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審決分類 審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 一部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1125788
異議申立番号 異議2003-70722  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-12-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-24 
確定日 2005-08-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3326873号「包装用フィルム」の請求項1、2、4、6、7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3326873号の請求項1、2、4、6、7に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続きの経緯
本件特許第3326873号の請求項1,2,4,6及び7に係る発明についての出願は、平成5年6月22日に特許出願され(優先権主張:平成4年7月22日、平成5年4月7日、日本国)、平成14年7月12日に特許権の設定登録がなされ、その後、その請求項1,2,4,6及び7に係る特許について、特許異議申立人 田中圭子より特許異議の申立てがなされ、平成16年10月13日付で特許権者に対して審尋がなされ、その審尋に対する回答書が平成16年12月21日付で提出された後、平成17年4月18日付で取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成17年6月23日付けで特許異議意見書が提出されるとともに、訂正請求がなされたものである。

[2]訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
(1)訂正事項A
特許請求の範囲の【請求項1】
「下記数1に示す組成分布変動係数(Cx)が0.40以下であり、かつエチレン含有量が50モル%以上であるエチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層に対し、少なくとも1種の他の層を積層し、該他の層が下記共重合体(B)〜(D)から選ばれる少なくとも1種からなる層であることを特徴とする包装用フィルム。
【数1】
Cx=σ/SCBave
σ:組成分布の標準偏差(1/1000C)
SCBave :1000C当たりの短鎖分岐の平均値(1/1000C)
(B)下記(b1)〜(b3)の性状を有するプロピレン-α-オレフィン系共重合体
(b1)炭素数4以上のα-オレフィン含有量が8〜35モル%であること
(b2)エチレン含有量が5モル%以下であること
(b3)冷キシレン可溶部が10〜70重量%であること
(C)下記(c1)〜(c2)の性状を有するプロピレン-エチレン共重合体
(c1)エチレン含有量が3〜12モル%であること
(c2)示差走査熱量計(DSC)による最低融解ピーク温度が130℃以上であること
(D)下記(d1)〜(d4)の性状を有するエチレン-ブテン-1共重合体
(d1)エチレン含有量が50モル%以上であること
(d2)密度が0.870〜0.910g/cm3であること
(d3)示差走査熱量計(DSC)による昇温サーモグラムにおいて、100℃以上に融解ピークを有すること
(d4)冷キシレン可溶部が5〜50重量%であること」を
「下記数1に示す組成分布変動係数(Cx)が0.18以上0.25以下であり、かつエチレン含有量が50モル%以上であるエチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層に対し、少なくとも1種の他の層を積層し、該他の層が下記共重合体(B)〜(D)から選ばれる少なくとも1種からなる層であることを特徴とする包装用フィルム。
【数1】
Cx=σ/SCBave
σ:組成分布の標準偏差(1/1000C)
SCBave :1000C当たりの短鎖分岐の平均値(1/1000C)
(B)下記(b1)〜(b3)の性状を有するプロピレン-α-オレフィン系共重合体
(b1)炭素数4以上のα-オレフィン含有量が8〜35モル%であること
(b2)エチレン含有量が5モル%以下であること
(b3)冷キシレン可溶部が10〜70重量%であること
(C)下記(c1)〜(c2)の性状を有するプロピレン-エチレン共重合体
(c1)エチレン含有量が3〜12モル%であること
(c2)示差走査熱量計(DSC)による最低融解ピーク温度が130℃以上であること
(D)下記(d1)〜(d4)の性状を有するエチレン-ブテン-1共重合体
(d1)エチレン含有量が50モル%以上であること
(d2)密度が0.870〜0.910g/cm3であること
(d3)示差走査熱量計(DSC)による昇温サーモグラムにおいて、100℃以上に融解ピークを有すること
(d4)冷キシレン可溶部が5〜50重量%であること」に訂正する。
(2)訂正事項B
明細書段落【0008】の
「すなわち、本発明は、下記数2に示す組成分布変動係数(Cx)が0.40以下であり、かつエチレン含有量が50モル%以上であるエチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層に対し、少なくとも1種の他の層を積層し、該他の層が下記共重合体(B)〜(D)から選ばれる少なくとも1種からなる層であることを特徴とする包装用フィルムに関するものである。」を、
「すなわち、本発明は、下記数2に示す組成分布変動係数(Cx)が0.18以上0.25以下であり、かつエチレン含有量が50モル%以上であるエチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層に対し、少なくとも1種の他の層を積層し、該他の層が下記共重合体(B)〜(D)から選ばれる少なくとも1種からなる層であることを特徴とする包装用フィルムに関するものである。」に訂正する。
(3)訂正事項C
明細書段落【0010】の
「本発明で使用するエチレン-α-オレフィン共重合体(A)の組成分布変動係数(Cx)は0.40以下であり、好ましくは0.30以下、さらに好ましくは0.25以下である。該共重合体(A)のエチレン含有量は、50モル%以上であり、70モル%以上がより好適である。本発明の包装用フィルムはストレッチ包装用として、特に好適である。」を、
「本発明で使用するエチレン-α-オレフィン共重合体(A)の組成分布変動係数(Cx)は0.18以上0.25以下である。該共重合体(A)のエチレン含有量は、50モル%以上であり、70モル%以上がより好適である。本発明の包装用フィルムはストレッチ包装用として、特に好適である。」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項A(【請求項1】)
訂正前の請求項1に係る発明において、エチレン-α-オレフィン共重合体(A)の組成分布変動係数(Cx)を「0.40以下」から「0.18以上0.25以下」に限定するものである。そして、その組成分布変動係数(Cx)の下限は、段落【0052】に記載の実施例1で得られたエチレン-ブテン-1共重合体(A-1)についての表1(段落【0065】)中の組成分布変動係数(Cx)値「0.18」に基づくものである。
また、その組成分布変動係数(Cx)の上限は、訂正前の明細書段落【0010】に記載された「本発明で使用するエチレン-α-オレフィン共重合体(A)の組成分布変動係数(Cx)は…、さらに好ましくは0.25以下である。…」に基づくものである。そして、上記表1中には該組成分布変動係数(Cx)値が「0.20」のエチレン-ブテン-1共重合体(A-2)も記載されている。
よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項B及びC(明細書段落【0008】及び段落【0010】)
訂正事項B及びCは、請求項1に係る発明が訂正事項Aにより訂正されたことに伴い、その訂正事項Aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、訂正事項Aと同様に、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)請求項1が、特許請求の範囲の減縮を目的として訂正されたことにより、特許異議申し立ての対象になっていない請求項3及び請求項5についても実質的な訂正がなされているが、訂正後のそれらの請求項に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであることは、後記の特許異議申し立てに対する「〔6〕対比・判断」における本件発明1についての理由と同様である。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]本件発明
本件特許第3326873号の請求項1,2,4,6及び7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1,2,4,6及び7」という。)は、上記〔2〕に記載のとおり訂正は認められるので、平成17年6月23日付け訂正請求書に添付された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1,2,4,6及び7に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】下記数1に示す組成分布変動係数(Cx)が0.18以上0.25以下であり、かつエチレン含有量が50モル%以上であるエチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層に対し、少なくとも1種の他の層を積層し、該他の層が下記共重合体(B)〜(D)から選ばれる少なくとも1種からなる層であることを特徴とする包装用フィルム。
【数1】
Cx=σ/SCBave
σ:組成分布の標準偏差(1/1000C)
SCBave :1000C当たりの短鎖分岐の平均値(1/1000C)
(B)下記(b1)〜(b3)の性状を有するプロピレン-α-オレフィン系共重合体
(b1)炭素数4以上のα-オレフィン含有量が8〜35モル%であること
(b2)エチレン含有量が5モル%以下であること
(b3)冷キシレン可溶部が10〜70重量%であること
(C)下記(c1)〜(c2)の性状を有するプロピレン-エチレン共重合体
(c1)エチレン含有量が3〜12モル%であること
(c2)示差走査熱量計(DSC)による最低融解ピーク温度が130℃以上であること
(D)下記(d1)〜(d4)の性状を有するエチレン-ブテン-1共重合体
(d1)エチレン含有量が50モル%以上であること
(d2)密度が0.870〜0.910g/cm3であること
(d3)示差走査熱量計(DSC)による昇温サーモグラムにおいて、100℃以上に融解ピークを有すること
(d4)冷キシレン可溶部が5〜50重量%であること
【請求項2】
エチレン-α-オレフィン共重合体(A)が、下記(a1)〜(a3)の性状を有する共重合体である請求項1記載の包装用フィルム。
(a1)炭素数3〜10のα-オレフィン含有量が2〜20モル%、
(a2)密度が0.870〜0.915g/cm3、
(a3)示差走査熱量計(DSC)による最高融解ピーク温度が、60℃以上、100℃未満の範囲内であり、かつ、該融解ピークの融解熱量が全熱量に対して0.8以上。
【請求項4】
他の層が、下記(c1)〜(c2)の性状を有するプロピレン-エチレン共重合体(C)からなる層である請求項1または2記載の包装用フィルム。
(c1)エチレン含有量が3〜12モル%、
(c2)示差走査熱量計(DSC)による最低融解ピーク温度が130℃以上。
【請求項6】
エチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層が表面層である請求項1〜5いずれかに記載の包装用フィルム。
【請求項7】
包装用がストレッチ包装用であることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の包装用フィルム。」

[4]特許異議の申立ての理由及び取消しの理由の概要
(1)特許異議の申立ての理由の概要
1) 特許異議申立人は、以下の甲第1〜4号証及び参考資料1〜3を提示し、本件特許出願は、優先権主張が認められない旨主張するとともに、訂正前の請求項1,2,4,6及び7に係る発明は、参考資料1〜3の内容を斟酌すれば、甲第1〜2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、上記請求項に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである、
2) 本件請求項1に記載された「組成分布変動係数(Cx)」はその技術的意義が明らかでなく、また、「組成分布変動係数(Cx)」を実施例以外の所望の値に制御する手段・方法が不明であり、本件明細書には当業者が容易に実施できる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえず、上記請求項1に係る発明及びそれを引用する請求項2,4,6及び7に係る発明の特許は特許法第36条第4項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである(異議申立人の主張は同法第36条第3項違反であるが、本件特許の出願日及び主張内容から同法第36条第4項違反の主張であることは明らかである。)、というものである。
甲第1号証:国際公開 WO93/03093号パンフレット(1993)
甲第1号証の2:特表平6-509528号公報
甲第2号証:特開昭60-6457号公報
甲第3号証:特願平4-195213号明細書
甲第4号証:特願平5-80584号明細書
参考資料1:Society of Plastics Engineers Polyolefins VII International Conference 45〜66頁(1991.2.24-27)
参考資料2:特開平4-270745号公報
参考資料3:「CDBIからCxの換算方法」と題する4葉の文書

(2)平成17年4月15日付け取消しの理由は、明細書の記載要件に関するものであり、その概要は上記特許異議の申し立て理由2)と同一である。

[5]刊行物及び参考資料の記載
甲第1号証:国際公開 WO93/03093号パンフレット(1993)
(甲第1号証の2:特表平6-509528号公報)
甲第1号証には以下の事項が記載されている。
なお、甲第1号証記載事項については、同号証の日本語訳に相当すると認められる甲第1号証に係る国際出願の特許法第184条の9に基づく国内公表公報である特表平6-509528号公報(甲第1号証の2)を用いて引用する。
(1-1)
「請求の範囲
1.第一及び第二の製品部分の少なくとも一方を軟化させるに十分な温度における上記第一及び第二の製品部分の圧着によって形成されたシール領域を有する製品にして、少なくとも上記第一部分はエチレン共重合体又はエチレン共重合体ブレンドを含んでなるものであり、上記ブレンド又は個々の共重合体が50%以上の組成分布幅指数(CDBI)を有するように選択されたものであって、その結果上記部分が93℃未満のシール開始温度での接触でシールできることを特徴とする製品。
2.請求項1記載の製品にして、少なくとも前記第一部分がフィルムを含んでなり、任意には前記第二部分が前記共重合体又は共重合体ブレンド以外の重合体、金属箔、紙又は織物からなる同様のフィルム又は層を含んでなることを特徴とする製品。

4.請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の製品にして、前記CDBIが70%以上であることを特徴とする製品。
5.請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の製品にして、前記ブレンド又は各共重合体が0.01〜17モル%のコモノマー含有率を有することを特徴とする製品。

7.請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の製品にして、前記ブレンド又は各共重合体が0.875〜0.96g/cm3、好ましくは0.89〜0.93g/cm3の密度、及び10000〜1000000、好ましくは4000〜200000の重量平均分子量を有することを特徴とする製品。」(2頁左上欄1行〜右上欄18行)
(1-2)
「技術分野
本発明は、そのヒートシール部分が共重合体又はそれらのブレンドでできているようなヒートシール製品に関する。さらに具体的には、本発明は組成分布が狭くかつ分子量分布の狭い共重合体からなる共重合体組成物並びに共重合体ブレンド組成物に関する。本発明の共重合体、特に共重合体ブレンドはヒートシール性に優れ、その他の物理的特性にも優れている。本発明の共重合体並びにそれらのブレンドは、フィルム類、バッグ類、パウチ類、タブ類、トレー類、蓋、包装材料、容器、その他ヒートシール材料の使われる製品の生産に使用することができる。」(3頁右上欄6〜17行)
(1-3)
「発明の概要
本発明は、各々が狭い分子量分布と50%以上の組成分布幅指数(Compositional distribution breadth index)をもつ共重合体並びにこれらの共重合体のブレンドから製造された優れたヒートシール性を示す製品に関する。特に、各種の包装用途に用いられる単層又は多層フィルムの製造に有用な上記共重合体は、エチレン共重合体でもよいし、或いはエチレン共重合体のブレンドでもよい。個々のエチレン共重合体群は狭い分子量分布と狭い組成分布を有する。」(4頁右下欄12〜21行)
(1-4)
(図面の簡単な説明)
「図15は、SDBI及びCDBIの狭い共重合体(X)並びにSDBI及びCDBIの広い共重合体(Y)の溶解度分布及び組成分布を示すグラフである。
図16は温度目盛を組成目盛に変換するのに用いた、溶解温度と組成の関係を示すグラフである。
図17は、CDBIの計算法を説明したグラフである。」(6頁9〜14行)
(1-5)
「発明の詳細な説明
本発明の線状エチレン共重合体は…、過半量のエチレンと少量のコモノマーの高次共重合体であってもよい。コモノマーを用いる場合、一般には共重合されるモノマー全体を基準にして70〜99.99モル%、典型的には70〜97モル%、多くの場合70〜80もしくは80〜90もしくは83〜99.99もしくは90〜95モル%の割合のエチレンを、…コモノマーと共に重合する。…
エチレンと共重合して上記エチレン共重合体を得るのに適したコモノマーには、エチレンと共重合することができてブレンド成分に望まれるコモノマー分布を与えるようなモノマーが含まれる。好ましい種類のコモノマーは炭素原子数3〜12のα-オレフィンであり、例えばプロピレン、1-ブテン、…などである。」(6頁右上欄15行〜左下欄18行)
(1-6)
「上記エチレン共重合体は、好ましくは組成分布幅指数(CDBI)が50%以上、さらに好ましくは60%以上、最も好ましくは70%以上となるような組成分布(CD)をもつ。CDBIはメジアン総コモノマーモル含有率(median total molar comonomer content)の50%範囲内のコモノマー含有率を有するエチレン共重合体の重量%であると定義される。例えば、あるエチレン共重合体群のメジアン総コモノマーモル含有率が4モル%であったとすると、かかる共重合体群のCDBIは2〜6モル%のコモノマーモル濃度を有するエチレン共重合体の重量%である。仮にこのエチレン共重合体群の55重量%が2〜6モル%の範囲にコモノマーモル含有率を有していれば、そのCDBIは55%である。コモノマーを含まない線状ポリエチレン単独重合体のCDBIは100%と定める。」(6頁右下欄13行〜7頁左上欄2行)
(1-7)
「組成分布の幅についての定量的尺度は組成分布幅指数(CDBI)によって与えられる。CDBIは、メジアンコモノマー組成(コモノマー組成の中央値)の50%範囲内の組成をもつようなポリマーの百分率であると定義される。CDBIは、図17に示す通り、組成分布曲線並びに組成分布曲線の正規化された累積値から計算される。」(7頁右下欄20〜25行)
(1-8)
「本発明のエチレン共重合体は、本技術分野で公知の方法でフィルムに成形される。例えば、上記重合体を溶融状態でフラットダイを通して押出して冷却すればよい。或いは別法として、重合体を溶融状態で環状ダイを通して押出して、空気を吹込み、冷却してチューブ状フィルムに成形してもよい。チューブ状フィルムは軸方向に切り開いて平らなフィルムとすることもできる。本発明のフィルム類は延伸しなくてもよいし、一軸延伸又は二軸延伸してもよい。
本発明のフィルム類は単層フィルムでも多層フィルムでもよい。多層フィルムは、エチレン共重合体並びにそれらのブレンドから製造された1又はそれ以上の層で構成されていてもよい。かかるフィルムは、例えばポリエチレンやポリエステルやEVOHなどの別の重合体、金属箔、紙などのような他の材料でできた1又はそれ以上の追加層を有していてもよい。」(12頁右下欄9〜24行)
(1-9)
「多層フィルムは、重合体をダイから吐出しながらその熱溶融重合体を基材に接触させるような押出被覆法によっても得ることができる。例えば、エチレン共重合体フィルムをダイから押出ながら、そのエチレン共重合体フィルムで、既に成形済みのポリプロピレンフィルムを押出被覆する。…
多層フィルムは、上述のようにして製造した単層フィルムを2又はそれ以上組合わせて製造することもできる。例えば、ポリプロピレン基材フィルムをエチレン共重合体ヒートシールフィルムと組み合わせて、ポリプロピレンの強度とエチレン共重合体フィルムのヒートシール性とを併せもつような二層フィルムを得ることもできる。こうして製造されるフィルムを構成する上記二つの層は、接着剤を使用するか或いは熱又は圧力を加えて接合すればよい。」(13頁左上欄4〜23行)
以上の摘示内容から、甲第1号証には、「ポリプロピレンフィルムに対し、50%以上の組成分布幅指数(CDBI)を有するエチレン-α-オレフィン共重合体(エチレンを過半量含有)からなる層を積層したヒートシール性を有する包装用多層フィルム」の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認める。
甲第2号証(特開昭60-6457号公報)
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(2-1)
「(1)密度0.900〜0.950g/cm3のエチレン系重合体からなる外層と該エチレン系重合体より高い融点を有するポリオレフイン系重合体からなる内層より形成されてなる筒状積層フイルム。

(3)エチレン系重合体がエチレンと炭素数3〜12のα-オレフインとの共重合体である特許請求の範囲第1項記載の筒状積層フイルム。
(4)ポリオレフイン系重合体がポリプロピレン系重合体である特許請求の範囲第1項記載の筒状積層フイルム。」(特許請求の範囲)
(2-2)
「エチレン系重合体としては、…。具体的には高圧法低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、中低圧法によるエチレンと炭素数3〜12のα-オレフインとの共重合体、すなわち直鎖状低密度ポリエチレン(例えばエチレン-ブテン-1共重合体、…)等が挙げられる。特にエチレンと炭素数3〜12のα-オレフインとの共重合体が好ましく、さらに該α-オレフインを1〜15wt%含有する共重合体が好適に用いられる。高圧法低密度ポリエチレンの融点は通常100〜120℃であり、…である。」(2頁右上欄6行〜左下欄1行)
(2-3)
「次に、本発明では内層として上記外層のエチレン系重合体よりも高い融点を有するポリオレフイン系重合体を用いる。ポリオレフイン系重合体としては…プロピレンとエチレンまたは炭素数4〜12のα-オレフインとの共重合体(α-オレフイン含有量15重量%以下のもの)…がある。融点の差は使用する樹脂の種類、内外層の層厚比、成形法などを考慮して適宜選定すればよいが、通常は5〜50℃、好ましくは10℃以上の差とする。」(2頁左下欄2〜14行)
(2-4)
「本発明の筒状積層フイルムは内・外層の素材として特定の条件を満足するものを用いているため、インフレーシヨン成形に際して急冷しても内層の凝固が外層よりも大巾に遅延することがないため、フイルムにカールが生じない。それ故、成形性に優れるとともに製袋、印刷などの二次加工の作業性にすぐれている。また、このフィルムは透明性が極めて良好であるほかブロツキングがないという特色を有している。さらに、物性のバランスが良好である上に、低密度ポリエチレンの特性であるしなやかさを保持している。
したがつて、本発明の筒状積層フイルムは衣料、食品、雑貨などの包装用資材として極めて有用である。」(3頁左上欄14行〜右上欄7行)
(2-5)
第1表の実施例4の項には、
外層:LLDPE-1 エチレン-オクテン-1共重合体
内層:PP-2 ランダムポリプロピレン、密度…,MI…,融点155℃からなる筒状積層フィルムが記載されている。(4頁)
甲第3号証:特願平4-195213号明細書
甲第4号証:特願平5-80584号明細書
甲第3号証及び4号証は本件特許出願の優先権の基礎となった出願の明細書であり、いずれも包装用ストレッチフィルムの発明が記載されているものの、組成分布変動係数(Cx)及びそれに関連する内容は記載されていない。

参考資料1:Society of Plastics Engineers Polyolefins VII International Conference 45〜66頁(1991.2.24-27)
参考資料1にはEXXPOLTM POLYMERにおける構造と物性の関係が記載されている。
参考資料2:特開平4-270745号公報
概略以下のことが記載されている。
エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂、プロピレン-エチレン-α-オレフィン樹脂、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体樹脂等から選ばれた樹脂を含む樹脂組成物は、適度の滑りと自己粘着性を有し、かつ充分な熱粘着性と透明性を有するとともに、伸展性と柔軟性に優れ、かつ引裂強度と変形回復性に優れたストレッチ包装フィルム用樹脂組成物となる。
参考資料3:CDBIからCxの換算方法
CDBIからCxの換算方法が記載されている。

[6]対比・判断
I.容易性の判断について
(1)本件特許の出願日について
本件は、平成4年7月22日及び平成5年4月7日にした特許出願を基礎とした、優先権を主張した特許出願であるが、優先権主張の基礎となった該特許出願の当初明細書(甲第3号証及び甲第4号証)には、組成分布変動係数(Cx)が0.40以下のエチレン-α-オレフィン共重合体を積層した包装用フィルムについて記載されていないので、本件は、優先権を認めることができない。
したがって、本件特許発明の新規性進歩性の判断にあたっては、本件は平成5年6月22日に出願された特許出願として取り扱う。

(2)本件発明1について
本件発明1と以下の甲第1号証発明を対比する。
甲第1号証発明:「ポリプロピレンフィルムに対し、50%以上の組成分布幅指数(CDBI)を有するエチレン-α-オレフィン共重合体(エチレンを過半量含有)からなる層を積層したヒートシール性を有する包装用多層フィルム」
本件発明1と甲第1号証発明とは、包装用多層フィルムにおいて、1層がエチレン-α-オレフィン共重合体である点で一致し、そのエチレン含有量も50モル%超の点で重複一致するものの、本件発明1ではエチレン-α-オレフィン共重合体について、組成分布変動係数(Cx)が0.18以上0.25以下と規定されているのに対し、甲第1号証発明では組成分布幅指数(CDBI)が50%以上と規定されている点(以下、「相違点1」という。)及びエチレン-α-オレフィン共重合体と組み合わせる他の層が本願発明では(B)〜(D)に規定される特定のプロピレン-α-オレフィン系共重合体、プロピレン-エチレン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体であるのに対し、甲第1号証発明ではポリプロピレン層である点で相違する(以下、「相違点2」という。)。
以下、相違点について検討する。
(相違点1について)
組成分布変動係数(Cx)及び組成分布幅指数(CDBI)は、いずれも
エチレン共重合体における共重合組成の均一性の尺度となるものである。
しかし、組成分布変動係数(Cx)は、-10〜105℃で溶出する成分の全てによって決定される数値であって、組成分布の全体の広さを表す数値であるのに対して、組成分布幅指数(CDBI)は、コモノマー組成の中央値の50%範囲内の組成をもつポリマーによって決定される数値であって、組成分布の中央部分の広さを表す数値である点で両者の技術的意味は相違する。
さらに、甲第1号証発明では、組成分布幅指数(CDBI)が50%よりも遙かに大きい95.5%の例が図15に示されているが(摘示(1-4))、その例であっても、本件発明に規定されている組成分布変動係数(Cx)の測定方法で測定した場合は0.263の値となり、本件発明1で規定される組成分布変動係数(Cx)の範囲よりも大きい、換言すれば、共重合組成の均一性の低い値となると認めることができる(審尋に対する平成16年12月21日付け回答書の6〜14頁参照)。
そして、本件発明1では組成分布変動係数(Cx)の値を小さくすることにより、フィルムの自己粘着性、ヒートシール性、柔軟性及び透明性に優れた包装用フィルムとすることができ、明細書に記載された効果を奏するものと認められる。
(相違点2について)
甲第2号証には、エチレンと炭素数3〜12のα-オレフィンとの共重合体外層とポリプロピレン系重合体内層からなる筒状積層フィルムが示唆されており(摘示(2-1))、該ポリプロピレン系重合体内層は外層のエチレン系重合体よりも高い融点を有し、プロピレンとエチレンまたは炭素数4〜12のα-オレフィンとの共重合体が使用できることが示されている(摘示(2-3))。
しかし、上記摘示事項及びそれ以外の摘示事項(2-2)、(2-4)及び(2-5)をみても、本件発明1における(C)のプロピレン-エチレン共重合体の規定であるエチレン含有量及び示差走査熱量計(DSC)による最低融解ピーク温度の値については記載されていないし、同様に(B)のプロピレン-α-オレフィン系共重合体の規定である炭素数4以上のα-オレフィン及びエチレンの含有量や冷キシレン可溶部の割合についても記載されていない。
また、甲第2号証の実施例4でも、内層として使用されているランダムポリプロピレンは共重合成分が不明であり、その共重合体の密度、MI値及び融点155℃の記載のみから共重合成分及びその割合、さらには示差走査熱量計(DSC)による最低融解ピーク温度の値や冷キシレン可溶部の割合を特定することはできない。
よって、甲第2号証には、本件発明1の他の層(C)のプロピレン-エチレン共重合体層又は(B)のプロピレン-α-オレフィン系共重合体が記載又は示唆されているとはいえない。
以上のとおり、甲第1号証には本件発明1の組成分布変動係数(Cx)を有するエチレン-α-オレフィン共重合体は記載も示唆もされていないし、甲第2号証には本件発明1の他の層に該当するプロピレン-エチレン共重合体は記載も示唆もされておらず、結局、本件発明1の各層とも甲第1又は第2号証には記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1は、甲第1及び第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
(2)本件発明2,4,6及び7について
本件発明2,4,6及び7の包装用フィルムの発明は、本件発明1を引用する下位概念の発明であり、本件発明1と同様の理由により、甲第1及び第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

II.明細書の記載要件について
本件発明1は、前記〔2〕で検討したとおり、エチレン-α-オレフィン共重合体(A)の組成分布変動係数(Cx)が実施例の値に近い「0.18以上0.25以下」の範囲に訂正された。
そして、本件明細書の段落【0013】には、上記エチレン-α-オレフィン共重合体(A)はバナジウム(V)化合物、有機アルミニウム(Al)化合物及びエステル化合物(M)から成る触媒系を用い、Al/V(モル比)が2.5以上、M/V(モル比)が1.5以上とし、エチレンとα-オレフィンとのモル比を35/65〜60/40として、重合温度40℃〜80℃で製造できることが記載されている。
さらに、実施例1に本件発明の組成分布変動係数(Cx)を有するエチレン-α-オレフィン共重合体(A)の製造方法が記載されており、その具体的な製造条件が【表1】に記載され、エチレンとα-オレフィンとのモル比についてはA-1は上記段落【0013】に記載された範囲と異なるものの、それ以外の条件は上記段落【0013】に記載された範囲内の値がエチレン-ブテン-1共重合体であるA-1,A-2について示されており、Al/V(モル比)、M/V(モル比)も広い範囲にわたっている。
したがって、本件明細書の記載は、上記記載から判断すれば、本件発明1の限られた組成分布変動係数(Cx)を有するエチレン-α-オレフィン共重合体(A)の製造について、当業者が実施例以外の範囲の該共重合体を容易に製造することができる程度に記載されていないということはできない。
次に、組成分布変動係数(Cx)の技術的意義について検討する。
明細書段落【0063】に比較例3として組成分布変動係数(Cx)が0.44であるエチレン-ブテン-1共重合体(D-1)を本件発明のエチレン-α-オレフィン共重合体(A)に替えて用いた例が示されている。
その例では、比較例3のフィルムが透明性等の性能において包装用フィルムとしての適正に劣るものであることが示されており、その例によっても本件発明1の組成分布変動係数(Cx)の技術的意義は示されているものといえる。
以上、本件請求項1に係る特許は、明細書及び図面の記載が不備とはいえないので、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるとすることができない。

[7]むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び取消しの理由によっては本件発明1,2,4,6及び7についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
包装用フィルム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】下記数1に示す組成分布変動係数(Cx)が0.18以上0.25以下であり、かつエチレン含有量が50モル%以上であるエチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層に対し、少なくとも1種の他の層を積層し、該他の層が下記共重合体(B)〜(D)から選ばれる少なくとも1種からなる層であることを特徴とする包装用フィルム。
【数1】Cx=σ/SCBave
σ:組成分布の標準偏差(1/1000C)
SCBave:1000C当たりの短鎖分岐の平均値(1/1000C)(B)下記(b1)〜(b3)の性状を有するプロピレン-α-オレフィン系共重合体
(b1)炭素数4以上のα-オレフィン含有量が8〜35モル%であること
(b2)エチレン含有量が5モル%以下であること
(b3)冷キシレン可溶部が10〜70重量%であること
(C)下記(c1)〜(c2)の性状を有するプロピレン-エチレン共重合体
(c1)エチレン含有量が3〜12モル%であること
(c2)示差走査熱量計(DSC)による最低融解ピーク温度が130℃以上であること
(D)下記(d1)〜(d4)の性状を有するエチレン-ブテン-1共重合体
(d1)エチレン含有量が50モル%以上であること
(d2)密度が0.870〜0.910g/cm3であること
(d3)示差走査熱量計(DSC)による昇温サーモグラムにおいて、100℃以上に融解ピークを有すること
(d4)冷キシレン可溶部が5〜50重量%であること
【請求項2】エチレン-α-オレフィン共重合体(A)が、下記(a1)〜(a3)の性状を有する共重合体である請求項1記載の包装用フィルム。
(a1)炭素数3〜10のα-オレフィン含有量が2〜20モル%、
(a2)密度が0.870〜0.915g/cm3、
(a3)示差走査熱量計(DSC)による最高融解ピーク温度が、60℃以上、100℃未満の範囲内であり、かつ、該融解ピークの融解熱量が全熱量に対して0.8以上。
【請求項3】他の層が、下記(b1)〜(b3)の性状を有するプロピレン-α-オレフィン系共重合体(B)からなる層である請求項1または2記載の包装用フィルム。
(b1)炭素数4以上のα-オレフィン含有量が8〜35モル%、
(b2)エチレン含有量が5モル%以下、
(b3)冷キシレン可溶部が10〜70重量%。
【請求項4】他の層が、下記(c1)〜(c2)の性状を有するプロピレン-エチレン共重合体(C)からなる層である請求項1または2記載の包装用フィルム。
(c1)エチレン含有量が3〜12モル%、
(c2)示差走査熱量計(DSC)による最低融解ピーク温度が130℃以上。
【請求項5】他の層が、下記(d1)〜(d4)の性状を有するエチレン-ブテン-1共重合体(D)からなる層である請求項1または2記載の包装用フィルム。
(d1)エチレン含有量が50モル%以上、
(d2)密度が0.870〜0.910g/cm3、
(d3)示差走査熱量計(DSC)による昇温サーモグラムにおいて、100℃以上に融解ピークを有し、
(d4)冷キシレン可溶部が5〜50重量%。
【請求項6】エチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層が表面層である請求項1〜5いずれかに記載の包装用フィルム。
【請求項7】包装用がストレッチ包装用であることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の包装用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、包装用フィルムに関する。さらに詳しくは、良好な安全衛生性、低臭気性、透明性、機械強度、柔軟性、低温シール性を有し、自動包装適性に優れる多層化された包装用フィルムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】フィルムによる包装方法にはそれぞれフィルムの特性を活かした各種の包装方法、例えば袋状にシールする方法をはじめ、オーバーラップ法、ストレッチラップ法、スキンパック法等数多くの方法があり、これらに用いられるフィルムとしては主にポリエチレンやポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の汎用樹脂を用いた単層フィルムが多用されている。しかしながら、包装用フィルムに対する要求レベルの高度化、多様化や社会ニーズの変化に伴い、これらのフィルムでは対応できないケースが増えてきている。
【0003】例えば、青果物や鮮魚、鮮肉、惣菜などの食品を直接にまたはプラスチックトレー上に載せて、これらをフィルムでストレッチ包装するフィルムとしては、従来は、主に塩化ビニル樹脂が用いられている。近年、安全衛生上の問題や地球環境に対する意識の高まり等により、従来のポリ塩化ビニルに代わって、安全衛生性や環境汚染問題のない低密度ポリエチレン樹脂やエチレン-酢酸ビニル共重合体などのエチレン系樹脂によるものの開発が活発に行われている。
【0004】しかし、低密度ポリエチレン樹脂などを単独で使用する場合には、目的とするフィルムの自己粘着性や低温シール性、柔軟性、機械強度などを同時に満足することはできなかった。また、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂フィルムでは、酢酸ビニル含有量、分子量などを適切に選択すれば、前述の低密度ポリエチレン樹脂フィルムにおけるような問題はある程度解決できるが、トレーの角が鋭利な場合や鋭利な部位を持つ食品を包装する場合には引き裂かれるように破れてしまうという問題があった。
【0005】このため、例えば、特開昭61-44635号公報に示されるように、特定の樹脂の両外層にエチレン-酢酸ビニル共重合体を配して、必要な性能を同時に満たすことを目的とした包装用ストレッチフィルムが提案されている。しかし、エチレン-酢酸ビニル共重合体は酢酸臭が発生したり、柔軟性とフィルムカット性のバランスがとれず自動包装ラインでの操作性が低下するという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、食品等の包装用フィルムにおいて、自動包装適性としてのフィルムの滑り性、自己粘着性、ヒートシール性、柔軟性にすぐれかつ低臭気性や透明性、機械強度に極めて優れた包装用フィルムを提供することである。さらには、特にストレッチ包装用に好適である包装用フィルムを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題に鑑み、従来の性能と共に低臭気性を有しさらに良好な透明性や機械強度、低温ヒートシール性を有する包装用フィルムについて鋭意検討を続けてきた。その結果、特定のエチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層を有する積層フィルムが包装用フィルムとして優れた性能を有することを見いだし本発明を完成するに至った。
【0008】すなわち、本発明は、下記数2に示す組成分布変動係数(Cx)が0.18以上0.25以下であり、かつエチレン含有量が50モル%以上であるエチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層に対し、少なくとも1種の他の層を積層し、該他の層が下記共重合体(B)〜(D)から選ばれる少なくとも1種からなる層であることを特徴とする包装用フィルムに関するものである。
【0009】
【数2】Cx=σ/SCBave
σ:組成分布の標準偏差(1/1000C)
SCBave:1000C当たりの短鎖分岐の平均値(1/1000C)(B)下記(b1)〜(b3)の性状を有するプロピレン-α-オレフィン系共重合体
(b1)炭素数4以上のα-オレフィン含有量が8〜35モル%であること
(b2)エチレン含有量が5モル%以下であること
(b3)冷キシレン可溶部が10〜70重量%であること
(C)下記(c1)〜(c2)の性状を有するプロピレン-エチレン共重合体
(c1)エチレン含有量が3〜12モル%であること
(c2)示差走査熱量計(DSC)による最低融解ピーク温度が130℃以上であること
(D)下記(d1)〜(d4)の性状を有するエチレン-ブテン-1共重合体
(d1)エチレン含有量が50モル%以上であること
(d2)密度が0.870〜0.910g/cm3であること
(d3)示差走査熱量計(DSC)による昇温サーモグラムにおいて、100℃以上に融解ピークを有すること
(d4)冷キシレン可溶部が5〜50重量%であること
【0010】本発明で使用するエチレン-α-オレフィン共重合体(A)の組成分布変動係数(Cx)は0.18以上0.25以下である。該共重合体(A)のエチレン含有量は、50モル%以上であり、70モル%以上がより好適である。本発明の包装用フィルムはストレッチ包装用として、特に好適である。
【0011】また、本発明で使用するエチレン-α-オレフィン共重合体(A)としては、下記(a1)〜(a3)の性状を有する共重合体が好適である。
(a1)炭素数3〜10のα-オレフィン含有量が2〜20モル%、(a2)密度が0.870〜0.915g/cm3、(a3)示差走査熱量計(DSC)による最高融解ピーク温度が、60℃以上、100℃未満の範囲内であり、かつ、該融解ピークの融解熱量が全熱量に対して0.8以上。
【0012】(a1)炭素数3〜10のα-オレフィン含有量は2〜20モル%が好適であり、得られるフィルムの透明性と剛性のバランスから4〜10モル%がさらに好適である。該α-オレフィンとしては、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチル-ペンテン-1、オクテン-1等の単独あるいは併用系が挙げられる。これらのα-オレフィンのうち、プロピレンは本発明の改良効果が比較的少なく、炭素数4以上のα-オレフィンが好ましく、特に、ブテン-1、ヘキセン-1、4-メチル-ペンテン-1、オクテン-1等がモノマーの入手が容易であり、得られる共重合体の品質の点からも好ましい。
(a2)密度は、0.870〜0.915g/cm3が好適であり、さらには0.890〜0.910g/cm3が得られるフィルムの表面状態およびヒートシール性の発現温度の点から好適である。
(a3)示差走査熱量計(DSC)による最高融解ピーク温度が、60℃以上、100℃未満の範囲内であり、かつ、該融解ピークの融解熱量が全熱量に対して0.8以上が得られたフィルムの透明性や耐衝撃強度の点から好適である。なお、融解ピークは上記温度範囲内に複数観測されてもよい。
【0013】本発明において、低臭気性、柔軟性、透明性や機械強度とのバランスを向上させることを目的として用いられるエチレン-α-オレフィン共重合体(A)は、例えば、特開平2-77410号公報に記載された方法によって得ることができる。すなわち、炭化水素溶媒中、(i)遷移金属成分として、一般式VO(OR)nX3-n(ただし、Rは炭化水素基、Xはハロゲン、0<n<3)で示されるバナジウム化合物および(ii)有機金属成分として、一般式R’mAlX3-m(ただしR’は炭化水素基、Xはハロゲン、1<m<3)で示される有機アルミニウム化合物および(iii)第三成分として、一般式R”(C=O)OR’’’(ただし、R’’は炭素数1〜20で、部分的あるいはすべてハロゲン置換された有機基、R’’’は炭素数1〜20の炭化水素基)で示されるエステル化合物(Mと略す)とから形成される触媒系を用いて、エチレンと炭素数3〜10のα-オレフィンを共重合するに際し、Al/V(モル比)が2.5以上、M/V(モル比)が1.5以上となる触媒条件下、エチレンとα-オレフィンとのモル比を35/65〜60/40として、重合温度40℃〜80℃において、炭化水素溶媒不溶ポリマー(スラリー部)および炭化水素溶媒可溶ポリマー(溶液部)共存状態で共重合して得られる。また、特開昭60-226514号公報に記載された、三塩化バナジウムとアルコールとを反応して得られるバナジウム化合物を前記(i)遷移金属成分として用いて同様に重合することによって得ることができる。
【0014】
【0015】本発明において、エチレン-α-オレフィン共重合体(A)に対し積層する少なくとも1種の他の層としては、以下に例示する共重合体(B)〜(D)からなる層であることが好適である。
【0016】下記(b1)〜(b3)の性状を有するプロピレン-α-オレフィン系共重合体(B)。
(b1)炭素数4以上のα-オレフィン含有量が8〜35モル%、(b2)エチレン含有量が5モル%以下、(b3)冷キシレン可溶部が10〜70重量%。
【0017】プロピレン-α-オレフィン系共重合体(B)の(b1)炭素数4以上のα-オレフィン含有量は、得られるフィルムの柔軟性と表面状態のバランスから8〜35モル%が好適であり、10〜25モル%がより好適である。炭素数4以上のα-オレフィンとしては、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチル-ペンテン-1、オクテン-1等の単独あるいは併用系が挙げられる。例えば気相重合を実施した場合、液化しにくいことから分圧を高くとれるブテン-1が好ましい。
【0018】プロピレン-α-オレフィン系共重合体(B)の(b2)エチレン含有量は得られるフィルムの透明性の経時変化の点から、5モル%以下が好適であり、3モル%以下がより好適である。
【0019】プロピレン-α-オレフィン系共重合体(B)の(b3)冷キシレン可溶部(以下CXSともいう)は得られるフィルムの柔軟性と表面状態のバランスから10〜70重量%が好適であり、12〜65重量%がより好適である。
【0020】このプロピレン-α-オレフィン系共重合体(B)は、触媒系としてα-オレフィンの立体規則性重合用触媒である、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒、即ち、周期律表第IV〜VIII族遷移金属化合物と周期律表第I〜II族典型金属の有機化合物と、好ましくは電子供与性化合物の第3成分とからなるものを使用し、重合法としては溶剤中で重合する溶剤重合法あるいは気相中で重合する気相重合法などいずれの方法によって製造することができる。例えば、特開昭63-19255号公報(実施例1)、特開昭60-76515号公報等に記載された製造方法で得ることができる。
【0021】プロピレン-α-オレフィン系共重合体(B)に対し、本発明の効果をさまたげない範囲で、エチレン含有量が3モル%〜10モル%のエチレン-プロピレン共重合体やポリエチレン系樹脂とをブレンドして使用することができる。ここでいうポリエチレン系樹脂とは、公知のもので、高圧法で得られるポリエチレン、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体等である。
【0022】下記(c1)〜(c2)の性状を有するプロピレン-エチレン共重合体(C)。(c1)エチレン含有量が3〜12モル%、(c2)示差走査熱量計(DSC)による最低融解ピーク温度が130℃以上。上記プロピレン-エチレン共重合体(C)の(c1)エチレン含有量は、フィルムの柔軟性やベタツキ防止等の点から3〜12モル%が好適であり、4〜7モル%がより好適である。
【0023】下記(d1)〜(d4)の性状を有するエチレン-ブテン-1共重合体(D)。(d1)エチレン含有量が50モル%以上、(d2)密度が0.870〜0.910g/cm3、(d3)示差走査熱量計(DSC)による昇温サーモグラムにおいて、100℃以上に融解ピークを有し、(d4)冷キシレン可溶部が5〜50重量%。
【0024】上記エチレン-ブテン-1共重合体(D)の(d1)エチレン含有量は50モル%以上が好適であり、70モル%以上がより好適である。(d2)密度は、フィルムの物性バランスの点から0.870〜0.910g/cm3が好適であり、0.890〜0.910g/cm3がより好適である。また、ヒートシール時の穴あき防止の点から、(d3)示差走査熱量計(DSC)による昇温サーモグラムにおいて、100℃以上に融解ピークを有することが望ましく、該融解ピークは、上記温度範囲内に複数観測されてもよい。また、上記温度範囲外に別の融解ピークが観測されてもよい。(d4)冷キシレン可溶部(CXS)は、フィルムの柔軟性および加工性の点から、5〜50重量%が好適であり、20〜45重量%がより好適である。なお、該共重合体(D)のCXSは重量平均分子鎖長100〜900nmの分子量を有する成分が多い。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】本発明による包装用フィルムは、2種以上の層からなる積層フィルムにおいて、エチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層を有することによって得られ、フィルムの総厚みとしては6〜40μmが好ましく、また、エチレン-α-オレフィン共重合体(A)からなる層が1μm以上であることが好ましい。
【0029】本発明においてはさらに、これら共重合体(A)あるいは共重合体(B)〜(D)等に対して、伸張性、自己粘着性等を調整する目的で必要に応じて例えば、炭素数1〜12の脂肪酸アルコールと炭素数10〜22の脂肪酸との化合物である脂肪酸エステルなどを配合することができる。
【0030】本発明におけるフィルムの製造は例えばインフレーション法、Tダイ法などの通常の方法でフィルム製膜した後熱貼合する方法や、例えば2種2層あるいは2種3層の共押出タイプのインフレーションフィルム成形機やTダイフィルム成形機で製膜することが可能である。また、製膜したいずれかのフィルムに押出ラミネート等の公知の方法で積層して成形することも可能である。
【0031】本発明において包装用フィルムに収縮性が必要である場合は、製膜後に少なくとも一軸方向に延伸することが好ましい。延伸は一軸でも二軸でも可能である。一軸延伸の場合は例えば通常用いられるロール延伸法が好ましい。また、二軸延伸の場合は例えば一軸に延伸した後に二軸延伸を行なう逐次延伸方式でもよく、チューブラー延伸のような同時に二軸に延伸する方法でも可能である。
【0032】
【実施例】次に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの例に何ら制約されるものではない。はじめに以下の実施例および比較例における物性値の測定方法を説明する。
【0033】(1)共重合体(A)中のブテン-1含有量
物質収支から求めた。なお、更に赤外分光光度計を用いて770cm-1の特性吸収から定量し、物質収支の結果を確認した。
【0034】(2)共重合体(B)〜(D)中のエチレン含有量
物質収支から求めた。共重合体(C)については、更に赤外分光光度計を用いて、732cm-1、720cm-1の特性吸収から定量し物質収支の結果を確認した。なお、赤外分光光度計による測定は14Cでラベルしたエチレン共重合体の放射線測定による定量値により検量線を作成し定量した。
【0035】(3)冷キシレン可溶部(CXS)
ポリマー5gを、沸騰キシレン500mlに溶解し、室温まで徐冷する。ついで、20℃のバス中に4時間放置した後にろ過し、ろ液を濃縮、乾固、乾燥して秤量した。
【0036】(4)メルトフローレート(MFR)
エチレン-α-オレフィン共重合体(A)およびエチレン-ブテン-1共重合体(D)はJIS K6760に規定された方法に準拠し、測定した。プロピレン-α-オレフィン系共重合体(B)およびプロピレン-エチレン共重合体(C)はJIS K6758に規定された方法に準拠し、測定した。
【0037】(5)密度
JIS K6760に規定された方法に従った。100℃の沸騰水中で1時間アニールを行った後測定した。
【0038】(6)示差走査熱量計(DSC)
(6-1)エチレン-α-オレフィン共重合体(A)およびエチレン-ブテン-1共重合体(D)の場合
パーキンエルマー社製DSC-7を用いた。熱プレスにより作成した厚さ約0.5mmのシートから切り出した約10mgの試片をDSC測定用サンプルパンに入れ、150℃で5分間予備加熱し、10℃/分で40℃まで降温し、5分間保持したあと10℃/分の速度で150℃まで昇温し、サーモグラムを得た。
【0039】(6-2)プロピレン-α-オレフィン系共重合体(B)およびプロピレン-エチレン共重合体(C)の場合
パーキンエルマー社製DSC-7を用いた。熱プレスにより作成した厚さ約0.5mmのシートから切り出した約10mgの試片をDSC測定用サンプルパンに入れ、200℃で5分間予備加熱し、10℃/分で40℃まで降温し、5分間保持したあと20℃/分の速度で180℃まで昇温し、サーモグラムを得た。
【0040】(7)ヘイズ(曇り度)〔HZ、%〕
ASTM D1003に規定された方法に従った。この値が小さいほど透明性が良いことを示す。
【0041】(8)引張破断強さおよび伸び〔US、kg/cm2:UE、%〕
JIS K6781に規定された方法に従った。MD/TDを測定した。
【0042】(9)ヤング率〔YM、kg/cm2〕
ASTM D882に規定された方法に従った。この値が小さいほど柔軟性に富むことを示す。MD/TDを測定した。
但し、 試験片形状:20mm×120mmの短冊型
チャック間距離:50mm
引張速度:5mm/分
【0043】(10)自己粘着力〔TAC、kg/12cm2〕
フィルムを30mm×40mmの面積で重ね合わせその部分に重さ500gの荷重を30分間かけた後、ショッパー型引張試験機で引張速度200mm/分でのせん断剥離強度を測定する。
【0044】(11)ヒートシール強度〔HSS、kg/15mm〕
2枚のフィルムを重ね合わせ、テスター産業(株)製ヒートシーラーを用いて、100℃にて、シール面圧力1.0kg/cm2、シール時間1.0秒の条件でシール幅10mmのヒートシールを行った。こらからシール面に直角方向に幅15mmの試片を切り出し、ショッパー型引張試験機を用いて、200mm/分の速度で180°剥離強度を測定した。
【0045】(12)組成分布変動係数(Cx)
〔装置構成〕


【0046】〔実験条件〕
溶媒:オルトジクロルベンゼン(ODCB)
カラム:21mmφ×150mm(L)
充填剤:ガラスビーズ 500〜700μm
試料濃度:1%
試料溶液注入量:6ml
送液流量:2.5ml/min.
溶出温度ステップ:Temp.=-10〜105℃(38ステップ)
溶出温度(Ti):-10、0、5、10、14、18、21、24、27、30、33、36、39、42、45、48、51、54、57、60、63、66、69、72、75、78、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98、101、105(℃)
カラムオーブン以降の流路は145℃に加熱する。また、溶媒をカラムに流す前にカラムオーブン内に20ml程度の流路を設け溶媒を予熱する。
FT/IR条件:分解能:8cm-1、
フローセル:KBr窓材、セル長=0.5mm、加熱溶液フローセル
【0047】〔測定方法〕
(i)試料調製:所定濃度溶液を作成し、145℃、4Hrにて試料を溶解する。
(ii)温度上昇分別手順
1 注入バルブ、送液ポンプにより145℃に加熱した試料溶液を145℃に加熱したカラムオーブン中のカラム中央に位置付ける。
2 試料溶液をカラム中央にとどめた状態にて、以下の条件でカラムオーブン温度を下げる。
Temp.=145〜90℃ 冷却温度:0.92℃/min.
Temp.=90〜-10℃ 冷却温度:0.25℃/min.
3 -10℃にて2Hr保持する。
4 送液ポンプによりカラムをバイバスする流路により溶媒をFT/IRフローセルに流し、FT/IRバックグラウンドを測定する(積算回数=50)。バックグラウンド測定後、ポンプは停止する。
5 溶媒がカラムに流れるようにした後、送液ポンプにより溶媒をカラムに流すと同時にFT/IRの測定を開始する。
溶媒送液時間:25min.
FT/IR積算時間:25min.(積算回数:625回)
6 FT/IRで測定したスペクトルはフロッピーディスクに保存する。
7 溶媒送液後、次の溶出温度にカラムオーブン温度を昇温し、15min間待機する。
8 温度ステップの数だけ4〜7を繰り返す。
9 最後にカラムオーブン温度を145℃に昇温し、送液ポンプにて溶媒を25min.間流す。
【0048】〔データ処理〕
1 測定したFT/IRスペクトルを用い、以下の波数のピーク面積(=S1)を求める。赤外波数:2983〜2816cm-1
2 数3により不均等な溶出温度間隔の補正を行う。
3 数4により組成分布(SCBi)を算出する。
4 SCBi-RHiをプロットすることにより組成分布曲線(図2参照。)が得られる。
5 組成分布より平均組成(SCBave)および分布の広さを表す組成分布変動係数(Cx)を数5により求める。
【0049】
【数3】
Hi=(ΣSi-ΣS(i-1))/(Ti-T(i-1))
RHi=Hi/ΣHi×100(%)
RHi:相対濃度
【0050】
【数4】
SCBi=59.70-0.599×Ti(1/1000C)
Ti:溶出温度
SCBi(Short Chain Branching):1000C当たりの短鎖分岐の数
【0051】
【数5】
SCBave=(SCBi×RHi)/ΣRHi(1/1000C)
Cx=σ/SCBave
σ:組成分布(SCBi)の標準偏差
【0052】実施例1
(1)エチレン-ブテン-1共重合体(A)の製造
内容積200リットルの攪拌機付槽型反応機下部に、n-ヘキサンに所定のエチレンとブテン-1を溶解させた溶液を、n-ヘキサン80kg/時間、エチレン及びブテン-1をそれぞれ一定量/時間で連続的に供給した。別の供給ラインから三塩化バナジル、エチルアルミニウムセスキクロリド、パークロルクロトン酸n-ブチルをそれぞれ一定量/時間で連続的に供給した。反応器内温度は、反応器外側に取り付けられたジャケットに冷却水を循環することにより40℃または50℃に制御した。反応器内が常に満液状態になるように反応器上部から重合液を連続的に抜き出し、少量のメタノールを添加して重合反応を停止させ、脱モノマーおよび水洗浄後、溶媒をスチームストリッピングして、固形重合体を取り出し、これを80℃で減圧乾燥してエチレン-ブテン-1共重合体(A-1)および(A-2)を得た。それぞれの共重合体の重合条件、共重合体の生成速度並びに得られた共重合体の密度、MFR、DSCおよび組成分布変動係数Cxの測定結果を表1に示す。
【0053】また、共重合体(A-1)の溶出温度(Ti)に対する累積分率(ΣSi)を図1に示す。また、図1から、数3、数4により算出した、SCBi(1000C当たりの短鎖分岐の数)とRHi(相対濃度)との関係を図2に示す。本発明における組成分布変動係数Cxは図2のカーブの広がりを表わすものである。
【0054】(2)フィルムの製造
上記(1)で得られたエチレン-ブテン-1共重合体(A-1)98.0重量%およびモノグリセリンオレート2.0重量%よりなる樹脂組成物を口径50mm、スクリュL/D=28の押出機を用いて170℃で混練した。特開昭60-76515号公報に記載の方法によって得られたプロピレン-ブテン-1共重合体(B-1)〔(b1)ブテン-1含有量17.3モル%、(b3)冷キシレン可溶部29.6重量%〕100重量%よりなる樹脂組成物を、口径50mm、スクリュL/D=28の押出機を用いて200℃で混練した。この両者をダイ径150mmダイリップ1.2mmの3種3層インフレダイを備えたプラコー(株)製インフレフィルム成形機に供給してプロピレン-ブテン-1共重合体(B-1)よりなる厚み5μの層の両面にエチレン-ブテン-1共重合体(A-1)を主成分とする各厚み5μの層が積層されるようにして、ダイス温度200℃、ブロー比3.0でインフレーション成形することにより、全厚み15μの包装用フィルムを製造した。得られたフィルムの諸特性値を表2に示した。このフィルムの臭気は実用上問題の無い十分低いレベルであった。
【0055】実施例2
実施例1において、プロピレン-ブテン-1共重合体(B-1)に代えて、同様に特開昭60-76515号公報に記載された方法によって得られたプロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体(B-2)〔(b1)ブテン-1含有量12.5モル%、(b2)エチレン含有量1.4モル%、(b3)冷キシレン可溶部32.7重量%〕を用いた他は実施例1と同様にして、全厚み15μの包装用フィルムを製造した。得られたフィルムの諸特性値を表2に示した。このフィルムの臭気は実用上問題の無い十分低いレベルであった。
【0056】実施例3
実施例1において、エチレン-ブテン-1共重合体(A-1)に代えて(A-2)を用いた他は実施例1と同様にした、全厚み15μの包装用フィルムを製造した。得られたフィルムの諸特性値を表2に示した。このフィルムの臭気は実用上問題の無い十分低いレベルであった。
【0057】実施例4
実施例1においてプロピレン-ブテン-1共重合体(B-1)に代えて、プロピレン-エチレン共重合体(C)〔230℃でのMFRが3.0g/10分、(c1)エチレン含有量が7.0モル%、(c2)DSCによる最低融解ピーク温度が137℃。〕を用いた他は実施例1と同様にして、全厚み15μの包装用フィルムを製造した。得られたフィルムの諸特性値を表2に示した。このフィルムの臭気は実用上問題の無い十分低いレベルであった。
【0058】実施例5
実施例4において、エチレン-ブテン-1共重合体(A-1)に代えて共重合体(A-2)を用いた他は実施例1と同様にして、全厚み15μの包装用フィルムを製造した。得られたフィルムの諸特性値を表2に示した。このフィルムの臭気は実用上問題の無い十分低いレベルであった。
【0059】実施例6
実施例1において、プロピレン-ブテン-1共重合体(B-1)に代えて、エチレン-ブテン-1共重合体(D-1)〔住友化学社製 エクセレン(登録商標)VL200、190℃でのMFRが2g/10分、(d1)エチレン含有量が93.2モル%、(d2)密度が0.900g/cm3、(d3)DSCによる融解ピークの温度が115℃、(d4)冷キシレン可溶部が22重量%。〕を用いた他は実施例1と同様にして、全厚み15μの包装用フィルムを製造した。得られたフィルムの諸特性値を表2に示した。このフィルムの臭気は実用上問題の無い十分低いレベルであった。
【0060】実施例7
実施例1において、プロピレン-ブテン-1共重合体(B-1)に代えて、エチレン-ブテン-1共重合体(D-2)〔住友化学社製 エクセレン(登録商標)EUL130、190℃でのMFRが0.8g/10分、(d1)エチレン含有量が90.8モル%、(d2)密度が0.890g/cm3、(d3)DSCによる融解ピークの温度が114℃、(d4)冷キシレン可溶部が43重量%。〕を用いた他は実施例1と同様にして、全厚み15μの包装用フィルムを製造した。得られたフィルムの諸特性値を表2に示した。このフィルムの臭気は実用上問題の無い十分低いレベルであった。
【0061】比較例1
実施例1において、エチレン-ブテン-1共重合体(A-1)に代えて、住友化学社製 エバテート(登録商標)H2011〔エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、酢酸ビニル含有量15重量%、190℃におけるMFRが2.0g/10分。〕を用いた他は実施例1と同様にして、全厚み15μの包装用フィルムを製造した。得られたフィルムの諸特性値を表3に示した。このフィルムは酢酸臭を伴う上、透明性に劣るため、実用に供しがたいフィルムであった。
【0062】比較例2
実施例4において、エチレン-ブテン-1共重合体(A-1)に代えて、プロピレン-エチレン共重合体(C)を用いた他は実施例4と同様にして実施した。すなわち、同種の共重合体(C)樹脂層からなる全厚み15μの包装用フィルムを製造した。得られたフィルムの諸特性値を表3に示した。このフィルムの臭気は実用上問題の無い十分低いレベルであったが、透明性が不良であり、柔軟性、自己粘着性、ヒートシール性に乏しく、実用に供しがたいフイルムであった。
【0063】比較例3
実施例6において、エチレン-ブテン-1共重合体(A-1)に代えて、組成分布変動係数(Cx)が0.44であるエチレン-ブテン-1共重合体(D-1)を用いた他は実施例1と同様にして実施した。すなわち、同種の共重合体(D-1)樹脂層からなる全厚み15μの包装用フィルムを製造した。得られたフィルムの諸特性値を表3に示した。このフィルムの臭気は実用上問題の無い十分低いレベルであったが、透明性が不良であり、柔軟性、自己粘着性、ヒートシール性に乏しく、実用に供しがたいフィルムであった。なお、この例はエチレン-ブテン-1共重合体(D-1)の組成分布変動係数(Cx)が本願発明の範囲外のものである。
【0064】比較例4
実施例6で用いたエチレン-ブテン-1共重合体(D-1)98.0重量%およびモノグリセリンオレート2.0重量%よりなる樹脂組成物を口径50mm、スクリュL/D=28の押出機を用いて170℃で混練した。この混練物と実施例4で用いたプロピレン-エチレン共重合体(C)とを、ダイ径150mm、ダイリップ1.2mmの3種3層インフレダイを備えたプラコー(株)製インフレフィルム成形機に供給してプロピレン-エチレン共重合体(C)よりなる厚み5μの層の両面にエチレン-ブテン-1共重合体(D-1)を主成分とする各厚み5μの層が積層されるようにして、ダイス温度200℃、ブロー比3.0でインフレーション成形することにより、全厚み15μの包装用フィルムを製造した。得られたフィルムの諸特性値を表3に示した。このフィルムの臭気は実用上問題の無い十分低いレベルであったが、透明性が不良であり、柔軟性、自己粘着性、ヒートシール性に乏しく、実用に供しがたいフィルムであった。なお、この例もエチレン-ブテン-1共重合体(D-1)の組成分布変動係数(Cx)が本願発明の範囲外のものである。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、自動包装適性としてのフィルムの滑り性、自己粘着性、ヒートシール性、柔軟性にすぐれかつ低臭気性や透明性、機械強度に極めて優れた包装用フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で用いたエチレン-ブテン-1共重合体(A-1)の溶出温度-累積分率測定図である。
【図2】図1より算出したSCBi-RHi関係図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-07-25 
出願番号 特願平5-150368
審決分類 P 1 652・ 531- YA (B32B)
P 1 652・ 121- YA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 野村 康秀
滝口 尚良
登録日 2002-07-12 
登録番号 特許第3326873号(P3326873)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 包装用フィルム  
代理人 久保山 隆  
代理人 久保山 隆  

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