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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) E02F
管理番号 1127048
審判番号 無効2004-35144  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-02-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-03-18 
確定日 2005-11-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第2649703号発明「ショベル系掘削機のフロントアタッチメント」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2649703号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
昭和63年 7月26日 出願
平成 9年 5月16日 登録
平成16年 3月18日 無効審判請求
6月 7日 答弁書
7月12日 審尋(請求人宛)
8月12日 弁駁書、審尋回答書、証人尋問申出書、検証申出書
10月 5日 答弁書(第二回)
10月 8日 検証物指示説明書
11月10日 第1回証拠調べ調書(検甲第一号証の検証調書)
11月11日 第2回証拠調べ調書(検甲第二号証の検証調書)
11月11日 第3回証拠調べ調書(白土、賢(正しく表記できないので、以下、「白土」と記載する。)、岡田邦宏、内田富男、三上昌彦の証人調書)
11月12日 第1回口頭審理調書及び第4回証拠調べ(高橋修司の証人調書)
12月22日 上申書(請求人)
12月24日 上申書(被請求人)

2.本件発明1
本件特許第2649703号の請求項1ないし3に係る発明のうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】ショベル系掘削機のアーム先端に取り付けた油圧シリンダで回動操作されるバケット本体と、このバケット本体に基端側を枢着した枠状の把持アームと、一端を上記バケット本体側に他端を上記把持アーム側に取り付けて伸縮作動で把持アームをバケット本体の開口縁へ開閉操作するシリンダとで構成され、上記バケット本体の開口縁と把持アームの内端縁にはそれぞれ凹凸状の下刃と上刃を設け、上記把持アームを閉じた状態でバケットによる掘削作業を行うと共に、上記把持アームの開閉でつかみ上げ作業を行うフロントアタッチメントにおいて、
上記把持アームは、両側枠板と当該両側枠板間を連結する傾斜状の先端枠板によって平面形状が略コ字状に形成され、この両側枠板は内端縁に設けた上刃が閉じた際に上記バケット本体の両側開口縁に設けた下刃の外側へオーバーラップする態様で不整合状態に配設され、当該両側枠板でバケット本体を両側から拘束させ、上記先端枠板は内端縁に設けた上刃が閉じた際に上記バケット本体の先端側開口縁に設けた下刃に噛合して当接する態様で整合状態に配設されると共に、当該先端枠板はバケット本体の先端側延長線上に沿った傾斜状態で先端側開口縁の前方へ突出する態様で配設され、上記把持アームを閉じた際に先端枠板がバケット本体の先端側開口縁の前方に段差のない連続した接合状態で連結させ、この把持アームの先端枠板には外端縁から突出する態様で掘削刃を設けたことを特徴とするショベル系掘削機のフロントアタッチメント。」

3.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明1が本件特許の出願前に公然知られかつ公然実施された掘削機a又は掘削機b、並びに、甲第五号証及び甲第六号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1についての特許は無効とすべきである旨主張し、証拠方法として、以下の甲第一号証ないし甲第一四号証を提出し、以下の検証及び証人尋問を申請した。

(甲各号証)
甲第一号証:掘削機aに関し、北海道キヤタピラー三菱建機販売株式会社(以下、単に「北海道キャタピラー三菱」という。)伊東猛により証明された証明願並びにそれに添付された伝票類及び写真
甲第一号証の2:掘削機aのカラー写真
甲第二号証:掘削機aに関し、有限会社ミユキ興産(以下、単に「ミユキ興産」という。)岡田久利により証明された証明願並びにそれに添付された伝票類及び写真
甲第三号証:掘削機bに関し、北海道キヤタピラー三菱、伊東猛により証明された証明願及びそれに添付された写真
甲第三号証の2:掘削機bのカラー写真
甲第四号証:掘削機bに関し、有限会社二光産業(以下、単に「二光産業」という。)高橋修により証明された証明願並びにそれに添付された伝票類及び写真
甲第五号証:実公昭43-9862号公報
甲第六号証:特開昭48-5201号公報
甲第七号証:本件特許に対する拒絶査定不服審判(平成6年審判第17128号)における審判請求理由補充書
甲第八号証「M/P BUCKETの全体図面」(縮小コピー:株式会社三上溶接工業所(以下、単に「三上溶接」という。)が保管)左上に「主務63.5.6内田」の押印あり
甲第八号証の二:「M/P BUCKETの全体図面」(原図:北海道キャタピラー三菱が保管)鉛筆書き
甲第九号証:「M/P BUCKETのパーツ図面 NO.1ないしNO.20」(コピー:三上溶接が保管)右下に「主務63.4.30内田」の押印あり
甲第九号証の二:「M/P BUCKETのパーツ図面 NO.1、NO.4、NO.7、NO.13、NO.17、NO.19」(原図:北海道キャタピラー三菱が保管)鉛筆書き、右下に「主務63.4.30内田」の押印あり
甲第十号証:「売上帳」(三上溶接)「昭和63年5月31日 E200B (二光 留萌との鉛筆書きあり) 1)マルチパーパスバケット」
甲第十一号証:「仕入帳」(三上溶接)「昭和63年5月20日 E200マルチパーパス用油圧シリンダーASSY」
甲第十二号証の一:新車受注伺書報告書(北海道キヤタピラー三菱社内の書類、顧客名:中道リース(山東))
甲第十二号証の二:車両請求書(控)(北海道キヤタピラー三菱社内の書類、中道リース宛)
甲第十二号証の三:注文書(北海道キヤタピラー三菱社内の書類、買主:山東)
甲第十二号証の四:受領証(北海道キヤタピラー三菱社内の書類、お客様名:中道リース(山東))
甲第十三号証の一:「新車受注伺書報告書」(北海道キャタピラー三菱社内の書類、顧客名:(有)二光産業)「機種E200B・・・関連製品 マルチパーパスバケット」
甲第十三号証の二:「新車受注伺書報告書」(北海道キャタピラー三菱社内の書類、顧客名:二光産業)支払の条件変更
甲第十三号証の三:「新車販売報告書」(北海道キャタピラー三菱社内の書類、顧客名:二光産業)「パッケージ番号 E200B-L80」
甲第十三号証の四:「注文書」(北海道キャタピラー三菱社内の書類、注文者:二光産業)「品名 キャタピラーE200Bパワーショベル・・・附属品名特殊加工内訳 マルチパーパスバケット」
甲第十三号証の五:「受領書」(北海道キャタピラー三菱社内の書類、受領者:二光産業)「機種 E200B」
甲第十四号証:内田富雄の陳述書

(検証)
検甲第一号証:掘削機a(ミユキ興産所有)
検甲第二号証:掘削機b(二光産業所有)

(証人尋問)
白土 賢(北海道キャタピラー三菱社員、シー・エイ・イー株式会社に出向中)
岡田邦宏(ミユキ興産取締役)
内田富男(元北海道キャタピラー三菱社員)
三上昌彦(三上溶接専務取締役)
高橋修司(二光産業代表取締役専務)

甲第三号証添付の写真、甲第三号証の2、甲第四号証添付の写真、検甲第二号証よれば、以下の掘削機が現存する。
「油圧ショベルのアーム先端に取り付けた油圧シリンダで回動操作されるバケット本体108と、このバケット本体に基端側を枢着した枠状の把持アーム114と、一端を上記バケット本体側に他端を上記把持アーム側に取り付けて伸縮作動で把持アームをバケット本体の開口縁へ開閉操作するシリンダとで構成され、上記バケット本体の開口縁と把持アームの内端縁にはそれぞれ凹凸状の下刃116,119と上刃117,120を設け、上記把持アーム114を閉じた状態でバケットによる掘削作業を行うと共に、上記把持アーム114の開閉でつかみ上げ作業を行う掘削機において、上記把持アーム114は、両側枠板114aと当該両側枠板間を連結する傾斜状の先端枠板114bによって平面形状が略コ字状に形成され、この両側枠板114aは内端縁に設けた上刃117が閉じた際に上記バケット本体108の両側開口縁に設けた下刃116に噛合して当接する態様で整合状態に配設され、上記先端枠板114bは内端縁に設けた上刃120が閉じた際に上記バケット本体108の先端側開口縁に設けた下刃119に噛合して当接する態様で整合状態に配設されると共に、当該先端枠板114はバケット本体108の先端側延長線上に沿った傾斜状態で先端側開口縁の前方へ突出する態様で配設され、上記把持アーム114を閉じた際に先端枠板114bがバケット本体108の先端側開口縁の前方に段差のない連続した接合状態で連結させ、この把持アーム114の先端枠板114bには外端縁から突出する態様で掘削刃121を設けた油圧ショベルの掘削機。」

甲第五号証(実公昭43-9862号公報)には、次のことが記載されている。
「本考案は、ドーザ、バケット、スキット三装置兼用のクラッチドーザバケット装置に係るものである。」(1頁左欄21ないし23行)、
「・・・バケット作業をする場合は、第4図に示すようにドーザボード4を、ドーザシリンダ6を縮めてドーザ位置決め穴9の位置に・・・入れ、ドーザシリンダ6を伸ばした状態でバケット作業を行なう。・・・スキット作業をする場合は第2図に示すようにドーザボード4をドーザ位置決め穴9にセットした状態でドーザシリンダ6の伸び縮みによりバケット本体5とドーザレバー3により物体をはさみスキット作業を行なう。」(1頁右欄下から4行ないし2頁下から5行)。
また、図面によれば、ドーザレバー3がバケット本体5の両側開口縁の外側へオーバーラップする態様で不整合状態に配設されたことが記載されている。

甲第六号証(特開昭48-5201号公報)には、次のことが記載されている。
「本発明は材料の取扱いに関し、特に掘削バケットとそれ用のアタッチメントに関する。」(1頁右下欄9ないし10行)、
「・・・バケット10は各々16、14で表示されヒンジピン15により互いに取外し可能に枢着された互いに補足的な前方及び後方バケット部分を含む。」(3頁左上欄11ないし14行)、
「・・・この閉鎖位置に於いて後方バケット部14の縁33は前方バケット部16の側壁18、20の内面上の係止部材17に突当たり、両バケット部の側壁及び底板は重なり合う。」(3頁左下欄下から3行ないし右下欄1行)、
「バケットが前縁33が係止部材17と突当たる閉鎖作動位置にある時(第1図)・・・掘削を可能とする・・・」(4頁右上欄4ないし9行)、
「さらにバケット部の底部が重なり合うこととバケット部の近接する側壁の稍々凹形の形状とがバケットの第4図に示される如き丸太Lの様な対象物の確実な把持を可能としている。」(4頁左下欄6ないし9行)。

4.被請求人の主張
被請求人は、請求人が提示した甲号各証には証拠能力がなく且つ、信憑性に欠けるのであるから否認すると共に、これら甲号各証を無効の根拠とする請求人の主張は理由のないものであるから、本件発明1は特許法第29条第2項の規定には該当せず、本件発明1についての特許は同法第123条第1項第2号によって無効とすることはできないと答弁し、さらに、平成16年6月7日付け答弁書に添付した疎第1号証の1ないし3を提出し、平成16年12月24日付の上申書において、以下の乙第1号証及び疏第1号証を提出し、掘削機a、bについて、以下の主張をしている。

疎第1号証の1:比較的新しい製品で両刃がほぼ整合状態である写真
疎第1号証の2:下刃が摩耗によって丸く鈍化した状態である写真
疎第1号証の3:下刃が殆ど欠損した状態である写真
乙第1号証:北海道キャタピラー三菱のWeb頁に掲載されている用語集の「マルチパーパスバケット」
疏第1号証:被請求人の会社が製造するバケット「ピラニアバケット」のカタログ

(平成16年6月7日付け答弁書)
写真のバケット(掘削機a)を見ると、長期間に亘って使用されていたにも係わらず下刃と上刃の摩耗や損傷が少なく、新品に近い状態で両刃がほぼ整合状態を維持しているのは極めて不自然であり、添付した写真のバケット(掘削機a)が当初販売した製品であるとは信じがたく、証明願及びに証明願に基づく請求人の主張を否認する。なお、参考資料として被請求人が撮影した写真を疎第1号証の1乃至3で提出する。

(平成16年12月24日付の上申書)
(1)全般に関する被請求人の見解
(1-1)甲第一及び第三号証では、写真のバケット(掘削機a、b)自体に他のバケットと識別するための型番や、キャタピラー三菱が製造販売したものであること、いつ頃製造販売したものであること、などを特定できる表示類は一切なく、審尋その他で審判長から求められた「製造番号等を特定する表示」に関する資料の提出もなく、北海道で実施された検甲第一号証及び検甲第二号証の検証でも確認することができなかった。
(1-2)バケット(掘削機a、b)について甲号各証では「マルチパーパスバケット」又は「マルチバケット」などと称しているが、これらの名称は証明者であるキャタピラー三菱のインターネットのWebページに掲載されている用語集(乙第1号証を参照)には万能バケットと同意語であると説明されており、また同社が取り扱っている各種機械のカタログや補修部品などを掲載しているこのWebページには、製品「マルチパーパスバケット」について掲載はなく、「マルチパーパスバケット」が写真のバケット(掘削機a、b)であるとは特定できない。
(1-3)証人尋問における証人内田冨男や証人三上昌彦などの証言のように、請求人が言っている「サイドツース」が有るものと無いものの双方が製造され、そのいずれについても「マルチパーパスバケット」と称しているので、取引伝票その他の甲号各証に記載されている「マルチパーパスバケット」が、写真のバケット(掘削機a、b)と同じ構造で且つ、本件特許の出願以前に製造販売されたものであるとは特定できない。
(1-4)現に、証人尋問で証人白土は検甲第二号証に関して二光産業に売ったものかどうかは、書類(甲第三号証)を見て照合したものであって、機械を見ても分からないと証言し、証人内田も同様の証言を行っており、いずれも被請求人が提示した甲第一及び第三号証に添付されている取引書類に基づいて推測しているにすぎず、同種のバケットを少なくとも100台以上製造していることから、仮にその後に製造されたものとすり替わっていたとしても、その真偽を判定することはできない。
(2)制作図面及び構造に関する被請求人の見解
(2-1)図面には設計者である証人内田のゴム印が押されているが、図面が鉛筆書きであるから容易に修正を加えることが可能であると共に、修正以前における図面の内容を図面上に残さない状態にすることができ、このゴム印がどの段階で押されたのか、ゴム印を押す前の図面がどのようであってゴム印を押した後にどのような変更が加えられたのか、などについては不明であって特定ができないので、この図面が本件特許出願の以前に作図されたこと及び、図面に基づいて写真のバケット(掘削機a、b)を製造したことは立証できない。
(2-2)例えば、甲九号証における部品番号No.13,17についてキャタピラー三菱の原図と、三上溶接のコピー図面とを対比すると、部品番号No.13の場合は原図を書き替えた上で書き替えた日を記録しているが、部品番号No.17の場合は図面を書き替えているがその書き替えた記録はされておらず、このことからもゴム印の日付けである昭和63年4月30日と同年5月6日の段階で、甲第八号証と甲第九号証の図面のとおりであったこととは言えず、この図面に基づいて写真のバケット(掘削機a,b)を製造したことの証明にはならない。
(2-3)証人高橋修司の証言によると、昭和63年3月頃に「マルチパーパスバケット」の全体構造を示す何らかの図面があったこと、納品したバケットは当初の図面とは異なる改造を加えたことになるが、これらの改造が甲第八号証(全体図)及び甲第九号証(部品図)にどの様に反映されているのかの経緯は当該図面上には記載されておらず、従って甲第八号証及び甲第九号証の図面と第三号証の写真のバケット(掘削機b)が同じ構造であるとすることはできず、現在も甲第八号証及び甲第九号証の図面に基づいてバケットを製作しているならば、納品後1年ぐらいで故障した際にずれをなくすためにサイドツースを追加する設計変更を行ったと推定するのが自然である。
(3)納入日に関する被請求人の見解
口頭審理において請求人側は甲第十号証(三上溶接の売上帳)に基づき、山東に対するマルチパーパスバケットは昭和63年5月16日に売上を計上し、二光産業に対するマルチパーパスバケットは昭和63年5月31日に売上を計上していることを根拠に、出願前に公然実施されたと主張しているが、売上の計上と山東又は二光産業に何時納入されたかを結びつける証拠はなく、このような曖昧な証拠は認めることはできない。
(4)証明書類の認否に関する被請求人の見解
本来ならば証明者(甲一、甲三:主任注)であるキャタピラー三菱の代表者伊東猛が自ら証人として真偽のほどを証言すべきところを、当時は設計の担当者であって営業活動に直接タッチしておらず、証明書に添付されている取引書類にも関与していない証人白土に託したことになるが、そのために証明書の証拠能力が著しく低下したことは否めず、でき得れば証明者が自ら証人尋問に応じて釈明すべきである。

5.掘削機bについて
請求人の提出した上記書証及び証言によれば、二光産業と北海道キャタピラー三菱との間で取引がされた掘削機bについて、時系列に列挙すると、以下のとおりである。
昭和63年4月14日 甲第十三号証の一:「新車受注伺書報告書」(北海道キャタピラー三菱社内の書類、顧客名:(有)二光産業)「機種E200B・・・関連製品 マルチパーパスバケット」
同年4月24日 甲第十三号証の四:「注文書」(北海道キャタピラー三菱社内の書類、注文者:二光産業)「品名 キャタピラーE200Bパワーショベル・・・附属品名特殊加工内訳 マルチパーパスバケット」
同年4月30日 甲第十三号証の五:「受領書」(北海道キャタピラー三菱社内の書類、受領者:二光産業)「機種 E200B」
同年4月30日 甲第十三号証の三:「新車販売報告書」(北海道キャタピラー三菱社内の書類、顧客名:二光産業)「パッケージ番号 E200B-L80」
同年4月30日 甲第九号証の二:「M/P BUCKETのパーツ図面」(原図:北海道キャタピラーが三菱保管)鉛筆書き、右下に「主務63.4.30内田」の押印あり
同年4月30日 甲第九号証:「M/P BUCKETのパーツ図面」(コピー:三上溶接が保管)右下に「主務63.4.30内田」の押印あり
同年5月6日 甲第八号証の二:「M/P BUCKETの全体図面」(原図:北海道キャタピラー三菱が保管)鉛筆書き
同年5月6日 甲第八号証:「M/P BUCKETの全体図面」(縮小コピー:三上溶接が保管)左上に「主務63.5.6内田」の押印あり
同年5月20日 甲第十一号証:「仕入帳」(三上溶接)「昭和63年5月20日 E200マルチパーパス用油圧シリンダーASSY」(三上証言によれば、昭和63年5月20日は請求日の日付、実際の納品日は2〜3週間前)
同年5月31日 甲第十号証:「売上帳」(三上溶接)「昭和63年5月31日 E200B (二光 留萌との鉛筆書きあり) 1)マルチパーパスバケット」
同年6月14日 甲第十三号証の二:「新車受注伺書報告書」(北海道キャタピラー三菱社内の書類、顧客名:二光産業)支払の条件変更

そして、白土、内田、三上及び高橋の証言等から、上記「機種E200B」、「キャタピラーE200Bパワーショベル」「パッケージ番号 E200B-L80」、「E200B」は、同一のパワーショベル(油圧ショベル)であり、上記「マルチパーパスバケット」、「M/P BUCKET」は、「掘削」と「つかむ」ことのできる同一のバケット(掘削機b)であると認められる。

したがって、少なくとも、本件特許出願(昭和63年7月26日)前に、二光産業が北海道キャタピラー三菱から油圧ショベル本体を購入し、それと並行して、油圧ショベル本体に取り付ける掘削機bを、二光産業が北海道キャタピラー三菱に注文し、三上溶接が作成し、三上溶接が北海道キャタピラー三菱を介して二光産業に納入したことが認められるから、掘削機bは、本件出願前に公然知られた又は公然実施されたものであり、上記甲第三号証添付の写真、甲第三号証の2、甲第四号証添付の写真、検甲第二号証の掘削機は、掘削機bの掘削刃を交換したり、バケット本体及び把持アームの上刃及び下刃を溶接により肉盛りしたものではあるが、掘削機bの具体的構成は、以下のとおりのものと認められる。
「油圧ショベルのアーム先端に取り付けた油圧シリンダで回動操作されるバケット本体と、このバケット本体に基端側を枢着した枠状の把持アームと、一端を上記バケット本体側に他端を上記把持アーム側に取り付けて伸縮作動で把持アームをバケット本体の開口縁へ開閉操作するシリンダとで構成され、上記バケット本体の開口縁と把持アームの内端縁にはそれぞれ凹凸状の下刃と上刃を設け、上記把持アームを閉じた状態でバケットによる掘削作業を行うと共に、上記把持アームの開閉でつかみ上げ作業を行う掘削機bにおいて、上記把持アームは、両側枠板と当該両側枠板間を連結する傾斜状の先端枠板によって平面形状が略コ字状に形成され、この両側枠板は内端縁に設けた上刃が閉じた際に上記バケット本体の両側開口縁に設けた下刃に噛合して当接する態様で整合状態に配設され、上記先端枠板は内端縁に設けた上刃が閉じた際に上記バケット本体の先端側開口縁に設けた下刃に噛合して当接する態様で整合状態に配設されると共に、当該先端枠板はバケット本体の先端側延長線上に沿った傾斜状態で先端側開口縁の前方へ突出する態様で配設され、上記把持アームを閉じた際に先端枠板がバケット本体の先端側開口縁の前方に段差のない連続した接合状態で連結させ、この把持アームの先端枠板には外端縁から突出する態様で掘削刃を設けた油圧ショベルの掘削機b。」

被請求人は、掘削機bに関する証拠方法について証拠能力がないと主張している(上記「4.被請求人の主張」参照)ので以下検討する。
(平成16年6月7日付け答弁書について)
被請求人は、写真のバケット(掘削機a)を見ると、長期間に亘って使用されていたにも係わらず下刃と上刃の摩耗や損傷が少なく、新品に近い状態で両刃がほぼ整合状態を維持しているのは極めて不自然であると主張する。しかしながら、証言によれば、摩耗した該部分を溶接により肉盛り等をすることから、両刃がほぼ整合状態を維持しているとしても不自然ではない。

(平成16年12月24日付の上申書について)
(1-1)について。確かに、掘削機bには、製造時期を特定するプレート等の表示は認められなかったが、証言によれば、昭和63年当初は年間数台生産された程度であり、一品生産に近いものであるから、製品にプレート等の表示がないとしても、あながち不自然とはいえない。
(1-2)について。北海道キャタピラー三菱のWebページに掲載されている用語集である乙第1号証には、「マルチパーパスバケット」について、万能バケットと同意語、油圧ショベルでは多機能形のバケットという記載があるが、三上溶接の三上証言(証人調書(三上)段落010)及び二光産業の高橋証言(証人調書(高橋)段落035)等から、マルチパーパスバケットとは、「掘削」の機能と「つかむ」の機能を有するものと認められる。
(1-3)について。被請求人は、「サイドツース」(検証2[写真2]参照)の有無を問題にしているが、証言によれば、ユーザーの要望に応じ、サイドツースの有るものと無いものが両方作られ、使い勝手からその取付け方も設計図面のものと異なることは十分考えられるところである。そもそも、公然知られた又は公然実施された発明として、サイドツースのあるものを引用したわけではない。
(1-4)について。被請求人は、証人白土及び証人内田が、掘削機bを二光産業に販売したかどうかを取引書類に基いて推測しているにすぎないと、主張する。確かに、証人白土及び証人内田は営業部員でないことから取引の詳細を把握していないことは考えられる。しかしながら、請求人が提出した上記書証、三上溶接の証人三上、及び、二光産業の証人高橋によれば、例え、現在ある掘削機が、掘削刃を交換したり、溶接により肉盛りしたものであるとしても、三上溶接が掘削機bを製造し、二光産業が北海道キャタピラー三菱を介して該掘削機bを、遅くとも昭和63年6月以前に購入したことは明らかである。
(2-1)ないし(2-3)について。被請求人は、証人内田が設計した図面の原本(甲第八号証の二及び甲第九号証の二)と、三上溶接に手渡した該図面のコピー(甲第八号証及び甲第九号証)との齟齬を指摘する。しかしながら、これら図面に、サイドツース等の取付け方に違いがあったとしても、公然知られた又は公然実施された発明として引用した、バケット本体に把持アームを開閉操作させる構成は不変であり、細部が異なるからといって、証拠に採用できないものではない。
(3)について。被請求人は、甲第十号証(株式会社三上溶接工業所の売上帳)における売上の計上と、有限会社二光産業に何時納入されたかを結びつける証拠はないと主張する。しかしながら、甲第十号証(売上帳)の記載、三上溶接の三上証言、二光産業の高橋証言によれば、マルチパーパスバケット(「掘削」する機能と「つかむ」機能を有する掘削機b)を、三上溶接が製造し、遅くとも昭和63年6月以前に、二光産業が、該掘削機bを、北海道キャタピラー三菱を介して、購入したことは明らかである。
(4)について。甲第三号証(証明願い)の証明者、伊東猛、及び 甲第4号証(証明願い)の証明者、岩野博皓は、証人に立っておらず、必ずしも証拠能力は高くないが、他の証人、三上、高橋等の証言により、その内容は一部整合しない部分があるが、ほぼ正確であると認められる。

以上のとおり、書証、検証及び証言の全趣旨によれば、掘削機bが、本件出願前に公然知られた又は公然実施されたことは明らかである。

6.対比・判断
本件発明1と本件出願前に公然知られた又は公然実施された上記掘削機bとを対比すると、掘削機bは本件発明1のフロントアタッチメントに相当し、油圧ショベルは本件発明1のショベル系掘削機に相当するから、両者は、「ショベル系掘削機のアーム先端に取り付けた油圧シリンダで回動操作されるバケット本体と、このバケット本体に基端側を枢着した枠状の把持アームと、一端を上記バケット本体側に他端を上記把持アーム側に取り付けて伸縮作動で把持アームをバケット本体の開口縁へ開閉操作するシリンダとで構成され、上記バケット本体の開口縁と把持アームの内端縁にはそれぞれ凹凸状の下刃と上刃を設け、上記把持アームを閉じた状態でバケットによる掘削作業を行うと共に、上記把持アームの開閉でつかみ上げ作業を行うフロントアタッチメントにおいて、上記把持アームは、両側枠板と当該両側枠板間を連結する傾斜状の先端枠板によって平面形状が略コ字状に形成され、上記先端枠板は内端縁に設けた上刃が閉じた際に上記バケット本体の先端側開口縁に設けた下刃に噛合して当接する態様で整合状態に配設されると共に、当該先端枠板はバケット本体の先端側延長線上に沿った傾斜状態で先端側開口縁の前方へ突出する態様で配設され、上記把持アームを閉じた際に先端枠板がバケット本体の先端側開口縁の前方に段差のない連続した接合状態で連結させ、この把持アームの先端枠板には外端縁から突出する態様で掘削刃を設けたことを特徴とするショベル系掘削機のフロントアタッチメント。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
本件発明1が「両側枠板は内端縁に設けた上刃が閉じた際に上記バケット本体の両側開口縁に設けた下刃の外側へオーバーラップする態様で不整合状態に配設され、当該両側枠板でバケット本体を両側から拘束」されるものであるのに対し、フロントアタッチメントb(掘削機b)が「側枠板は内端縁に設けた上刃が閉じた際に上記バケット本体の両側開口縁に設けた下刃に噛合して当接する態様で整合状態に配設」されるものである点。
上記相違点を検討すると、掘削機において、両側枠板が閉じた際にバケット本体の両側開口縁の外側へオーバーラップする態様で不整合状態に配設されたものは、甲第五号証及び甲第六号証に記載されており、とくに、甲第六号証記載のものは、当該両側枠板でバケット本体を両側から拘束することは明らかであるから、上記フロントアタッチメントb(掘削機b)において、両側枠板は内端縁に設けた上刃が閉じた際に上記バケット本体の両側開口縁に設けた下刃の外側へオーバーラップする態様で不整合状態に配設され、当該両側枠板でバケット本体を両側から拘束するようにすることは当業者であれば容易になし得ることであり、このように構成することにより奏する効果は当業者であれば当然予測できる範囲内のものである。

7.むすび
以上のとおり、本件発明1は、本件出願前に公然知られた又は公然実施された掘削機b、並びに、甲第五号証及び甲第六号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-01-25 
結審通知日 2005-01-27 
審決日 2005-02-08 
出願番号 特願昭63-184492
審決分類 P 1 122・ 121- Z (E02F)
最終処分 成立  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 伊波 猛
山田 忠夫
登録日 1997-05-16 
登録番号 特許第2649703号(P2649703)
発明の名称 ショベル系掘削機のフロントアタッチメント  
代理人 馬杉 榮一  
代理人 小島 高城郎  
代理人 大島 陽一  
代理人 川成 靖夫  
代理人 佐藤 卓也  
代理人 河合 典子  

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