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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1128958
異議申立番号 異議2003-73269  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-06-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-19 
確定日 2005-10-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3442705号「快削鋼」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3442705号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 
理由 1.本件手続の経緯
本件特許第3442705号の請求項1乃至5に係る発明についての出願は、平成11年11月26日に特許出願され、平成15年6月20日にその特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、愛知製鋼株式会社及び村中祥世より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成17年5月6日付けで訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
本件訂正請求の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a及びbのとおりに訂正するものである。
(1)訂正事項a:請求項1の「S:0.01〜0.20%」を「S:0.01〜0.105%」と訂正する。
(2)訂正事項b:特許明細書の段落【0010】、【0012】及び【0018】の「S:0.01〜0.20%」をそれぞれ「S:0.01〜0.105%」と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、請求項1のSの含有範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。また、訂正事項bは、訂正事項aの訂正に伴って、特許明細書の対応する記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
そして、上記訂正事項a及びbは、特許明細書の段落【0030】の表4の「試験No34」という具体例の「S:0.105%」を根拠とするものであるから、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、しかも実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
2-3.まとめ
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項乃至第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件訂正発明1乃至5について
訂正後の本件請求項1乃至5に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1乃至5」という。)は、上記訂正を認容することができるから、訂正明細書の請求項1乃至5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】質量%にて C:0.01〜0.70%、Si:0.01〜2.50%、Mn:0.10〜3.00%、S:0.01〜0.105%、P:0.05%以下(0を含む) 、Al:0.1 %以下(0を含む) を含有するとともに、MnS を主成分とする硫化物を含有する快削鋼において、含有されるMnSを主成分とする硫化物のうち、幅(短径)が1.0μm 以上である硫化物の、幅の標準偏差σと幅の平均値(幅平均)の比(σ/幅平均)が0.7以下であることを特徴とする快削鋼。
【請求項2】幅が 1.0μm 以上である硫化物の、幅の平均値が1.5〜4μm である請求項1に記載の快削鋼。
【請求項3】幅が1.0μm以上である硫化物のアスペクト比(長径/短径)の平均値が1.5〜4.0である請求項1又は2に記載の快削鋼。
【請求項4】鋼が、質量%にてMg:0.0005〜0.02%含有する請求項1乃至3の何れかに記載の快削鋼。
【請求項5】鋼が、質量%にてCa:0.0005〜0.02%、Zr:0.0005〜0.2%、希土類元素:0.0005〜0.05%のうちの1種又は2種以上を含有する請求項1乃至4の何れかに記載の快削鋼。」

4.特許異議申立てについて
4-1.取消理由の概要
当審で通知した取消理由の概要は、訂正前の本件請求項1乃至5に係る発明は、引用例1乃至引用例5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1乃至5に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、というものである。

4-2.引用例の記載内容
取消理由において引用された引用例1乃至引用例5には、それぞれ次の事項が記載されている。
(1)引用例1:特開平3-2351号公報
(1a)「(1)重量%で、C:0.20%以下、Si:0.10%以下、Mn:2.0%以下、P:0.10%以下、S:0.15〜0.40%、O:0.0080%以下、残部Feおよび不純物よりなり、全硫化物中の80%以上が長さ0.5〜5.0μmでかつ幅0.5〜3.0μmの範囲内にあることを特徴とする冷間加工性に優れた快削鋼。」(特許請求の範囲(2))
(1b)「重量%で、C:0.20%以下、Si:0.10%以下、Mn:2.0%以下、、P:0.10%以下、S:0.15〜0.40%、O:0.0080%以下、およびBi,Te,Se,Sn,Zr,B,Caのうちから選ばれる1種または2種以上の合計:0.005〜0.500%、残部Feおよび不純物よりなり、全硫化物中の80%以上が長さ0.5〜5.0μmでかつ幅0.5〜3.0μmの範囲内にあることを特徴とする冷間加工性に優れた快削鋼。」(特許請求の範囲(3))
(1c)「本発明に係る快削鋼は、上記した化学成分を有するものであり、全硫化物中の80%以上が長さ0.5〜5.0μmでかつ幅0.5〜3.0μmの範囲内にあるようにしているが、とくに硫化物の代表的な成分であるMnSの長さおよび幅が大きすぎると冷間加工性に対して悪影響を及ぼし、また圧力機器部品に用いた場合に圧力もれを生じるようになり、小さすぎると被削性の面からはあまり好ましくはないので、全硫化物中の80%以上が長さ0.5〜5.0μmでかつ幅0.5〜3.0μmの範囲内にあるように規制した。」(第3頁右下欄12行〜第4頁左上欄2行)
(1d)第5頁第1表には、具体的な例として、例えば「No.3」の快削鋼の化学成分が「C:0.10%、Si:0.03%、Mn:1.18%、P:0.042%、S:0.252%、O:43ppm、残Fe」であり、硫化物の「平均幅1.13μm」、「長さ0.5〜5.0μm、幅0.5〜3.0μm硫化物の比率90%」であること、また、
例えば「No.9」の快削鋼の化学成分が「C:0.09%、Si:0.02%、Mn:1.18%、P:0.043%、S:0.325%、O:47ppm、Te:0.038%、Ca、Ni、Cr、Moの合計が0.60%、残Fe」であり、硫化物の「平均幅1.89μm」、「長さ0.5〜5.0μm、幅0.5〜3.0μm硫化物の比率98%」であることが示されている。
(2)引用例2:特開平11-222645号公報
(2a)「【請求項1】希土類金属化合物が鋼中に分散している機械構造用鋼であって、断面1mm2当たりに観察される該希土類金属化合物は、長径50μm超のものが5個以下であり、長径1〜50μmのものが10〜500個であることを特徴とする機械的特性と被削性に優れた機械構造用鋼。」(2b)「【請求項4】鋼が、希土類金属:0.001〜0.22質量%、およびS:0.01〜0.22質量%を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の機械構造用鋼。」
(2c)「【請求項7】鋼が、C:0.06〜0.70質量%、Mn:0.1〜3.0質量%、Si:0.05〜2.5質量%、Al:0.1質量%以下(0質量%を含む)、P:0.05質量%以下(0質量%を含む)、N:0.003〜0.03質量%、O:0.02質量%以下(0質量%を含む)、Cr:1.0質量%以下(0質量%を含む)、の要件を満たすものである請求項4〜6のいずれかに記載の機械構造用鋼。」
(2d)「該介在物はアスペクト比(長径/短径の比)が大きくても3以下の粒状もしくは短尺のまま維持されるか、もしくは破壊されて細かく分散されるかのどちらかであることから、展伸された鋼材の展伸方向とそれに垂直する方向でシャルピー衝撃値など機械的特性の異方性が改善される。」(第3頁右欄35〜40行)
(3)引用例3:特公昭51-4934号公報
(3a)「1.C:0.1〜0.5%、Si:0.05〜0.4%、Mn:0.5〜2.0%、Cu、Ni、Cr、Moの合計が0.5〜2.0%、VまたはNbを0.01〜0.10%、sol Al:0.002〜0.02%、鋼中O2:0.002〜0.01%に、Mg、Baからなる第1群元素の1種または2種以上を0.03%以下とS、Se、Teからなる第2群元素の1種以上を0.5%以下を含有し、前記第1群元素と第2群元素の原子比が0.03以上にして、残部は実質的にFeよりなる広範囲の優れた被削性を有する快削性構造用合金鋼。」(特許請求の範囲1)
(3b)「2.C:0.1〜0.5%、Si:0.05〜0.4%、Mn:0.5〜2.0%、Cu、Ni、Cr、Moの合計が0.5〜2.0%、VまたはNbを0.01〜0.10%、sol Al:0.002〜0.02%、鋼中O2:0.002〜0.01%に、Mg、Baの1種又は2種の0.03%以下とCa 0.0005〜0.001%からなる第1群元素と、S、Se、Teからなる第2群元素の1種以上を0.5%以下を含有し、前記第1群元素と第2群元素の原子比が0.03以上にして、残部は実質的にFeよりなる広範囲の優れた被削性を有する快削性構造用合金鋼。」
(3c)「すなわち第6図は試料A、G、Kの110mmφ鋼片より、鋼材の繊維方向および直角方向に23mmφの供試材を切出して、900℃に1時間加熱保持後油焼入れし、更に850℃に1時間加熱保持後油焼入れし、180℃で2時間焼戻した試験片について機械的性質の試験を行ない、靱性の各特性値についての直角方向と平行方向の比を表わしたものであり、従来のS快削鋼Gが通常鋼Kに比して直角方向の靱性が著しく低下しているに反し、本発明鋼のAではその低下が大巾に低減されている事が明示されている。
これは第4図に示したように、従来のS快削鋼片Gにおいては硫化物系介在物が網目状に密集して存在するのに対して本発明鋼では・・・硫化物系介在物が酸化物系介在物を包んだような形となって球状に近い姿で細かく且つ均一に分散するためである。」(第5頁左欄第27行〜右欄第2行)
(3d)「前述のごとき高低2種の切削速度領域においてそれぞれ特徴ある作用効果を有するMg、Ba或いは更にCaの第1群元素と・・・を複合添加し、さらに・・・を調整することにより、鋼中非金属介在物の形態を変え、」(第2頁第4欄第4行乃至第9行)
(4)引用例4:特開平1-246345号公報
(4a)「C0.30〜0.60wt%、Si0.70wt%以下、Mn0.60〜2.0wt%、Ni2wt%以下、Cr2wt%以下、Mo0.5wt%を含有し、さらに、S0.08〜0.40wt%、Pb0.30wt%以下、Te0.10wt%以下、Se0.10wt%以下、Zr0.30wt%以下、Ca0.01wt%以下、Ce0.20%以下、Bi0.10%以下のうち2種以上を複合し、かつ下記式で示される快削指数Fが5×10-3〜10×10-3となるよう添加量を調整して含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる調質用快削鋼。
F=S/32+Ca/40+2Pb/207+Te/128+Se/79
+Zr/91+Ce/140+Bi/209(%)」(特許請求の範囲1)
(5)引用例5:「鉄と鋼」第57年第13号(昭和46年11月)第207〜215頁
(5a)「鋼の被削性という観点からは、硫化物系介在物の形状が圧延方向に伸びない、したがって球状に近い方が好ましいとされているが、このような効果を期待できる処理にZrの微量添加がある。すなわち、一般に鋼にZrを添加することにより、硫化物系介在物は丸みをおび圧延直角方向の靱性が回復してくるといわれている。」(第207頁左欄、1.緒言)
(5b)「実験に使用した試料は、すべて実験用高周波誘導炉で5kg鋼塊に大気中で溶製しており、0.2%C,1.0%Mnの基本組成に0.2%以下のSと0.2%以下のZrを含有せしめたものである。」(第207頁右欄、2.1 試料)
(5c)Table 1には、供試鋼の化学成分が示され、鋼B3は、wt%でC:0.18%、Si:0.23%、Mn:0.90%、P:0.018%、S:0.123%、Cr:0.10%、Al:0.030%である。(5d)「400倍の光学顕微鏡写真において、明らかに硫化物系でないと思われる介在物は除外して、長さ1μ以上のものについて、長さ(L)および幅(W)を測定した。その結果をFig.8に示す。Fig.8よりZr%/S%の比が大きくなるほど、長さ(L)の小さい介在物の個数が増加することおよび幅(W)の大きい介在物の個数が増加することが知られる。」(第213頁左欄、3.4.2 Zr添加による介在物の形状の変化) (5e)Fig.8には、長さ1μ以上のものについて、硫化物介在物の粒径分布に与えるZr%/S%の影響が示され、その「B3」には、Zr/S=0の硫化物介在物の長さ及び幅の粒度分布が示されている。

4-3.当審の判断
(1)本件訂正発明1について
引用例1の上記(1a)には、「(1)重量%で、C:0.20%以下、Si:0.10%以下、Mn:2.0%以下、P:0.10%以下、S:0.15〜0.40%、O:0.0080%以下、残部Feおよび不純物よりなり、全硫化物中の80%以上が長さ0.5〜5.0μmでかつ幅0.5〜3.0μmの範囲内にあることを特徴とする冷間加工性に優れた快削鋼。」と記載され、上記(1d)には、この具体例として、化学成分が「C:0.09%、Si:0.02%、Mn:1.18%、P:0.043%、S:0.325%、O:47ppm、Te:0.038%、Ca、Ni、Cr、Moの合計が0.60%、残Fe」であり、硫化物の平均幅1.89μm、長さ0.5〜5.0μmでかつ幅0.5〜3.0μmの硫化物の比率98%である「快削鋼例」が記載されている。そして、この「硫化物」とは、上記(1c)の「とくに硫化物の代表的な成分であるMnSの長さおよび幅が大きすぎると冷間加工性に対して悪影響を及ぼし、また圧力機器部品に用いた場合に圧力もれを生じるようになり、小さすぎると被削性の面からはあまり好ましくはないので、全硫化物中の80%以上が長さ0.5〜5.0μmでかつ0.5〜3.0μmの範囲内にあるように規制した。」という記載によれば、「MnSを主成分とする硫化物」であることも明らかであるから、これら記載を本件訂正発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、「質量%にて、C:0.09%、Si:0.02%、Mn:1.18%、P:0.043%、S:0.325%、O:47ppm、Te:0.038%、Ca、Ni、Cr、Moの合計が0.60%を含有するとともに、MnSを主成分とする硫化物を含有する快削鋼において、含有されるMnSを主成分とする硫化物が平均幅1.89μm、長さ0.5〜5.0μmでかつ幅0.5〜3.0μmの硫化物の比率98%である快削鋼」という発明(以下、「引用例1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明1と引用例1発明とを対比すると、「成分組成」の点については、本件訂正発明1の成分組成も、その「・・・含有するとともに、・・・を含有する快削鋼において、」という規定振りから明らかなように、「C、Si、Mn、S、P、Al」以外の成分の含有を許容するものであり、現に、表2の実施例でも、「O、Ni、Cr、N」を含有するものであるから、引用例1発明の「O:47ppm、Te:0.038%、Ca、Ni、Cr、Moの合計で0.60%を含有する」という点が両者の相違点になるものではないと云える。
そうすると、本件訂正発明1が「Al:0%」、すなわちAlを含有しない場合に、両者は、「質量%にて、C:0.09%、Si:0.02%、Mn:1.18%、P:0.043%、Sを含有するとともに、MnSを主成分とする硫化物を含有する快削鋼において、含有されるMnSを主成分とする硫化物がある範囲の幅(短径)である快削鋼」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:
(イ)本件訂正発明1は、Sの含有量が「0.01〜0.105%」であるのに対し、引用例1発明は、Sの含有量が「0.325%」である点
(ロ)本件訂正発明1は、「幅(短径)が1.0μm 以上である硫化物の、幅の標準偏差σと幅の平均値(幅平均)の比(σ/幅平均)が0.7以下である」のに対し、引用例1発明は、「平均幅が1.89μmで、長さ0.5〜5.0μmでかつ幅0.5〜3.0μmの硫化物の比率が98%である」が、この硫化物の比(σ/幅平均)が明らかでない点
次に、これら相違点について検討する。
(i)相違点(イ)について
本件訂正発明1は、その「S」含有量が引用例1発明のものと比べてやや少量であるが、本件明細書には、「S」の上・下限を限定する特段の理由が明らかにされているわけではなく、被削性の改善に有効なMnSが析出する程度の含有量と云うべきものであるから、引用例1発明の「S」とその目的が共通するものである。また、その「S」の上限を「0.105%」とする上記訂正も、実施例の中に0.105%の例が1例存在していることを根拠にしているだけであるから、その「0.105%」という上限の数値にも格別の臨界的な意味があるわけではない。
してみると、本件訂正発明1に係る上記相違点(イ)は、「S」の含有量の上限を単に「0.105%」と数値限定したことに伴って生じた形式上の差異であって、実質的な差異ではないと云うべきである。
仮に、Sの含有量の点が実質的な差異であるとした場合でも、「0.01〜0.105%」の範囲内でSが含有されている快削鋼は、例えば引用例3の第3頁第1表や引用例5の第208頁「Table 1」に示されているように、周知の事項であるから、引用例1発明の「S」を「0.01〜0.105%」の範囲内で含有させることは、快削鋼の上記周知事項から当業者が容易に想到することができたと云うべきである。

(ii)相違点(ロ)について
本件訂正発明1の「硫化物の幅の標準偏差σと幅の平均値(幅平均)の比(σ/幅平均)が0.7以下である」という特定事項については、その「比(σ/幅平均)」の関係式が本件明細書の段落【0013】等の記載によれば硫化物の幅(短径)のばらつきを示す「指標」を意味し、この指標が「0.7以下である」とは、硫化物の幅(短径)のばらつきが小さいことを意味すると認められるところ、引用例1発明も、上記(1c)の「全硫化物中の80%以上が長さ0.5〜5.0μmでかつ幅0.5〜3.0μmの範囲内にあるように規制した。」という記載に照らせば、硫化物の幅が「0.5〜3.0μm」の範囲内にあるように規制するものであるから、硫化物の幅のばらつきを小さく規制するという技術思想の点では本件訂正発明1と共通するものである。また、引用例1発明の硫化物の具体的な数値である「平均幅:1.89μm」と「長さ0.5〜5.0μm、幅0.5〜3.0μmの硫化物」の占める比率が98%」についてそのばらつきの程度を本件訂正発明1の条件に基づいて検証するに、本件訂正発明1においてその比(σ/幅平均)を「上限0.7」とし、幅平均を引用例1発明と同じ「1.89」とした場合に、その「標準偏差σ」の値は「1.32」であるから、この場合の硫化物の幅の正規分布は、幅平均1.89を中心に「0.57μm(-σ)〜3.21μm(+σ)」の範囲であると認められるところ、引用例1発明も、その硫化物の幅の分布が「幅0.5〜3.0μm」であるから、本件訂正発明1の「比が0.7」である場合とそのばらつきの程度が実質的に差異はないと云うべきである。しかも、引用例1発明は、その「幅0.5〜3.0μm」の占める比率が98%という、いわば正規分布において「±3σ」以下の範囲に含まれる比率(99.74%)に近い比率の98%が「±1σ」以下の範囲に含まれるのであるから、引用例1発明の上記「硫化物」も、本件訂正発明1の上記「比(σ/幅平均)」の条件を満足するに足る「ばらつきの小さい」ものであると云うべきである。
次に、本件訂正発明1の「幅(短径)が1.0μm 以上である硫化物」という特定事項について検討するに、この特定事項の限定理由は、本件明細書の「幅が1.0μm未満の硫化物は、切り屑分断性と横目靱性に対する影響は小さく、また実際の測定上の困難も伴うので除いた。」(段落【0013】)という記載によれば、MnSなどの硫化物が小さいとその影響が小さく、また測定も困難であるという消極的なものであるところ、快削鋼において、その硫化物が小さい場合には、例えば引用例1に「硫化物の代表的な成分であるMnSの長さおよび幅が・・・小さすぎると被削性の面からはあまり好ましくはないので、全硫化物中の80%以上が長さ0.5〜5.0μmでかつ0.5〜3.0μmの範囲内にあるように規制した。」と記載されているように、被削性の面から好ましくないために、例えば特開昭59-205454号公報に「長径5μ以上、短径1μ以上であって長径/短径の比が7以下の巨大球状硫化物の割合(体積率)が50%以上であれば、被削性改善効果が満足すべきレベルに達する。」(第3頁右上欄)と記載されているように、その幅(短径)が1μm以上の硫化物とすることは周知の事項であるから、引用例1発明の上記「平均幅が1.89μmである硫化物」を、その「幅(短径)」が1.0μm以上の硫化物に限定することも、硫化物の効果に関する上記周知事項から当業者が容易に想到することができたと云える。
してみると、本件訂正発明1に係る上記相違点(ロ)も、硫化物に関する上記周知事項から当業者が容易に想到することができたと云える。
したがって、本件訂正発明1は、引用例1、3及び5に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云える。

(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1に「硫化物の、幅の平均値が1.5〜4μm である」という特定事項を追加するものであるが、引用例1発明の幅平均値「1.89μm」は、上記特定事項を満足するものであるから、本件訂正発明2は、この追加の特定事項の点で引用例1発明と実質的な差異はない。
したがって、本件訂正発明2も、引用例1、3及び5に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云える。
(3)本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は2に「硫化物のアスペクト比(長径/短径)の平均値が1.5〜4.0である」という特定事項を追加するものであるが、硫化物のアスペクト比と横目靱性等との関係は、例えば引用例2の上記(2d)の「該介在物はアスペクト比(長径/短径の比)が大きくても3以下の粒状もしくは短尺のまま維持されるか、もしくは破壊されて細かく分散されるかのどちらかであることから、展伸された鋼材の展伸方向とそれに垂直する方向でシャルピー衝撃値など機械的特性の異方性が改善される。」という記載、また引用例3の上記(3c)の「従来のS快削鋼Gが通常鋼Kに比して直角方向の靱性が著しく低下しているに反し、本発明鋼のAではその低下が大巾に低減されている事が明示されている。
これは・・・球状に近い姿で細かく且つ均一に分散するためである。」という記載、さらには、「神戸製鋼技報」vol.27、No.3、July 1977、第46頁の「硫化物の延伸を抑制して紡錘状に形状を制御すると、よこ方向のじん性はいちじるしく向上し、異方性が軽減される。」という記載から明らかなように、周知の事項であるから、本件訂正発明3の上記追加事項も、上記周知事項から当業者が容易に想到することができたと云える。
したがって、本件訂正発明3も、引用例1乃至3及び5に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云える。

(4)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、本件訂正発明1乃至3に「鋼が、質量%にてMg:0.0005〜0.02%含有する」という特定事項を追加するものであるが、快削鋼にその硫化物の形態を制御するために「Mg:0.03%以下」含有させることは、例えば引用例3に記載されているように、周知の事項である。
したがって、本件訂正発明4も、引用例1乃至3及び5に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云える。

(5)本件訂正発明5について
本件訂正発明5は、本件訂正発明1乃至4に「鋼が、質量%にてCa:0.0005〜0.02%、Zr:0.0005〜0.2%、希土類元素:0.0005〜0.05%のうちの1種又は2種以上を含有する」という特定事項を追加するものであるが、快削鋼にその硫化物の形態を制御するために「Ca、Zr、希土類元素のうちの1種又は2種以上を含有」させることは、例えば引用例1乃至5のいずれにも記載されているように、周知の事項である。
したがって、本件訂正発明5も、引用例1乃至5に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云える。

5.むすび
したがって、本件請求項1乃至5に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
快削鋼
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】質量%にてC:0.01〜0.70%、Si:0.01〜2.50%、Mn:0.10〜3.00%、S:0.01〜0.105%、P:0.05%以下(0を含む)、Al:0.1%以下(0を含む)を含有するとともに、MnSを主成分とする硫化物を含有する快削鋼において、含有されるMnSを主成分とする硫化物のうち、幅(短径)が1.0μm以上である硫化物の、幅の標準偏差σと幅の平均値(幅平均)の比(σ/幅平均)が0.7以下であることを特徴とする快削鋼。
【請求項2】幅が1.0μm以上である硫化物の、幅の平均値が1.5〜4μmである請求項1に記載の快削鋼。
【請求項3】幅が1.0μm以上である硫化物のアスペクト比(長径/短径)の平均値が1.5〜4.0である請求項1又は2に記載の快削鋼。
【請求項4】鋼が、質量%にてMg:0.0005〜0.02%含有する請求項1乃至3の何れかに記載の快削鋼。
【請求項5】鋼が、質量%にてCa:0.0005〜0.02%、Zr:0.0005〜0.2%、希土類元素:0.0005〜0.05%のうちの1種又は2種以上を含有する請求項1乃至4の何れかに記載の快削鋼。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、快削鋼に関し、詳細には被削性(切り屑分断性)に優れるとともに、機械的性質のうち特に横方向の衝撃値(以下横目靱性と言う)に優れる快削鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、被削性はもとより機械的性質に優れる快削鋼の提案が多くなされ、また実用されている。一方、本発明者等も同様の特性を有する快削鋼の開発を行ってきており、その開発過程で、快削鋼中のMnSを主成分とする硫化物の形態が被削性や機械的性質に影響を及ぼす点に注目した。
【0003】
一方、これまで快削鋼中の硫化物や酸化物に注目して改善がなされ提案されたものに、例えば特開昭59-205453号公報、特開昭62-23970号公報が、また快削鋼ではないが、鋼中の硫化物や酸化物に注目して改善がなされ提案されたものに、例えば特開平7-188853号公報及び特開平7-238342号公報などがある。
【0004】
特開昭59-205453号公報には、低炭素イオウ快削鋼を対象として、SにTe、Pb及びBiを複合添加するとともに、Alの含有率を下げて酸化物系介在物中のAl系のものを少なくし、更に長径が5μ以上、短径が2μ以上で、長径/短径の比が5以下のMnS系介在物が全MnS系介在物の50%以上を占める快削鋼が提案されている。この快削鋼では、被削性の改善は期待されるものの、短径が2μ以上の巨大なMnS系介在物の、短径サイズのばらつきが懸念され、このため、横目靱性が必ずしも十分に得られないことが懸念される。
【0005】
特開昭62-23970号公報には、従来の低炭素硫黄-鉛快削鋼にさらに改良を加え、鋼中のC、Mn、P、S、Pb、O、Si、Alの含有量を規定するとともに、マンガン(Mn)硫化物系介在物の平均サイズや酸化物と結合していない硫化物系介在物の割合を規定することによって、構成刃先の生成を抑制して切削仕上面粗さを改善する作用のあるMnS皮膜を工具表面層に形成させやすい塑性変形能の大きいMnSを含有する、連続鋳造による低炭素硫黄-鉛快削鋼が提案されている。この快削鋼では、切削時の切削仕上面粗さを著しく向上させる効果が期待できるものの、MnSを主成分とする硫化物のサイズについては何ら言及されておらず、短径サイズのばらつきが懸念され、横目靱性が必ずしも十分に得られないことが懸念される。
【0006】
特開平7-188853号公報には、C:0.1〜0.4%、Si:0.15%以下、Mn:0.3〜2.0%、Cr:0.4〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.005〜0.03%、T.0:0.003%以下を基本成分とし、更にMgをT.Mgとして0.0015〜0.0350含有する歯車用浸炭用鋼が提案されている。この歯車用浸炭用鋼では、鋼材中にMgを含有させることにより酸化物系介在物(主にアルミナ)のサイズが微細化されると共にMnSの延伸性が抑制され、面疲労強度の飛躍的な向上及び歯曲げ疲労強度の向上が期待できるとされているが、被削性(切り屑分断性)や横目靱性を改善することについては何ら言及されておらず、本発明が対象とする快削鋼とは異なる特性を改善したものである。
【0007】
特開平7-238342号公報には、上記特開平7-188853号公報に記載の歯車用浸炭用鋼を対象として、更に鋼材中に含有される酸化物及び硫化物が、個数比として次式(MgO+MgO・Al2O3)個数/全酸化物個数≧0.80‥‥(1)
0.20≦(Mn・Mg)Sの個数/全硫化物個数≦0.70‥‥(2)を満たすものである高強度歯車用浸炭用鋼が提案されている。この高強度歯車用浸炭用鋼では、酸化物と硫化物の個数比を前記式(1)と(2)に規定することにより、面疲労強度の飛躍的な向上及び歯曲げ疲労強度の向上が期待できるとされているが、被削性(切り屑分断性)や横目靱性を改善することについては何ら言及されておらず、本発明が対象とする快削鋼とは異なる特性を改善したものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、快削鋼は、一般に被削性とともに機械的性質が要求される用途に使用する場合に適した鋼材であり、特に自動車部品や機械部品として用いられることが多く、また鍛造、圧延などによって変形加工が加えられることもある。このような変形加工を加えた場合、材料特性に異方性を生じることがあり、機械構造部品としての必要特性が満たされなくなる場合がある。すなわち、一般には鍛造、圧延などで延ばされた方向に垂直な方向の衝撃値(横目靱性)が問題となる場合が多い。その横目靱性に大きな影響を与えるとして硫化物の形態があるが、これまでの研究で提案されている改良技術は上述した通りで、被削性(切り屑分断性)はもとより機械的性質のうち特に横目靱性にばらつきが認められ必ずしも十分に改善したものとはなっていない。
【0009】
そこで、本発明は、上述したような事情に基づいてなしたものであって、その目的は、被削性(切り屑分断性)はもとより機械的性質のうち特に横目靱性のばらつきの小さな快削鋼を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の課題を解消するため調査、研究を行った。その結果、快削鋼の切り屑分断性を一定レベルに保ちながら、横目靱性のばらつきを抑えるためには、鋼中の硫化物(MnSを主成分とする)のサイズのばらつきを少なくすればよいことを突き止めた。そして、従来技術で規定していなかった硫化物の幅(短径)のばらつきに着目し、その硫化物の幅のばらつきを小さく改善することによって横目靱性のばらつきと切り屑分断性を改善することができ、本発明を完成するに至ったものであって、その発明(請求項1)に係る快削鋼は、質量%にてC:0.01〜0.70%、Si:0.01〜2.50%、Mn:0.10〜3.00%、S:0.01〜0.105%、P:0.05%以下(0を含む)、Al:0.1%以下(0を含む)を含有するとともに、MnSを主成分とする硫化物を含有する快削鋼において、含有されるMnSを主成分とする硫化物のうち、幅(短径)が1.0μm以上である硫化物の、幅の標準偏差σと幅の平均値(幅平均)の比(σ/幅平均)を0.7以下とするものである。
そして、この場合、幅が1.0μm以上である硫化物の、幅の平均値は1.5〜4μm(請求項2)とすることが望ましく、また更に、幅が1.0μm以上である硫化物のアスペクト比(長径/短径)の平均値は1.5〜4.0(請求項3)、より好ましくは1.5〜3とすることが望ましい。また、このように横目靱性のばらつきと切り屑分断性が大きく改善されたことで、この快削鋼を用いることにより機械構造部品の横目靱性の安全係数を小さくとることができ、引いては加工歩留りの向上が期待される。ここで硫化物というのは、MnとSとを合わせて少なくとも50質量%含有する硫化物を意味し、この硫化物の他の元素を含有していたり酸化物と複合している場合でも構わない。
【0011】
また、上記横目靱性のばらつきの改善方法としては、硫化物の均一生成と熱間加工時の展伸の抑制が有効である。そのうちの硫化物の均一生成手段としては、例えば、高度に制御された製造条件下においてMgを添加することで達成可能である。あるいは、Ca、Zr、希土類元素の添加によっても、達成可能である。この場合、鋼中のMg含有量は、質量%にてMg:0.0005〜0.02%(請求項4)とすることが望ましく、またCa、Zr、希土類元素の含有量は、それぞれ質量%にてCa:0.0005〜0.02%、Zr:0.0005〜0.2%、希土類元素:0.0005〜0.05%(請求項5)とすることが望ましい。
【0012】
また、本発明が適用対象とする鋼種は、MnSを主成分とする硫化物が存在する鋼材であれば特に限定するものではないが、低・中・高炭素鋼の何れでもよく、この場合、好ましくは、質量%にてC:0.01〜0.70%、Si:0.01〜2.50%、Mn:0.10〜3.00%、S:0.01〜0.105%、P:0.05%以下(0を含む)、Al:0.1%以下(0を含む)を含有する炭素鋼(請求項1)がよい。また、前記炭素鋼にNi、Mo、Cr、Cu、V、Nb、Tiなどの一種又は二種以上を含有する鋼種であってもよい。
【0013】
以下、本発明の数値限定の理由について詳述する。
請求項1において、MnSを主成分とする硫化物のうち、幅(短径)が1.0μm以上の硫化物に限定するのは、幅が1.0μm未満の硫化物は、切り屑分断性と横目靱性に対する影響は小さく、また実際の測定上の困難も伴うので除いた。また、硫化物の幅のばらつきの判断基準として標準偏差σを用い平均で除した値(σ/幅平均)をもって評価する。その値が0.7を超えていると幅のばらつきが非常に大きくなり、横目靱性のばらつきも急激に顕著に現れるようになることから、その値を0.7以下と限定した。なお、下限値は特になく、小さい程横目靱性のばらつきが小さくなるのは自明である。
【0014】
請求項2において、幅が1.0μm以上である硫化物の、幅の平均値を1.5〜4μmとしたのは、MnSを主成分とする硫化物の幅は、その平均値が1.5μm以上であれば、切り屑分断性への効果と工具寿命改善の効果が大きく、それより小さいと、上記(σ/幅平均)値が0.7を超えて大きくなりやすく横目靱性のばらつきが急激に顕著に現れるようになり、被削性改善効果が小さくなる。一方、上限の4μmを超えると、上記(σ/幅平均)値は0.7以下を満たすものの、硫化物自体が大きいため被削性特に切り屑分断性の改善効果が小さくなることが懸念される。従って、上限は、より望ましくは3μm以下であるとよい。
【0015】
請求項3において、幅が1.0μm以上である硫化物のアスペクト比(長径/短径)の平均値を1.5〜4.0とするのは、アスペクト比が大きいものは横目靱性が低下することは従来から言われているとおりであるが、硫化物の幅のばらつきを抑え、上記(σ/幅平均)値を0.7以下とした上で、なおかつアスペクト比を1.5〜4.0とすると安定して切り屑分断性と横目靱性が改善されるためで、1.5を下回ると切り屑分断性が低く、4.0を超えると横目靱性が低下するので上記の範囲とする。また、上限は、より望ましくは3.0以下がよい。
【0016】
請求項4において、鋼中に含有させるMgを、質量%にてMg:0.0005〜0.02%と限定するのは、MgはMnSを主成分とする硫化物の形態を制御するために有効であり、Mgを添加することによって硫化物の展伸を抑制することは従来から知られている。しかし、本発明では高度に製造条件を制御することによって従来には達成できなかった硫化物の形態を実現することが可能となった。その時のMgの含有量は、0.0005質量%を下回ると結果的に硫化物が所望の形態にならないので0.0005質量%以上とし、一方、0.020質量%を超えて含有すると、硫化物の大きさが5μmを超える場合が多くなるので0.020質量%以下とした。なお、Mgの添加方法は、特に制限するものではないが、比較的歩留りにくい元素なので、Ni-Mg合金などの合金として添加するか、あるいはワイヤーの中に封入して溶鋼中に添加するか、パウダーインジェクションで添加することができる。
【0017】
請求項5において、鋼中に含有させるCa、Zr、希土類元素を、質量%にてCa:0.0005〜0.02%、Zr:0.0005〜0.2%、希土類元素:0.0005〜0.05%と限定するのは、Ca、Zr、希土類元素も上記Mgと同様に高度に製造条件を制御することによって硫化物を所望の形態に制御するために有効である。Caは0.0005質量%未満ではその効果が現れず、0.02質量%を超えても、逆に硫化物形態が狙いどおりにならない。Zrの場合は、0.0005質量%未満では効果が現れず、0.05質量%を超えると硫化物が粗大化してしまうので良くない。希土類元素としては、La、Ce、Pr、Ndなどが代表的である。希土類元素の場合は、0.0005質量%未満では効果が現れず、0.20質量%を超えても効果が飽和するので良くない。また、これらCa、Zr、希土類元素の含有は1種でもよいが2種以上含有しても効果は得られる。また、他に被削性を向上させる元素として、Pb又は/及びBiを合計で0.30質量%以下含有しても更に良い被削性が得られる。ただし、過剰に含有しても効果が飽和するだけでなく、熱間鍛造性を低下させて機械的性質を低下させる原因となるので、含有させるのであれば上限を設け、合計で0.30質量%以下とした。
【0018】
請求項1において、本発明に適用する好ましい鋼として、質量%にてC:0.01〜0.70%、Si:0.01〜2.50%、Mn:0.10〜3.00%、S:0.01〜0.105%、P:0.05%以下(0を含む)、Al:0.1%以下(0を含む)を含有する鋼が好ましく、この化学成分組成の鋼であれば、機械構造用鋼として必要な引張強度などで更に良好な特性が得られ、硫化物系介在物の分布や形状も良好となって、被削性・機械的性質共に優れる機械構造用鋼として有効である。なお、Pは強度アップの効果がある反面、靱性を低下させる元素であり、0.05%を超えるとその悪影響が顕著になるので避けるべきで、特に高靱性を求める場合は含有させなくてもよい。またAlは、脱酸元素として添加するが、他の脱酸元素がある場合、含有させなくてもよい。
【0019】
本発明では硫化物の形態を測定するが、その方法とては、材料の性質を正確に評価するという意味からできるだけ多くの視野を観察することが望ましい。同様な結果が得られる評価方法であれば特に限定はしないが、推奨される方法としては次のようなものがある。試料は圧延・鍛造などの加工が加えられている場合、硫化物が展伸された方向と平行な断面に切断して、実際の硫化物の長さ(長径)や幅(短径)が測定しやすく配慮する。また、光学顕微鏡またはSEMを用いて、倍率100倍以上、視野面積2mm2以上の範囲に含まれる硫化物を測定する。測定はコンピュータによる画像解析ソフトを用いると効率的である。
【0020】
【発明の実施の形態】
当初、本発明者等は、硫化物(MnSを主成分とする)の形態と横目靱性及び切削時の切り屑分断性との関係を調査していた。そして、硫化物の幅のばらつきが横目靱性のばらつきに影響を及ぼすのではないかと考え、種々の実験を実施した。その結果、後述する実施例1の表1乃至2示すように確かに硫化物の幅のばらつきが横目靱性のばらつきに影響していることが分かった。ただし、同時にまた、硫化物の幅のばらつきを制御するのは技術的に非常に難しく、合金成分や溶製方法、鍛造方法などによって変動してしまうことも分かった。実施例1はその一例であって、具体的な製造条件は次のとおりである。
【0021】
【実施例】
〔実施例1〕
真空高周波溶解炉(真空炉)又は大気高周波溶解炉(大気炉)を用い表1に示す溶製条件で表2に示す化学成分の鋼材を製造した後、その鋼材を表1に併せて示す鍛造条件で鍛造を行った。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
具体的には、溶製は、溶鋼にまずカーボンを添加し、続いてFe-Mn合金、Fe-Si合金を添加し、更に、Fe-Cr合金、Fe-S合金を添加した。その後、Alを添加した。溶鋼の温度・酸素量などは表1に示すとおりである。大気炉の場合、添加後少なくとも10分以内に鋳造した。鋳造は、約150mm角のビレットを連続鋳造装置を用いて実施した。真空炉の場合はφ240mmあるいはφ120mmのインゴットに鋳造した。また、鍛造は、得られた鋳塊を表1に示す鍛造温度に加熱し、表1の寸法になるように鍛造した。
【0025】
上記で得られた鍛造後の鋼材について、それぞれをφ55mm×30mmに切断・旋削加工した後に焼き入れ焼き戻しを施して、ヴィッカース硬さ260±5にそろえて試験材を得た。この試験材をもとに、以下の要領で硫化物の測定調査、被削性の評価、及び横目靱性の試験を行った。硫化物(MnS)のサイズは、鍛造して展伸した方向に平行な断面について、光学顕微鏡から取り込んだ画像を画像処理して求めた。そのときの観察視野は各試験材共5.5mm×5.5mmの範囲で行った。被削性評価は、φ10ハイス製ストレートドリルを用いて穴あけ試験を行い、切り屑の単位g当たりの個数をカウントして切り屑性指数を評価した。切削条件は、速度V=20m/min、送りf=0.2mmとした。横目靱性試験は、試験片を鍛造で展伸させた方向と直角に切り出してシャルピー衝撃試験を実施した。なお、各試験片共5本ずつ試験し、最大値と最小値の差をもって横目靱性のばらつきを評価した。それぞれの調査、試験結果を表3に示す。なお、表3及び後記する表5において、硫化物長さ平均値とは、幅が1.0μm以上である硫化物の長さの平均値のことである。また、硫化物幅平均値とは、幅が1.0μm以上である硫化物の幅の平均値のことである。
【0026】
【表3】

【0027】
上記表1乃至3から明らかなように、試験No.1〜4は、本発明例であって、硫化物の形態を所望のものにするために成分範囲と溶製条件、鍛造条件を表1乃至表2のように制御した。その結果、硫化物は所望の形態となって、横目靱性のばらつきが小さく、横目靱性の絶対値自体が大きくなるとともに、良好な切り屑分断性が得られた。
【0028】
これに対して、試験No.5と6は、比較例であって、試験No.5は、溶製時の溶存酸素量、トータル酸素量が共に試験No.1〜4よりも低くかったため、硫化物の酸素量も低くなって非常に変形しやすい硫化物となり、他より厳しい鍛造条件も手伝って細長くて幅のばらつきの大きい硫化物となっている。その結果として、切り屑分断性は試験No.1〜4とほぼ同程度であったが、横目靱性のばらつきが大きく、横目靱性の絶対値自体も低くなっている。酸素量が少なかった理由としては、真空炉内の雰囲気ガスの酸素量が他よりも低かったのではないかと推定される。また、試験No.6は、試験No.4と溶製、鍛造の製造条件がよく似ているが、試験No.4に比べて溶存酸素量が低くなっている。これら試験No.6と4は、大気炉で溶製され、簡単なアルゴンガスシールドを施しているものの、酸素量は変化しやすいことから、たまたま、酸素量を低くしすぎた試験No.6の硫化物が変形しやすく、前記試験No.5と同様な細長くて幅のばらつきの大きい硫化物となって横目靱性のばらつき、絶対値自体が低くなってしまったものと推定される。ただし、試験No.5と6共、切り屑分断性はそれ程大きな低下とはならなかった。
【0029】
〔実施例2〕
更に、研究を重ねた結果、表4にあるような化学成分系で製造条件を制御した結果、安定して硫化物の幅やアスペクト比を制御できることを見出した。
【0030】
【表4】

【0031】
表4に示す化学成分になるように真空炉又は大気炉を用いて溶製するとともに、MnSのサイズばらつきを種々変化させるために、次のように制御された溶製条件下で溶製を行った。
【0032】
真空炉の場合:Mg添加方法として以下のような方法を用いた。溶鋼にまずカーボンを添加し、続いてFe-Mn合金、Fe-Si合金を添加し、更に、Fe-Cr合金、Fe-S合金を添加した。その後、Alを添加した。更にその後Ni-Mg合金を添加した。Ni-Mg合金は、塊状のものを溶鋼中に落とす方法を用いた。Ni-Mg合金を添加する前の溶存酸素量は3〜10ppmとし、溶鋼の温度は1550℃〜1600℃とした。添加後少なくとも10分以内に鋳造した。
【0033】
大気炉の場合:Mg添加方法として以下のような方法を用いた。溶鋼にまずカーボンを添加し、続いてFe-Mn合金、Fe-Si合金を添加し、更に、Fe-Cr合金、Fe-S合金を添加した。その後、Alを添加した。更にその後Ni-Mg合金でMg及びNiを添加した。Ni-Mg合金を添加する前の溶存酸素量は3〜10ppmとし、溶鋼の温度は1550℃〜1600℃とした。添加後少なくとも5分以内に鋳造した。鋳造は、約150角のビレットを連続鋳造装置を用いて実施した。なお、Ni-Mg合金の添加方法としては、約1mm程度の粒状のものを鉄パイプにつめて溶鋼の中に押し込む方法で実施した。
【0034】
次いで、上記鋳造で得られた鋳塊を1100℃〜1150℃に加熱し、φ55〜φ90になるように鍛造した。それぞれをφ55×30mmに切断・旋削加工した後に焼き入れ焼き戻しを施して、ヴィッカース硬さ260±5にそろえ試験材とした。この試験材を、上記実施例1と同要領で硫化物の測定調査、被削性の評価、及び横目靱性の試験を行った。それぞれの調査、試験結果を表5に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
表4乃至5より明らかなように、試験No.7〜14は、真空炉溶製材で、Mgの添加量を変更したものである。試験No.7〜12と14は本発明例であって、特に試験No.8〜12は硫化物の形態が所望の理想的な形態として得られ、切り屑個数が多く切り屑分断性に優れるとともに、横目靱性自体が大きい上にそのばらつきが小さく横目靱性に優れていることが分かる。ただし、本発明例である試験No.7は、アスペクト比が4.10と大きいため、試験No.8〜12と比較して横目靱性のばらつきが若干大きくなっており、やや横目靱性が劣る。また、本発明例である試験No.14は、逆にアスペクト比が1.45と小さかったため、横目靱性は試験No.8〜12と比較して同様の優れたものであったが、切り屑分断性が悪かった。これに対して、比較例である試験No.13は、Mgの含有量が少ないため、幅平均値が小さく、硫化物の幅の(σ/幅平均値)値が0.88と大きくなり、またアスペクト比も好ましい値より大きくなり、このため横目靱性のばらつきが大きくなるとともに、切り屑分断性、横目靱性共に小さく劣ることが分かる。
【0037】
試験No.15〜19は、大気炉溶製材で、Mg添加量はほぼ一定のもとにおいて、最終鍛造寸法を変えて鍛圧比を変更し、硫化物の幅やアスペクト比の調整をしたものである。試験No.15〜17は、本発明例であって、特に試験No.16,17は、硫化物の幅平均値やアスペクト比が好ましい値で得られ、横目靱性のばらつきが小さく、良好な切り屑分断性と横目靱性に優れていることが分かる。一方、No.15はアスペクト比が好ましい値より小さかったため、横目靱性は試験No.16,17と比較して同様の優れたものであったが、切り屑分断性が悪かった。これに対して、比較例であるNo.18,19は、アスペクト比が大きい上に硫化物の幅の(σ/幅平均値)値が0.85,0.78と大きくなったため、横目靱性のばらつきが大きく、切り屑分断性、横目靱性共に小さく劣ることが分かる。
【0038】
試験No.20〜25は、真空炉溶製材で、Ca(一部Mgも)を添加したものである。試験No.20〜23と25は、本発明例であって、特に試験No.20〜23は、硫化物の形態が所望の理想的な形態が得られ、切り屑個数が多く切り屑分断性に優れるとともに、横目靱性自体が大きい上にそのばらつきが小さく横目靱性に優れていることが分かる。特にMgとCaを複合添加した試験No.22は、特性が良好である。一方、試験No.25は、Ca含有量が多すぎたため、硫化物の幅の(σ/幅平均値)値が0.40と小さく良好であるものの、アスペクト比がやや小さくなったため、横目靱性は良かったが、切り屑分断性が悪かった。これに対して、試験No.24は、Ca含有量が少なかったため、硫化物の幅の(σ/幅平均値)値が0.79と大きくなり、またアスペクト比が好ましい値より大きくなったため、切り屑分断性は良かったが、横目靱性のばらつきが大きく、横目靱性が小さく劣ることが分かる。
【0039】
試験No.26〜31は、真空炉溶製で、Zrの添加量を種々変えたものである。試験No.26〜29と31は、本発明例であって、特に試験No.26〜29は、硫化物の形態が所望の理想的な形態が得られ、切り屑個数が多く切り屑分断性に優れるとともに、横目靱性自体が大きい上にそのばらつきが小さく横目靱性に優れていることが分かる。一方、試験No.31は、Zr含有量が多すぎたため、硫化物の幅の(σ/幅平均値)値が0.40と小さく良好であるものの、アスペクト比がやや小さくなったため、横目靱性は良かったが、切り屑分断性が悪かった。これに対して、試験No.30は、Zr含有量が少なかったため、硫化物の幅の(σ/幅平均値)値が0.92と大きくなり、またアスペクト比が好ましい値より大きくなったため、切り屑分断性は良かったが、横目靱性のばらつきが大きく、横目靱性が小さく劣ることが分かる。
【0040】
試験No.32〜38は、真空炉溶製材で、希土類元素としてミッシュメタルを添加したものである。一部はMg、Caとの複合添加になっている。試験No.32〜36は、本発明例であって、硫化物の形態が所望の理想的な形態が得られ、切り屑個数が多く切り屑分断性に優れるとともに、横目靱性自体が大きい上にそのばらつきが小さく横目靱性に優れていることが分かる。これに対して、比較例である試験No.37は、希土類元素の含有量が好ましい量より少なかったため、アスペクト比が大きい上に硫化物の幅の(σ/幅平均値)値が0.88と大きくなり、切り屑分断性は良かったが、横目靱性のばらつきが大きく、横目靱性が小さく劣ることが分かる。また、比較例である試験No.38は、希土類元素の含有量が好ましい量より多かったため、硫化物の幅の(σ/幅平均値)値は0.88と大きくなり、切り屑分断性はやや良かったものの、横目靱性のばらつきが大きく、横目靱性が小さく劣ることが分かる。
【0041】
試験No.39,40は、真空炉溶製材で、MgとBiやPbを複合添加した本発明例であって、共に、硫化物の形態が所望の理想的な形態が得られ、切り屑個数が多く切り屑分断性に優れるとともに、横目靱性自体が大きい上にそのばらつきが小さく横目靱性に優れ、非常に良好な結果が得られている。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る快削鋼であれば、被削性(切り屑分断性)はもとより機械的性質のうち特に横目靱性のばらつきが小さく優れており、このように横目靱性のばらつきと切り屑分断性が大きく改善されたことで、この快削鋼を用いることにより機械構造部品の靱性の安全係数を小さくとることができ、引いては加工歩留りの向上が期待される。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-08-30 
出願番号 特願平11-335572
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C22C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中村 朝幸  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 綿谷 晶廣
平塚 義三
登録日 2003-06-20 
登録番号 特許第3442705号(P3442705)
権利者 株式会社神戸製鋼所
発明の名称 快削鋼  
代理人 梶 良之  
代理人 梶 良之  
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