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審決分類 |
審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 B29C 審判 全部申し立て 2項進歩性 B29C 審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更 B29C 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) B29C 審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) B29C |
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管理番号 | 1125800 |
異議申立番号 | 異議2003-73755 |
総通号数 | 72 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1999-05-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-30 |
確定日 | 2005-08-29 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3448475号「インサート金型及びインサート成形方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3448475号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第3448475号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成9年11月14日に出願され、平成15年7月4日に特許権の設定登録がされ、その後、特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年7月14日付けで特許異議意見書が提出されるとともに、訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 特許権者の求めている訂正の内容は、以下の(ア)〜(ケ)のとおりである。 (ア)訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1及び2並びに特許明細書の段落【0006】、【0009】、【0024】及び【0025】における「磁性体の中心軸線に沿った平面」を、「磁性体の中心軸線を含む平面」と訂正する。 (イ)訂正事項b 特許請求の範囲の請求項1における「直交する方向に前記磁化容易軸を有し」を、「直交する方向に磁化容易軸を有し」と訂正する。 (ウ)訂正事項c 特許請求の範囲の請求項1における「前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出させる場合、」を、「前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出させるインサート成形方法であって、」と訂正する。 (エ)訂正事項d 特許請求の範囲の請求項1における「前記第2の金型部の前記第2のキャビティ部内に、前記キャビティ内で成形される前記作動部を通る平面に対して直交する方向に磁界を発生させ、」を、「前記第2の金型部の前記第2のキャビティ部内に、前記磁性体を収容するに際し、前記キャビティ内の作動部成形部を通り、前記中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁界を発生させておくことで、」と訂正する。 (オ)訂正事項e 特許請求の範囲の請求項2における「前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出させる場合、」を、「前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出させるために使用するインサート金型であって、」と訂正する。 (カ)訂正事項f 特許明細書の段落【0006】及び【0025】における「作動部を、平面の延在方向において磁性体の周面から突出させる場合、」を、「作動部を、平面の延在方向において磁性体の周面から突出させるインサート成形方法であって、」と訂正する。 (キ)訂正事項g 特許明細書の段落【0006】及び【0025】における「第2の金型部の第2のキャビティ部内に、キャビティ内で成形される作動部を通る平面に対して直交する方向に磁界を発生させ、」を、「第2の金型部の第2のキャビティ部内に、磁性体を収容するに際し、キャビティ内の作動部成形部を通り、中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁界を発生させておくことで、」と訂正する。 (ク)訂正事項h 特許明細書の段落【0009】及び【0024】における「作動部を、平面の延在方向において磁性体の周面から突出させる場合、」を、「作動部を、平面の延在方向において磁性体の周面から突出させるために使用するインサート金型であって、」と訂正する。 (ケ)訂正事項i 特許明細書の段落【0015】における「この中心軸線Lに沿った平面(図2においてIII-III線に沿ってできた平面)P」を、「この中心軸線Lを含む平面(図2においてIII-III線に沿ってできた平面)P」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 (2-1)訂正事項a及びiについて 訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1及び2並びに特許明細書の段落【0006】、【0009】、【0024】及び【0025】における「磁性体の中心軸線に沿った平面」を、「磁性体の中心軸線を含む平面」と訂正することで、当該平面の意味するところを明確にするものである。 すなわち、当該平面は、訂正前の特許明細書の段落【0015】に、「磁性体1が、異方性であることに起因し、この中心軸線Lに沿った平面(図2においてIII-III線に沿ってできた平面)Pに対して直交する方向に磁化容易軸Gを有している(図4参照)。」と記載され、また、図2及び4には、この平面Pが磁性体の中心軸線を含むものとして記載されていることから、上記「磁性体の中心軸線に沿った平面」との記載は、「磁性体の中心軸線を含む平面」を意味することが当業者にとって明らかであったものであるといえる。 したがって、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 また、同様の訂正内容を訂正事項とする訂正事項iについても、同様である。 (2-2)訂正事項bについて この訂正は、訂正前の「直交する方向に前記磁化容易軸を有し」との記載の前には、「磁化容易軸」の記載がないにもかかわらず、「前記磁化容易軸」と記載されていることから、この「前記」との文言を削除するものであって、誤記の訂正を目的とするものである。 そして、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2-3)訂正事項cについて 訂正前の「前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出させる場合、」との記載は、あたかも「前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出」させない場合をも想定しているような記載であり、このため、請求項1に係るインサート成形方法は如何なるものであるのか、不明りょうであった。 しかしながら、特許明細書の記載全体からみて、訂正前の請求項1に係る発明も、訂正事項cによる訂正後の記載のとおり、インサート成形方法を「前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出させる」態様に特定することを意味していることは、当業者にとって明らかであったといえるから、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とし、また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2-4)訂正事項dについて この訂正は、訂正前の「前記第2の金型部の前記第2のキャビティ部内に、前記キャビティ内で成形される前記作動部を通る平面に対して直交する方向に磁界を発生させ、」との記載では、「前記作動部を通る平面」が一義的に特定されないために、その平面に直交する方向に発生される磁界の向きが特定されず、結果として、請求項1に係る発明が不明りょうであったのを、特許明細書の段落【0021】〜【0023】の記載に基づいて、磁界の向きが文言上も特定されるように平面を特定するとともに、「磁界を発生させ」との記載を「磁界を発生させておくことで」と訂正することで、磁界の作用により磁性体の位置決めを行うということをより明らかにするようにするものである。 したがって、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とし、また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものでり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2-5)訂正事項eについて この訂正は、上記(2-3)で述べたと同様の理由により、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2-6)訂正事項f、g及びhについて 訂正事項f、g及びhは、それぞれ、訂正事項c、d及びeと同趣旨の訂正であるから、これらの訂正が、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは、上記(2-3)〜(2-5)で述べたとおりである。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件発明 特許第3448475号の請求項1〜3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」及び「本件発明3」という。)は、平成17年7月14日付けの訂正請求書に添付された訂正明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりものである。 【請求項1】 第1の金型部に設けられた第1のキャビティ部と第2の金型部に設けられた第2のキャビティ部との協働により形成されたキャビティ内に磁性体を配置して、この磁性体に作動部を成形させるインサート成形方法において、 前記磁性体は、円柱状をなすと共に前記磁性体の中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁化容易軸を有し、 前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出させるインサート成形方法であって、 前記第2の金型部の前記第2のキャビティ部内に、前記磁性体を収容するに際し、前記キャビティ内の作動部成形部を通り、前記中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁界を発生させておくことで、この磁界と前記磁性体の磁化容易軸とを一致させることにより、前記第2のキャビティ部内で前記磁性体を位置決めさせるようにしたことを特徴とするインサート成形方法。 【請求項2】 第1の金型部に設けられた第1のキャビティ部と第2の金型部に設けられた第2のキャビティ部との協働により形成されたキャビティ内に磁性体を配置して、この磁性体に作動部を成形させるインサート金型において、 前記磁性体は、円柱状をなすと共に前記磁性体の中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁化容易軸を有し、 前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出させるために使用するインサート金型であって、 前記第2のキャビティ部には、円柱状の前記磁性体を収容させる磁性体収容部と、前記磁性体収容部から連通して前記作動部を成形する作動部成形部と、前記磁性体収容部内で磁界を発生させるように前記磁性体収容部に臨む位置で前記磁性体の径方向に対向して配置させた一対の永久磁石である磁力線発生源とが設けられたことを特徴とするインサート金型。 【請求項3】 前記磁性体は、前記磁化容易軸の方向に着磁されるモータ用回転子の本体であり、前記作動部は、前記磁性体の周面から径方向に突出した樹脂製の作動アームであることを特徴とする請求項2記載のインサート金型。 4-1.特許異議申立て理由の概要 特許異議申立人 田村忠一は、証拠として甲第1号証及び甲第2号証を提出して、訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜3に係る発明は、その出願前日本国内おいて頒布された甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。 甲第1号証:特開平4-250013号公報 甲第2号証:特開平6-120031号公報 4-2.取消理由の概要 平成17年6月20日付けで通知した取消理由の内容は、以下のとおりである。 「本件特許は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備な、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 記 1.請求項1には、「前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出させる場合」との記載があるが、「作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出」させない場合には、どのようなインサート成形方法となるのかが理解できず、結果として、同請求項に係る発明は明確でない。 同様の記載のある請求項2及び同請求項を引用する請求項3についても、同様の記載不備がある。 2.請求項1には、「前記第2の金型部の前記第2のキャビティ部内に、前記キャビティ内で成形される前記作動部を通る平面に対して直交する方向に磁界を発生させ」との記載があるが、「前記作動部を通る平面」が一義的に特定されないため、結果として、その平面に直交する方向に発生させられる磁界の向きが特定されず、同請求項に係る発明は明確でない。」 5.甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項 (1)甲第1号証には以下の事項が記載されている。 ア:「【従来の技術】機能部材と円筒形状の磁石とを一体的に設けたロータ部品等を製造するために従来より種々の方法が採用されているが、その代表令は等方性磁石を予め製造しておき、インサート形成により樹脂製の機能部材を一体形成する方法が知られている。 さらに詳しくは、円筒形状の等方性焼結磁石を射出形成金型中にセツトした後に、機械特性に優れた合成樹脂のポリアセタール樹脂等をキヤビテイ内に射出して機能部材を一体形成する。その後、次工程で等方性焼結磁石の外周面を多極着磁して完成品を得るようにしている。しかしながら、このようにインサート形成により製造すると、樹脂製の機能部材と次工程で多極着磁した分極位置関係の相対位置精度の確保が困難となることから、機能部材と着磁分極の位相位置を一致させるために着磁したヨークを金型に配設しなければならないが、これは金型構造の制約から実現困難である。 さらに、インサート成形により製造すると射出形成後に焼結磁石の割れ発生が問題となる。この割れ発生の防止のためには、溶融樹脂の射出圧を下げたり、射出成形金型自体に特別な工夫が必要となるが、このようにすると、樹脂形成される機能部材の寸法が安定しないことから寸法上のバラツキ発生を回避できない。そこで、異方性樹脂磁石により機能部材と円筒形状の磁石とを一体的に製造することにより、等方性焼結磁石を用いて製造するよりも磁気特性に優れたロータ部品等を製造することが提案される。 この異方性樹脂磁石は、磁場射出成形金型に加熱溶融状態の強磁性粉体と合成樹脂の混合物を、磁場が印加されているキヤビテイ中に注入し、挟持性粉体の磁化容易軸を一定方向に配向させ、次工程で着磁し磁石化するものである。図5は異方性樹脂磁石と樹脂製機能部材の一体物製品の外観斜視図である。本図において、ロータ部品1は円筒形状の本体部が異方性極部2,3が中心軸部4を中心に半分に分極着磁されている。この異方性極部2の側面からはアーム支持部6aが一体形成されるとともに、アーム部6が形成されている。・・・ このようにロータ部品1を一体形成する場合において、アーム部6と中心軸部4を結ぶ線と異方性極部2の着磁方向とが正確に直交するように形成しなければならない場合がある。」(段落【0002】〜【0006】抜粋) (2)甲第2号証には以下の事項が記載されている。 イ:「【産業上の利用分野】本発明は、極異方性を有する円柱状あるいは円筒状の永久磁石などを極合わせして着磁する装置に関するものである。・・・ 【従来の技術】・・・着磁の際に着磁部の磁極発生位置に被着磁磁石の磁極位置(隣り合う配向境界の中間位置)を正確に合わせておく必要がある。 この位置合わせ(極合わせ)の手段としては、着磁すべき極異方性永久磁石に磁極の位置を示すマーキングを施したり、位置合わせ用の凹凸等を設けることなどが考えられる。しかし、これらは工程数が増え、着磁に手間がかかるなど、実用的でない。そこで位置決め磁石を備えた着磁装置が用いられている。・・・極異方性の被着磁磁石が位置決め磁石を通過する際、被着磁磁石に位置決め磁石による磁束が流れ、磁化され易い方向を向くようにトルクが発生して被着磁磁石の磁極位置が位置決め磁石の磁極に一致するまで回転する。そのまま着磁ヨークに挿入すると被着磁磁石の磁極位置と着磁ヨークの磁極は一致するから、その状態で着磁を行う。」(段落【0001】〜【0003】抜粋) 6.対比・判断 6-1.本件発明1について 6-1-1.甲第1号証に記載された発明 上記摘示アによれば、甲第1号証には、1)円筒形状の等方性焼結磁石を射出成形金型中にセツトした後に、樹脂をキヤビテイ内に射出して、機能部材と円筒形状の磁石とを一体的に設けたロータ部品を製造するインサート成形方法の問題点を解決するために、等方性焼結磁石をインサート物として用いる成形法に代えて、射出成形金型に加熱溶融状態の強磁性粉体と合成樹脂の混合物を磁場が印加されているキヤビテイ中に注入することで、強磁性粉体の磁化容易軸を一定方向に配向させるとともに、円筒形状の異方性磁石本体部とその側面に一体形成されたアーム部からなるロータ部品を製造すること、2)前記アーム部と円筒形状の異方性磁石の中心軸部を結ぶ線と異方性磁石の着磁方向とが正確に直交するように形成しなければならない場合があることが記載されているから、以下の発明が記載されているといえる。 「射出成形金型に加熱溶融状態の強磁性粉体と合成樹脂の混合物を磁場が印加されているキヤビテイ中に注入し、強磁性粉体の磁化容易軸を一定方向に配向させるとともに、円筒形状の異方性磁石本体部とその側面に設けられるアーム部とを一体的に形成し、最終的に前記アーム部と前記磁石の中心軸部を結ぶ線と、前記磁石の着磁方向とが直交するように形成したロータ部品を製造する方法。」(以下、「甲1発明A」という。) 6-1-2.本件発明1と甲1発明Aとの対比 本件発明1(前者)と甲1発明A(後者)とを対比すると、 本件特許の第1図及び甲第1号証の第5図からみて、後者における「アーム部」は、前者における「作動部」に相当し、 後者において「前記アーム部と前記磁石の中心軸部を結ぶ線と、前記磁石の着磁方向とが直交する」ということは、異方性磁石は磁化容易軸の方向に沿って着磁されることは技術常識であること及び前記アーム部は円筒形状の磁石の側面に形成されることを併せ考えると、後者における「異方性樹脂磁石本体部」も、前者における「磁性体」と同様、異方性樹脂磁石の「中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁化容易軸を有」すること及び後者における「アーム部」も、前者における「作動部」と同様、「前記平面の延在方向において」異方性磁石の「周面から突出」するように形成されることを示唆するものであり、 両者は、「磁性体に作動部を成形する方法において、前記磁性体は、円柱状をなすと共に前記磁性体の中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁化容易軸を有し、前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出させる成形方法」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。 前者においては、予め製造された磁性体をインサート物としてキャビティ内に配置して、この磁性体に作動部を成形させるインサート成形方法であるのに対し、後者においては、加熱溶融状態の強磁性粉体と合成樹脂の混合物をキヤビテイ中に注入して、円筒形状の異方性磁石本体部とその側面に設けられるアーム部とを一体的に形成する方法である点(以下、「相違点1」という。) 前者においては、キャビティは「第1の金型部に設けられた第1のキャビティ部と第2の金型部に設けられた第2のキャビティ部との協働により形成され」るのに対し、後者においてはこの点が明らかでない点(以下、「相違点2」という。) 後者においても、ロータ部品は「前記アーム部と前記磁石の中心軸部を結ぶ線と、前記磁石の着磁方向とが直交するように形成される」ものの、そのために、前者におけるように、「前記第2の金型部の前記第2のキャビティ部内に、前記磁性体を収容するに際し、前記キャビティ内の作動部成形部を通り、前記中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁界を発生させておくことで、この磁界と前記磁性体の磁化容易軸とを一致させることにより、前記第2のキャビティ部内で前記磁性体を位置決め」することは明らかではない点(以下、「相違点3」という。) 6-1-3.相違点についての検討 (1)相違点1について 甲第2号証には、被着磁磁石の磁極位置を正確に合わせる手段として位置決め磁石を用い、被着磁磁石に位置決め磁石の磁束を流すことで、磁化され易い方向を向くようにトルクを発生させて被着磁磁石の磁極位置が位置決め磁石の磁極に一致するまで回転させることが記載される(上記摘示イ参照)が、上記相違点1に係る「予め製造された磁性体をインサート物としてキャビティ内に配置して、この磁性体に作動部を成形させるインサート成形方法」については、開示も示唆もない。 (2)まとめ したがって、上記相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 6-2.本件発明2について 6-2-1.甲第1号証に記載された発明 上記摘示アによれば、甲第1号証には以下の発明が記載されているといえる。 「加熱溶融状態の強磁性粉体と合成樹脂の混合物を磁場が印加されているキヤビテイ中に注入して、強磁性粉体の磁化容易軸を一定方向に配向させるとともに円筒形状の異方性磁石本体部とその側面に設けられるアーム部とを一体的に形成し、最終的に前記アーム部と前記磁石の中心軸部を結ぶ線と、前記磁石の着磁方向とが直交するように形成したロータ部品を製造するための金型。」(以下、「甲1発明B」という。) 6-2-2.本件発明2と甲1発明Bとの対比 本件発明2(前者)と甲1発明B(後者)とを対比すると、上記6-1-2で述べたように、 後者における「アーム部」は、前者における「作動部」に相当し、 後者において「前記アーム部と前記磁石の中心軸部を結ぶ線と、前記磁石の着磁方向とが直交する」ということは、後者における「異方性樹脂磁石本体部」も、前者における「磁性体」と同様、異方性樹脂磁石の「中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁化容易軸を有」すること及び後者における「アーム部」も、前者における「作動部」と同様、「前記平面の延在方向において」異方性磁石の「周面から突出」するように形成されることを示唆するものであり、 両者は、「磁性体に作動部を成形する金型であって、前記磁性体は、円柱状をなすと共に前記磁性体の中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁化容易軸を有し、前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出させるように成形するための金型」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。 前者においては、予め製造された磁性体をインサート物としてキャビティ内に配置して、この磁性体に作動部を成形させるのに対し、後者においては、加熱溶融状態の強磁性粉体と合成樹脂の混合物をキヤビテイ中に注入して、円筒形状の異方性磁石本体部とその側面に設けられるアーム部とを一体的に形成する点(以下、「相違点4」という。) 前者においては、キャビティは「第1の金型部に設けられた第1のキャビティ部と第2の金型部に設けられた第2のキャビティ部との協働により形成され」るのに対し、甲第1号証にはかかる記載がなく、後者においてはこの点が明らかでない点(以下、「相違点5」という。) 後者においても、ロータ部品は「前記アーム部と前記磁石の中心軸部を結ぶ線と、前記磁石の着磁方向とが直交するように形成される」ものの、そのために、前者におけるように、「キャビティ部には、前記磁性体収容部内で磁界を発生させるように前記磁性体収容部に臨む位置で前記磁性体の径方向に対向して配置させた一対の永久磁石である磁力線発生源が設けられ」ることは明らかではない点(以下、「相違点6」という。) 6-2-3.相違点についての検討 (1)相違点4について 上記相違点4については、上記相違点1と同様のものであるから、上記6-1-3で述べたとおり、甲第2号証には開示も示唆もない技術的事項である。 (2)まとめ したがって、上記相違点5及び6について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 6-3.本件発明3について 本件発明3は、本件発明2において、「前記磁性体は、前記磁化容易軸の方向に着磁されるモータ用回転子の本体であり、前記作動部は、前記磁性体の周面から径方向に突出した樹脂製の作動アームであること」を限定するものであるところ、上記6-2で述べたとおり、本件発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明3も、これと同様、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 6-4.当審で通知した取消理由について 平成17年6月20日付けで通知していた取消理由は、上記訂正が認められたことにより、解消した。 7.むすび 以上のとおりであるから、請求項1〜3に係る発明の特許は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 インサート金型及びインサート成形方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】第1の金型部に設けられた第1のキャビティ部と第2の金型部に設けられた第2のキャビティ部との協働により形成されたキャビティ内に磁性体を配置して、この磁性体に作動部を成形させるインサート成形方法において、 前記磁性体は、円柱状をなすと共に前記磁性体の中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁化容易軸を有し、 前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出させるインサート成形方法であって、 前記第2の金型部の前記第2のキャビティ部内に、前記磁性体を収容するに際し、前記キャビティ内の作動部成形部を通り、前記中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁界を発生させておくことで、この磁界と前記磁性体の磁化容易軸とを一致させることにより、前記第2のキャビティ部内で前記磁性体を位置決めさせるようにしたことを特徴とするインサート成形方法。 【請求項2】第1の金型部に設けられた第1のキャビティ部と第2の金型部に設けられた第2のキャビティ部との協働により形成されたキャビティ内に磁性体を配置して、この磁性体に作動部を成形させるインサート金型において、 前記磁性体は、円柱状をなすと共に前記磁性体の中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁化容易軸を有し、 前記作動部を、前記平面の延在方向において前記磁性体の周面から突出させるために使用するインサート金型であって、 前記第2のキャビティ部には、円柱状の前記磁性体を収容させる磁性体収容部と、前記磁性体収容部から連通して前記作動部を成形する作動部成形部と、前記磁性体収容部内で磁界を発生させるように前記磁性体収容部に臨む位置で前記磁性体の径方向に対向して配置させた一対の永久磁石である磁力線発生源とが設けられたことを特徴とするインサート金型。 【請求項3】前記磁性体は、前記磁化容易軸の方向に着磁されるモータ用回転子の本体であり、前記作動部は、前記磁性体の周面から径方向に突出した樹脂製の作動アームであることを特徴とする請求項2記載のインサート金型。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、インサート金型及びインサート成形方法に係り、特に、カメラ等の精密小型製品に内蔵させるモータ用の回転子を製造するためのインサート金型及びインサート成形方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 従来、カメラのシャッタ等の開閉に利用されるモータとして、図12に示すような揺動型の回転子100がある。この回転子100は、磁性材料からなる磁性体101と、磁性体101に一体成形した樹脂部分102とからなる。この樹脂部分102は、円筒状の磁性体101の中央の上下端から突出するシャフト部103A,103Bと、磁性体101の周面から突出して、シャッタ(図示せず)の開閉レバーを駆動させる作動アーム104とからなり、シャフト部103A,103Bと作動アーム104とは一体化が図られている。また、このような回転子100を製造するためのインサート成形金型105は、図13に示すように、上下動する上型部106及び固定された下型部107からなり、内部に円筒状の磁性体101(図14参照)を収容するキャビティ108を有している。そこで、型開きの状態で、キャビティ108内にインサート部品としての磁性体101を装填した後、上型部106と下型部107とを型締めし、ランナー109を介してキャビティ108内に溶融樹脂を供給する。その結果、磁性体101と溶融樹脂とが一体となり、図12に示すような成型品としての回転子100が金型105内で作り出される。 【0003】 また、磁性体101に対するその後の着磁工程を考慮して、作動アーム104は、磁性体101のもつ磁化容易軸(図15参照)に対して所定の角度をもって、金型105内で成形されることを要す。そこで、磁性体101の磁化容易軸と作動アーム104とを金型105内で位置合わせするにあたって、磁性体101の周面には、位置決め用のアール溝101aが、磁化容易軸に対して垂直な位置で軸線方向に沿って予め形成されている。これに対して、キャビティ108内には、アール溝101aと合致させるための位置決めピン110が設けられている。従って、図16に示すように、キャビティ108内に磁性体101を装填した場合、位置決めピン110と磁性体101のアール溝101aとの嵌合により、磁性体101は、キャビティ108内で所定の位置に配置されることになり、その結果、作動アーム104を、磁性体101の所定位置に一体的に作り出している。なお、このような回転子100をカメラのシャッタに適用した例として、特開平7-248524号公報,特開平8-122850号公報等がある。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、従来のインサート金型は、上述したように構成されているため、次のような課題が存在していた。すなわち、磁性体101にアール溝101aを形成させる場合、アール溝101aは、磁性体101の周面のどの位置でもよい訳ではなく、磁性体101のもつ磁化容易軸を考慮して形成させる必要があり、その結果、磁性体101のアール溝101aの加工にあたって、高い精度が要求され、結果的にコストアップを招来していた。更に、磁性体101をキャビティ108内で位置決めするにあたって、キャビティ108内における位置決めピン110の位置精度も高い次元で要求される。しかも、アール溝101aと位置決めピン110との間にできる僅かな隙間も、磁性体101の位置決めに際して悪影響を与えていた。 【0005】 本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、特に、磁性体のもつ磁化容易軸と作動部との位置関係を高精度で実現化し、作業性アップと低コスト化をも可能にするインサート金型及びインサート成形方法を提供することを目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】 請求項1に係る本発明のインサート成形方法は、第1の金型部に設けられた第1のキャビティ部と第2の金型部に設けられた第2のキャビティ部との協働により形成されたキャビティ内に磁性体を配置して、この磁性体に作動部を成形させるインサート成形方法において、磁性体は、円柱状をなすと共に磁性体の中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁化容易軸を有し、作動部を、平面の延在方向において磁性体の周面から突出させるインサート成形方法であって、第2の金型部の第2のキャビティ部内に、磁性体を収容するに際し、キャビティ内の作動部成形部を通り、中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁界を発生させておくことで、この磁界と磁性体の磁化容易軸とを一致させることにより、第2のキャビティ部内で磁性体を位置決めさせるようにしたことを特徴とする。 【0007】 このインサート成形方法においては、第1の金型部と第2の金型部とを型開き状態にして、第2の金型部の第2のキャビティ部内に、磁性体をインサート部品として装填させると、第2のキャビティ部内で発生する磁界の影響により、磁性体の磁化容易軸と磁界の方向とが一致するように、磁性体が第2キャビティ部内で動く。これは、磁性体の磁化容易軸の方向が透磁率ピークとなることに起因している。すなわち、磁界の影響下で、磁性体は、磁化容易軸との関係で物理的安定が得られるまで動くことになり、第2のキャビティ部内で常に一定の磁界を与え続ける限り、磁性体は、第2のキャビティ部内で常に一定のポジションを保つことになる。このような物理的現象を応用することで、金型内において、磁性体のもつ磁化容易軸に対し、常に一定の位置関係をもつ作動部を簡単に作り出すことができる。そして、このような方法は、インサート成形完了後において、作動部と所定の位置関係を有する磁化容易軸に沿って、磁性体を着磁させることが望まれる技術に最適である。 【0008】 さらに、磁性体が円柱状をなすことで、磁界の影響下において、磁性体は、その中心軸線を回転中心として、それ自体で物理的安定が得られるまで周方向に回転することになる。従って、磁性体をキャビティ内に無造作に装填させた場合でも、磁性体の位置決めは、磁界の作用により簡単に達成される。この場合、作動部は、磁化容易軸に対して直交する方向の平面上に成形されることになり、このようにしてできた部品は、モータ内に組込まれる回転子として有用である。 【0009】 請求項2に係る本発明のインサート金型は、第1の金型部に設けられた第1のキャビティ部と第2の金型部に設けられた第2のキャビティ部との協働により形成されたキャビティ内に磁性体を配置して、この磁性体に作動部を成形させるインサート金型において、磁性体は、円柱状をなすと共に磁性体の中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁化容易軸を有し、作動部を、平面の延在方向において磁性体の周面から突出させるために使用するインサート金型であって、第2のキャビティ部には、円柱状の磁性体を収容させる磁性体収容部と、磁性体収容部から連通して作動部を成形する作動部成形部と、磁性体収容部内で磁界を発生させるように磁性体収容部に臨む位置で磁性体の径方向に対向して配置させた一対の永久磁石である磁力線発生源とが設けられたことを特徴とする。 【0010】 このインサート金型においては、第1の金型部と第2の金型部とを型開き状態にして、第2の金型部の第2のキャビティ部に設けられた磁性体収容部内に、磁性体をインサート部品として装填させると、磁力線発生源により発生する磁界の影響により、円柱状の磁性体の磁化容易軸と磁界の方向とが一致するように、磁性体が、磁性体収容部内で磁性体の周方向に回転する。これは、磁性体の磁化容易軸の方向が透磁率ピークとなることに起因している。すなわち、磁界の影響下で、磁性体は、磁化容易軸との関係で物理的安定が得られるまで周方向に動くことになり、磁力線発生源により、磁性体収容部内で常に一定の磁界を与え続ける限り、磁性体は、磁性体収容部内で常に一定のポジションを保つことになる。このような物理的現象を応用することで、金型内において、磁性体のもつ磁化容易軸に対し、常に一定の位置関係をもつ作動部成形部により、作動部を簡単に作り出すことができる。そして、このような金型は、インサート成形完了後において、作動部と所定の位置関係を有する磁化容易軸に沿って、磁性体を着磁させることが望まれる技術に最適である。 【0011】 さらに、一方の永久磁石のN極と他方の永久磁石のS極とで、磁性体を径方向に挟むようにすると、磁性体の物理的安定が得られるまで、磁性体は、磁性体収容部内でその周方向に動き、最終的に、永久磁石の磁界の影響下で磁性体は静止する。このように、一対の永久磁石を利用すると、簡単な構成をもって磁力線発生源とすることができる。 【0012】 請求項3記載のインサート金型において、磁性体は、磁化容易軸の方向に着磁されるモータ用回転子の本体であり、作動部は、磁性体の周面から径方向に突出した樹脂製の作動アームであると好ましい。このような構成を採用した場合、カメラ等の精密小型製品に内蔵させるモータ用の回転子として、その利用を図ることができる。例えば、このような構成の回転子は、シャッタの駆動用モータへの適用が可能である。 【0013】 【発明の実施の形態】 以下、図面と共に本発明によるインサート金型及びインサート成形方法の好適な実施形態について詳細に説明する。 【0014】 図1は、本発明に係るインサート金型を利用して成形させた回転子を示す斜視図であり、図2は、回転子の平面図であり、図3は、回転子の縦断面図である。これら図面に示す回転子Sは、異方性の磁性材料(例えばネオジウム)からなって回転子Sの本体を構成する円筒状の磁性体1と、円筒状の磁性体1に一体成形した樹脂部分2とからなる。更に、磁性体1は、近年小部品化が進み、直径4mm高さ5mm程度の極めて小さな部品として、マグネットになる前の未着磁状態にある。また、この樹脂部分2は、円筒状の磁性体1の上下端から突出する回転軸としてのシャフト部3,4と、磁性体1の周面から突出して、図示しないシャッタの開閉レバーを駆動させる作動アーム(作動部)5とからなり、シャフト部3,4と作動アーム5とは一体化が図られている。 【0015】 図1〜図3に示すように、このような回転子Sにおいて、磁性体1と樹脂部分2とは所定の関係を満たしている。すなわち、磁性体1が、異方性であることに起因し、この中心軸線Lを含む平面(図2においてIII-III線に沿ってできた平面)Pに対して直交する方向に磁化容易軸Gを有している(図4参照)。これに対して、作動レバー5は、図2に示すように、平面Pの延在方向において磁性体1の周面から径方向に突出している。 【0016】 また、作動レバー5は、磁性体1の周面から磁化容易軸Gに対して直交する方向に突出させることが必要である。これは、作動レバー5の先端に、シャッタ開閉レバーに係止させるためのフィンガ部5aを形成させるためである。このフィンガ部5aは、磁性体1の中心軸線L方向に突出し、シャフト部3,4に回転軸線から所定距離だけ離されている。そして、インサート成形後、磁性体1は、作動レバー5と所定の位置関係を有する磁化容易軸Gに沿って着磁され、マグネットとなって、モータ内に組み込まれる。 【0017】 次に、前述した回転子Sをインサート成形するためのインサート金型12について説明する。 【0018】 図5に示すように、インサート金型12は、可動側金型部をなす上金型部(第1の金型部)13と、固定側金型部をなす下金型部(第2の金型部)14とを備え、これらは、図示しない射出成型機内に組み込まれている。上金型部13は、上下方向に可動すると共に、キャビティAの上側を構成する上側キャビティ部(第1のキャビティ部)15を有している。そして、下金型部14は、所定の据付け台上に固定される基台部16と、この基台部16の上面で左右に分割開閉するスライド駒17とからなる(図6参照)。また、下金型部14は、キャビティAの下側を構成する下側キャビティ部(第2のキャビティ部)18を有し、この下側キャビティ部18は、円柱状の磁性体1を収容するための磁性体収容部19と、この磁性体収容部19から連通して作動レバー5を成形するための形状をもった作動部成形部20とからなる。 【0019】 図7及び図8に示すように、円柱状の磁性体収容部19に臨む位置において、下金型部14の基台部16内には、磁性体収容部19内で水平方向に磁界を発生させるための磁力線発生源21が設けられている。また基台部16は、この磁力発生源21の内包を考慮して、非磁性材であるステンレス系の鋼材等からなり、下金型部14自体が磁気を帯びないようにしている。具体的に、この磁力線発生源21は、インサート部品としての磁性体1の径方向に対向して配設した一対の棒状の永久磁石21A,21Bからなり、一方の永久磁石21Aは、その先端のN極側を磁性体収容部19に向け、他方の永久磁石21Bは、その先端のS極側を磁性体収容部19に向け、永久磁石21Aと21Bとで、磁性体1を径方向で挟むようにしている。 【0020】 また、各永久磁石21A,21Bの先端面は、磁性体収容部19内に突出することはなく、磁性体収容部19の壁面の直ぐ近くに位置することで、磁性体収容部19内で安定した磁界を作り出している。永久磁石21A,21Bの先端面は、磁性体1と触ないような位置に配置される。各永久磁石21A,21Bの磁性体収容部19側の先端部に、磁性体1と触れる可能性を考慮して、透磁率の良い補強部21Aa,21Baを設け、摩耗を回避させている。この補強部21Aa,21Baは、稼働間隔が大きく空いた場合に磁性体1を挿入しない成形作業を行うときに形状を整えるためにも有効である。 【0021】 そこで、図9に示すように、上金型部13と下金型部14とを型開き状態にし、下金型部14の下側キャビティ部18に設けられた磁性体収容部19内に、磁性体1をインサート部品として装填させる。この場合、磁性体1は、その磁化容易軸Gを全く考慮することなく、磁性体収容部19内に単に装填されるたけであるから、図10に示すように、磁性体1の磁化容易軸Gと、永久磁石21A,21Bにより形成される磁界との向きが必ずしも一致するとは限らない。しかしながら、磁力線発生源21により一定方向に発生する磁界の影響により、円筒状の磁性体1の磁化容易軸Gと磁界の方向とが一致するように、磁性体1が、磁性体収容部19内で、中心軸線Lを回転中心として周方向に回転する。そして、最終的に、図11に示すように、磁化容易軸Gと磁界とが一致する時に、磁性体1は、磁性体収容部19内で安定し、静止する。 【0022】 これは、磁性体1の磁化容易軸Gの方向が透磁率ピークとなることに起因している。すなわち、磁界の影響下で、磁性体1は、磁化容易軸Gとの関係で物理的安定が得られるまで周方向に動くことになり、磁力線発生源21により、磁性体収容部19内で常に一定方向の磁界を与え続けられる限り、磁性体1は、磁性体収容部19内で常に一定のポジションを保つことになる。このように、磁性体収容部19内に常に一定方向の磁界を発生させると、磁性体収容部19内に磁性体1を単に装填させるだけで、磁性体収容部19内での磁性体1の位置決めが簡単に達成される。その結果、インサート部品の装填作業が極めて単純化され、作業に効率化が図られる。そして、このような位置決め方法は、磁性体1が、直径4mm高さ5mm程度の極めて小さな部品をインサート部品として採用する場合に特に有益である。 【0023】 このような物理的現象に着目して、前述した作動部成形部20は、図7に示すように、磁性体1のもつ磁化容易軸Gに対し、常に一定の位置関係をもって金型12内に設けられている。すなわち、作動部成形部20は、磁性体1の磁化容易軸Gに対して直交する平面P内に形成されて、磁性体1の周面から径方向に突出する作動レバー5を作り出すための形状を有していることは言うまでもない。なお、符号20aは、フィンガ部5aを成形するためのフィンガ成形部である。 【0024】 【発明の効果】 本発明によるインサート金型は、以上のように構成されているため、次のような効果を得る。すなわち、第1の金型部に設けられた第1のキャビティ部と第2の金型部に設けられた第2のキャビティ部との協働により形成されたキャビティ内に磁性体を配置して、この磁性体に作動部を成形させるインサート金型において、磁性体は、円柱状をなすと共に磁性体の中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁化容易軸を有し、作動部を、平面の延在方向において磁性体の周面から突出させるために使用するインサート金型であって、第2のキャビティ部には、円柱状の磁性体を収容させる磁性体収容部と、磁性体収容部から連通して作動部を成形する作動部成形部と、磁性体収容部内で磁界を発生させるように磁性体収容部に臨む位置で磁性体の径方向に対向して配置させた一対の永久磁石である磁力線発生源とが設けられたことにより、磁性体のもつ磁化容易軸と作動部との位置関係を高精度で実現化し、作業性アップと低コスト化をも可能にする。 【0025】 同様に、本発明によるインサート成形方法は、第1の金型部に設けられた第1のキャビティ部と第2の金型部に設けられた第2のキャビティ部との協働により形成されたキャビティ内に磁性体を配置して、この磁性体に作動部を成形させるインサート成形方法において、磁性体は、円柱状をなすと共に磁性体の中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁化容易軸を有し、作動部を、平面の延在方向において磁性体の周面から突出させるインサート成形方法であって、第2の金型部の第2のキャビティ部内に、磁性体を収容するに際し、キャビティ内の作動部成形部を通り、中心軸線を含む平面に対して直交する方向に磁界を発生させておくことで、この磁界と磁性体の磁化容易軸とを一致させることにより、第2のキャビティ部内で磁性体を位置決めさせるようにしたことで、磁性体のもつ磁化容易軸と作動部との位置関係を高精度で実現化し、作業性アップと低コスト化をも可能にする。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明に係るインサート金型及びインサート成形方法で成形した回転子を示す斜視図である。 【図2】 図1に示した回転子の平面図である。 【図3】 図1に示した回転子のIII-III線に沿う縦断面図である。 【図4】 回転子に適用した円柱状の磁性体の磁化容易軸の方向を示す平面図である。 【図5】 本発明に係るインサート金型内のキャビティを示す断面図である。 【図6】 インサート金型のうち下側の金型部を示す斜視図である。 【図7】 下側の金型部内に磁力発生源を配置した状態を示す断面図である。 【図8】 金型内におけるインサート成形品の成形状態を示す斜視図である。 【図9】 下側の金型部のキャビティ内に磁性体を配置させた状態を示す断面図である。 【図10】 金型内における磁界方向と磁化容易軸の方向とがズレている状態を示す平面図である。 【図11】 金型内における磁界方向と磁化容易軸の方向とが一致している状態を示す平面図である。 【図12】 従来の回転子を示す斜視図である。 【図13】 従来のインサート金型を示す断面図である。 【図14】 従来の磁性体を示す斜視図である。 【図15】 従来の磁性体を示す平面図である。 【図16】 従来のインサート金型内に磁性体を配置した状態を示す断面図である。 【符号の説明】 A…キャビティ、G…磁化容易軸、L…中心軸線、S…回転子、1…磁性体、5…作動アーム(作動部)、12…インサート金型、13…上金型部(第1の金型部)、14…下金型部(第2の金型部)、15…上側キャビティ部(第1のキャビティ部)、18…下側キャビティ部(第2のキャビティ部)、19…磁性体収容部、20…作動部成形部、21…磁力線発生源、21A,21B…永久磁石。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-08-10 |
出願番号 | 特願平9-313865 |
審決分類 |
P
1
651・
855-
YA
(B29C)
P 1 651・ 832- YA (B29C) P 1 651・ 121- YA (B29C) P 1 651・ 841- YA (B29C) P 1 651・ 854- YA (B29C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 大島 祥吾 |
特許庁審判長 |
鈴木 由紀夫 |
特許庁審判官 |
滝口 尚良 野村 康秀 |
登録日 | 2003-07-04 |
登録番号 | 特許第3448475号(P3448475) |
権利者 | 日本電産コパル株式会社 |
発明の名称 | インサート金型及びインサート成形方法 |
代理人 | 塩田 辰也 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 塩田 辰也 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 寺崎 史朗 |
代理人 | 寺崎 史朗 |