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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効としない C25D
管理番号 1126524
審判番号 無効2003-35074  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-02-27 
確定日 2005-11-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第3123744号発明「電解法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯の概要
本件特許第3123744号に係る出願は、平成2年2月13日(優先権主張:平成1年2月14日 イギリス)に特許出願され、平成12年10月27日に請求項1〜7に係る発明について特許権の設定の登録がなされたものである。
その後、平成15年2月27日に、大機エンジニアリング株式会社(以下「請求人」という。)より、その請求項1、5及び7に係る特許について特許無効の審判請求がなされ、平成15年5月23日付けで被請求人(特許権者)より答弁書が提出され、平成15年9月12日に口頭審理がなされ、同日付けで請求人より陳述要領書が提出されたものである。

II.当事者の主張
請求人は、証拠方法として甲第1〜12号証を提出して、本件請求項1、5及び7に係る特許を無効とするとの審決を求め、その理由として、本件請求項1、5及び7に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1〜12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである、と主張している。なお、請求人が提出した「甲第13号証の1」〜「甲第22号証」については、上記口頭審理において、順次「付属資料1の1」〜「付属資料10」とされた。
一方、被請求人は、請求人の上記主張には理由がないと主張し、併せて、平成15年5月23日付けの答弁書とともに、乙第1号証(本件特許第3123744号の特許掲載公報)を提出している。

III.証拠方法
(III-1)請求人の提出した証拠方法
(A1):甲第1号証(友野理平著「実用めっきマニュアル」(株)オーム社(昭和46年10月25日)第33、480頁)
(A1-1)「めっき槽の普通の形式は、図2.1に示すようなもので」と記載され、当該図2.1には、陰極及び陽極を具備しためっき槽が図示されている。(第33頁「2・1各種めっき槽」の欄)
(A1-2)「[10]電源電圧と槽電圧」の欄中、図15・9には、陽極と陰極を具備しためっき槽が図示されている。(第480頁)

(A2):甲第2号証((社)日本鉄鋼協会編「第3版 鉄鋼便覧 第VI巻 二次加工・表面処理・熱処理・溶接」丸善(株)(昭和57年5月31日)第413、414頁)
電気亜鉛めっき鋼板について、以下の記載がある。
(A2-1)「めっき液は表10・16に示すような硫酸亜鉛を主成分にした酸性浴が主として用いられる。」と記載され、当該表10・16には、pHが「1.0〜4.5」、「3.0〜4.0」、及び、「3.5〜4.5」の例が示されている。(第414頁)

(A3):甲第3号証(最新表面処理技術総覧編集委員会編「最新表面処理技術総覧」(株)産業技術サービスセンター(昭和63年4月11日重版)第320頁)
(A3-1)「1)硫酸亜鉛めっき 酸性亜鉛めっき浴は・・・陰極電流効率が100%に近いので、陽極には、不溶性陽極を用いて、高電流密度で高速めっきするのに適している。」(第320頁左欄)
(A3-2)「硫酸亜鉛の浴成分は・・・pH3〜4の範囲でめっきされる。」と記載され、「表1.2.28 硫酸亜鉛めっき浴組成と作業条件」には、pH/温度(℃)が「3〜4/54〜65℃」、「3〜4.5/40〜45℃」、「3〜4/38〜55℃」、「1.5〜40/25〜60℃」の例が示されている。(第320頁)

(A4):甲第4号証(特開昭63-235493号公報)
(A4-1)「1 導電性基体上に、イリジウム50〜90モル%及びタンタル50〜10モル%を含有する酸化イリジウムと酸化タンタルとから成る下地層を介して、イリジウム換算で0.05〜3mg/cm2の割合の酸化イリジウム層を設けたことを特徴とする酸素発生用電極。
2 導電性基体上に、まずイリジウム化合物とタンタル化合物とを含有する溶液を塗布後、酸化性雰囲気中で熱処理して、イリジウム50〜90モル%及びタンタル50〜10モル%を含有する酸化イリジウムと酸化タンタルとから成る下地層を形成させ、次いで、この上にイリジウム化合物を含有する溶液を塗布後酸化性雰囲気中で熱処理して、0.05〜3mg/cm2のイリジウムを含む酸化イリジウム層を形成させることを特徴とする酸素発生用電極の製造方法。」(特許請求の範囲)
(A4-2)「本発明は、所望の水溶液を電解して、陽極で酸素させる反応に好適に用いられる、優れた耐久性及び低い酸素過電圧を有する酸素発生用電極・・・に関するものである。」(第1頁右下欄第6〜10行)
(A4-3)「電解工業においては・・・・酸、アルカリ又は塩の回収、銅、亜鉛などの金属の採取、めっき、陰極防食など酸素発生を伴う場合がある。」(第2頁左上欄第3〜7行)
(A4-4)「導電性基体と酸化イリジウム被覆層の間に、特定割合の酸化イリジウムと酸化タンタルから成る中間層を設けることにより、電気抵抗の増大を伴うことなく、中間部における酸化物の生成に起因する劣化を抑制しうることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。」(第2頁右下欄第18行〜第3頁左上欄第4行)
(A4-5)「導電性基体上に、まずイリジウム化合物とタンタル化合物とを含有する溶液を塗布したのち、酸化性雰囲気中で熱処理して・・・酸化イリジウムと酸化タンタルとから成る下地層を形成し」(第3頁左上欄第12〜17行)
(A4-6)「導電性基体としては、例えばチタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブなどのバルブ金属またはこれらのバルブ金属の中から選ばれた2種以上の金属の合金が挙げられる。」(第3頁右上欄第3〜6行)
(A4-7)「下地層及び酸化イリジウム層を形成するための熱処理を酸化性雰囲気中で行わない場合には、酸化が不十分になり、金属が遊離状態で存在するので得られる電極の耐久性が低下する。」(第4頁左上欄第第11〜15行)
(A4-8)「実施例2」において、60℃、1モル/l硫酸水溶液中、電流密度200A/dm2で行った電解試験の結果を示した「第2表」中、比較例として、チタン基体と酸化イリジウム被覆との間に、Irモル%が「0」(即ち、下地層が全てTa酸化物より成る場合)である下地層を設けた「電極No.7」が示され、その電極寿命が250時間であり、実施例の電極No.9〜10の電極寿命(>1000時間)の1/4未満であったことが示されている。(第5頁左上欄〜右上欄)

(A5):甲第5号証(特開昭58-77592号公報)
(A5-1)「スルファミン酸亜鉛18g/l以上溶解限以内、スルファミン酸鉄20g/l以上溶解限以内まで含有するスルファミン酸浴を用い、pH0.8〜2.3、電流密度60〜200A/dm2、浴温30〜80℃の条件下で不溶性陽極を用い、鋼材上に高耐食性鉄-亜鉛合金めっきを施すことを特徴とする鉄-亜鉛合金めっき鋼材の製造法。」(特許請求の範囲)

(A6):甲第6号証(特開昭62-136590号公報)
(A6-1)「Ni2+イオン濃度25g/l以上、Zn2+イオン濃度25g/l以上で、かつ、Ni2+/(Zn2++Ni2+)のモル濃度比が0.4以上0.6未満の組成の硫酸鉛浴を用い、めっき液流速1.5m/s以上で鋼板の走行方向に対向して、極間に液を流し、不溶性陽極により電流密度100A/dm2以上でめっきを行うことを特徴とするZn-Ni合金めっき鋼板の製造方法。」(特許請求の範囲)
(A6-2)「実施例1」において、ZnSO4・7H2O 0.9mol/l、NiSO4・8H2O 1.1mol/lを含有するめっき液を用い、白金不溶性陽極を用いて、pH2、浴温55℃、ラインスピード30mpm、電流密度200A/dm2の条件で、Zn-Ni合金めっきを行ったことが記載されている。(第4頁右上欄〜右下欄)

(A7):甲第7号証(特開昭57-198292号公報)
(A7-1)「硫酸亜鉛を10g/l以上溶解限まで、硫酸第1鉄を100g/l以上溶解限まで、及び硫酸アンモニウム10g/l以上溶解限まで含有する硫酸鉛浴を用い、pH2.3以下、電流密度60〜200A/dm2、浴温30〜80℃の条件下でかつ、対極として不溶性陽極を用いることにより鋼板に高速で鉄-亜鉛合金めっきを施すことを特徴とする鉄-亜鉛合金めっき鋼板の製造法。」(特許請求の範囲)

(A8):甲第8号証(特開昭59-140383号公報)
(A8-1)「(1)耐蝕性電導性基体表面上の少なくとも1部に電極反応体が被覆された電解用電極において、該電極反応体の成分がイリジウム含量で40〜99原子%の酸化イリジウムとこれに対しマンガン及びコバルトがその含量で1〜60原子%の酸化マンガン及びコバルトのうち少なくとも1種から成ることを特徴とする電解用電極。」(特許請求の範囲(1))
(A8-2)「実施例-1」において、チタン基体表面に酸化イリジウム及び酸化マンガンを含む被覆層を有する電極(実施例電極1-2)、及び、チタン基体表面に酸化イリジウム、酸化マンガン及び酸化コバルトを含む被覆層を有する電極(実施例電極1-3)を作成後、60℃の1M/l硫酸水溶液で400A/dm2の電流密度の条件で、電極電位の測定試験を行ったことが記載されている。(第4頁右上欄〜右下欄)

(A9):甲第9号証(特開昭60-155699号公報)
(A9-1)「(1)有機酸またはその塩を含む電解液を用いて金属を電解処理する方法において、給電を液体給電法により行い、液体給電用陽極として、耐蝕性基体上にイリジウム酸化物を主体とした電極被覆を有する不溶性陽極を用いることを特徴とする液体給電法による金属の電解処理法。」(特許請求の範囲(1))
(A9-2)「従来から、Al等の金属を電解処理し、酸化被膜形成、電解エッチング等の表面処理を行うことが広く知られている。・・・建材、電解コンデンサー材等、種々の金属部材の電解処理に採用されている。」(第1頁右下欄第4〜10行)
(A9-3)「電極被覆がIr酸化物を主体とした陽極は、電解液中の有機酸自体の望ましくない電気化学反応が起こらない程度に、十分酸素発生電位が低く、かつ、使用条件下で優れた耐蝕性を有し、長期の工業的使用に十分耐えるものであることが判明した。」(第2頁右下欄第6〜11行)
(A9-4)「イリジウム酸化物を主体とする被覆を有する該不溶性陽極は、Ti、Ta、Nb等の弁金属で代表される耐蝕性金属基体上に、イリジウム酸化物のみ・・・を被覆して構成される。」(第2頁右下欄第12〜17行)
(A9-5)「Al箔を電解酸化する場合・・・アジピン酸アンモニウム等の有機酸塩の濃度を5〜200g/lとした電解液を用い、温度10〜60℃、電流密度1〜20A/dm2で実施される。」(第3頁左上欄第16行〜右上欄第1行)

(A10):甲第10号証(特開昭57-192281号公報)
(A10-1)「(1)チタン又はチタン合金を電極基体とし、金属酸化物よりなる電極被覆を有する電極において、該基体と該被覆との間にタンタル及び/又はニオブの導電性酸化物よりなる中間層を金属換算で0.001〜1g/m2の薄さに設け、基体表面に生成するチタン酸化物に導電性を付与したことを特徴とする酸素発生を伴う電解に耐久性を有する電解用電極。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(3)中間層がTa2O5よりなる特許請求の範囲第(1)項の電極。
(4)中間層がNb2O5よりなる特許請求の範囲第(1)項の電極。
(5)中間層がTa2O5とNb2O5の混合酸化物よりなる特許請求の範囲第(1)項の電極。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(8)電極被覆がIrO2よりなる特許請求の範囲第1項の電極。」(特許請求の範囲)
(A10-2)「本発明は・・・特に陽極に酸素発生を伴うような水溶液等の電解において、優れた耐久性を有する電解用電極に関する。」(第2頁左上欄第14〜17行)
(A10-3)「陽極に酸素が発生する電解プロセスとして、例えば硫酸浴、硝酸浴及びアルカリ浴等を使用しての電解や、クロム、銅、亜鉛等の電解採取及び、種々の電気メッキ、或いは希薄塩水、海水、塩酸等の電解、及びクロレート製造電解等、多くの工業上重要な分野がある。」(第2頁左下欄第8〜13行)
(A10-4)「中間層物質として、Ta2O5、Nb2O5および両者の混合酸化物が特に本発明の目的達成に適し、優れた効果を奏することが確認された。」(第3頁左下欄第6〜8行)
(A10-5)「電極被覆物質は・・・それらの代表的な例として、イリジウム酸化物・・・等がある。」(第3頁左下欄末行〜右下欄第14行)
(A10-6)「緻密な弁金属酸化物よりなる中間層被覆により、基体を酸化から保護し、チタン酸化物の生成が可及的に少なくなり、併せて・・・チタン酸化物が、TiO2結晶格子中に、該中間層物質からの5価の原子価数をとる弁金属Me5+の拡散又は置換によって半導体化し、十分な導電性が付与される。」(第4頁右上欄第13〜20行)
(A10-7)「中間層物質のTa2O5やNb2O5は金属チタンとの密着性が良く、またTiO2や電極被覆金属酸化物、例えばIrO2・・・と容易に固溶体を形成するので、基体と電極被覆と良く結合し、電極被覆を強固に密着させ、電極の耐久性を増す効果を有するためと考えられる。」(第4頁左下欄第19行〜右下欄第5行)
(A10-8)「実施例1」において、イリジウムとチタンの混合酸化物を電極被覆とする電極を作製し、その電極を、60℃、150g/l硫酸電解液中で陽極として用い、100A/dm2の電流密度で電解して加速試験を行ったことが記載されている。(第4頁右下欄〜第5頁左上欄)

(A11):甲第11号証(特開昭59-96287号公報)
(A11-1)「(1)チタンおよびニオブからなる群より選択された金属の金属基材とアノード活性層とからなる電極であって、そのアノード活性層は350℃を越える温度の酸化雰囲気中で加熱することにより作られたものであり、そのアノード活性層と基材との間にはタンタルの層または金属タンタルを50%以上含む合金の層が設けられていることを特徴とする上記電極。
(2)アノード活性層は白金族金属または白金族金属酸化物を含む特許請求の範囲第1項に記載の電極。
・・・・・・・・・・・・・・・・
(4)アノード活性層は白金およびイリジウムを含む特許請求の範囲第2項に記載の電極。
(5)イリジウム分の一部または全部が酸化物の形で存在する特許請求の範囲第4項に記載の電極。
・・・・・・・・・・・・・・・・
(7)チタンおよびニオブからなる群より選択された金属の金属基材の上に、タンタルの層または金属タンタルを50%以上含む合金の層を形成し;析出してアノード活性層を形成する化合物を上記タンタルまたはタンタル合金層へ適用し;その化合物および基材を350℃を越える温度の酸化雰囲気中で、該化合物が分解してアノード活性物質の層を生成するに足る時間にわたり加熱する;ことからなる電極の製法。」(第1頁左下欄〜第2頁左上欄;特許請求の範囲)
(A11-2)「アノード活性層は、白金族金属、または白金族金属酸化物・・・を含んでいてよい。・・・・アノード活性層は白金およびイリジウムを含むのが好ましい。・・・イリジウムの一部または全部は酸化イリジウムの形で存在してもよい。」(第3頁左上欄第19行〜左下欄第2行)
(A11-3)「好ましい具体例の電極はニオブ基材に、アノード活性層として白金およびイリジウム含有被覆を与えかつそのニオブ基材と白金およびイリジウム含有層との間に金属状のタンタルの薄層を設けてなる。「薄層」とは数ミクロンないし数mmの厚さの層を意味する。好ましくは、タンタル層は基材金属に対して金属学的に結合される。金属学的に結合されるタンタル層は0.1〜2.5mm、好ましくは1〜2.5mmの厚さを有する。金属学的結合は、圧延により、同時押出により、拡散結合法により、あるいはその他の適当な方法により形成されうる。」(第3頁左下欄第3〜13行)
(A11-4)「このアノードは鋼または鉄を含む構造物を陰極防食するための陰極防食用アノードとして機能しうる。このアノードは、パイプライン、タンク類、油井ケーシング、水井戸ケーシングのような地中埋設構造物を保護するために大地床中で使用できる。・・・本発明アノードは電解槽、例えば希塩水から飲料水を製造するための電解槽で使用できる。」(第4頁左上欄第13行〜右上欄第4行))
(A11-5)「本明細書における「白金族金属」とは、白金、イリジウム・・・からなる群より選択される金属、およびそれらの酸化物を包含した意味を有する。」(第4頁右上欄第5〜8行)
(A11-6)「かくして、チタン基材に対して上記のいずれかの方法により(すなわち圧延結合法、同時押出法、イオンメッキ法、爆発結合法)タンタル層を被覆することができ」(第5頁右上欄最下行〜左下欄第3行)
(A11-7)「強酸性(すなわちpH1)の稀塩化物溶液中に浸漬された場合の種々の白金金属の損耗速度を測定するための試験を行った」と記載され、続けて、430A/m2、1076A/m2の電流密度で上記試験を行ったことが記載されている。(第5頁左下欄第10行〜右下欄第13行)
(A11-8)「タンタル層の酸による下側浸食(アンダーマイニング)に対する高抵抗性は、白金被覆の下側浸食(アンダーマイニング)をも防止する。」(第6頁左下欄第10〜12行)
(A11-9)「本発明の電極は陰極防食に使用する以外に電気冶金、電気メッキ、次亜塩素酸塩製造、塩素酸塩製造またはその他必要な電気化学的用途のために用いられる。」(第7頁右上欄第1〜4行)

(A12):甲第12号証(特開昭62-284095号公報)
(A12-1)「(1)導電性金属を電極基体とし、電極活性物質を被覆した電解用電極において、該基体と該被覆との間に、希土類金属化合物より成る第1中間層と、卑金属又は卑金属酸化物の少なくとも1種を含む第2中間層を設けたことを特徴とする電解用電極。」(特許請求の範囲)
(A12-2)「電極基体はTi、Ta、Nb、Zr等の耐食性のある導電性金属又はこれらの基合金を用いることができ」(第3頁右上欄第1〜3行)
(A12-3)「第1中間層として基体上に被覆される希土類金属化合物は・・・とり分け、Sc、Y、La、Ce、Nd、Sm及びGdの酸化物又はオキシハロゲン化合物、或いはこれらの組合せが好適である。」(第3頁右上欄第19行〜左下欄第4行)
(A12-4)「第2中間層」について、「該卑金属の種類は、Ti、Ta、Nb・・・から選ばれる少なくとも1種が好適であり」(第3頁右下欄第2〜6行)
(A12-5)「電極活性物質」について、「代表的なものとしてPt、Pt-Ir、Pt-IrO2、Ir酸化物・・・等を例示することが出来る。」(第4頁左上欄第17行〜右上欄第3行)

(III-2)被請求人の提出した証拠方法
(B1):乙第1号証(本件特許第3123744号の特許掲載公報)内容略。

IV.本件発明
本件無効審判請求に係る、請求項1、5及び7に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明5」及び「本件発明7」という。)は、明細書の記載から見て、その請求項1、5及び7に記載されたとおりの、下記のものである。
「【請求項1】少なくとも1個の陽極と少なくとも1個の陰極とを設けた電解槽内で亜鉛化合物又は錫化合物を溶解、含有する酸性の水性電解液を電解することからなる工業的な電気亜鉛メッキ法または電気錫メッキ法において、前記の電解液のpHはpH5又はそれ以下の強酸性のpH値であり、50〜70℃の電解液温度で、10キロアンペア/m2〜40キロアンペア/m2の陽極電流密度にて電流を流し、陽極における多量の酸素発生を伴なう過酷な電解操作条件下で前記の電解を行うことからなり、しかも上記の陽極としては、チタンまたはチタン合金製の支持体(基材)の表面上にタンタルまたはタンタル合金製の外方表面層を設け且つ該外方表面層の上に酸化イリジウムよりなる電気触媒的活性物質の被覆、あるいは白金と酸化イリジウムとの混合物よりなる電気触媒的活性物質の被覆を設けてなる陽極、もしくは、タンタルまたはタンタル合金製の支持体(基材)の上に酸化イリジウムよりなる電気触媒的活性物質の被覆、あるいは白金と酸化イリジウムとの混合物よりなる電気触媒的活性物質の被覆を設けてなる陽極を使用することを特徴とする、陽極の長時間の耐用寿命を有する電気亜鉛メッキ法または電気錫メッキ法。」
「【請求項5】電気触媒的活性物質は1g/m2〜100m2の量で存在させる、請求項1〜4のいずれかに記載のメッキ法。」
「【請求項7】水性電解液は3又はそれ以下のpHを有する、請求項1〜6のいずれかに記載のメッキ法。」

V.対比・判断
(V-1)甲第4号証と他の甲号証との組合せについて
請求人は、具体的主張として、本件発明1、5及び7は、甲第4号証に記載された発明と他の甲号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であると主張しているので、以下、これについて判断する。
1.本件発明1について
(1)本件発明1と、甲第4号証に記載されたものとを対比すると、甲第4号証には、導電性基体上に、酸化イリジウムと酸化タンタルとから成る下地層を介して、酸化イリジウム層を設けた酸素発生用電極(摘記A4-1)に係る発明が記載され、併せて、導電性基体上に、イリジウム化合物とタンタル化合物とを含有する溶液を塗布後、酸化性雰囲気中で熱処理して、酸化イリジウムと酸化タンタルとから成る下地層を形成させ、次いで、この上にイリジウム化合物を含有する溶液を塗布後酸化性雰囲気中で熱処理して、酸化イリジウム層を形成させて酸素発生用電極を製造すること(摘記A4-1、A4-5)、水溶液を電解して、陽極で酸素させる反応に用いられる、優れた耐久性及び低い酸素過電圧を有する酸素発生用電極に関するものであること(摘記A4-2)、及び、導電性基体としてチタンが挙げられること(摘記A4-6)が記載され、また、酸素発生を伴う電解の例としてめっきが挙げられ(摘記A4-3)、そして、60℃、1モル硫酸水溶液中、電流密度200A/dm2で行った電解試験の結果が示されている(摘記A4-8)。なお、当該電解試験においては、比較例として、チタン基体と酸化イリジウム被覆との間に、Ta酸化物より成る下地層を形成した場合(摘記A4-8)が記載され、一方、電解めっきを、陽極及び陰極を設けた電解槽内で行うことは、甲第1号証にも記載のとおり、本件出願前から周知の事項である。
以上のことからすると、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明と、
少なくとも1個の陽極と少なくとも1個の陰極とを設けた電解槽内で、化合物を含有する水性電解液を電解することからなる工業的な電気メッキ法において、電流を流し、酸素発生を伴う電解操作条件下で、前記の電解を行うことからなり、しかも上記の陽極としては、チタンまたはチタン合金製の支持体(基材)の表面上に外方表面層を設け且つ該外方表面層の上に酸化イリジウムよりなる電気触媒的活性物質の被覆、あるいは白金と酸化イリジウムとの混合物よりなる電気触媒的活性物質の被覆を設けてなる陽極を使用することを特徴とする、陽極の長時間の耐用寿命を有する電気メッキ法、の点で一致しているといえ、そして、
(A)本件発明1では、上記電気メッキ法について、亜鉛化合物又は錫化合物を含有するメッキ液による「電気亜鉛メッキ法」または「電気錫メッキ法」に特定されているのに対して、甲第4号証には、メッキする金属を亜鉛または錫に特定する記載が見当たらない点、
(B)本件発明1では、「電解液のpHはpH5又はそれ以下の強酸性のpH値であり、50〜70℃の電解液温度で、10キロアンペア/m2〜40キロアンペア/m2の陽極電流密度にて電流を流し、陽極における多量の酸素発生を伴なう過酷な電解操作条件下」で電解を行うものであるのに対して、甲第4号証には、電解操作条件をそのように特定した記載が見当たらない点、及び、
(C)本件発明1では、前記外方表面層が、「タンタルまたはタンタル合金製」であるのに対して、甲第1号証に記載の発明では、特定割合の「酸化イリジウムと酸化タンタル」とから成るものである点、
の各点において、本件発明1は甲第4号証に記載された発明と相違している。

そこで、これら相違点について、以下検討する。
相違点Cについて
当該相違点Cについて、請求人は、甲第11号証には、チタン製の金属基材とアノード活性層との間に「タンタルの層または金属タンタルを50%以上含む合金の層」を設けることが記載されていることからすると、甲第4号証に記載の下地層を構成する「酸化イリジウムと酸化タンタル」に代えて、金属タンタルを使用することは、当業者が容易になし得たことであると主張している。
これについて検討すると、甲第4号証には、上記のとおり、下地層を「酸化イリジウムと酸化タンタル」との特定割合の酸化物より構成することにより、優れた耐久性及び低い酸素過電圧を有する酸素発生用電極(摘記A4-2)としたものであって、そして、その発明の詳細な説明には、特定割合の酸化イリジウムと酸化タンタルから成る中間層を設けることにより、電気抵抗の増大を伴うことなく、中間部における酸化物の生成に起因する劣化を抑制しうることを見出したこと(摘記A4-4)、及び、下地層の酸化が不十分で金属が遊離状態で存在すると電極の耐久性が低下すること(摘記A4-7)が記載され、下地層が上記特定割合の酸化物である必要性が説明されている。してみれば、甲第11号証に「タンタルの層または金属タンタルを50%以上含む合金の層」のとおり、金属タンタルを成分とする中間層が記載されているからといって、甲第4号証に記載された特定割合の「酸化イリジウムと酸化タンタル」に代えて、金属タンタルを使用することが、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
なおかつ、上記甲第4、11号証以外の他の甲号証を見ても、50〜70℃の高電解液温度、10キロアンペア/m2〜40キロアンペア/m2の高陽極電流密度で電流を流し、陽極における多量の酸素発生を伴なう過酷な電解操作条件下で電解を行う工業的な電気亜鉛メッキ法または電気錫メッキ法において用いる陽極として、上記相違点Cに係る「外方表面層」を有した、本件発明1に係る特定の構成の不溶性陽極を用いることの記載は見当たらない。
そして本件発明1は、上記相違点Cに係る構成を含む前記認定の構成を有することにより、陽極で多量の酸素発生を伴う苛酷な電解条件下で陽極の長い活性寿命を有する電気亜鉛メッキ法および電気錫メッキ法が達成されるという、明細書に記載された効果を奏したものと認めることができる。
以上のとおりであるから、本件発明1は、他の相違点A及びBについて検討するまでもなく、甲第4号証に記載された発明と、他の甲号証に記載された発明とに基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるということはできない。

(2)また、請求人は、甲第4号証に記載された陽極に代えて、甲第11号証に記載された陽極を置換することは当業者が容易になし得たことであると主張している。
これについて検討すると、甲第11号証には、チタンからなる金属基材と酸化イリジウムからなるアノード活性層とからなる電極の、アノード活性層と基材との間にタンタルの層または金属タンタルを50%以上含む合金の層を設けた不溶性陽極(摘記A11-1,2,5)が記載され、併せて、鋼または鉄を含む構造物を陰極防食するための陰極防食用アノードとして機能しうること、希塩水から飲料水を製造するため等の電解槽で使用できること(摘記A11-4)の外に、電気冶金、電気メッキ、次亜塩素酸塩製造、塩素酸塩製造等の電気化学的用途のために用いられること(摘記A11-9)が記載されている。
しかし、甲第11号証には、当該甲第11号証に記載された陽極を、50〜70℃の高電解液温度、10キロアンペア/m2〜40キロアンペア/m2の高陽極電流密度で電流を流し、陽極における多量の酸素発生を伴なう過酷な電解操作条件下で電解を行う工業的な電気亜鉛メッキ法または電気錫メッキ法において用いる陽極として使用できることの開示は見当たらず、そして本件発明1は、当該構成を有することにより、陽極で多量の酸素発生を伴う苛酷な電解条件下で陽極の長い活性寿命を有する電気亜鉛メッキ法および電気錫メッキ法が達成されるという、明細書に記載された効果を奏したものと認めることができる。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第4号証に記載された陽極に代えて、甲第11号証に記載された陽極を置換することにより当業者が容易に発明し得たものであるとの、当該(2)項に係る請求人の主張は採用できず、したがって、この主張の点からみても、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明と、他の甲号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとすることはできない。

2.本件発明5及び7について
本件発明5及び7は、請求項1またはその下位の請求項を引用して、本件発明1を電気触媒的活性物質の量(本件発明5)または水性電解液のpH(本件発明7)の点で特定して、さらに限定した発明であるから、上記「本件発明1について」の欄に記載したと同様、甲第4号証に記載された発明と、他の甲号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとすることはできない。

(V-2)甲第10号証と他の甲号証との組合せについて
(1)請求人は、具体的主張において、本件発明1、5及び7は、甲第10号証に記載された発明と他の甲号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であると主張しているので、以下、これについて判断する。
1.本件発明1、5及び7について
本件発明1と、甲第10号証に記載されたものとを対比すると、甲第10号証には、チタン又はチタン合金を電極基体とし、金属酸化物よりなる電極被覆を有する電極において、該基体と該被覆との間にタンタルの導電性酸化物よりなる中間層を設け、基体表面に生成するチタン酸化物に導電性を付与した酸素発生を伴う電解に耐久性を有する電解用電極(摘記A10-1)に係る発明が記載され、併せて、中間層がTa2O5またはTa2O5とNb2O5の混合酸化物よりなること、及び、電極被覆がIrO2よりなること(摘記A10-1,4,5)、陽極に酸素発生を伴う水溶液等の電解において優れた耐久性を有すること(摘記A10-2)、陽極に酸素が発生する電解プロセスとして電気メッキが挙げられること(摘記A10-3)、及び、イリジウムとチタンの混合酸化物を電極被覆とする電極を作製し、その電極を60℃、150g/l硫酸電解液中で陽極として用い100A/dm2の電流密度で電解加速試験を行ったこと(摘記A10-8)が記載されている。一方、電解めっきを、陽極及び陰極を設けた電解槽内で行うことは、甲第1号証にも記載のとおり、本件出願前から周知の事項である。
以上のことからすると、本件発明1は、甲第10号証に記載された発明と、
少なくとも1個の陽極と少なくとも1個の陰極とを設けた電解槽内で、化合物を含有する水性電解液を電解することからなる工業的な電気メッキ法において、電流を流し、酸素発生を伴う電解操作条件下で、前記の電解を行うことからなり、しかも上記の陽極としては、チタンまたはチタン合金製の支持体(基材)の表面上に外方表面層を設け且つ該外方表面層の上に酸化イリジウムよりなる電気触媒的活性物質の被覆、あるいは白金と酸化イリジウムとの混合物よりなる電気触媒的活性物質の被覆を設けてなる陽極を使用することを特徴とする、陽極の長時間の耐用寿命を有する電気メッキ法、の点で一致しているといえ、そして、
(a)本件発明1では、上記電気メッキ法について、亜鉛化合物又は錫化合物を含有するメッキ液による「電気亜鉛メッキ法」または「電気錫メッキ法」に特定されているのに対して、甲第10号証には、メッキする金属を亜鉛または錫に特定する記載が見当たらない点、
(b)本件発明1では、「電解液のpHはpH5又はそれ以下の強酸性のpH値であり、50〜70℃の電解液温度で、10キロアンペア/m2〜40キロアンペア/m2の陽極電流密度にて電流を流し、陽極における多量の酸素発生を伴なう過酷な電解操作条件下」で電解を行うものであるのに対して、甲第4号証には、電解操作条件をそのように特定した記載が見当たらない点、及び、
(c)本件発明1では、前記外方表面層が、「タンタルまたはタンタル合金製」であるのに対して、甲第1号証に記載の発明では、特定割合の「酸化イリジウムと酸化タンタル」とから成るものである点、
の各点において、本件発明1は甲第10号証に記載された発明と相違している。

そこで、これら相違点について、以下検討する。
本件発明1について、甲第10号証に記載の発明との上記相違点a〜cは、上記(V-1)の欄における甲第4号証に記載の発明との相違点A〜Cにそれぞれ対応した相違点である。そして甲第10号証には、中間層物質として、Ta2O5、Nb2O5および両者の混合酸化物が特に本発明の目的達成に適し優れた効果を奏することが確認されたこと(摘記A10-4)、緻密な弁金属酸化物よりなる中間層被覆により、基体を酸化から保護し、チタン酸化物の生成が可及的に少なくなり、併せてチタン酸化物がTiO2結晶格子中に、該中間物質からの5価の原子価数をとる弁金属Me5+の拡散又は置換によって半導体化し、十分な導電性が付与されること(摘記A10-6)、及び、中間層物質のTa2O5は金属チタンとの密着性が良く、またTiO2や電極被覆金属酸化物、例えばIrO2と容易に固溶体を形成するので、基体と電極被覆と良く結合し、電極被覆を強固に密着させ、電極の耐久性を増す効果を有するためと考えられること(摘記A10-7)が記載され、中間層が上記特定の酸化物である必要性が説明されている。
してみれば、上記(V-1)に記載したと同様、本件発明1、並びに本件発明5及び7は、甲第10号証に記載された発明と、他の甲号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとすることはできない。

(2)また、請求人は、甲第10号証に記載された陽極に代えて、甲第11号証に記載された陽極を置換することにより、本件発明1、5及び7を構成することは、当業者が容易になし得たことであると主張している。
これについて検討すると、甲第11号証には、チタンからなる金属基材と酸化イリジウムからなるアノード活性層とからなる電極の、アノード活性層と基材との間にタンタルの層または金属タンタルを50%以上含む合金の層を設けた不溶性陽極(摘記A11-1,2,5)が記載され、併せて、鋼または鉄を含む構造物を陰極防食するための陰極防食用アノードとして機能しうること、希塩水から飲料水を製造するため等の電解槽で使用できること(摘記A11-4)の外に、電気冶金、電気メッキ、次亜塩素酸塩製造、塩素酸塩製造等の電気化学的用途のために用いられること(摘記A11-9)が記載されている。
しかし、甲第11号証には、当該甲第11号証に記載された陽極を、50〜70℃の高電解液温度、10キロアンペア/m2〜40キロアンペア/m2の高陽極電流密度で電流を流し、陽極における多量の酸素発生を伴なう過酷な電解操作条件下で電解を行う工業的な電気亜鉛メッキ法または電気錫メッキ法において用いる陽極として使用できることの開示は見当たらず、そして本件発明1、5及び7は、その構成を有することにより、陽極で多量の酸素発生を伴う苛酷な電解条件下で陽極の長い活性寿命を有する電気亜鉛メッキ法および電気錫メッキ法が達成されるという、明細書に記載された効果を奏したものと認めることができる。
してみれば、上記(V-1)に記載したと同様、本件発明1、5及び7は、甲第10号証に記載された陽極に代えて、甲第11号証に記載された陽極を置換することにより当業者が容易に発明し得たものであるとの、当該(2)項に係る請求人の主張は採用できず、したがって、この主張の点からみても、本件発明1、5及び7は、甲第10号証に記載された発明と、他の甲号証に記載された発明とに基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとすることはできない。

(V-3)甲第11号証と他の甲号証との組合せについて
1.本件発明1について
請求人は、本件発明1は、単に公知の操業条件と公知の電極を組合わせたに過ぎず、当業者が容易に発明をすることができた発明であると主張し、その具体的根拠として、甲第11号証には、本件発明1における陽極と同じ構成の陽極、及びその電気冶金、電気メッキへの適用が記載されており、一方、これと技術分野が共通である甲第4、10号証には、酸素発生を伴う電解に用いる陽極が記載されており、また、甲第5〜8号証には本件発明1、5及び7の電解条件が記載されていると主張している。
以下、これについて判断する。
本件発明1と甲第11号証に記載されたものとを対比すると、甲第11号証には、チタン・・・からなる群より選択された金属の金属基材とアノード活性層とからなる電極であって、そのアノード活性層は350℃を越える温度の酸化雰囲気中で加熱することにより作られたものであり、そのアノード活性層と基材との間にはタンタルの層または金属タンタルを50%以上含む合金の層が設けられている電極(摘記A11-1)に係る発明が記載され、併せて、アノード活性層は白金およびイリジウムを含み、イリジウム分の一部または全部が酸化物の形で存在すること(摘記A11-1)、チタンおよびニオブからなる群より選択された金属の金属基材の上に、タンタルの層または金属タンタルを50%以上含む合金の層を形成し、析出してアノード活性層を形成する化合物を上記タンタルまたはタンタル合金層へ適用し、その化合物および基材を350℃を越える温度の酸化雰囲気中で、該化合物が分解してアノード活性物質の層を生成するに足る時間にわたり加熱することからなる電極の製法(摘記A11-2)、アノード活性層は、白金族金属、または白金族金属酸化物を含んでいてよく、アノード活性層は白金およびイリジウムを含むのが好ましく、また、イリジウムの一部または全部は酸化イリジウムの形で存在してもよいこと(摘記A11-2)、このアノードは鋼または鉄を含む構造物を陰極防食するための陰極防食用アノードとして機能しうるものであり、地中埋設構造物を保護するために大地床中で使用でき、また、希塩水から飲料水を製造するため等の電解槽で使用できること(摘記A11-4)、「白金族金属」とは、白金、イリジウムの金属、およびそれらの酸化物を包含した意味を有すること(摘記A11-5)、pH1の稀塩化物溶液中に浸漬された白金金属の損耗速度の測定試験を430A/m2(0.43kA/m2)及び1076A/m2(1.076kA/m2)の電流密度で行ったこと(摘記A11-7)、タンタル層の酸による下側浸食(アンダーマイニング)に対する高抵抗性は、白金被覆の下側浸食(アンダーマイニング)をも防止すること(摘記A11-8)、及び、この電極が陰極防食に使用する以外に電気冶金、電気メッキ、次亜塩素酸塩製造、塩素酸塩製造またはその他必要な電気化学的用途のために用いられること(摘記A11-9)が記載されている。但し、甲第11号証に記載された上記の損耗速度の測定試験(摘記A11-7)は、稀塩化物溶液中で行った試験であって、メッキ浴を用いたものではない。また、電解ないし電気メッキを、陽極及び陰極を設けた電解槽内で行うことは、甲第1号証にも記載のとおり、本件出願前から周知の事項である。
以上のことからすると、本件発明1は、甲第11号証に記載された発明と、少なくとも1個の陽極と少なくとも1個の陰極とを設けた電解槽内で酸性の水性電解液を電解することからなる電解法において、上記陽極として、チタンまたはチタン合金製の支持体(基材)の表面上にタンタルまたはタンタル合金製の外方表面層を設け且つ該外方表面層の上に酸化イリジウムよりなる電気触媒的活性物質の被覆、あるいは白金と酸化イリジウムとの混合物よりなる電気触媒的活性物質の被覆を設けてなる陽極を使用することを特徴とする陽極の長時間の耐用寿命を有する電解法、の点で一致し、そして、
(イ)本件発明1における電解は、亜鉛化合物又は錫化合物を溶解、含有する電解液を電解する工業的な電気亜鉛メッキ又は電気錫メッキであるのに対して、甲第11号証には、電解の例として「電気メッキ」が挙げられているものの、工業的な電気亜鉛メッキ又は電気錫メッキの記載は見当たらない点、及び、
(ロ)本件発明1における電気亜鉛メッキ及び電気錫メッキにおける電解は、「電解液のpHは5又はそれ以下の強酸性のpH値であり、50〜70℃の電解液温度で、10キロアンペア/m2〜40キロアンペア/m2の陽極電流密度にて電流を流し、陽極における多量の酸素発生を伴なう過酷な電解操作条件下」で行うものであるのに対して、甲第11号証には、そのようなメッキ電解操作条件の記載が見当たらない点、
の各点において、本件発明1は甲第11号証に記載された発明と相違している。

そこで、これら相違点(イ)及び(ロ)について、以下検討する。
請求人がメッキ金属を含む電解条件の公知性立証の証拠とする甲第4〜8、10号証について検討すると、甲第4号証には、特定構造の酸素発生用電極の発明(摘記A4-1)が記載されるとともに、電解工業においては、めっきなど酸素発生を伴う場合があること(摘記A4-3)が記載され、また、甲第10号証には、酸素発生を伴う電解に耐久性を有する特定構造の電解用電極の発明(摘記A10-1)が記載されるとともに、陽極に酸素が発生する電解プロセスとして電気メッキ等の分野があること(摘記A10-3)が例示されている。しかし、これら甲第4、10号証には、上記電極について、種々の金属ないし合金の電気メッキのうち、亜鉛又は錫の電気メッキに適用することの記載はなく、また、甲第4、10号証に記載された酸素発生を伴う電解条件が、本件発明1における上記特定のpH値、電解液温度及び電流密度を意味することを開示する記載は見当たらない。また、甲第4、10号証に記載の電極は、その中間層が特定の酸化物から構成されるものであって、「タンタルまたはタンタル合金製の外方表面層」を中間層とする本件発明1における陽極とはその電極構造が相違するものであることからすると、甲第4、10号証の記載の電極が酸素発生条件下で使用されるものであるとしても、そのことが、構造が相違する本件発明1における陽極が、同じく酸素発生条件下で使用されることを意味すると直ちに言うことはできない。
また、甲第5号証には、スルファミン酸亜鉛18g/l以上溶解限以内、スルファミン酸鉄20g/l以上溶解限以内まで含有するスルファミン酸浴を用い、pH0.8〜2.3、電流密度60〜200A/dm2、浴温30〜80℃の条件下で不溶性陽極を用い、鋼材上に高耐食性鉄-亜鉛合金めっきを施す鉄-亜鉛合金めっき鋼材の製造法(摘記A5-1)の発明が記載され、甲第6号証には、Ni2+イオン濃度25g/l以上、Zn2+イオン濃度25g/l以上で、かつ、Ni2+/(Zn2++Ni2+)のモル濃度比が0.4以上0.6未満の組成の硫酸鉛浴を用い、めっき液流速1.5m/s以上で鋼板の走行方向に対向して、極間に液を流し、不溶性陽極により電流密度100A/dm2以上でめっきを行うZn-Ni合金めっき鋼板の製造方法(摘記A6-1)の発明が記載されるとともに、その実施例において、ZnSO4・7H2O 0.9mol/l、NiSO4・8H2O 1.1mol/lを含有するめっき液を用い、白金不溶性陽極を用いて、pH2、浴温55℃、ラインスピード30mpm、電流密度200A/dm2の条件で、Zn-Ni合金めっきを行ったことが記載され(摘記A6-2)、甲第7号証には、硫酸亜鉛を10g/l以上溶解限まで、硫酸第1鉄を100g/l以上溶解限まで、及び硫酸アンモニウム10g/l以上溶解限まで含有する硫酸鉛浴を用い、pH2.3以下、電流密度60〜200A/dm2、浴温30〜80℃の条件下でかつ、対極として不溶性陽極を用いることにより鋼板に高速で鉄-亜鉛合金めっきを施す鉄-亜鉛合金めっき鋼板の製造法(摘記A7-1)の発明が記載され、また、甲第8号証には、耐蝕性電導性基体表面上の少なくとも1部に電極反応体が被覆された電解用電極において、該電極反応体の成分がイリジウム含量で40〜99原子%の酸化イリジウムとこれに対しマンガン及びコバルトがその含量で1〜60原子%の酸化マンガン及びコバルトのうち少なくとも1種から成る電解用電極(摘記A8-1)の発明が記載されるとともに、その実施例において、チタン基体表面に酸化イリジウム及び酸化マンガンを含む被覆層を有する電極(実施例電極1-2)、及び、チタン基体表面に酸化イリジウム、酸化マンガン及び酸化コバルトを含む被覆層を有する電極(実施例電極1-3)を作成後、60℃の1M/l硫酸水溶液で400A/dm2の電流密度の条件で、電極電位の測定試験を行ったこと(摘記A8-2)が記載されている。
しかし、これら甲第5〜8号証に記載について精査すると、甲第5号証に記載の発明は、特定のスルファミン酸浴からの鉄-亜鉛合金メッキを対象としたものであって、亜鉛メッキまたは錫メッキを対象としたものではなく、そして、当該甲第5号証に記載された鉄-亜鉛合金メッキの電解条件が、そのまま直ちに、亜鉛メッキまたは錫メッキに適用できると認めうる記載も見あたらない。また、本件発明1では、「10キロアンペア/m2〜40キロアンペア/m2の陽極電流密度」のとおり、その陽極電流密度を規定したものであるのに対して、当該甲第5号証では、単に「電流密度」と記載されるにとどまり、陰極電流密度、陽極電流密度のいずれか明らかでなく、そしてこれを、陽極電流密度と解すべき特段の根拠も見あたらない。また、甲第6号証は特定のNi2+イオン濃度及びZn2+イオン濃度のメッキ浴からのZn-Ni合金めっきを対象としたものであり、本件発明1に係る陽極電流密度の記載はなく、甲第7号証は特定の浴組成のメッキ浴からの鉄-亜鉛合金めっきを対象としたものであり、本件発明1に係る陽極電流密度の記載はなく、そして、甲第8号証は本件発明1に係る陽極とは構造が相違する別異の構造の陽極を対象とし、そしてその陽極を、メッキ浴ではなく、実験用の硫酸水溶液での電位測定を行ったことを記載したものである。よって、以上のことからすると、これら甲第5〜8号証には、本件発明1で規定する電気亜鉛メッキまたは電気錫メッキの電解操作条件が記載されていると言うことはできない。
そして一方、甲第11号証の記載を見ると、当該甲第11号証に係る陽極損耗速度の測定試験は、稀塩化物溶液中で行われたものであって(摘記A11-7)、電気メッキ浴によるものではなく、また、その電流密度は430A/m2または1076A/m2(摘記A11-7)であって、本件発明1の陽極電流密度(10キロアンペア/m2〜40キロアンペア/m2)に満たないものである。したがって、甲第11号証には、本件発明1で規定する電解操作条件で電気メッキを行うことの記載があるとすることはできない。そして、他の甲号証の記載を見ても、上記相違点(イ)に係る電気亜鉛メッキまたは電気錫メッキを、上記相違点(ロ)に係る電解操作条件下で行うことの記載は見あたらない。
してみれば、甲第11号証に記載された発明と、甲第4〜8及び10号証、並びにこれ以外の他の甲号証に記載された発明、或いはこれにより立証される公知事項に基いたとしても、本件発明1については、当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない。
なおかつ、本件発明1は、上記相違点(イ)及び(ロ)に係る構成を含む前記認定の構成を有することにより、陽極で多量の酸素発生を伴う苛酷な電解条件下で陽極の長い活性寿命を有する電気亜鉛メッキ法および電気錫メッキ法が達成されるという、明細書に記載された効果を奏したものと認めることができる。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第11号証に記載された公知の電極と、甲第4〜8、10号証はじめ他の甲号証に示される公知の電解操作条件に基づき、単に公知の操業条件と公知の電極を組合わせたに過ぎず、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとの、請求人の上記主張は採用することができない。

2.本件発明5及び7について
本件発明5及び7は、請求項1またはその下位の請求項を引用して、本件発明1を電気触媒的活性物質の量(本件発明5)または水性電解液のpH(本件発明7)の点で特定して、さらに限定した発明であるから、上記「本件発明1について」の欄に記載したと同様、甲第11号証に記載された公知の電極と、甲第4〜8、10号証はじめ他の甲号証に示される公知の電解操作条件に基づき、単に公知の操業条件と公知の電極を組合わせたに過ぎず、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとの、請求人の上記主張は採用することができない。

(V-4)甲第9号証と他の甲号証との組合せについて
1.本件発明1について
本件発明1と、甲第9号証に記載されたものとを対比すると、甲第9号証には、有機酸またはその塩を含む電解液を用いて金属を電解処理する方法において、給電を液体給電法により行い、液体給電用陽極として、耐蝕性基体上にイリジウム酸化物を主体とした電極被覆を有する不溶性陽極を用いる金属の電解処理法(摘記A9-1)に係る発明が記載されており、併せて、電極被覆がIr酸化物を主体とした陽極は、電解液中の有機酸自体の望ましくない電気化学反応が起こらない程度に、十分酸素発生電位が低く、かつ、使用条件下で優れた耐蝕性を有し、長期の工業的使用に十分耐えるものであることが判明したこと(摘記A9-3)、当該不溶性陽極は、Ti、Ta、Nb等の弁金属で代表される耐蝕性金属基体上に、イリジウム酸化物を被覆して構成されること(摘記A9-4)、及び、Al箔の電解酸化の場合について、アジピン酸アンモニウム等の有機酸塩の濃度を5〜200g/lとした電解液を用い、温度10〜60℃、電流密度1〜20A/dm2で実施されること(摘記A9-5)が記載されている。
以上のことからすると、本件発明1は、甲第9号証に記載された発明と、
少なくとも1個の陽極と少なくとも1個の陰極とを設けた電解槽内で、酸性の水性電解液を電解することからなる電解法において、タンタルまたはタンタル合金製の支持体(基材)の上に酸化イリジウムよりなる電気触媒的活性物質の被覆、あるいは白金と酸化イリジウムとの混合物よりなる電気触媒的活性物質の被覆を設けてなる陽極を使用することを特徴とする、陽極の長時間の耐用寿命を有する電解法、の点で一致し、そして、
(i)本件発明1は、亜鉛化合物又は錫化合物を溶解、含有する水溶液からの工業的な電気亜鉛メッキ法または電気錫メッキ法に係る発明であるのに対して、甲第9号証には、当該甲号証に記載された陽極を、電気亜鉛又は錫メッキ法に用いる陽極として適用することの記載が見あたらない点、及び、
(ii)本件発明1では、上記の電気亜鉛又は錫メッキを、「電解液のpHはpH5又はそれ以下の強酸性のpH値であり、50〜70℃の電解液温度で、10キロアンペア/m2〜40キロアンペア/m2の陽極電流密度にて電流を流し、陽極における多量の酸素発生を伴なう過酷な電解操作条件下」で行うものであるのに対して、甲第9号証にはそのような電解操作条件の記載が見あたらない点、の各点において、本件発明1は、甲第9号証に記載された発明と相違している。

そこで、これら相違点(i)及び(ii)について、以下検討する。
上記各相違点に関し、請求人は、本件発明1は、甲第9号証に記載された陽極と、甲第4又は10号証に記載された陽極とを置換することにより、当業者が容易に発明をすることができた発明であると主張している。
しかし、これについて検討すると、甲第9号証に記載された上記構造の陽極と、甲第4及び10号証に記載された陽極の構造とは相違し、そして、甲第4又は10号証には、それらの発明における陽極に代えて、甲第9号証に記載された陽極に置換することを示唆する記載も見あたらず、しかも、甲第9号証には、金属の電解処理、酸化被膜形成、電解エッチング等の表面処理、及び金属部材の電解処理(摘記A9-2)についての記載が認められるものの、電気亜鉛メッキ又は電気錫メッキの陽極に適用することの記載は見あたらない。
してみれば、たとえ甲第9号証に、本件発明1と同じ構成の陽極が記載されているといえど、これを、上記甲第4号証又は甲第10号証に記載された発明における陽極と置換し、上記相違点(i)及び(ii)に係る相違点に係る構成とすることを、当業者が容易に想到できたとすることはできない。そしてなおかつ、上記以外の他の甲号証を見ても、甲第9号証に記載された陽極を、上記相違点(ii)に係る過酷な電解操作条件下で電解を行う工業的な電気亜鉛メッキ法または電気錫メッキ法において用いる陽極に使用することを開示する記載は見当たらない。
そして本件発明1は、上記相違点(i)及び(ii)に係る構成を含む前記認定の構成を有することにより、陽極で多量の酸素発生を伴う苛酷な電解条件下で陽極の長い活性寿命を有する電気亜鉛メッキ法および電気錫メッキ法が達成されるという、明細書に記載された効果を奏したものと認めることができる。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第9号証に記載された陽極と、甲第4又は10号証に記載された陽極とを置換することにより、甲第9号証に記載された発明と甲第4、10号証及び他の甲号証に記載された発明とに基いて当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない。

2.本件発明5及び7について
本件発明5及び7は、請求項1またはその下位の請求項を引用して、本件発明1を電気触媒的活性物質の量(本件発明5)または水性電解液のpH(本件発明7)の点で特定して、さらに限定した発明であるから、上記「本件発明1について」の欄に記載したと同様、甲第9号証に記載された陽極と、甲第4又は10号証に記載された陽極とを置換することにより、甲第9号証に記載された発明と甲第4、10号証、及び他の甲号証に記載された発明とに基いて当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない。

また、上記(V-1)〜(V-4)のほか、本件発明1、5及び7について、甲第1〜12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明とする理由は見あたらない。なお、請求人が提示した各付属資料、参考資料については、証拠の記載事項の要点、手続の経緯ないし技術的背景等を説明するものであって、当審の上記判断を変更するものとすることはできない。

VI.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1、5及び7に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-10-07 
結審通知日 2003-10-10 
審決日 2003-11-05 
出願番号 特願平2-29769
審決分類 P 1 122・ 121- Y (C25D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 酒井 美知子  
特許庁審判長 池田 正人
特許庁審判官 城所 宏
三崎 仁
登録日 2000-10-27 
登録番号 特許第3123744号(P3123744)
発明の名称 電解法  
代理人 溝上 哲也  
代理人 滝井 朋子  
代理人 溝上 満好  
代理人 岩原 義則  
代理人 門多 透  

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