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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1125141
審判番号 不服2003-7953  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-05-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-08 
確定日 2005-10-20 
事件の表示 特願2000-342605「新聞輪転機の用紙調整装置及び用紙調整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月21日出願公開、特開2002-144536〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成12年11月9日の出願であって、平成15年3月28日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年5月8日付けで本件審判請求がされるとともに、同年6月5日付けで明細書についての手続補正(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年6月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項及び補正目的
本件補正は、以下の補正事項1〜4を含んでいる(改行及び1字空白は省略する。)。
補正事項1:請求項1に「給紙部に設けられたロール状の巻き取り紙の左右移動装置,前記レールフレーム部に設けられたターンバー及びハーフバーを含む前記左右方向位置調整手段と、」との記載を追加する。
補正事項2:請求項1記載の「このスイッチと前記左右方向位置調整手段との間及び前記スイッチと前記天地方向位置調整手段との間に設けられ、前記印刷部で印刷された用紙の走行経路の変更に応じて、前記スイッチと前記左右方向位置調整手段の組又は前記スイッチと前記天地方向位置調整手段の組の組み合わせを切り換える切換部」を「前記スイッチと前記左右移動装置との組,前記スイッチと前記ターンバーとの組,前記スイッチと前記ハーフバーとの組及び前記スイッチと前記天地方向位置調整手段との組の組み合わせを切り換える切換部」と補正する。
補正事項3:請求項1記載の「新聞の種類等に応じて予め設定された設定内容に基づいて、前記レールフレーム部を通過する用紙がどの経路に沿って走行するかを判断する制御装置とを有し、この制御装置の指令にしたがって前記切換部を動作させること、を特徴とする」を「新聞の種類等に応じて予め設定された情報に基づき、前記新聞を構成する用紙の各々が前記レールフレーム部を通過するどの用紙に対応するのかを判断し、この判断結果に基づいて、前記スイッチと前記左右移動装置との組,前記スイッチと前記ターンバーとの組,前記スイッチと前記ハーフバーとの組及び前記スイッチと前記天地方向位置調整手段との組の組み合わせを決定し、前記切換部に指令信号を出力する制御部と、を有することを特徴とする」と補正する。
補正事項4:請求項5記載の「前記新聞輪転機の制御装置が、前記レールフレーム部を通過する用紙の走行経路を判断し、新聞の種類等に応じて予め設定された設定内容に基づいて、前記制御装置が、前記レールフレーム部を通過する用紙の前記走行経路に変更があったと判断したときに、前記設定内容に基づいて、前記レールフレーム部を通過する用紙がどの経路に沿って走行するかを判断して、前記切換部に対して指令信号を出力し、」との記載を「新聞の種類等に応じて予め設定された情報に基づき、前記新聞を構成する用紙の各々が前記レールフレーム部を通過するどの用紙に対応するのかを判断し、この判断結果に基づいて、前記スイッチと前記左右移動装置との組,前記スイッチと前記ターンバーとの組,前記スイッチと前記ハーフバーとの組及び前記スイッチと前記天地方向位置調整手段との組の組み合わせを決定し、前記切換部に指令信号を出力し」と補正する。

補正事項2によれば、補正前請求項1では、切換部が「スイッチと前記左右方向位置調整手段との間及び前記スイッチと前記天地方向位置調整手段との間に設けられ」る旨限定されていたが、補正後の請求項1にはかかる限定がない。このように限定事項を削除することは、特許法17条2第4項1号〜4号のいずれの補正目的にも該当しない。なお、「スイッチと・・・位置調整手段との間に設けられ」との文言が、物理的又は幾何学的な配置位置の限定ではなく、スイッチ→切換部→位置調整手段という機能順序の限定であるとすると、自明な限定を記述しただけでなく、物理的又は幾何学的な配置位置の限定であるとの誤解を生じかねないから、明りようでない記載の釈明を目的とすると認めることはできる。しかし、特許法17条の2第4項4号は「明りようでない記載の釈明」を無条件に認めているのではなく、「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。」としており、補正前の記載が明りようでない旨の拒絶理由は通知されていないから、補正目的に違反していることに変わりはない。
また補正事項2によれば、補正前請求項1には「前記左右方向位置調整手段の組又は前記スイッチと前記天地方向位置調整手段の組の組み合わせを切り換える」に際し、「前記印刷部で印刷された用紙の走行経路の変更に応じて、」との限定があったが、この限定も補正後には削除されている。もっとも、補正前請求項1の同限定は用紙の走行経路の変更があった際に、スイッチと左右方向位置調整手段(又は天地方向位置調整手段)の組の組み合わせが切り換えられるという自明のことを、確認する意味合いで記載したものと受け取れる。そうであれば、明りようでない記載の釈明を目的とすると認めることはできるが、かかる拒絶理由は通知されていないから、補正目的に違反している。
補正事項4によれば、本件補正前の請求項5では、制御装置(補正後は「制御部」)の判断が、用紙の走行経路に変更があるかどうかの判断及び用紙がどの経路に沿って走行するかの判断の2段階とされているが、本件補正後の請求項5には2段階の判断をする旨の限定がない。
以上のとおり、補正事項2,4は、特許法17条の2第4項の規定に違反している。

他方、補正事項1,3及び補正事項2の一部は、左右方向位置調整手段の限定を行うものであるから、本件補正が請求項1の限定的減縮を補正目的に含む(特許法17条の2第4項2号該当)ものと認める。ここで、補正後請求項1の「制御部」と補正前請求項1の「制御装置」は同一と認め、補正後請求項1の「切換部に指令信号を出力」と補正前請求項1の「制御装置の指令にしたがって前記切換部を動作させる」も同一と認める。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。

2.補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「複数の給紙部と、この印刷部で印刷された用紙の片面又は両面に印刷を行う印刷部と、前記用紙の走行経路を決定するレールフレーム部と、このレールフレーム部を通過する前記用紙の各々に対応して設けられ、新聞を構成する用紙の左右方向の位置を調整する左右方向位置調整手段及び前記新聞を構成する用紙の天地方向の位置を調整する天地方向位置調整手段と、前記左右方向位置調整手段又は前記天地方向位置調整手段を駆動させるスイッチが配列された操作盤と、前記レールフレーム部の近傍に設けられ、前記用紙を折り畳み、重ね合わせて新聞を形成する折り部とを有する新聞輪転機の用紙調整装置において、
給紙部に設けられたロール状の巻き取り紙の左右移動装置,前記レールフレーム部に設けられたターンバー及びハーフバーを含む前記左右方向位置調整手段と、
前記新聞を構成する用紙の各々に対応して一定の関係で割り当てられた前記スイッチと、
前記スイッチと前記左右移動装置との組,前記スイッチと前記ターンバーとの組,前記スイッチと前記ハーフバーとの組及び前記スイッチと前記天地方向位置調整手段との組の組み合わせを切り換える切換部と、
新聞の種類等に応じて予め設定された情報に基づき、前記新聞を構成する用紙の各々が前記レールフレーム部を通過するどの用紙に対応するのかを判断し、この判断結果に基づいて、前記スイッチと前記左右移動装置との組,前記スイッチと前記ターンバーとの組,前記スイッチと前記ハーフバーとの組及び前記スイッチと前記天地方向位置調整手段との組の組み合わせを決定し、前記切換部に指令信号を出力する制御部と、
を有することを特徴とする新聞輪転機の用紙調整装置。」
ただし、冒頭の「この印刷部で印刷された用紙の片面又は両面に印刷を行う印刷部」については、それ以前に「印刷部」ではなく「給紙部」が記載されているため、「この給紙部で給紙された用紙の片面又は両面に印刷を行う印刷部」の趣旨に解する。

3.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された実願平1-88988号(実開平3-31545号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)には、以下のア〜クの記載が図示とともにある。
ア.「輪転印刷機によって例えば32頁の新聞を印刷するのに、通常、4台のモノクロプレスと1台のカラープレスを用いて印刷し、各プレスにおいて印刷された用紙を1台の折り機において重ね合わせ、所定の形状に折り畳むようにしている。」(1頁18行〜2頁2行)
イ.「印刷に供される用紙の経路である紙通しコースは、印刷頁数や多色刷り頁がどの面になるかによって異なるため、この種の輪転印刷機においては、紙通しコースが選定されると、これに併せてベイウインド装置によって、用紙の配置順序が決定され、これに伴って使用するべきコンペンセータローラも決定される。このコンペンセータローラは、折り機において定寸切断される印刷機の用紙をカットオフ位置が印刷面に対して所定の位置になるように制御するものであって、印刷用紙の走行経路中に2〜3個設けられている。」(2頁3〜13行)
ウ.「コンペンセータローラは、印刷速度の上昇あるいは下降時にその軸の位置を進み方向または遅れ方向に移動させるなどして調節する必要がある」(2頁14〜17行)
エ.「新聞印刷においては、その日の頁建てによって紙通しコースが変更され、それに応じて折り機における用紙の重なり順序が変わるとともに、使用するコンペンセータローラも変わり、印刷紙面と押釦との組合せが頁建てによって異なることとなる。従って、作業者は紙通しコースが変更される都度、押釦にマークを付けるなどして操作間違いを起こさないようにしていた。」(3頁9〜17行)
オ.「従来の輪転印刷機においては、複数の押釦と複数のコンペンセータローラ軸とがそれぞれ固定的に対応させてあるため、上述のように、紙通しコースが変更されると、押釦の配列順序と印刷用紙の重なり順序とが異なるため、押釦にマークを付けていても、操作を間違えたりすることがあるとともに、操作が極めて煩雑であった。」(3頁19行〜4頁6行)
カ.「本考案・・・の目的とするところは、紙通しコースが変わることによって用紙の重なり順序が変わっても、操作間違いを起こすことなく押釦操作することができ、所定のコンペンセータローラ軸を確実に制御することができるようにした輪転印刷機を提供することにある。・・・本考案に係る輪転印刷機は、輪転機のコンペンセータローラの押釦操作に際し、複数の紙通しコースにそれぞれ対応するコンペンセータローラ軸をコンピュータに記憶させておき、前記押釦の配列順序と印刷用紙の重なり順序とを紙通しコースに応じて常に所定の関係になるように、押釦とコンペンセータローラ軸とを自動的に選択接続するようにしてある。」(4頁7行〜5頁2行)
キ.「折り機において一番上位に位置する印刷用紙に対応するコンペンセータローラ軸に対して例えばNo.1の押釦をふりあて、以下、印刷用紙の重なり順序に応じて順次、No.2…とふりあてていくので、押釦のNo.と印刷用紙の重なり順序とを一致させることができるので、コンペンセータローラ軸のNo.を意識することなく、所定の押釦を操作することができる。」(5頁4〜11行)
ク.「印刷の頁建が決まると、紙通しコース並びに使用するコンペンセータローラとが決まり、今、ある紙通しコースにおいて、使用するコンペンセータローラがNo.5,No.10,No.15,No.17の4個であり、しかも、折り機において一番上位に位置する印刷用紙に対応するコンペンセータローラがNo.5であり、以下、順次No.10,No.15,No.17の順に下位になるものとすると、コンピュータ4が、No.1の押釦にNo.5の軸を、No.2の押釦にNo.10の軸を、No.3の押釦にNo.15の軸を、No.4の押釦にNo.17の軸をそれぞれ割付けるのである。」(6頁13行〜7頁4行)

4.引用例記載の発明の認定
記載アの「通常、4台のモノクロプレスと1台のカラープレスを用いて印刷」における「モノクロプレス」や「カラープレス」は「印刷部」といえるものであるから、引用例記載の輪転印刷機が「複数の給紙部と、この給紙部で給紙された用紙の片面又は両面に印刷を行う印刷部」を有する「新聞輪転機」であることは明らかである。
記載アに「1台の折り機において重ね合わせ、所定の形状に折り畳むようにしている。」とある以上、引用例記載の「輪転印刷機」が用紙を重ね合わせ所定の形状に折り畳む折り機とを有することは明らかである。
そして、引用例記載の「コンペンセータローラ軸」や「押釦」は用紙調整のために設けられているものであるから、引用例には「新聞輪転機の用紙調整装置」として次のような発明が記載されていると認めることができる。
「複数の給紙部と、この給紙部で給紙された用紙の片面又は両面に印刷を行う印刷部と、ベイウインド装置と、複数のコンペンセータローラ軸と、コンペンセータローラを進み方向又は遅れ方向に移動させるための押釦と、用紙を重ね合わせ所定の形状に折り畳む折り機とを有する新聞輪転機の用紙調整装置において、
前記押釦との配列順序と印刷用紙の重なり順序とを所定の関係とし、複数の紙通しコースにそれぞれ対応するコンペンセータローラ軸をコンピュータに記憶させておくことにより、押釦とコンペンセータローラ軸とが自動的に選択接続されるようにした新聞輪転機の用紙調整装置。」(以下「引用発明」という。)

5.補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
以下では、「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
引用発明の「コンペンセータローラ軸」、「コンペンセータローラを進み方向又は遅れ方向に移動させるための押釦」及び「折り機」は、補正発明の「新聞を構成する用紙の天地方向の位置を調整する天地方向位置調整手段」、「天地方向位置調整手段を駆動させるスイッチ」及び「折り部」にそれぞれ相当する。
引用発明の「押釦」は複数あり、これらが配列されていることは第1図及び第2図図示のとおりであり、配列したものを「操作盤」といえることは明らかである。
引用発明では「押釦との配列順序と印刷用紙の重なり順序とを所定の関係」としており、このことと補正発明において「新聞を構成する用紙の各々に対応して一定の関係で割り当てられた前記スイッチ」との構成には差異がない。
引用発明において「複数の紙通しコースにそれぞれ対応するコンペンセータローラ軸をコンピュータに記憶させておくことにより、押釦とコンペンセータローラ軸とが自動的に選択接続されるようにした」以上、引用発明が押釦とコンペンセータローラ軸との組の組み合わせを切り換える切換部を有することは明らかであり、「新聞の種類等に応じて予め設定された情報に基づき、スイッチと天地方向位置調整手段との組の組み合わせを決定し、切換部に指令信号を出力する制御部」を有する点で補正発明と引用発明に相違はない。
また、引用発明は「複数の紙通しコース」があることを前提とするものであるから、用紙の走行経路は可変であり、したがって補正発明の「用紙の走行経路を決定するレールフレーム部」を有すること、及び「天地方向位置調整手段」(コンペンセータローラ軸)が「レールフレーム部を通過する前記用紙の各々に対応して設けられ」ていることは自明である。
したがって、補正発明と引用発明とは、
「複数の給紙部と、この給紙部で給紙された用紙の片面又は両面に印刷を行う印刷部と、前記用紙の走行経路を決定するレールフレーム部と、このレールフレーム部を通過する前記用紙の各々に対応して設けられ、新聞を構成する用紙の天地方向の位置を調整する天地方向位置調整手段と、前記天地方向位置調整手段を駆動させるスイッチが配列された操作盤と、前記用紙を折り畳み、重ね合わせて新聞を形成する折り部とを有する新聞輪転機の用紙調整装置において、
前記新聞を構成する用紙の各々に対応して一定の関係で割り当てられた前記スイッチと、
前記スイッチと前記天地方向位置調整手段との組の組み合わせを切り換える切換部と、
新聞の種類等に応じて予め設定された情報に基づき、前記スイッチと前記天地方向位置調整手段との組の組み合わせを決定し、前記切換部に指令信号を出力する制御部と、
を有する新聞輪転機の用紙調整装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明では「天地方向位置調整手段」だけでなく「新聞を構成する用紙の左右方向の位置を調整する左右方向位置調整手段」をも「レールフレーム部を通過する前記用紙の各々に対応して」設け、「左右方向位置調整手段」が「給紙部に設けられたロール状の巻き取り紙の左右移動装置,前記レールフレーム部に設けられたターンバー及びハーフバーを含」み、操作盤には「左右方向位置調整手段」を駆動させるスイッチも新聞を構成する用紙の各々に対応して一定の関係で割り当てられたものとして配列したのに対し、引用発明がこれら構成を有するかどうか明確でない点。
〈相違点2〉補正発明の「切換部」がスイッチと天地方向位置調整手段との組の組み合わせだけでなく、「前記スイッチと前記左右移動装置との組,前記スイッチと前記ターンバーとの組,前記スイッチと前記ハーフバーとの組」の組み合わせを切り換え、その切り換えは「前記スイッチと前記左右移動装置との組,前記スイッチと前記ターンバーとの組,前記スイッチと前記ハーフバーとの組及び前記スイッチと前記天地方向位置調整手段との組の組み合わせ」に共通して「新聞の種類等に応じて予め設定された情報に基づき、前記新聞を構成する用紙の各々が前記レールフレーム部を通過するどの用紙に対応するのかを判断し、この判断結果に基づいて」決定されるのに対し、引用発明がこれら構成を有するとはいえない点。
〈相違点3〉補正発明の「折り部」が「レールフレーム部の近傍に設けられ」ているのに対し、引用発明では折り機とレールフレーム部の位置関係が明確でない点。

6.相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断
(1)相違点1,2について
相違点1及び相違点2は技術的関連が深いのでまとめて判断する。
引用例の記載アに「32頁の新聞を印刷するのに、通常、4台のモノクロプレスと1台のカラープレスを用いて印刷」とあるところ、重ねられた新聞紙1枚は4頁からなっているから、「32頁の新聞」は新聞紙8枚が重なったものであり、他方印刷部は最大でも5台であるから、5台中の4台を用いて、走行方向に2分割することにより8枚とするものと理解できる。これ以外の理解は著しく困難である。そして、走行方向に2分割することにより8枚としたものを折り機で折り畳むためには、2分割された用紙の走行方向を変更しなければならず、例えば特開平1-225557号公報(原査定の拒絶の理由に引用された文献の1つである。)に、「輪転機において、各給紙部を始点とする料紙は、夫々対応する印刷ユニットを経てレールフレーム部に適宜設けられた多数のガイドローラー、ドラグローラー及びターニングバー等の料紙案内手段に従って案内され」(2頁右上欄13〜17行)とあるように、輪転印刷機はそのためのターンバーを通常備えているものである。
本願明細書の「多色刷り印刷された用紙P1a,P1b,P5a,P5bのなかの少なくとも一つを新聞の任意面に割り込ませるためのベイウィンドー部115」(段落【0004】)及び「ベイウィンドー部115は、・・・用紙P1a,P1b,P5a,P5bの走行方向を変えるためのハーフバーとを有している。」(段落【0005】)との記載によれば、補正発明の「ハーフバー」とは、多色刷り印刷された用紙を新聞の任意面に割り込ませるための「ベイウィンドー部」に設けられ用紙の走行方向を変えるためのバーである。また、引用発明の輪転印刷機は「ベイウインド装置」を有するところ、これが本願明細書記載の「ベイウィンドー部」と異なると解することはできない。そして、引用発明においても、ベイウインド装置を通過する用紙の走行方向を変えるためのバー、すなわちハーフバーが必要なことは明らかである。
また、輪転印刷機においては、左右方向の位置調整をする必要があり、そのために「給紙部に設けられたロール状の巻き取り紙の左右移動装置」を設けることは特開平9-104159号公報に「【従来の技術】輪転印刷機において、印刷画像位置の左右調整は、給紙台上の印刷用紙をその給紙方向と直交する方向、すなわち用紙幅方向(左右方向でもある)に移動することにより行う印刷用紙移動方式・・・が知られている。」(段落【0002】)とあるとおり周知であり、ターンバーにより左右方向位置調整を行うことは特開昭57-57162号公報に「オフセット輪転機の折機・・・は、リボンの縦方向の位置修正を補正ローラを使用して行い、横方向の位置修正をターンバーを使用して行っている。」(1頁左下欄19行〜右下欄4行)及び「6個のターンバー・・・には横方向の位置修正を行わしめる駆動モータ・・・が夫々設けられている。」(2頁右上欄13〜16行)と記載されているとおり周知である。そうであれば、引用発明の輪転印刷機においても、「給紙部に設けられたロール状の巻き取り紙の左右移動装置」や「レールフレーム部に設けられたターンバー」を含む「新聞を構成する用紙の左右方向の位置を調整する左右方向位置調整手段」をレールフレーム部を通過する前記用紙の各々に対応して設けること、及びハーフバーもターンバー同様用紙の走行方向を変えるためのバーである以上、ハーフバーを「左右方向位置調整手段」に加えることは設計事項というべきである。さらに、左右位置調整手段を設ける以上、それを駆動させる押釦(スイッチ)群を操作盤に配列することは必然である。
ところで、引用発明は「従来の輪転印刷機においては、複数の押釦と複数のコンペンセータローラ軸とがそれぞれ固定的に対応させてあるため、上述のように、紙通しコースが変更されると、押釦の配列順序と印刷用紙の重なり順序とが異なるため、押釦にマークを付けていても、操作を間違えたりすることがあるとともに、操作が極めて煩雑であった。」(記載オ)との課題を解決するために「押釦との配列順序と印刷用紙の重なり順序とを所定の関係とし、複数の紙通しコースにそれぞれ対応するコンペンセータローラ軸をコンピュータに記憶させておくことにより、押釦とコンペンセータローラ軸とが自動的に選択接続されるようにした」ものであるが、「紙通しコースが変更されると、押釦の配列順序と印刷用紙の重なり順序とが異なる」という状況は、コンペンセータローラ軸用の押釦だけでなく、左右位置調整手段用の押釦にも共通することが明らかである。そうであれば、「押釦との配列順序と印刷用紙の重なり順序とを所定の関係とし、複数の紙通しコースにそれぞれ対応するコンペンセータローラ軸をコンピュータに記憶させておくことにより、押釦とコンペンセータローラ軸とが自動的に選択接続されるようにした」との引用発明の構成を、「コンペンセータローラ軸」を「左右位置調整手段」と読み替えた上で、左右位置調整手段用の押釦に拡張すること、すなわち「前記スイッチと前記左右移動装置との組,前記スイッチと前記ターンバーとの組,前記スイッチと前記ハーフバーとの組」の組み合わせを切り換えることは設計事項というべきである。そのことは、前掲特開昭57-57162号公報に「分割されたリボンA…Fの横方向及び縦方向の位置調整を、作製された折丁23のリボンA…Fの重ね合わせの順番に従ってターンバー8…13及び補正ローラ14…19の選択スイッチ411…416,511…516を操作することにより行うことができる。」(3頁左下欄11〜17行)と記載されていることからも窺える。なお、特開昭57-57162号公報は新聞輪転機について記載したとまで認めることはできないが、「リボンA…Fの横方向及び縦方向の位置調整」と新聞用紙の左右方向及び天地方向に位置調整に格別の技術的差異があると認めることはできず、上記記載中の「補正ローラ」は補正発明の「天地方向位置調整手段」に相当するものである。
引用発明では「押釦とコンペンセータローラ軸とが自動的に選択接続される」に当たり、「複数の紙通しコースにそれぞれ対応するコンペンセータローラ軸をコンピュータに記憶させておくこと」とされているだけで、「新聞の種類等に応じて予め設定された情報に基づき、前記新聞を構成する用紙の各々が前記レールフレーム部を通過するどの用紙に対応するのかを判断し、この判断結果に基づいて」との構成を採用していないかもしれない。引用発明では、紙通しコースが決定されることで押釦とコンペンセータローラ軸との組が決定されるのであり、紙通しコースに対応する情報を操作者が入力しなければならないが、同情報の入力に当たり、どの印刷部からの用紙がどのコンペンセータローラ軸を通過するかを逐一入力しなければならないと解することはできない。すなわち、引用例の記載クにあるように「印刷の頁建が決まると、紙通しコース並びに使用するコンペンセータローラとが決ま」るのであるから、印刷の頁建をコンピュータに入力すれば十分であることは引用例に示唆されている。そして、「紙通しコース」だけでなく「印刷の頁建」も補正発明の「新聞の種類等に応じて予め設定された情報」に相当し、紙通しコースを決定することは「新聞を構成する用紙の各々が前記レールフレーム部を通過するどの用紙に対応するのかを判断」することに等しいから、上記構成を採用することは引用例に示唆されているというべきである。そればかりか、前掲特開昭57-57162号公報に、「作製する折丁23の種類が決定すると、折機本体1へのリボン2,3の供給の仕方が決定され、分割されたリボンA…Fがターンバー8…13を通過する順序が例えば第2図の実線矢印及び破線矢印で示すごとく決定される。この場合、折丁23のリボンの順番は上からABCFEDとなっている。・・・折丁23の1番目から6番目のリボン(A,B,C,F,E,D)の横方向の位置修正は、第1のターンバー8、第2のターンバー9、第3のターンバー10、第6のターンバー13、第5のターンバー12、第4のターンバー11の順番にターンバー8…13がリボン(A,B,C,F,E,D)に対応するので、対応するターンバー8…13により行う。」(3頁右下欄4行〜4頁左上欄4行)との記載があり、上記補正発明の構成の「新聞」を「折丁」と読み替えたものは特開昭57-57162号公報に記載されているというべきである。
以上のとおりであるから、相違点1,2に係る補正発明の構成を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(2)相違点3について
引用例には、折り機とレールフレーム部の位置関係についての記載はないけれども、折機はレールフレーム部を通過した用紙を重ね合わせて折り畳むものであるから、レールフレーム部からいたずらに離隔する必要はないし、そのようにすることは不自然である。また、前掲特開平1-225557号公報の第3図には、折り部に相当する折り畳みユニットがレールフレーム部の近傍に設けられた様子が図示されている。
これらのことを考慮すれば、相違点3に係る補正発明の構成を採用することは設計事項というべきである。

(3)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1〜3に係る補正発明の構成は、設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおり、本件補正は補正目的を逸脱しており、かつ補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、平成14年改正前特許法17条の2第4項及び同条5項で準用する同法126条4項の規定に違反している。したがって、本件補正は同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年1月27日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「複数の給紙部と、この印刷部で印刷された用紙の片面又は両面に印刷を行う印刷部と、前記用紙の走行経路を決定するレールフレーム部と、このレールフレーム部を通過する前記用紙の各々に対応して設けられ、新聞を構成する用紙の左右方向の位置を調整する左右方向位置調整手段及び前記新聞を構成する用紙の天地方向の位置を調整する天地方向位置調整手段と、前記左右方向位置調整手段又は前記天地方向位置調整手段を駆動させるスイッチが配列された操作盤と、前記レールフレーム部の近傍に設けられ、前記用紙を折り畳み、重ね合わせて新聞を形成する折り部とを有する新聞輪転機の用紙調整装置において、
前記新聞を構成する用紙の各々に対応して一定の関係で割り当てられた前記スイッチと、
このスイッチと前記左右方向位置調整手段との間及び前記スイッチと前記天地方向位置調整手段との間に設けられ、前記印刷部で印刷された用紙の走行経路の変更に応じて、前記スイッチと前記左右方向位置調整手段の組又は前記スイッチと前記天地方向位置調整手段の組の組み合わせを切り換える切換部と、
新聞の種類等に応じて予め設定された設定内容に基づいて、前記レールフレーム部を通過する用紙がどの経路に沿って走行するかを判断する制御装置とを有し、
この制御装置の指令にしたがって前記切換部を動作させること、
を特徴とする新聞輪転機の用紙調整装置。」
ただし、ここでも「この印刷部で印刷された用紙の片面又は両面に印刷を行う印刷部」は「この給紙部で給紙された用紙の片面又は両面に印刷を行う印刷部」の趣旨に解する。

2.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
本願発明と引用発明とは、
「複数の給紙部と、この給紙部で給紙された用紙の片面又は両面に印刷を行う印刷部と、前記用紙の走行経路を決定するレールフレーム部と、このレールフレーム部を通過する前記用紙の各々に対応して設けられ、新聞を構成する用紙の天地方向の位置を調整する天地方向位置調整手段と、前記天地方向位置調整手段を駆動させるスイッチが配列された操作盤と、前記用紙を折り畳み、重ね合わせて新聞を形成する折り部とを有する新聞輪転機の用紙調整装置において、
前記新聞を構成する用紙の各々に対応して一定の関係で割り当てられた前記スイッチと、
前記スイッチと前記天地方向位置調整手段の組の組み合わせを切り換える切換部と、
新聞の種類等に応じて予め設定された設定内容に基づき、前記切換部を指令を出す制御装置を有し、
この制御装置の指令にしたがって前記切換部を動作させる新聞輪転機の用紙調整装置。」である点で一致し、以下の相違点1’,2’,4,5及び相違点3(補正発明を本願発明と読み替える。)で相違する。
〈相違点1’〉本願発明では「天地方向位置調整手段」だけでなく「新聞を構成する用紙の左右方向の位置を調整する左右方向位置調整手段」をも「レールフレーム部を通過する前記用紙の各々に対応して」設け、操作盤には「左右方向位置調整手段」を駆動させるスイッチも新聞を構成する用紙の各々に対応して一定の関係で割り当てられたものとして配列したのに対し、引用発明がこれら構成を有するかどうか明確でない点。
〈相違点2’〉本願発明の「切換部」がスイッチと天地方向位置調整手段との組の組み合わせだけでなく、「前記スイッチと前記左右方向位置調整手段との組」の組み合わせを切り換える、その切り換えは「前記スイッチと前記左右方向位置調整手段の組又は前記スイッチと前記天地方向位置調整手段の組の組み合わせ」に共通して、「新聞の種類等に応じて予め設定された情報に基づき、前記新聞を構成する用紙の各々が前記レールフレーム部を通過するどの用紙に対応するのかを判断する制御装置」の指令にしたがうとされているのに対し、引用発明がこれら構成を有するとはいえない点。
〈相違点4〉本願発明の「切換部」が「スイッチと前記左右方向位置調整手段との間及び前記スイッチと前記天地方向位置調整手段との間に設けられ」ているのに対し、引用発明が同構成を有するかどうか明らかでない点。
〈相違点5〉本願発明では、「前記スイッチと前記左右方向位置調整手段の組又は前記スイッチと前記天地方向位置調整手段の組の組み合わせ」に共通して「印刷部で印刷された用紙の走行経路の変更に応じて、」切り換えられるのに対し、引用発明が同構成を有するかどうか明らかでない点。

3.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
(1)相違点1’,2’,3について
「第2[理由]6」で述べたと同様の理由により、設計事項であるか当業者にとって想到容易である。

(2)相違点4について
相違点4に係る本願発明の構成については、切換部の場所を限定しているのか、それとも、スイッチ→切換部→位置調整手段(左右方向位置調整手段と天地方向位置調整手段を総称してこのように表記する。)という機能順序の限定であるのか不明確であり、発明の詳細な説明を参酌しても何れかに決することができない。
後者であるとすると、いわずもがなの限定であり、独立した相違点とはなりえない。
前者であるとすると、機能順序がスイッチ→切換部→位置調整手段である以上、切換部の配置位置をスイッチと位置調整手段の間とすることを妨げる何らかの課題があり、本願発明が特にその課題を解決したものでない限り、設計事項というべきである。そして、本願明細書を精査してもそのような事情があると認めることはできないから、相違点4に係る本願発明の構成は設計事項である。

(3)相違点5について
引用発明においても、スイッチと天地方向位置調整手段の組に限ったことではあるが、印刷部で印刷された用紙の走行経路の変更に応じて、組み合わせが切り換えられる。そして、相違点1’及び相違点2’に係る本願発明の構成を採用(それが想到容易であることは(1)で述べたとおりである。)した場合には、スイッチと左右方向位置調整手段の組の組み合わせも切り換えられることは必然である。
本審決では進歩性判断の対象とはしないが、「新聞輪転機の用紙調整方法」の発明である請求項5記載の発明では、「レールフレーム部を通過する用紙の前記走行経路に変更があったと判断したときに、前記設定内容に基づいて、前記レールフレーム部を通過する用紙がどの経路に沿って走行するかを判断して」とあるように、判断が2段階になっているが、本願発明の制御装置が2段階の判断をすると解さねばならない理由はない。
したがって、相違点5は別途独立した相違点でないか、せいぜい設計事項である。

(4)本願発明の進歩性の判断
相違点1’,2’,3〜5は、独立した相違点でないか、又はこれら相違点に係る本願発明の構成をなすことが設計事項若しくは当業者にとって想到容易であり、これら相違点に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-18 
結審通知日 2005-08-23 
審決日 2005-09-06 
出願番号 特願2000-342605(P2000-342605)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41F)
P 1 8・ 121- Z (B41F)
P 1 8・ 56- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國田 正久  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 藤本 義仁
砂川 克
発明の名称 新聞輪転機の用紙調整装置及び用紙調整方法  
代理人 渡辺 喜平  

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