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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B41J
管理番号 1125865
異議申立番号 異議2003-73249  
総通号数 72 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-11-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-25 
確定日 2005-09-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第3440625号「画像処理装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3440625号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯・本件発明の認定
本件は、特許権者により平成7年4月21日に出願され、平成15年6月20日に特許第3440625号として設定登録(請求項1〜3)された後、同年12月25日に鈴木正和より請求項1に係る特許に対して特許異議申立がされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成17年1月26日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は同年4月5日付けで意見書を提出した。
本件の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項1】に記載されたとおりの次のものと認める。
「データを受信することが可能な受信可能状態かデータを受信することが不可能な受信不可能状態かを判断し、1連のデータを分割した各々の分割データを順次受信し、受信した1連のデータに基づいて画像処理を行う画像処理装置であって、前記分割データの受信を検知する検知手段と、前記分割データの受信が検知されたときからの経過時間を前記受信不可能状態と判断されている時間を除いて計時すると共に該計時を開始した後前記分割データの受信が検知された場合には該計時した経過時間をリセットする計時手段と、前記計時手段により計時された経過時間が所定時間を越えた場合に前記1連のデータの受信が終了したと判断する判断手段と、を備えた画像処理装置。」

第2 特許異議申立についての判断
1.引用刊行物記載の発明
取消理由に引用した特開平2-16625号公報(特許異議申立書添付の甲第2号証であり、本件明細書の段落【0002】に従来技術を示すものとして紹介された文献でもある。以下「引用例1」という。)には、「共通バスに接続されるn(nは2以上の整数)個の入力ポートと、それぞれデータ・ストローブ信号およびデータをこの順に送出するn個の上位装置に接続され前記入力ポートとのインターフエースとして動作する入力部と、前記共通バスに接続され前記データおよびパラメータ情報を格納するRAMと、前記共通バスに接続され印字機構を制御するプリンタ制御ポートと、前記共通バスに接続され前記入力ポートで検出されるデータ・ストローブ信号の間隔を監視するタイマと、前記データ・ストローブ信号を認識すると該当する上位装置に占有させ、前記タイマに次のデータ・ストローブ信号タイムアウト監視のための時間をセットするとともに、この上位装置からのデータを前記RAMへ格納し、その上位装置へデータ・アクノリッジ信号を返し、データ入力が終了したときの前記タイマのタイムアウトによりデータ入力の終了を確認して占有から開放し、前記RAMに格納されたデータを前記プリンタ制御ポートに送り前記印字機構にプリント動作を行わせる手段とを具備することを特徴とするシリアルプリンタ。」(1頁左下欄5行〜右下欄7行の特許請求の範囲欄)との発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

2.本件発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
引用発明1のタイマは「データ・ストローブ信号の間隔を監視する」ものであり、引用発明1は「タイムアウトによりデータ入力の終了を確認」し、その後「RAMに格納されたデータを前記プリンタ制御ポートに送り前記印字機構にプリント動作を行わせる」のであるから、「データ・ストローブ信号およびデータ」は連続して「該当する上位装置」から送信される(シリアルプリンタからみれば受信する。)。したがって、引用発明1の「データ・ストローブ信号およびデータ」は本件発明の「1連のデータを分割した各々の分割データ」に相当するから、引用発明1が「分割データの受信を検知する検知手段」を備えることは自明であり、引用発明1の「シリアルプリンタ」は「1連のデータを分割した各々の分割データを順次受信し、受信した1連のデータに基づいて画像処理を行う画像処理装置」であるといえる。そして、引用発明1のタイマは「データ・ストローブ信号の間隔を監視する」ものであるから、「データ・ストローブ信号およびデータ」を受信する毎に「計時した経過時間をリセットする」と認めることができる。すなわち、引用発明1の「タイマ」と本件発明の「計時手段」は、「受信不可能状態と判断されている時間を除いて計時する」かどうかの点を除いて一致する。
引用発明1において「タイマのタイムアウトによりデータ入力の終了を確認」することと、本件発明において「計時手段により計時された経過時間が所定時間を越えた場合に前記1連のデータの受信が終了したと判断する」ことに相違はないから、引用発明1でいう「判断手段」を備えるといえる。
したがって、本件発明と引用発明1とは、
「1連のデータを分割した各々の分割データを順次受信し、受信した1連のデータに基づいて画像処理を行う画像処理装置であって、前記分割データの受信を検知する検知手段と、前記分割データの受信が検知されたときからの経過時間を該計時を開始した後前記分割データの受信が検知された場合には該計時した経過時間をリセットする計時手段と、前記計時手段により計時された経過時間が所定時間を越えた場合に前記1連のデータの受信が終了したと判断する判断手段と、を備えた画像処理装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉本件発明が「データを受信することが可能な受信可能状態かデータを受信することが不可能な受信不可能状態かを判断」するのに対し、引用発明1がそのような判断をするのかどうか不明である点。
〈相違点2〉本件発明の「計時手段」は「受信不可能状態と判断されている時間を除いて計時する」のに対し、引用発明1ではその点明らかでない点。

3.相違点についての判断及び本件発明の進歩性の判断
(1)相違点1について
引用発明1は、複数の上位装置に接続され上位装置から受信したデータに基づいてプリント動作を行うものであるが、いくつかの原因(本件明細書に例示されているオフライン設定やメモリ不足もそれら原因として周知である。)によりデータを受信不可能になることは引用発明1においても当然想定される。そして、画像処理装置(プリンタ)が受信可能か不可能かは、上位装置が知っておくべきことがらであり、そのため多くの画像処理装置(プリンタ)では、受信不可能であることを判断した上で、それを上位装置に報知している(例えば、特開平7-36639号公報に「外部機器からのデータ受信の可否を示すビジー信号を発生するビジー信号発生手段と、ビジー信号によりデータ受信不可状態を外部機器に知らせる・・・」(【請求項1】)と、特開平6-4239号公報に「プリンタ状態判別部33による判別で、指定のプリンタ4aや、切り替え先のプリンタ4bが、電源オフ、あるいは、セレクトオフなどの理由により、受信不可能な状態であれば、プリンタサーバ3は、出力切替部35により、出力先を、別のプリンタドライバ32cへ切り替え」(段落【0023】)と、特開平5-298044号公報に「電源が遮断された状態において、外部にデータ受信不可能であることを示すステータス信号を出力するステータス信号出力手段」(【請求項1】)、特開平5-216781号公報に「プリンタI/Oポート5に現れる信号の状態は、図2の様にプリンタ6の状態が正常かつデータ受信可能の場合はBUSY=0・FAULT=1、正常かつデータ受信不可能の場合はBUSY=1・FAULT=1・・・となり、この信号状態は電気ケーブル9によってホストI/Oポート4にも同様に現れる。」(段落【0007】)と、特開平4-205621号公報に「プリンタがデータ受信不可能な状態・・・には前記データ要求信号の出力停止状態を維持するデータ送信手段とを具備した」(1頁左下欄16〜20行)とそれぞれ記載されているとおりである。)。
そうである以上、相違点1に係る本件発明の構成を採用することはせいぜい設計事項程度というべきである。

(2)相違点2について
取消理由に引用した特開平2-174360号公報(特許異議申立書添付の甲第1号証であり、以下「引用例2」という。)には、以下のア〜エの記載がある。なお、摘記に当たっては、拗音・促音等通常小さな文字で表記すべきものは通常の表記に改め、また改行及び一字空白は省略する。
ア.「従来のISDN網に接続されている例えばファクシミリ装置等の通信端末装置では、装置に接続されている(接続ローカル装置である)スキャナ・プリンタ等が紙づまり、紙なしなどのデータの送受信不可の状態となるような障害が発生すると、通信続行不能状態となる。この様な場合には、網に対して(相手装置に対して)通信中断指示を送出する。そして、障害が復旧すると通信再開指示を送出して再び相手装置との通信を再開する。」(2頁左上欄8行〜右上欄1行)
イ.「通信端末装置はこの中断/再開指示を送出、または受信しても、網との累積通信時間を監視する通信監視タイマは共に作動されたままであり、中断指示が行なわれてから、再開指示が行なわれるまでも通信監視タイマが時間を累計してしまう。このため、再開指示が短時間のうちに行なわれるときにはよいが、再開指示までの時間間隔が長い場合には通信監視タイマがタイムアウトを起こして、正常に通信処理が行なわれた状態であるにもかかわらず通信が中止されてしまう。即ち、この時点で通信は異常終了と判断され、中途終了が行なわれてしまう。」(2頁右上欄7行〜左下欄2行)
ウ.「網への、または網からの中断指示により通信監視タイマを中断させ、また再開指示により通信監視タイマを継続して再開させることにより、例えばISDNで提供されている中断・再開のサービスをタイムアウト等により中断等起こさずに通信を継続させるようにしたものである。・・・通信中に通信が継続できない障害が発生した時点で網に対して中断サービスを要求し、通信が継続できない障害が回復された時点で網に対して再開サービスを要求することができる。しかも、このような場合にも通信が不用意に中途終了してしまうことがなく、正常に再開することができる。」(3頁左上欄10行〜右上欄7行)
エ.「本発明によれば、中断事由が発生した場合においても、網に対して中断要求を送出するとともに通信監視タイマの計時も中断させることにより、中断中に通信の監視時間オーバーにならずに正常に再開できる。」(5頁左下欄1〜5行)

これら引用例2の記載によると、ファクシミリ装置等の通信端末装置においては、通信監視タイマがタイムアウトすることにより網との通信を終了するのであるが、従来は通信続行不能状態となり通信中断中も通信監視タイマの計時が継続していたため、中途終了が行われるという課題があり、引用例2記載の発明(以下「引用発明2」という。)は、中断事由が発生した場合に通信監視タイマの計時を中断させることにより上記課題を解決したものと認めることができる。
ところで、データを受信不可能になることが引用発明1においても想定されること、及び「データを受信することが可能な受信可能状態かデータを受信することが不可能な受信不可能状態かを判断」することがせいぜい設計事項であることは(1)で述べたとおりであり、引用発明1において受信不可能状態と判断した場合にもタイマが計時を継続するのであれば、上位装置からの1連のデータをすべて受信しないうちにタイムアウトすることは、当業者であれば直ちに認識できることがらであり、かかる状況のタイムアウトが避けるべきことがらであることは当業者には自明である。
そして、上位装置からの1連のデータをすべて受信しないうちのタイムアウトと、引用例2記載の中途終了とは、通信を行わないことが原因となっての、好ましくない異常終了である点で一致する。引用発明2では通信中断中に通信監視タイマの計時を中断させることにより、この異常終了(中途終了)を回避しているのであるが、引用発明1において通信を行わない状態(引用発明2では通信中段)は受信不可能状態であるから、同状態であることを判断した際に、引用発明2に倣って、タイマの計時を中断、すなわち「受信不可能状態と判断されている時間を除いて計時する」との相違点2に係る本件発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。
特許権者は、「それぞれの発明が成立する技術的前提が各々異なるため、本件請求項1に係る特許発明と甲第1号証(決定注;引用例2)に記載された発明では技術分野が異なる。」(平成17年4月5日付け意見書4頁17〜19行)及び「甲第1号証に記載されたタイムアウト処理において対象としている計時はファクシミリ送信のデータ送信時間全体の計時であるのに対して、甲第2号証(決定注;引用例1)のものは連続的に入力されるデータの各データ間の時間の計時である点で大きく異なると共に、それぞれの技術分野、発明が解決しようとする課題ともに全く異なるものであるため、甲第2号証に記載された上記構成を甲第1号証に適用することには阻害要因があるものである。」(同5頁8〜13行)と主張している。
引用発明1と引用発明2の計時対象が特許権者の主張するとおり異なることは事実であるが、引用発明2の課題の原因となるものが引用発明1にも共通して存在し(その場合、計時対象が異なるために表面的な課題は引用発明1と引用発明2で異なるかもしれないが、課題の原因が同一であれば、課題自体も実質的に同一となる。)、引用発明2と同様手段により課題を解決できるのであれば、引用発明1に引用発明2を適用する動機は十分あり、阻害要因はないといわなければならない。したがって、特許権者の主張を採用することはできない。

(3)本件発明の進歩性の判断
相違点1,2に係る本件発明の構成を採用することは、せいぜい設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本件発明は引用発明1,引用発明2(及び周知技術)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 むすび
以上のとおり、本件発明1は引用発明1,引用発明2(及び周知技術)に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、請求項1に係る特許は特許法29条2項の規定により拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。
すなわち、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令205号)4条2項の規定により、請求項1に係る特許は取り消されなければならない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-07-20 
出願番号 特願平7-97267
審決分類 P 1 652・ 121- Z (B41J)
最終処分 取消  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 藤本 義仁
砂川 克
登録日 2003-06-20 
登録番号 特許第3440625号(P3440625)
権利者 富士ゼロックス株式会社
発明の名称 画像処理装置  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  
代理人 加藤 和詳  
代理人 西元 勝一  

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