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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1126527 |
審判番号 | 不服2003-7205 |
総通号数 | 73 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-05-18 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-04-25 |
確定日 | 2005-11-11 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第316516号「インクジェット式記録ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月18日出願公開、特開平11-129477〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成9年10月31日の出願であって、平成15年3月25日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年4月25日付けで本件審判請求がされるとともに、同年5月23日付けで明細書についての手続補正(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成15年5月23日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正事項 本件補正前後の特許請求の範囲の記載を比較すると、本件補正前の請求項1〜4では、第2圧力発生室は凹部により形成されたものである旨限定しているが、同限定は本件補正後の請求項1には同限定がない。 2.補正目的の検討 上記補正事項によれば、本件補正後の請求項1〜3は本件補正前の請求項1〜4のいずれを限定的に減縮したものでもない(特許法17条の2第4項2号非該当)。 上記補正事項が、誤記の訂正(特許法17条の2第4項3号)又は明りようでない記載の釈明(同4号)のいずれにも該当しないことは明らかである。 したがって、本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反している。 3.補正の却下の決定のむすび 本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反しているから、その余の補正要件について検討するまでもなく、平成14年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。 よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本件審判請求についての判断 1.本願発明の認定 本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明は、平成14年10月28日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「弾性板と、流路形成基板と、ノズル開口を備えたノズルプレートとを積層して構成された流路ユニットと、圧力発生手段とを備えたインクジェット式記録ヘッドにおいて、 前記流路形成基板が、リザーバと、圧力発生手段側に形成された凹部からなる第1圧力発生室と、前記第1圧力発生室とリザーバとを接続するインク供給口と、前記第1圧力発生室と上下関係となるように凹部により形成され、前記第1圧力発生室に形成された圧力発生室接続口を介して前記リザーバに連通する第2圧力発生室と、前記第1、及び第2圧力発生室のノズル開口に対向する位置に前記ノズル開口に連通するノズル連通孔とを有するインクジェット式記録ヘッド。」(以下、「本願発明」という。) 2.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-112156号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア、イの記載がある。 ア.「インクジェット記録装置は、複数のインク噴射口、これらインク噴射口にそれぞれ連結された圧力室、これら圧力室の近傍に固定された圧電セラミックス素子10及び圧力室にインクを供給するためのインク供給口11を有するプリンタヘッド12と、このプリンタヘッド12にインク供給パイプ13を通じてインク14を供給するインク溜り部15と、圧電セラミックス素子10に対して所定電圧のパルスを供給するパルス発生器16により構成され、記録紙17に対してプリンタヘッド12からインク滴18を噴出する。第4図(a),(b)はこのインク滴18の噴射原理を示すものである。プリンタヘッド12は、通常複数のインク噴射口19を有しているが、第4図(a),(b)はそのうちの1個所の断面を示す図である。同図(a)のようにインク14はインク供給口11から圧力室20に供給される。圧力室20では圧電セラミックス素子10がパルス発生器16からのパルスにより電圧が印加される事により、上部プレート20aが同図(b)のようにたわみ、その結果インク滴18を噴射するための推進力が得られ、これによりインク噴射口19からインク滴18が発射される。なお、圧力室20の下部には、インク14の供給を補助するためにバイパス21が設けられている。」(1頁右下欄6行〜2頁左上欄12行) イ.第3図にインクジェット記録装置を示す構成図が記載され、第4図(a),(b)にプリンタヘッド12の噴射前と噴射時の各断面図が記載され、当該各断面図には、インク供給口11とインク噴射口19相互の間を結ぶ直線上に位置する圧力室20と、該圧力室20に対して平行に位置するバイパス21と、これらの圧力室20とバイパス21の両者を相互に連通する共にインク供給口11にも連通する通路(以下、「接続口」という。)とインク噴射口19の近傍位置に設けられ、圧力室20とバイパス21の両者を相互に連通する共にインク噴射口19にも連通する通路(以下、「連通孔」という。)とを有する圧力室20、バイパス21等が形成される部材が示されている。 以上の記載を含む引用例には以下の発明が記載されている。 「上部プレート20aと、圧力室20、バイパス21等が形成される部材とを積層して構成された部材と、圧電セラミック素子10とを備えたインクジェット記録装置のプリンタヘッド12において、 前記圧力室20、バイパス21等が形成される部材が、圧力室20と、インク溜り部15のインク14をインク供給パイプ13を通じて前記圧力室20に供給するインク供給口11と、前記圧力室20と上下関係となるように形成され、前記圧力室20と接続口を介して前記インク供給口11に連通するバイパス21と、インク噴射口19の近傍位置に設けられ、圧力室20とバイパス21の両者を相互に連通する共にインク噴射口19にも連通する連通孔とを有するインクジェット記録装置のプリンタヘッド12。」(以下、「引用発明」という) 3.対比・判断 本願発明と上記引用発明とを対比する。 ア.引用発明の「上部プレート20a」、「圧力室20、バイパス21等が形成される部材」、「圧電セラミック素子10」及び「インクジェット記録装置のプリンタヘッド12」は、それぞれ、本願発明の「弾性板」、「流路形成基板」、「圧力発生手段」及び「インクジェット式記録ヘッド」に相当し、引用発明の「上部プレート20aと、圧力室20、バイパス21等が形成される部材とを積層して構成された部材」は、「流路ユニット」ということができる。 イ.引用発明の「圧力室20」は、「圧電セラミック素子10(圧力発生手段)側にあるから、本願発明の「第1圧力発生室」とは圧力発生手段側に形成される圧力発生室として共通しており、また、引用発明のインク供給口11はインク供給部分にさらに連通しており、本願発明のリザーバはインク供給部分ということができるから、引用発明の「圧力室20と上下関係となるように形成され、前記圧力室20と接続口を介して前記インク供給口11に連通するバイパス21」と本願発明の「第2圧力発生室」とは、圧力発生手段側に形成された圧力発生室と上下関係となるように形成され、前記圧力発生室に形成された接続口を介してインク供給部分に連通するインク室として共通している。 ウ.引用発明の「インク溜り部15のインク14をインク供給パイプ13を通じて前記圧力室20に供給するインク供給口11」は、圧力発生室にインクを供給するインク供給口として、本願発明の「インク供給口」と共通している。 エ.引用発明の「インク噴射口19」と本願発明の「ノズル開口」とはインク滴の噴射口として共通しており、したがって、引用発明の「圧力室20とバイパス21の両者を相互に連通する共にインク噴射口19にも連通する連通孔」と本願発明の「第1、及び第2圧力発生室のノズル開口に対向する位置に前記ノズル開口に連通するノズル連通孔」とは、インク滴の噴射口に連通する連通孔として共通している。 なお、本願発明が、上記「圧力発生室」、「インク室」、「接続口」及び「連通孔」を、それぞれ、「第1圧力発生室」、「第2圧力発生室」、「圧力発生室接続口」及び「ノズル連通孔」と称していることは、単なる称呼上の問題にすぎないから、以下の一致点と相違点の認定には、より一般的用語である前者を使用した。 以上のことから、両者の一致点と相違点は、以下のとおりである。 [一致点] 「弾性板と、流路形成基板とを積層して構成された流路ユニットと、圧力発生手段とを備えたインクジェット式記録ヘッドにおいて、 前記流路形成基板が、圧力発生手段側に形成された圧力発生室と、前記圧力発生室にインクを供給するインク供給口と、前記圧力発生室と上下関係となるように形成され、前記圧力発生室に形成された接続口を介してインク供給部分に連通するインク室と、インク滴の噴射口に連通する連通孔とを有するインクジェット式記録ヘッド。」 [相違点] A.流路ユニットを、本願発明では、弾性板と、流路形成基板と、ノズル開口を備えたノズルプレートとを積層して構成しているのに対して、引用発明では、このような構成を備えていない点。 B.インク滴の噴射口に連通する連通孔(ノズル連通孔)が、本願発明では、圧力発生室(第1圧力発生室)及びインク室(第2圧力発生室)の前記インク滴の噴射口(ノズル開口)に対向する位置としているのに対して、引用発明では、インク噴射口19の近傍位置である点。 C.相互が上下関係となるように形成される圧力発生室とインク室の両者が、本願発明では凹部により形成されているのに対して、引用発明では凹部により形成されている否か定かでない点、 D.流路形成基板が、本願発明ではリザーバを有するのに対して、引用発明ではリザーバを有するか否か定かでない点、 E.本願発明では、圧力発生室にインクを供給するインク供給口がリザーバと接続しているのに対して、引用発明ではその点が定かでない点、 F.本願発明では、インク室が、圧力発生室に形成された接続口を介してリザーバに連通しているのに対して、引用発明では、その点が定かでない点。 [相違点の判断] ア.相違点Aについて、 インクジェット式記録ヘッドにおいて、流路ユニットを、弾性板と流路形成基板とノズル開口を備えたズルプレートとを積層して構成することは、先に通知した拒絶理由に引用した特開平9-226106号公報あるいは本件明細書で引用されている特開平9-123448号公報(以下、順に「周知例1」、「周知例2」という。)等にみられるように周知であり、当該構成を引用発明に採用することは、格別阻害要因がなく、当業者が想到容易であり、その作用効果も格別なものでない。 イ.相違点Bについて、 引用発明の連通孔(ノズル連通孔)は、インクの供給を補助する(上記2.ア.参照)、すなわち、インク噴射口19(ノズル開口)の近傍位置にあってインク滴の噴射によってなくなったインクがバイパス21(インク室)からリフィルされるためのものであるから、圧力室20(圧力発生室)、バイパス21(インク室)、連通孔(ノズル連通孔)及びインク噴射口19(ノズル開口)の相互間でインクが抵抗なくスムーズに流れるようにすることは、当業者が容易に想起することである。 また、引用発明において、流路ユニットを、弾性板と流路形成基板とノズル開口を備えたノズルプレートとを積層して構成することは、上述のとおり、当業者が容易に想到できることであり、その際、圧力室20(第1圧力発生室)、バイパス21(第2圧力発生室)、連通孔(ノズル連通孔)及びノズル開口(ノズルプレートの積層方向に開口される)の相互間でインクが抵抗なくスムーズに流れるようにするに当たって、ノズル開口に連通する連通孔(ノズル連通孔)が、圧力発生室(第1圧力発生室)及びインク室(第2圧力発生室)の前記ノズル開口に対向する位置となるようにすることも、当業者が通常の創作の範囲内で考えることにすぎない。 ウ.相違点Cについて、 相互が上下関係となるように形成される圧力発生室とインク室の両者を、凹部により形成することは、上記周知例1および2に記載されているように周知であり、当該構成を引用発明に採用することは、格別阻害要因がなく、当業者が想到容易であり、その作用効果も格別なものでない。 ウ.相違点D〜Fについて、 複数のインク滴の噴射口と該噴射口に対応して複数の圧力発生室を備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、インク溜まり部からのインクをインク供給パイプ等を通じて複数の圧力発生室に供給するための各圧力発生室に接続される各インク供給口と前記インク供給パイプ等(インク供給部)の間には、共通液室であるリザーバが接続されていることは、例えば、特開昭63-303751号公報、特開昭63-303753号公報及び上記周知例1、2みられるように周知かつ当然のことである(そうでなければ、複数の圧力発生室のうちの一部又は全部が変形しインク滴の噴射及びリフィルを行うことが難しい。)から、引用発明も、複数のインク滴の噴射口と該噴射口に対応して複数の圧力発生室を備えるインクジェット式記録ヘッドである(上記2.ア.参照)から、相違点D〜Fの構成を備えていることは自明であり、実質的な相違点でない。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-09-07 |
結審通知日 | 2005-09-14 |
審決日 | 2005-09-27 |
出願番号 | 特願平9-316516 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大元 修二、後藤 時男 |
特許庁審判長 |
番場 得造 |
特許庁審判官 |
砂川 克 谷山 稔男 |
発明の名称 | インクジェット式記録ヘッド |
代理人 | 木村 勝彦 |