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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1127392
異議申立番号 異議2003-72782  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-12 
確定日 2005-11-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第3406483号「ガスアシスト射出成形用樹脂組成物および成形方法」の請求項1ないし13に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3406483号の請求項1ないし13に係る特許を取り消す。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第3406483号に係る出願は、平成9年7月30日に出願され、平成15年3月7日に特許権の設定登録がなされ、その後、その請求項1〜13に係る特許について、特許異議申立人佐々木政春(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立がなされ、平成16年6月3日付の取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年8月13日に特許異議意見書と共に訂正請求書が提出され、平成17年5月31日付で訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成17年8月4日に特許異議意見書と共に手続補正書が提出されたものである。

2 補正・訂正の適否
(1)平成17年8月4日付手続補正の内容
平成17年8月4日付手続補正書により、特許権者が求めている補正の内容には、平成16年8月13日付訂正請求における請求項8に係る訂正に関し、「充填剤(C)が、繊維状充填剤(C-1)及び/又は非繊維状充填剤(C-2)で構成され、非繊維状充填剤(C-2)が、ガラスビーズ,ミルドファイバー,タルク,マイカおよびカオリンから選択された少なくとも一種である請求項1〜7のいずれかの項に記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。」とあったものを、「充填剤(C)が、非繊維状充填剤(C-2)で構成され、非繊維状充填剤(C-2)が、ガラスビーズ,ミルドファイバー,タルク,マイカおよびカオリンから選択された少なくとも一種である請求項1〜7のいずれかの項に記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。」とするものが含まれる。
しかし、当該手続補正は、訂正の内容を変えるものであるから、平成16年8月13日付訂正請求における請求の要旨を変更するものである。したがって、当該手続補正は、特許法第120条の4第3項で準用する特許法第131条第2項に違反しているので、当該手続補正は認められない。
(2)平成16年8月13日付訂正請求の内容
平成16年8月13日付訂正請求書により、特許権者が求めている訂正の内容には、請求項8の「非繊維状充填剤(C-2)が、ガラスビーズ,ミルドファイバー,タルク,マイカおよびカオリンから選択された少なくとも一種である請求項1〜7のいずれかの項に記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。」を、「充填剤(C)が、繊維状充填剤(C-1)及び/又は非繊維状充填剤(C-2)で構成され、非繊維状充填剤(C-2)が、ガラスビーズ,ミルドファイバー,タルク,マイカおよびカオリンから選択された少なくとも一種である請求項1〜7のいずれかの項に記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。」とするものが含まれる。

(3)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張、変更の存否
上記訂正事項によると、訂正後の請求項8に係る発明は、充填剤として繊維状充填剤をも用いうるものとなったが、訂正前の請求項8には、請求項1〜6を引用する場合において繊維状充填剤を用いうることは記載されておらず、また示唆もない。したがって、当該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張するものである。

(4)むすび
したがって、平成16年8月13日付訂正請求は、特許法第120条の4第3項において準用する特許法第126条第3項の規定に違反しているので、当該訂正は認められない。

3 特許異議申立についての判断
(1)本件発明
上記のとおり、平成16年8月13日付訂正請求は認められないので、本件請求項1〜13に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明13」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。
「【請求項1】(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)ポリカーボネート樹脂(B-1)およびポリエチレンテレフタレート樹脂(B-2)から選択された少なくとも一種の樹脂と、(C)充填剤と、(D)リン系化合物とで構成されているガスアシスト射出成形用樹脂組成物。
【請求項2】(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)ポリカーボネート樹脂(B-1)およびポリエチレンテレフタレート樹脂(B-2)から選択された少なくとも一種の樹脂5〜100重量部を含有する請求項1記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。
【請求項3】ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)が、コモノマーユニットを含有する共重合樹脂である請求項1又は2記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。
【請求項4】ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)が、5〜40モル%のコモノマーユニットを含有する共重合樹脂である請求項1〜3のいずれかの項に記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。
【請求項5】ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)が、コモノマーユニットとしてイソフタル酸残基および/またはアルキレングリコール残基を含有する共重合樹脂である請求項1〜4のいずれかの項に記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。
【請求項6】ポリエチレンテレフタレート樹脂(B-2)が、コモノマーユニットを含有する共重合樹脂である請求項1〜5のいずれかの項に記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。
【請求項7】充填剤(C)が、繊維状充填剤(C-1)及び/又は非繊維状充填剤(C-2)で構成され、繊維状充填剤(C-1)がガラス繊維およびカーボン繊維から選択された少なくとも一種であり、非繊維状充填剤(C-2)が平均一次粒子径20μm以下の粉粒状又は板状充填剤から選択された少なくとも一種である請求項1〜6のいずれかの項に記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。
【請求項8】非繊維状充填剤(C-2)が、ガラスビーズ,ミルドファイバー,タルク,マイカおよびカオリンから選択された少なくとも一種である請求項1〜7のいずれかの項に記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。
【請求項9】ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、充填剤(C)5〜80重量部を含む請求項1〜8のいずれかの項に記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。
【請求項10】ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、充填剤(C)10〜40重量部を含む請求項1〜9のいずれかの項に記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。
【請求項11】ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、(D)リン系化合物0.01〜5重量部を含有する請求項1〜10のいずれかの項に記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。
【請求項12】請求項1〜11のいずれかの項に記載の樹脂組成物を用いて、ガスアシスト射出成形し、中空部を有する成形品を成形する方法。
【請求項13】請求項1〜11のいずれかの項に記載の樹脂組成物で構成され、かつガスアシスト成形法により成形された中空成形品。」

(2)平成16年6月3日付取消理由通知の概要
当審が平成16年6月3日付でした取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
「1)本件出願の請求項1〜5及び7〜13に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1〜2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
刊行物1:特開昭63-265949号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開平8-2336号公報(甲第2号証)
2)本件出願は、明細書の記載に不備があり、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていないものに対し、特許されたものである。」

(3)各刊行物の記載事項
ア 刊行物1
「ポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂から成るポリマーブレンド物に対して、次の一般式(I)で示される有機ホスファイト化合物を添加して成る改良されたポリエステル・ポリマーブレンド組成物。

(式中、Rは炭素原子数1〜9のアルキル基を示す。)」(特許請求の範囲、摘示事項a)
「本発明に使用されるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートを主たる対象とするが、そのテレフタル酸成分又はグリコール成分の一部を他の共重合成分で置換したものでもよい。共重合成分としては、イソフタル酸、…ジオール成分としてはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、…等を挙げることができる。…好ましいポリエステルは…ポリブチレンテレフタレートもしくは80モル%以上のブチレンテレフタレート繰り返し単位を有する結晶性熱可塑性ポリエステルである。」(2頁左下欄1行〜右下欄4行、摘示事項b)
「本発明のポリマーブレンドにおけるポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂の比率は特に制限を受けるものではないが、一般にはポリエステル樹脂10〜90重量%、ポリカーボネート樹脂90〜10重量%のものが好適に用いられる。」(2頁右下欄9〜13行、摘示事項c)
「有機ホスファイト化合物の使用量は、ポリマーブレンド100重量部に対して0.001〜10重量部が好ましく、更に好ましくは0.01〜3重量部である。」(3頁右上欄4〜7行、摘示事項d)
「その他必要に応じて、本発明組成物には…充填剤…等を包含させることができる。」(4頁右下欄7〜11行、摘示事項e)
「上記配合物をドライブレンドした後、260℃で押出機し(「押出し」の誤記と認める。)、ペレット化した。このペレットを300℃で射出成型し、試験片を作成した。

P-2:ビス(2,6-ジ第3ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト

実施例2
次の配合により、実施例1と同様に試験を行った。…
<配 合>
ポリブチレンテレフタレート樹脂 70重量部
ポリカーボネート樹脂 10

有機ホスファイト化合物(第2表) 0.5

実施例3
<配 合>
ポリブチレンテレフタレート樹脂 75重量部
ポリカーボネート樹脂 25

有機ホスファイト化合物(第3表) 0.5
…」
さらに、第2表及び第3表には、有機ホスファイト化合物として、P-2:ビス(2,6-ジ第3ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトを用いた実施例のデータが記載されている。(5頁左上欄1行〜右下欄末行、摘示事項f)

イ 刊行物2
「【請求項1】自動車用ルーフレールの取付け脚部において、該取付け脚部の一方の端部にガスゲートを設けると共に、取付けシール面の内部に樹脂ゲートを設けたことを特徴とする、自動車用ルーフレールの取付け脚部。
【請求項2】取付け脚部の材料が、10-4(sec-1)の剪断時の粘度が90〜150Pa・sec、103(sec-1)の剪断時の粘度が400〜700Pa・sec、102(sec-1)の剪断時の粘度が1,000〜2,000Pa・sec、101(sec-1)の剪断時の粘度が1,500〜3,000Pa・secである熱可塑性樹脂によって形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の自動車用ルーフレールの取付け脚部。
【請求項3】上記熱可塑性樹脂がポリカーボネート/ポリブチレンテレフタレートのポリマーアロイであることを特徴とする、請求項2に記載の自動車用ルーフレールの取付け脚部。
【請求項4】上記熱可塑性樹脂を樹脂ゲートから金型キャビティに射出し、所定時間後不活性ガスをガスゲートから圧力をかけて注入し、保持することを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の自動車用ルーフレールの取付け脚部。
【請求項5】取付け脚部内には、ガスアシストインジェクション法により形成された中空部を有することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の自動車用ルーフレールの取付け脚部。」(特許請求の範囲、摘示事項g)
「本発明によれば、熱可塑性樹脂の射出成形時に、溶融樹脂は金属キャビティ内で樹脂表面が冷却され固化されるが、この場合注入される不活性ガスは厚肉部の軟化状態を保持している部分の内部に入り込もうとする。そのため、樹脂を金属キャビティ表面に押圧し保持するため、肉圧部分の内部に不活性ガスによる中空部分ができ、肉厚が厚くならず、しかもガス圧が内部から樹脂を押すためヒケなどの外観不良の発生が防止される。」(段落【0011】、摘示事項h)
「以下の本発明の実施にあたっては、基本材料である熱可塑性樹脂としてPC/PBT樹脂(XENOY1760…、XENOY1780;いずれも商標、日本ジーイープラスチックス(株)製)…を使用した。
これらの原材料を溶融させ、金型キャビティ内に射出し、不活性ガスの注入圧力、注入後の保持時間、注入のタイミング等を変え、さらに不活性ガスを注入するガスゲート12、22、32を変えて実験を行なった。…
したがって、肉厚部の内部にガス圧でできた中空部があるため周りの肉厚は均一な厚さになり、表面のヒケなどのような外観不良は生じない。」(段落【0021】〜【0025】、摘示事項i)
段落【0034】には、実施例1及び3において使用されるPC/PBT樹脂において、充填剤であるガラス繊維がそれぞれ11%及び20%混入されていることが記載されている。(摘示事項j)

(4)特許法第29条第2項違反について
ア 本件発明1
刊行物1には、ポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂から成るポリマーブレンド物に対して、上記一般式(I)で示される、リン系化合物を添加して成る樹脂組成物(摘示事項a)が記載されており、該ポリエステル樹脂をポリブチレンテレフタレートとすること(摘示事項b)、充填剤を添加しうること(摘示事項e)、該樹脂組成物を射出成型に供すること(摘示事項f)が記載されている。
そうすると、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは「(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)ポリカーボネート樹脂(B-1)およびポリエチレンテレフタレート樹脂(B-2)から選択された少なくとも一種の樹脂と、(C)充填剤と、(D)リン系化合物とで構成されている射出成形用樹脂組成物。」において一致しており、本件発明1は「ガスアシスト射出成形」に用いられるのに対し、刊行物1に記載された発明はその点明らかでないことで相違する。
該相違点に関し、刊行物2には、ポリカーボネートとポリブチレンテレフタレートからなる樹脂組成物をガスアシストインジェクション法に供すること(摘示事項g)が記載されており、実施例として、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート及び充填剤からなる樹脂組成物をガスアシストインジェクション法に供した際、外観不良が生じず、均一な肉厚の成型物を得られること(摘示事項h〜j)が記載されている。
このため、刊行物1に記載されたポリブチレンテレフタレート及びポリカーボネートを樹脂成分とする樹脂組成物を、同じくポリブチレンテレフタレート及びポリカーボネートを樹脂成分とする樹脂組成物をガスアシスト射出成形に供する刊行物2に記載された発明に倣い、ガスアシスト射出成形に供することは、当業者が容易になし得ることと認められる。
また、刊行物2には、外観不良が生じず、均一な肉厚の中空成型物を得られる旨の記載があり、離型性については、刊行物1に記載されたポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、及びリン系化合物から成る樹脂組成物が既に有していたものと認められ、本件発明1により奏される効果は、刊行物1及び2に記載された発明を組合わせたことから予測される効果と比較して、格別のものは見いだせない。
したがって、本件発明1は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

イ 本件発明2
本件発明2は、本件発明1の組成物において、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)ポリカーボネート樹脂(B-1)およびポリエチレンテレフタレート樹脂(B-2)から選択された少なくとも一種の樹脂5〜100重量部に限定するものであるが、刊行物1に記載された発明は、ポリエステル樹脂10〜90重量%、ポリカーボネート樹脂90〜10重量%のものが好適に用いられ(摘示事項c)、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、ポリカーボネート樹脂を5〜100重量部の範囲内で使用しうる(摘示事項f)ものである。
したがって、本件発明2は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

ウ 本件発明3
本件発明3は、本件発明1又は2の組成物において、ポリブチレンテレフタレート樹脂を、コモノマーユニットを含有する共重合樹脂に限定するものであるが、刊行物1に記載された発明は、ブチレンテレフタレート繰り返し単位を80モル%以上を有し、共重合成分としてイソフタル酸等を選択しうる(摘示事項b)ものである。
したがって、本件発明3は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

エ 本件発明4
本件発明4は、本件発明1〜3のいずれかの組成物において、ポリブチレンテレフタレート樹脂が、5〜40モル%のコモノマーユニットを含有する共重合樹脂に限定するものであるが、刊行物1に記載された発明は、ブチレンテレフタレート繰り返し単位を80モル%以上を有し、共重合成分としてイソフタル酸等を選択しうる(摘示事項b)ものである。
したがって、本件発明4は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

オ 本件発明5
本件発明5は、本件発明1〜4のいずれかの組成物において、ポリブチレンテレフタレート樹脂が、コモノマーユニットとしてイソフタル酸残基および/またはアルキレングリコール残基を含有する共重合樹脂に限定するものであるが、刊行物1に記載された発明は、ブチレンテレフタレート繰り返し単位を80モル%以上を有し、共重合成分としてイソフタル酸等を選択しうる(摘示事項b)ものである。
したがって、本件発明5は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

カ 本件発明7
本件発明7は、本件発明1〜6のいずれかの組成物において、充填剤(C)が、繊維状充填剤(C-1)及び/又は非繊維状充填剤(C-2)で構成され、繊維状充填剤(C-1)がガラス繊維およびカーボン繊維から選択された少なくとも一種であり、非繊維状充填剤(C-2)が平均一次粒子径20μm以下の粉粒状又は板状充填剤から選択された少なくとも一種であるものに限定するものであるが、刊行物2に記載された発明は、充填剤としてガラス繊維を用いる(摘示事項j)ものである。
したがって、本件発明7は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

キ 本件発明8
本件発明8は、本件発明1〜7のいずれかの組成物において、非繊維状充填剤(C-2)が、ガラスビーズ,ミルドファイバー,タルク,マイカおよびカオリンから選択された少なくとも一種であるものに限定するものであるが、樹脂組成物に添加しうる非繊維状充填剤として、「ガラスビーズ,ミルドファイバー,タルク,マイカおよびカオリン」は、本件出願前において、当業者における周知のものである。
したがって、本件発明8は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

ク 本件発明9及び10
本件発明9は、本件発明1〜8のいずれかの組成物において、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、充填剤(C)を5〜80重量部と限定するものであり、本件発明10は、本件発明1〜9のいずれかの組成物において、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、充填剤(C)を10〜40重量部と限定するものであるが、刊行物2に記載された発明は、ポリカーボネートとポリブチレンテレフタレートからなる樹脂において、充填剤として用いられるガラス繊維を、それぞれ11%及び20%混入したもの(摘示事項j)が記載されている。刊行物2に記載された発明において、ポリブチレンテレフタレートと充填剤の配合比は明らかでないが、該摘示事項jの記載に鑑みれば、ポリカーボネートとポリブチレンテレフタレートからなる樹脂におけるポリブチレンテレフタレート100重量部に対する充填剤の配合量を5〜80重量部、さらには10〜40重量部としてみることは、当業者が適宜なし得ることと認められる。
したがって、本件発明9及び10は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

ケ 本件発明11
本件発明11は、本件発明1〜10のいずれかの組成物において、ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、リン系化合物を0.01〜5重量部含有するものに限定するものであるが、刊行物1に記載された発明は、ポリマーブレンド100重量部に対して、有機ホスファイト化合物を好ましくは0.001〜10重量部、更に好ましくは0.01〜3重量部添加するものであり(摘示事項d)、ポリブチレンテレフタレート樹脂70あるいは75重量部に対して有機ホスファイト化合物を0.5重量部添加した実施例が存在する(摘示事項f)。
したがって、本件発明11は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

コ 本件発明12
本件発明12は、本件発明1〜11のいずれかの樹脂組成物を用いて、ガスアシスト射出成形し、中空部を有する成形品を成形する方法である。これに対し、刊行物2には、ポリカーボネートとポリブチレンテレフタレートを樹脂成分とする組成物を用いて、ガスアシスト射出成形により中空部を有する成形品を成形すること(摘示事項g〜i)が記載されている。
したがって、本件発明12は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

サ 本件発明13
本件発明13は、本件発明1〜11のいずれかの組成物で構成され、かつガスアシスト成形法により成形された中空成形品である。これに対し、刊行物2には、ポリカーボネートとポリブチレンテレフタレートを樹脂成分とする組成物を用いて、ガスアシスト射出成形により中空部を有する成形品を成形すること(摘示事項g〜i)が記載されている。
したがって、本件発明13は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(5)特許法第36条違反について
ア 本件請求項1及び11には「(D)リン系化合物」とあるが、本件発明の詳細な説明【0039】には「リン系化合物(D)は、…酸化防止剤と併用するのが効果的である。酸化防止剤は、…リン系、…酸化防止剤であってもよい。酸化防止剤としては、通常、…リン系酸化防止剤が使用される。」とあるため、「(D)リン系化合物」と「リン系酸化防止剤」とを区別することができず、本件発明1、11及びこれを引用する本件発明2〜10、12、13は明確であるとはいえず、また、当業者が本件発明1〜13の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
イ 本件請求項8には「非繊維状充填剤(C-2)が、…である請求項1〜7のいずれかの項に記載のガスアシスト射出成形用樹脂組成物。」とあるが、引用する請求項のうち、本件請求項1〜6には「非繊維状充填剤(C-2)」なる文言はない。このため、本件請求項8において、本件請求項1〜6を引用した際の構成を確定することができず、本件発明8及びこれを引用する本件発明9〜13は明確であるとはいえない。

4 むすび
以上のとおり、本件発明1〜5及び7〜13は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、本件発明1〜5及び7〜13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、本件発明1〜13に係る特許は、特許請求の範囲の記載が明確であるとは言えず、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、本件発明1〜13に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備であり、特許法第36条第4項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、本件発明1〜13に係る特許は、特許法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-09-14 
出願番号 特願平9-205007
審決分類 P 1 651・ 537- ZB (C08L)
P 1 651・ 536- ZB (C08L)
P 1 651・ 121- ZB (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 大熊 幸治
佐野 整博
登録日 2003-03-07 
登録番号 特許第3406483号(P3406483)
権利者 ポリプラスチックス株式会社
発明の名称 ガスアシスト射出成形用樹脂組成物および成形方法  
代理人 鍬田 充生  

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