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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項2号公然実施 H01M 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01M 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 特39条先願 H01M |
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管理番号 | 1128983 |
異議申立番号 | 異議2003-71697 |
総通号数 | 74 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2002-02-15 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-07-07 |
確定日 | 2005-10-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3361510号「リチウム二次電池用負極及びその製造法並びにリチウム二次電池」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3361510号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第3361510号は、特願平9-311509号(出願日:平成9年10月27日、優先日:平成 8年10月30日)の分割出願であって、手続の経緯は次のとおりである。 設定登録 平成14年10月18日 特許掲載公報発行 平成15年 1月 7日 特許異議申立 平成15年 7月 7日 取消理由通知 平成16年12月22日付け 特許異議意見書 平成17年 3月 8日 取消理由通知 平成17年 8月24日付け 訂正請求 平成17年 9月 5日 II.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求の内容は、特許明細書を平成17年9月5日付け訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち、下記(1)〜(7)のとおりに訂正するものである。 (1)訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の「黒鉛粒子のアスペクト比が」を、「黒鉛粒子は複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあり、そのアスペクト比が」と訂正する。 (2)訂正事項b 特許請求の範囲の請求項6の「かつ、そのアスペクト比が」を、「かつ、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあり、そのアスペクト比が」と訂正する。 (3)訂正事項c 発明の名称を「リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池負極用黒鉛粒子」と訂正する。 (4)訂正事項d 段落【0004】を、「請求項1から5に記載の発明は、高容量で、急速充放電特性及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池に好適なリチウム二次電池用負極を提供するものである。請求項6から10に記載の発明は、かかるリチウム二次電池用負極に好適な黒鉛粒子を提供するものである。」と訂正する。 (5)訂正事項e 段落【0005】を、「【課題を解決するための手段】本発明は、黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物と集電体とを一体化してなるリチウム二次電池用負極において、黒鉛粒子は複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあり、そのアスペクト比が1.2〜5であり、加圧、一体化後の黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.5〜1.9g/cm3であり、黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)は500Å以上である(但し黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が800Å以下である場合を除く)リチウム二次電池用負極に関する。」と訂正する。 (6)訂正事項f 段落【0006】を、「また本発明は、リチウム二次電池用負極を製造するために用いられる黒鉛粒子において、前記黒鉛粒子は、黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物と集電体とを一体化してなる前記混合物の密度が1.5〜1.9g/cm3であるリチウム二次電池用負極を製造するために用いられるものであり、かつ、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあり、そのアスペクト比が1.2〜5であり、黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が500Å以上(但し黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が800Å以下である場合を除く)であるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子に関する。」と訂正する。 (7)訂正事項g 段落【0036】を、「請求項1から5に記載のリチウム二次電池は、高容量で、急速充放電特性及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池に好適である。請求項6から10に記載の黒鉛粒子は、かかるリチウム二次電池用負極に好適である。」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 (1)訂正事項a,bについて 訂正事項a,bは、それぞれ特許請求の範囲の請求項1,6に記載された「黒鉛粒子」を、「複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態」にあるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記訂正事項a,bは、特許明細書の段落【0008】の「黒鉛粒子は・・・扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合させた黒鉛粒子を用いることが好ましい。・・・複数の扁平状の粒子の配向面が非平行とは、それぞれの粒子の形状において有する扁平した面、換言すれば最も平らに近い面を配向面として、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合している状態をいう。」及び同【0009】の「この黒鉛粒子において扁平状の粒子は集合又は結合している」という記載を根拠とするものであるから、訂正事項a,bは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内における訂正であって、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項c〜gについて 訂正事項c〜gは、上記訂正事項a,bと整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3.むすび したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する平成15年改正前の特許法第126条第2項乃至第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.特許異議の申立てについての判断 1.特許異議の申立ての理由、取消理由の概要 特許異議の申立ての理由の概要は、次のとおりである。 理由1:本件の請求項1〜5に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて、若しくは甲第1,2号証に記載された発明及び甲第4〜8号証からその優先日前に日本国内において公然実施されていたことが明らかな発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 理由2:本件の請求項1〜5に記載された発明のうち、優先権主張基礎出願明細書に記載された事項の範囲を超える発明は、甲第1,2号証、及びその出願の日とみなされる原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第10〜12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 理由3:本件の請求項6〜10に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるか、甲第3号証に記載された発明にに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6〜10に係る発明の特許は特許法第29条第1,2項の規定に違反してされたものである。 理由4:本件の請求項6〜10に係る発明は、甲第4〜8号証からその優先日前に日本国内において公然実施されていたことが明らかな発明であるから、請求項6〜10に係る発明の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 理由5:本件請求項6〜10に係る発明のうち、優先権主張基礎出願明細書に記載された事項の範囲を超える発明は、甲第10〜12号証に記載された発明であるか、甲第10〜12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6〜10に係る発明の特許は特許法第29条第1,2項の規定に違反してされたものである。 理由6:本件請求項6〜10に係る発明は、甲第13号証に係る特許発明と同一であるから、請求項6〜10に係る発明の特許は特許法第39条第1項に違反してされたものである。 平成16年12月22日付け取消理由の概要は、以下のとおりである。 理由7:本件の請求項1〜10に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1,3号証、甲第5号証に添付されたカタログ、及び原出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第10〜12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜10に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 理由8:本件の請求項1〜10に係る特許は、明細書及び図面の記載が特許法第36条第4項、第6項第1号若しくは第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 平成17年8月24日付け取消理由の概要は、理由8と同様である。 2.本件訂正発明 本件の請求項1〜10に係る発明は、上記訂正が認容されるから、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された以下のとおりのものと認められる(以下、請求項1〜10に係る発明をそれぞれ「本件訂正発明1〜10」という。)。 【請求項1】 黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物と集電体とを一体化してなるリチウム二次電池用負極において、黒鉛粒子は複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあり、そのアスペクト比が1.2〜5であり、加圧、一体化後の黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.5〜1.9g/cm3であり、黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が500Å以上である(但し黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が800Å以下である場合を除く)リチウム二次電池用負極。 【請求項2】 黒鉛粒子の比表面積が1.5〜5m2/gである請求項1記載のリチウム二次電池用負極。 【請求項3】 黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が1000〜10000Åである請求項1又は2記載のリチウム二次電池用負極。 【請求項4】 加圧、一体化後の黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.6〜1.85g/cm3である請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用負極。 【請求項5】 加圧、一体化後の黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.6〜1.8g/cm3である請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用負極。 【請求項6】 リチウム二次電池用負極を製造するために用いられる黒鉛粒子において、前記黒鉛粒子は、黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物と集電体とを一体化してなる前記混合物の密度が1.5〜1.9g/cm3であるリチウム二次電池用負極を製造するために用いられるものであり、かつ、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあり、そのアスペクト比が1.2〜5であり、黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が500Å以上(但し黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が800Å以下である場合を除く)であるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項7】 黒鉛粒子の比表面積が1.5〜5m2/gである請求項6記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項8】 黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が1000〜10000Åである請求項6又は7記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項9】 加圧、一体化後の黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.6〜1.85g/cm3である請求項6〜8のいずれか一項に記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項10】 加圧、一体化後の黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.6〜1.8g/cm3である請求項6〜8のいずれか一項に記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 3.証拠方法とその記載内容 (1)甲第1号証:特開平6-275321号公報 以下の記載がされている。 (1-ア)「コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、チタン、モリブデン又は鉄から選ばれる少なくとも一種以上の金属を主体とするリチウム金属化合物を活物質とする正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出し、X線回折による黒鉛構造の(002 )面の回折ピーク(d 002)が0.340nm 以下の粉末である炭素物質と、非水電解液を備えたリチウム二次電池であって、前記負極の充填密度が1.35〜1.80g/cm3 の範囲であることを特徴とするリチウム二次電池。」(特許請求の範囲の請求項3) (1-イ)「また、本発明に係る負極の炭素質物は、黒鉛構造のX線回折による(101 )回折ピーク(P101 )と(100 )回折ピーク(P100 )の強度比P101 /P100 が0.7 以上2.2 以下であることが好ましい。・・・ 強度比P101 /P100 が上記範囲の炭素質物は、黒鉛構造が適度に発達しており、かつ、黒鉛構造において積み重なった六角網面層が互いに適度なずれ、ねじれ、角度を有しているものと考えられる。このように積み重なった六角網面層が互いに適度なずれ、ねじれ、角度を有していると、六角網面層の層間においてリチウムイオンの拡散がしやすくなり、多くのリチウムイオンが可逆的に吸蔵・放出される性質を示すものと考えられる。また、その様な炭素質物は、リチウムイオンの層間へ吸蔵・放出に伴う黒鉛構造の崩れが生じにくいと考えられる。リチウムイオンの層間への吸蔵・放出により黒鉛構造が崩れると、リチウムイオンの吸蔵・放出量が減少すると共に、非水溶媒に対し活性な面が生じ溶媒が還元分解されやすくなると考えられる。また、崩れた微細な結晶も同時に溶媒などを還元分解すると考えられる。」(【0018】〜【0019】) (1-ウ)「また、本発明に係る負極の炭素質物は、X線回折により得られるc軸方向の結晶子の大きさ(Lc)は、15nmより大きいことが好ましい。より好ましい(Lc)は20nm以上100nm 以下である。(Lc)が上記の範囲であると、黒鉛構造が適度に発達し、リチウムイオンが多く可逆的に吸蔵・放出される性質を示す。」(【0027】) (1-エ)「(実施例1)・・・ 負極6は、後述する方法で得た炭素質物96.7重量%をスチレンブタジエンゴム2.2 重量%とカルボキシメチルセツロース1.1 重量%に混合した混合物を、これを集電体の銅箔(厚さ10μm)の両面に等量づつ塗布したものである。集電体を除く負極厚さは 180μm であった。集電体の片面に塗布した混合物の重量は 140g/m2 であった。したがって、集電体除く正極と負極の厚さの比は1.33:1で、単位面積当たりの重量比は 2.7:1である。なお負極の充填密度は1.56g/cm2 であった。 ・・・得られた炭素質物は、平均繊維径11μmの黒鉛化炭素粉末であり、繊維長の分布で1〜80μmに90体積%が存在した。・・・(Lc)は21nm・・・であった。・・・ (実施例5)以下に示すような炭素質物を負極に用いる以外、実施例1と同様な電池を組み立てた。 負極炭素質物として、表面層を空気中で15重量%酸化除去したメソフェーズ小球体を2800℃で黒鉛化したものを用いた。なお・・・(Lc)は37nm・・・であった。・・・ (実施例6)以下に示すような炭素質物を負極に用い、正極と負極の厚さ及び重量である以外、実施例4と同様の電池を組み立てた。 負極炭素質物は以下の方法で・・・メソフェーズピッチ糸の炭素繊維(d002 は0.355nm )を得た。・・・ 得られた炭素質物は、平均繊維径が16μmの黒鉛化炭素粉末であり、繊維長の分布で 0.5〜60μmに90体積%が存在していた。また・・・Lcは21nm・・・であった。・・・」(【0064】〜【0082】) (2)甲第2号証:特開平8-69798号公報 以下の記載がされている。 (2-ア)「(C) リチウム二次電池用負極 本発明に係るリチウム二次電池用負極は、以上説明したように得られるミルド化黒鉛繊維にバインダーを混合して負極とするに好適な形状にロール成形等によって成形して、容易に高性能な負極とすることが出来る。次いで所望により対極に金属リチウム等を用い還元処理を施して製造される。このようなリチウム二次電池用負極に用いられるバインダーとしては、例えばポリエチレンやポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等を挙げることができる。本発明に係るリチウム二次電池用負極は嵩密度が1.3g/cm3 以上、好ましくは1.4g/cm3 以上、より好ましくは1.5g/cm3 以上であり、電池の小型化に好適である。」(【0039】) (2-イ)「さらに、本発明のリチウム二次電池用負極は、従来の電池用電極と同様に集電体を設けることができる。」(【0041】) (2-ウ)図1には、この発明で用いられるミルド化メソフェーズピッチ系黒鉛繊維の黒鉛層の構造が模式的に示されている。 (3)甲第3号証:特開平8-50897号公報 以下の記載がされている。 (3-ア)「次の工程からなる非水溶媒二次電池電極材料の製造方法。 (A)炭素質物と重質油とを混合し、混合物を得る工程。 (B)前記混合物を攪拌しながら100℃〜600℃に加熱し、中間物質を得る工程。 (C)前記中間物質を、不活性ガス雰囲気下で600℃〜2500℃に加熱し、炭素化物質を得る工程。 (D)前記炭素化物質を粉体加工する工程。」(特許請求の範囲の請求項1) (3-イ)「以下、本発明を詳細に説明する。 (1)混合原料の選択 本発明においては最終的に核を形成する黒鉛質、炭素質の粒子状炭素質物(以下、炭素質物(N)とする)は、d002が0.345nm以下、Lcが15nm以上、好ましくは、d002が0.340nm以下、Lcが50nm以上、より好ましくはLcが80nm以上であり、体積平均粒径にして30μm以下であることを満たすならば、炭素質物粒子をはじめ、ピッチ系、ポリアクリロニトリル系、メソフェーズピッチ系、気相成長系それぞれの炭素繊維を粉末状に加工したものも用いることができる。・・・ 具体的な炭素質物(N)の調整方法としては、・・・(c)人造黒鉛、天然黒鉛、気相成長黒鉛ウィスカー、炭素繊維をそのままか、あるいは粒子径、繊維長の調整を行った後、粉末状にして用いる方法。などを用いることができる。 一方、最終的に炭素質物(N)を被覆する炭素質物(以下、炭素質物(S)とする)の原料には、重質油を用いる。重質油としては、軟ピッチ〜硬ピッチまでのコールタールピッチ、・・・エチレンタールピッチ、クレハピッチ、アシュランドピッチなど熱処理ピッチ等を用いることができる。・・・ A.混合工程 本発明における第1工程、即ち混合工程は回分式または連続式のいずれの装置で行っても良い。また、室温で行っても良いし、反応槽を加温して行っても良い。反応槽を加温することで混合物の粘度を低下させ、装置にかかる負荷を低減し、混合効率を高めることが出来る。更に混合時の槽内圧力を減圧状態にすることで、微小粉末からの脱泡効果を高め、分散性の向上を図ることも可能である。 B.中間物質を得る工程(脱揮・重縮合反応工程) ・・・炭素質物粒子(N)の細孔部分にも炭素質物(S)が充填された、品質の良好な非水溶媒二次電池負極材料を得ることができる。 C.炭素化物質を得る工程(炭素化工程) 脱揮・重縮合工程より得られた炭素質物粒子(N)と十分に芳香族化した(炭素前駆体化した)重質油からなる中間物質は本工程において窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス等不活性ガス流通下で加熱される。本工程においては炭素前駆体の熱化学反応が進行し、前駆体の組成中に残留した酸素、窒素、水素が系外へ排出されるとともに、構造欠陥が加熱処理の度合いによって除去され、黒鉛化の度合いを高めていく。 本工程の加熱処理条件としては、・・・通常600℃以上、好ましくは600℃以上で・・・通常2500℃以下、好ましくは2000℃以下、更に好ましくは1500℃以下が好ましい範囲である。 D.粉体加工工程 こうして炭素化工程において炭素質物(S)が炭素化し、炭素質物(N)表面の一部あるいは全体を被覆した状態で複合化した生成物は本工程において、必要に応じて粉砕、解砕、分級処理など粉体加工処理を施され、非水溶媒二次電池用電極材料とする。・・・」(【0009】〜【0026】) (3-ウ)「(6)電極性能評価 (6-1)電極成形体の作成 熱可塑性エラストマー(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン・ブロックコポリマー)のトルエン溶液およびポリエチレン粉末を加えてかくはんし、スラリーを得た。重量比は、炭素質物93wt%、熱可塑性エラストマー(固形分)4wt%、ポリエチレン粉末3wt%とした。このスラリーを銅箔上に塗布し、・・・さらに銅箔に圧着させたのち、・・・電極とした。」(【0036】) (4)甲第4号証:分析証明書 1995年10月12日にTIMCAL LTD.から出荷され、三菱化学株式会社科学技術研究センター購買倉庫に保管された商品名SFG44(発注番号:6097、QC-UNIT番号:I-155I)なる黒鉛粒子についての分析証明書の複写物であり、この分析証明書には、当該SFG44の分析報告書、当該SFG44の似姿、当該SFG44の出荷時の分析証明の写し、当該SFG44の売り上げ記録の写し、当該SFG44の販売担当者の写しが添付されている。 この分析報告書には、当該SFG44の物性値であるアスペクト比が1.6であることが記載されている。 (5)甲第5号証:証明書 ティムカル・ジャパン株式会社の三浦一志氏による証明書であり、添付資料(1)の1992年にスイスで印刷されたLONZA G+T LTD.の標題「LONZA Carbons.」のカタログの写しには、市場として「リチウム二次電池」と、「ロンザ社の黒鉛は特に・・・リチウム一次電池、アルカリ二次電池に適している」と記載され、また、SFG44のLcは、200nm(2000Å)以上であることも記載されている。添付資料(2)の販売記録の写しには、1995年11月に顧客名「三菱化学」に商品名「SFG44」を100kg販売したことが記載されている。添付資料(3)の1998年にスイスで印刷された「TIMCAL社の会社案内」には、「TIMCAL株式会社-古い歴史と新しい社名」の欄に、1989年に成立した「LONZA G+T LTD.」は、1995年に新社名「TIMCAL株式会社」となったことが記載されている。 (6)甲第6号証:試験報告書 甲第7号証:試験報告書 甲第8号証:公正証書 甲第6,7号証は、異議申立人が新規に購入したSFG44(TIMCAL社製黒鉛粒子の商品名)の梱包物から黒鉛を分取し、分取した試料の物性値、及びこの試料で作成した二次電池用負極及びその負極を有するリチウム二次電池の特性を試験した報告書であり、甲第8号証は上記分取に関する事実実験公正証書である。 (7)甲第9号証:特願平8-288109号出願明細書 本件特許発明の優先権主張の基礎となる出願の明細書(以下「優先権基礎明細書」という。)である。 (8)甲第10号証:米国特許第5660948号明細書 甲第11号証:米国特許第5665265号明細書 甲第12号証:国際公開第97/12409号パンフレット 甲第10〜12号証には、LONZA G+T LTD.又はTimcalから入手したSFG44で製造された負極を使用したリチウム二次電池が記載されている。 (9)甲第13号証:特許第3325021号公報(特願2001-208317号) 特許請求の範囲に記載された発明は、以下のとおりである。 「【請求項1】 扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合させてなる、細孔を有するリチウム二次電池負極用黒鉛粒子であって、レーザ回折粒度分布計により測定される平均粒径が1〜100μmであり、個々の扁平状の粒子の大きさが、集合又は結合した黒鉛粒子の前記平均粒径の2/3以下である、上記リチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項2】 黒鉛粒子のアスペクト比が5以下である請求項1記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項3】 アスペクト比が1.2〜5である請求項2記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項4】 アスペクト比が1.3〜3である請求項2記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項5】 比表面積が8m2/g以下である請求項1〜4のいずれかに記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項6】 比表面積が2〜5m2/gである請求項1〜5のいずれかに記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項7】 請求項1〜6のいずれかに記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子に有機系結着剤及び溶剤を添加し、混合してなるリチウム二次電池負極用黒鉛ペースト。」 4.当審の判断 4-1.本件訂正発明1〜5に対する理由1,2,7(特許法第29条2項違反)について (1)甲1発明 甲第1号証には、「X線回折による黒鉛構造の(002 )面の回折ピーク(d 002)が0.340nm 以下の粉末である炭素物質」を備えた「リチウム二次電池」であって(1-ア)、この「炭素物質」は、「黒鉛構造が適度に発達しており、かつ、黒鉛構造において積み重なった六角網面層が互いに適度なずれ、ねじれ、角度を有している」炭素質物であり(1-イ)、「(Lc)は20nm以上100nm 以下」であることが好ましく(1-ウ)、「平均繊維径11μmの黒鉛化炭素粉末であり、具体的には、繊維長の分布で1〜80μmに90体積%が存在し・・・(Lc)は21nm」の炭素繊維や、「メソフェーズ小球体を・・・黒鉛化した・・・(Lc)は37nm」の小球体、「平均繊維径が16μmの黒鉛化炭素粉末であり、繊維長の分布で 0.5〜60μmに90体積%が存在し・・・Lcは21nm」の炭素繊維であること、及びこの炭質物に「スチレンブタジエンゴム」を混合した混合物を、「集電体の銅箔」に塗布し、「充填密度は1.56g/cm2 」である負極とすること(1-エ)が記載されている。 上記記載によると、甲第1号証には、「黒鉛構造の炭素質物粉末とスチレンブタジエンゴムの混合物を集電体に塗布してなるリチウム二次電池用負極において、炭素質物粉末は黒鉛構造が適度に発達した小球体又は繊維であり、かつ、黒鉛構造において積み重なった六角網面層が互いに適度なずれ、ねじれ、角度を有している状態にあり、黒鉛構造の炭素物質とスチレンブタジエンゴムの混合物の密度が1.56g/cm3であり、黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が200〜1000Åであるリチウム二次電池用負極。」の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。) (2)対比 本件訂正発明1(前者)と甲1発明(後者)とを対比すると、後者の「黒鉛構造の炭素質物粉末」、「スチレンブタジエンゴム」は、それぞれ前者の「黒鉛粒子」、「有機系結合剤」に相当し、後者の「混合物を集電体に塗布してなる・・・負極」は、電極材料を集電体に塗布した後は、加圧して一体化して電極とすることが技術常識であるから、「混合物と集電体とを加圧、一体化してなる・・・負極」と言い換えることができるものである。また、後者の「炭素質粉末」のアスペクト比は、繊維といえる程度のアスペクト比、又は球といえる1程度のアスペクト比であるといえる。 したがって、両者は、「黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物と集電体とを一体化してなるリチウム二次電池用負極において、加圧、一体化後の黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.56g/cm3であり、黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が800Åを越えて1000Å以下であるリチウム二次電池用負極。」である点で一致し、下記の点で相違する。 相違点A:前者は、黒鉛粒子が複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあり、そのアスペクト比が1.2〜5であるのに対して、後者は、黒鉛粒子が黒鉛構造が適度に発達した小球体又は繊維であり、かつ、黒鉛構造において積み重なった六角網面層が互いに適度なずれ、ねじれ、角度を有している状態にあり、アスペクト比が、繊維といえる程度か1程度である点。 (3)判断 本件訂正発明1の黒鉛粒子は、本件訂正明細書【0003】に記載の「鱗状の黒鉛粒子は、アスペクト比が大きいために、バインダと混練して集電体に塗布して電極を作製したときに、鱗状の黒鉛粒子が集電体の面方向に配向し、その結果、黒鉛結晶へのリチウムの吸蔵・放出の繰り返しによって発生するc軸方向の歪みにより電極内部の破壊が生じ、サイクル特性が低下する問題がある」という従来技術における課題を解決するために、相違点Aにおける「状態、アスペクト比」に特定されたものであり、同【0010】、【0011】の記載によると、「集電体上に黒鉛粒子が配向し難く、負極黒鉛にリチウムを吸蔵・放出し易くなるため、得られるリチウム二次電池の急速充放電特性及びサイクル特性を向上させることができる。・・・また、アスペクト比が5以下である黒鉛粒子は、集電体上で粒子が配向し難い傾向があり、上記と同様にリチウムを吸蔵・放出し易くなるので好ましい。・・・アスペクト比が1.2未満では、粒子間の接触面積が減ることにより、導電性が低下する傾向にある。」のであるから、この黒鉛粒子は、複数の扁平状の粒子が配向面をそろえずに集合又は結合したアスペクト比5以下の二次粒子であることにより、鱗状粒子よりも集電体上で配向面がそろいにくいが、黒鉛粒子間の接触面積を保つために、球状(アスペクト比が1)よりは大きい1.2以上のアスペクト比のものであるといえる。 これに対して、甲1発明の黒鉛粒子は、「黒鉛構造が適度に発達した小球体又は繊維であり、かつ、黒鉛構造において積み重なった六角網面層が互いに適度なずれ、ねじれ、角度を有している状態」であるから、六角網面層(配向面に相当)がねじれたり、角度を有している「配向面を一定の方向にそろうことない状態」にあるものとはいえるが、「黒鉛構造が適度に発達した小球体又は繊維」である点で、本件訂正発明1の「複数の扁平状の粒子が・・・集合又は結合している黒鉛粒子」とは異なる状態にあるものである。 また、アスペクト比に関しても、甲1発明の黒鉛粒子は、アスペクト比が通常は5より大きい繊維でも、アスペクト比が1である球でもよいものであるから、本件訂正発明1におけるアスペクト比を1.2〜5と特定したことによる集電体上の黒鉛粒子の配向性や、接触面積に関する考慮がされていないものであるといえる。 甲第2号証には、「ミルド化黒鉛繊維にバインダーを混合」してなる「リチウム二次電池用負極」に関し、「嵩密度が・・・より好ましくは1.5g/cm3 以上」であり(2-ア)、「従来の電池用電極と同様に集電体を設けることができる」(2-イ)ことが記載されている。 上記記載によると、甲第2号証には、「ミルド化黒鉛繊維及びポリエチレン等のバインダーの混合物からなり従来の電池用電極と同様に集電体を設けたリチウム二次電池用負極において、ミルド化黒鉛繊維及びポリエチレン等のバインダーの混合物の密度が1.5g/cm3以上であるリチウム二次電池用負極。」の発明が記載されているといえる(以下、「甲2発明」という。) しかしながら、本件訂正発明1の「黒鉛粒子」に相当する甲2発明の「ミルド化黒鉛粒子」は、その状態が(2-ウ)の図1に示されるものであって、「複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態」ではないことが明らかであるし、アスペクト比も不明のものであるから、甲1発明と甲2発明とを組み合わせても、上記相違点Aにおける本件訂正発明1の特定事項は導くことができない。 甲第3号証には、下記のA〜Dの工程を有する「非水溶媒二次電池電極材料の製造方法」に関し(3-ア)、「A.混合工程」、すなわち、「人造黒鉛、天然黒鉛」の粉末状物である「炭素質物(N)」と、「コールタールピッチ」等の「重質油」である「炭素質物(S)」とを混合する工程、「B.中間物質を得る工程(脱揮・重縮合反応工程)」、「C.炭素化物質を得る工程(炭素化工程)」、すなわち「窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス等不活性ガス流通下」で「2500℃以下」で加熱される工程、「D.粉体加工工程」を経て得られる「非水溶媒二次電池用電極材料」に(3-イ)、「熱可塑性エラストマー(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン・ブロックコポリマー)のトルエン溶液およびポリエチレン粉末を加えてかくはんし、スラリーを得、・・・このスラリーを銅箔上に塗布し、・・・さらに銅箔に圧着させたのち、・・・電極とした。」(3-ウ)ことが記載されている。 上記記載から、甲第3号証には、「黒鉛とコールタールピッチ等の重質油触媒を混合し、窒素ガス、アルゴンガス等のガス流通下、2500℃以下で加熱した後、粉体加工することにより製造された炭素化物質において、この炭素化物質は、炭素化物質と熱可塑性エラストマー(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン・ブロックコポリマー)のトルエン溶液およびポリエチレン粉末とを混合し、該混合物を銅箔に塗布、圧着して非水溶媒二次電池用の電極成形体とするために用いられる炭素化物質。」(以下、「甲3発明」という。)の発明が記載されているといえる。 本件訂正発明1の黒鉛粒子は、本件明細書【0014】〜【0020】の記載によると、「黒鉛粉末」とタール、ピッチ等の「バインダ」に「黒鉛化触媒」を混合し、例えば「窒素雰囲気中、アルゴンガス雰囲気中」、「2000℃以上」で焼成後、「粉砕」して得られるものであるから、甲3発明の「炭素化物質」は、黒鉛化触媒を用いない製造方法により製造された点で、本件訂正発明1の黒鉛粒子と相違する。 そして、製造過程における黒鉛化触媒の有無は、製造物である黒鉛粒子の「集合又は結合状態」や「アスペクト比」、就中、黒鉛化度(結晶性)に関するパラメータである「Lc」の値に影響するといえるから、製造方法を根拠として甲3発明の炭素化物質が本件訂正発明1に係る黒鉛粒子と同一物であるとはいえないし、甲3発明は本件訂正発明1の「集電体上への黒鉛粒子の配向性」という課題を解決するために上記製造方法を採用したものでもないから、得られた黒鉛粒子が上記課題を解決する「集合又は結合状態」や「アスペクト比」を有することが自明であるともいえない。 よって、甲1発明、甲2発明に甲3発明を組み合わせても、上記相違点Aにおける本件訂正発明1の特定事項を導くことはできない。 甲第4〜8号証によれば、本件訂正発明1の優先日前に、TIMCAL LTD.(旧社名:LONZA G+T LTD)製のSFG44である黒鉛粒子はリチウム二次電池用負極の材料として日本国内において公然知られ、かつ公然実施をされていたものと認められ、また、SFG44のアスペクト比は1.6、Lcは2000Å以上であると認められるから、「リチウム二次電池用負極を製造するために用いられる黒鉛粒子において、前記黒鉛粒子のアスペクト比が1.6であり、黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が2000Å以上であるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。」の発明は日本国内において公然知られ、公然実施をされた発明であると認められる(以下、この発明を「公知・公用発明」という。)。 しかしながら、甲第4〜8号証の記載内容からは、SFG44が本件訂正発明1における黒鉛粒子と同じく「複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態」であると認めるに足る根拠は見出せないし、SFG44の状態により、本件訂正発明1の「集電体上への黒鉛粒子の配向性」に関する課題を解決することが自明であるとも認められないから、甲1〜3発明に公知・公用発明を組み合わせても、相違点Aにおける本件訂正発明1の特定事項を導くことはできない。 したがって、本件訂正発明1は、甲第1〜3号証に記載された発明、及び甲第4〜8号証から認定される公知・公用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 甲第10〜12号証には、「TIMCAL LTD.(旧社名:LONZA G+T LTD)製のSFG44」を使用したリチウム二次電池用負極が記載されているといえるが、当該SFG44が「複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態」の黒鉛粒子であるとは認められないことは前示のとおりである。 したがって、特許法第29条の規定の適用についての本件出願の優先権の有無を考慮するまでもなく、本件訂正発明1が甲第1〜3号証に記載された発明、甲第4〜8号証から認定される公知・公用発明、及び甲第10〜12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (4)本件訂正発明2〜5について 本件訂正発明2〜5は、本件訂正発明1の特定事項を全て有し、さらに本件訂正発明1の特定事項に限定を付加するものである。 そうすると、本件訂正発明1が甲第1〜3に記載された発明、甲第4〜8号証から認定される公知・公用発明、及び10〜12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件訂正発明2〜5も、同様の理由により甲第1〜3に記載された発明、甲第4〜8号証から認定される公知・公用発明、及び甲第10〜12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 4-2.本件訂正発明6〜10に対する理由3〜5,7(特許法第29条第1項、第2項違反)について (1)対比 本件訂正発明6(前者)と、前記4-1.(3)にて認定した甲3発明(後者)とを対比すると、後者の「炭素化物質」、「熱可塑性エラストマー(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン・ブロックコポリマー)のトルエン溶液およびポリエチレン粉末」、「銅箔」、「非水溶媒二次電池用の電極成形体」は、それぞれ前者の「黒鉛粒子」、「有機系結合剤」、「集電体」、「リチウム二次電池用負極」に相当するから、両者は「リチウム二次電池用負極を製造するために用いられる黒鉛粒子において、前記黒鉛粒子は、黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物と集電体とを一体化してなるリチウム二次電池用負極を製造するために用いられるものであるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。」である点で一致し、下記の点で相違するものである。 相違点B:前者は、黒鉛粒子と有機結合剤の混合物の密度が1.5〜1.9g/cm3であるのに対して、後者は、混合物の密度が不明である点。 相違点C:前者は、黒鉛粒子が複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあり、そのアスペクト比が1.2〜5であり、黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が500Å以上(但し黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が800Å以下である場合を除く)であるのに対して、後者は、黒鉛粒子の状態、アスペクト比、Lc(002)が不明である点。 (2)判断 相違点Cに係る本件訂正発明6を特定する事項は、相違点Aに係る本件訂正発明1の特定事項を含むものである。 そして、相違点Aに係る本件訂正発明1の特定事項は、甲第1〜3号証に記載された事項、甲第4〜8号証から認定される公知・公用発明、及び甲第10〜12号証の記載された事項を組み合わせても導くことができないことは、前示のとおりであるから、相違点Cに係る本件訂正発明6の特定事項も、同様に導くことができないものである。 したがって、相違点Bについて検討するまでもなく、本件訂正発明6は、甲第3号証に記載された発明、甲第4〜8号証から認定される公知・公用発明、若しくは甲第10〜12号証に記載された発明であるとも、甲第3号証に記載された発明若しくは甲第10〜12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 本件訂正発明7〜10は、本件訂正発明6の特定事項を全て有し、さらに本件訂正発明6の特定事項に限定を付加するものである。 そうすると、本件訂正発明6が、甲第3号証に記載された発明、甲第4〜8号証から認定される公知・公用発明、若しくは甲第10〜12号証に記載された発明であるとも、甲第1〜3,10〜12号証に記載された発明、及び公知、公用の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件訂正発明7〜10も、同様の理由により、甲第3号証に記載された発明、甲第4〜8号証から認定される公知・公用発明、若しくは甲第10〜12号証に記載された発明であるとも、甲第1〜3に記載された発明、甲第4〜8号証から認定される公知・公用発明、及び10〜12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないものである。 4-3.本件訂正発明6〜10に対する理由6(特許法第39条第1項違反)について 甲第13号証の出願に係る発明1〜7(以下、「先願発明1〜7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載されたとおりのものである。 そして、本件訂正発明6〜10は、いずれも「黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物と集電体とを一体化してなる前記混合物の密度が1.5〜1.9g/cm3である」という特定事項を有する点で、先願発明1〜7のいずれとも相違するものである。 したがって、本件訂正発明6〜10は、先願発明1〜7のいずれとも同一であるとはいえない。 4-4.本件訂正発明1〜10に対する理由8(特許法第36条違反)について 具体的な理由は、本件訂正発明1〜10の黒鉛粒子が「扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合されたもの」以外である場合に、本件明細書の発明の詳細な説明に記載の発明の効果を奏するか否か不明であるから、本件明細書の記載には不備があるというものであるが、訂正により本件訂正発明1〜10は、「複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態」にある黒鉛粒子に係るものに限定されたから、上記理由8は解消した。 4-5.小括 以上のとおりであるから、本件訂正発明1〜10に係る特許は、理由1〜8によっては取り消すことができないものである。 IV.むすび 以上のとおりであるから特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては本件訂正発明1〜10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池負極用黒鉛粒子 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物と集電体とを一体化してなるリチウム二次電池用負極において、黒鉛粒子は複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあり、そのアスペクト比が1.2〜5であり、加圧、一体化後の黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.5〜1.9g/cm3であり、黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が500Å以上である(但し黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が800Å以下である場合を除く)リチウム二次電池用負極。 【請求項2】黒鉛粒子の比表面積が1.5〜5m2/gである請求項1記載のリチウム二次電池用負極。 【請求項3】黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が1000〜10000Åである請求項1又は2記載のリチウム二次電池用負極。 【請求項4】加圧、一体化後の黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.6〜1.85g/cm3である請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用負極。 【請求項5】加圧、一体化後の黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.6〜1.8g/cm3である請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用負極。 【請求項6】リチウム二次電池用負極を製造するために用いられる黒鉛粒子において、前記黒鉛粒子は、黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物と集電体とを一体化してなる前記混合物の密度が1.5〜1.9g/cm3であるリチウム二次電池用負極を製造するために用いられるものであり、かつ、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあり、そのアスペクト比が1.2〜5であり、黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が500Å以上(但し黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が800Å以下である場合を除く)であるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項7】黒鉛粒子の比表面積が1.5〜5m2/gである請求項6記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項8】黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が1000〜10000Åである請求項6又は7記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項9】加圧、一体化後の黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.6〜1.85g/cm3である請求項6〜8のいずれか一項に記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【請求項10】加圧、一体化後の黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.6〜1.8g/cm3である請求項6〜8のいずれか一項に記載のリチウム二次電池負極用黒鉛粒子。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、リチウム二次電池用負極及びその製造法並びにリチウム二次電池に関する。さらに詳しくは、ポータブル機器、電気自動車、電力貯蔵等に用いるのに好適な、急速充放電特性、サイクル特性等に優れたリチウム二次電池とそれを得るためのリチウム二次電池用負極及びその製造法に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来のリチウム二次電池用負極は、例えば天然黒鉛粒子、コークスを黒鉛化した人造黒鉛粒子、有機系高分子材料、ピッチ等を黒鉛化した人造黒鉛粒子、これらを粉砕した黒鉛粒子、メソカーボンマイクロビーズを黒鉛化した球状粒子などを用いたものがある。これらの黒鉛粒子は、有機系結着剤及び有機溶剤と混合して黒鉛ペーストとし、この黒鉛ペーストを銅箔の表面に塗布し、溶剤を乾燥させてリチウム二次電池用負極として使用されている。例えば、特公昭62-23433号公報に示されるように、負極に黒鉛を使用することでリチウムのデンドライトによる内部短絡の問題を解消し、サイクル特性の改良を図っている。 【0003】 しかしながら、黒鉛結晶が発達している天然黒鉛及びコークスを黒鉛化した人造黒鉛粒子は、c軸方向の結晶の層間の結合力が、結晶の面方向の結合に比べて弱いため、粉砕により黒鉛層間の結合が切れ、アスペクト比が大きい、いわゆる鱗状の黒鉛粒子となる。この鱗状の黒鉛粒子は、アスペクト比が大きいために、バインダと混練して集電体に塗布して電極を作製したときに、鱗状の黒鉛粒子が集電体の面方向に配向し、その結果、黒鉛結晶へのリチウムの吸蔵・放出の繰り返しによって発生するc軸方向の歪みにより電極内部の破壊が生じ、サイクル特性が低下する問題があるばかりでなく、負極密度を1.5g/cm3以上にすると、負極黒鉛にリチウムが吸蔵・放出されにくくなり、急速充放電特性、放電容量が急激に低下する問題がある。リチウム二次電池は、負極密度を高くすることで、体積当たりのエネルギー密度を大きくさせることが期待できる。そこでリチウム二次電池の体積当たりのエネルギー密度を向上させるために、負極密度を高くしたときの放電容量の低下が少ない負極が要求されている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 請求項1から5に記載の発明は、高容量で、急速充放電特性及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池に好適なリチウム二次電池用負極を提供するものである。請求項6から10に記載の発明は、かかるリチウム二次電池用負極に好適な黒鉛粒子を提供するものである。 【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明は、黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物と集電体とを一体化してなるリチウム二次電池用負極において、黒鉛粒子は複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあり、そのアスペクト比が1.2〜5であり、加圧、一体化後の黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.5〜1.9g/cm3であり、黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が500Å以上である(但し黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が800Å以下である場合を除く)リチウム二次電池用負極に関する。 【0006】 また本発明は、リチウム二次電池用負極を製造するために用いられる黒鉛粒子において、前記黒鉛粒子は、黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物と集電体とを一体化してなる前記混合物の密度が1.5〜1.9g/cm3であるリチウム二次電池用負極を製造するために用いられるものであり、かつ、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合又は結合している状態にあり、そのアスペクト比が1.2〜5であり、黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が500Å以上(但し黒鉛粒子のc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が800Å以下である場合を除く)であるリチウム二次電池負極用黒鉛粒子に関する。 【0007】 【発明の実施の形態】 本発明のリチウム二次電池用負極は、黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物と集電体とが一体化され、一体化後の該黒鉛粒子及び結着剤の混合物の密度が1.5〜1.9g/cm3であることを特徴とする。前記密度は、好ましくは1.55〜1.85g/cm3、より好ましくは1.6〜1.85g/cm3、さらに好ましくは1.6〜1.8g/cm3の範囲とされる。本発明における負極を構成する黒鉛粒子及び結着剤の混合物の密度を高くすることにより、この負極を用いて得られるリチウム二次電池は、体積当たりのエネルギー密度を大きくすることができる。黒鉛粒子及び有機系結着剤の混合物の密度が1.9g/cm3を超えると、急速充電特性が低下し、1.5g/cm3未満では得られるリチウム二次電池の体積当たりのエネルギー密度が小さくなる。 【0008】 本発明のリチウム二次電池用負極に用いる黒鉛粒子は、前記範囲に密度を設定できるものであればよく、例えば天然黒鉛等も用いることができるが、これらの中で、扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合させた黒鉛粒子を用いることが好ましい。本発明において、扁平状の粒子とは、長軸と短軸を有する形状の粒子のことであり、完全な球状でないものをいう。例えば鱗状、鱗片状、一部の塊状等の形状のものがこれに含まれる。黒鉛粒子において、複数の扁平状の粒子の配向面が非平行とは、それぞれの粒子の形状において有する扁平した面、換言すれば最も平らに近い面を配向面として、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向にそろうことなく集合している状態をいう。 【0009】 この黒鉛粒子において扁平状の粒子は集合又は結合しているが、結合とは互いの粒子が、タール、ピッチ等のバインダーを炭素化した炭素質を介して、化学的に結合している状態をいい、集合とは互いの粒子が化学的に結合してはないが、その形状等に起因して、その集合体としての形状を保っている状態をいう。機械的な強度の面から、結合しているものが好ましい。1つの黒鉛粒子において、扁平状の粒子の集合又は結合する数としては、3個以上であることが好ましい。個々の扁平状の粒子の大きさとしては、粒径で1〜100μmであることが好ましく、これらが集合又は結合した黒鉛粒子の平均粒径の2/3以下であることが好ましい。 【0010】 該黒鉛粒子を負極に使用すると、集電体上に黒鉛粒子が配向し難く、負極黒鉛にリチウムを吸蔵・放出し易くなるため、得られるリチウム二次電池の急速充放電特性及びサイクル特性を向上させることができる。なお、図1に本発明で用いる黒鉛粒子の一例の粒子構造の走査型電子顕微鏡写真を示す。図1において、(a)は本発明で用いる黒鉛粒子の外表面の走査型電子顕微鏡写真、(b)は黒鉛粒子の断面の走査型電子顕微鏡写真である。(a)においては、細かな鱗片状の黒鉛粒子が数多く、それらの粒子の配向面を非平行にして結合し、黒鉛粒子を形成している様子が観察できる。 【0011】 またアスペクト比が5以下である黒鉛粒子は、集電体上で粒子が配向し難い傾向があり、上記と同様にリチウムを吸蔵・放出し易くなるので好ましい。アスペクト比は1.2〜5であることがより好ましい。アスペクト比が1.2未満では、粒子間の接触面積が減ることにより、導電性が低下する傾向にある。同様の理由で、さらに好ましい範囲の下限は1.3以上である。また、さらに好ましい範囲の上限は、3以下であり、アスペクト比がこれより大きくなると、急速充放電特性が低下し易くなる傾向がある。従って、特に好ましいアスペクト比は1.3〜3である。なお、アスペクト比は、黒鉛粒子の長軸方向の長さをA、短軸方向の長さをBとしたとき、A/Bで表される。本発明におけるアスペクト比は、顕微鏡で黒鉛粒子を拡大し、任意に100個の黒鉛粒子を選択し、A/Bを測定し、その平均値をとったものである。また、アスペクト比が5以下である黒鉛粒子の構造としては、より小さい黒鉛粒子の集合体又は結合体であることが好ましく、前記の、扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合させた黒鉛粒子を用いることがより好ましい。 【0012】 本発明で使用する黒鉛粒子は、比表面積が8m2/g以下のものが好ましく、より好ましくは5m2/g以下とされる。該黒鉛粒子を負極に使用すると、得られるリチウム二次電池の急速充放電特性及びサイクル特性を向上させることができ、また、第一サイクル目の不可逆容量を小さくすることができる。比表面積が、8m2/gを超えると、得られるリチウム二次電池の第一サイクル目の不可逆容量が大きくなる傾向にあり、エネルギー密度が小さく、さらに負極を作製する際多くの結着剤が必要になる傾向にある。得られるリチウム二次電池の急速充放電特性、サイクル特性等がさらに良好な点から、比表面積は、1.5〜5m2/gであることがさらに好ましく、2〜5m2/gであることが極めて好ましい。比表面積の測定は、BET法(窒素ガス吸着法)などの既知の方法をとることができる。 【0013】 さらに、本発明で用いる各黒鉛粒子のX線広角回折における結晶の層間距離d(002)は3.38Å以下が好ましく、3.37Å以下であることがより好ましく、3.36Å以下であることがさらに好ましい。c軸方向の結晶子の大きさLc(002)は500Å以上が好ましく、1000〜10000Åであることがより好ましい。結晶の層間距離d(002)が小さくなるかc軸方向の結晶子の大きさLc(002)が大きくなると、放電容量が大きくなる傾向がある。 【0014】 本発明のリチウム二次電池用負極の製造法に特に制限はないが、黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダに黒鉛化触媒を1〜50重量%添加して混合し、焼成した後粉砕することによりまず黒鉛粒子を得、ついで、該黒鉛粒子に有機系結着剤及び溶剤を添加して混合し、該混合物を集電体に塗布し、乾燥して溶剤を除去した後、加圧して一体化して前記密度にすることによって得ることができる。 【0015】 黒鉛化可能な骨材としては、例えば、コークス粉末、樹脂の炭化物等が使用できるが、黒鉛化できる粉末材料であれば特に制限はない。中でも、ニードルコークス等の黒鉛化しやすいコークス粉末が好ましい。また黒鉛としては、例えば天然黒鉛粉末、人造黒鉛粉末等が使用できるが粉末状であれば特に制限はない。黒鉛化可能な骨材又は黒鉛の粒径は、本発明で作製する黒鉛粒子の粒径より小さいことが好ましい。 【0016】 さらに黒鉛化触媒としては、例えば鉄、ニッケル、チタン、ケイ素、硼素等の金属、これらの炭化物、酸化物などの黒鉛化触媒が使用できる。これらの中で、ケイ素または硼素の炭化物または酸化物が好ましい。これらの黒鉛化触媒の添加量は、得られる黒鉛粒子に対して好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜40重量%の範囲、さらに好ましくは5〜30重量%の範囲とされ、1重量%未満であると黒鉛粒子のアスペクト比及び比表面積が大きくなり黒鉛の結晶の発達が悪くなる傾向にあり、一方50重量%を超えると均一に混合することが困難で作業性が悪くなる傾向にある。 【0017】 バインダとしては、例えば、タール、ピッチの他、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の有機系材料が好ましい。バインダの配合量は、扁平状の黒鉛化可能な骨材又は黒鉛に対し、5〜80重量%添加することが好ましく、10〜80重量%添加することがより好ましく、15〜80重量%添加することがさらに好ましい。バインダの量が多すぎたり少なすぎると、作製する黒鉛粒子のアスペクト比及び比表面積が大きくなり易いという傾向がある。黒鉛化可能な骨材又は黒鉛とバインダの混合方法は、特に制限はなく、ニーダー等を用いて行われるが、バインダの軟化点以上の温度で混合することが好ましい。具体的にはバインダがピッチ、タール等の際には、50〜300℃が好ましく、熱硬化性樹脂の場合には、20〜100℃が好ましい。 【0018】 次に上記の混合物を焼成し、黒鉛化処理を行う。なお、この処理の前に上記混合物を所定形状に成形しても良い。さらに、成形後、黒鉛化前に粉砕し、粒径を調整した後、黒鉛化を行っても良い。焼成は前記混合物が酸化し難い条件で焼成することが好ましく、例えば窒素雰囲気中、アルゴンガス雰囲気中、真空中で焼成する方法が挙げられる。黒鉛化の温度は、2000℃以上が好ましく、2500℃以上であることがより好ましく、2800℃〜3200℃であることがさらに好ましい。黒鉛化の温度が低いと、黒鉛の結晶の発達が悪く、放電容量が低くなる傾向があると共に添加した黒鉛化触媒が作製する黒鉛粒子に残存し易くなる傾向がある。黒鉛化触媒が、作製する黒鉛粒子中に残存すると、放電容量が低下する。黒鉛化の温度が高すぎると、黒鉛が昇華することがある。 【0019】 次に、得られた黒鉛化物を粉砕することが好ましい。黒鉛化物の粉砕方法は、特に制限はないが、例えばジェットミル、振動ミル、ピンミル、ハンマーミル等の既知の方法をとることができる。粉砕後の粒径は、平均粒径が1〜100μmが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。平均粒径が大きくなりすぎる場合は作製する電極の表面に凹凸ができ易くなる傾向がある。なお、本発明において平均粒径は、レーザー回折粒度分布計により測定することができる。 【0020】 本発明は、上記に示す工程を経ることにより、扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合させることができ、またアスペクト比が5以下の黒鉛粒子を得ることができ、さらに比表面積が8m2/g以下の黒鉛粒子を得ることができる。 【0021】 得られた前記黒鉛粒子は、有機系結着剤及び溶剤を含む材料を混合して、シート状、ペレット状等の形状に成形される。有機系結着剤としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンターポリマー、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、イオン伝導率の大きな高分子化合物等が使用できる。本発明においてイオン伝導率の大きな高分子化合物としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル等が使用できる。これらの中では、イオン伝導率の大きな高分子化合物が好ましく、ポリフッ化ビニリデンが特に好ましい。 【0022】 黒鉛粒子と有機系結着剤との混合比率は、黒鉛粒子100重量部に対して、有機系結着剤を3〜10重量部用いることが好ましい。溶剤としては特に制限はなく、N-メチル2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、イソプロパノール等が用いられる。溶剤の量に特に制限はなく、所望の粘度に調整できればよいが、混合物に対して、30〜70重量%用いられることが好ましい。 【0023】 集電体としては、例えばニッケル、銅等の箔、メッシュなどの金属集電体が使用できる。なお一体化は、例えばロール、プレス等の成形法で行うことができ、またこれらを組み合わせて一体化してもよい。このようにして得られた負極はセパレータを介して正極を対向して配置し、かつ電解液を注入することにより、従来の炭素材料を負極に使用したリチウム二次電池に比較して、急速充放電特性及びサイクル特性に優れ、かつ不可逆容量が小さいリチウム二次電池を作製することができる。 【0024】 本発明におけるリチウム二次電池の正極に用いられる材料については特に制限はなく、LiNiO2、LiCoO2、LiMn2O4等を単独又は混合して使用することができる。電解液としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等のリチウム塩を例えばエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート等の非水系溶剤に溶解したいわゆる有機電解液を使用することができる。 【0025】 セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム又はこれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、図2に円筒型リチウム二次電池の一例の一部断面正面図を示す。図2に示す円筒型リチウム二次電池は、薄板状に加工された正極1と、同様に加工された負極2が、ポリエチレン製微孔膜等のセパレータ3を介して重ね合わせたものを捲回し、これを金属製等の電池缶7に挿入し、密閉化されている。正極1は正極タブ4を介して正極蓋6に接合され、負極2は負極タブ5を介して電池底部へ接合されている。正極蓋6はガスケット8にて電池缶7へ固定されている。 【0026】 【実施例】 以下、本発明の実施例を図面を引用し説明する。 実施例1 平均粒径が8μmのコークス粉末50重量部、タールピッチ20重量部、炭化ケイ素5重量部及びコールタール15重量部を混合し、100℃で1時間撹拌した。次いで、窒素雰囲気中で2800℃で焼成した後粉砕し、平均粒径が25μmの黒鉛粒子を作製した。得られた黒鉛粒子を100個任意に選び出し、アスペクト比の平均値を測定した結果、1.5であった。また得られた黒鉛粒子のBET法による比表面積は、2.1m2/gであり、黒鉛粒子のX線広角回折による結晶の層間距離d(002)は3.365Å、結晶子の大きさLc(002)は1000Å以上であった。さらに得られた黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)によれば、この黒鉛粒子は、扁平状の粒子が複数配向面が非平行となるように集合又は結合した構造をしていた。 【0027】 次いで得られた黒鉛粒子90重量%にN-メチル-2-ピロリドンに溶解したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分で10重量%加えて混練し、黒鉛ペーストを得た。この黒鉛ペーストを厚さが10μmの圧延銅箔に塗布し、さらに乾燥してN-メチル-2-ピロリドンを除去し、プレスで30MPaの圧力で圧縮し、黒鉛粒子とPVDFの混合物層の厚さが80μm及び密度が1.55g/cm3の試料電極を得た。 【0028】 得られた試料電極を3端子法による定電流充放電を行い、リチウム二次電池用負極としての評価を行った。図3はリチウム二次電池の概略図であり、試料電極の評価は図3に示すようにガラスセル9に、電解液10としてLiPFをエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)(ECとDMCは体積比で1:1)の混合溶媒に1モル/リットルの濃度になるように溶解した溶液を入れ、試料電極11、セパレータ12及び対極13を積層して配置し、さらに参照極14を上部から吊るしてリチウム二次電池を作製して行った。なお、対極13及び参照極14には金属リチウムを使用し、セパレータ12にはポリエチレン微孔膜を使用した。得られたリチウム二次電池を用いて試料電極11と対極13の間に、試料電極の黒鉛粒子とPVDFの混合物の面積に対して、0.2mA/cm2の定電流で5mV(Vvs.Li/Li+)まで充電し、1V(Vvs.Li/Li+)まで放電する試験を50サイクル繰り返したが放電容量の低下は確認されなかった。また急速充放電特性評価として、0.3mA/cm2の定電流で充電し、放電電流を0.5、2.0、4.0及び6.0mA/cm2に変化させ、このときの黒鉛粒子とPVDFの混合物の体積に対する放電容量を表1に示す。 【0029】 実施例2 プレスでの圧縮力を40MPaとした以外は、実施例1と同様の工程を経て試料電極を得た。得られた試料電極の黒鉛粒子とPVDFの混合物の厚さは80μm及び密度は1.63g/cm3であった。次いで、実施例1と同様の工程を経て、リチウム二次電池を作製し、実施例1と同様の試験を行ったが放電容量の低下は確認されなかった。また急速充放電特性評価として、0.3mA/cm2の定電流で充電し、放電電流を0.5、2.0、4.0及び6.0mA/cm2に変化させたときの放電容量を表1に示す。 【0030】 実施例3 プレスでの圧縮力を80MPaとした以外は、実施例1と同様の工程を経て試料電極を得た。得られた試料電極の黒鉛粒子とPVDFの混合物の厚さは80μm及び密度は1.75g/cm3であった。次いで、実施例と同様の工程を経て、リチウム二次電池を作製し、実施例1と同様の試験を行ったが放電容量の低下は確認されなかった。また急速充放電特性評価として、0.3mA/cm2の定電流で充電し、放電電流を0.5、2.0、4.0及び6.0mA/cm2に変化させたときの放電容量を表1に示す。 【0031】 実施例4 プレスでの圧縮力を100MPaとした以外は、実施例1と同様の工程を経て試料電極を得た。得られた試料電極の黒鉛粒子とPVDFの混合物の厚さは80μm及び密度は1.85g/cm3であった。次いで、実施例1と同様の工程を経て、リチウム二次電池を作製し、実施例1と同様の試験を行ったが放電容量の低下は確認されなかった。また急速充放電特性評価として、0.3mA/cm2の定電流で充電し、放電電流を0.5、2.0、4.0及び6.0mA/cm2に変化させたときの放電容量を表1に示す。 【0032】 比較例1 プレスでの圧縮力を20MPaとした以外は、実施例1と同様の工程を経て試料電極を得た。得られた試料電極の黒鉛粒子とPVDFの混合物の厚さは80μm及び密度は1.45g/cm3であった。次いで、実施例1と同様の工程を経て、リチウム二次電池を作製し、実施例1と同様の試験を行ったが放電容量の低下は確認されなかった。また急速充放電特性評価として、0.3mA/cm2の定電流で充電し、放電電流を0.5、2.0、4.0及び6.0mA/cm2に変化させたときの放電容量を表1に示す。 【0033】 比較例2 プレスでの圧縮力を140MPaとした以外は、実施例1と同様の工程を経て試料電極を得た。得られた試料電極の黒鉛粒子とPVDFの混合物の厚さは80μm及び密度は1.93g/cm3であった。次いで、例16と同様の工程を経て、リチウム二次電池を作製し、例16と同様の試験を行ったところ放電容量は15.7%低下した。また急速充放電特性評価として、0.3mA/cm2の定電流で充電し、放電電流を0.5、2.0、4.0及び6.0mA/cm2に変化させたときの放電容量を表1に示す。 【0034】 【表1】 【0035】 表1に示されるように、本発明のリチウム二次電池用負極を用いたリチウム二次電池は、高放電容量で、急速放電特性に優れることが示される。 【0036】 【発明の効果】 請求項1から5に記載のリチウム二次電池用負極は、高容量で、急速充放電特性及びサイクル特性に優れたリチウム二次電池に好適である。請求項6から10に記載の黒鉛粒子は、かかるリチウム二次電池用負極に好適である。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-09-15 |
出願番号 | 特願2001-184659(P2001-184659) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YA
(H01M)
P 1 651・ 537- YA (H01M) P 1 651・ 121- YA (H01M) P 1 651・ 4- YA (H01M) P 1 651・ 112- YA (H01M) P 1 651・ 113- YA (H01M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 高木 正博 |
特許庁審判長 |
沼沢 幸雄 |
特許庁審判官 |
原 賢一 吉水 純子 |
登録日 | 2002-10-18 |
登録番号 | 特許第3361510号(P3361510) |
権利者 | 日立化成工業株式会社 |
発明の名称 | リチウム二次電池用負極及びその製造法並びにリチウム二次電池 |
代理人 | 浅村 肇 |
代理人 | 浅村 皓 |
代理人 | 安藤 克則 |
代理人 | 吉村 俊一 |
代理人 | 安藤 克則 |
代理人 | 浅村 皓 |
代理人 | 池田 幸弘 |
代理人 | 浅村 肇 |
代理人 | 池田 幸弘 |