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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H
管理番号 1126525
審判番号 不服2001-21886  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-12-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-12-06 
確定日 2005-10-28 
事件の表示 平成11年特許願第161249号「デジタルオーディオ用帯域制限アナログフィルタ及びこれを用いた音声信号増幅装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月15日出願公開、特開2000-349579〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.(手続きの経緯・本願発明の要旨)
本願は、平成11年6月8日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成13年8月27日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「所定の周波数で標本化されたデジタルオーディオ信号をアナログ信号に変換するD/A変換器の出力側に接続され、その帯域を制限するアナログフィルタにおいて、前記標本化周波数をfs とすると、遮断周波数fc が夫々fs ,2fs ,3fs ・・・nfs (nは2以上の整数)に相当する周波数のn段の帯域減衰フィルタ回路を有し、サンプリング周波数の自然数倍の上下側波帯成分を制限するようにしたことを特徴とするデジタルオーディオ用帯域制限アナログフィルタ。」

2.(引用例)
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、特開平2-54624号公報(以下、引用例1という。)には、(従来技術とその問題点)、(発明の構成)及び図面に係わる記載を参照すると、以下のような技術的事項の記載が認められる。
「DA変換器2の出力の階段状アナログ波形Bの周波数スペクトラムを第3図に示す。第3図に示すように、DA変換器2の出力波形Bは上限周波数をfuとする必要周波数成分aと、周波数fs,2fs・・・・を中心とする不要高調波成分b1,b2・・・・とからなっている。すなわち希望するアナログ信号波形Cの周波数成分はaのみである。従ってDA変換器2の出力側に第3図の点線cで示されているような特性を有する低域ろ波器3を挿入することによって不要高調波成分b1,b2・・・・が除去された希望のアナログ信号波形Cが得られる。この低域ろ波器3は非常に重要なものであるが、希望の減衰特性を得るためには素子数が多くなり回路が複雑になる等の問題があり、室温特性として実現しても温度特性や経年変化に十分に注意を払わねばならないため高価になるという問題がある。」(第2頁左上欄第13行〜右上欄第9行、第3図参照)及び「周波数スペクトル上に現れる希望とするアナログ信号a以外の不要な高調波信号成分(b1,b2,・・・)および(d1,d2,・・・)はディジタル信号に特有なものであり、これは「折り返し雑音」と呼ばれている。・・・(中略)・・・第4図において、4は、1標本周期(T=1/fs)のディジタル遅延素子又は回路である。」(第2頁右下欄第3行〜第18行、第3〜6図参照)
以上の記載によれば、この引用例1には以下のような発明が開示されていると認められる。
所定の周波数で標本化されたデジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換器の出力側に設けられ、前記標本化周波数をfs とすると、周波数fs,2fs・・・・を中心とする不要高調波成分b1,b2・・・・を除去し、希望する周波数成分aを通過させる低域ろ波器。
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、実願昭57-56507号(実開昭58-1596282号)の内容を撮影したマイクロフィルム(以下、引用例2という。)には、その実施例と図面及びこれに係わる記載を参照すると、以下のような技術的事項の記載が認められる。
「この考案はデイジタルオーデイオ再生装置において、アパーチャ回路の出力PAM(Pulse Amplitude Modulation)波から目的とする基本波(オーデイオ信号)を抽出するためのフィルタ回路に関し、従来急峻な遮断特性を持つローパスフィルタで構成していたものを、帯域除去フィルタとローパスフィルタの縦続接続で構成し、帯域除去フィルタでノイズ成分中最もレベルが高いサンプリング周波数成分を予め除去することにより、後段のローパスフィルタの負担を軽減したものである。」(第1頁第10行〜第2頁第4行)、「アパーチャ回路3の出力信号はサンプリング周波数ごとに所定区間t0だけ原信号のレベルに立上る信号(すなわちPAM波)であり、目的とする基本波(オーデイオ信号)以外に、サンプリング信号による多くの高い周波数成分を含んでいる。この高い周波数成分は可聴帯域外にあり、特に除去しなくても音響信号を再生することは可能である。しかし、この後に続く回路にわずかでも非直線性があれば混変調が発生し、高品質のオーデイオ信号が得られなくなる。そこで、アパーチャ回路3の出力信号をローパスフィルタ4に通すことによって、上記の高い周波数成分を除去するようにしている。」(第3頁第8行〜第20行)及び「第5図において、記録媒体から再生されたデイジタル信号は信号処理回路1で符号訂正等の処理が行われた後、D/A変換器2で階段状のアナログ信号に変換される。D/A変換器2の出力はアパーチャ回路3において、グリッジが除去されてPAM波となり、サンプリング除去フィルタ7に入力される。サンプリング除去フィルタ7は帯域除去フィルタで、サンプリング周波数を除去するように設計されている。サンプリング周波数除去フィルタ7の出力はローパスフィルタ4’に入力されて残りのノイズが除去される。・・・(中略)・・・上記のような構成によれば、PAM波に含まれるノイズ中最もレベルの大きいサンプリング周波数成分がサンプリング周波数除去フィルタ7で除去されるので、ローパスフィルタ4’の負担を軽減できる。したがって、その次数を低くすることができ、設計が容易になる。また、ローパスフィルタ4’の最大入力信号レベルが従来と同様に制限されているとしても、ノイズ中最もレベルの大きいサンプリング周波数成分がサンプリング周波数除去フィルタ7で除去されるので、その分ローパスフィルタ4’の入力信号中の基本波(オーデイオ信号)成分を大きくとることができ、ダイナミックレンジを大きくとることができる、更には、サンプリング周波数除去フィルタ7自体は、サンプリング周波数が水晶発振器を用いて作られその周波数精度はすこぶる良好であるので、Qを高くしても周波数精度だけ合わせてやればドリフト等の心配は不要であり、パッシブフィルタを用いてもダイナミックレンジ、歪とも問題にならない程度にできる。したがって、従来のローパスフィルタのみを用いたものに較べて、全体としてコストを下げることも可能となる。」(第6頁第3行〜第7頁第20行、第5図参照)

3.(対 比)
そこで、本願請求項1に係る発明と上記引用例1記載のものとを対比すると、引用例1記載の「ディジタル信号」、「DA変換器」、「周波数fs,2fs・・・・を中心とする不要高調波成分b1,b2・・・・」及び「低域ろ波器」は、それぞれ本願請求項1に係る発明の「デジタル信号」、「D/A変換器」、「サンプリング周波数の自然数倍の上下側波帯成分」及び「帯域制限アナログフィルタ」に相当するものであるから、
両者は、
所定の周波数で標本化されたデジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換器の出力側に接続され、サンプリング周波数の自然数倍の上下側波帯成分を制限する帯域制限アナログフィルタ。
で一致するものであり、次の点で相違している。
相違点:
(1)本願請求項1に係る発明では、アナログ信号に変換するデジタル信号が「デジタルオーディオ信号」であるのに対し、引用例1記載のものは、アナログ信号に変換するデジタル信号が「オーディオ信号」であることについて記載されていない点
(2)サンプリング周波数の自然数倍の上下側波帯成分を制限するための帯域制限アナログフィルタが、本願請求項1に係る発明では、「標本化周波数をfs とすると、遮断周波数fc が夫々fs ,2fs ,3fs ・・・nfs (nは2以上の整数)に相当する周波数のn段の帯域減衰フィルタ回路を有する」ものであるのに対し、引用例1記載のものは、「低域ろ波器」である点

4.(当審の判断)
そこで、上記相違点について検討する。
相違点(1)について
D/A変換されたオーデイオ再生信号から目的とする基本波(オーデイオ信号)以外のサンプリング信号による多くの高い周波数成分をフィルタにより除去することは、上記引用例2に記載されている。
そして、上記引用例1に記載された、D/A変換器の出力に含まれる高調波成分はデジタル信号をアナログ信号に変換する際に特有な雑音であり、このようなデジタル信号には当然デジタルオーデイオ信号も含まれるものであるから、アナログ信号に変換するデジタル信号をデジタルオーデイオ信号に限定するようにした点は、単なる設計的事項にすぎない。

相違点(2)について、
D/A変換されたオーデイオ再生信号から目的とする基本波(オーデイオ信号)以外のサンプリング信号による多くの不要高周波成分を帯域除去フィルタとローパスフィルタを縦続接続したフィルタにより除去することは、上記引用例2に記載されている。
そして、音声記録再生装置、音声信号伝送装置において、信号を周波数分析して除去する周波数範囲を特定し、いくつかの帯域除去フィルタ(帯域減衰フィルタ)を組み合わせたフィルタにより、信号の周波数成分中の特定領域を除去することは、本出願前周知である(特開平6-188849号公報、特開平10-91199号公報等参照)。
したがって、サンプリング周波数の自然数倍の上下側波帯成分を制限するためのフィルタとして上記引用例1記載の低域ろ波器に代えて、標本化周波数をfs とすると、遮断周波数fc が夫々fs ,2fs ,3fs ・・・nfs (nは2以上の整数)に相当する周波数のn段の帯域減衰フィルタ回路を有するフィルタとすることに格別の困難性を認めることはできない。

なお、請求人は審判請求書において、本発明は、サンプリング周波数の整数倍の上下に広がる側波帯成分が、最も広いと考えられるオーケストラであってもサンプリング周波数の整数倍の上下の比較的狭い範囲に集中して存在していることに着目することにより、サンプリング周波数の整数倍の帯域を制限する帯域制限フィルタを設けることによって高調波成分を除去することができるようにようになったもので、これによりローパスフィルタを高調波の主たる除去手段として用いることが不要となり、位相特性を大幅に改善することができるという顕著な効果が得られると主張している。
しかしながら、上記引用例1にはサンプリング周波数の整数倍の上下の比較的狭い範囲に集中して広がる側波帯成分が不要であることが示されており、単にサンプリング周波数の整数倍の帯域を制限する帯域制限フィルタによって高調波成分を除去するという構成は、上記判断で述べたように当業者が容易に推考し得ることにすぎない。
そして、本願請求項1に係る発明における帯域減衰フィルタは、その遮断周波数しか限定されておらず、その選択度、位相等の特性を特定しているものではないから、ローパスフィルタを高調波の主たる除去手段として用いるものに対して、一概に位相特性を大幅に改善することができる顕著な効果とは認められず、上記主張は採用できない。

5.(むすび)
したがって、本願請求項1に係る発明は、上記引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-11-11 
結審通知日 2004-11-16 
審決日 2004-11-29 
出願番号 特願平11-161249
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 正明  
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 矢島 伸一
和田 志郎
発明の名称 デジタルオーディオ用帯域制限アナログフィルタ及びこれを用いた音声信号増幅装置  
代理人 岡本 宜喜  

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