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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1125531
審判番号 不服2003-6999  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-05-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-24 
確定日 2005-10-31 
事件の表示 平成 8年特許願第231721号「インクジェットヘッド及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月27日出願公開、特開平 9-136423〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成8年9月2日の出願(国内優先権主張 平成7年9月14日)であって、平成15年3月24日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年4月24日付けで本件審判請求がされるとともに、同年5月14日付けで明細書についての手続補正(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年5月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正目的
本件補正は、補正前請求項1の「ノズル形成部材の吐出面側に所定の表面処理をした」との記載を「ノズル形成部材の吐出面側に所定の表面処理層を形成した」と補正(以下「補正事項1」という。)し、同じく「前記吐出面側の表面処理部分の穴径を前記ノズル孔の径よりも小さくした」との記載を「前記表面処理層の最小の穴径は前記ノズル孔の最小径よりも小さい」と補正(以下「補正事項2」という。)し、さらに請求項1に「前記表面処理層は前記ノズル孔と連通する穴を有し」との文言をつけ加える(以下「補正事項3」という。)ことを、補正事項として含んでいる。
補正事項1は「表面処理」について「表面処理層を形成」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮(特許法17条の2第4項2号該当)を目的とするものと認める。
補正事項3は、形式的には表面処理層についての限定であるが、ノズル孔と連通する穴を有さないものを想定することが困難であるから、特許請求の範囲の減縮と認定することはできない。
補正事項2については、補正前の「表面処理部分の穴径」及び「ノズル孔」を明確にするものであるから、明りようでない記載の釈明を目的とするものと認める。なお、補正事項2を限定的減縮と解することはできない。なぜなら、補正前の「表面処理部分の穴径」又は「ノズル孔」が「表面処理層の最小の穴径」又は「ノズル孔の最小径」に限定されない、例えば「表面処理層の最大の穴径」であってもよいとすると、本件補正後の請求項1によれば、「表面処理層の最大の穴径」が「ノズル孔」より大きくてもよいことになり、特許請求の範囲に拡張になるからである。
以上のとおり、補正事項1は限定的減縮を目的とするものであり、この限定的減縮は請求項1だけでなく、それを引用する請求項2〜22にも及ぶから、本件補正後の請求項17に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。

2.補正発明の認定
本件補正後の請求項1〜22に係る発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲の【請求項1】〜【請求項22】に記載された事項によって特定されるものであり、【請求項1】及び【請求項17】の記載は次のとおりである。
【請求項1】 インクを吐出するノズル孔を形成するノズル形成部材の吐出面側に所定の表面処理層を形成したインクジェットヘッドにおいて、
前記表面処理層は前記ノズル孔と連通する穴を有し、
前記ノズル孔の内周面には前記所定の表面処理層がなく、
前記表面処理層の最小の穴径は前記ノズル孔の最小径よりも小さいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項17】 請求項1乃至8のいずれかに記載のインクジェットヘッドを製造する方法において、ネガ型ドライフィルムレジストをノズル形成部材の両面側からラミネートし、ノズル形成部材をマスクとしてノズル形成部材の吐出面裏側から露光して硬化させ、現像を行なうことによってノズル形成部材の吐出面側にノズル孔から凸形状に突出した突出部を有するドライフィルムレジストパターンを形成し、その後、ノズル形成部材の吐出面側に表面処理層を形成し、次いで前記ドライフィルムレジストパターンを剥離することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
したがって、請求項17に係る発明のうち、請求項1を引用するもの(以下「補正発明」という。)を独立形式で記載すると、次のとおりである。
「インクを吐出するノズル孔を形成するノズル形成部材の吐出面側に所定の表面処理層を形成したインクジェットヘッドを製造する方法において、
前記インクジェットヘッドは、その前記表面処理層は前記ノズル孔と連通する穴を有し、前記ノズル孔の内周面には前記所定の表面処理層がなく、前記表面処理層の最小の穴径は前記ノズル孔の最小径よりも小さいように形成されたものであり、
ネガ型ドライフィルムレジストをノズル形成部材の両面側からラミネートし、ノズル形成部材をマスクとしてノズル形成部材の吐出面裏側から露光して硬化させ、現像を行なうことによってノズル形成部材の吐出面側にノズル孔から凸形状に突出した突出部を有するドライフィルムレジストパターンを形成し、その後、ノズル形成部材の吐出面側に表面処理層を形成し、次いで前記ドライフィルムレジストパターンを剥離することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。」

3.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-148930号公報(以下「引用例」という。)には、次のア〜ウの記載が図示とともにある。
ア.「本発明は、インクジェット記録装置に用いるインクジェットヘッドに関わる。」(段落【0001】)
イ.「ノズル孔周縁部、或はノズル孔周縁部を含むノズルプレート表面をクリーニング操作すると、撥インク処理層の撥インク性能が低下する、或はノズル孔周縁部において撥インク性能の不均一を生じるという課題を有した。・・・本発明は、かかる従来の課題を解決する為になされたものであり、その目的は撥インク処理層の、クリーニング操作による撥インク性能の低下及び不均一性を防止し、よってノズル孔からのインク滴の飛翔方向を一定に保ち、その結果記録紙上に形成される画像、印字の品質を、長期間に渡って確保することである。・・・本発明はこのようなインクジェットヘッドにおいて、ノズルプレート表面に、主剤と硬化剤とからなるエポキシ樹脂と、分子鎖中にエポキシ基、アミン、水酸基、酸無水、カルボン酸の反応基の内少なくとも一つの反応基を有するフッ素化合物との重合硬化皮膜を形成し、撥インク層としたことを特徴とする。」(段落【0006】〜【0008】)
ウ.「本実施例の撥インク層の製造方法について説明する。図3は、ノズル孔2を有するノズルプレート1に、撥インク層3を形成する迄の工程を示すものである。(a)は厚みが80μmのステンレスからなり、インク滴の吐出面4側に30μmの吐出口を有するノズル孔2が複数配置されたノズルプレート1である。(a)のノズルプレートの圧力室(図示せず)側5に、ポジ型レジスト6をロールコータにて塗布した図が(b)である。レジスト6にはBMR(東京応化社)を使用した。塗布厚は5μmであり、塗布後の乾燥条件は80度C10分とした。この工程によりノズル孔2内の被覆を完全に行い、ノズル孔2内が撥インク処理されることを防止する。(c)は、インク滴の吐出面4に(b)と同様にBMRを塗布乾燥した図である。塗布厚は同じく5μmとした。この後、ノズルプレートの圧力室側5の方向より紫外線を照射し露光をする。更にNaOH5%水溶液で現像すると、ノズルプレート1がマスクの役割を果たし、(d)に示すレジストのパタン形状が得られる。現像条件は、前述のアルカリ水溶液に室温で20分間浸漬することとした。次にインク適吐出面4に、エポキシ樹脂主剤XNR3305を20部、エポキシ樹脂硬化剤キャタリスト11を3部、分子鎖中にエポキシ基を有するフッ素化合物3-(パーフルオロー9ーメチルデシル)ー1,2ーエポキシプロパンを10部を混練した液状混合樹脂8を、ロールコータで塗布する。液状混合樹脂8の厚みは、3μm以下とした。この工程において、インク吐出面4のレジスト凸部7はゴム弾性を有する為、ロールコータでのコーテイング時に欠落することはない。液状混合樹脂8を塗布した後、100度C2時間の環境に置く。この環境下で、エポキシ樹脂硬化剤に含有されるアミンは、エポキシ樹脂主剤とフッ素化合物に含まれるエポキシ基と反応重合し、液状混合樹脂8は重合硬化皮膜となる。最後に60度CのBMR剥離液(東京応化社)に30分浸漬すると、レジストはノズルプレートから脱落し、(f)に示す本実施例の重合硬化皮膜からなる撥インク層を有するノズルプレートが得られる。」(段落【0015】)

4.引用例記載の発明の認定
引用例の記載ウには「ポジ型レジスト」とあるが、露光は圧力室側5の方向(【図3】において下側)より行われ、ノズルプレート1がマスクの役割をし、【図3】(d)にあるとおり、露光された部分が残り非露光部が現像により除去されているから、「ネガ型レジスト」の誤記と解すべきである。そのことは、実施例として使用されたレジストは「BMR(東京応化社)」であるところ、例えば特開平11-261225号公報に「ネガタイプフォトレジスト(東京応化工業、BMR)」(段落【0028】)と、特開平6-328697号公報に「東京応化社製のネガ型レジストBMRS1000」(段落【0029】)と記載されていることからも明らかである。
引用例の記載ウは、ノズルプレートに撥インク層を形成する方法について述べたものであるが、それは記載アの「インクジェットヘッド」を製造する方法の一環であるから、引用例にはインクジェットヘッドの製造方法として、次のような発明が記載されていると認めることができる。
「ノズルプレートに撥インク層を形成したインクジェットヘッドを製造する方法において、
ノズル孔を有するノズルプレートの圧力室側に、ネガ型レジストを塗布することによりノズル孔内の被覆を完全に行い、ノズル孔内が撥インク処理されることを防止し、次いでインク滴の吐出面にネガ型レジストを塗布し、この後ノズルプレートの圧力室側の方向より紫外線を照射し露光し、NaOH5%水溶液で現像した後、インク滴吐出面に、エポキシ樹脂主剤XNR3305を20部、エポキシ樹脂硬化剤キャタリスト11を3部、分子鎖中にエポキシ基を有するフッ素化合物3-(パーフルオロー9ーメチルデシル)ー1,2ーエポキシプロパンを10部を混練した液状混合樹脂を塗布し、100度C2時間の環境に置くことにより撥インク層とし、最後に60度Cのネガ型レジスト剥離液に30分浸漬することによりレジストをノズルプレートから脱落させるインクジェットヘッドの製造方法。」(以下「引用発明」という。)

5.補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
引用発明の「ノズルプレート」、「圧力室側」及び「撥インク層」は、補正発明の「ノズル形成部材」、「吐出面裏側」及び「所定の表面処理層」にそれぞれ相当する。
引用発明の「撥インク層」が「ノズル孔と連通する穴を有」することは自明である。
引用発明では「ノズルプレートの圧力室側に、ネガ型レジストを塗布することによりノズル孔内の被覆を完全に行い、ノズル孔内が撥インク処理されることを防止し」ているのだから、補正発明でいう「前記ノズル孔の内周面には前記所定の表面処理層がなく」と異ならない。
引用発明において、「ノズルプレートの圧力室側に、ネガ型レジストを塗布することによりノズル孔内の被覆を完全に行い、ノズル孔内が撥インク処理されることを防止し、次いでインク滴の吐出面にネガ型レジストを塗布」することと、補正発明において「ネガ型ドライフィルムレジストをノズル形成部材の両面側からラミネート」することは、ノズル形成部材の両面に(ノズル孔を含む)にネガ型レジストを設ける点で一致する。
引用発明では、NaOH5%水溶液で現像した結果、ネガ型レジストの露光部が「ノズル形成部材の吐出面側にノズル孔から凸形状に突出した」した形態で残る(引用例の【図3】(d)のとおりである。)ことが明らかであるから、その残ったパターンと補正発明の「ドライフィルムレジストパターン」とは、「ノズル形成部材の吐出面側にノズル孔から凸形状に突出した突出部を有するレジストパターン」である点で一致する。
そして、引用発明において「液状混合樹脂を塗布し、100度C2時間の環境に置くことにより撥インク層」とすること及び「60度Cのネガ型レジスト剥離液に30分浸漬することによりレジストをノズルプレートから脱落させる」ことと、補正発明において「ノズル形成部材の吐出面側に表面処理層を形成」すること及び「レジストパターンを剥離すること」に相違はない。
したがって、補正発明と引用発明とは、
「インクを吐出するノズル孔を形成するノズル形成部材の吐出面側に所定の表面処理層を形成したインクジェットヘッドを製造する方法において、
前記インクジェットヘッドは、その前記表面処理層は前記ノズル孔と連通する穴を有し、前記ノズル孔の内周面には前記所定の表面処理層がなく、
ノズル形成部材の両面にネガ型レジストを設け、ノズル形成部材をマスクとしてノズル形成部材の吐出面裏側から露光して硬化させ、現像を行なうことによってノズル形成部材の吐出面側にノズル孔から凸形状に突出した突出部を有するレジストパターンを形成し、その後、ノズル形成部材の吐出面側に表面処理層を形成し、次いで前記レジストパターンを剥離するインクジェットヘッドの製造方法。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉ノズル形成部材の両面にネガ型レジストを設けるに当たり、補正発明では「ネガ型ドライフィルムレジストをノズル形成部材の両面側からラミネート」しているのに対し、引用発明の「ネガ型レジスト」がドライフィルムであるとはいえず、そのためラミネートするともいえない点。なお、レジストパターンが「ドライフィルムレジストパターン」であるかどうかは、ネガ型レジストがネガ型ドライフィルムレジストかどうかに付随するものであるから、別途独立した相違点とはしない。
〈相違点2〉補正発明では「前記表面処理層の最小の穴径は前記ノズル孔の最小径よりも小さいように形成されたものであ」るのに対し、引用発明では表面処理層の最小の穴径とノズル孔の最小径との関係が、補正発明の上記限定を満たすかどうか明らかでない点。

6.相違点についての判断
(1)相違点1について
例えば特開平5-220960号公報に「ドライフィルムフォトレジスト29としては、例えば、東京応化製のオーディルSY-325が耐インク腐蝕性が強く好適に使用される。ドライフィルムフォトレジスト29は、熱と圧力とを加えて発熱体基板23にラミネートされる。」(段落【0049】)及び「以上は、ドライフィルムフォトレジスト29を使用した実施例の説明であるが、このドライフィルムフォトレジスト29に代えて液状フォトレジストを使用することもできる。このような液状フォトレジストとしては、例えば、東京応化製のBMRS1000が好適に利用できる。」(段落【0050】)と記載があるとおり、本願優先日当時、フォトレジストとしてドライフィルムを用いること、及びドライフィルムフォトレジストと液状フォトレジストに相当程度の互換性があることは周知である。
また、引用発明のネガ型レジストをドライフィルムとすることに格別何らかの困難性があると理解することはできない。
そうであれば、引用発明のネガ型レジストをドライフィルムとし、その結果「ノズル形成部材の両面側からラミネート」する構成とすることは当業者にとって想到容易といわざるを得ない。

(2)相違点2について
本件補正後の本願明細書には、次のア〜オの記載がある(これら記載は、出願当初から存在する。)。なお、下線は当審で付加したものである。
ア.「図12(e)及び図14に示すように、ノズル孔41から吐出面側にはみ出したテーパ状の凸形状をなす突出部47aを有するドライフィルムレジストパターン(フォトレジストパターン)47ができ上がる。この場合、露光量及び/又は現像時間を調整可能な露光装置や現像装置を使用することによって、例えば図15(a)に示すように露光量を大きくして現像時間を短くしたときには突出部47aは相対的に太くなり、同図(b)に示すように露光量を小さくして現像時間を長くしたときには突出部47aは相対的に細くなる、というようにドライフィルムレジストパターン47の突出部47aの形状を容易に変更設定することができる。」(段落【0072】)
イ.「フォトレジストパターン47を剥離することによって、同図(審決注;図12)(g)及び図16に示すようにノズル孔41を形成したノズル形成部材42の表面にテーパ形状の穴43aを形成した表面処理層43を形成してなる表面処理ノズル40が得られる。」(段落【0074】)
ウ.「図18(a)に示すようにドライフィルムレジスト45が硬化すると共に、ノズル形成部材42がマスクとなっているので、ドライフィルムレジスト48のノズル孔41に対向している部分のみが硬化して、これらが一体となった硬化ドライフィルムレジスト49となる。」(段落【0079】)
エ.「これを現像することによって、同図(審決注;図18)(b)及び図19に示すように、ノズル孔41の穴部に凸形状の突出部50aを有するドライフィルムレジストパターン50ができ上がる。この場合も、露光量及び/又は現像時間を調整可能な露光装置や現像装置を使用することによって、ドライフィルムレジストパターン50の突出部50aの形状を容易に設定することができる。」(段落【0080】)
オ.「フォトレジストパターン50を剥離することによって、同図(d)及び図20に示すようにノズル孔41を形成したノズル形成部材42の表面にテーパ形状の穴43aを形成した表面処理層43を形成してなる表面処理ノズル40が得られる。」(段落【0081】)

上記記載ア,イは段落【0069】〜【0076】において製造方法の1つとして説明されているものの一部である。そして、上記記載ア,イによれば、「凸形状をなす突出部47a」がテーパ状をなしていることが、表面処理層43の穴43aがテーパ形状をなす原因であると自然に理解でき、表面処理層43の穴43aがテーパ形状をなせば、表面処理層の最小の穴径がノズル孔の最小径を下回る(ただし、ノズル孔は吐出面にて最小径となることが前提であるが、引用発明のノズル孔は引用例【図3】からみて、この条件を満たしている。)ことも自然に理解できる。
他方、補正発明の実施例は、段落【0077】〜【0082】において「製造方法の第2例」として説明されているものであって、上記記載ウ〜オはその一部であるところ、ここには「凸形状の突出部50a」がテーパ状である旨の記載はないけれども、記載オのとおり表面処理層43の穴43aがテーパ形状をなす以上、「凸形状の突出部50a」がテーパ状であると解さねばならない。そのことは、【図19】からも明らかである。
また、【図15】は補正発明の説明図ではないけれども、同図には露光量を大、現像時間を短とした(a)図と露光量を小、現像時間を長とした(b)図が図示されているところ、「凸形状をなす突出部47a」のテーパ度合いは異なるものの、どちらの「凸形状をなす突出部47a」も明確にテーパ状(吐出面から離れるに従い短径となる)に描かれている。本願明細書には、凸形状をなす突出部がテーパ状となることの明確な理由は記載されていないけれども、吐出面裏側から露光する以上、吐出面側(露光源と反対側)では吐出面から離れるほど、露光量が少なくなり、露光による硬化が不十分となることが1つの原因と考えられる。そのことは、露光量小の【図15】(b)が露光量大の同図(a)よりも、より先細りになっていることからも窺える。
そうすると、「ノズル形成部材をマスクとしてノズル形成部材の吐出面裏側から露光して硬化させ、現像を行なうことによってノズル形成部材の吐出面側にノズル孔から凸形状に突出した突出部を有するレジストパターンを形成」すれば、形成された「凸形状に突出した突出部」は、吐出面から離れるに従い短径となるようなテーパ形状となるのが自然であり、露光量及び現像時間によっては、かかるテーパ形状とはならない場合があるとしても、それは例外的と考えるべきである。
ところで、引用例の記載イから明らかなように、引用発明の課題はクリーニング操作による撥インク性能の低下及び不均一性を防止することにあり、同課題を解決するために撥インク層材料を限定したことに引用発明の特徴がある。逆にいうと、引用発明において、表面処理層(撥インク層)の最小の穴径がノズル孔の最小径を下回るかどうかは、引用発明の課題とは関係がなく、引用発明が、表面処理層の最小の穴径がノズル孔の最小径を下回ることを意図的に排除していないことは明らかである。そうであれば、引用発明においても、表面処理層の最小の穴径はノズル孔の最小径よりも小さいように形成されている蓋然性が極めて高く、相違点2を実質的相違点ということは事実上できない。
この点請求人は「引用文献E(審決注;審決の引用例)の図1には、撥インク層3の最小の穴径がノズル孔2の最小径と同じノズルプレートが図示されているだけであり、表面処理層の最小の穴径はノズル孔の最小径よりも小さいことについては何ら記載も示唆もされていない。また、同文献Eの図3の製造工程からしても、撥インク層3の最小の穴径をノズル孔2の最小径よりも小さくすることはできない(同図の(d)参照)。」(審判請求書に対しての平成15年5月14日付け手続補正書3頁6〜10行)及び「同文献Eの図3からも明かなように本願発明の従来である本願明細書の【図28】のようなインクジェットヘッドを製造するためのものである。」(同4頁15〜16行)と主張するが、引用例【図3】の製造工程と補正発明の製造工程に格別の相違はなく(相違点1として認定した相違があるだけである。)、引用例【図3】(d)と本願添付の【図18】(b)の「凸形状の突出部」の形状にも格別相違がない(本願添付の【図18】(b)では、突出部がテーパ状でないかのように描かれている。)ばかりか、特許図面は発明を説明するための補助資料として作成されたものであって、設計図と異なり寸法を正確に描くことまで要求しているのではないから、引用例【図3】(d)から「凸形状の突出部」がテーパ状でないとまでは認定することはできない。また、請求人がいう「本願発明の従来である本願明細書の【図28】」は「図28(表面処理後打抜き形成の例)」(本願明細書段落【0011】)とあるとおり、引用発明のノズルとは全く異なることが明らかである。したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。
そればかりか、原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-60972号公報【図1】に表面処理層(符番4の撥水性を有する物質)の最小の穴径をノズル孔の最小径より小さくした図が描かれており、同じく実願平5-60287号(実開平7-26135号公報)のCD-ROMに「ノズル本体は、ノズル撥水部材のノズル穴径よりもやや大きい径の複数のノズル本体穴・・・を有する」(【請求項3】)との記載があるとともに、【図8】にはノズル撥水部材(表面処理層でないことは認める。)の最小の穴径をノズル孔の最小径より小さくした図が描かれている。これらのことを考慮すれば、本願優先日当時、ノズル吐出面に設けた撥水部(引用発明の「撥インク層」はこれに該当する。)の最小の穴径をノズル孔の最小径より小さくすることは、別段避けるべき技術とされていたわけではないことが明らかである。そうであれば、露光量及び現像時間次第では「凸形状に突出した突出部」が先細りのテーパ形状とならないことがあるとしても、そのような露光量及び現像時間をあえて選択する理由はないのであるから、「凸形状に突出した突出部」が先細りのテーパ形状となるような露光量及び現像時間を選択することに困難性があると認めることはできない。そして、「凸形状に突出した突出部」が先細りのテーパ形状となれば、撥インク層の最小の穴径はノズル孔の最小径より小さくなるから、相違点2が実質的相違点であるとしても、同相違点に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

7.補正後請求項17に係る発明の独立特許要件の判断
以上のとおり相違点1,2は、実質的相違点でないか、これら相違点に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、補正発明を含む補正後請求項17に係る発明についても同様であるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
補正後請求項17に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は平成15年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反している。
すなわち、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1〜22に係る発明は、平成15年2月27日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の【請求項1】〜【請求項22】に記載された事項によって特定されるものであり、【請求項1】及び【請求項17】の記載は次のとおりである。
【請求項1】 インクを吐出するノズル孔を形成するノズル形成部材の吐出面側に所定の表面処理をしたインクジェットヘッドにおいて、前記ノズル孔の内周面には前記所定の表面処理がなく、前記吐出面側の表面処理部分の穴径を前記ノズル孔の径よりも小さくしたことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項17】 請求項1乃至8のいずれかに記載のインクジェットヘッドを製造する方法において、ネガ型ドライフィルムレジストをノズル形成部材の両面側からラミネートし、ノズル形成部材をマスクとしてノズル形成部材の吐出面裏側から露光して硬化させ、現像を行なうことによってノズル形成部材の吐出面側にノズル孔から凸形状に突出した突出部を有するドライフィルムレジストパターンを形成し、その後、ノズル形成部材の吐出面側に表面処理を施し、次いで前記ドライフィルムレジストパターンを剥離することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
したがって、請求項17に係る発明のうち、請求項1を引用するもの(以下「本願発明」という。)を独立形式で記載すると、次のとおりである。
「インクを吐出するノズル孔を形成するノズル形成部材の吐出面側に所定の表面処理をしたインクジェットヘッドを製造する方法において、
前記インクジェットヘッドは、前記ノズル孔の内周面には前記所定の表面処理がなく、前記吐出面側の表面処理部分の穴径を前記ノズル孔の径よりも小さく形成されたものであり、
ネガ型ドライフィルムレジストをノズル形成部材の両面側からラミネートし、ノズル形成部材をマスクとしてノズル形成部材の吐出面裏側から露光して硬化させ、現像を行なうことによってノズル形成部材の吐出面側にノズル孔から凸形状に突出した突出部を有するドライフィルムレジストパターンを形成し、その後、ノズル形成部材の吐出面側に表面処理を施し、次いで前記ドライフィルムレジストパターンを剥離することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。」

2.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
引用発明の「撥インク層」は本願発明の「表面処理部分」に相当し、同層を形成することは所定の表面処理を施すことに等しい。
本願発明と引用発明とは、
「インクを吐出するノズル孔を形成するノズル形成部材の吐出面側に所定の表面処理をしたインクジェットヘッドを製造する方法において、
前記インクジェットヘッドは、前記ノズル孔の内周面には前記所定の表面処理がされておらず、
ノズル孔を含むノズル形成部材の両面にネガ型レジストを設け、ノズル形成部材をマスクとしてノズル形成部材の吐出面裏側から露光して硬化させ、現像を行なうことによってノズル形成部材の吐出面側にノズル孔から凸形状に突出した突出部を有するレジストパターンを形成し、その後、ノズル形成部材の吐出面側に表面処理を施し、次いで前記レジストパターンを剥離するインクジェットヘッドの製造方法。」である点で一致し、「第2 5」で述べた相違点1(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)及び次の相違点2’で相違する。
〈相違点2’〉本願発明では「前記吐出面側の表面処理部分の穴径を前記ノズル孔の径よりも小さく形成されたものであ」るのに対し、引用発明では表面処理部分の穴径とノズル孔の径との関係が、本願発明の上記限定を満たすかどうか明らかでない点。

3.相違点の判断及び請求項17に係る発明の進歩性の判断
相違点1については「第2 6(1)」で述べたとおりである(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。
相違点2’については、次のとおりである。本願発明の「表面処理部分の穴径」及び「ノズル孔の径」については、最小径であることが請求項1に明確に記載されているわけではないが、本願発明の実施例は補正発明の実施例同様、段落【0077】〜【0082】及び【図17】〜【図20】において「製造方法の第2例」として説明されているものであって、「表面処理部分の穴径」及び「ノズル孔の径」を最小径以外に解釈すると、表面処理部分の穴径をノズル孔の径よりも小さく形成することの技術的意義を理解できない。したがって、本願発明の「表面処理部分の穴径」及び「ノズル孔の径」は、補正発明の「表面処理層の最小の穴径」及び「ノズル孔の最小径」と同義に解すべきであり、そうである以上「第2 6(1)」で述べたと同様の理由により、実質的相違でないか、当業者にとって想到容易である。
また、これら相違点に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願発明を含む請求項17に係る発明についても同様であるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本件補正は却下されなければならず、請求項17に係る発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-09-06 
結審通知日 2005-09-07 
審決日 2005-09-21 
出願番号 特願平8-231721
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 酒井 進
藤本 義仁
発明の名称 インクジェットヘッド及びその製造方法  
代理人 稲元 富保  

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