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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1128394
審判番号 不服2003-5710  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-10-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-02-04 
確定日 2005-12-09 
事件の表示 特願2001-157883「コンピュータネットワークによる証券化システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 4日出願公開、特開2002-288431〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・請求項1に係る発明
本願は、平成13年4月19日(優先権主張平成13年1月18日)の出願であって、平成14年10月2日付で拒絶理由通知がなされ、これに対して、同年12月3日付で手続補正がなされたが、同年12月27日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年2月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされた。そして、当審において平成16年3月26日付で拒絶理由通知がなされ、同年6月4日付で手続補正がなされたものである。

そして、平成16年6月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「補正後の請求項1に係る発明」という)は、次のとおりである。
「【請求項1】 特許権を信託し資金調達を行う複数の委託者のコンピュータと、特許権の信託を引き受ける受託者が管理するサーバーコンピュータと、前記受託者のサーバーコンピュータとネットワークを介して接続される、特定目的会社の管理するサーバーコンピュータとを備えたコンピュータネットワークによる証券化システムであって、
前記受託者が管理するサーバーコンピュータは、前記委託者のコンピュータにより前記ネットワーク上の申込情報フォームに入力された委託者の申込情報を格納する申込情報データベースと、前記申込情報に基づいて形成された、前記委託者と前記受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と、前記複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と、を併合した複合投資受益権のデータを格納する契約管理データベースと、を有し、前記契約管理データベースが前記特定目的会社の管理するサーバーコンピュータから検索可能とされており、
前記特定目的会社の管理するサーバーコンピュータは、前記複合投資受益権に裏付けられた証券の販売に係る情報を表示し、証券購入申込を受け付ける前記ネットワーク上の購入申込フォームに入力された申込情報を格納する証券情報データベースを有し、
前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで、受託者において再投資資金を調達し、これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とするコンピュータネットワークによる証券化システム。」

第2 当審が通知した拒絶の理由
当審が平成16年3月26日付けで通知した拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
『[理由1]
この出願の下記の請求項に係る発明は、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。
特許法第29条第1項柱書には、「産業上利用することができる発明をした者は、・・・その発明について特許を受けることができる。」と規定され、特許法第2条第1項には、特許法でいう「発明」について、「発明とは自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定義されている。
そこで、各請求項に係る発明について、検討を加える。

1.請求項1に係る発明に対して
請求項1に係る発明の構成要件を分説すると次のとおりである。
「(ア)特許権の信託を引き受ける受託者が管理するサーバーコンピュータ10は、資金調達に係る申込情報記録手段11と、回答記録手段12と、契約管理記録手段13と、売上管理記録手段14と、売上情報記録手段15と、リスク管理記録手段16と、計算手段17と、を有し、
(イ)前記申込情報記録手段11において、資金調達を申込む委託者が保有する特許権の内容及び事業計画を含む申込情報フォームに入力された委託者の申込情報を通信手段を介して記録するステップと、
(ウ)前記回答記録手段12において、前記申込みに対する回答内容を記録するステップと、
(エ)前記契約管理記録手段13において、出資対象として選択された投資案件につき委託者と受託者との間で締結された前記信託契約及び出資契約の内容を記録するステップと、
(オ)前記信託契約によって、受託者の名義に移転した特許権を委託者にライセンス供与して当該特許権の商品又はサービス提供の売上金額を基準に一定料率のロイヤリティーを支払う旨の実施権許諾契約の内容を前記契約管理記録手段13に記録するステップと、
(カ)前記売上管理記録手段14において、前記ロイヤリティー収入及び株式売却収入の売上額を記録するステップと、
前記売上情報記録手段15において、経時的に累積推移する投資額とロイヤリティー収入の売上額及び未換金データを記録するステップと、
(キ)前記リスク管理記録手段16において、委託者の倒産による損失や倒産までのロイヤリティー売上額及び店頭公開の見込みのないリビングデット企業の未換金データを記録するステップと、
(ク)前記計算手段17において、前記契約に基づく収支計算を行うステップと、
(ケ)受託者と委託者を当事者として締結された前記複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と、複数の前記出資契約で取得した株式の将来利益を見込んだ株式受益権と、を併合し、これを複合投資受益権として受託者の前記契約管理記録手段12にプールするステップと、
(コ)金融機関に譲渡することによって再投資資金の原資を調達するステップと、
当該調達された原資を新たな複数の企業に再投資して出資金を再運用する出資金効率化によって収益力を強化するステップと、
(サ)前記金融機関において、譲受した複合投資受益権を元に金融商品「投資受益証券」を企画・開発して投資家に販売するステップとを備え、
(シ)前記投資家の資金運用ニーズと、委託者の資金需要ニーズと、委託者に資金を供給する受託者と、資金を循環させる上記金融機関と、からなる資金及び資産流動化による間接投資を特徴とする金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法。」

そこで、検討するに、
(1)請求項1に係る発明は、上記(ア)に記載されたサーバーコンピュータの構成を有し、上記(イ)以下のステップを含む方法発明であるから、その発明の実施にソフトウエアを必要とするところの、いわゆるソフトウエア関連発明である。そして、ソフトウエア関連発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには、ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている必要がある。

請求項1に係る発明では、上記(ア)として、サーバーコンピュータのハードウエア資源を記載しているが、上記(イ)ないし(キ)では、それぞれの情報を記録手段に記録するというコンピュータの通常の記憶機能を記載するに留まっており、上記(ク)では、単に「契約に基づく収支計算」を行うことだけが記載されており、上記(ケ)ないし(シ)では、後述するように、コンピュータの動作とはいえない事項が記載されている。
してみると、請求項1に係る発明は、上記(ア)記載の各記録手段(ハードウエア資源)に記録されたデータが、ソフトウエアにしたがって、どのように利用され、どのような演算処理がされて、目的に応じた特有の情報処理方法が実現されているか、という点についての記載がなく、ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている、ということはできない。
すなわち、請求項1に係る発明は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではなく、特許法でいう「発明」ではない。
(2)請求項1に係る発明は、上記(ケ)ないし(シ)のステップを含む方法発明であるが、上記(ケ)でいう「ロイヤリティー受益権と、・・・株式受益権と、を併合し、これを複合投資受益権として受託者の契約管理手段にプールする」こと、上記(コ)でいう「再投資資金の原資を調達する」こと、上記(サ)でいう「出資金を再運用する出資金効率化によって収益力を強化する」こと、上記(シ)でいう「金融商品「投資受益証券」を企画・開発して投資家に販売する」ことは、いずれも人が行うことであって、コンピュータの情報処理の内容ではない。
してみると、請求項1に係る発明は、人が行う行為をステップとして含む方法であるので、全体としてみれば、明らかに「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではなく、特許法でいう「発明」ではない。

結局、請求項1に係る発明は、上記(1),(2)の理由により、特許法第2条第1項で定義されたところの、特許法でいう「発明」ではなく、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。

[理由2]
本件は、明細書の記載が下記の点で不備なため、特許法第36条第4項第1号および同第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

A.特許法第36条第6項第2号に規定する要件について

1.請求項1の記載に対して
請求項1に係る発明の構成要件を分説すると上記[理由1]の1.に記載した(ア)ないし(シ)のとおりである。
上記(ア)の記載から、「受託者が管理するサーバーコンピュータ」が、「申込情報記録手段」、「回答記録手段」、「契約管理記録手段」、「売上管理記録手段」、「売上情報記録手段」、「リスク管理記録手段」とを有することが、また、上記(イ)〜(キ)の記載から、上記各手段に記録する情報の内容は、理解できる。
しかしながら、上記(ク)の「前記計算手段17において、前記契約に基づく収支計算を行う」という記載だけでは、発明を特定するための事項である「計算手段」を、該計算手段が達成すべき結果として記載しており、該計算手段の具体的な処理が明確でない、すなわち該計算手段において、各記憶手段(ハードウエア資源)に記憶されたデータが、ソフトウエアにしたがって、どのように利用され、どのような演算処理がなされて、「契約に基づく収支計算を行う」ものなのか、明確でないので、請求項1の記載は、全体としてみて、明確でない。

したがって、請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しない。

B.特許法第36条第4項第1号に規定する要件について
本件の発明の詳細な説明には、サーバーコンピュータのハードウエア資源を利用して各記憶手段に記憶された情報を、どのような手順で読み出し、「計算手段」で、どのような演算処理を行うことにより、契約に基づく収支計算を行うことができ、「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」を実現できるのか、その手順が一切記載されておらず、また、明細書の記載からみて、この点が当業者において自明な事項であるとも認められないから、本件の発明の詳細な説明の記載では、当業者が本件の各請求項に係る発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない。

したがって、本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件の各請求項に係る発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載していないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 』

なお、上記当審の拒絶理由の中で、「B.」の項に、「特許法第36条第4項第1号」の条文が2箇所記載されているが、これは「特許法第36条第4項」の誤記であることは明らかであり、請求人の対応もなされていることから、以下、当審から「特許法第36条第4項」について拒絶の理由が通知されたものとして取り扱うこととする。

第3 請求人の主張
上記拒絶の理由に対し、請求人は、平成16年6月4日付けの意見書において、以下の主張をしている。

『A〜B (略)
C (補正後の請求項1を記載したものであるので、省略)

D 理由1について
(1)審判長殿は、“本願発明は、サーバーコンピュータの構成を有し、ステップを含む方法発明であるから、その発明の実施にソフトウェアを必要とするところの、いわゆるソフトウェア関連発明である。そして、ソフトウェア関連発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには、ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて具体的に実現されている必要がある。”との前提のもとに、本願発明は、特許法でいう「発明」ではなく、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない、旨認定されています。
これに対し、今回の補正により、本願発明は、前記Cに示すとおり、ステップを含まない「コンピュータネットワークによる証券化システム」となっていますので、前記前提は成り立たず、この拒絶理由は解消しています。
(2)また、審判長殿は、“本願発明は、人が行う行為をステップとして含む方法であるので、”との前提で、本願発明は、「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではなく、特許法でいう「発明」ではなく、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない、旨認定されています。
これに対し、今回の補正により、本願発明は、前記Cに示すとおり、ステップを含まない「コンピュータネットワークによる証券化システム」となっていますので、前記前提は成り立たず、拒絶理由は解消しています。
(3)なお、”人が行う行為をステップとして含む方法であるので、「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではなく“ということは、必ずしも言えません。通常の方法の発明は、特に限定がない限り、人が行う行為をステップとして含んでいます。
また、本願発明は、コンピュータおよびコンピュータネットワークは利用していますが、ビジネスモデルの発明であり、ソフトウェアによる情報処理の発明ではありません。コンピュータおよびコンピュータネットワークは本願発明を実現するための手段に過ぎません。
特許法第2条第1項の「発明とは自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」との定義は、大正10年法の「工業的発明」についての判例などにもとづくものであり、製造業が主要な産業であった現行法(昭和34年)の提案当時には、妥当なものであったと解されますが、非製造業が主要な産業となった現在では、妥当とはいい難いところがあります。
特許法第1条に、特許法の目的が、「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする。」と謳われていますが、ここでいう「産業」は、当然非製造業も含むものと解され、とすれば、“非製造業、たとえば金融業の発明の保護及び利用を図ることにより,金融業の発明を奨励し、もって金融業の発達に寄与する”ことも特許法の目的といえます。したがって、特許法における発明の定義が、特許法の目的と矛盾しないように、本願発明のような金融業の発明についての、自然法則を利用した技術的思想であるか、否かの判断は、柔軟になされるべきであります。
因みに,特許庁編、工業所有権法逐条解説には、法第2条の「発明」について、字句解釈の項に、「現行法においては、今後も学説判例にゆだねざるを得ない面も少なくないが、幾分でも法文上明瞭なものとして争いを少なくしようという趣旨から、このような定義を設けた。」とあるように、特許法第2条の発明の定義は、特許法の解釈上絶対のものではなく、立法の趣旨ないしは現状に合わせて解すべきものであります。

E 理由2について
理由2のAにおいて、審判長殿は、計算手段において、各記憶手段(ハードウェア資源)に記憶されたデータが、ソフトウェアにしたがって、どのように利用され、どのような演算処理がなされて、「契約に基づく収支計算を行う」ものなのか、明確でないので、請求項1などの記載は、全体としてみて、明確でなく、特許を受けようとする発明が明確でない旨認定されています。
これに対し、今回の補正により、本願発明は、前記Cに示すとおり、コンピュータネットワークによる証券化システムとなっており、“委託者と受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と、複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と、を併合した複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成に係るシステムであることを明確にしています。
よって、この拒絶理由は解消しています。
理由2のBにおいて、審判長殿は、本件の発明の詳細な説明には、サーバーコンピュータのハードウェア資源を利用して各記憶手段に記憶された情報を、どのような手順で読み出し、「計算手段」で、どのような演算処理を行うことにより、契約に基づく収支計算を行うことができ、「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」を実現できるのか、その手順が一切記載されていないから、本件の発明の詳細な説明の記載では、当業者が本件の各請求項に係る発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められない旨認定されています。
これに対し、今回の補正により、本願発明は、前記Cに示すとおり、コンピュータネットワークによる証券化システムとなっております。すなわち、本願発明は、“委託者と受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と、複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と、を併合した複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成に係るシステムであり、ソフトウェアによる情報処理の発明ではなく、「計算手段」による演算の仕方を要旨としていないので、この拒絶理由は解消しています。』

第4 当審の判断
4-1 理由1(29条柱書違反)について
請求人は、上記「第1」の項で述べたように、当審が通知した拒絶の理由に対応して、請求項1に係る発明を、補正前の「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」から「コンピュータネットワークによる証券化システム」に関する発明に補正したので、補正後の請求項1に係る発明が、特許法第2条第1項にいう「自然法則を利用した技術的思想」に該当するかどうか、を以下に検討する。

まず、補正後の請求項1に係る発明を、便宜上分説すると、以下のようになる。
(ア) 特許権を信託し資金調達を行う複数の委託者のコンピュータと、特許権の信託を引き受ける受託者が管理するサーバーコンピュータと、前記受託者のサーバーコンピュータとネットワークを介して接続される、特定目的会社の管理するサーバーコンピュータとを備えたコンピュータネットワークによる証券化システムであって、
(イ) 前記受託者が管理するサーバーコンピュータは、前記委託者のコンピュータにより前記ネットワーク上の申込情報フォームに入力された委託者の申込情報を格納する申込情報データベースと、前記申込情報に基づいて形成された、前記委託者と前記受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と、前記複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と、を併合した複合投資受益権のデータを格納する契約管理データベースと、を有し、
(ウ) 前記契約管理データベースが前記特定目的会社の管理するサーバーコンピュータから検索可能とされており、
(エ) 前記特定目的会社の管理するサーバーコンピュータは、前記複合投資受益権に裏付けられた証券の販売に係る情報を表示し、証券購入申込を受け付ける前記ネットワーク上の購入申込フォームに入力された申込情報を格納する証券情報データベースを有し、
(オ) 前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで、受託者において再投資資金を調達し、これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とするコンピュータネットワークによる証券化システム。

ところで、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」という、「方法」の発明から、「コンピュータネットワークによる証券化システム」という「もの」の発明に、発明のカテゴリーを変更する形で補正がされている。しかし、当該補正後の請求項1に係る発明は、上記(ア),(イ),(エ)に記載されたコンピュータハードウェアと、上記(ウ),(オ)に記載された機能とで表現されるものであるから、当該補正後の請求項1に係る発明は、発明のカテゴリーが変更されても、その発明の実施にソフトウエアを必要とするところの、いわゆるソフトウエア関連発明であるということができる。そして、こうしたソフトウエアを利用するソフトウエア関連発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには、発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されている必要がある。

そこで、前記分説した補正後の請求項1に係る発明を検討すると、上記(ア)ないし(エ)として記載されていることは、要するに、ハードウエア資源として、
(a)複数の「委託者のコンピュータ」と、
(b)「受託者が管理するサーバーコンピュータ」と、
(c)前記受託者のサーバーコンピュータとネットワークを介して接続される「特定目的会社の管理するサーバーコンピュータ」とを備え、
(d)前記「受託者が管理するサーバーコンピュータ」は、「申込情報データベース」と「契約管理データベース」とを有し、
(e)前記「特定目的会社の管理するサーバーコンピュータ」は、「証券情報データベース」を有し、
前記ハードウェアの機能として、
(f)「申込情報データベース」のデータである委託者の申込情報が、前記委託者のコンピュータにより前記ネットワーク上の申込情報フォームに入力されたものであり、
(g)「特定目的会社の管理するサーバーコンピュータ」が「受託者が管理するサーバーコンピュータ」の「契約管理データベース」を検索可能であり、「前記複合投資受益権に裏付けられた証券の販売に係る情報を表示する」機能を有する、
というものである。

なお、(イ)の記載の中に「前記申込情報に基づいて形成された」とあるが、申込情報に基づいて形成されるのは、委託者と受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約もしくは実施権許諾契約に基づくロイヤリティー受益権であって、人の行為(取り決め)であり、また、「前記委託者と前記受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と、前記複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と、を併合」するのもやはり人の行為(取り決め)であって、これらの記載は、単に「契約管理データベース」のデータの内容である複合投資受益権について特定するものであり、コンピュータによる情報処理を特定するものと解することはできない。

ところで、ネットワークで接続されたサーバーコンピュータと複数のユーザ端末コンピュータとを備え、それぞれのサーバーコンピュータがデータベースを有するとともに、それぞれのサーバーコンピュータもしくはユーザ端末コンピュータの間で、データの入力や検索、表示が可能な構成の「ネットワークによる業務システム」自体は、本願出願時点では既に普及して慣用技術であり、前記(a)ないし(g)の構成は、こうした慣用技術の域を出ないものである。してみれば、補正後の請求項1に係る発明の「コンピュータネットワークによる証券化システム」において、技術的課題を解決できるような特有の構成をもたらすのは、上記(ア)ないし(エ)を前提とした上記(オ)ということになる。

そこで、上記(オ)を検討すると、(オ)の「複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで、受託者において再投資資金を調達し、これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」という記載は、上記(ア)ないし(エ)を受けて、「コンピュータネットワークによる証券化システム」の全体的な機能を特定するものであり、かつ、「・・を可能とする」という表現からして、「コンピュータネットワークによる証券化システム」の直接的な技術的課題を「複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで、受託者において再投資資金を調達し、これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めること」と規定し、この技術的課題を達成することができるようにした、とするものである。
しかしながら、上記(ア)ないし(エ)のハードウエア及びその機能の範囲では、ハードウエアに格納される情報やハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理が、複合投資受益権の特定目的会社への譲渡、受託者における再投資資金の調達、出資金の再運用という事柄とは全く関連がないことから、上記(オ)の「複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで、受託者において再投資資金を調達し、これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めること」を可能にする特有の構成が具体的に記載されているとは到底いえないことは、明らかである。

即ち、補正後の請求項1に係る発明は、形式的には、「コンピュータネットワークによる証券化システム」のハードウエア資源および当該ハードウェアの機能を記載した体裁をとっているものの、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に記載されておらず、一定の技術的課題の解決手段になっていないので、これを「自然法則を利用した技術的思想の創作」と認めることはできない。

なお、請求人は意見書において、『今回の補正により、本願発明は、前記Cに示すとおり、ステップを含まない「コンピュータネットワークによる証券化システム」となっていますので、前記前提は成り立たず、この拒絶理由は解消しています。』と主張する。また、請求人は、『本願発明は、コンピュータおよびコンピュータネットワークは利用していますが、ビジネスモデルの発明であり、ソフトウェアによる情報処理の発明ではありません。コンピュータおよびコンピュータネットワークは本願発明を実現するための手段に過ぎません。』とも主張する。
確かに、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の「方法」の発明から、ステップを含まない「コンピュータネットワークによる証券化システム」という「もの」の発明に、発明のカテゴリーを変更する形で補正がされているが、補正後の請求項1に係る発明は、ハードウエア及びその機能で表現される「システム」であるから、ソフトウエアの利用なくしては成り立たない発明であり、ソフトウエアを利用する発明であることには変わりがない。また、補正後の請求項1の記載からすると、ソフトウエアを利用する発明であることを否定して「ビジネスモデル」の発明だとする根拠は見当たらないが、仮に、請求人がいうように、コンピュータおよびコンピュータネットワークが単なる手段に過ぎないとするならば、補正後の請求項1に係る発明においては技術的な意味が全く見出せないということになり、特許法第2条第1項にいう「自然法則を利用した技術的思想」に該当しないことは明らかである。したがって、請求人の主張は採用することができない。

以上のとおり、補正後の請求項1に係る発明は、特許法第2条第1項にいう「自然法則を利用した技術的思想」に該当しないから、特許法第29条第1項柱書にいう「発明」には該当せず、同項柱書の規定により特許を受けることができない。
そして、補正後の請求項2ないし11に係る発明は、すべて補正後の請求項1を引用するものであるから、同様の理由で、同項柱書の規定により特許を受けることができない。

4-2 理由2(36条違反)について
前項4-1で述べたように、補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項柱書にいう「発明」には該当しないものであるが、仮に、補正後の請求項1に係る発明を、特許法第29条第1項柱書にいう「発明」として認めた場合、補正後の請求項1および発明の詳細な説明が、特許法第36条の規定を満たしているかどうかを、以下に検討する。

4-2-1 特許法第36条第6項第2号違反について
前項4-1で述べたように、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の「金融仲介循環機能を有する投資証券化事業の方法」という、「方法」の発明から、「コンピュータネットワークによる証券化システム」という「もの」の発明に、発明のカテゴリーを変更する形で補正がされている。そこで、この補正後の請求項1が、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすに至ったかどうかを、検討する。

補正後の請求項1に係る発明を分説すると、前項4-1の(ア)ないし(オ)のようになり、前項4-1の(a)ないし(e)のハードウエア及び(f),(g)の機能を有することは理解することができる。そして、前項4-1で検討したように、前記(a)ないし(g)の構成は、慣用技術の域を出ないものであるから、補正後の請求項1に係る発明の「コンピュータネットワークによる証券化システム」において、技術的課題を解決する特有の構成をもたらすのは、上記(ア)ないし(エ)を前提とした上記(オ)であり、この(オ)が、補正後の請求項1に係る発明が最も重要な技術的意味をもつことになる。
そこで、上記(オ)を検討すると、(オ)の「複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで、受託者において再投資資金を調達し、これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」という記載は、上記(ア)ないし(エ)を受けて、「コンピュータネットワークによる証券化システム」の全体的な機能を特定するものである。
しかしながら、上記(イ)の「申込情報データベース」と「契約管理データベース」に格納されているのは、それぞれ委託者の申込情報と複合投資受益権のデータであり、上記(エ)の「証券情報データベース」に格納されているのは、証券購入申込情報のデータであるので、上記(ア)ないし(エ)のハードウエア及びその機能の範囲では、ハードウエアに格納される情報やハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理が、複合投資受益権の特定目的会社への譲渡、受託者における再投資資金の調達、出資金の再運用という事柄とは全く関連がないことから、ハードウエア資源に記憶されたデータがどのように利用され、どのような情報処理がなされて、「複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで、受託者において再投資資金を調達し、これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」ものなのか、全く不明である。前述したように、上記(オ)が、補正後の請求項1に係る発明が最も重要な技術的な意味を持つと考えられることから、この(オ)の記載が不明であるということは、請求項1の記載が、全体としてみて明確でないと判断せざるを得ない。

なお、請求人は、『今回の補正により、本願発明は、(中略)コンピュータネットワークによる証券化システムとなっており、“(中略)ロイヤリティー受益権と、(中略)株式受益権と、を併合した複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成に係るシステムであることを明確にしています。よって、この拒絶理由は解消しています。』と主張する。
確かに、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の「方法」の発明から、「コンピュータネットワークによる証券化システム」という「もの」の発明に、発明のカテゴリーを変更する形で補正がされている。
しかしながら、補正後の請求項1の上記(オ)は、補正前の請求項1(「第2 当審が通知した拒絶の理由」の項での拒絶の理由引用箇所に掲載)の分説記号(ク)の「計算手段において」に続く分説記号(コ)の2つのステップの内容を、機能的に記載したものであるが、「計算手段において」という文言を省略したために当該機能を実現する主体がなくなり、既に検討したとおり、一層不明の度合いが増した結果になっている。また、補正後の請求項1には、“複合投資受益権”のデータを格納することと、“複合投資受益権”に裏付けられた証券の販売に係る情報を表示することは記載がされているものの、「“複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成」についての記載は一切されていない。
このため、今回の補正により、“複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成に係るシステムであることを明確にしたから、拒絶理由は解消した、とする請求人の主張は根拠がなく、これを採用することはできない。

したがって、補正後の請求項1の記載は、依然として特許を受けようとする発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しない。
そして、補正後の請求項2ないし11は、すべて補正後の請求項1を引用するものであるから、補正後の請求項2ないし11の記載は、同様の理由で、同項同号の規定に適合しない。

4-2-2 特許法第36条第4項違反について
本件明細書の発明の詳細な説明に、補正後の請求項1に係る発明が容易に実施できる程度に記載がされているかどうか、について検討する。

本件明細書の発明の詳細な説明には、補正後の請求項1に係る発明のハードウエア及びその機能に関連して、【0048】ないし【0060】の【発明の実施の形態】の箇所において、以下の1)ないし8)の記載がある。

1)【0048】
(第1実施形態)
次に、本発明の実施基本形態について説明する。図1に示すように、特許権の信託を引き受ける投資事業会社やベンチャーキャピタルなどの受託者が管理するサーバーコンピュータ10は、資金調達に係る申込情報データベース11と、回答手段12と、契約管理データベース13と、(中略)計算手段17とを有する。
申込情報データベース11は、インターネット等の通信手段を介して資金調達を申込む中小企業やベンチャー企業など委託者が保有する特許権の内容及び事業計画など申込情報フォームに入力された委託者の申込情報を記録する機能を有する。
(中略)
契約管理データベース13は、出資対象として選択された投資案件につき委託者と受託者との間で締結された信託契約及び出資契約の内容を記録する機能と、信託契約によって、受託者の名義に移転した特許権を委託者にライセンス供与して当該特許権の商品又はサービス提供の売上金額を基準に一定料率のロイヤリティーを支払う旨の実施権許諾契約の内容を記録する機能とを有する。
(中略)
計算手段17は、前記契約に基づく収支計算を行う機能を有する。 一方、受託者の契約管理データベース12には、受託者と委託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と、同じく複数の出資契約で取得した株式の将来利益を見込んだ株式受益権とを併合して複合投資受益権とした場合、その情報がプールされる。
受託者(以下投資事業会社という)のサーバーコンピュータ10は、ホームページに、資金調達に係る申込情報フォームを設け、資金調達を申込むベンチャー企業が、自己の保有する特許権や事業化されたビジネスのノウハウの内容や事業計画など申込情報を前記申込情報フォーム入力し、その申込情報が申込情報データベース11に記録できるようにしてある。

2)【0049】
前記投資事業会社は、申込情報データベース11に記録された委託者(以下ベンチャー企業という)の申込情報を基に、独自の前記審査基準に基づいて審査し、(中略)しかるのち、ベンチャー企業と投資事業会社を当事者として、特許権の信託契約(管理型信託)と株式取得の出資契約を締結し、ベンチャー企業が事業を行えるようにするため、(中略)実施権許諾契約を取り交わす。

3)【0050】
投資事業会社の契約管理データベース13に入力される前記契約の骨子は以下のとおりである。
(1)略
(2)ベンチャー企業の保有する特許権又はビジネスノウハウを信託財産として投資事業会社に移転することの合意。
(3)投資事業会社は、信託の目的として、ベンチャー企業と合意した金額をベンチャー企業に出資することの合意。
(4)上記信託契約の出資契約とは、別途の出資契約により、ベンチャー企業発行の株式を投資事業会社が取得することの合意。
(5)前記投資事業会社に移転した特許権又はビジネスノウハウの権利について、投資事業会社はベンチャー企業に実施権を許諾又は設定することの合意。
(6)ベンチャー企業が、当該特許権又はビジネスノウハウを利用した商品又はサービス提供の売上金額を基準に、合意した料率のロイヤリティーを投資事業会社へ支払うことの合意。
(7)上記(4)及び(6)の契約によるロイヤリティー収入と株式売却収入に基づく複合投資受益権を、投資事業会社が第三者に販売することの合意。
(8)略

4)【0051】
受託者兼受益者の一人である投資事業会社は、複数の受託財産を管理し、かつ、複数の投資案件を管理運営する。即ち、複数のベンチャー企業からのロイヤリティー収入と、複数の株式売却見込収入などの全てを一括管理し、(中略)複数の複合投資受益権(ロイヤリティ見込額及び株式売却見込額の合計未換金利益)をプールし、金融機関や証券会社ほか金融機関に一括譲渡することができる。

5)【0056】
投資事業会社から前記複合投資受益権を一括譲受する金融機関のサーバーコンピュータ30は、証券購入申込情報を記録する証券情報データベース31と、顧客名簿を含む顧客情報を記録する顧客管理データベース33と、(略)前記各データベースのデータ処理と収支計算を行う計算手段36とを有する。
また、金融機関の管理するサーバーコンピュータ30の閲覧端末に接続されたホームページに、複合投資受益権をベースに企画・開発された投資受益証券の販売に係る金融商品の説明を含む販売情報と、(略)証券購入申込フォームが設定されている。これらの情報は証券情報データベース31に記録することで、インターネット等の通信手段を介して証券購入の申込をできるようにしてある。(以下、略)

6)【0057】
前記金融機関のサーバーコンピュータ30と、投資事業会社のサーバーコンピュータ10及びベンチャー企業のコンピュータ20は、通信手段を介して接続され、三者間相互のネットワークを構成する。そして、金融機関のサーバーコンピュータ30は、投資事業会社のコンピュータ10に、格納されている契約管理データベース13、(中略)に入力された各項目の情報が通信回線を介し、金融機関のサーバーコンピュータに自動的に入力され、検索できるようにしている。

7)【0058】
これらの情報に基づいて金融機関のリスク管理データベース35は、投資事業会社のデータベースに記録された損益収支の内容を二重に検証する機能を備え、集積データ及び業界データを基に、ロイヤリティーの見込収入と株式売却見込収入など未換金の将来利益を計算手段35によって分析し、経時的に累積推移する損益収支を計算できるようにしている。

8)【0059】
(中略)
本発明の他の態様では、受託者において出資者を募り、一定額のファンドを組み、前記複合投資受益権を出資者の出資比率に準じて分配し、ロイヤリティー収入を半期又は1期毎に配当する。この場合、受託者のサーバコンピュータ10の契約管理データベース13に、前記複数の委託者との間で締結した実施権許諾契約に係わるロイヤルティー受益権と、同じく複数の委託者との出資契約で取得した複数の株式につき、委託者が店頭公開したときに得られる株式売却利益を見込んだ株式売却受益権とをプールする。そして、プールされた情報から複合投資受益権を構成する。
そして、投資事業会社に出資するファンド出資者に対しては、出資比率に準じ株式売却利益が分配され、委託者の売上に伴うロイヤリティー収益が半期又は1期毎に配当される。

以上の1)ないし8)によれば、前項4-1の(ア)ないし(エ)のハードウエア資源及びその機能、ハードウエア(データベース)に蓄積されるデータについて、それぞれ一応の説明がなされている。ところが、前項4-1の(オ)に関しては、
「(受託者兼受益者の一人である投資事業会社は、)複数の受託財産を管理し、(中略)複数の複合投資受益権(ロイヤリティ見込額及び株式売却見込額の合計未換金利益)をプールし、金融機関や証券会社ほか金融機関に一括譲渡することができる。」(前記4)【0051】)というルールの説明と、
「投資事業会社から前記複合投資受益権を一括譲受する金融機関のサーバーコンピュータ30は、証券購入申込情報を記録する証券情報データベース31(中略)を有する。(中略)金融機関の管理するサーバーコンピュータ30の閲覧端末に接続されたホームページに、複合投資受益権をベースに企画・開発された投資受益証券の販売に係る金融商品の説明を含む販売情報と、(略)証券購入申込フォームが設定されている。これらの情報は証券情報データベース31に記録することで、インターネット等の通信手段を介して証券購入の申込をできるようにしてある。」(前記5)【0056】)という説明と、
があるだけで、サーバーコンピュータのハードウエア(データベース)に記憶された情報をどのように読み出し、ハードウエア資源を利用してどのような情報処理を行うことにより、当該(オ)の「前記複合投資受益権を前記特定目的会社に譲渡することで、受託者において再投資資金を調達し、これを新たに複数の委託者に再投資する出資金の再運用によって収益力を高めることを可能とする」ことができ、「コンピュータネットワークによる証券化システム」を実現できるのか、という点については、一切記載がなく不明である。また、明細書の記載からみて、当該(オ)の点をシステム的に実現することが当業者において自明な事項であるとも認められないので、当業者といえども、本件の発明の詳細な説明の記載の範囲からは、当該(オ)の点を実現することは、到底容易とはいえない。そして、前記(ア)ないし(エ)は、前項4-1で検討したとおり、慣用技術の域を出ないものであるから、前記(ア)ないし(エ)を受けた当該(オ)は、本件の請求項1に係る発明の「コンピュータネットワークによる証券化システム」において最も重要な位置づけにあるべきところ、この(オ)が容易に実現できなければ、本件の請求項1に係る発明全体として、容易に実施できるとはいえないことは、明らかである。

なお、請求人は、『今回の補正により、本願発明は、(中略)コンピュータネットワークによる証券化システムとなっております。すなわち、本願発明は、“委託者と受託者を当事者として締結された複数の実施権許諾契約に基づくロイヤリティー収入を源泉とするロイヤリティー受益権と、複数の委託者に対する出資契約で取得する株式の将来利益を見込んだ株式受益権と、を併合した複合投資受益権”に裏付けられた証券の形成に係るシステムであり、ソフトウェアによる情報処理の発明ではなく、「計算手段」による演算の仕方を要旨としていないので、この拒絶理由は解消しています。』と主張する。
ここで、請求人は、本願発明は「コンピュータネットワークによる証券化システム」である、と主張しながら、「複合投資受益権に裏付けられた証券の形成に係るシステムであり、ソフトウェアによる情報処理の発明ではない」とも主張するので、意図が不明瞭なところがあるが、本願発明がいずれであるとしても、本件の発明の詳細な説明が、当業者が本件の請求項1に係る発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載していないことは、先に検討したとおり否定しがたいところであり、請求人の主張を採用することはできない。

したがって、本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件の請求項1に係る発明の実施をできる程度に明確かつ十分に記載していないので、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
そして、請求項2ないし11に係る発明は、すべて補正後の請求項1を引用するものであるから、本件の発明の詳細な説明の記載は、同様の理由で、同項に規定する要件を満たしていない。

第5 まとめ
補正後の請求項1ないし11に係る発明は、特許法第2条第1項にいう「自然法則を利用した技術的思想」に該当しないから、特許法第29条第1項柱書にいう「発明」には該当せず、同項柱書の規定により特許を受けることができない。
また、仮に、補正後の請求項1ないし11に係る発明を、特許法第29条第1項柱書にいう「発明」として認めたとしても、補正後の請求項1ないし11の記載および発明の詳細な説明の記載が、それぞれ特許法第36条第6項第2号および特許法第36条第4項の規定を満たしていないため、特許を受けることができない。
 
審理終結日 2005-01-31 
結審通知日 2005-02-01 
審決日 2005-02-16 
出願番号 特願2001-157883(P2001-157883)
審決分類 P 1 8・ 14- WZ (G06F)
P 1 8・ 537- WZ (G06F)
P 1 8・ 536- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阿波 進  
特許庁審判長 佐藤 伸夫
特許庁審判官 久保田 健
須原 宏光
発明の名称 コンピュータネットワークによる証券化システム  
代理人 野口 忠夫  
代理人 丹羽 宏之  

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