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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) A41D
管理番号 1129014
判定請求番号 判定2005-60016  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2005-04-14 
種別 判定 
判定請求日 2005-03-22 
確定日 2006-01-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第3605806号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「ヒップアップ用スラックス」は、特許第3605806号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定請求は,イ号写真及びその説明書に示す「『Gird Liner』,らくらくヒップアップ効果と記載したタグ(タグ番号,510679)」を付した製品(以下「イ号物件」という。)が,特許3605806号に係る発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属しない,との判定を求めるものである。

2.本件特許発明
本件特許発明は,明細書または図面の記載からみて,その特許請求の範囲第1〜4項に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 複数枚のパワーネット片を接いで形成した左布片と右布片の各股上側端縁部を後中心接ぎ部で接ぎ合わせたものと,非伸縮性生地で巾寸法を凡そ5cm〜8cmとなした鎌形帯状の臀部当て布を作成し,前者のものは,股下側のパワーネット片の側縁部及びウエスト側のパワーネット片の上縁部をスラックス本体の股下部及びウエスト部へ夫々れ縫着させると共に,脇側のパワーネット片は上方側縁部と下方側縁部のみをスラックス本体の脇縫合部へ縫着させて左右後身頃の内側へ張設なさしめるほか,後者の臀部当て布は,前記各布片の臀部箇所に於ける下方側曲線に沿って当接させるものとなしてあることを特徴とするヒップアップ用スラックス。
【請求項2】 脇側のパワーネット片は,その側縁部長さ寸法に対し凡そ1/2〜2/3の範囲がスラックス本体の脇縫合内部で縫着されないものとなしてあることを特徴とする請求項1に記載のヒップアップ用スラックス。
【請求項3】 臀部当て布は,左布片と右布片の臀部箇所に於ける下方側曲線に沿って二枚となし,その対合箇所は股上部に於ける各布片の接合箇所で,そして他端部はスラックス本体に縫着されていない上記各布片の脇側開放端部へ縫着させるものとなしてあることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒップアップ用スラックス。
【請求項4】 複数枚のパワーネット片は,隣接し合うパワーネット片のヒップライン下方からワタリライン付近に緩やかな凹部を形成させるものとなしてあることを特徴とする請求項1〜3何れかに記載のヒップアップ用スラックス。」

この請求項1を分説すると,下記のようになる。
A:複数枚のパワーネット片を接いで形成した左布片と右布片の各股上側端縁部を後中心接ぎ部で接ぎ合わせたものと,
B:非伸縮性生地で巾寸法を凡そ5cm〜8cmとなした鎌形帯状の臀部当て布を作成し,
C:前者のものは,股下側のパワーネット片の側縁部及びウエスト側のパワーネット片の上縁部をスラックス本体の股下部及びウエスト部へ夫々縫着させると共に,
D:脇側のパワーネット片は上方側縁部と下方側縁部のみをスラックス本体の脇縫合部へ縫着させて左右後身頃の内側へ張設なさしめるほか,
E:後者の臀部当て布は,前記各布片の臀部箇所に於ける下方側曲線に沿って当接させるものとなしてあること
F:を特徴とするヒップアップ用スラックス。
そこで,請求項2以降は請求項1の従属項であることから,まず,請求項1のみを検討の対象とする。

3.イ号
(1)イ号写真説明書について
請求人は,平成17年3月22日付け判定請求書に添付された「イ号写真説明書」につき,第1回口頭審理(平成17年9月22日 午後12時30分,大阪市中央区北浜東3-14 エル・大阪(大阪府立労働センター)内 特許庁審判廷で公開)において,全文補正を行うとともに,イ号物品について陳述を行った(第1回審理調書「陳述の要領」)。
(a) 陳述による訂正について
上記口頭審理におけるイ号物品に関する陳述により訂正されたイ号物品の説明は,下記のとおりである。
「【イ号物品について】
1. 左右側の布片(臀部側左右片イ1,イ2)は,各2枚のパワーネット片を縫合して,形成され左右側に布片(臀部側左右片イ1,イ2)は,幅方向股上側の端縁部を相互に,スラックス(スラックス本体イ5)の後ろ中心に対応する位置(後中心接ぎ部イ3)で縫合して,縫合下部は,コールゴムを伴って一緒に縫合されることにより接合している。接合された布片(臀部側左右片イ1,イ2)の幅は,その両端部は本体の脇部に位置する。
2. 臀部のあて布(臀部側弾性補強布イ4)は,左右一対あり,後ろ中心側付近の最も狭い部分で縫合幅が,約5cmであり,後中心側では同約11cm,脇部付近の両端部で同約13cmの鎌形形状であり,あて布は,パワーネット1枚により,接合された布片(臀部側左右片イ1,イ2)に全周で,縫合されている。
各あて布(臀部側弾性補強布イ4)の生地は,伸縮性があり,縫合された状態では,伸縮性が低下し,弾性係数が大となっているが,伸縮性を有している。
3. 接合された布片(臀部側左右片イ1,イ2)の上側の端縁部は,本体のウエスト部(イ6)に全範囲で縫合されている。下側の端縁部は,股下部(イ7)で全幅約12cm(片側の布片では,6cm)の範囲でのみ本体に縫合されている。
4. 接合された布片(臀部側左右片イ1,イ2)の左右側の両端部は,本体の脇部に上下方向全範囲で本体に縫合(脇の縫着部イ8)され,その一部分であて布をともに縫合している。
5. 布片(臀部側左右片イ1,イ2)は,スラックス(スラックス本体イ5)の左右後身頃の内側に張設されている。
6. あて布(臀部側弾性補強布イ4)は,布片(臀部側左右片イ1,イ2)の両布片の臀部箇所において,ヒップトップより下側で着用者の臀部を支えるように本体(スラックス本体イ5),布片(臀部側左右片イ1,イ2),に当接されるとともに,着用者の臀部に間接的に当接させるように,本体(スラックス本体イ5)に対して,布片(臀部側左右片イ1,イ2)とともに縫合されている。
7. 全日本婦人子供服工業組合連合会のJ-TK 0098 製造番号510679,col.2 ,サイズ-ウエスト64,ヒップ91,また下丈74,と記載されるタグが付されたスラックス 」
(b)イ号物品の認定
そこで,イ号物品は次のように認定できる。
「a:各2枚のパワーネット片を接いで形成した臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)の各股上側端縁部を後中心接ぎ部(イ3)で接ぎ合わせるとともに,
b:縫合下部は,コールゴムを伴って一緒に縫合されることにより接合したものと,伸縮性生地で巾寸法を,後ろ中心側付近の最も狭い部分で縫合幅が約5cm,後中心側では同約11cm,脇部付近の両端部で同約13cmとなした鎌形形状の臀部側弾性補強布(イ4)を作成し,
c:前者のものは,接合された布片(イ1,イ2)の下側の端縁部が股下部(イ7)で全幅約12cm(片側の布片では,6cm)の範囲で,同布片(イ1,イ2)の上側の端縁部が本体のウエスト部(イ6)に全範囲で夫々縫着させると共に,
d:接合された布片(イ1,イ2)は,その左右側の両端部をスラックス本体(イ5)の脇の縫着部(イ8)へ上下方向全範囲で縫着させて,左右後身頃の内側へ張設なさしめるほか,
e:後者の臀部側弾性補強布(イ4)は,前記各布片(イ1,イ2)の臀部箇所に於いて,ヒップトップより下側で着用者の臀部を支えるようにスラックス本体(イ5),各布片(イ1,イ2)に当接するとともに,着用者の臀部に間接的に当接させるとともに,前記補強布(イ4)の両端部は本体の脇部において,スラックス本体(イ5)に対して,各布片(イ1,イ2)とともに縫着されているものである,
f:ヒップアップ機能付き,全日本婦人子供服工業組合連合会のJ-TK 0098 製造番号510679,col.2 ,サイズ-ウエスト64,ヒップ91,また下丈74,と記載されるタグが付されたスラックスである。
との構成a〜fを有している。」

4.対比
本件特許発明,イ号物件はともに,スラックスである点で同じである。そして,本件特許発明の「スラックス本体」「股下部」「ウエスト部」「左右片」「臀部側当て布」「後中心接ぎ部」は,イ号物件の「スラックス本体」「股下部イ7」「ウエスト部イ6」「臀部側左右片イ1,イ2」「臀部側弾性補強布イ4」「後中心接ぎ部イ3」に対応する。そこで,イ号物件の構成が本件特許発明を充足するか否かについて検討する。
(1) 構成要件Aについて
本件特許発明の構成要件Aは,「複数枚のパワーネット片を接いで形成した左布片と右布片の各股上側端縁部を後中心接ぎ部で接ぎ合わせたもの」である。
一方,イ号物件の構成aは,「各2枚のパワーネット片を接いで形成した臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)の各股上側端縁部を後中心接ぎ部(イ3)で接ぎ合わせる」構成である。
したがって,イ号物品は,本件特許発明の構成要件Aを充足する。
(2)構成要件Bについて
本件特許発明の構成要件Bは,「非伸縮性生地で巾寸法を凡そ5cm〜8cmとなした鎌形帯状の臀部当て布を作成」する構成である。
一方,イ号物件の構成bは,「縫合下部は,コールゴムを伴って一緒に縫合されることにより接合したものと,伸縮性生地で巾寸法を,後ろ中心側付近の最も狭い部分で縫合幅が約5cm,後中心側では同約11cm,脇部付近の両端部で同約13cmとなした鎌形形状の臀部側弾性補強布(イ4)を作成」する構成である。
特に,本件特許発明の構成要件Bの「非伸縮性生地」は,「・・・,そして他端部7b,7bはスラックス本体1に縫着されていない各布片2,3の脇側開放端部2e,3eへ縫着される。これにより,伸縮性生地からなる各布片2,3に於いて,臀部当て布7を縫着させた箇所のみが伸縮しないものとなる。而して,垂れ下がった臀部の贅肉は,非伸縮性生地からなる臀部当て布7により下側から支え,そしてスラックス本体1へ縫着させたパワーネット片により上方へ持ち上げるようになされるのであり,これにより,ヒップトップ位置の高い形の整ったヒップ形状が形成可能になる。」(本件特許公報明細書段落【0019】)ものと記載されている。
イ号物件は,臀部側弾性補強布(イ4)が伸縮性生地からなるものであるから,本件特許発明の非伸縮性生地とは異なるものである。一方,イ号物品の構成(a)の「臀部側弾性補強布(イ4)」は,臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)からなる伸縮性に富むパワーネット生地と同一の生地でもって,臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)の生地に部分的に重ねることにより,弾性定数を部分的に変えて臀部全体を弾性支持するものである。
してみれば,イ号物品の構成bの「臀部側弾性補強布(イ4)」は,構成要件Aの「臀部当て布7」が「非伸縮性生地からなる」という構成を備えていないものであって,その作用効果についても相違するものであるから,イ号物品は,本件特許発明の構成要件Bを充足しない。
(3)構成要件Cについて
本件特許発明の構成要件Cは,「前者のものは,股下側のパワーネット片の側縁部及びウエスト側のパワーネット片の上縁部をスラックス本体の股下部及びウエスト部へ夫々縫着させる」構成である。
一方,イ号物件の構成cは,「前者のものは,接合された布片(イ1,イ2)の下側の端縁部が股下部(イ7)で全幅約12cm(片側の布片では,6cm)の範囲で,同布片(イ1,イ2)の上側の端縁部が本体のウエスト部(イ6)に全範囲で夫々縫着させる」構成である。
イ号物品の構成cは,各臀部側弾性補強布(イ4)が縫着され,かつ,それらの各股上側端縁を後中心接ぎ部(イ3)で縫合してなる臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)の上側及び下側の縫着を特定するものである。この上側及び下側の縫着部分においては,本件特許発明の構成要件Cの「股下側のパワーネット片の側縁部及びウエスト側のパワーネット片の上縁部をスラックス本体の股下部及びウエスト部へ夫々縫着させる」との構成に対応する。
したがって,イ号物品は,本件特許発明の構成要件Cを充足する。
(4)構成要件Dについて
本件特許発明の構成要件Dは,「脇側のパワーネット片は上方側縁部と下方側縁部のみをスラックス本体の脇縫合部へ縫着させて左右後身頃の内側へ張設なさしめる」構成である。
一方,イ号物件の構成dは,「接合された布片(イ1,イ2)は,その左右側の両端部をスラックス本体(イ5)の脇の縫着部(イ8)へ上下方向全範囲で縫着させて,左右後身頃の内側へ張設なさしめる」構成である。 イ号物品の構成dは,「臀部側左布片(イ1)及び臀部側右布片(イ2)」と一体化して,両者の全側縁部をスラックス本体(イ5)の脇の縫着部(イ8)へ縫着し,後中心接ぎ部(イ3)で縫着された「臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)」及び「臀部側弾性補強布(イ4)」に加わる弾性力をスラックス本体(イ5)の脇側の縫着部(イ8)の全側縁長に分散するものである。
してみれば,本件特許発明の構成要件Dの「脇側のパワーネット片は上方側縁部と下方側縁部のみをスラックス本体の脇縫合部へ縫着」させ,臀部に加わる圧力を2点で支持し,スラックス本体へ縫着させたパワーネット片により上方へ持ち上げる構成とは,単なる構成の違いのみならず,その作用効果においても相違するものである。イ号物品のパワーネット生地からなる「臀部側弾性補強布(イ4)」の構成dには,本件特許発明の構成要件Dの「臀部当て布」は「上方側縁部と下方側縁部のみをスラックス本体の脇縫合部へ縫着」させる構成がない点においては,異論がないところである。
それゆえ,イ号物品の構成dは,本件特許発明の構成要件Dを具備せず,本件特許発明の構成要件Dとイ号物品の構成dとは,構成及びその作用効果が相違するものであるから,イ号物品は本件特許発明の構成要件Dを充足しない。
(5)構成要件Eについて
本件特許発明の構成要件Eは,「後者の臀部当て布は,前記各布片の臀部箇所に於ける下方側曲線に沿って当接させるものとなしてある」構成である。 一方,イ号物件の構成eは,「後者の臀部側弾性補強布(イ4)は,前記各布片(イ1,イ2)の臀部箇所に於いて,ヒップトップより下側で着用者の臀部を支えるようにスラックス本体(イ5),各布片(イ1,イ2)に当接するとともに,着用者の臀部に間接的に当接させるとともに,前記補強布(イ4)の両端部は本体の脇部において,スラックス本体(イ5)に対して,各布片(イ1,イ2)とともに縫着されている」構成である。
本件特許発明の構成要件Eにおける「各布片の臀部箇所に於ける下方側曲線に沿って」の記載は,本件特許明細書の記載を参照しても,依然として明らかでない。
(3)構成要件Fについて
イ号物品の,全日本婦人子供服工業組合連合会のJ-TK 0098 製造番号510679,col.2 ,サイズ-ウエスト64,ヒップ91,また下丈74,と記載されるタグが付されたスラックスは,本件特許発明の構成要件(C)のヒップアップ用スラックスに該当し,実質的に両者間に技術的な違いはない。

以上のように,イ号物品の構成a〜fは,イ号物品の構成a,c及びfが本件特許発明の構成要件A,C,Fに相当しても,イ号物品の構成b,dは,スラックス本体(イ5)の左右脇の縫着部(イ8)にパワーネット生地の左右脇側の端部縁全体を縫着し,かつ,パワーネット生地に対して部分的にその弾性を変えるように弾性体からなる臀部側弾性補強布(イ4)を部分的に配設するものであるのに対し,本件特許発明の構成要件B,Dは,スラックス本体(イ5)の左右脇の縫着部(イ8)の上方側縁部2b,3bと下方側縁部2d,3dのみにパワーネット生地の左右脇側の端部縁の一部を縫着し,かつ,パワーネット生地に対して部分的にパワーネット生地の弾性を無くすように非伸縮性の臀部当て布7を部分的に配設するものであるから,その基本的構成が,本件特許発明に記載されているとはいえない。
それゆえ,イ号写真の製品の構成は,本件特許発明の構成要件の技術的範囲に属さないものである。

5.均等の判断
(1)判定被請求人の主張
判定被請求人は,判定答弁書において「イ号製品が伸縮性生地であるにせよ,イ号製品の上記構成は伸縮性生地を単にそのままの状態で二枚重ねしたものではないのであり,具体的には下側の伸縮性生地の伸縮方向を上方のそれに対しわざわざ異なるよう,即ち縦・横方向の伸びが異なる方向にして重ね合わせており,即ち上下方向で同様に伸縮するものではないことから,このような二枚重ねの構成では上下間の伸縮が互いに干渉し合って阻害されるものとなるのであり,従って,該部分に於ける両側からの引張りでは凡そ伸縮しないものに等しいとすることができるのであって,実質的に本件特許発明と変わりないものとなるのである。……而して,このさいに於ける相違点は単に上記鎌形帯状の臀部当て布が脇縫線へ全面的に縫着されるか否かの点となるが,イ号製品に於ける上下端が同様に縫着されることには何ら変わりがないのであり,従ってイ号製品ではこの上下端からの縫合範囲をそのままにして,中間を連続するよう縫着させたことである。ところで,この中間部を縫着させることは一見して相違する構成になした如くに見れるのであるが,これは敢えて不必要な縫製を意図的に行ったものとすることのできるものである。」と主張する。
(2)均等の条件
ところで,最高裁平成6年(オ)1083号(平成10年2月24日)判決は,均等の条件について,次のように述べている。
「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,(1) 右部分が特許発明の本質的部分ではなく,(2) 右部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,(3) 右のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,(4) 対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,(5) 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,右対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」
また,上記(5)の条件でいう,「特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情」について,同判決は,「(四)また,特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されない」と述べている。
(3)検討
そこで,イ号物件の構成b,dに関して,上記条件のうち, 均等要件(1)( 本質的部分)の条件を満たすか否かを検討する。
本件特許発明の構成要件Bの「非伸縮性生地」によって臀部当て布を縫着させた箇所は,伸縮しないものとなるから,上方側縁部及び上方側縁部と下方側縁部及び下方側縁部のみが弾性対応部分となり,非伸縮性生地からなる臀部当て布の存在によって,上方側縁部及び上方側縁部と下方側縁部及び下方側縁部の4位置が部分的にパワーネット片の弾性のみで,ヒップトップ位置を高くして整ったヒップ形状としょうとするものであり,本来,引き上げる上方側縁部及び上方側縁部側と,それに追随する下方側縁部及び下方側縁部の弾性係数は異なるものであり,特に,下方側縁部及び下方側縁部の弾性係数を大きくすると,脇の縫着部分が変形する(引っ張られる)可能性が大である。
さらに,本件特許発明の構成要件Bの「非伸縮性生地」は,本件特許発明の段落番号【0019】で「この際,上記臀部当て布7は,各布片2,3の臀部箇所に於ける下方側曲線に沿う2枚となし,その対合箇所7a,7bは,股上部に於ける各布片2,3の接合箇所pで,そして他端部7b,7bはスラックス本体1に縫着されていない各布片2,3の脇側開放端部2e,3eへ縫着される。これにより,伸縮性生地からなる各布片2,3に於いて,臀部当て布7を縫着させた箇所のみが伸縮しないものとなる。而して,垂れ下がった臀部の贅肉は,非伸縮性生地からなる臀部当て布7により下側から支え,そしてスラックス本体1へ縫着させたパワーネット片により上方へ持ち上げるようになされるのであり,これにより,ヒップトップ位置の高い形の整ったヒップ形状が形成可能になる。」と記載している。
ここで,仮に,臀部当て布の他端部を脇側開放端部へ縫着せず,脇側開放端部をなくし,非伸縮性生地からなる臀部当て布の他端部を直接スラックス本体の脇側に全体を一体に縫着した場合を想定すると,非伸縮性生地からなる臀部当て布が伸縮しないから,弾性機能がなくなり,ヒップアップ機能は存在しなくなる。
すなわち,本件特許発明の構成要件Bの「非伸縮性生地」からなる臀部当て布は,その端部をパワーネット片からなる脇側開放端部へ縫着すること(本件特許発明の構成要件D)が発明の必須要件であるといえるから,構成要件B,Dは,いずれも,本件特許発明の本質的部分であるとするのが相当である。
したがって,イ号物件は,前記均等の要件(1)を充足しないので,前記他の均等の要件(2)〜(5)を検討するまでもなく,均等論適用の要件を欠いている。
よって,イ号物件は,本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件特許発明の技術的範囲に属するものと解することはできない。
また,請求項2以降は請求項1の従属項であることから,イ号物品の構成b,dが請求項1の構成要件B,Dと基本的に構成及びその作用効果が相違するものであるから,請求項2以降を検討するまでもなく,イ物品の構成b,dは,本件特許発明の構成要件B,Dを具備せず,また均等の要件を満足しないことに相違はない。

6.むすび
以上より,イ号物件は,本件特許発明の構成要件B,Dを充足しない。したがって,イ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
 
別掲 イ号写真の製品の構成
(a) 腹部側には,パワーネット生地等の伸縮性生地または非伸縮性生地を有していない。
(b) 腹部側には,伸縮性生地または非伸縮性生地を有していないから,腹部側パワーネット片の開放側側縁部をスラックス本体の股下部及び前開き部に縫着するものではない。
(c) 腰部側には,各2枚の伸縮性のパワーネット生地片を縫合して各1枚ものとした脇側約29cm,腰側約21cm,下側直線距離約25cm,中心側全長約30cmからなる臀部側のみの臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)を有しており,腰側から約13cm以下の下部部分には,その残余の長さがコールゴムによって弾性を付与されている。
(d) 腰部側の上記臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)には,伸縮性のパワーネット生地で形成した巾寸法を中心側端部約11cm,最小幅約6cm,中間位置約8cm,脇側端部の最大幅約13cmとなした各1枚の臀部側弾性補強布(イ4)を有している。
(e) 2枚の臀部側弾性補強布(イ4)は,臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)に各々臀部側弾性補強布(イ4)の周囲で2重に縫着されている。
(f) 臀部側弾性補強布(イ4)が縫着された臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)は,股上側端縁の後中心接ぎ部(イ3)で一体に縫合されている。
(g) 各臀部側弾性補強布(イ4)が縫着され,互いに縫合した臀部側左布片(イ1)及び臀部側右布片(イ2)のウエスト側の上縁部は,スラックス本体(イ5)のウエスト部(イ6)に縫着されている。
(h) 各臀部側弾性補強布(イ4)が縫着されて一体となった臀部側左布片(イ1)及び臀部側右布片(イ2)の股下側の端部縁は,スラックス本体(イ5)の股下部(イ7)に縫着されている。
(i) 各臀部側弾性補強布(イ4)が縫着されて一体となった臀部側左布片(イ1)及び臀部側右布片(イ2)の左右脇側の全端部縁をスラックス本体(イ5)の脇の縫着部(イ8)に全長縫着されている。
(j) 各臀部側弾性補強布(イ4)の弾性は,パワーネット生地1重のみの長さ19.5cm×幅5cmの試験片では,1Kgの外力を加えるとスラックスの丈方向(縦方向)に15cm程度変化し,横(腰周り)方向に6cm程度変化し,パワーネット生地の2重の重ね合わせの長さ19.5cm×幅5cmの試験片では,1Kgの外力を加えると横方向に4cm程度変化する弾性を有する。
(k) 全日本婦人子供服工業組合連合会のJ-TK 0098 製造番号510679,col.2 ,サイズ-ウエスト64,ヒップ91,また下丈74,と記載されるタグが付されたヒップアップ機能付スラックスである。
との構成(a)〜(k)を有している。

 
判定日 2005-12-27 
出願番号 特願2003-334621(P2003-334621)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (A41D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 竹下 和志  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 溝渕 良一
松縄 正登
登録日 2004-10-15 
登録番号 特許第3605806号(P3605806)
発明の名称 ヒップアップ用スラックス  
代理人 樋口 武尚  
代理人 忰熊 弘稔  

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