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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) A41D
管理番号 1129015
判定請求番号 判定2005-60017  
総通号数 74 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2005-12-02 
種別 判定 
判定請求日 2005-03-22 
確定日 2006-01-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第3605808号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「ヒップアップ用スラックス」は、特許第3605808号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定請求は,イ号写真及びその説明書に示す「『Gird Liner』,らくらくヒップアップ効果と記載したタグ(タグ番号,510679)」を付した製品(以下「イ号物件」という。)が,特許3605808号に係る発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属しない,との判定を求めるものである。

2.本件特許発明
本件特許発明は,明細書または図面の記載からみて,その特許請求の範囲第1〜4項に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
少なくとも腹部側と腰部側の複数枚のパワーネット片を接いで形成した左布片と右布片の各股上側端縁部を後中心接ぎ部で接ぎ合わせたものと,巾寸法を凡そ5cm〜8cmとなした鎌形帯状の臀部当て布を作成し,前者のものは,腰部側における股下側パワーネット片の側縁部及び腹部側における腹部側パワーネット片の開放側側縁部をスラックス本体の股下部及び前開き部へ夫々れ縫着させると共に,各布片の上縁部をスラックス本体のウエスト部へ縫着させて腰回り内側へ張設なさしめるほか,後者の臀部当て布は,前記各布片の臀部箇所に於ける下方側曲線に沿って設けるものとなしてあることを特徴とするヒップアップ用スラックス。
【請求項2】
腹部側のパワーネット片は,腰部側の各パワーネット片よりも伸縮性が大きく,左右脇部から腹部を被覆するものとなしてあることを特徴とする請求項1に記載のヒップアップ用スラックス。
【請求項3】
臀部当て布は,左布片と右布片の臀部箇所に於ける下方側曲線に沿って非伸縮性生地からなる二枚を当接するものとなし,その対合箇所は股上部に於ける各布片の接合箇所で,そして他端部は腹部側パワーネット片の脇側側縁部へ縫着させるものとなしてあることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒップアップ用スラックス。
【請求項4】
腰部側の各パワーネット片は,隣接し合うパワーネット片のヒップライン下方からワタリライン付近に緩やかな凹部を形成させるものとなしてあることを特徴とする請求項1〜3何れか1つに記載のヒップアップ用スラックス。」

この請求項1を符号を付し分説すると,下記のようになる。
A:少なくとも腹部側と腰部側の複数枚のパワーネット片を接いで形成した左布片と右布片の各股上側端縁部を後中心接ぎ部で接ぎ合わせたものと,
B:巾寸法を凡そ5cm〜8cmとなした鎌形帯状の臀部当て布を作成し,
C:前者のものは,腰部側における股下側パワーネット片の側縁部及び腹部側における腹部側パワーネット片の開放側側縁部をスラックス本体の股下部及び前開き部へ夫々れ縫着させると共に,
D:各布片の上縁部をスラックス本体のウエスト部へ縫着させて腰回り内側へ張設なさしめるほか,
E:後者の臀部当て布は,前記各布片の臀部箇所に於ける下方側曲線に沿って設けるものとなしてあること
F:を特徴とするヒップアップ用スラックス。
そこで,請求項2以降は請求項1の従属項であることから,まず,請求項1のみを検討の対象とする。

3.イ号
(1)イ号写真説明書について
請求人は,平成17年3月22日付け判定請求書に添付された「イ号写真説明書」につき,第1回口頭審理(平成17年9月22日 午後12時30分,大阪市中央区北浜東3-14 エル・大阪(大阪府立労働センター)内 特許庁審判廷で公開)において,全文補正を行うとともに,イ号物品について陳述を行った(第1回審理調書「陳述の要領」)。
(a) 陳述による訂正について
上記口頭審理におけるイ号物品に関する陳述により訂正されたイ号物品説明は,下記のとおりである。
「【イ号物品について】
1. 左右側の布片(臀部側左右片イ1,イ2)は,各2枚のパワーネット片を縫合して,形成され左右側に布片(臀部側左右片イ1,イ2)は,幅方向股上側の端縁部を相互に,スラックス(スラックス本体イ5)の後ろ中心に対応する位置(後中心接ぎ部イ3)で縫合して,縫合下部は,コールゴムを伴って一緒に縫合されることにより接合している。接合された布片(臀部側左右片イ1,イ2)の幅は,その両端部は本体の脇部に位置する。
2. 臀部のあて布(臀部側弾性補強布イ4)は,左右一対あり,後ろ中心側付近の最も狭い部分で縫合幅が,約5cmであり,後中心側では同約11cm,脇部付近の両端部で同約13cmの鎌形形状であり,あて布は,パワーネット1枚により,接合された布片(臀部側左右片イ1,イ2)に全周で,縫合されている。
各あて布(臀部側弾性補強布イ4)の生地は,伸縮性があり,縫合された状態では,伸縮性が低下し,弾性係数が大となっているが,伸縮性を有している。
3. 接合された布片(臀部側左右片イ1,イ2)の上側の端縁部は,本体のウエスト部(イ6)に全範囲で縫合されている。下側の端縁部は,股下部(イ7)で全幅約12cm(片側の布片では,6cm)の範囲でのみ本体に縫合されている。
4. 接合された布片(臀部側左右片イ1,イ2)の左右側の両端部は,本体の脇部に上下方向全範囲で本体に縫合(脇の縫着部イ8)され,その一部分であて布をともに縫合している。
5. 布片(臀部側左右片イ1,イ2)は,スラックス(スラックス本体イ5)の左右後身頃の内側に張設されている。
6. あて布(臀部側弾性補強布イ4)は,布片(臀部側左右片イ1,イ2)の両布片の臀部箇所において,ヒップトップより下側で着用者の臀部を支えるように本体(スラックス本体イ5),布片(臀部側左右片イ1,イ2),に当接されるとともに,着用者の臀部に間接的に当接させるように,本体(スラックス本体イ5)に対して,布片(臀部側左右片イ1,イ2)とともに縫合されている。
7. 全日本婦人子供服工業組合連合会のJ-TK 0098 製造番号510679,col.2 ,サイズ-ウエスト64,ヒップ91,また下丈74,と記載されるタグが付されたスラックス 」
(b)イ号物品の認定
そこで,イ号物品は次のように認定できる。
「a: 各2枚のパワーネット片を接いで形成した臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)の各股上側端縁部を後中心接ぎ部(イ3)で接ぎ合わせるとともに,
b:縫合下部は,コールゴムを伴って一緒に縫合されることにより接合したものと,伸縮性生地で巾寸法を,後ろ中心側付近の最も狭い部分で縫合幅が約5cm,後中心側では同約11cm,脇部付近の両端部で同約13cmとなした鎌形形状の臀部側弾性補強布(イ4)を作成し,
c:前者のものは,接合された布片(イ1,イ2)の下側の端縁部が股下部(イ7)で全幅約12cm(片側の布片では,6cm)の範囲で,同布片(イ1,イ2)の上側の端縁部が本体のウエスト部(イ6)に全範囲で夫々縫着させると共に,
d:接合された布片(イ1,イ2)は,その左右側の両端部をスラックス本体(イ5)の脇の縫着部(イ8)へ上下方向全範囲で縫着させて,左右後身頃の内側へ張設なさしめるほか,
e:後者の臀部側弾性補強布(イ4)は,前記各布片(イ1,イ2)の臀部箇所に於いて,ヒップトップより下側で着用者の臀部を支えるようにスラックス本体(イ5),各布片(イ1,イ2)に当接するとともに,着用者の臀部に間接的に当接させるとともに,前記補強布(イ4)の両端部は本体の脇部において,スラックス本体(イ5)に対して,各布片(イ1,イ2)とともに縫着されているものである,
f:ヒップアップ機能付き,全日本婦人子供服工業組合連合会のJ-TK 0098 製造番号510679,col.2 ,サイズ-ウエスト64,ヒップ91,また下丈74,と記載されるタグが付されたスラックスである。
との構成(a)〜(c)を有している。」

4.対比
本件特許発明,イ号物件はともに,スラックスである点で同じである。そして,本件特許発明の「スラックス本体」「股下部」「ウエスト部」「左右片」「臀部側当て布」「後中心接ぎ部」は,イ号物件の「スラックス本体」「股下部イ7」「ウエスト部イ6」「臀部側左右片イ1,イ2」「臀部側弾性補強布イ4」「後中心接ぎ部イ3」に対応する。そこで,イ号物件の構成が,本件特許発明の各構成要件を充足するか否かについて検討する。
(1) 構成要件Aについて
本件特許発明の構成要件Aは,「少なくとも腹部側と腰部側の複数枚のパワーネット片を接いで形成した左布片と右布片の各股上側端縁部を後中心接ぎ部で接ぎ合わせたもの」である。
一方,イ号物件の構成aは,「各2枚のパワーネット片を接いで形成した臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)の各股上側端縁部を後中心接ぎ部(イ3)で接ぎ合わせる」構成である。
イ号物品の構成aは,臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)及び臀部側弾性補強布(イ4)を有するものの,腹部側にはパワーネット生地を有していない。
ところで,本件特許発明の構成要件Aの「腹部側のパワーネット片」は,「着用時に引きつり皺を発現せず,形の良いヒップ形状を形成すると共に腹部を引き締めることができるヒップアップ用スラックスに関するものである。」(本件特許公報明細書【0001】)として,技術分野を腹部を引き締めることができるヒップアップ用スラックスに特定し,「・・・本発明の目的とするところは,・・・,臀部から腹部にかけての腰回りをスッキリした外観形状に整え,且つ快適な着用ができるヒップアップ用スラックスを提供することにある。」(同【0007】)と,「・・・これによれば,腰回りの臀部から腹部を覆う左布片及び右布片が夫々複数枚のパワーネット片で形成されているので,各パワーネット片に適宜,形態と張力の変化をもたせ,これらを自由自在に組み合わせることにより,臀部及び腹部を形良く整える機能を様々のスラックスに対応し得るように容易に調節することができる。また,左布片及び右布片をスラックス本体のウエスト部,前開き部,股下部へ縫着させることから,従来品に於けるスラックス本体とりわけ外脇線に於ける不自然な引きつり皺は可及的に回避されるのであり,またヒップの贅肉は臀部下方側から腹部中心へ向けて無理なく持ち上げられるものとなる。」(同【0008】),及び「本発明のヒップアップ用スラックスは,複数枚のパワーネット片を一定の配置構成下に組み合わせて臀部から腹部にかけての腰回り全体を,適宜必要な適正下の張力で安定的に被覆させることができるのであり,体形の様々のスラックスに対して優れた臀部及び腹部の矯正機能を作用させることができる。・・・」(同【0012】)との記載より,腹部側のパワーネット片は,本件特許発明の課題を解決する手段のための主要な部分であるものと認められる。
すなわち,「腹部を引き締めることができるヒップアップ用スラックス」は,本件特許発明の前提となる要件であり,「腹部側」の構成は,本件特許発明の構成要件Aの中核をなすものである。
一方,イ号物品の構成aは,「腹部側」のパワーネット生地を有していないから,本件特許発明の構成要件Aを具備しない。
したがって,イ号物品の構成aは,本件特許発明の構成要件Aを充足しない。
(2) 構成要件Bについて
本件特許発明の構成要件Bは,「巾寸法を凡そ5cm〜8cmとなした鎌形帯状の臀部当て布を作成」する構成である。
一方,イ号物件の構成bは,「縫合下部は,コールゴムを伴って一緒に縫合されることにより接合したものと,伸縮性生地で巾寸法を,後ろ中心側付近の最も狭い部分で縫合幅が約5cm,後中心側では同約11cm,脇部付近の両端部で同約13cmとなした鎌形形状の臀部側弾性補強布(イ4)を作成」する構成である。
すなわち,イ号物件の構成bは,「巾寸法を凡そ5cm〜8cmとなした鎌形形状臀部当て布(臀部側弾性補強布(イ4))を作成」する構成を具有するものであるから,本件特許発明の構成要件Bを充足する。
(3) 構成要件Cについて
本件特許発明の構成要件Cは,「前者のものは,腰部側における股下側パワーネット片の側縁部及び腹部側における腹部側パワーネット片の開放側側縁部をスラックス本体の股下部及び前開き部へ夫々れ縫着させる」構成である。
一方,イ号物件の構成cは,「前者のものは,接合された布片(イ1,イ2)の下側の端縁部が股下部(イ7)で全幅約12cm(片側の布片では,6cm)の範囲で,同布片(イ1,イ2)の上側の端縁部が本体のウエスト部(イ6)に全範囲で夫々縫着させる」構成である。
すなわち,イ号物品は,腹部側にパワーネット生地を有していないから,本件特許発明の構成要件Cの「腹部側における腹部側パワーネット片の開放側側縁部をスラックス本体の股下部及び前開き部へ夫々縫着」する構成を有していないから,本件特許発明の構成要件Cを具備しない。
したがって,イ号物品の構成cは,本件特許発明の構成要件Cを充足しない。
(3)構成要件Dについて
本件特許発明の構成要件Dは,「各布片の上縁部をスラックス本体のウエスト部へ縫着させて腰回り内側へ張設なさしめる」構成である。
一方,イ号物件の構成dは,「接合された布片(イ1,イ2)は,その左右側の両端部をスラックス本体(イ5)の脇の縫着部(イ8)へ上下方向全範囲で縫着させて,左右後身頃の内側へ張設なさしめる」構成であるが,この点において,本件特許発明の構成要件Dと実質的に同じである。
すなわち,イ号物件の構成dは,本件特許発明の構成要件Dを充足する。
(4)構成要件Eについて
本件特許発明の構成要件Eは,「後者の臀部当て布は,前記各布片の臀部箇所に於ける下方側曲線に沿って設けるものとなしてある」構成である。
一方,イ号物件の構成eは,「接合された布片(イ1,イ2)は,その左右側の両端部をスラックス本体(イ5)の脇の縫着部(イ8)へ上下方向全範囲で縫着させて,左右後身頃の内側へ張設なさしめる」構成である。
本件特許発明の構成要件Eにおける「各布片の臀部箇所に於ける下方側曲線に沿って」の記載は,本件特許明細書の記載を参照しても,依然として明らかでない。
5)構成要件Fについて
イ号物品の構成fの全日本婦人子供服工業組合連合会のJ-TK 0098 製造番号510679,col.2 ,サイズ-ウエスト64,ヒップ91,また下丈74,と記載されるタグが付された「ヒップアップ用スラックス」は,臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)と臀部側弾性補強布(イ4)が縫着されてなるヒップアップ機能を付したスラックスは,本件特許発明の構成要件Fの「ヒップアップ用スラックス」は,腹部を引き締めることができるヒップアップ用スラックスに該当し,実質的に両者間に技術的な相違はない。

以上のように,イ号物品の構成a〜fについて,イ号物品の構成b,d及びfが本件特許発明の構成要件B,D及びFにそれぞれ相当しても,イ号物品の構成a及びcは本件特許発明の構成要件A,Cほかいずれにも含まれるものでないから,イ号物品の構成は,本件特許発明の構成要件の技術的範囲に属さないものである。

5.均等の判断
(1)均等の条件
最高裁平成6年(オ)1083号(平成10年2月24日)判決は,均等の条件について,次のように述べている。
「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,(1) 右部分が特許発明の本質的部分ではなく,(2) 右部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,(3) 右のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,(4) 対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,(5) 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,右対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」
また,上記(5)の条件でいう,「特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情」について,同判決は,「(四)また,特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されない」と述べている。
(2)検討
そこで,イ号物件の構成a,cに関して,上記条件のうち, 均等要件(1)(本質的部分)の条件を満たすか否かを検討する。
イ号物品は,各臀部側弾性補強布(イ4)が縫着されて一体となった臀部側左布片(イ1)及び臀部側右布片(イ2)の左右脇側の端部縁をスラックス本体(イ5)の脇の縫着部(イ8)の全体に縫着されており,特に,各臀部側弾性補強布(イ4)が縫着されて一体となった臀部側左布片(イ1)及び臀部側右布片(イ2)は,部分的に弾性係数が大きくなったものであるから,各臀部側弾性補強布(イ4)を中心とする弾性力によって,臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)の下部部分にコールゴムを入れたた境界線と協調し,臀部のヒップトップを強調し,かつ,両ヒップトップを吊り上げヒップアップ効果を強調できるものである。
一方,本件特許発明の「腹部側のパワーネット片」は,「着用時に引きつり皺を発現せず,形の良いヒップ形状を形成すると共に腹部を引き締めることができる」(本件特許公報明細書【0001】)ものであるから,当該パワーネット片は,本件特許発明の課題を解決する手段のための主要な部分であって,本件特許発明の構成要件の中核をなすものである。
一方,イ号物品の構成a,cは,「腹部側」のパワーネット生地を有しておらず,各臀部側弾性補強布(イ4)が縫着されて一体となった臀部側左布片(イ1)及び臀部側右布片(イ2)の左右脇側の端部縁をスラックス本体(イ5)の脇の縫着部(イ8)の全体に縫着されていることによって,ヒップアップ効果を図ったものであって,当該構成は,本件特許発明とは異なるものである。
してみると,構成要件A,Cは,本件特許発明の本質的部分であるとするのが相当である。
したがって,イ号物件は前記均等の要件(1)を充足しないので,前記他の均等の要件(2)〜(5)を検討するまでもなく,均等論適用の要件を欠いている。
よって,イ号物件は,本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件特許発明の技術的範囲に属するものと解することはできない。
また,請求項2以降は請求項1の従属項であることから,イ号物品の構成a,cが請求項1の構成要件A,Cと基本的に構成及びその作用効果が相違するものであるから,請求項2以降を検討するまでもなく,イ物品の構成a,cは,本件特許発明の構成要件A,Cを具備せず,また均等の要件を満足しないことに相違はない。

6.むすび
以上より,イ号物件は,本件特許発明の構成要件A,Cを充足しない。したがって,イ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
 
別掲 イ号写真の製品の構成
(a) 腹部側には,パワーネット生地等の伸縮性生地または非伸縮性生地を有していない。
(b) 腹部側には,伸縮性生地または非伸縮性生地を有していないから,腹部側パワーネット片の開放側側縁部をスラックス本体の股下部及び前開き部に縫着するものではない。
(c) 腰部側には,各2枚の伸縮性のパワーネット生地片を縫合して各1枚ものとした脇側約29cm,腰側約21cm,下側直線距離約25cm,中心側全長約30cmからなる臀部側のみの臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)を有しており,腰側から約13cm以下の下部部分には,その残余の長さがコールゴムによって弾性を付与されている。
(d) 腰部側の上記臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)には,伸縮性のパワーネット生地で形成した巾寸法を中心側端部約11cm,最小幅約6cm,中間位置約8cm,脇側端部の最大幅約13cmとなした各1枚の臀部側弾性補強布(イ4)を有している。
(e) 2枚の臀部側弾性補強布(イ4)は,臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)に各々臀部側弾性補強布(イ4)の周囲で2重に縫着されている。
(f) 臀部側弾性補強布(イ4)が縫着された臀部側左布片(イ1)と臀部側右布片(イ2)は,股上側端縁の後中心接ぎ部(イ3)で一体に縫合されている。
(g) 各臀部側弾性補強布(イ4)が縫着され,互いに縫合した臀部側左布片(イ1)及び臀部側右布片(イ2)のウエスト側の上縁部は,スラックス本体(イ5)のウエスト部(イ6)に縫着されている。
(h) 各臀部側弾性補強布(イ4)が縫着されて一体となった臀部側左布片(イ1)及び臀部側右布片(イ2)の股下側の端部縁は,スラックス本体(イ5)の股下部(イ7)に縫着されている。
(i) 各臀部側弾性補強布(イ4)が縫着されて一体となった臀部側左布片(イ1)及び臀部側右布片(イ2)の左右脇側の全端部縁をスラックス本体(イ5)の脇の縫着部(イ8)に全長縫着されている。
(j) 各臀部側弾性補強布(イ4)の弾性は,パワーネット生地1重のみの長さ19.5cm×幅5cmの試験片では,1Kgの外力を加えるとスラックスの丈方向(縦方向)に15cm程度変化し,横(腰周り)方向に6cm程度変化し,パワーネット生地の2重の重ね合わせの長さ19.5cm×幅5cmの試験片では,1Kgの外力を加えると横方向に4cm程度変化する弾性を有する。
(k) 全日本婦人子供服工業組合連合会のJ-TK 0098 製造番号510679,col.2 ,サイズ-ウエスト64,ヒップ91,また下丈74,と記載されるタグが付されたヒップアップ機能付スラックスである。
との構成(a)〜(k)を有している。

 
判定日 2005-12-27 
出願番号 特願2004-151694(P2004-151694)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (A41D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 竹下 和志  
特許庁審判長 松縄 正登
特許庁審判官 粟津 憲一
溝渕 良一
登録日 2004-10-15 
登録番号 特許第3605808号(P3605808)
発明の名称 ヒップアップ用スラックス  
代理人 忰熊 弘稔  
代理人 樋口 武尚  

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