• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200221437 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1126660
審判番号 不服2003-15918  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-07-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-18 
確定日 2005-11-10 
事件の表示 平成5年特許願第162547号「N-アセトニルベンズアミドおよびそれらを含有する殺菌性組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成6年7月12日出願公開、特開平6-192196〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成5年6月30日(パリ条約による優先権主張 1992年12月1日(アメリカ合衆国(US))の出願であって、その請求項1〜9に係る発明は、平成12年6月26日付け及び平成14年3月11日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜9に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】式:
【化1】

〔式中、
R1およびR3は、それぞれ独立的にハロであり;
R2は、(C1-C4)アルキル、(C2-C4)アルケニル、(C2-C6)アルキニル、(C1-C4)アルコキシまたはシアノであり;
R4およびR5は、独立的に(C1-C4)アルキルであり、ただし、R4、R5の少なくとも1つは、(C2-C4)アルキルであり;そして、Xは、ハロである〕
の化合物;または農業上許容できるそれらの塩。」

2.引用刊行物及び記載された事項
原査定の拒絶理由に引用された、本出願前に頒布された刊行物である欧州特許出願公開173453号明細書(以下、「引用刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。
記載事項1.「本願発明は、置換N-アセトニルベンズアミド及びそれらの殺菌剤としての使用に関する。
N-(1,1-ジアルキル-3-クロロアセトニル)置換ベンズアミドのようなベンズアミドが殺菌活性を有することは知られている。例えば、米国特許第3,661,991号明細書、及び同第3,751,239号明細書参照。しかしながら、末端の炭素が、塩素原子又は水素原子だけで置換されているような化合物は、植物に対して有害なため、植物に対する菌の植物感染の処理には実際上使用できない。
我々は今回、このようなN-クロロアセトニルベンズアミドの植物毒性が、アセトニル基の炭素上の置換基を、水素のみ又は塩素のみ以外のものに変更することにより、低減されることができることを驚くべきことに見出した。」(1頁2〜14行)
記載事項2.「葉又は土壌の植物生病原生物である菌類は、次式(I)の化合物の殺菌有効量を適用することによって防除することができる:

式中、Aは、水素、塩素、臭素、弗素、沃素、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、フルオロスルホニル(-FSO2)、メチル、エチル、フェニル、メトキシ、クロロメチル、[(C1-C2)-アルコキシ]カルボニル、シアノ及びヒドロキシ基であり、
A1及びBは、それぞれ独立して、水素、塩素、臭素、弗素及びメチル基から成る群から選ばれ、
Xは、臭素、沃素、弗素、シアノ、チオシアノ(-SCN)、イソチオシアノ(-NCS)、メチルスルホニルオキシ(-OSO2CH3)、チオ(C1-C2)-アルキル(-SR)、(C1-C2)-アルコキシ(-OR)、カルバモイル(-OC(O)NR3)、ジチオカルバモイル(-SC(S)NR3)、ヒドロキシ(-OH)、アジド(-N3)、[(C1-C4)-アルキル]カルボニルオキシ(-OC(O)R)、フェニルカルボニルオキシ(-OC(O)R4、ここでR4はフェニル基である)、フェノキシ、フェニルチオ、トリフルオロメチルカルボキシ、イミダゾリル又はトリアゾリル基であり、
Y及びZは、それぞれ独立して、水素、臭素、塩素、沃素、弗素、シアノ、チオシアノ(-SCN)、イソチオシアノ(-NCS)、メチルスルホニルオキシ(-OSO2CH3)、チオ(C1-C2)-アルキル(-SR)、(C1-C2)-アルコキシ(-OR)、カルバモイル(-OC(O)NR3)、ヒドロキシ(-OH)、アジド(-N3)又は[(C1-C4)アルキル]カルボニルオキシ(OC(O)R)基であり、また、Y又はZのいずれかはイミダゾリル又はトリアゾリル基であってもよく、
各Rは、独立して、アルキル基であり、
R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又は(C1-C6)-アルキル基であり、
R3は、水素又は(C1-C4)-アルキル基であり、好ましくは水素又は(C1-C2)-アルキル基であり、
Xがフェニルカルボニルオキシ、フェノキシ又はフェニルチオ置換基であるとき、そのフェニル部分は塩素、弗素、臭素、沃素又はメチル基から成る群から選ばれた1つの置換基で置換されていてもよい。
本願発明はまた、新規化合物として、上記式(I)の化合物を提供する。」(1頁15行〜2頁20行)
記載事項3.「本願発明は、式(I)の化合物が、従来技術である米国特許第3,661,991号明細書、及び同第3,751,239号明細書に記載されたベンズアミドによる植物に対する高有害性なしに、前述タイプの菌類、特に枯れ葉病(late blights)及びベト病(downy mildews)に対する防除に使用できることを見出した。」(6頁21〜27行)。
記載事項4.「表1

例 A A1 B X Y Z
1 3-Cl 5-Cl H Br H H
・・・
6 3-Cl 5-Cl H Br Br H」
(16頁表1)
記載事項5.「表3

例 A A1 B R1 R2 X Y Z
・・・
80 Cl Cl CH3 Me Et Br Br H」
(19頁表3)
記載事項6.「実施例87 例1-57(注、例1-86の誤記と認める。)の化合物の殺菌活性を試験した。これらの化合物は、キュウリのベト病〔cucumber downy mildew(Pseudoperonospora cubensis)〕及びトマトの葉枯れ病〔tomato late blight(Phytophthora infestans)〕に対する生体内の試験と、Pythium ultimum及びPhytophthora capsiciに対する生体外の試験が行われた。
A.キュウリのベト病(CDM)・・・その結果は、病気抑制の%として、表3(注、表5の誤記と認める。)に示され、・・・未処理の植物に比較した病気抑制の程度を表している。
B.トマトの枯れ葉病(TLB)・・・その結果は、病気抑制の%として、表3(注、表5の誤記と認める。)に示され、未処理植物に比較したときの病気の現出・兆候が欠如している処理植物(葉及び幹)の%を表す。
C.生体外試験・・・その結果は、対照コロニーの直径と試験用化合物の存在下で成長したコロニーの直径とから、以下のごとく計算した成長抑制の%として、表3(注、表5の誤記と認める。)に示す。・・・
表5
生体内(300ppm) 生体外(100ppm)
例 CDM TLB P.ultimum P.capsici
1 100 100 99 100
・・・
6 100 100 97 82
・・・
80 100** 95** 53 38
・・・
**-200ppmでの試験結果」(37頁下から6行〜42頁)
記載事項7.「実施例88 従来技術の3種の化合物、・・・、及び本願発明の数種の化合物(前記の例No.に相応する番号で示す)の植物への有毒性を、キュウリ及びトマトの成長高さの抑制を測定することによって決定した。・・・植物の成長を10%又は25%抑制させるのに要する試験用化合物の投薬量を、未処理対照の平均成長と比較して決定した。・・・その結果を表6に示す。
表6
成長抑制に必要な
% 化合物の量(ppm)
化合物 抑制 キュウリ トマト
・・・
1 10 >10,000 >10,000
25 >10,000 >10,000
6 10 >10,000 >10,000
25 >10,000 >10,000」
(43頁1行〜44頁)

3.対比・判断
本願発明は、高い殺菌活性及び比較的低い植物毒性を示し、植物に寄生する病原菌を防除するのに使用する化合物である(本願明細書段落【0001】、【0002】、【0013】及び【0058】参照)。
一方、引用刊行物には、本願発明と同様に、従来公知のN-アセトニルベンズアミドの植物毒性を低減させ、植物に対する高有害性なしに、菌類に対する防除に使用できる化合物として、下記式(I)で示されるN-アセトニルベンズアミドが記載されている(記載事項1〜3)。

そして、引用刊行物に記載された化合物(I)は、明らかに、上位概念で表現された発明(以下、「引用刊行物発明」という。)である。さらに、審判請求人も平成15年11月21日付けで補正された審判請求書(3)(d)において、「本発明の請求項1記載の化合物は、形式的には引用例中の上記(I)の化合物群に包含されるが、引用文献の実施例においては、本発明の請求項1記載の化合物と同一の化合物は開示されていない。」と主張するとおり、本願発明は、当該上位概念に含まれるが、引用刊行物には、本願発明に係る化合物の具体例が記載されていないという点で一応相違する。

ここで、引用文献において上位概念で表現された発明に対し、その上位概念に包含されている下位概念で表現された発明であっても、引用文献に開示されていない事項を発明の構成に欠くことができない事項として選択した発明、いわゆる、選択発明は、引用文献に記載されていない有利な効果であって、引用文献において上位概念で表現された発明が有する効果とは異質な効果、または同質の効果であるが際立って優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測できたものではないときは、進歩性を有するといえるので(特許・実用新案 審査基準 特許庁 平成5年6月 「2.7選択発明の進歩性の考え方」参照)、この観点から本願発明と引用刊行物発明について検討する。

引用刊行物には、引用刊行物発明の具体例として、例80に、下記式中、A及びA1が塩素、Bがメチル基、R1がメチル基、R2がエチル基、X及びYが臭素、Zが水素である化合物が記載されている(記載事項5)。

ここで、本願発明と例80の化合物とを比較すると、N-アセトニルベンズアミドの末端炭素上のハロゲン及び水素である置換基X、Y、Zにおいて、ハロゲンの数が、本願発明では1個であるのに対し、実施例80の化合物は2個である点で相違し、その他の置換基は同一である。
ところで、引用刊行物には、実施例87に、例1〜86の化合物が、殺菌活性を有することが示されるとともに、実施例88に、例1〜86の化合物のうち計5種の化合物について、従来公知の化合物に比べて植物に対する毒性が低下していることが示されており、そのうち、化合物1及び6は、N-アセトニルベンズアミドの末端炭素上の置換基が、化合物1では、H、H、Br、化合物6では、H、Br、Brである点のみが異なり、その他の置換基が同一である化合物であるが、植物に対する毒性が同等であることが示されている(記載事項4、7)。
このことから、N-アセトニルベンズアミドの末端炭素上の置換基が、水素及びハロゲンであり、ハロゲンの数が1個であるか2個であるかという点でのみ相違し、他の置換基が同一である化合物は、植物に対する毒性効果において差がないことが推認される。
また、引用刊行物発明は、N-クロロアセトニルベンズアミドの植物毒性を低減することを目的とするものであるから(指摘事項1、3)、例80の化合物も、当然、植物毒性が低減されたものである。
そうしてみると、引用刊行物発明において、殺菌活性を示し、かつ、植物毒性が低減した化合物として、例80の化合物の末端炭素上の置換基について、水素を2個、ハロゲンを1個にかえた化合物を検討することは、当業者が容易に想到し得ることであり、そのことによる高い殺菌活性及び低い植物毒性という効果も、上記実施例87及び88からみて、当業者が予測し得る範囲内のことと認められる。

さらに、審判請求人は、本願発明は引用刊行物発明に含まれることは認めるものの、上記例80の化合物の植物毒性が具体的に示されていないことをもって、本願発明は顕著な効果を奏する化合物を選択した発明である旨主張しているので、その点についても検討する。
本願発明には、種々の化合物が包含され、本願明細書には、N-アセトニルベンズアミドの置換基について、R2及びR4をかえた化合物の比較例は示されているものの、末端炭素上の置換基は、塩素のみであって、これをかえた比較例は示されておらず、末端炭素上の置換基を変更した場合、植物の毒性に対してどのような影響を及ぼすかは、本願明細書の記載からは理解することはできない(本願明細書段落【0053】〜【0058】参照)。一方、引用刊行物発明の目的からして、例80の化合物も、当然、植物毒性が低減されたものであり、末端炭素上のハロゲン及び水素である置換基のハロゲンの数の相違は、植物毒性に影響を及ぼさないことが推認されるから、例80の化合物との比較を示すことなく、本願発明が顕著な効果を奏するとする審判請求人の主張は採用することができない。よって、本願発明は、引用刊行物発明に対して、選択発明を構成するほどの効果の顕著性が示されているという審判請求人の主張は採用することができない。

したがって、本願発明は、引用刊行物発明から当業者が容易に想到することができたものであって、その効果も当業者が予測し得る範囲内のものといわざるを得ない。
よって、本願発明は、本出願前に頒布された引用刊行物に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願請求項2〜9に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-23 
結審通知日 2005-03-29 
審決日 2005-06-22 
出願番号 特願平5-162547
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 穴吹 智子  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 後藤 圭次
原田 隆興
発明の名称 N-アセトニルベンズアミドおよびそれらを含有する殺菌性組成物  
代理人 小林 純子  
代理人 片山 英二  
代理人 小林 浩  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ