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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H
審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H03H
管理番号 1125353
審判番号 不服2001-15259  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-08-30 
確定日 2005-10-27 
事件の表示 平成6年特許願第272977号「圧電部品」拒絶査定不服審判事件〔平成8年4月30日出願公開、特開平8-111626〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯
本願は、平成6年10月11日の出願であって、平成13年7月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成13年8月30日に拒絶査定を不服として審判請求がされるとともに、平成13年9月28日付けで手続補正書が提出されたものである。
平成13年9月28日付けの手続補正については、当審において、平成17年4月26日付けで、特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべき旨の決定をした。
さらに、当審において、平成17年5月16日付けで拒絶理由を通知したたが、これに対しては、審判請求人からの指定期間内の応答はなかった。

2.本願の発明
平成13年9月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成12年11月24日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりものものである。
「【請求項1】絶縁性材料よりなる基板上に圧電素子を接着固定し、圧電素子の電極を基板上に形成された外部電極に接続するとともに、
基板上に上記圧電素子を覆う金属製キャップを、キャップと基板との熱膨張係数差を緩和する物性を有する接着剤により接着封止してなり、
上記接着剤は、硬化後の弾性率が1,500〜7,000MPaであることを特徴とする圧電部品。」

3.本願の明細書及び図面の記載の特許法36条4項、5項適合性について

(a)「弾性率」について
特許請求の範囲及び発明の詳細な説明において、「弾性率」という用語が使われているが、「弾性率」という用語は、曲げ弾性率、引張弾性率等、複数の具体的な弾性率の総称であり、本願においてどの意味で用いているのか明らかでない。また、「弾性率」の測定方法には多様なものがあるところ、どのような測定装置、測定方法、測定条件下で測定したものなのか明らかでない。したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

(b)【図7】の測定結果について
図7は、弾性率とリーク不良数の関係を示すものとされており、アルミ製キャップとアルミナ基板の場合の測定例とされているが、アルミ製キャップの具体的な形状や大きさ肉厚、アルミナ基板の具体的な形状や厚さなどの、重要なパラメータの開示がない。用いる金属や絶縁性基板の材質や形状によって、熱膨張率だけでなく、接着剤との接着性も異なっているものと考えられる。上記の「弾性率」の内容や測定方法が不明であることを併せて考えると、図7の測定値には客観性がなく、発明の技術的意義も明確でないといわなければならない。(なお、審判請求人は、審判請求の理由の中で、アルミナは絶縁材料の中では最も熱膨張率が低いと述べているが、ムライトやSiCの方が低い。また、アルミニウムは金属では熱膨張率が最も高いと述べているが、接着剤との接着性にも依存するので、アルミニウムの測定例が他の金属の場合に妥当するとはかぎらない。)そうすると、本願の発明の詳細な説明及び図面は、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

(c)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合性について
請求項1においては、「金属製キャップ」、「絶縁基板」と規定されているだけで、キャップと基板を構成する材質等の限定はなされていない。これに対して、上にも述べたように、発明の詳細な説明及び図面に開示された内容は、特定の材料を用いた場合のごく特殊な条件下での測定値のみであり、しかも、その客観性に乏しいものである。材料の具体的な限定のない一般的な内容で圧電部品として特許を得るためには、本件の場合でいえば、少なくとも、キャップがアルミニウム、アルミ合金、洋白のもの、絶縁基板が典型的な複数の材質のものを、いくつか組み合わせて資料とし、資料の条件、測定条件、測定方法を明確にしたうえで測定をして、金属の材質や絶縁基板の材質に依存せずに発明の目的とする技術的効果を挙げられることを示すべきである。
そうすると、本願の発明の詳細な説明及び図面においては、材料に限定のない本願発明を支持するに足る開示がないというほかない。

(d)まとめ
上に述べた理由により、本願の明細書の記載は、特許法36条4項及び5項1号の規定に適合しない。

4.本願発明の進歩性について

(a)本願発明

本願発明は、上記2.において認定したとおりのものである。

(b)引用例とその記載内容

(引用例1)
当審の平成17年5月17日付けの拒絶理由の通知において引用した特開平6-104677号公報(以下、「引用例1」という。)には、本願の発明と同様、圧電部品のパッケージとしてセラミックケース等を用いると高背型となってしまい低背型、小型化には限界があるという認識のもとに、絶縁性材料よりなる基板上に圧電素子を接着固定し、圧電素子の電極を基板上に形成された外部電極に接続するとともに、上ブタ(キャップ)を金属製材で形成し、金属キャップとセラミック基板とをエポキシ等の接着剤で接合することが記載されている(同公報中、段落番号【0003】【0004】の【発明が解決しようとする課題】の記載、段落番号【0005】から【0012】の記載、及び【図1】から【図5】の記載)。

(引用例2)
当審の平成17年5月17日付けの拒絶理由の通知において引用した特開平2-173056号公報(以下、「引用例2」という。)には、電子部品を搭載した酸化アルミニウムのような絶縁基板とアルミニウムのような金属製キャップとをエポキシ等の接着剤で接合し、かつ、接着剤に柔軟剤を添加することにより、接着剤の柔軟性を高め、熱膨張率差による応力を緩和し、亀裂の生じにくい接合を達成することが記載されている(同公報中、1頁右下欄下5行から2頁左上欄1行、2頁左下欄2行から同頁右下欄8行、4頁右下欄10行から5頁左上欄19行、5頁右上欄11行から15行、6頁左下欄9行から同頁右欄7行、7頁右上欄から同頁左下欄の例4の記載、及びFIG.2の記載)。

(引用例3、4)
当審の平成17年5月17日付けの拒絶理由の通知において引用した特開平6-184131号公報(以下、「引用例3」という。)及び特開平5-339555号公報(以下、「引用例4」という。)には、半導体素子等の電子機器を封止ないし接着するためのエポキシ系接着剤に柔軟剤を添加し、機械的性質、応力緩和特性を高めることが記載されており、具体的な実施例における測定値は、曲げ弾性率で3300MPaから3400MPa(特開平6-184131号公報の5頁、第1表)、1600MPaから2600MPa(特開平5-339555号公報の6頁、表1)とされている(1Kgf/mm2=10の7乗Paとして換算)。

(c)対比・判断

引用例1には、接着剤として、本願発明の実施例と同様エポキシ樹脂を用いることが記載されているから、引用例1の発明においても、「キャップと基板との熱膨張係数差を緩和する物性を有する接着剤」により接着封止されているといえる。

そうすると、本願発明と引用例1の発明とは、
「絶縁性材料よりなる基板上に圧電素子を接着固定し、圧電素子の電極を基板上に形成された外部電極に接続するとともに、
基板上に上記圧電素子を覆う金属製キャップを、キャップと基板との熱膨張係数差を緩和する物性を有する接着剤により接着封止してなる、圧電部品。」である点で一致し、
ただ、本願発明では、接着剤の、硬化後の弾性率が1、500〜7、000MPaとされているのに対し、引用例1の発明ではこれについて不明である点、で相違する。

そこでこの相違点について検討すると、
上記引用例2には、電子部品が搭載された絶縁性基板と金属キャップをエポキシ系接着剤で接合するに際して、柔軟剤を適量添加することにより、熱膨張率の差による応力を緩和し、機械的性質を高めること、が教示されている。引用例1の圧電部品において、圧電素子が搭載されたセラミック基板と金属製キャップをエポキシ系接着剤で接合させる場合にも、熱膨張率の異なる材料を接合するのであるから、接着剤の機械的強度に配慮する必要が生じることは当然である。そして、引用例2の技術は、電子部品が搭載された絶縁性基板と金属キャップの接合に関するものであり、本願発明が対象とする圧電部品の場合にも適用できることが明らかであるから、上記引用例2の技術を上記引用例1に記載された圧電部品の発明に適用し、エポキシ系接着剤に柔軟剤を添加して、適度な弾性率とすることは、当業者が容易に考えついたことといえる。そして、接着剤は、硬すぎても柔らかすぎても必要な機械的特性が得られないことは明らかであるから、その上限と下限を決めることは、当業者に普通に期待される発明活動の範囲内のことといえる。もっとも、その数値範囲が、従来技術の範囲を含まず、かつ、従来技術からは予想できないというような特段の事情がある場合は、数値限定も評価されうる。しかしながら、電子機器用の接着に用いるエポキシ系接着剤で、柔軟剤が添加され、弾性率が1,500から7,000MPaの範囲に入るものは普通に知られている(上記の引用例3、4の記載)から、特別な事情は存在しない。

以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2から4に開示された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5.むすび

上記のとおり、本願の明細書の記載は、特許法36条4項及び5項1号の規定に適合しないものであり、また、請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2から4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-22 
結審通知日 2005-08-23 
審決日 2005-09-12 
出願番号 特願平6-272977
審決分類 P 1 8・ 531- WZ (H03H)
P 1 8・ 534- WZ (H03H)
P 1 8・ 121- WZ (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 工藤 一光  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 竹井 文雄
右田 勝則
発明の名称 圧電部品  
代理人 筒井 秀隆  

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