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審決分類 審判 査定不服 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
管理番号 1125200
審判番号 不服2003-18519  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-09-09 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-22 
確定日 2005-09-21 
事件の表示 平成 8年特許願第330391号「抗原性HIV-Iアミノ酸配列を含む免疫原またはワクチン」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 9月 9日出願公開、特開平 9-235297〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 〔1〕手続きの経緯:
本件出願は、昭和60年10月31日に特許出願した特願昭60-246102号(第1優先権主張1984.10.31 US、第2優先権主張1985.1.30 US、第3優先権主張1985.9.6 US)をもとの出願として特許法第44条第1項の規定により分割出願した特願平7-45602号の特許出願をさらに分割出願した特願平8-330391号の特許出願に係るものである。
当審においては、平成16年4月9日付で、本願は特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない旨の拒絶理由を通知した。

〔2〕本件特許請求の範囲の記載について:
1.平成16年10月7日付で手続補正された本願明細書の特許請求の範囲第1項には以下のように記載されている。(以下、一応「本件発明」ともいう。)

「ヒト血清中の抗HIV-I抗体と結合し得る免疫原であって、ARV-2(7D)(ATCC No.40143)またはARV-2(8A)(ATCC No.40144)における配列に含まれる、HIV-I envまたはgagポリペプチドの少なくとも連続する9個のアミノ酸の抗原性フラグメントを含んでおり、該フラグメントは、配列1に示されるアミノ酸配列(ただし、以下のアミノ酸を除く:i)GAG配列の第1〜4番目のアミノ酸;およびii)ENV配列の第1〜8番目のアミノ酸)に含まれるアミノ酸配列を有していることを特徴とする免疫原:
:「配列1」(【化1】〜【化4】 なお、アミノ酸配列は省略。)
ただし、該免疫原は、特願昭60-504853号(特表昭62-5000592)に開示されたgp110、Science 220:868-71に開示されたp25抗原でもなく;Science 224:503-505に開示されたp41、p39、p24および110,000Daの分子量を有する抗原でもなく;Science 224:506-508に開示されたp19および41,000Daの分子量を有する抗原でもなく;特表昭60-67859に開示されたp25タンパク質でもなく;ならびに特表昭62-500592に開示されたp25、p18およびp41でもない。」

2.本件発明は、「ヒト血清中の抗HIV-I抗体と結合し得る免疫原」に係る発明であり、当該「免疫原」は、
(イ)「HIV-I envまたはgagポリペプチドの少なくとも連続する9個のアミノ酸の抗原性フラグメント」を含むものである。
そして、当該「抗原性フラグメント」は、
(ロ)ARV-2(7D)(ATCC No.40143)またはARV-2(8A)(ATCC No.40144)における配列に含まれ、かつ、
(ハ)【化1】〜【化4】からなる「配列1」のアミノ酸配列(ただし、i)及びii)のアミノ酸を除く)に含まれることが規定されている。
また、上記「免疫原」からは、「ただし」として下記(二)の各抗原タンパク質が除かれている。
(ニ)(1)特願昭60-504853号(特表昭62-5000592)に開示されたgp110、Science 220:868-871に開示されたp25抗原;
(2)Science 224:503-505に開示されたp41、p39、p24および110,000Daの分子量を有する抗原;
(3)Science 224:506-508に開示されたp19および41,000Daの分子量を有する抗原;
(4)特表昭60-67859に開示されたp25タンパク質;
(5)特表昭62-500592に開示されたp25、p18およびp41。

2.ここで、本件発明の「免疫原」とは、本件明細書(【0022】〜【0024】など)の記載からみて、通常の用法通りの、すなわち生体内で「免疫原」として認識されて強い免疫反応を引き起こし、抗体産生能を有する物質(「免疫原性ポリペプチド」)であるといえるから、上記「ヒト血清中の抗HIV-I抗体と結合し得る免疫原」とは、単にヒト血清中の抗HIV-I抗体と結合し得る性質のみならず、抗HIV-I抗体を誘導し得る能力(以下、「抗体産生能」ともいう。)をも有する「免疫原性ポリペプチド」を指すものと解される。なお、当該「免疫原性ポリペプチド」が有する抗HIV-I抗体誘導に関与するエピトープを、以下、特に「免疫原性エピトープ」といい、単にHIV-I抗体との結合能を有するエピトープを「抗原性エピトープ」という。
また、上記(イ)の「HIV-I envまたはgagポリペプチドの少なくとも連続する9個のアミノ酸の抗原性フラグメント」は、「少なくとも」という用語を用いていることからみて、明らかにHIV-I envまたはgagポリペプチドのアミノ酸配列中の「連続する9個のアミノ酸」からなる「抗原性フラグメント」である場合を包含する。
そして、当該「抗原性フラグメント」が有する「連続する9個のアミノ酸」が選択される対象のアミノ酸配列は、(ロ)、(ハ)によると、ARV-(7D)(ATCC No.40143)及びARV-(8A)(ATCC No.40144)における配列であって、かつ「配列1」からi)、ii)を除いたアミノ酸配列中に含まれる配列である。なお、「配列1」には「POL」アミノ酸配列も包含されているが、「HIV-I envまたはgagポリペプチドの・・・抗原性フラグメント」という用語からみて、「POL」アミノ酸配列は対象から除かれていると解される。(以下、「配列1」からi)、ii)及び「POL」を除いたアミノ酸配列を「配列1’」ともいう。)

3.以上のことから、本件発明は、「配列1’」のアミノ酸配列から選択された「少なくとも連続する9個のアミノ酸の抗原性フラグメント」を含む「免疫原性ポリペプチド」であって、しかも、ヒト血清中の抗HIV-I抗体と結合でき、かつ抗HIV-I抗体産生能を有する「免疫原性ポリペプチド」に係るものである。
なお、特許請求の範囲においては、上述の如く「ただし」として上記(二)(1)〜(5)の抗原タンパク質が除かれる旨が規定されているが、以下に述べる特許請求の範囲に記載された本件発明の構成と明細書中の開示内容との比較検討に際しては省略する。
そうしてみると、本件発明の、抗HIV-I抗体産生能を有する「免疫原性ポリペプチド」としては、「配列1’中の連続する9アミノ酸」からなる「抗原性フラグメント」自体という極めて短いペプチド断片である場合も包含されており、また、生体に「免疫原」として確実に認識されるに十分な大きい分子量の「免疫原性ポリペプチド」であっても、そのアミノ酸配列が「配列1’中の連続する9アミノ酸」という短い部分配列でしか「配列1’」と共通しない場合も包含されることになる。

〔3〕本件明細書の具体的記載と開示内容:
1.本件明細書中に具体的に記載される免疫学的実験のうちでHIV-Iのgag抗原及びenv抗原に関連した実験は、以下の通りである。
(1) 細菌によるp25 gag タンパク質の発現:【0056】〜【0082】
完全なp25gagタンパク質をコードするDNAを含む699bp断片を挿入したプラスミドpGAG25-10(図5)で大腸菌を形質転換して組換えp25 gag タンパク質を得、天然p25gagとのELISA分析力価の比較から遜色のないことを確認した。

(2) 細菌によるp41gagタンパク質(p25gagとp16gagタンパク質との融合物)の発現:【0083】
p53gag前駆体のC末側p16gagをコードする部分配列と、p25gagタンパク質をコードする配列の一部を用いて組立てられたプラスミドpGAG41-10(図4)で大腸菌を形質転換して約41,000ダルトンの分子量を有する組換えp41gagタンパク質を得、AIDS血清および、p25gagに対するモノクローナル抗体との反応を確認した。

(3) 細菌によるp16gagタンパク質:【0084】
p16gagタンパク質をコードする配列(図7、369bpに相当。)を用いて大腸菌を形質転換して組換えp16gagタンパク質を得、AIDS患者血清との反応性を確認した。

(4) 酵母によるenvタンパク質発現:【0085】〜【0094】
envタンパク質の2/3に相当する1395bpのcDNAフラグメント(図3、nt 5857〜nt 7251)を含むプラスミドpDPC303を用い、形質転換した酵母(S.cerevisiae)で発現、精製して55,000ダルトンのenv部分タンパク質を得た。AIDS患者血清を用いたELISA及びウエスタン分析法により免疫反応性を確認した。(以下、「p55envタンパク質」ともいう。)

(5) 組換えARV-2ポリペプチドを用いたhTLR抗体に対するELISA:【0114】〜【0126】
52名の被験者(LADまたはAIDS患者、接触者)の血清を用いた従来の診断法との比較試験データから、本件ELISA法が従来法と同様に優れたものであると結論づけているが、本件ELISA法において「組換えARV-2ポリペプチド」として用いた抗原タンパク質は、上記いずれかの単一の抗原タンパク質ではなく、「純化p25gagタンパク質」、「純化env(p55env)タンパク質」及び「純化SOD-p31融合タンパク質」の3者全てを併用したものである。

2.上記(1)乃至(5)の記載からみて、本件明細書中において、実際に形質転換細胞で発現産物として取得され、何らかの免疫反応性が実験的に確認されているのは、p25gag、p41gag、p16gag及びp55envタンパク質のみである。
ところで上記実験は、免疫学的実験とはいっても、いずれもAIDS患者血清を用いてその免疫反応性(抗原性)を確認している実験のみであって、これらgagもしくはenvタンパク質で免疫した動物がHIV-I抗体を産生することを確認した実験ではないから、HIV-Iの「免疫原性ポリペプチド」であることを直接的に裏付けるものではない。
とはいえ、上記具体的に抗原性が確認された各種抗原タンパク質は、最も小さい組換えp16gagタンパク質ですら分子量が1,600ダルトンもある大きな発現産物であって、いずれも天然のHIV-I由来の既知の抗原タンパク質であるp25gag、p16gagなどに匹敵する分子量を有する抗原タンパク質であるから、HIV-I抗体との免疫反応性が確認されれば、経験的にみてもHIV-I本来の「免疫原」としての性質、すなわちHIV-Iのgagもしくはenv抗体産生能を有する「免疫原性ポリペプチド」であると考えることに無理はない。
しかしながら、反対にこのことは、本件明細書中に具体的に記載された抗原タンパク質がいずれも、経験的にみて生体内で「免疫原」と認識されるはずであると考えられるほどに十分な大きさを有する抗原タンパク質であることに他ならない。
すなわち、本件明細書中には、HIV-Iのgagもしくはenv抗体産生能を有する「免疫原性ポリペプチド」として具体的に記載されているか、少なくとも記載されているに等しいといえるのは、結局、「配列1」の部分配列からなる組換えp25gag、p41gag、p16gag及びp55envタンパク質、及びそれと同等の抗原性タンパク質、例えば「配列1’」中のGAGもしくはENV由来アミノ酸配列のうち1,600ダルトン以上の分子量のポリペプチドに相当する部分アミノ酸配列を有する抗原タンパク質からなる「免疫原性ポリペプチド」であるとするのが相当である。
このように、本件明細書中においては、少なくとも、HIV-Iのgagもしくはenvタンパク質由来の9アミノ酸程度の極めて短い抗原フラグメントが「免疫原性ポリペプチド」として機能できることを裏付けるに足る具体的な記載はなく、上記p25gagなどの抗原タンパク質に対応する「配列1’」の全アミノ酸配列中のどの位置の連続した9アミノ酸残基に相当する配列が「免疫原性エピトープ」になり得るかについての検討どころか、「抗原性エピトープ」となり得るかの検討すらもなされていない。

〔4〕本件優先権主張日当時(本件出願当時)の技術常識と当審の判断:
1.ところで、一般に抗原性タンパク質において、その全アミノ酸配列中で抗体の認識部位との結合に直接関与するアミノ酸残基の数自体は「9個」程度であるとしても、抗原タンパク質中での「免疫原エピトープ」は、必ずしも連続配列で構成されるわけではなく、三次元的に近づいた不連続な位置の「9アミノ酸」から構成された不連続エピトープである可能性も高い。また、例え抗原タンパク質の全アミノ酸配列中の連続する9アミノ酸配列から構成される免疫原エピトープが存在した場合でも、当該9アミノ酸残基をペプチド断片化した状態では、担体に結合させた場合も含め、当該ペプチド断片が三次元的に形成する免疫学的イメージが、抗原タンパク質中の免疫原性エピトープが本来有していたイメージをそのまま保存している保証はない。
そして、何よりも、そもそも抗原タンパク質の免疫原性エピトープについては、一次配列の情報のみからでは、その正確な位置を確実に決定することはできないといえる。それどころか、少なくとも1984年もしくは1985年という本件優先権主張日当時(本件出願当時)は、単なる抗体反応性レベルの抗原性エピトープですら、全アミノ酸配列中でのほぼ正確な位置を決定できる簡単な手法(例えばペプスカン法等)も用いることができなかった時期である。

2.このような本件出願前の技術常識をふまえたとき、本件明細書中において、「配列1’」中のどの位置の「連続する9アミノ酸」配列が「免疫原性エピトープ」どころか「抗原性エピトープ」に対応する配列であるのかについての検討もなされていない以上、「配列1’中の連続する9アミノ酸」から選択された単なるHIV-I抗体との免疫反応性を有する程度の「抗原性フラグメント」についてすらも、当業者が容易に取得できるようには記載されていないというべきである。まして、当該「配列1’」中でHIV-I抗原における「免疫原性エピトープ」に対応する「連続する9アミノ酸」の位置を決定すること、それどころか、さらにそれを断片化した「抗原性フラグメント」が当該「免疫原性エピトープ」としての機能を保ち、抗HIV-I抗体産生能を有する「免疫原」となる場合についての開示が本件明細書中になされているはずもない。
また、「配列1’」中のどの位置の「連続する9アミノ酸」配列が「免疫原性エピトープ」に対応する配列であるかが不明である以上、「免疫原」として認識されるために十分な分子量を有する任意の「免疫原性ポリペプチド」のアミノ酸配列中に、「配列1’」中のどの位置の「連続する9アミノ酸」と同一の配列を有すれば、抗HIV-I抗体産生能を有する「免疫原性ポリペプチド」となり得るかについての開示がないことも同様に明白である。

3.以上述べたように、本件明細書中にHIV-Iのgagもしくはenv抗体産生能を有する「免疫原性ポリペプチド」として実質的に開示されているということができるのは、「配列1」の部分配列からなる組換えp25gag、p41gag、p16gag及びp55envタンパク質、もしくはこれら抗原タンパク質の分子量に相当する程度の「配列1’」中のアミノ酸配列からなるgagもしくはenv由来ポリペプチドであるにもかかわらず、特許請求の範囲の記載は「配列1’」のアミノ酸配列から選択された「連続する9個のアミノ酸の抗原性フラグメント」を含む場合までも包含する広範な記載となっており、明らかに明細書の裏付けを欠いている。
また、このような広範な特許請求の範囲の記載に包含される発明のうち、少なくとも、「配列1’」のアミノ酸配列から選択された「連続する9個のアミノ酸の抗原性フラグメント」を含む「免疫原性ポリペプチド」であって、しかも、ヒト血清中の抗HIV-I抗体と結合でき、かつ抗HIV-I抗体産生能を有する「免疫原性ポリペプチド」に係る発明については、本件明細書には当業者が容易に実施できるように記載されていないというべきである。

〔5〕結論:
以上述べたとおりであるから、当審における上記拒絶理由通知で指摘したように、本件特許請求の範囲の記載は、発明の必須の構成が記載されていないものであり、また、本件明細書には特許請求の範囲の発明が容易に実施できる程度に記載されていない。
したがって、本願は、特許法第36条第3項もしくは第4項の規定を満たしていない。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-04-26 
結審通知日 2005-04-27 
審決日 2005-05-12 
出願番号 特願平8-330391
審決分類 P 1 8・ 532- WZ (C07K)
P 1 8・ 531- WZ (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 明照上條 肇  
特許庁審判長 佐伯 裕子
特許庁審判官 鵜飼 健
種村 慈樹
発明の名称 抗原性HIV-Iアミノ酸配列を含む免疫原またはワクチン  
代理人 森下 夏樹  
代理人 安村 高明  
代理人 山本 秀策  

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