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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) C02F
管理番号 1127397
判定請求番号 判定2005-60044  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2000-07-25 
種別 判定 
判定請求日 2005-07-13 
確定日 2005-12-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第3605821号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「脱水ケーキの脱臭剤及び脱臭方法」は、特許第3605821号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨・手続の経緯
本件判定の請求は、平成17年7月13日になされ、その請求の趣旨は、イ号の説明に示す「対象物の臭気を脱臭する方法」(以下、「イ号方法」という。)は、特許第3605821号発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。
これに対し、平成17年8月3日付けで被請求人に請求書副本を送達するとともに、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは何らの応答もなかった。

2.本件特許発明
本件特許発明は、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜請求項4により特定されているものであり、構成要件に分説すると、次のとおりである。
「【請求項1】(A)脱水ケーキからの硫化水素およびメチルメルカプタンに由来する臭気の発生を、
(B)過酸化水素を添加しないで抑制する方法において、
(C)下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに、
(D)亜硝酸塩を添加して
(E)15分以上経過した後に、脱水処理することを特徴とする
(F)脱水ケーキの脱臭方法。
【請求項2】(G)亜硝酸塩の混合生汚泥スラリーへの添加後、脱水までの経過時間が3時間以上である請求項1記載の脱水ケーキの脱臭方法。
【請求項3】(H)亜硝酸塩の添加量が混合生汚泥スラリーに対して25〜1000mg/リットルである請求項1または2記載の脱水ケーキの脱臭方法。
【請求項4】(I)亜硝酸塩の混合生汚泥スラリーへの添加後の汚泥スラリー上の空気中の硫化水素及びメルカプタンの濃度がそれぞれ105ppm以下および10ppm以下である請求項1、2または3記載の脱水ケーキの脱臭方法。」
(なお、(A)〜(I)は構成要件を分説するために挿入した。以下、請求項1〜4に記載された発明をそれぞれ「本件特許発明1〜4」という。)

3.イ号方法
これに対して、請求人が提出した判定請求書の「6.(4)イ号方法の説明」の記載によると、イ号方法は、次の(a)〜(e)からなるものである。
「(a)排水・汚水処理過程及び産業廃棄物処理過程より生じる排水、汚水、汚泥又は産業廃棄物からの臭気の発生を抑制する方法において、
(b)脱臭対象物に直接
(c)亜硝酸塩を添加し
(d)脱臭対象物の臭気を脱臭する方法。
(e)但し、脱臭対象物が下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合工程後の混合生汚泥スラリーである場合、亜硝酸塩の添加時期は脱水前15分未満とする。」
なお、イ号の特定に関し、判定請求人は、これから脱臭剤を販売しようとする者であり、本件発明のような脱臭方法を実施する者ではなく、また、脱臭剤は未だ販売されておらず、イ号として特定すべき、現実に実施されている脱臭方法も存在しないので、イ号を現実に実施されている方法として特定できないから、請求人の主張どおりに実施される方法であると仮定して判定する。

4.対比・判断
4-1.イ号方法の各構成が、本件特許発明の各構成要件を充足するか否かの判断
(1)本件特許発明1との対比、判断
本件特許発明1を構成要件(A)〜(D)に分説してイ号物件の各構成と対比すると、イ号方法のうち構成(c)が本件発明1の構成要件(D)を充足することは明らかであり、また、構成(c)の「亜硝酸塩を添加」は、亜硝酸塩以外の他の添加を含むものか、含まないのか限定がないので、含まない態様においては、イ号方法の構成(c)はまた、本件特許発明1の構成要件(B)をも充足し得る。
また、イ号方法の構成(a)は判定請求書の「6.(4)(a)の説明」からすれば、脱臭対象とする「排水・汚水処理過程及び産業廃棄物処理過程より生じる排水、汚水、汚泥又は産業廃棄物」には、下水処理における混合汚泥、濃縮汚泥、貯留汚泥、脱水ケーキ等を含む幅広いものであり、脱水ケーキが汚泥の一態様とみれ、しかも、その中には臭気を発生する硫化水素やメチルメルカプタンに由来するものも含まれるのであるから、本件特許発明1の構成要件(A)を充足する。
また、イ号方法の構成(d)についても、脱臭対象物としては上記(a)でみたように脱水ケーキを含むものであるから、本件特許発明1の構成要件(F)を充足する。
次に、イ号方法の構成(b)及び(e)が本件特許発明1の構成要件(C)及び(E)を充足するか否かについて、以下検討すると、
(i)本件特許発明1の構成要件(C)について
本件特許発明1の構成要件(C)では、脱水ケーキの脱臭のために「下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに」亜硝酸塩を添加するものである。これは脱水ケーキの脱臭のために脱臭対象となる脱水ケーキに亜硝酸塩を直接添加するものではなく、処理工程の前段の「汚泥濃縮工程後」に添加することを意味することは明らかである。一方、イ号方法の構成(b)は「脱臭対象物に直接」亜硝酸塩を添加するものであり、脱臭対象が脱水ケーキの場合には、その脱水ケーキに直接添加するものであるから、イ号方法の構成(b)は本件特許発明1の構成要件(C)を充足しない。
(ii)本件特許発明1の構成要件(E)について
本件特許発明1の構成要件(E)は、汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに亜硝酸塩を添加して「15分以上経過した後に、脱水処理する」ものである。一方、イ号方法は、脱臭対象物に直接亜硝酸塩を添加するものであるから、脱臭対象物が「汚泥濃縮工程後の混合生汚泥」であることを包むものであるが、その場合、イ号方法の構成(e)は「脱臭対象物が下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合工程後の混合生汚泥スラリーである場合、亜硝酸塩の添加時期は脱水前15分未満とする」ものであるから、脱水までの時間が一致しないことは明白である。而るに、イ号方法の構成(e)は本件特許発明1の構成要件(E)を充足しない。

(2)本件特許発明2〜4との対比・判断
本件特許発明2〜4は、本件特許発明1の構成要件(A)〜(F)を全て有し、さらにそれぞれ構成要件(G)〜(I)を有するものであるから、上記「(1)本件特許発明1との対比・判断」でみたと同じ理由により、イ号方法の構成(b)、(e)は本件特許発明2〜4の構成要件(C)、(E)を充足しない。

4-2.均等の判断
(1)均等成立の要件
最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日)は、特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、以下の五つの要件を満たす場合には、対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であると判示している。
「【積極的要件】
(1)相違部分が特許発明の本質的部分ではなく、
(2)相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(3)上記のように置き換えることに、当業者が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
【消極的要件】
(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から容易に推考できたものでなく、かつ、
(5)対象製品等が、特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等特段の事情もない。」

(2)当審の判断
そこで、本件特許発明1〜4(本件特許発明)と異なる構成を有するイ号方法が本件特許発明と均等なものであるか否かについて、まず上記(1)の要件に基づいて以下に検討する。
本件特許発明とイ号方法との相違部分は、上記「4-1.(1)」でみたとおり、本件特許発明の構成要件(C)、(E)とイ号方法の構成(b)(e)であり、イ号方法と異なる本件特許発明の構成上の相違部分は「下水処理場の汚泥濃縮工程後の混合生汚泥スラリーに、亜硝酸塩を添加して15分以上経過した後に、脱水処理する」にあるといえる。
本件特許発明について、本件明細書の段落【0008】には、「本発明方法によれば、亜硝酸塩・・・を汚泥スラリーに添加したのち脱水することにより、脱水ケーキからの悪臭物質の発生を24時間以上抑制することができ、特に、汚泥スラリー添加後15分以上経過させることにより、より少量の添加で、より長時間にわたって悪臭を抑制することができる。」と記載され。そして、特許権者は、審判請求書(審判手続に於ける平成16年7月12日提出の手続補正書(方式):甲第5号証)において「本願発明は、初沈生汚泥と余剰汚泥の混合汚泥であって、濃縮工程の後で亜硝酸塩を添加する点に第一の構成上の特徴あります。・・・そして、第二の特徴は、亜硝酸塩を添加して15分以上経過した後に脱水処理する点にあります。」(第2頁37〜44行)と述べ、「本願発明の目的は、脱水ケーキの脱臭であり、・・・脱水ケーキに脱臭剤を直接添加しないで、脱水前の汚泥スラリーの段階に添加する点に特徴があり、さらに脱水工程の15分以上前に汚泥スラリーに添加する要件は非常に特殊であります。」(第2頁48行〜第3頁1行)、及び「濃縮工程後の濃縮された混合生汚泥に亜硝酸塩を添加して、添加から15分以上経過後に脱水工程にかける限定された条件のときのみ、脱水ケーキの脱臭という目的が達成できるのです。」(第3頁13〜15行)と主張し、更に「引用文献1には、亜硝酸塩の添加における本願発明の添加時期を示す構成の記載がありません。この構成は本願発明の脱臭効果にとって必須構成であります。特に、脱水処理の15分以上前の濃縮混合生汚泥への亜硝酸塩の添加による脱臭効果の作用効果は驚くべきものであります。」(第7頁13〜19行)と主張している。
以上のことからみると、上記相違部分は、本件特許発明の本質的部分であることは明白である。

また、上記(5)の要件についてみると、本件特許発明の構成要件は、平成15年8月11日付け手続補正書(甲第4号証)により、本願明細書(本件特許公開公報:甲第3号証)の【特許請求の範囲】【請求項1】及び【請求項2】の構成要件を削除する補正がなされたものである。補正前の【請求項2】は「亜硝酸塩、亜硫酸塩又は亜硫酸水素塩を、汚泥スラリーに添加したのち脱水する」というもので、これは脱水までの時間の限定のないものである。而るに、上記補正により、【請求項2】の構成要件を削除し、脱水までの時間の限定のないものから「亜硝酸塩を添加して15分以上経過した後に、脱水処理する」ことに限定したことは明らかであるから、イ号方法の構成(e)の「亜硝酸塩の添加時期は脱水前15分未満とする」ことは特許請求の範囲から意識的に除外されたものに該当するといえる。

よって、イ号方法は、上記均等成立の要件(1)を満たさないし、また要件(5)をも満たさない。

5.むすび
したがって、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2005-11-21 
出願番号 特願平11-4475
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (C02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 敬子  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 板橋 一隆
増田 亮子
登録日 2004-10-15 
登録番号 特許第3605821号(P3605821)
発明の名称 脱水ケーキの脱臭剤及び脱臭方法  
代理人 高橋 三雄  
代理人 高橋 大典  

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