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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1125340 |
審判番号 | 不服2003-9207 |
総通号数 | 72 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2001-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-05-22 |
確定日 | 2005-10-27 |
事件の表示 | 特願2001-110080「液体噴射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月25日出願公開、特開2001-353886〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成13年4月9日の出願(国内優先権主張 平成12年4月11日)であって、平成15年4月18日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年5月22日付けで本件審判請求がされるとともに、同年6月20日付けで明細書についての手続補正(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成15年6月20日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正事項及び補正目的 本件補正は、特許請求の範囲だけを補正するものであり、補正前請求項1,11記載の「第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が同一の主走査の間になされる」を「第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の主走査の間に同一の画素に対してなされる」と補正すること(以下「本件補正事項」という。)を補正事項に含むとともに、請求項11を引用する請求項14,16自体には何の補正も加えないものである。 本件補正事項は、形式的には「第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が」「同一の画素に対して」旨限定するものである。しかし、補正前請求項1,11には「同一の吐出単位領域に対する吐出データに基づいて、互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が同一の主走査の間になされる」との限定があるから、本件補正前においても「第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の主走査の間に同一の吐出単位領域に対してなされる」ものである。そして、本願明細書には出願当初から一貫して、「1つの画素(吐出単位領域の一例)」(段落【0002】)、「異なるノズル開口による同一の画素への記録」(段落【0006】)、「異なるノズル開口から同一の画素にインク吐出を実施する」(段落【0008】)、「同一の主走査の間になされるため、主走査を重複して行わなくても、2つのノズル開口からの同一の吐出単位領域に対する液体吐出を実施することができる。」(段落【0011】及び段落【0166】)、「同一の画素(吐出単位領域)」(段落【0037】)及び「同一の画素に対する画像データ(吐出データ)に基づいて、・・・同一の画素(同一の吐出単位領域)」(段落【0051】)との記載があり、段落【0002】に上記記載があるものの、画素以外の吐出単位領域としてどのようなものがあるのか、一切説明がないから、「画素」が「吐出単位領域」とは別の何かを意味すると解することはできない(仮に、「画素」と「吐出単位領域」が別物であるとすると、新規事項追加に当たる(特許法17条の2第3項違反)。)。 したがって、本件補正事項は、補正前においても明らかな事項を請求項1,11につけ加えるものであるから、実質的に特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認めることはできない。また、本件補正事項が請求項削除又は誤記の訂正を目的とするものでないことも明らかである。さらに、本件補正前の請求項1,11の記載が明りようでなく、本件補正事項により明りようになったと解することもできない。かえって、本件補正後の請求項1,11には「同一の吐出単位領域」及び「同一の画素」との用語が混在しているため、これら用語が同一の意味であるのか異なる意味であるのか、不明りようになったというべきである。そればかりか、仮に本件補正事項が明りようでない記載の釈明を目的とするものと解する余地があるとしても、特許法17条の2第4項4号は明りようでない記載の釈明を目的とする補正を無条件に認めているのではなく、「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。」としており、補正前の請求項1,11が明りようでない旨の拒絶理由は通知されていない。 以上のとおりであるから、本件補正事項を含む本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反している。 そうではあるが、形式的には本件補正事項が特許請求の範囲の減縮(特許法17条の2第4項2号該当)に当たるから、以下では本件補正後の請求項1,11,14,16に係る発明(以下「補正発明1」、「補正発明11」、「補正発明14」及び「補正発明16」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。 2.補正発明の認定 本件補正後の請求項1〜17に係る発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】〜【請求項17】に記載された事項によって特定されるものであり、【請求項1】、【請求項11】、【請求項14】及び【請求項16】の記載は次のとおりである。 【請求項1】 第1ノズル列を形成する複数の第1ノズル開口と、第1ノズル列に対応付けられた第2ノズル列を形成する複数の第2ノズル開口と、各ノズル開口に同一種類の液体を供給する液体供給手段と、を有するヘッド部材と、 各ノズル開口に設けられ、各ノズル開口から液体を吐出させる液体吐出手段と、 記録用媒体を保持する保持手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向に移動させる主走査手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向と直交する副走査方向に移動させる副走査手段と、 液体吐出手段及び主走査手段に接続された制御装置と、 を備え、 互いに対応付けられた第1ノズル開口及び第2ノズル開口は、主走査手段による移動の軌跡が微小距離だけずれており、 制御装置は、同一の吐出単位領域に対する吐出データに基づいて、互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の主走査の間に同一の画素に対してなされるように、液体吐出手段及び主走査手段を制御するようになっている ことを特徴とする液体噴射装置。 【請求項11】 第1ノズル列を形成する複数の第1ノズル開口と、第1ノズル列に対応付けられた第2ノズル列を形成する複数の第2ノズル開口と、各ノズル開口に同一種類の液体を供給する液体供給手段と、を有するヘッド部材と、 各ノズル開口に設けられ、各ノズル開口から液体を吐出させる液体吐出手段と、 記録用媒体を保持する保持手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向に移動させる主走査手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向と直交する副走査方向に移動させる副走査手段と、 を備えた液体噴射装置を制御する制御装置であって、 対応する第1ノズル開口及び第2ノズル開口の移動の軌跡が微小距離だけずれように、主走査手段を制御するようになっており、 同一の吐出単位領域に対する吐出データに基づいて、互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の主走査の間に同一の画素に対してなされるように、液体吐出手段及び主走査手段を制御するようになっている ことを特徴とする制御装置。 【請求項14】 少なくとも1台のコンピュータを含むコンピュータシステムによって実行されて、前記コンピュータシステムに請求項11乃至13のいずれかに記載の制御装置を実現させるプログラム。 【請求項16】 少なくとも1台のコンピュータを含むコンピュータシステムによって実行されて、前記コンピュータシステムに請求項11乃至13のいずれかに記載の制御装 置を実現させるプログラム を記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体。 3.補正発明1,11,14,16の独立特許要件欠如その1 請求項1,11には共通して「同一の吐出単位領域に対する吐出データに基づいて、互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の主走査の間に同一の画素に対してなされるように、液体吐出手段及び主走査手段を制御するようになっている」との記載があり、「同一の吐出単位領域」と「同一の画素」が同義であるのかどうか、特許請求の範囲の記載からは明らかでない。同義であれば、同一用語を使用しなければ明確とはいえない。同義でないならば、それぞれがどのような意味なのか理解できない。 したがって、請求項1,11の記載は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないから、これら請求項に係る発明及びこれら請求項を引用する請求項の発明(補正発明14,16を含む)は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 4.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-342639号公報(以下「引用例」という。)には、次のア〜ケの記載が図示とともにある。 ア.「プリンタは、(a)プリントヘッド本体(27)と、(b)第1のノズル(310)であって、この第1のノズル(310)は上記プリンタヘッド本体に接続され、上記第1のノズルは液体を噴出する第1の大きさの第1のノズルオリフィス(320)を備え、その第1のノズルオリフィスは第1の体積量を有し、その第1の体積量は上記第1のノズルに関連する第1の動的体積範囲から選択された、第1のノズル(310)と、(c)第2のノズル(340)であって、この第2のノズル(340)は上記プリンタヘッド本体に接続され、上記第2のノズルは液体を噴出する、第1のオリフィスの第1の大きさとは異なる第2の大きさの第2のノズルオリフィス(350)を備え、その第2のノズルオリフィスは第1の体積量と異なる第2の体積量を有し、その第2の体積量は上記第2のノズルに関連する第2の動的体積範囲から選択され、その第2の動的体積範囲は第1の動的体積範囲と実質的に異なる、第2のノズル(340)とを含む、プリンタ。」(【請求項1】) イ.「第1のノズル列を画定する第1のノズルが、第2のノズル列を画定する第2のノズルのそれぞれのものと同一線上に配置されるように、第1のノズルが、第1のノズル列を画定するように配置され、第2のノズルが、第1のノズル列に近接する第2のノズル列を画定するように配置される。またその代わりに、第1のノズル列を画定する第1のノズルが、第2のノズル列を画定する第2のノズルのそれぞれのものとオフセットに対応するように、第1のノズルが、第1のノズル列を画定するように配置され、第2のノズルが、第1のノズル列に近接する第2のノズル列を画定するように配置されてもよい。」(段落【0011】) ウ.「本発明の別の利点は、比較的広い密度範囲が要求される場合、1つのピクセルグループの全てのノズルが使用可能であればインク滴体積量にて最大限の動的範囲がもたらされ得るということである。」(段落【0015】) エ.「本発明のさらなる別の利点は、第1のノズル列と第2のノズル列は、インク滴量に関して4ビット個(24個)の変化をそれぞれ与えることができ、第1と第2のノズルの両方が組み合わせて用いられる場合、8ビット個(28個)の変化を得られる、ということである。」(段落【0016】) オ.「画像処理部50は、画像データを多数の画素で構成されるページ画像に変換する。・・・画像処理部50は、連続トーンデータを、画像処理部50に接続されたデジタルハーフトーンユニット(階調ユニット)60に転送する。ハーフトーンユニット60は、画像処理部50により生成された連続トーンデータをハーフトーン化し、画像メモリ70内に蓄えられるハーフトーン化ビットマップ画像を生成する。その画像メモリ70は、プリンタ10の全体構成に依存するのであるが、フルページメモリ又はバンドメモリであればよい。画像メモリ70に接続されるパルス生成部80は、画像メモリ70からデータを読み取り、後で詳しく説明する原理に従い、時間幅や大きさの変動する電圧パルスを電気アクチュエータ90に印加する(図3参照)。」(段落【0021】) カ.「走査タイプのプリントシステムの場合では、相対ラスタ運動に従って、プリントヘッド25を1つの軸(即ち副走査方向)に沿って移動させ更に受像体30を直交軸(即ち主走査方向)に沿って移動させるのが、より簡便である。」(段落【0022】) キ.「本発明によれば、第1のノズル列330を備える第1のノズル310は、1から16pl(ピコリットル)の範囲の体積を有するインク滴20を噴出することができる。しかも、本発明によれば、第2のノズル列360を形成する第2のノズル340は、16pl、32pl、48plそして256plまでの範囲の体積を有するインク滴20を噴出することができる。よって、第2のノズル340は、第1のノズル310と比較して、広範囲な体積をとり得る。さらに、近接するノズルの310/330の各対は、ピクセルグループ370の中に配置される。このように、ピクセルグループ370により噴出され得るインク滴量は、1plから256plまでの範囲となる。」(段落【0030】) ク.「図12を参照すると、第2の実施形態のプリントヘッド25とノズルプレート178が示されている。本発明のこの第2の実施形態では、第1のノズル310は第2のノズル340に対して千鳥状態に配置されている。ノズルプレート178についてのこの構成の利点は、千鳥配置のノズル310/340は1つの印刷経路上で異なるピクセル位置にインク液を置くことができ、よって受像体30上のインクの合体が減るということである。」(段落【0031】) ケ.「本発明の利点は、第1のノズル列330と第2のノズル列360はインク滴量に関して4ビット個(24個)の変化をそれぞれもたらすことができるということである。このように、8ビット個(28個)のインク量変化を得るためには、1つのピクセルグループ370に属する2つのノズル310/340があれば足りる。」(段落【0033】) 5.引用例記載の発明の認定 引用例の記載イ,エ,キ,ケにあるように、記載アの「第1のノズル(310)」及び「第2のノズル(340)」はそれぞれ列をなし、それぞれの列の各ノズルが対をなしており、各ノズルが4ビット個(24個)の変化をもたらし、ノズル対によって8ビット個(28個)のインク量変化を得ることができる。すなわち、対のノズルは1つの画素に対して8ビットのインク量変化を得るために用いられるものである。また、8ビットのインク量変化である以上、対のノズルに同一種類の液体(インク)が供給されることは自明である。また、記載アの「第1の動的体積範囲から選択」及び「第2の動的体積範囲から選択」とは、1つの画素のデータが与えられたときに、それぞれのインク滴の大きさが選択されることを意味する。 第1のノズル列及び第2のノズル列と「プリントヘッド本体(27)」を併せたものは、「ヘッド部材」ということができ、各ノズルに液体を供給する手段がヘッド部材に備わっていることはいうまでもない。 記載カの「オフセット」が、記載カの「主走査方向」にずれていることの趣旨であること、及び記載クの「千鳥状態に配置」がその実施例であることは明らかであり、「千鳥状態に配置」のずれ量は、ノズルの主走査方向における間隔の2分の1である。 したがって、引用例に記載されたプリンタのうち、「走査タイプのプリントシステム」(記載カ)を採用し、「第1のノズル310は第2のノズル340に対して千鳥状態に配置」(記載ク)したものは次のようなものである。 「プリントヘッド本体、第1ノズル列及び第2ノズル列を有するヘッド部材を備え、 前記ヘッド部材は第1ノズル列及び第2ノズル列のノズルに同一種類のインクを供給する手段を有し、 前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列は、各ノズル列の主走査方向におけるノズル間隔の2分の1だけオフセットされた千鳥配置となっており、 前記主走査方向とは、相対ラスタ運動に従うヘッド部材の移動方向(副走査方向)と直交し、受像体を移動させる方向であり、 前記第1ノズル列の個々の第1ノズルは前記第2ノズル列の前記主走査方向において再近接配置されたた前記第2ノズル列の第2ノズルと対となり、1つの画素のデータが与えられたときに、前記第1ノズルは第1の動的体積範囲から選択された大きさのインクを噴出し、前記第2ノズルは第2の動的体積範囲から選択された大きさのインクを噴出するようにされており、 前記第2の動的体積範囲は前記第1の動的体積範囲と実質的に異なるプリンタ。」(以下「引用発明」という。) 6.補正発明1と引用発明との一致点及び相違点の認定 引用発明の「第1ノズル」及び「第2ノズル」は補正発明1の「第1ノズル開口」及び「第2ノズル開口」にそれぞれ相当し、引用発明の「第1ノズル」及び「第2ノズル」が複数あり「第1ノズル列」及び「第2ノズル列」を形成することはいうまでもない。 上記引用発明の認定には含まれていないが、引用発明が「各ノズル開口に設けられ、各ノズル開口から液体を吐出させる液体吐出手段」を備えることは自明である(例えば、記載オの「電気アクチュエータ90」がこれに当たる。)。 引用発明の「ヘッド部材の移動方向(副走査方向)」及び「主走査方向」は、補正発明1の「主走査方向」及び「副走査方向」と異ならず(主副の用法が逆になっている。そのため、以下では、引用例の記載を直接引用する場合を除き、補正発明1の用法に統一する。)、引用発明の「受像体」は補正発明1の「記録用媒体」に相当するものであるから、引用発明は「記録用媒体を保持する保持手段」、「ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向に移動させる主走査手段」及び「ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向と直交する副走査方向に移動させる副走査手段」を当然備える。 引用発明では、第1ノズルと第2ノズルとが副走査方向におけるノズル間隔の2分の1だけずれているから、主走査手段による移動の軌跡が同ずれ分だけずれることになる。そして、本件補正後の請求項1を引用する請求項2に「微小距離は、ノズル開口の副走査方向における間隔の2分の1未満または2分の1である」とあるから、引用発明におけるずれ分は「微小距離」といえる。 引用発明の「1つの画素のデータ」は補正発明1の「同一の吐出単位領域に対する吐出データ」に相当し、引用発明では「1つの画素のデータが与えられたときに、前記第1ノズルは第1の動的体積範囲から選択された大きさのインクを噴出し、前記第2ノズルは第2の動的体積範囲から選択された大きさのインクを噴出するようにされて」いるのであるから、「第1ノズル」及び「第2ノズル」は補正発明1の「互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口」と異ならない。したがって、引用発明は、補正発明1の「同一の吐出単位領域に対する吐出データに基づいて、互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の画素に対してなされるように、液体吐出手段及び主走査手段を制御する」手段を当然備え、同手段が補正発明1の「液体吐出手段に接続された制御装置」に相当する。さらに、引用発明は「走査タイプのプリントシステムの場合」に該当するものであり、第1ノズルと第2ノズルは主走査方向に離隔しており(副走査方向に微小距離だけ離れているのだから、主走査方向には微小とはいえない距離離隔していなければ、両ノズルを配置できない。)、主走査方向に離隔した2つのノズルから、受像体(記録媒体)の概略同一位置にインクを着弾させなければならないのだから、インク噴出タイミングは主走査と一体のものとして制御しなければならない。そのことを抜きにしても、インク噴出タイミングは受像体の余白とも関連することがらであるから、インク噴出タイミングは主走査と一体のものとして制御しなければならない。そうである以上、「液体吐出手段に接続された制御装置」が主走査手段に接続されることは自然な帰結である。 そして、引用発明の「プリンタ」が「液体噴射装置」といえることも自明である。 したがって、補正発明1と引用発明とは、 「第1ノズル列を形成する複数の第1ノズル開口と、第1ノズル列に対応付けられた第2ノズル列を形成する複数の第2ノズル開口と、各ノズル開口に同一種類の液体を供給する液体供給手段と、を有するヘッド部材と、 各ノズル開口に設けられ、各ノズル開口から液体を吐出させる液体吐出手段と、 記録用媒体を保持する保持手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向に移動させる主走査手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向と直交する副走査方向に移動させる副走査手段と、 液体吐出手段及び主走査手段に接続された制御装置と、 を備え、 互いに対応付けられた第1ノズル開口及び第2ノズル開口は、主走査手段による移動の軌跡が微小距離だけずれており、 制御装置は、同一の吐出単位領域に対する吐出データに基づいて、互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の画素に対してなされるように、液体吐出手段及び主走査手段を制御するようになっている液体噴射装置。」である点で一致し、次の点で相違する。 〈相違点〉補正発明1では「互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の主走査の間に同一の画素に対してなされるように、液体吐出手段及び主走査手段を制御するようになっている」のに対し、引用発明では「同一の主走査の間」かどうか明らかでない点。 7.相違点についての判断及び補正発明1の独立特許要件の判断その2 引用発明1では、第1ノズルと第2ノズルとは、副走査方向におけるノズル間隔の2分の1だけオフセットされており、そのため「受像体30上のインクの合体が減る」(記載ク)のであるから、第1ノズルと第2ノズルがオフセットされていない場合には、受像体上でインクが合体するものである。引用例には、第1ノズルと第2ノズルとから同一の主走査の間にインクを吐出することは記載されていないけれども、同一の主走査の間でないとすれば、受像体(記録媒体)とヘッドの副走査方向の位置を変更せずに、主走査を2回行わなければならないことになる。また、引用例には、第1ノズルと第2ノズルとから同一の主走査の間にインクを吐出することが不都合である旨の記載はなく、第1ノズルと第2ノズルの配置関係から見て、同一の主走査の間にインクを吐出することが有利であることは当業者には明らかである。 そうである以上、相違点に係る補正発明1の発明特定事項を採用することは設計事項というべきである。 請求人は、「同一の吐出単位領域に対する吐出データに基づいて、互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からの同一の主走査の間に同一の画素に対してそれぞれの液体吐出がなされる(液体は当然に重なる)という技術的思想は、引用文献1に開示された技術と明らかに異なる」(平成15年6月20日付け手続補正書(方式)10頁20〜23行)と主張するが、「同一の画素に対して」との文言があるからといって、当然に液体が重なると認めることはできない。百歩譲って、補正発明1では液体が重なるとしても、1個のインク径の大きさや第1ノズルと第2ノズルの副走査方向の離隔距離をどの程度にするかによって左右される事項であり、これらインク径や離隔距離をどの程度にするかは、印刷品位を考慮した上で定まる設計事項にすぎない。したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 そして、相違点に係る補正発明1の発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできないから、補正発明1は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 8.補正発明11の独立特許要件の判断その2 本件補正後の【請求項11】の記載は、2.で述べたとおりであり、形式的には「対応する第1ノズル開口及び第2ノズル開口の移動の軌跡が微小距離だけずれように、主走査手段を制御するようになっており、」を発明特定事項としている。しかし、「第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の主走査の間に同一の画素に対してなされる」のであるから、第1ノズル開口及び第2ノズル開口の移動の軌跡が微小距離だけずれる原因となるのは、第1ノズル開口と第2ノズル開口が副走査方向(主走査方向と直交する方向)に微小距離離隔していることにあり、第1ノズル開口と第2ノズル開口が副走査方向に離隔していない場合にまで、両開口の移動の軌跡を微小距離だけずれさせることはできない。 また、「同一の吐出単位領域に対する吐出データに基づいて、互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の主走査の間に同一の画素に対してなされるように、液体吐出手段及び主走査手段を制御する」ことは、第1ノズル開口と第2ノズル開口が副走査方向に離隔しているかどうかに依存しないことがらである。 そうであれば、「対応する第1ノズル開口及び第2ノズル開口の移動の軌跡が微小距離だけずれように、主走査手段を制御するようになっており、」を制御装置の発明たる補正発明11の発明特定事項と認めることはできない。したがって、補正発明11は次のような発明と認める。 「第1ノズル列を形成する複数の第1ノズル開口と、第1ノズル列に対応付けられた第2ノズル列を形成する複数の第2ノズル開口と、各ノズル開口に同一種類の液体を供給する液体供給手段と、を有するヘッド部材と、 各ノズル開口に設けられ、各ノズル開口から液体を吐出させる液体吐出手段と、 記録用媒体を保持する保持手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向に移動させる主走査手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向と直交する副走査方向に移動させる副走査手段と、 を備えた液体噴射装置を制御する制御装置であって、 同一の吐出単位領域に対する吐出データに基づいて、互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の主走査の間に同一の画素に対してなされるように、液体吐出手段及び主走査手段を制御するようになっている ことを特徴とする制御装置。」 引用発明が補正発明1の「液体吐出手段及び主走査手段に接続された制御装置」(以下「引用発明制御装置」という。)を備えること、及びその制御装置が「同一の吐出単位領域に対する吐出データに基づいて、互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の画素に対してなされるように、液体吐出手段及び主走査手段を制御する」ことは、6.で述べたとおりである。 したがって、補正発明11と引用発明制御装置とは、 「第1ノズル列を形成する複数の第1ノズル開口と、第1ノズル列に対応付けられた第2ノズル列を形成する複数の第2ノズル開口と、各ノズル開口に同一種類の液体を供給する液体供給手段と、を有するヘッド部材と、 各ノズル開口に設けられ、各ノズル開口から液体を吐出させる液体吐出手段と、 記録用媒体を保持する保持手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向に移動させる主走査手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向と直交する副走査方向に移動させる副走査手段と、 を備えた液体噴射装置を制御する制御装置であって、 同一の吐出単位領域に対する吐出データに基づいて、互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の画素に対してなされるように、液体吐出手段及び主走査手段を制御するようになっている制御装置。」である点で一致し、次の点で相違する。 〈相違点〉補正発明11では「互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が、同一の主走査の間に同一の画素に対してなされるように、液体吐出手段及び主走査手段を制御するようになっている」のに対し、引用発明制御装置では「同一の主走査の間」かどうか明らかでない点。 この相違点は、補正発明1と引用発明との相違点と実質的に同じであり、7.で述べたと同様の理由により設計事項というべきである。 ここで、7.で述べた請求人の主張についてさらに検討すると、引用発明制御装置は引用発明だけでなく、引用例の記載イにある「第1のノズル列を画定する第1のノズルが、第2のノズル列を画定する第2のノズルのそれぞれのものと同一線上に配置される」液体噴射装置にも当然採用することができ、その場合には当然の結果として第1ノズル及び第2ノズルからのインク滴は重なる(そのことは、引用例の「千鳥配置のノズル310/340は1つの印刷経路上で異なるピクセル位置にインク液を置くことができ、よって受像体30上のインクの合体が減る」(記載ク)からも明らかである。)から、制御装置の発明たる補正発明11についての主張としては、主張自体失当である。 そして、相違点に係る補正発明11の発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできないから、補正発明11は引用発明制御装置に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 9.補正発明14,16の独立特許要件の判断その2 補正発明14,16のうち、請求項11を引用するものは、「少なくとも1台のコンピュータを含むコンピュータシステムによって実行されて、補正発明11の制御装置を実現させるプログラム」(補正発明14)及び「少なくとも1台のコンピュータを含むコンピュータシステムによって実行されて、前記コンピュータシステムに補正発明11の制御装置を実現させるプログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体。」(補正発明16)である。 本願明細書には、補正発明11の制御装置を実現させるに当たり、「少なくとも1台のコンピュータを含むコンピュータシステムによって実行され」るようにすることにつき、何らかの創意工夫を要した旨の記載はない。 また、「プリンタの制御回路の機能をコンピュータプログラムによりコンピュータが実行すること、及び、記録媒体に記録されたコンピュータプログラムをコンピュータシステムが実行すること」が特開平10-337864号公報に記載されていることは、原審における平成14年12月3日付け拒絶理由で指摘したとおりである。 そうすると、補正発明11が引用発明制御装置に基づいて当業者が容易に発明をすることができた以上、少なくとも1台のコンピュータを含むコンピュータシステムによって実行されることにより補正発明11を実現するプラグラム及び同プログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体も、引用発明制御装置に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといわなければならない。 したがって、補正発明14,16は引用発明制御装置に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 [補正の却下の決定のむすび] 以上のとおり、本件補正は平成14年改正前特許法17条の2第4項の規定に違反しており、同項2号に該当するとしても同条5項で準用する同法126条4項の規定に違反しているから、平成14年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。 よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本件審判請求についての当審の判断 1.本願発明の認定 本件補正が却下され、明細書の手続補正は平成15年2月4日付けでされただけであるところ、同手続補正は【請求項2】の補正にとどまるから、本願の請求項1,11,14,16に係る発明(以下「本願発明1」、「本願発明11」、「本願発明14」及び「本願発明16」という。)は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲【請求項1】、【請求項11】、【請求項14】及び【請求項16】に記載された事項によって特定されるものであり、これら請求項の記載は次のとおりである。 【請求項1】 第1ノズル列を形成する複数の第1ノズル開口と、第1ノズル列に対応付けられた第2ノズル列を形成する複数の第2ノズル開口と、各ノズル開口に同一種類の液体を供給する液体供給手段と、を有するヘッド部材と、 各ノズル開口に設けられ、各ノズル開口から液体を吐出させる液体吐出手段と、 記録用媒体を保持する保持手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向に移動させる主走査手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向と直交する副走査方向に移動させる副走査手段と、 液体吐出手段及び主走査手段に接続された制御装置と、 を備え、 互いに対応付けられた第1ノズル開口及び第2ノズル開口は、主走査手段による移動の軌跡が微小距離だけずれており、 制御装置は、同一の吐出単位領域に対する吐出データに基づいて、互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が同一の主走査の間になされるように、液体吐出手段及び主走査手段を制御するようになっている ことを特徴とする液体噴射装置。 【請求項11】 第1ノズル列を形成する複数の第1ノズル開口と、第1ノズル列に対応付けられた第2ノズル列を形成する複数の第2ノズル開口と、各ノズル開口に同一種類の液体を供給する液体供給手段と、を有するヘッド部材と、 各ノズル開口に設けられ、各ノズル開口から液体を吐出させる液体吐出手段と、 記録用媒体を保持する保持手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向に移動させる主走査手段と、 ヘッド部材を、記録用媒体に対して相対的に主走査方向と直交する副走査方向に移動させる副走査手段と、 を備えた液体噴射装置を制御する制御装置であって、 対応する第1ノズル開口及び第2ノズル開口の移動の軌跡が微小距離だけずれように、主走査手段を制御するようになっており、 同一の吐出単位領域に対する吐出データに基づいて、互いに対応付けられた第1ノズル開口と第2ノズル開口からのそれぞれの液体吐出が同一の主走査の間になされるように、液体吐出手段及び主走査手段を制御するようになっている ことを特徴とする制御装置。 【請求項14】 少なくとも1台のコンピュータを含むコンピュータシステムによって実行されて、前記コンピュータシステムに請求項11乃至13のいずれかに記載の制御装置を実現させるプログラム。 【請求項16】 少なくとも1台のコンピュータを含むコンピュータシステムによって実行されて、前記コンピュータシステムに請求項11乃至13のいずれかに記載の制御装置を実現させるプログラム を記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体。 2.本願発明1,11,14,16の進歩性の判断 第2で述べたとおり、本件補正は形式的には「同一の主走査の間になされる」を「同一の主走査の間に同一の画素に対してなされる」と限定するものである。 そして、この形式的な限定をした補正発明1が引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたこと、並びに補正発明11,補正発明14及び補正発明16が引用発明制御装置に基づいて当業者が容易に発明をすることができたことは、第2で述べたとおりであるから、上記形式的な限定を有さない本願発明1が引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたこと、並びに本願発明11,本願発明14及び本願発明16が引用発明制御装置に基づいて当業者が容易に発明をすることができたことは明らかである(ここでも、請求項11記載の「対応する第1ノズル開口及び第2ノズル開口の移動の軌跡が微小距離だけずれように、主走査手段を制御するようになっており、」を本願発明11の発明特定事項と認めることはできない。)。とりわけ、「第2 7」で採り上げた請求人の主張について再検討すると、請求人の主張根拠が上記形式的な限定にあると解される以上、形式的な限定のない本願発明1に対してはなおさら主張根拠がないというべきである。 以上のとおり、本願発明1は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願発明11,14,16は引用発明制御装置に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これら発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上述べたとおり、本件補正は却下されなければならず、本願発明1,11,14,16が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-08-30 |
結審通知日 | 2005-09-02 |
審決日 | 2005-09-13 |
出願番号 | 特願2001-110080(P2001-110080) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
P 1 8・ 574- Z (B41J) P 1 8・ 56- Z (B41J) P 1 8・ 575- Z (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 門 良成、尾崎 俊彦 |
特許庁審判長 |
津田 俊明 |
特許庁審判官 |
砂川 克 番場 得造 |
発明の名称 | 液体噴射装置 |
代理人 | 吉武 賢次 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 名塚 聡 |
代理人 | 岡田 淳平 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 磯貝 克臣 |
代理人 | 森 秀行 |