをグラフに表したもの
甲第6号証 本件特許の第2図に途中で勾配が変化する折れ線C’を加
えたグラフ
甲第7号証 広辞苑第五版第2472頁
甲第8号証 東京都立産業技術研究所の成績書(歯牙NO.22および
K1)
甲第9号証 甲第8号証の歯牙NO.22のデータのグラフ
甲第10号証 甲第8号証の歯牙NO.K1のデータのグラフ
甲第11号証 大阪地方裁判所に出訴された特許権及び実用新案権に
基づく差止請求並びに損害賠償請求事件(平成13年
(ワ)第1334号)における原告準備書面9
甲第12号証 大阪地方裁判所に出訴された特許権及び実用新案権に
基づく差止請求並びに損害賠償請求事件(平成13年
(ワ)第1334号)における原告準備書面10
甲第13号証 甲第9号証における歯牙NO.22補正前データと、甲
第10号証における歯牙NO.K1補正後データとを同一
のグラフに示したもの
甲第14号証 甲第3号証における歯牙NO.前歯-1の測定結果をグラ
フに表したもの
甲第15号証 甲第3号証における歯牙NO.臼歯-3の測定結果をグラ
フに表したもの
甲第16号証 甲第15号証における歯牙NO.臼歯-3の補正前のデー
タと、甲第14号証における歯牙NO.前歯-1の補正後
のデータとを同一のグラフに表したもの
甲第17号証 本件特許の第2図にリニアなB’およびB”を加えたグラ


3.被請求人の主張
一方、被請求人は、証拠方法として下記の乙第1〜6号証を提出すると共に、請求人らの主張は、技術的にみても、技術の現実と乖離した主張であり、また特許法の記載要件から見ても、特許法が予定している範囲を超える記載要件を主張するものであり、また、無効理由として意味がないものであり、さらに、本件特許発明の誤解に基づく主張であるから、失当である旨主張している。
(証拠方法)
乙第1号証 日本歯科保存学雑誌第32巻第3号
(平成元年6月30日、日本歯科保存学会発行)
乙第2号証 特開平2-271854号公報
乙第3号証 特許第2873722号公報
乙第4号証 特公昭62-25381号公報
乙第5号証 特公昭62-2817号公報
乙第6号証 甲第5号証の各測定データと、本件特許発明による補正後
のデータを対比させたグラフ

4.当審の判断
(1)無効理由1について
請求人らは、無効理由1の具体的な理由について、
『本件特許明細書には、根尖に達するまでの距離と測定データとの関係が歯牙や患者が異なってもほぼ一定であることを前提として、測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化する補正後データが得られるように測定データの各値ごとに補正値を一義的に定める手法のみが開示されている。
しかし、この手法では、測定データが個々の歯牙の特性に応じて千差万別となる現実の歯牙について、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータとなるように処理することはできない。
根管長測定器は現実の歯牙の根管治療に用いられるものであり、根管長測定器は、根尖に達するまでの距離と測定データとが特定の関係には無いところの現実の歯牙の根管長を測定できなければならない。このためには、根尖に達するまでの距離と測定データとが特定の関係を外れた歯牙に対しても、その根管長を測定できるようにする解決手段が明細書には開示されていなければならない。
・・・
しかるに、本件特許明細書には、上記解決手段については何も説明していないから、結局、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第3項の規定を満たしていない。』(審判請求書第7頁第16行〜第8頁第10行)と主張している。
ところで、本件特許明細書には、「電流や電圧の形で検出される測定データは測定電極の先端が根尖から離れている間は小さい値のままであまり増加せず、根尖付近で急に増加し始める。第3図はこの状況を例示したものであり、横軸は根尖に達するまでの距離、縦軸は測定データである。・・・このような測定データをそのまま表示に用いると、測定電極の先端が根尖から離れている間は表示値は小さくしかもあまり増加しないが、1mm前後に近づいてから急激に大きくなるという結果となり、非常に使いにくいものとなる。・・・この発明はこのような点に着目し、測定電極先端と根尖間の距離に対応して表示がリニアまたはほぼリニアに変化する根管長測定器を得ることを目的としてなされたものである。」(甲第1号証第2頁左欄第15〜31行参照)、「第3図に示した根尖に達するまでの距離と測定データとの関係は、歯牙が異なりあるいは患者が異なってもほぼ一定であるから、所望の補正後データが得られるように測定データの各値ごとに所要補正値を一義的に定めることができ、これに従って事前に補正用テーブルや演算式を設定しておくのである。」(同第2頁右欄第1〜6行参照)と記載されている。
これらの記載によれば、上記「第3図に示した根尖に達するまでの距離と測定データとの関係」とは、「測定データは測定電極の先端が根尖から離れている間は小さい値のままであまり増加せず、根尖付近で急に増加し始める」という傾向を有する関係のことであり、「根尖に達するまでの距離と測定データとの関係」がかかる傾向を有することは、当該技術分野における技術常識といえるものである(例えば、乙第5号証参照)と共に、第3図に示された曲線の形状自体には歯牙毎あるいは患者毎の特性に応じてある程度の差異が存在するとしても、かかる傾向自体は「歯牙が異なりあるいは患者が異なってもほぼ一定である」と捉え得るものであるから、「所望の補正後データが得られるように測定データの各値ごとに所要補正値を一義的に定めることができ、これに従って事前に補正用テーブルや演算式を設定しておく」ことで、測定データにつき、測定電極先端と根尖間の距離に対応して表示がリニアまたはほぼリニアに変化するような所望の補正後データが得られるものと解される。
そうすると、本件発明1ないし3の構成要件(B)におけるデータ処理手段とは、測定データにつき、「測定電極の先端が根尖から離れている間は小さい値のままであまり増加せず、根尖付近で急に増加し始める」という非常に使いにくい関係を是正すべく、測定電極先端と根尖間の距離に対応して表示がリニアまたはほぼリニアに変化する所望の補正後データが得られるように測定データの各値ごとに補正用テーブルや演算式からなる所要補正値を加味するようにしたデータ処理手段を意味するものと捉えることができ、その限りにおいて、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記のデータ処理手段を当業者が容易に実施できる程度に説明されていないとすることはできない。
なお、本件発明1ないし3の目的は、臨床上、根管長が測定しにくい関係を補正することにあり、歯牙の特性のばらつきまで補正するというものでないことは明らかである。
よって、無効理由1には理由がない。

(2)無効理由2について
請求人らは、無効理由2の具体的な理由について、
『本件特許の請求項1には、「リニアまたはほぼリニアに変化するデータ」と記載されているが、この内の「ほぼリニア」は、「ほぼ」の技術的な意味が不明確であることから、どのようなデータであるかは特許請求の範囲の文言からは明確ではない。また発明の詳細な説明にも定義がなされておらず、その意味するところが不明瞭である。』(審判請求書第10頁第7〜12行)と主張している。
ところで、本件特許明細書には、「測定電極の先端が根尖から離れている間は表示値は小さくしかもあまり増加しないが、1mm前後に近づいてから急激に大きくなるという結果となり、非常に使いにくいものとなる。」(甲第1号証第2頁左欄第22〜25行参照)、「この発明によれば、測定データが測定電極先端と根尖との間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するように補正されて表示されるので、表示値が根尖付近で急激に増加するようなことがなくなる。」(同第2頁右欄第8〜11行参照)、「従って、表示部6が例えば指針式メータであれば、その指針は測定電極2が根管1aに挿入されるにつれて挿入量にほぼ比例して振れるようになるのであり、根尖1bに近づいてから急に大きく振れるということがなく、表示が見やすく、使いやすい根管長測定器が得られる。」(同第3頁左欄第24〜28行参照)と記載されている。
これらの記載によれば、「リニアまたはほぼリニアに変化するデータ」とは、根尖から離れている間はあまり増加せずに根尖付近で急激に増加する従来のデータとは異なり、測定電極が根管に挿入されるにつれて挿入量に比例またはほぼ比例して増加あるいは変化するデータを意味し、かかるデータにより、指針式メータ等の表示部における表示が見やすく、使いやすい根管長測定器が得られるとの効果を奏するものであることは明らかである。
そうすると、「ほぼリニアに変化するデータ」は、本件特許明細書の記載に基いて上述した範囲のものとして理解することが可能というべきであるから、不明確あるいは不明瞭な記載とはいえず、したがって、本件特許明細書の特許請求の範囲には発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないともいえない。
よって、無効理由2には理由がない。

(3)無効理由3について
請求人らは、無効理由3の具体的な理由について、
『構成要件(B)のみでは、「測定データが根尖付近で急に増加し始め、表示値が1mm前後に近づいてから急激に大きくなり非常に使いにくくなることを解消する」という課題(甲第1号証第2頁左欄第15行〜第25行)を解決することができず、また「最初は出力がほとんど変化しないで根尖付近で急激に変化するという測定原理に起因する表示値の急変がなくなる。」(甲第1号証第3頁右欄第22行〜第24行)という発明の効果も奏することができず、本件特許の請求項1には発明の構成に欠くことができない事項が記載されていない。』(審判請求書第17頁下から第2行〜第18頁第6行)と主張している。
ところで、従来の、測定データが根尖付近で急に増加し始めるのは、一般的な根尖までの距離と測定データの関係を表す第3図の曲線及び第2図のA線から理解されるように、それらの曲線の勾配が根尖付近で増加する方向に変化することに起因するものと認められる。
そうすると、勾配がほぼ一定の場合、即ち、測定データをデータ処理手段により「リニアまたはほぼリニアに変化するデータ」に補正した場合には、上記課題が解決され且つ上記効果が奏されることは明らかであるから、本件特許明細書の特許請求の範囲には発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないともいえない。
よって、無効理由3には理由がない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求人らの主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明1ないし3についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人らが負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-08-16 
結審通知日 2004-08-17 
審決日 2004-08-30 
出願番号 特願平2-186329
審決分類 P 1 112・ 534- Y (A61C)
P 1 112・ 531- Y (A61C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 寛治  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 内藤 真徳
岡田 孝博
登録日 1999-01-14 
登録番号 特許第2873725号(P2873725)
発明の名称 根管長測定器  
代理人 福原 淑弘  
代理人 水谷 好男  
代理人 那須 健人  
代理人 野河 信久  
代理人 福原 淑弘  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 野河 信久  

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