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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09B
管理番号 1128422
審判番号 不服2003-16678  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-02-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-28 
確定日 2005-12-26 
事件の表示 平成10年特許願第212536号「地図表示装置、画像表示装置、地図表示方法及び記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月18日出願公開、特開2000- 47576〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成10年7月28日の出願であって、平成15年7月18日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年8月28日付けで本件審判請求がされるとともに、同年9月29日付けで明細書についての手続補正(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年9月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正目的
本件補正後の請求項4は本件補正前の請求項8に対応し、「ベクトル取得手段」につき「ユーザによる操作を検知して、」及び「ユーザによる前記操作を検知した結果に基づいて」との限定を加えたものであるから、本件補正後の請求項4は本件補正前の請求項8の限定的減縮(特許法17条の2第4項2号該当)を目的とするものと認める。
そこで、本件補正後の請求項4に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。

2.補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項4】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「複数の画像を表すデータ、及び、各前記画像の縮尺率を示す縮尺情報を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段が記憶する複数の前記画像を、前記縮尺情報が示す縮尺率に合致するように表示画面上に表示する表示手段と、
前記表示手段が表示する複数の前記画像のうち1つを特定し、ユーザによる操作を検知して、特定された前記画像をスクロールさせるベクトル量を指定するベクトル情報を、ユーザによる前記操作を検知した結果に基づいて取得するベクトル取得手段と、
前記ベクトル取得手段が取得した前記ベクトル情報及び前記記憶手段が記憶する前記縮尺情報に基づいて、前記表示手段により表示されている前記画像のうち前記ベクトル取得手段により特定された前記画像以外の画像の各々について、前記ベクトル情報が表す前記ベクトル量に、前記ベクトル取得手段により特定された前記画像の縮尺率に対する当該画像の縮尺率の比を乗じた値を表すベクトル量を、当該画像をスクロールさせるベクトル量と決定する連動スクロール量決定手段と、を備え、
前記表示手段は、自らが表示する各前記画像のうち、前記ベクトル取得手段により特定された前記画像を、前記ベクトル情報が表すベクトル量に合致するようにスクロールさせ、他の各前記画像を、前記連動スクロール量決定手段が決定した前記ベクトル量に合致するようにスクロールさせるスクロール手段を備える、
ことを特徴とする画像表示装置。」

3.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-270172号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア〜スの記載が図示とともにある。
ア.「車両に搭載されて用いられ、地図データを格納した地図メモリを有し、この地図メモリに格納された地図を単独で、又は車両の現在位置とともに表示するようにしたナビゲーション装置において、
表示画面のメインウィンドウに1種類の地図を表示する一画面表示手段と、
表示画面のメインウィンドウに表示されている地図を含む周辺の縮小地図を表示画面のサブウィンドウに同時表示する二画面表示手段と、
前記一画面表示手段による表示と二画面表示手段による表示とを切り替える表示切替え手段と、
前記二画面表示手段による表示中に、前記サブウィンドウに表示された縮小地図の中にメインウィンドウに表示されている地図に相当する領域を示す枠を表示する枠表示手段とを備えていることを特徴とするナビゲーション装置における地図表示装置。」(【請求項1】)
イ.「前記二画面表示手段による表示中に、前記メインウィンドウに表示された地図と、前記サブウィンドウに表示された縮小地図とは、車両の走行に連れて連動してスクロールされるものである請求項1記載のナビゲーション装置における地図表示装置。」(【請求項2】)
ウ.「請求項1記載の発明によれば、表示画面のメインウィンドウに表示されている地図を含む周辺の縮小地図を表示画面のサブウィンドウに同時表示することができ、かつ、サブウィンドウに表示された縮小地図の中にメインウィンドウに表示されている地図に相当する領域を示す枠を表示することができるので、ユーザは、メインウィンドウに表示されている地図が、広域地図の中でどの辺りにあるのか一目で把握できる。」(段落【0009】)
エ.「地図データがCD-ROMで構成された道路地図メモリ5から読出され、後述するビットマップメモリに保持される。前記車両の現在位置データおよび地図データはCRT,液晶表示素子やプラズマ表示素子等で構成された画面表示装置6に与えられ、この画面表示装置6で車両の現在位置がその周辺の地図上に重ねて表示される。」(段落【0013】)
オ.「前記道路地図メモリ5には、例えば2500分の1,5000分の1,10000分の1,25000分の1,50000分の1等の10種類の縮尺の地図データが記憶されている。」(段落【0014】)
カ.「ナビゲーション装置本体4にはさらに、このナビゲーション装置の制御の中心を司るCPU(中央処理装置)41、ワークエリア等として機能するRAM43、および画面表示データを一時的に保持するためのビットマップメモリ45が含まれている。ナビゲーション装置本体4における車両の現在位置の検出は、基本的には車輪速センサ1およびジャイロ2の出力に基づくいわゆる自立航法により行われる。・・・したがって、例えば車両を発進させる前に車両の正確な位置等を入力しておけば、その後の車両の位置の推移を検出できる。」(段落【0015】)
キ.「ジョイスティックリモコン装置7は、本発明の実施と関連するものでは、地図/メニュー画面切替えボタン、表示切替えボタン、縮尺レベル変更ボタン、地図自動スクロールON/OFFボタン及びジョイスティックを備えている。これらのボタンは、メカニカルなスイッチ類で構成されていてもよいが、ジョイスティックリモコン装置7の本体上にタッチスイッチ等を設け、タッチスイッチ等を押すと画面表示装置6の画面の表示と連動して下記の機能を実行できるようにしてもよい。また、画面表示装置6の画面にスイッチの表示が出るようにして、ジョイスティックで選択できるようにしてもよい。」(段落【0018】)
ク.「「地図自動スクロールON/OFFボタン」は、地図の自動スクロールのON/OFFをするものである。通常は車両位置が地図の中心にあるように自動スクロールさせるが、ジョイスティック操作によりマニュアルでスクロールさせるとOFFになる。マニュアルスクロール後、再度自動スクロールさせるときにも、この地図自動スクロールON/OFFボタンを操作する。」(段落【0020】)
ケ.「「ジョイスティック」は、・・・地図表示時には、地図画面のスクロールに使用されるものである。」(段落【0021】)
コ.「ナビゲーション装置本体4において、車両の現在位置が検出されると、この検出された車両の現在位置を含む地図データが道路地図メモリ5から読出され、ビットマップメモリ45に保持される。・・・縮尺インジケータ17は、表示地図の縮尺を示すもので、縮尺レベル変更ボタンを操作すると、縮尺インジケータ17の表示が変わり、これに応じて表示地図の縮尺が変更(拡大/縮小)される。」(段落【0022】)
サ.「図1は、図4の画面から切り替えられた二画面表示の例を示す図であり、最初から表示されている地図又はその拡大図(この地図を表示した画面を「親画面」という)に加えて、親画面の表示範囲を含むより広い範囲の地図(この広域地図を表示した画面を「子画面」という)が新たにサブウィンドウに表示されている。」(段落【0024】)
シ.「子画面では、親画面表示範囲を示す枠20が表示される。この枠を見てユーザは、親画面が子画面のどの辺りを表示しているのか把握することができる。そして、車両の走行に連れて、親画面及び子画面は連動してスクロールされる。このスクロールは、検出された車両の現在位置データに基づいてビットマップメモリ45を書き換えることによって行われることはいうまでもない。」(段落【0026】)
ス.「前記実施例では、例えばジョイスティク形式のスクロールキーを使用したが、これ以外にスクロールボタンでも適用可能である。」(段落【0029】)

4.引用例記載の発明の認定
記載ア〜スを含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「車両に搭載されて用いられ、地図データを格納した地図メモリを有し、この地図メモリに格納された地図を単独で、又は車両の現在位置とともに表示するようにしたナビゲーション装置において、
表示画面のメインウィンドウに1種類の地図を表示する一画面表示手段と、表示画面のメインウィンドウに表示されている地図を含む周辺の縮小地図を表示画面のサブウィンドウに同時表示する二画面表示手段と、前記一画面表示手段による表示と二画面表示手段による表示とを切り替える表示切替え手段と、縮尺レベル変更ボタンとジョイスティックと地図自動スクロールON/OFFボタンとを有し、
前記地図自動スクロールON/OFFボタンがOFFの場合には前記ジョイスティックによりスクロールが行われ、
前記二画面表示手段による表示中で前記地図自動スクロールON/OFFボタンがONの場合には、前記メインウィンドウに表示された地図と、前記サブウィンドウに表示された縮小地図とは、車両の走行に連れて連動してスクロールされるナビゲーション装置における地図表示装置。」(以下「引用発明」という。)

5.補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
引用発明のサブウィンドウには、メインウィンドウに表示されている地図(地図は「画像」の一種であり、引用発明を「画像表示装置」ということができる。)を含む周辺の縮小地図が表示されるから、引用発明が「複数の画像を表すデータ記憶する記憶手段」を備えることは明らかであり、縮尺レベル変更ボタンを備え指定された縮尺地図を表示する以上、「各前記画像の縮尺率を示す縮尺情報を記憶する記憶手段」をも備えると認める。
引用発明が「前記記憶手段が記憶する複数の前記画像を、前記縮尺情報が示す縮尺率に合致するように表示画面上に表示する表示手段」を備えることは明らかである。
引用発明では、二画面表示手段による表示中で地図自動スクロールON/OFFボタンがONの場合に、メインウィンドウに表示された地図とサブウィンドウに表示された縮小地図とが車両の走行に連れて連動してスクロールされるのであるが、記載シによれば「検出された車両の現在位置データに基づいてビットマップメモリ45を書き換えることによって行われる」のであって、スクロール量は方向と大きさを持ったベクトル量であり、引用発明は「ベクトル取得手段」を備えている。そして、メインウィンドウに表示された地図とサブウィンドウに表示された縮小地図とが車両の走行に連れて連動するということは、表示画面上における各地図のスクロール量の比が縮尺比(補正発明の「縮尺率の比」と同義)に等しいということであり、記憶手段が記憶する縮尺情報に基づいてスクロールが行われている。すなわち、補正発明と引用発明とは、ベクトル取得手段を備え、取得したベクトル量に基づいて、複数の画像の表示画面上のスクロール量の比が縮尺率の比と一致するように連動してスクロールさせるスクロール手段を備える限度で一致する。
したがって、補正発明と引用発明とは、
「複数の画像を表すデータ、及び、各前記画像の縮尺率を示す縮尺情報を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段が記憶する複数の前記画像を、前記縮尺情報が示す縮尺率に合致するように表示画面上に表示する表示手段と、
スクロールのためのベクトル取得手段と、
前記ベクトル取得手段が取得した前記ベクトル情報及び前記記憶手段が記憶する前記縮尺情報に基づいて、前記記憶手段が記憶する複数の前記画像の表示画面上のスクロール量の比が縮尺率の比と一致するように連動してスクロールさせるスクロール手段を備える画像表示装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉連動してスクロールさせるスクロール手段のためのベクトル取得手段につき、補正発明では「前記表示手段が表示する複数の前記画像のうち1つを特定し、ユーザによる操作を検知して、特定された前記画像をスクロールさせるベクトル量を指定するベクトル情報を、ユーザによる前記操作を検知した結果に基づいて取得するベクトル取得手段」としているのに対し、引用発明では「車両の走行」を検知し、走行方向及び走行量を取得する手段である点。
〈相違点2〉補正発明が「前記表示手段により表示されている前記画像のうち前記ベクトル取得手段により特定された前記画像以外の画像の各々について、前記ベクトル情報が表す前記ベクトル量に、前記ベクトル取得手段により特定された前記画像の縮尺率に対する当該画像の縮尺率の比を乗じた値を表すベクトル量を、当該画像をスクロールさせるベクトル量と決定する連動スクロール量決定手段」を備えるのに対し、引用発明は同手段を備えるとはいえない点(そもそも、特定された画像を対象としてベクトル量を取得しているのではない)。
〈相違点3〉連動してスクロールさせるに際し、補正発明が「前記表示手段は、自らが表示する各前記画像のうち、前記ベクトル取得手段により特定された前記画像を、前記ベクトル情報が表すベクトル量に合致するようにスクロールさせ、他の各前記画像を、前記連動スクロール量決定手段が決定した前記ベクトル量に合致するようにスクロールさせる」のに対し、引用発明がそのようにスクロールさせているとはいえない点。

6.相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
(1)相違点1について
引用例には、二画面表示手段による表示中にマニュアル操作によりスクロールを行う(当然、ユーザによる操作を検知して行うものである。)こと、及びその場合にメインウィンドウに表示された地図とサブウィンドウに表示された縮小地図とが連動してスクロールされることは直接記載されていない。しかし、かかる連動スクロールをマニュアル操作により行わない旨の記載もない。記載ウの「表示画面のメインウィンドウに表示されている地図を含む周辺の縮小地図を表示画面のサブウィンドウに同時表示することができ、かつ、サブウィンドウに表示された縮小地図の中にメインウィンドウに表示されている地図に相当する領域を示す枠を表示することができるので、ユーザは、メインウィンドウに表示されている地図が、広域地図の中でどの辺りにあるのか一目で把握できる。」との作用効果は、自動スクロールがOFFであっても当てはまるものであり、地図の自動スクロールのON/OFFがその他の処理と関連する旨の記載もないことからすると、二画面表示手段による表示中に、マニュアル操作によりスクロールできると理解するのが自然である。そして、二画面表示である以上、連動してスクロールしなければ、「表示画面のメインウィンドウに表示されている地図を含む周辺の縮小地図を表示画面のサブウィンドウに同時表示」するとは限らなくなるから、マニュアル操作の場合も連動スクロールと解すべきである。
そればかりか、本願出願前に頒布された特開平8-115438号公報(以下「周知例」という。)には、「本発明では、サブ画面に全体図が、メイン画面に部分図が表示されている際に、部分図をスクロールさせたい場合には、サブ画面内の切出領域の移動指示によっても、メイン画面に表示されている部分図のスクロール指示によっても、部分図をスクロールさせることができる。しかも、サブ画面内の切出領域の処理に連動して、メイン画面内の部分図がスクロールされ、又は、メイン画面内の部分図の処理に連動して、サブ画面内の切出領域も移動する。」(段落【0014】)と記載されており、一方が他方を含む二画面表示において、一方又は他方の図に対してマニュアル操作した結果を他方又は一方の図に連動させることは周知と認めることができる。そうである以上、引用発明において、二画面表示手段による表示中にマニュアル操作により2つの地図を連動してスクロールすることが予定されていないとしても、そのように変更することはせいぜい設計事項程度である。もっとも、周知例では一方の図が全体図であるため、その全体図をスクロールしてはおらず、その代わりにサブ画面内の切出領域を移動させているのであるが、全体図ではなく引用発明の「メインウィンドウに表示されている地図を含む周辺の縮小地図」であれば、切出領域(記載シの「親画面表示範囲を示す枠20」がこれに相当する。)が現在の表示画面から外れることがあるばかりか、引用発明では自動スクロールON時に2つの画面が連動してスクロールされるのであるから、切出領域移動ではなくスクロールすることが自然である。
そして、引用発明においてマニュアル操作手段はジョイスティックである(そのため、画像のうち1つを特定してスクロールすると認定することができない。)が、ジョイスティックに限定されないことは引用例の記載スから明らかであるとともに、複数の画像のうち1つを特定してスクロール量を指定することは周知例に記載されており、ある画像を対象としてスクロールさせるベクトル量を指定することも周知(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-161628号公報に記載されているほか、「マピオン」という名称のインターネット地図サービスでは、地図上の任意点をクリックすることで、画面中心からクリック点までのベクトル量だけスクロールしている。)のだから、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(2)相違点2,3について
「前記表示手段は、自らが表示する各前記画像のうち、前記ベクトル取得手段により特定された前記画像を、前記ベクトル情報が表すベクトル量に合致するようにスクロールさせ」との補正発明の構成によれば、「ベクトル情報が表すベクトル量」とは表示画面上でのスクロール量を意味する。そうである以上、「連動スクロール量決定手段が決定した前記ベクトル量」についても、特定された画像以外の画像の表示画面上でのスクロール量と解さなければならない。そして、「連動スクロール量決定手段」を備えるか否かにかかわらず、取得したベクトル量に基づいて、2つの画像の表示画面上のスクロール量の比が縮尺率の比と一致するように連動してスクロールさせることは、5.で述べたとおりであり、そのことは相違点1に係る補正発明の構成を採用することと関係はない。
そうである以上、「特定された前記画像をスクロールさせるベクトル量を指定するベクトル情報を、ユーザによる前記操作を検知した結果に基づいて取得するベクトル取得手段」との相違点1に係る補正発明の構成、及び「特定された前記画像以外の画像の各々について、前記ベクトル情報が表す前記ベクトル量に、前記ベクトル取得手段により特定された前記画像の縮尺率に対する当該画像の縮尺率の比を乗じた値を表すベクトル量を、当該画像をスクロールさせるベクトル量と決定する連動スクロール量決定手段」との相違点2に係る補正発明の構成を備えれば、ベクトル取得手段により特定された画像については、取得したベクトル情報が表すベクトル量に合致するようにスクロールさせざるを得ないし、他の各画像については、連動スクロール量決定手段が決定したベクトル量に合致するようにスクロールさせざるを得ない。すなわち、相違点3は、相違点1,2に係る補正発明の構成を採用したことに付随する相違点にすぎないから、ここで検討すべきは相違点2のみである。
引用発明では、スクロールに当たりビットマップメモリを書き換えることが予定されており(記載シ参照)、記載エの「CD-ROMで構成された道路地図メモリ5」からの読み出し範囲を定めることがスクロールの具体的内容であって、道路地図メモリ上での読み出し範囲変更量と表示画面上でのスクロール量を同視することはできない。
しかし、スクロールのたびにビットマップメモリを書き換える代わりに、表示手段の表示範囲よりも大きな範囲の画像メモリを用意しておき、その画像メモリからの読み出し範囲を変更することによりスクロールを行うことは、例えば特開昭63-82318号公報に記載されているように周知である。その場合、表示画面と画像メモリの一部(読み出し範囲)と同視できるから、画像メモリからの読み出し範囲変更量と表示画面上でのスクロール量も同視できる。そして、引用発明において、この周知技術を採用することは当業者にとって容易であり、スクロールの際に直接アクセスする対象は画像メモリであるから、画像メモリにおける読み出し範囲変更量と同視できる表示画面上でのスクロール量(当然、「前記表示手段により表示されている前記画像のうち前記ベクトル取得手段により特定された前記画像以外の画像の各々について、前記ベクトル情報が表す前記ベクトル量に、前記ベクトル取得手段により特定された前記画像の縮尺率に対する当該画像の縮尺率の比を乗じた値を表すベクトル量を、当該画像をスクロールさせるベクトル量」である。)を、特定された画像以外の画像に対して決定する手段を備えることは当業者にとって想到容易であり、さらにその結果相違点2のみならず相違点3に係る補正発明の構成に至ることも当業者にとって容易である。

(3)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1〜3に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおり、本件補正前の請求項8に係る発明を限定的に減縮した補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は平成15年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反しており、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。
よって、補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下され、それ以外に明細書又は図面についての手続補正はされていないから、本願の請求項8に係る発明(以下「本願発明」という。)は、願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲【請求項8】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「複数の画像を表すデータ、及び、各前記画像の縮尺率を示す縮尺情報を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段が記憶する複数の前記画像を、前記縮尺情報が示す縮尺率に合致するように表示画面上に表示する表示手段と、
前記表示手段が表示する複数の前記画像のうち1つを特定し、特定された前記画像をスクロールさせるべきベクトル量を指定するベクトル情報を取得するベクトル取得手段と、
前記ベクトル取得手段が取得した前記ベクトル情報及び前記記憶手段が記憶する前記縮尺情報に基づいて、前記表示手段により表示されている前記画像のうち前記ベクトル取得手段により特定された前記画像以外の画像の各々について、前記ベクトル情報が表す前記ベクトル量に、前記ベクトル取得手段により特定された前記画像の縮尺率に対する当該画像の縮尺率の比を乗じた値を表すベクトル量を、当該画像をスクロールさせるべきベクトル量と決定する連動スクロール量決定手段と、を備え、
前記表示手段は、自らが表示する各前記画像のうち、前記ベクトル取得手段により特定された前記画像を、前記ベクトル情報が表すベクトル量に合致するようにスクロールさせ、他の各前記画像を、前記連動スクロール量決定手段が決定した前記ベクトル量に合致するようにスクロールさせるスクロール手段を備える、
ことを特徴とする画像表示装置。」

2.本願発明の進歩性の判断
本願発明を限定的に減縮した補正発明が引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたことは「第2」で述べたとおりであり、本願発明が引用発明と同一発明でないことは明らかである。
そうである以上、本願発明も引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというべきであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-10-31 
結審通知日 2005-11-01 
審決日 2005-11-14 
出願番号 特願平10-212536
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G09B)
P 1 8・ 121- Z (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松川 直樹  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 酒井 進
番場 得造
発明の名称 地図表示装置、画像表示装置、地図表示方法及び記録媒体  
代理人 木村 満  

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