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審決分類 審判 判定 利用 属さない(申立て成立) G11B
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) G11B
管理番号 1127398
判定請求番号 判定2005-60046  
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1990-07-10 
種別 判定 
判定請求日 2005-07-20 
確定日 2005-12-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第1883524号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「ディスクロ―ディング装置」は、特許第1883524号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号写真並びにイ号説明書に示す物件「ディスクローディング装置」(以下、「イ号物件」という。)は、特許第1883524号発明(以下、「本件発明」という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

2.本件発明
(2-1)本件発明
本件発明の構成要件は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものであって、構成要件毎にA〜Fの符号を付して示せば、次のとおりのものと認める。
「A.ディスク(23)(25)(27)を載せて出入させるトレー(29)と、
B.前記ディスク(23)(25)(27)をチャッキング動作させるスライド板(32a)(32b)とを設ける
C.ディスクローディング装置において、
D.前記トレー(29)のラックギヤ(38)及びスライド板(32b)のラックギヤ(51)を噛合せるドライブギヤ(44)と、
E.前記トレー(29)のラックギヤ(38)及びスライド板(32b)のラックギヤ(51)を択一的にドライブギヤ(44)に噛合せる切換板(50)とを設けた
F.ことを特徴とするディスクローディング装置。」

(2-2)本件発明の目的及び効果
明細書の記載によれば、本件発明は、「従来技術は、・・・(中略)・・・、トレー及びチャック板に対しターンテーブルを昇降させるものを開発したが、トレーを出入させるラックギヤを兼用してターンテーブルを上下させていたので、トレーに設けるラックギア等の取付け構造の簡略化並びに製造コストの低減などを容易に図り得ない等の問題があった。」(本件特許出願公告公報の第2欄第3行〜第3欄第1行目)と明細書に示され、この問題点を解決することを目的とし、上記(2-1)の本件発明のようにすることで、「トレー(29)の上下動を不要にしてディスク(23)(25)(27)出入構造を簡潔にできると共に、前記トレー(29)とスライド板(32a)(32b)をそれぞれに設けたラックギア(38)(51)により駆動するから、トレー(29)に設けるラックギア(38)などの取付け及び駆動構造の簡略化並びに製造コストの低減などを容易に行うことができる等の実用的な効果を奏するものである。」(本件特許出願公告公報の第7欄第6行〜第8欄第5行目)という明細書に記載された効果を奏するものである。

3.イ号物件
(3-1)イ号図面について
判定請求書に添付されたイ号図面には、請求人がイ号説明書で記載してあるように、
「* 第1図は、「AVOXブランド DVDプレーヤー 製品番号ADS-200S 」(以下、「DVDプレーヤー1」 と称する。)の外観写真、
* 第2図は、DVDプレーヤー1のトップカバー1aを取り外し、上方から撮像した写真、
* 第3図は、第2図の状態からトレー4をオープンした状態を撮像した写真、
* 第4図は、イ号物件(ディスクローディング装置2)の拡大写真で、トレー4はオープン状態で、その上に直径12cmのディスク5を載置した写真、
** 第4-1図は、同じくイ号物件(ディスクローディング装置2)の拡大写真で、トレー4はオープン状態で、その上に直径8cmのディスク5′を載置した写真、
* 第5図は、同じくイ号物件(ディスクローディング装置2)の拡大写真で、トレー4 はクローズ状態で、その上に直径12cmのディスク5を載置した写真、
** 第5-1図は、同じくイ号物件(ディスクローディング装置2)の拡大写真で、トレー4 はクローズ状態で、その上に直径8cmのディスク5′を載置した写真、
* 第6図乃至第6-2は、DVDプレーヤー1から、フロントパネル1b及びトレー4 を取り外し、第3図に示されるAの部分を撮像した、部材6の動作に伴うチャッキング動作を確認するための写真、
** 第6図(i),第6-1図(i)及び第6-2図(i)は、上記A部分を上方から撮像した写真、
** 第6図(ii),第6-1図(ii),第6-2図(ii)は、それぞれ第6図(i)の矢視B図,第6-1図(i)の矢視C図及び第6-2図(i)の矢視D図であり、第6図(iii),第6-1図(iii)及び第6-2図(iii)は、それぞれ第6図(ii),第6-1図(ii)及び第6-2図(ii)の矢視B乃至D図において、ターンテーブル15上に直径8cmのディスク5′を搭載した状態で撮像した写真、
* 第7図(i)及び(ii)は、イ号物件(ディスクローディング装置2)から部材6を取り外し、背面側から単体で撮像した写真、(iii)は、イ号物件(ディスクローディング装置2)のモータシャーシ8の前部に取り付けられた樹脂製のシャーシ80を取り外し、正面側から単体で撮像した写真、
* 第8図は、イ号物件(ディスクローディング装置2)から取り外したトレー4の下側を撮像した写真、」(なお、上記で「イ号物品」は「イ号物件」とした、以下も同様。)
が、各々示されているものと認められる。

(3-2)イ号物件の動作構成
判定請求書に添付された、上記イ号図面に示されているディスクローディング装置の動作構成は、請求人がイ号説明書で記載しているように、
「第1図に示されるように、DVDプレーヤー1の装置筺体に取り付けられたフロントパネル1bにディスク挿入口3が設けられており、装置筺体の上方が、トップカバー1aによって覆われている。
DVDプレーヤー1の装置筺体からトップカバー1aを外した写真が第2図及び第3図である。第2図では、上記DVDプレーヤー1のディスクローディング装置2のトレー4がクローズ状態になっており、第3図では上記トレー4がオープン状態になっている。
第4図に示されるように、上記ディスクローディング装置2は、ディスク5を載置するトレー4のほかにも、チャック板7及びモータ取付シャーシ8を備えている。また、トレー4 は、直径12cmのディスク5 のほかにも、第4-1図に示されるように、直径8cmのディスク5´をも載置できるものである。すなわち、複数種類のディスク5及び5´を載置可能に設けられている。
第5図及び第5-1図は、それぞれ第4図及び第4-1図の状態からトレー4をクローズした状態であり、図には示されていないが、上記モータ取付シャーシ8を上昇させることで、ディスク5 及び5´がチャック板7に圧接され、ターンテーブル15(第6図(ii),第6-1図(ii)及び第6-2図(iii)参照)上に固定支持される。
このような動作を司る機構部を示す図が、第6図(i)乃至(iii)(第3図に示されるAの部分を撮像した写真)である。
以下に当該機構部の動作を説明する。例えば、トレー4 のオープン状態において、ユーザがDVDプレーヤー1のOPEN/CLOSE釦によってクローズ操作した場合、モータ13 が駆動し、プーリ12 ,ベルト14,プーリ11を介して、ドライブギヤ9が回転する。ドライブギヤ9は、当初はトレー4の下面に形成されたラックギヤ16(第8図参照)と噛合うので、トレー4の格納動作が行われる。その後、トレー4が所定の位置まで格納されると、部材6の部位62(第7図(ii)参照)に形成されたボス6aは、トレー4の下面に形成されたガイド溝17(第8図参照)に導かれる。ガイド溝17 は、第8図に示されるように傾斜溝17a と位置決め溝17bとを備えており、傾斜溝17a に上記ボス 6aが導かれると、部材6は各図の矢印 B,C,D方向から見て右方向へと摺動する(第6図,第6-1図及び第6-2図参照)。部材6が右方向へと摺動すると、上記ドライブギヤ9には、部材6の部位61(第7図(ii)参照)のラックギヤ10が噛合う。
第6-1図(i)乃至(iii)は、部材6が右方向へ摺動したことによって、部材6の部位61のラックギヤ10が、ドライブギヤ9に噛合い始めた状態を示す写真である。上記部材6 の部位61には、2つのガイド溝6bが形成されており(第7図(i))、モータ取付シャーシ8 には、その前部に取り付けられた樹脂製シャーシ80に2つのボス80aが形成されている(第7図(iii))。上記のように、部材6が右へ摺動すると、上記ボス80aがガイド溝6bの形状に沿って案内され、これによって、モータ取付シャーシ8及びその上方に設けられたターンテーブル15が上昇を開始する。
部材6の部位61のラックギヤ10にドライブギヤ9が噛合うと、ドライブギヤ9の回転によって、部材6は更に右方向へと摺動する。第6-2図(i)乃至(iii)に示されるように、部材6が更に右方向へ摺動すると、モータ取付シャーシ8及びターンテ一ブル15は更に上昇して、ディスク5及び5´はチャック板7に圧接され、ターンテーブル15上に固定支持されることになる。
トレー4のクローズ状態において、ユーザがOPEN/CLOSE釦によってオープン操作した場合は、以上の動作とはまったく逆の動作がなされる。」

(3-3)イ号物件
イ号物件は、以上の事項から、本件発明に対応して構成毎にa〜fの符号を付して示せば、次のとおりのものと認める。
「a.8cm又は12cmのディスクを載せて出入させるトレー 4と、
b.前記ディスクをチャッキング動作させる部材6 の部位61と、
c.ディスクローディング装置2と、
d.前記トレー4のラックギヤ16及び部材6の部位61のラックギヤ10を噛合せるドライブギヤ9と、
e.前記トレー4のラックギヤ16及び部材6の部位61のラックギヤ10をドライブギヤ9に噛合せる部材6の部位62とを設けた
f.ディスクローディング装置 2。」

4.本件発明及びイ号物件においての当事者の主張
(4-1)請求人の主張
(4-1-1)請求人は、イ号物件の説明では、『部材6』について、特に、考察して以下のように主張するものである。
「部材6の部位61のラックギヤ10にドライブギヤ9が噛合うことによって部材6が摺動すると、モータ取付シャーシ8に形成されたボス80aが部材6の部位61に設けられたガイド溝6bに案内されることによって、モータ取付シャーシ8及びその上方に設けられたターンテーブル15が上昇し、上記ディスク5及び5´がチャッキングされることになる。したがって本件明細書の記載に対応させると、部材6の部位61は「ディスク(23)(25)(27)をチャッキング動作させるスライド板(32a)(32b)」(甲第2号証(本件特許出願公告公報)1頁第1欄3行目から4行目)に、部材6の部位61のラックギヤ10は本件発明の「スライド板(32b)のラックギヤ(51)」(甲第2号証(本件特許出願公告公報)第1頁第1欄6行目)に、部材6の部位61のガイド溝6bは「(スライド板(32a)(32b)に形成された)ガイド溝(60a)(60b)(60c)」(甲第2号証(本件特許出願公告公報)3頁第6欄2行目)に、それぞれ相当するものである。
また、部材6の部位62は、これに形成されたボス6aが、トレー4の下面に形成されたガイド溝17に導かれることによって摺動を開始する。当初、ドライブギヤ9にはトレー4 の下面に形成されたラックギヤ16が噛合っているが、上記部材6の摺動によって、ドライブギヤ9にはラックギヤ10(=「スライド板のラックギヤ」に相当)が噛合うことになる。このように、部材6が摺動することによって、ドライブギヤ9に噛合うギヤが、トレー4のラックギヤ16か、若しくはスライド板部分61のラックギヤ10というように択一的に決まることになる。
したがって、明細書の記載に対応させると、部材6の部位62は「トレー(29)のラックギヤ(38)及びスライド板(32b)のラックギヤ(51)を択一的にドライブギヤ(44)に噛合せる切換板(50)」(甲第2号証(本件特許出願公告公報)1頁第1欄7行目から9行目)に、部材6の部位62に形成されたボス6aは本件発明の「(切換板(50)上面に固設され)トレー(29)の長講(55)に摺動自在に歓込む連係用ボス(57)」(甲第2号証3頁第5欄29行目から30行目)に、それぞれ相当するものである。」(甲第4号証の第5頁第10行〜第6頁第15行目)
要するに、部材6の部位61は『スライド板部分』であり、部材6の部位62は『択一的にドライブギアに噛合せる切換板部分』というものである。
(4-1-2)結局、請求人は、本件発明とイ号物件とは、各構成毎に対比していくと、
* イ号物件の「a.8cm又は12cmのディスクを載せて出入させるトレー4」は、本件発明の「A.ディスク(23)(25)(27)を載せて出入させるトレー(29)」に、
* イ号物件の「b.前記ディスクをチャッキング動作させる部材6のスライド板部分61」は、本件発明の「B.前記ディスク(23)(25)(27)をチャッキング動作させるスライド板(32a)(32b)」に、
* イ号物件の「c.ディスクローディング装置2」は、本件発明の「C.ディスクローディング装置」に、
* イ号物件の「d.前記トレー4のラックギヤ16及び部材6のスライド板部分61のラックギヤ10を噛合せるドライブギヤ9」は、本件発明の「D.前記トレー(29)のラックギヤ(38)及びスライド板(32b)のラックギヤ(51)を噛合せるドライブギヤ(44)」に、
* イ号物件の「e.前記トレー4のラックギヤ16及び部材6のスライド板部分61のラックギヤ10を択一的にドライブギヤ9に噛合せる部材6の切換板部分62」は、本件発明の「E.前記トレー(29)のラックギヤ(38)及びスライド板(32b)のラックギヤ(51)を択一的にドライブギヤ(44)に噛合せる切換板(50)」に、
* イ号物件の「f.ディスクローディング装置2」は、本件発明の「F.ディスクローディング装置」に、
おいて各々一致するものであるから、イ号物件は本件発明の全ての構成要件を具備すると主張する。(判定請求書の第5頁第3行〜第6頁第17行目)

(4-2)被請求人の主張
他方、被請求人は、答弁書で上記(4-1)でのイ号物件の『部材6』を考察、及びこの考察に基づく、本件発明とイ号物件との技術的対比の記載内容について否認し、争うとして、大要、以下の反論をするものである。(答弁書の第9頁第2行〜第10頁第7行目)
(4-2-1)イ号物件におけるスライド板の不存在
* 「本件特許の出願前において、構成要件Bのように、あるいは本件特許の明細書の実施例にもあるように、ディスクのチャッキング動作を行う機構として、トレーの送り方向の左右にスライド板を設けることや、該スライド板にディスクのチャックを行うための部材を昇降させる為の傾斜溝を設けることは全く自明であり、例えば下記先行特許文献には、構成要件A、B、Cに係る前提的構成要件を備え、かつ本件特許の実施例と略同等の左右一対のスライド板が開示されるところである。」(答弁書の第14頁第12行〜第18行目)
* 「請求人は、・・・(中略)・・・、上記乙第2号証ないし乙第5号証に係る文献において、傾斜溝等を備えたスライド板が掲記され、明示されていることからすると、本件特許に係る発明の技術的範囲は、前提として、独立の構成部材としてスライド板を備えているものを対象としていることに相違なく、その意味でイ号物件はそもそも独立の構成部品としてのスライド板(32a)(32b)を備えておらず、部材6を構成要件Bのスライド板と同視する請求人の主張には重大な誤りがある。」(答弁書の第15頁第13行〜第15行目)

(4-2-2)イ号物件における切換板の不存在
「イ号物件においては・・・構成要件Bに示すスライド板(32a)(32b)が存在しないところであり、当然のことながら構成要件Eに示す『前記トレー(29)のラックギア(38)及びスライド板(32b)のラックギア(51)を択一的にドライブギア(44)に噛み合わせる切換板(50)』という下線部分に示す技術的事項が存在しない。請求人の前記主張によると、部材6の部位61の部分が構成要件Eにおける切換板に相当する旨の無理な拡張解釈を展開している。しかし、このような構成要件Bではスライド板と部材6を同視し、なおかつ構成要件Eでは部材6と切換板を同視して、徒らにクレームを拡げた場合、もはやクレームの文理解釈は有名無実となり、そのような解釈を許容すれば無限にクレームは拡大に拡大を重ねてしまうことになる。・・・(中略)・・・ドライブギアをトレーのラックあるいはスライド板のラックに選択的に切換えるための、数々の切換手段が選考文献として存在することに鑑みれば、請求項1の構成要件Eの構成部材「切換板(50)」の技術内容を徒に拡張すべきでなく、文理上の構成どおり解釈すべきところである。」(答弁書の第16頁第18行〜第17頁第24行目)

(4-2-3)先行文献等の存在を考慮しての本件発明の技術的範囲
「・・・(前略)・・・先行技術文献において、ドライブギアの噛合に関する切換手段が多数存在する以上、構成要件Eの『切換板50』の技術的要素は例えばラックギア38からラックギア51の噛合いを切り換える板材と解するのが自然であり、構成要件Eにおいて、切換板50の切換が持つ意味は、本件特許の実施例において切換のための中継ギア54しか開示されていない以上、実態としてこうした切換えのための技術的要素(中継ギア54)を備えたディスクローディング装置において、技術的範囲が存在するものと見るべきところである。」(答弁書の第19頁第11行〜第27行目)

(4-2-4)本件発明とイ号物件の技術的対比
本件発明とイ号物件の技術的対比は以下のように主張している。
【本件発明】 【イ号物件】
構成要件A ⇒ 該当する
構成要件B ⇒ 該当しない
構成要件C ⇒ 該当する
構成要件D ⇒ ほぼ該当する
構成要件E ⇒ 該当しない
構成要件F ⇒ 該当する
(答弁書の第10行〜第16行目)

5.当審の対比・判断
(5-1)対比
(5-1-1)本件発明を構成要件毎に分説すれば、上記(2-1)に記載のような構成要件A〜Fと、また、イ号物件は構成毎に分説すれば上記(3-2)に記載のような構成a〜fとに区分できるものと認める。

(5-1-2)そして、構成aは構成要件Aを、構成cは構成要件Cを、及び、構成fは構成要件Fを、それぞれ充足する。

(5-1-3)次に、イ号物件の構成b,d,eと本件発明の構成要件B,D,Eの対応関係であるが、これは本件発明においての『スライド板』及び『択一的にドライブギアに噛合せる切換板』の技術解釈によるので、これについて検討する。
* 件発明によれば、『スライド板』は「ディスクをチャッキング動作させる」もので、その動作は「スライド板のラックギヤを噛合せるドライブギヤ」によってなされると記載されているものである。そして、本件発明の詳細な説明には以下の記載がある。
** 「第1図、第8図及び第9図にも示す如く、前記ドライブギヤ(44)に噛合させる昇降ラックギヤ(51)を右スライド板(32b)に一体形成し、トレー(29)の出入ラックギヤ(38)に対向させて昇降ラックギヤ(51)を配置させる」(甲第2号証の第4欄第48行〜第5欄第2行目)、
** 「モータ取付けシャーシ(3)両側外面に上下動ピン(59a)(59b)(59c)を固設すると共に、スライド板(32a)(32b)にガイド溝(60a)(60b)(60c)を形成し、またシャーシ(2)垂直ガイド溝(60d)を形成し、前記ピン(59a)(59b)(59c)をガイド溝(60a)(60b)(60c)(60d)に係入させ、前記ピン(59a)(59b)(59c)にこよりモータ取付けシャーシ(3)を上下動自在に支持するもので、ターンテーブル(7)を略水平状態で昇降自在に取付け、ターンテーブル(7)の上昇動作でデイスク(23)(25)(27)をチャッキングするように構成している。」(甲第2号証の第3欄第50行〜第6欄第9行目)
* ところで、本件発明での、上記『板』構成であるが、板とは、「うすくひらたくした部材」であって、幅,長さ,厚さの見方では、『板』に含まれる範囲は必ずしも明確ではない。しかしながら、イ号物件のものは、少なくとも、第7図(i)及び(ii)図の記載では、奥行き方向にうすく、高さ方向、幅方向に長さがあってひらたいので、略『板』状といえるものである。そして、イ号物件の部材6の部位61のもたらす機能は、上記(3-2)に記載のとおり、
「第6-1図(i)乃至(iii)は、部材6が右方向へ摺動したことによって、部材6の部位61のラックギヤ10が、ドライブギヤ9に噛合い始めた状態を示す写真である。上記部材6 の部位61には、2つのガイド溝6bが形成されており(第7図(i))、モータ取付シャーシ8 には、その前部に取り付けられた樹脂製シャーシ80に2つのボス80aが形成されている(第7図(iii))。上記のように、部材6が右へ摺動すると、上記ボス80aがガイド溝6bの形状に沿って案内され、これによって、モータ取付シャーシ8及びその上方に設けられたターンテーブル15が上昇を開始する。部材6の部位61のラックギヤ10にドライブギヤ9が噛合うと、ドライブギヤ9の回転によって、部材6は更に右方向へと摺動する。第6-2図(i)乃至(iii)に示されるように、部材6が更に右方向へ摺動すると、モータ取付シャーシ8及びターンテ一ブル15は更に上昇して、ディスク5及び5´はチャック板7に圧接され、ターンテーブル15上に固定支持されることになる。」
との動作のものであるから、上記本件発明に記載された事項のものと特段相違するものでない。
よって、イ号物件の構成b及びdは本件発明の構成要件B及びDをそれぞれ充足する。

(5-1-4)次に、イ号物件の構成eと構成要件Eの『前記トレーのラックギヤ及びスライド板のラックギヤを択一的にドライブギアに噛合せる切換板』であるが、『択一的』とは「二つ以上のものの中から一つをえらぶ」(広辞苑)ことの意味である。撰ぶ機能のものはえらばれる機能のものに対して独立して存在し、えらばれる機能のものと一体になっいるものは含まれないと考えるのが通常的な解釈である。そして、上記本願発明の構成要件Eでの『択一的にドライブギアに噛合せる切換板』であるが、トレーのラックギヤ、スライド板のラックギヤをドライブギアに噛合わせていく際に、そこに介在手段があるものと解釈できる。この事項を本件発明の詳細な説明を参酌して、以下の記載がある。(下線は当審で付与)
* 「第3図の如く、メインシャーシ(2)上面に支軸(47)を介して揺動アーム(48)中間を軸支させると共に、該アーム(48)両端にピン(49)(49)を介して左右スライド板(32a)(32b)を連結させると共に、トレー(29)の出入方向に対し略直交する左右方向に揺動させる切換板(50)を設けている。」(甲第2号証の第4欄第42行〜第47行目),
* 「ガイドピン(52)及びガイド溝(53)を介してメインシャーシ(2)上面側に摺動自在に前記切換板(50)を支持させ、第6図の如く、右スライド板(32b)上面とトレー(29)下面の間に切換板(50)を取付け、ドライブギヤ(44)に噛合させる中継ラックギヤ(54)を切換板(50)に一体形成し、前記各ラックギヤ(38)(51)(54)をドライブギヤ(44)に噛合させ、トレー(29)及び右スライド板(32b)及び切換板(50)を揺動駆動するよう構成している。」(甲第2号証の第5欄第2行〜第9行目)
* 「前記トレー(29)の長講(55)に摺動自在に嵌込む連係用ボス(57)を切換板(50)上面に固設させると共に、前記スライド板(32b)の長講(56)に摺動自在に嵌込む連係用ボス(58)を切換板(50)下面に固設させるもので、前記トレー(29)及びスライド板(32b)の各長講(55)(56)の傾斜溝(55a)(56a)を各ボス(57)(58)が通過するのに必要な長さにだけ切換板(50)の中継ラックギヤ(54)を延設させる。」(甲第2号証の第5欄第29行〜第36行目)
* 「本実施例は上記の如く構成しており、第2図の如くトレー(29)を引出した状態で各ディスク(23)(25)(27)のいずれかをトレー(29)に載せる。このとき、トレー(29)の出入ラックギヤ(38)がドライブギヤ(44)に噛合しているから、ローディングモータ(40)の作動によってトレー(29)が進入すると共に、出入ラックギヤ(38)の噛合が終了するとき、傾斜溝(55a)とボス(57)の案内によってトレー(29)と運動して切換板(50)が左方向に揺動し、中継ラックギヤ(54)の噛合を開始させるもので、ドライブギヤ(44)によって切換板(50)を左方向に揺動させることにより、ドライブギヤ(44)に対し出入ラッグギヤ(38)が離反し、ボス(57)が位置決め溝(55b)に移動してトレー(29)を進入完了位置に固定支持する。また、切換板(50)がさらに左方向に移動して中継ラックギヤ(54)の噛合が終了するとき、傾斜溝(56a)とボス(58)の案内によって切換板(50)と運動して右スライド板(32b)が本機ケース(1)前面方向に摺動し、昇降ラックギヤ(51)の噛含を開始させるもので、左方向に移動した位置に切換板(50)が支持されると共に、ドライブギヤ(44)によって左右スライド板(32a)(32b)をトレー(29)出入方向に揺動させ、モータ取付けシャーシ(3)を上昇作動させ、ターンテーブル(7)を上昇させ、トレー(29)上面のディスク(23)(25)(27)をターンテーブル(7)とチャック板(37)により挟持するもので、このチャッキング動作後にディスク(23)(25)(27)を回転させ乍らピックアップ(8)を揺動させ、ディスク(23)(25)(27)の情報を読取って再生する。」(甲第2号証の第6欄第15行〜第40行目)
これらの記載から判断して、本件発明の切換板とは、要するに、『トレーのラックギヤ及びスライド板のラックギヤをドライブギアに対し切換える中継機能をもつ部材』の構成であって、スライド板のような部材に、切換える手段を兼用させた構成のものまでも含む記載はみあたらない。
(5-1-5)請求人は、上記主張に至る根拠の一つとして、注3として「構成要件Eの「スライド板」と「切換板」とは「別々の部材からなるものに限られる」というような限定的な解釈をすることは誤りである。(本件明細書(甲第2号証)及び出願人から提出した平成5(1993)年2月15日付け意見書中にも、「それぞれ別々の部材からなるスライド板と切換板」に限定する旨の記載はなく、上記「特段の事情」もない。)
したがって、イ号物品のスライド板と切換板とは、イ号説明書(甲第4号証)に示すとおり、一の部材6のそれぞれ部位61と部位62とからなるものであるが、イ号物品の構成eは、本件特許発明の構成要件Eと一致する。」(判定請求書の第8頁第1行〜第12行目)などとも主張する。
しかしながら、イ号物件のものは部位62のボス6aがトレーの下面ガイド溝17aから17bに導かれて摺動していくことによって、トレー4のラックギア16とドライブギア9の噛合せから、部材6のラックギア10とドライブギア9の噛合に、切換が行われるもので、このところに『択一的に・・・噛合せる切換板』の構成は存在しない。ここに記載ある事項は、部材6と一体的になっているボス6aが、トレー4のラックギアのドライブギア9との噛合せから部材6のラックギアへ切換えていくガイドの溝であり単なる案内でしかない。
仮に、ボス6aが部材6に対して独立した動作をするものであるならば『択一的な切換板』と言えなくもないが、そのような構成の記載もない。
したがって、上記限定的解釈の採用をすることが誤りである以前において、そもそも、上記『択一的に』を請求人の解釈するような構成としては特許請求の範囲の記載から見出すことはできないし、発明の詳細な説明をみても記載ないし示唆もされてなく採用できない。
要するに、イ号物件には、「択一的にドライブギア(44)に噛合せる切換板(50)」は存在しない。

(5-1-6)また、被請求人が答弁書で提示した当該技術分野の乙第2号証〜乙第8号証の公知の技術を参酌するにおいても、本件発明は公知技術を除く上記Eにおいて、『切換板』を独立して有する事項である、上記(5-1-5)のように文理上の構成として理解していくことで特徴的構成の実施が可能と解釈できるものである。
(5-1-7)請求人は、注3として、続いて「仮に、イ号物件において、本件明細書でいう「スライド板」と「切換板」とを同一の部材6で実現したことに、技術的思想の創作が認められるとしても、イ号物件は、本件特許発明を利用するものである。」(判定請求書の第8頁第13行〜第16行目)とも主張する。
しかしながら、イ号物件のものは、両者に争いのない事項で、以下の動作機能をもって説明している。
「例えば、トレー4のオープン状態において、ユーザがDVDプレーヤー1のOPEN/CLOSE釦によってクローズ操作した場合、モータ13が駆動し、プーリ12,ベルト14,プーリ11を介して、ドライブギヤ9が回転する。ドライブギヤ9は、当初はトレー4の下面に形成されたラックギヤ16(第8図参照)と噛合うので、トレー4の格納動作が行われる。その後、トレー4が所定の位置まで格納されると、部材6の部位62(第7図(ii)参照)に形成されたボス6a は、トレー4の下面に形成されたガイド溝17(第8図参照)に導かれる。ガイド溝17は、第8図に示されるように傾斜溝17aと位置決め溝17bとを備えており、傾斜溝17a に上記ボス 6a が導かれると、部材6は各図の矢印B,C,D方向から見て右方向へと摺動する(第6図,第6-1図及び第6-2図参照)。部材6が右方向へと摺動すると、上記ドライブギヤ9には、部材6の部位61(第7図(ii)参照)のラックギヤ10が噛合う。」
これによれば、トレーの下面部に設けた傾斜溝17aを含むガイド溝の形状と、これに係合する部材6のボス6aによりドライブギアへのトレーから部材6のラックギア10への切換を実行していくものであるのだから、本件発明とは、切換手段からして相違し、そして、切換板をもたないところで構成の簡素化が認められ、「イ号物件は、本件特許発明を利用するものである」というものにあたらない。
よって、イ号物件の構成eは本件発明の構成要件Eを充足するものではない。

以上のとおりであって、イ号物件は、本願発明の構成要件である、特に、上記構成要件Eの事項を備えていない。

6.むすび
したがって、イ号物件は、本願特許発明の技術的範囲に属するものとすることはできない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2005-11-21 
出願番号 特願昭63-332595
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (G11B)
P 1 2・ 2- ZA (G11B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 前田 正夫  
特許庁審判長 江畠 博
特許庁審判官 片岡 栄一
山澤 宏
登録日 1994-11-10 
登録番号 特許第1883524号(P1883524)
発明の名称 ディスクロ―ディング装置  
代理人 山田 智重  
代理人 山田 博重  
代理人 山田 勝重  
代理人 山田 克己  
代理人 本多 泰介  

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