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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41K |
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管理番号 | 1128379 |
審判番号 | 不服2004-23925 |
総通号数 | 74 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2005-03-17 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-10-25 |
確定日 | 2006-01-10 |
事件の表示 | 特願2003-208436「印鑑の偽造防止方法」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本願審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明の認定 本願は、平成15年8月22日の出願であって、平成16年9月6日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の【請求項1】の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】印影から印鑑偽造を防止する目的で、印面と削底面と異なる、両者の間の高さの位置に、印影としては出ないが、印面側から見ると識別可能なように、任意の数字・記号・文字・線引き・段付けを、単独又は複数個削り出す事により、印影と共に、この両者の一致をもって、該当印鑑である事を確認できるようにした事を特徴とする印鑑の識別方法。」 上記記載だけでは、「この両者」の一方は、「印影」であると把握できるが、他方が何であるか明確でないから、本願明細書の「印影と、印面内部の特徴、の両者の一致により、該当印鑑である事を確認できるようにする」(段落【0004】参照)という記載を参酌すると、他方は、「単独又は複数個の任意の数字・記号・文字・線引き・段付け」の意味と解される。 したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものと認定できる。 「印影から印鑑偽造を防止する目的で、印面と削底面と異なる、両者の間の高さの位置に、印影としては出ないが、印面側から見ると識別可能なように、任意の数字・記号・文字・線引き・段付けを、単独又は複数個削り出す事により、印影と前記単独又は複数個の任意の数字・記号・文字・線引き・段付けの両者の一致をもって、該当印鑑である事を確認できるようにした事を特徴とする印鑑の識別方法。」 第2 引用例発明 原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-67185号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア.〜オ.の記載が図示とともにある。 ア.「(1)印鑑の押捺面側の3次元物体形状を計測する手段と、検出された当該3次元物体形状情報を蓄積する手段と、検出および蓄積された3次元物体形状情報を比較照合する手段とを有し、印鑑形状の計測結果にもとづいて生成された情報と、あらかじめ計測登録されている印鑑の標準情報とを比較して、与えられた印鑑が登録されている印鑑と同一の印鑑であるか否かを判断することを特徴とする印鑑識別方式。・・・(4)前記第1項において、印鑑の彫刻面に印鑑ごとに異なる“くぼみ”、“穴”、あるいは特別な3次元的模様を設けておくことを特徴とする印鑑鑑別方式。」(特許請求の範囲) イ.「常に印影が第三者に見える形で紙の上に表されているため、このパターンを参考にして容易に印鑑を偽造できるという欠点がある。・・・本発明は、・・・印鑑の偽造防止をすることを目的として、印鑑の押捺面の3次元物体形状を処理の対象として印鑑そのものを照合するようにしたことを特徴としている。」(2頁右上欄2〜18行) ウ.「第1図は、本発明の実施例の構成図であり、1は入力部、2は検索部、3は登録ファイル、4は位置合わせ部、5は比較部、6は表示部である。入力部1は、たとえば、モアレによる等高線検出装置であり、・・・与えられた被検印鑑の押捺面の凸部分と凹部分あるいは当該部分間の等高線、もしくはモアレそのものを検出し、その形状に関する情報をドットパターン情報あるいは等高線情報などとして抽出する。一方、検索部2はあらかじめ登録ファイル3に記録されている同一印鑑の押捺面の形状に関する情報を読み出す。入力部1で入力された印鑑情報は、位置合わせ部4において登録印鑑と比較を行うための・・・位置合わせ操作を受ける・・・次いで比較部5において、・・・登録印鑑と位置合わせされた被検印鑑との比較を行う。その方法としては例えば画素ごとのマッチング等がある。その結果を表示部6に・・・表示する。」(2頁右上欄末行〜右下欄3行) エ.「第4図は、本発明による3次元物体形状情報利用の実施例であり、10は通常の押捺面(凸部分)であり、11は押捺面よりはるかに深いところに設けた印鑑固有の“くぼみ”の一例を示したものである。」(3頁左上欄1〜5行) オ.第4図から星形の“くぼみ”11をもつ印鑑の押捺面が看取できる。 上記ア.〜オ.を含む引用例の全記載及び図示からみて、引用例には、以下の発明が記載されている。 「印影から印鑑偽造を防止する目的で、通常の押捺面(凸部分)10よりもはるかに深いところに設けた印鑑固有の星形の“くぼみ”11を設けた、印鑑の押捺面側の3次元物体形状を計測する手段と、検出された当該3次元物体形状情報を蓄積する手段と、検出及び蓄積された3次元物体形状情報を比較照合する手段とを有し、印鑑形状の計測結果に基づいて生成された情報と、あらかじめ計測登録されている印鑑の標準情報とを比較して、与えられた印鑑が登録されている印鑑と同一の印鑑であるか否かを判断することを特徴とする印鑑鑑別方式。」(以下、「引用発明」という。) 第3 本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定 本願発明と引用発明とを対比する。 ア.本願発明における「印影」の記載の意味するものが何かについて、検討するに、 本願特許明細書には、「デジタルカメラ・スキャナー・パソコン及びソフトの発達により、偽造が困難とされていた実印鑑でも、印影から、簡単に偽造する事が可能となり」(段落【0003】参照、以下、「前記載」という)及び「印面を削る際に印影以外の部分を全て同一高さに削りださず」(段落【0005】参照、以下、「後記載」という)と記載されているが、前記載における「印影」は、印鑑自体側にあるものでなく、印鑑による押捺される紙等の被押捺物上の朱肉等による影像(以下、「紙上の印影」という。)を指すのに対して、後記載中の「印影以外の部分を全て同一高さに削りださず」の「印影」は、印鑑自体側にある、朱肉を転写する部分の平面形状(押捺面側からみて朱肉等による影像に対して鏡像、以下、「印鑑上の鏡像」という。)を指していることが明らかである、つまり、本願発明においては、「印影」という記載は、紙上の印影と印鑑上の鏡像の二とおりの意味に使われている。 そして、本願発明の「印面」とは、印鑑上の鏡像を形成する部分の表面を指している。 そうすると、引用発明の「通常の押捺面(凸部分)10」は、本願発明の「印面」に相当し、引用発明の「印鑑固有の星形の“くぼみ”11」は、本願発明の「単独又は複数個の任意の数字・記号・文字・線引き・段付け」に対応しており、両者は、印面と異なる位置に設けられた、紙上の印影としては出ないが、押捺面(印面)側からみると識別可能なもの(以下、「非印面識別体」という。)である点で共通している。 イ.引用発明の「検出及び蓄積された通常の押捺面(凸部分)10よりもはるかに深いところに設けた印鑑固有の星形の“くぼみ”11を設けた、印鑑の押捺面側の3次元物体形状情報を比較照合する手段とを有し、印鑑形状の計測結果に基づいて生成された情報と、あらかじめ計測登録されている印鑑の標準情報とを比較して、与えられた印鑑が登録されている印鑑と同一の印鑑であるか否かを判断することを特徴とする印鑑鑑別方式」と、本願発明の「印影と単独又は複数個の任意の数字・記号・文字・線引き・段付けの両者の一致をもって、該当印鑑である事を確認できるようにした事を特徴とする印鑑の識別方法」とは、非印面識別体の少なくとも一致をもって、該当印鑑である事を確認できるようにした印鑑の識別方法である点で共通している。 したがって、両者の一致点と相違点は以下のとおりである。 [一致点] 「印影から印鑑偽造を防止する目的で、非印面識別体を、設けることにより、該当印鑑である事を確認できるようにした印鑑の識別方法。」 [相違点] A.非印面識別体を、本願発明では、単独または複数個の任意の数字・記号・文字・線引き・段付けとしているのに対して、引用発明では、“くぼみ”11とし、そのほかに何を含むか明確でない点、 B.非印面識別体の形成方法について、本願発明では削り出しにより行っているのに対して、引用発明では、定かでない点、 C.非印面識別体の位置について、本願発明では、印面と削底面の間の高さの位置としているのに対して、引用発明では、そのように規定されていない点、 D.識別可能の態様について、本願発明では「印面側から見ると識別可能」としているのに対して、引用発明では、3次元物体形状を計測する手段により識別可能である点。 E.該当印鑑であることの確認を、本願発明では、印影と非印面識別体の両者の一致をもって行っているのに対して、引用発明では、通常の押捺面(凸部分)10よりもはるかに深いところに設けた印鑑固有の星形の“くぼみ”11を設けた(非印面識別体を含む)、印鑑の押捺面側の3次元物体形状情報の一致をもって行っている点。 第4 当審の判断 [相違点の検討] 上記相違点について、検討する。 相違点A及びBについて、 一般に、物の識別のために、単独または複数個の任意の数字・記号・文字・線等の識別記号を設けることは、慣用されていることであり、また、これを、引用発明の非印面識別体として、「“くぼみ”11」に替えて、採用することに格別阻害要因がないから、相違点Aは、当業者が適宜なす設計事項であると認める。 また、通常、印鑑の押捺面の形成は、削り出しによって行われるものであるから、印鑑の押捺面側の彫刻面に設けられる非印面識別体の形成も、相違点Bのように、削り出しにより行うことは、当業者が普通に考えることである。 相違点Cについて、 まず、本願発明の「削底面」とは何かについて、検討するに、本願特許請求の範囲の請求項1で格別規定されているものでないから、普通に解釈すれば、印鑑の印面側の最も深い切削部分が位置する印面と平行な面と解される。 そうすると、引用発明の削底面は、通常の押捺面(凸部分)10よりもはるかに深いところに設けた印鑑固有の星形の“くぼみ”11(非印面識別体)の底の部分が位置する、押捺面(印面)と平行な面となるから、通常の押捺面(凸部分)10よりもはるかに深いところに設けた印鑑固有の星形の“くぼみ”11(非印面識別体)の位置は、押捺面(印面)と削底面の間の高さの位置にあるといえるから、相違点Cは、実質的な相違点でない。 なお、請求人は、この点に関して、本願発明の識別体が凸状の文字等であると明確に既述していると主張しているが、上記したように、本願特許請求の範囲の請求項1の記載はそうなっていない。 仮に、本願発明の「削底面」を、識別体を除く、印鑑の印面側に彫り込まれる彫刻面のうちの最も深い部分が位置する印面と平行な面であるとしても、以下のとおり当業者が容易に想到できる。 一般に、文字等の識別記号を表示面の凹凸によって表示する際、文字等の識別記号部分をその背景に対して、凹部分とするか凸部分とするかは、二者択一の選択事項であって、適宜決定可能なことであり、このこと(二者択一の選択事項であって、適宜決定可能なこと)は、表示面が、引用発明のような印鑑の印面以下の面であったとしても、格別変わるものでない。 したがって、引用発明において、文字等の識別体を設けるに当たって、文字等の識別体をその背景に対して、凸部分とすることは、当業者が容易に想到でき、そうすれば、相違点Cのように、識別体の位置が、印面と削底面と異なる、両者の間の高さの位置となることは必然である。 さらに、請求人は、この点に関して、文字等の識別記号部分を、その背景(削底面)に対して、凹部分とすれば、外部分への朱肉の目詰まりにより目視確認ができなくなるのに対して、凸部分とすれば、そのことがない旨の主張をしているが、このことは、文字等の識別記号を表示面の凹凸によって表示する表示技術に共通している当然予測できる事柄にすぎず、格別のものでない。 相違点Dについて、 本願特許請求の範囲の請求項1における「印面側から見ると識別可能」との記載だけでは、「印面側からの測定器械を媒介してみる識別可能」を排除しているとはいえないから、引用発明の「印面側からの、3次元物体形状を計測する手段により識別可能」と区別できず、相違点Dは、実質的な相違点といえない。 仮に、「印面側から見ると識別可能」が、「印面側からの目視による識別可能」であるとしても、通常の印鑑押捺面の寸法や、引用例の第4図に示される、星形の“くぼみ”11(非印面識別体)と、押捺面の大きさからみて、当業者が容易に想起できることにすぎない。 相違点Eについて、 本願発明における「印影」ついては、紙上の印影と印鑑上の鏡像の二とおりの解釈ができることは、上述した。 したがって、本願発明の「印影と単独又は複数個の任意の数字・記号・文字・線引き・段付けの両者の一致をもって」における「印影」も、紙上の印影と印鑑上の鏡像の二とおりの解釈ができる。 印鑑上の鏡像である(目視による確認であるならばその蓋然性が高い)とすれば、引用発明の「通常の押捺面(凸部分)10よりもはるかに深いところに設けた印鑑固有の星形の“くぼみ”11を設けた(非印面識別体を含む)、印鑑の押捺面側の3次元物体形状情報には、“くぼみ”11の3次元物体形状だけでなく、通常の押捺面(凸部分)10の平面形状すなわち、印鑑上の鏡像(印影)の情報をも含まれていることは明らかであり、したがって、引用発明の、星形の“くぼみ”11の3次元物体形状情報と印鑑上の鏡像(印影)の両者が含まれる印鑑の押捺面側の3次元物体形状情報の一致をもって行う該当印鑑である事の確認は、印影と非印面識別体の両者の一致をもって行うものといえるから、相違点Eは実質的な相違点でない。 また、紙上の印影であるとしても、印鑑照合を、紙上の印影と印鑑自体の物理的属性の両者の一致をもって行うことが、特開平5-314245号公報にみられるように知られているから、これを引用発明に適用して、相違点Eに係る構成を採用することは当業者が容易に想起できることである。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は引用発明及び従来周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-03-10 |
結審通知日 | 2005-03-15 |
審決日 | 2005-03-29 |
出願番号 | 特願2003-208436(P2003-208436) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 服部 秀男、藤田 裕子 |
特許庁審判長 |
番場 得造 |
特許庁審判官 |
藤井 靖子 谷山 稔男 |
発明の名称 | 印鑑の偽造防止方法 |