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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1127078
審判番号 不服2003-8824  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-16 
確定日 2005-11-15 
事件の表示 特願2002- 74651「管状部材の接合方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月24日出願公開、特開2003-266544〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年3月18日の出願であって、平成15年4月4日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月16日に審判請求がなされるとともに、同年6月16日付で明細書についての手続補正がなされたものであって、「管状部材の接合方法」に関するものと認められる。
2.原査定の理由
一方、原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
「本願は、明細書の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備と認められるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」

(イ) 特許請求の範囲の請求項の記載における数式の誘導過程が不明である、また、その式中の数値を定めた理由も不明である。
(ロ) 実施例9乃至13または実施例14乃至17におけるtとθ2の関係を表す式としてθ2がtの対数の一次式で表される式が選択される理由が不明である。
3.当審の判断
本願の特許請求の範囲の請求項1では、「【請求項1】 熱可塑性樹脂の一種のエンジニアリング樹脂で管状に形成された接合端面を有する複数の管状部材の接合方法であって、少なくとも一方の管状部材の接合端面を、前記接合端面の縦断面における前記接合端面と外周面とのなす角θ2の角度を25〜85°好ましくは30〜80°の傾斜状で、前記θ2の角度(°)が、前記管状部材の縦断面における肉厚t(mm)と(数1)の関係にあるように形成する接合端面形成工程と、
前記接合端面形成工程で傾斜状に形成された前記管状部材の前記接合端面と他の管状部材の接合端面との間に所定温度に加熱された加熱体を挿入し管状部材の溶融温度以上に加熱して接合端面全体を溶融する加熱溶融工程と、
前記加熱溶融工程で溶融された接合端面同士を圧着する圧着工程と、
を備えていることを特徴とする管状部材の接合方法。
【数1】
43×ln(t)+26≦θ2≦18×ln(t)+63」と記載され、
「熱可塑性樹脂の一種のエンジニアリング樹脂で管状に形成された接合端面を有する複数の管状部材の接合方法であって、少なくとも一方の管状部材の接合端面を、前記接合端面の縦断面における前記接合端面と外周面とのなす角θ2の角度を25〜85°好ましくは30〜80°の傾斜状で、前記θ2の角度(°)が、前記管状部材の縦断面における肉厚t(mm)と(数1)「43×ln(t)+26≦θ2≦18×ln(t)+63」の関係にあるように形成する接合端面形成工程」が発明を特定する事項として記載されている。
本件明細書の特許請求の範囲における(数1)43×ln(t)+26≦θ2≦18×ln(t)+63の導出過程とその式における式中の数値を定めた意味について、明細書の記載から明確であるか否かを、検討する。
明細書の「発明の詳細な説明」の欄には、以下の記載がされている。
a-1「本発明の請求項1に記載の管状部材の接合方法は、熱可塑性樹脂の一種のエンジニアリング樹脂で管状に形成された接合端面を有する複数の管状部材の接合方法であって、少なくとも一方の管状部材の接合端面を、前記接合端面の縦断面における前記接合端面と外周面とのなす角θ2の角度を25〜85°好ましくは30〜80°の傾斜状で、前記θ2の角度(°)が、前記管状部材の縦断面における肉厚t(mm)と(数2)の関係にあるように形成する接合端面形成工程と、前記接合端面形成工程で傾斜状に形成された前記管状部材の前記接合端面と他の管状部材の接合端面との間に所定温度に加熱された加熱体を挿入し管状部材の溶融温度以上に加熱して接合端面全体を溶融する加熱溶融工程と、前記加熱溶融工程で溶融された接合端面同士を圧着する圧着工程と、を備えた構成を有している。
【数2】
43×ln(t)+26≦θ2≦18×ln(t)+63
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)・・・・・
(2)少なくとも一方の接合端面と外周面とのなす角θ2を所定の角度に形成する接合端面形成工程を有しているので、接合端面に形成された溶着部の内周面を滑らかにすることができ、ゴミ等が滞留し難いとともに流体を滑らかに流すことができる溶着部を形成することができる。
(3)・・・・・
(4)加熱溶融以前の少なくとも一方の接合端面と外周面とのなす角θ2が所定の角度に形成されているので、接合端面に形成された溶着部の内周面を滑らかにすることができ、ゴミ等が滞留し難いとともに流体を滑らかに流すことができる溶着部を形成することができる。
(5)・・・・・
(6)加熱溶融以前の管状部材の肉厚tと接合端面と外周面とのなす角θ2との間に所定の関係を有しているので、管状部材の肉厚tが決まれば、管状部材の溶融状態における流動性や熱容量等の因子を考慮することにより最適なθ2の範囲を決定でき、ゴミ等が滞留し難いとともに流体を滑らかに流すことができる溶着部を容易に形成することができ汎用性に優れる。
(7)管状部材の溶融状態における流動性や熱容量等の因子を考慮することにより、管状部材の肉厚tに応じて、機械的強度に優れた健全な接合部を形成することができる最適なθ2の範囲を求めることができ安定性に優れる。
(8)管状部材の内周面とのなす角θ1の角度が90〜190°好ましくは150〜185°の凸起状若しくはフラット状又は凹状に形成された溶着部を形成することができ、溶着部にゴミ等が滞留したり流体の滑らかな流れを妨げるのを防止することができ、製造設備等のコンタミネーションコントロールや流量管理等を容易に行うことができる管状部材間の接合構造が得られる。
(9)・・・・」(【段落0010】)
a-2「(数2)のk1、k2(°)は、管状部材の溶融状態における流動性(メルトフローレート)(以下、MFRという)や熱容量等によって決まる定数である。k1としては、18〜43が好適に用いられる。k1が18より小さくなるにつれ加熱溶融して圧着し溶着する際に内周面側の接合端面同士が密着し難く内周面側の溶着が不十分になり接合面積が小さく接合強度が小さくなる傾向がみられるとともに、θ1の角度が190°より大きな凹状の溶着部が内周面に形成され易くなり溶着部にゴミ等が滞留し易くなる等の問題が発生し易くなる傾向がみられ、k1が43より大きくなるにつれ溶着の際の加圧により溶融した樹脂が内周面に突出し易くなり、接合強度は問題ないが、溶着部にゴミ等が滞留し易くなる等の問題が発生し易くなる傾向がみられるため好ましくない。
k2としては、26〜63が好適に用いられる。k2が26より小さくなるにつれ加熱溶融して圧着し溶着する際に内周面側の接合端面同士が密着し難く内周面側の溶着が不十分になり接合面積が小さく接合強度が小さくなる傾向がみられるとともに、θ1の角度が190°より大きな凹状の溶着部が内周面に形成され易く溶着部にゴミ等が滞留し易くなる等の問題が発生し易くなる傾向がみられ、k2が63より大きくなるにつれ溶着の際の加圧により溶融した樹脂が内周面に突出し易くなり、接合強度は問題ないが、溶着部にゴミ等が滞留し易くなる等の問題が発生し易くなる傾向がみられるため好ましくない。」(段落【0014】)
a-3「(管状部材の肉厚とθ2との関係の検討)
種々の肉厚t(mm),θ2(°),MFR等を有する管状部材について、実施の形態1で説明した管状部材の接合方法を用いて管状部材間の接合を行ったところ、θ1が90〜190°の溶着部が得られる管状部材の肉厚t(mm)とθ2(°)とが一定の相関式で関連付けられることがわかった。また、この相関式は管状部材の溶融状態における流動性や熱容量等によって傾きや切片が変化するが、一定の範囲内に収まることがわかった。(数2)は、このようにして算出された相関式である。
以下、管状部材の肉厚t(mm)とθ2(°)との関係について、実施例9乃至17、比較例1乃至5を用いて説明する。
(実施例9)管状部材として、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレンコポリマー(PFA)(三井デュポン社製、商品名テフロン(登録商標)、MFR=2)で形成された内径16mm、肉厚(t)0.93mm、長さ50mmのチューブを用い、θ2,θ3を54.6°に形成した以外は実施例1と同様にして、接合された管状部材を得た。なお、MFRとしては、押出型プラストメータを用いて温度372℃、圧力5kgf/cm2の条件下で10分間当たりに押し出された材料の重量を用いた。
(実施例10)
管状部材として、肉厚(t)を1.57mm、θ2,θ3を69.97°に形成した以外は実施例9と同様にして、実施例10の接合された管状部材を得た。
(実施例11)
管状部材として、肉厚(t)を2.02mm、θ2,θ3を74.52°に形成した以外は実施例9と同様にして、実施例11の接合された管状部材を得た。
(実施例12)
管状部材として、肉厚(t)を2.51mm、θ2,θ3を77.08°に形成した以外は実施例9と同様にして、実施例12の接合された管状部材を得た。
(実施例13)
管状部材として、肉厚(t)を2.95mm、θ2,θ3を79.84°に形成した以外は実施例9と同様にして、実施例13の接合された管状部材を得た。
(比較例1)
管状部材として、肉厚(t)を0.93mm、θ2,θ3を75.2°に形成した以外は実施例9と同様にして、比較例1の接合された管状部材を得た。
(比較例2)
管状部材として、肉厚(t)を1.57mm、θ2,θ3を84.07°に形成した以外は実施例9と同様にして、比較例2の接合された管状部材を得た。
(実施例14)
管状部材として、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレンコポリマー(PFA)(三井デュポン社製、商品名テフロン(登録商標)、MFR=14)で形成された内径16mm、肉厚(t)0.95mm、長さ100mmのチューブを用い、θ2,θ3を30.15°に形成した以外は実施例1と同様にして、実施例14の接合された管状部材を得た。
(実施例15)
管状部材として、肉厚(t)を1.49mm、θ2,θ3を46.17°に形成した以外は実施例14と同様にして、実施例15の接合された管状部材を得た。
(実施例16)
管状部材として、肉厚(t)を2.0mm、θ2,θ3を58.77°に形成した以外は実施例14と同様にして、実施例16の接合された管状部材を得た。
(実施例17)
管状部材として、肉厚(t)を2.69mm、θ2,θ3を69.7°に形成した以外は実施例14と同様にして、実施例17の接合された管状部材を得た。
(比較例3)
管状部材として、肉厚(t)を1.49mm、θ2,θ3を29.44°に形成した以外は実施例14と同様にして、比較例3の接合された管状部材を得た。
(比較例4)
管状部材として、肉厚(t)を2.0mm、θ2,θ3を34.76°に形成した以外は実施例14と同様にして、比較例4の接合された管状部材を得た。
(比較例5)
管状部材として、肉厚(t)を2.69mm、θ2,θ3を39.46°に形成した以外は実施例14と同様にして、比較例5の接合された管状部材を得た。
(管状部材の肉厚tとθ2との相関式)
図6は実施例9乃至17及び比較例1乃至5における肉厚t(mm)とθ2(°)との関係と(数2)の関係を示す図である。図中、白丸は実施例9乃至17のデータを示している。
図6から、MFR=2の実施例9乃至13は、k1=18,k2=63の場合の(数2)に示す関係式で近似することができ、MFR=14の実施例14乃至17は、k1=43,k2=26の場合の(数2)で示す関係式で近似することができることがわかった。以上のことから、管状部材の肉厚t(mm)となす角(θ2)とが(数2)の相関式とよく一致していることがわかった。」(段落【0038】)
a-4「(引張強度の評価)
実施例15乃至17、比較例3乃至5の管状部材を用意し、長手方向に略平行に幅15mmの短冊状に切断し供試体を各々3本準備した。供試体の接合端面から各々30mm離れた部分を治具を用いて挟持し、材料試験機(島津製作所製、商品名オートグラフ)を用いて200mm/分の速さで破断するまで荷重を加えた。(表3)に破断時の荷重をまとめて示した。・・・・・実施例15乃至17で得られた供試体の引張強度は、比較例3乃至5で得られた供試体の引張強度に比べ、著しく大きいことが明らかになった。
比較のために、同じ肉厚でθ2,θ3を略90°に形成した管状部材を実施例14と同様にして接合して作成した供試体(従来の技術であり溶着部が管状部材の内周面に著しく突出している)の破断時の荷重(n=3の平均値)を測定したところ、実施例15で用いた肉厚1.49mmの場合は319.7N、実施例16で用いた肉厚2.0mmの場合は462.5N、実施例17で用いた肉厚2.69mmの場合は634.2Nであり、実施例15乃至17は従来の接合部とほぼ同等の引張強度が得られることが明らかになった。」(段落【0039】)
a-5「(溶着部と管状部材の内周面とのなす角θ1の評価)
実施例9乃至10、比較例1乃至2の接合後の管状部材を長手方向と略平行に切断し、溶着部の断面における溶着部と管状部材の内周面とのなす角θ1をデジタルマイクロスコープ(キーエンス製)を用いて測定した。その結果、実施例9ではθ1が155.1°(n=3の平均値、以下同様)、実施例10では166.0°で溶着部が平坦状であったのに対し、比較例1では59.3°、比較例2では72.3°で溶着部が大きく隆起していることが確認された。また、実施例11乃至17についても同様に測定したところ、実施例17ではθ1が171.1°で溶着部が平坦状であり、実施例11乃至16もθ1が90〜190°の範囲であることが確認された。なお、実施例1乃至8についても同様に測定したところθ1が90〜190°の範囲であることが確認された。なお、比較例5ではθ1が212.2°で溶着部が大きな窪み状であった。溶着部が大きな窪み状であったため、接合面積が小さくなり前述のように引張強度が小さくなったと推察される。
以上のことから、(数2)の関係を満たす場合、溶着部が平坦状に形成されるとともに従来の接合部と同等の機械的強度を有すが、(数2)の関係を満たさず下方に外れた場合は得られた接合部の機械的強度が低下し、(数2)の関係を満たさず上方に外れた場合は内周面に著しく突出した溶着部が形成されることが明らかになった。」(段落【0040】)
a-6 接合端面の縦断面における接合端面と外周面とのなす角2θを接合端面形成工程において所定の角度に形成した管状部材と、接合端面の縦断面における接合端面と外周面とのなす角3θを接合端面形成工程において所定の角度に形成した管状部材を、加熱体により、それぞれの接合端面を加熱して溶融する加熱溶融工程を示す要部縦断面図(a)、加熱溶融された接合端面同士を圧着する圧着工程を示す要部縦断面図(b)、圧着工程で圧着されて形成された溶着部を示す要部縦断面図(c)、溶着部と管状部材の内周面とのなす角θ1を示した、管状部材の管内に変形抑制部材を挿入する変形抑制工程(d)(【図2】)
a-7 「実施例9乃至17及び比較例1乃至5における肉厚tとθ2との関係と(数2)の関係を示す図」と題した図は、横軸にt(mm)、縦軸にθ2(°)をとり、4本の線(実線上下各1本、破線上下各1本)が記載され、それらは、
引き出し線によって比較例3、比較例4及び比較例5と記載して角印3個を記載して、引き出し線によってθ2=18×ln(t)+26と記載された下側実線、
4個の丸印を記載して、引き出し線によってθ2=18×ln(t)+63と記載された上側実線、
4個の丸印を記載して、引き出し線によってθ2=43×ln(t)+26と記載された下側破線、
引き出し線によって比較例1、比較例2と記載した2個の角印を記載して、引き出し線によっθ2=43×ln(t)+63と記載された上側破線、からなること(【図6】)
以上のことからすれば、本願の明細書の発明の詳細な説明の欄の記載からは、接合端面の縦断面における接合端面と外周面とのなす角θ2と管の厚さ(t)との関係を実施例9〜13のデータ(丸印4個)の4個をほぼ通過するようにした近似した線を作成し、そしてその線を、何故「θ2=18×ln(t)+63」の対数の一次式で表現するかについての説明は見いだせない。また、実施例14〜17のデータ(丸印4個)の3個をほぼ通過するようにした近似した線を作成し、そしてその線を、何故「θ2=43×ln(t)+26」の対数の一次式で表現するかについての説明も同様に見いだせない。
該明細書の記載(段落【0039】及び【0040】)によれば、実施例15乃至17と比較例3乃至5を対比すると、「引張強度の評価」の点で、著しい差違を生じていること、また、実施例9乃至17と比較例1乃至2では「溶着部と管状部材の内周面とのなす角θ1の評価」の点で、溶着部と管状部材の内周面のなす角θ1において、差違を生じることは記載されているが、比較例と実施例の間で「引張強度」又は「溶着部と管状部材の内周面とのなす角θ1」で差違が生じているとしても、その相違の原因が、「θ1が90〜190°の溶着部が得られる管状部材の肉厚t(mm)とθ2(°)とが一定の相関式で関連付けられることがわかった。また、この相関式は管状部材の溶融状態における流動性や熱容量等によって傾きや切片が変化するが、一定の範囲内に収まることがわかった。(数2)は、このようにして算出された相関式である。」と結論付けるに至った具体的な根拠は何も記載されていない。
一方の管状部材と他方の管状部材の接合に際しては、接合端面と外周面とのなす角θ2と管の厚さ(t)の要因の他に、たとえば、一方の管状部材と他方の管状部の材料の種類の相違による要因、一方の管状部材と他方の管状部材が同じ材料同士であっても溶融特性の相違による要因、接合する他方の管状部材の接合端面の縦断面における接合端面と外周面とのなす角θ3の要因、をも無視できないと考えるのが、技術常識と認められる(なお、請求人も、他方の管状部材の角θ3が所定の範囲になければならないことを明細書に記載して、請求項2において規定している。)から、何故、接合端面と外周面とのなす角θ2と管の厚さ(t)のみが要因と結論付けるに至ったのか理解することができない。
また、(数1)「43×ln(t)+26≦θ2≦18×ln(t)+63」において、「θ2=43×ln(t)+26」及び「θ2=18×ln(t)+63」の誘導過程が不明であり、(数1)の対数一次式における係数(43、18)及び定数(26、63)の技術的意味を理解することはできないから、対数一次式における係数(43、18)及び定数(26、63)について、溶着部の接合強度や溶着部にゴミ等の滞留問題の観点から、それが境界値となる旨本願の明細書の段落【0014】に記載されているものの、何故そのような解釈ができるに至ったのか理解できない。
さらに、θ2が「43×ln(t)+26」と「θ2≦18×ln(t)+63」の範囲に何故、特定されるかの技術的意味を理解することはできない。
以上のとおり、特許請求の範囲の請求項の記載における数式の誘導過程が不明であり、また、その式中の数値を定めた理由、その技術的意味を理解することができないので、明細書の特許請求の範囲の記載が不備と認められるから、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
請求人は、平成16年6月16日付手続補正書により補正された審判請求書において、「(3)記載不備の記載事項に対する対処 指摘事項(イ)及び(ロ)については、本手続補正書と同時に提出した手続補正による補正、及び、本手続補正書と同時に提出した実験成績証明書による証明により指摘の不備は解消したものと思料いたします。」(第2頁下から第11〜8行)と主張しているので、検討する。
本手続補正書と同時に提出した甲第1号証の影印のある「実験成績証明書」には、提出日平成15年6月16日、提出者福岡県北九州市小倉南区新曽根12番15号株式会社陽和内 福田勝(押印) 羽迫利康(押印)、実験日平成15年2月17日〜平成15年2月20日、実験場所福岡県北九州市小倉南区新曽根12番15号株式会社陽和と記載され、図1〜図9、表1〜表8が記載されているが、たとえば、表1の試験No.1〜No.7において採用した、t、θ2、θ1、引張り荷重実験、及び評価以外の条件については何も記載されていない。表2〜表8の試験No.8〜No.53についても同様である。
平成16年6月16日付手続補正書により補正された審判請求書では、「当初明細書の段落〔0040〕欄に記載した方法で種々の肉厚と開先角度θ2を有する管状部材を接合する確認試験を行いました(試験No.1〜53)。その結果を実験成績証明書(甲第1号証)に示しました。試験No.1〜25はMFR=2の熱可塑性樹脂で形成された管状部材についての試験であり、試験No.26〜53はMFR=14の熱可塑性樹脂で形成された管状部材についての試験です。」と記載しているが、該「実験成績証明書」にはそのような記載はされていない、また、審判請求書の作成者と該「実験成績証明書」の作成者が同一人とはいえないから、該「実験成績証明書」の実験条件が、審判請求書で記載している「当初明細書の段落〔0040〕欄に記載した方法」と認めることはできない。
該「実験成績証明書」による実験が本件の当初明細書の段落〔0040〕欄に記載した方法に基づいたものであるとはいえない以上、該「実験成績証明書」を参酌することはできない。
したがって、平成16年6月16日付手続補正書により補正された審判請求書による主張は根拠がないから、採用することができない。
なお、仮に、該「実験成績証明書」における実験条件は、「本願明細書の実施の形態1(接合構造は図1、接合方法は図2に図示)で行ったもの」であるとしても、(1)管状部材の熱可塑性樹脂の種類、(2)管状部材の直径と内径、(3)加熱体の種類、(4)管状部材の溶融温度とその保持時間、(4)加熱体の管状部材に対する配置距離、(5)圧着工程において加えられる荷重条件、等の条件は、管状部材の接合結果に影響を与える要因であると認められるから、これら(1)〜(5)等の変動要因となる条件が排除された実験条件下で実験がされたことを確認することができない以上、該「実験成績証明書」を参酌することはできない。
4.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満足していない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-11-29 
結審通知日 2004-12-07 
審決日 2004-12-21 
出願番号 特願2002-74651(P2002-74651)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 鈴木 由紀夫
中田 とし子
発明の名称 管状部材の接合方法  
代理人 榎本 一郎  

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