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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A23L |
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管理番号 | 1127399 |
判定請求番号 | 判定2005-60048 |
総通号数 | 73 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2001-11-27 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2005-07-25 |
確定日 | 2005-12-06 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3505474号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号説明書に示すイ号方法は、特許第3505474号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
1.請求の趣旨 本件判定の請求の趣旨は、イ号説明に係るイ号方法が、特許第3505474号の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。 2.本件特許発明 本件特許発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、それを構成要件に分説すると、次のとおりである。 A 下記(1)〜(6)の工程を含むことを特徴とするキノコ類の成分の抽出方法。 B (1)生、冷凍もしくは乾燥のキノコ類を、該キノコ類1重量部に対して5〜100重量部の30℃以下の水中で抽出する工程、 C (2)生、冷凍もしくは乾燥のキノコ類、および/または該工程(1)における抽出残渣を、該キノコ類および/または該抽出残渣の1重量部に対して5〜100重量部の70℃以上の水中で抽出する工程、 D (3)生、冷凍もしくは乾燥のキノコ類、および/または該工程(1)および/もしくは(2)における抽出残渣を、該キノコ類および/または該抽出残渣の1重量部に対して5〜100重量部の30〜90℃の水中で糸状菌由来の植物組織崩壊酵素を用いて酵素処理して抽出する工程、 E (4)工程(1)〜(3)で得られた画分を合わせて遠心分離および/または濾過により固液分離する工程、 F (5)得られた透明な分離液を濃縮する工程、および G (6)得られた濃縮液を乾燥する工程。 (以下、分説した上記A〜Gを、構成要件A〜Gという。) 3.イ号方法 本件は、被請求人が存在しない判定請求であって、請求人が提出した判定請求書と同請求書に添付したイ号説明書、及び、平成17年10月19日付け回答書と同回答書に添付した参考資料1からみて、イ号方法の構成を本件特許発明と対応するように記載すると、次のとおりである。 a 下記(i)〜(v)の工程を含むことを特徴とするアガリクス茸の成分の抽出方法。 b (i)乾燥アガリクス茸を、該アガリクス茸1重量部に対して22重量部の通常上水温度(10〜25℃)の水中で抽出する工程、 c (ii)該工程(i)における抽出残渣を、該抽出残渣の1重量部に対して11重量部の95±5℃の水中で抽出する工程、 d (iii)(ii)における抽出残渣を、該抽出残渣の1重量部に対して11重量部の50±5℃の水中でアスペルギルス由来セルラーゼを用いて酵素処理して抽出する工程、 e (iv)工程(i)〜(iii)で得られた画分を合わせて濾過により固液分離する工程、および f (v)得られた透明な分離液を濃縮し、 g 適当な濃度の濃縮液を得る工程。 (以下、分説した上記a〜gを、構成要件a〜gという。) 4.当審の判断 4-1.イ号方法の構成が本件特許発明の各構成要件を充足するか否かについての判断 4-1-1.構成要件Aについて イ号方法の構成要件aにおける「アガリクス茸」は、本件特許発明の構成要件Aにおける「キノコ類」の一種である。 次に、本件特許発明の構成要件Aにおける「下記(1)〜(6)の工程を含むこと」の充足性は、イ号方法が本件特許発明の構成要件B〜Gを充足するか否かにかかわる。 そこで、他の構成要件の充足性を先に検討するが、後述する理由により、イ号方法は、本件特許発明の構成要件Gを充足しないから、結果として、イ号方法は、構成要件Aを充足するということができない。 4-1-2.構成要件Bについて イ号方法の「乾燥アガリクス茸」、「22重量部」、「通常上水温度(10〜25℃)」は、それぞれ本件特許発明の「乾燥のキノコ類」、「5〜100重量部」、「30℃以下」に含まれるから、イ号方法の構成要件bは、本件特許発明の構成要件Bを充足する。 4-1-3.構成要件Cについて イ号方法の「11重量部」、「95±5℃」は、それぞれ本件特許発明の「5〜100重量部」、「70℃以上」に含まれるから、イ号方法の構成要件cは、本件特許発明の構成要件Bを充足する。 4-1-4.構成要件Dについて イ号方法の「11重量部」、「50±5℃」、「アスペルギルス由来セルラーゼ」は、それぞれ本件特許発明の「5〜100重量部」、「30〜90℃」、「糸状菌由来の植物組織崩壊酵素」に含まれるから、イ号方法の構成要件dは、本件特許発明の構成要件Dを充足する。 4-1-5.構成要件Eについて イ号方法の構成要件eは、本件特許発明の構成要件Eを充足する。 4-1-6.構成要件Fについて イ号方法の構成要件fは、本件特許発明の構成要件Fを充足する。 4-1-7.構成要件Gについて 一般に、「乾燥」とは、「湿気や水分がなくなること、また、なくすこと。かわくこと。」を意味する(広辞苑)。 ちなみに、本件特許明細書によると、濃縮液を「乾燥」することに関して次のとおり記載されている。 「この様にして得られた濃縮液は、そのまま使用することも可能であるが、工程(6)において凍結乾燥機、スプレードライ乾燥機等により乾燥粉末化できる。」(段落【0018】本件特許公報4頁右欄23〜26行) 「得られた濃縮液は、マンニット、ソルビットなどの糖アルコールを含まず、β-グルカン等を含む水溶性高分子多糖類を乾燥キハナビラタケにおける含有量の5〜50%程度抽出できた溶液であった。得られた濃縮液に、固形分と同量のデキストリンを加え、スプレードライヤーにて乾燥し乾燥エキスパウダーを得た。」(段落【0022】本件特許公報5頁右欄7〜12行) 上記のように、特許明細書において「乾燥」という表現は、濃縮液の水分をなくして粉末化する際に使用されており、上記の一般的な意味と異なった意味で用いられているものではない。 したがって、本件発明の構成要件Gの「得られた濃縮液を乾燥する工程」とは、濃縮液を乾燥して水分をなくして、最終的に乾燥物を得る工程を意味するものと認められる。 これに対し、イ号方法の構成要件gの「適当な濃度の濃縮液を得る工程」は、最終的に液状物を得る工程であるから、本件発明の構成要件Gを文言上充足しているとはいえない。 以上を整理すると、イ号方法は、構成要件A及びGを文言上充足しない。 4-2.本件特許発明とイ号方法が均等であるか否かの判断 前記のとおり、イ号方法は、本件特許発明の構成要件A及びGを文言上充足しないものとなったが、これは、最終工程が、本件特許発明は、「得られた濃縮液を乾燥する工程」であって、最終的に乾燥物を得るのに対し、イ号方法では、「適当な濃度の濃縮液を得る工程」であって、最終的に液状物を得るものであることに基づくものである。 請求人は、本件特許発明とイ号方法は均等である旨を主張するので検討する。 ところで、最高裁平成6年(オ)第1083号(平成10年2月24日)判決は、均等の要件について、次のように述べている。 「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても、(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、(2)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」 また、上記(5)の条件でいう、「特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情」について、同判決は、「(四)また、特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど、特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか、又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて、特許権者が後にこれと反する主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されない」と述べている。 4-2-1.均等の要件(2)について イ号方法が特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏するか否かについて、以下検討する。 4-1-7.において述べたように、本件特許発明は、「濃縮液を乾燥する工程」を有するものであって、最終形態が乾燥物である成分の抽出方法であるといえる。 ところで、当該技術分野において、ある成分を含有する濃縮物を乾燥して乾燥物とすることにより、取り扱い性がよくなり、保存性が向上するという作用効果を奏するものであることは、周知の事項である。 したがって、本件発明は「濃縮液を乾燥する工程」という構成を採用することで、前記作用効果を奏するものと認められる。 これに対し、イ号方法は、乾燥工程を有さないものであって、濃縮液の状態である成分の抽出方法であるから、前記したような本件特許発明と同一の作用効果が奏されるものであるということはできない。 4-2-2.均等の要件(5)について 特許明細書には、「この様にして得られた濃縮液は、そのまま使用することも可能であるが、工程(6)において凍結乾燥機、スプレードライ乾燥機等により乾燥粉末化できる。」(段落【0018】本件特許公報4頁右欄23〜26行)と記載されている。 このように、特許明細書において、濃縮液のまま使用することも可能であるが、乾燥粉末化できると記載しながらも、特許請求の範囲には、「濃縮液を乾燥する工程」を含む方法を記載したものであり、出願人は特許請求の範囲から濃縮物の状態の成分の抽出方法は、権利範囲として請求しない意志を自ら表示したと解釈できる。 してみると、特許発明の特許出願手続において、乾燥工程を含まず、濃縮液を得るものであるイ号方法を特許請求の範囲から意識的に除外したと外形的に解されるものである。 4-2-3.均等なものであるか否かのむすび 上記のとおり、最高裁平成10年2月24日判決が挙げる5つの要件のうち、(2)及び(5)の要件を満たさないものであるから、その余の要件について判断するまでもなく、ここに均等論を適用する余地はない。 4-3.請求人の主張 請求人は、判定請求書において、本件特許発明の抽出方法における「(6)得られた濃縮液を乾燥する工程」は、当該濃縮液を乾燥することにより、液体、粉末(固体)等のいずれの状態にまで乾燥するかが不明瞭であるが、本願当初明細書【0012】の最終段落および【0018】の第1段落には、「この様にして得られた濃縮液を(は)、そのまま使用することも可能であるが、工程(6)において凍結乾燥機、スプレードライ乾燥機等により(、)乾燥粉末化できる」と記載され、実施例(1)には、抽出物を濃縮液として得たことが開示されていることから、当該特許権の抽出方法は、その工程(5)及び(6)により、最終抽出物を液体形態から乾燥粉末化された形態までのいずれの形態として得ることもできるものであって、イ号方法で得られる液体抽出物は、本件特許発明の抽出方法により得られる抽出物の範囲内にある旨、主張している。 しかしながら、4-1-7.において述べたように、一般的な定義及び本件特許明細書の記載を鑑みると、「濃縮液を乾燥する」ことは、水分をなくして乾燥物を得ることを意味しているものであるから、構成要件Gの「濃縮液を乾燥する工程」を有する本件特許発明は、イ号方法で得られるような最終形態が液体のものは含まれないものである。したがって、請求人の主張は採用できない。 5.むすび 以上のとおりであるから、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲には属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2005-11-24 |
出願番号 | 特願2000-149752(P2000-149752) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZB
(A23L)
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最終処分 | 不成立 |
特許庁審判長 |
河野 直樹 |
特許庁審判官 |
田中 久直 冨永 みどり |
登録日 | 2003-12-19 |
登録番号 | 特許第3505474号(P3505474) |
発明の名称 | キノコ類の成分の抽出方法 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 矢野 正樹 |