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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1130646
審判番号 不服2001-22461  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-08-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-12-13 
確定日 2006-02-06 
事件の表示 特願2000- 10054「グルタメート受容体組成物および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月 8日出願公開、特開2000-217584〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願は平成2年10月25日(パリ条約による優先権主張1989年10月27日、米国)を出願日とする特願平2-515657号(以下原出願という)の一部を平成12年1月13日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1〜26に係る発明は、本件審判請求後、平成14年1月15日に受付けた手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜26に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1、3、5、7に係る発明(以下本願発明1、3、5、7という)は次のとおりである。

「【請求項1】 配列表の配列番号2に記載されたアミノ酸配列を有するか又は該アミノ酸配列のうち1又は数個のアミノ酸が置換し、欠失し若しくは該アミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列を有し、グルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質。
【請求項3】 配列表の配列番号4に記載されたアミノ酸配列を有するか又は該アミノ酸配列のうち1又は数個のアミノ酸が置換し、欠失し若しくは該アミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列を有し、グルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質。
【請求項5】 配列表の配列番号6に記載されたアミノ酸配列を有するか又は該アミノ酸配列のうち1又は数個のアミノ酸が置換し、欠失し若しくは該アミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列を有し、グルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質。
【請求項7】 配列表の配列番号8に記載されたアミノ酸配列を有するか又は該アミノ酸配列のうち1又は数個のアミノ酸が置換し、欠失し若しくは該アミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列を有し、グルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質。」

2.原査定の拒絶の理由
一方、原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
理由1:この出願の請求項1〜3、5、7、11〜14、16、18、20〜22に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1〜4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由2:この出願の請求項1〜26に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1〜4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由3:本出願は、特許法第36条第3項または第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない。

引 用 文 献 等 一 覧
1.Science,Vol.249(1990.Aug.)p.556-560
2.Science,Vol.249(1990.Sep.)p.1580-1585
3.Science,Vol.249(1990.Aug.)p.1033-1037
4.Nature,Vol.342(1989)p.643-648

これに対し、審判請求人は、上述の平成14年1月15日受付の手続補正書において特許請求の範囲を補正しているが、本願発明1、3、5、7に対応する請求項1、3、5、7については補正していない。
そこで、以下、本願発明1、3、5、7について、原査定の拒絶の理由により拒絶すべきものかどうか検討する。

3.本願の優先権主張について
原審の上記拒絶の理由に引用された引用例1〜4は、いずれも、本願の優先権主張の基礎となる出願である米国特許第428116号(以下、これを「優先権基礎出願」といい、その明細書を「優先権証明書」という)の出願日(1989年10月27日)より後に頒布されたものであるから、本願発明1、3、5、7が優先権の利益を享受することができるものであれば、上記引用例は本願発明1、3、5、7の特許性を判断する際に出願前に頒布された刊行物として扱うことはできない。
そして、本願発明1は配列番号2に記載されたアミノ酸配列を有するグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質に関するものであり、同様に本願発明3、5、7は配列番号4、6、8に記載されたアミノ酸配列を有するグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質に関するものであるから、優先権証明書に配列番号2、4、6、8に記載されたアミノ酸配列を有するグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質が実質的に記載されていなければ、本願発明1、3、5、7は上記優先権の利益を享受することができないこととなる。
そこで、本願の配列番号2、4、6、8のアミノ酸配列を有するグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質が優先権証明書に実質的に記載されているかどうかを以下に検討する。

(3-1)優先権証明書の記載
優先権証明書をみると、アフリカツメガエルの卵母細胞を用いた、カイネートでゲーティングされるイオンチャンネルの発現を調べるスクリーニングによって、ラットの前脳ライブラリーから、GluR-K1クローンがクローニングされたことが記載され(実施例5)、その塩基配列及びアミノ酸配列が図3に記載されており、また、当該GluR-K1の挿入片をプローブとして、脳のcDNAライブラリーを最初に低緊縮条件下、次いで高緊縮条件下でスクリーニングすることにより、GluR-K2クローン及びGluR-K3クローンが取得されたことが記載され(優先権証明書13頁13行〜21行)、そのアミノ酸配列の一部が図7に記載されている。そして、当該GluR-K1、GluR-K2、GluR-K3クローンは、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)に寄託されており、それぞれの受託番号は、ATCC NO.68134、68132、68133であることも記載されている(優先権証明書8頁)。
そして、優先権証明書には、その他の受容体については、「GluR-K1、GluR-K2、GluR-K3cDNAクローンをプローブとして使用して、cDNAライブラリーからその他のグルタメート受容体を単離することができる。」(優先権証明書12頁12行〜17行)と記載されているように、クローニングできる可能性が示唆されているのみである。
ここで、優先権証明書に記載されたGluR-K1は、そのクローニング手法、アミノ酸及び核酸配列、受託番号からみて、本願明細書に記載されたGluR1に相当し、GluR-K2、-K3は、そのクローニング手法、部分アミノ酸配列、受託番号からみて、本願明細書のGluR2、3にそれぞれ相当するものである。
すなわち、優先権証明書には、本願明細書でいうところのGluR1〜3をクローニングをしたところまでは具体的に記載されているが、本願発明1、3、5、7における配列番号2、4、6、8のアミノ酸配列を有するグルタメート受容体サブユニットに相当するGluR4〜7については、その核酸配列及びアミノ酸配列はもちろん、GluR4〜7をコードする核酸を実際にクローニングしたこと、それを発現させてGluR4〜7を得たこと、及びそのアミノ酸配列の一部が変更されておりグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質を提供したことについても何ら記載されていない。

(3-2)優先権についての当審の判断
上述のとおり、配列番号2、4、6、8のアミノ酸配列を有するGluR4〜7をクローニングすることは優先権証明書に記載されておらず、本件出願時に追加された実施例14及び19によりはじめて、GluR4〜7をコードする核酸及びGluR7をコードするとする核酸(後述の6.参照)がクローニングされ、その塩基配列及び配列番号2、4、6、8に示すそのアミノ酸配列が確認されたものである。
優先権証明書に本願発明1、3、5、7が実質的に記載されているというためには、少なくとも配列番号2、4、6、8のアミノ酸配列を有するグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質自体については、当該アミノ酸配列を有する物質を具体的に得たこと、及びその具体的な製造方法が記載されているか、少なくとも記載されているに等しい程度に明細書に記載されていることを要するというべきである。これらの点から見て、優先権証明書の上述の記載では、GluR4〜7が実質的に記載されているとはいえないことは明らかである。

これについて、請求人は、「GluR1-3をコードするDNA配列は、優先権基礎出願に記載されている。本願の実施例14及び19に記載されているように、これらのGluR1-3 DNAを用いて、GluR4-7を包含する他のGluR遺伝子が同定され、クローニングされた。すなわち、GluR1-3配列により、GluR4-7を包含する他のGluR遺伝子が直接支持されており、従って、これらの他のGluR遺伝子について優先権が認められるべきである。審査官は、上記拒絶理由(iii)において、一端グルタメート受容体がクローニングされたならば、それに基づいて他のグルタメート受容体をクローニングすることは容易であると認定している。同様の理由により、基礎出願に記載されているGluR1〜GluR3の配列を利用してGluR4〜GluR7をクローニングすることは直ちに可能である。従って、基礎出願にGluR1〜GluR3の配列が記載されているのであるから、GluR4〜GluR7はGluR1〜GluR3の自明なバリアントに過ぎず、実質的に優先権基礎出願に記載されているに等しい。」と主張する。

しかしながら、GluR4〜6をコードするDNAのクローニングが容易であるか否かについては後に述べるが、発明が記載されているか否かと進歩性の有無とは、本来全く異なる判断であり、これらの受容体のクローニングをすることが容易であるとしても、そのクローニングが「直ちに可能」ということはならず、優先権証明書の記載から配列番号2、4、6、8のアミノ酸配列を有するタンパク質を得たことを読み取ることができ、かつ優先権証明書の記載に基づいて当該タンパク質を確実に得ることができるといえなければ、優先権証明書に配列番号2、4、6、8のアミノ酸配列を有するグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質が実質的に記載されていたとはいえない。
そして、優先権証明書には、上述のとおり、GluR1〜3以外の受容体サブユニットについては、それらをクローニングしたことは記載されておらず、また、本願明細書において、GluR4、5クローンは、まずラット前脳ライブラリーを低緊縮条件下でスクリーニングし、得られたクローンでさらに小脳ライブラリーをスクリーニングすることにより得られたものであり(本願明細書実施例14)、GluR6、7クローンは、GluR5クローンを基に、さらにラット前脳ライブラリーをスクリーニングすることによりクローニングされたものであるが(本願明細書実施例19)、優先権証明書には、このようなGluR4〜7クローンのクローニング手法は全く記載されていないから、優先権証明書の記載から本願の配列番号2、4、6、8のアミノ酸配列を有するグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質(GluR4〜7)を得たことが読み取ることはできず、また、優先権証明書の記載のみから、これらのタンパク質が確実に得られるということはできない。
したがって、配列番号2、4、6、8のアミノ酸配列を有するグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質、ましてや、その一部が変更されたアミノ酸配列を有しグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質が優先権証明書に実質的に記載されているとすることはできないから、本願発明1、3、5、7は優先権の利益を享受することができない。

4.引用例記載の発明
(4-1)引用刊行物
上述のとおり、本願発明1、3、5は、いずれも優先権の利益を享受することができないから、先の引用例1〜4は、本願発明1、3、5について、いずれも本願の出願前に頒布された刊行物であるところ、引用例1及び3には以下の事項が記載されている。

(4-1-1)引用例1 Science(Aug.1990), Vol.249, p.556-560
引用例1には、次の事項が記載されている。
(a1)「最近、ホルマンと共同研究者は、GluRK1と名付けられた分子を特徴付けした。その配列は、ニワトリとカエルのカイネート結合タンパク質と類似している。このファミリーの多様性とそのメンバーの薬理を研究するため、我々は、配列の関連するいくつかの新規受容体をコードするcDNAを単離した。」(556頁右欄6行〜13行)

(a2)「受容体をコードするクローニングされたcDNAは、プライマーデザインのため公開された配列を使用してPCRによるDNA増幅した後、ラット脳mRNAから構築されたcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより取得された。GluRAからDと命名された4つの分子は、GluRK1と100%一致するGluRAとともに特徴づけられた。4つの推定ポリペプチド配列(図1)は、シグナル配列を含むそれぞれ約900アミノ酸残基の長さをもち、2つの比較では、全長で、70%(GluRA対GluRB)と73%(GluRB対GluRC)の類似性を有する。」(556頁右欄20行〜35行)

(a3)図1には、GluRA〜GluRDのアミノ酸配列が記載されており、注釈には「4つの推定グルタメート受容体cDNAによってコードされるポリペプチド配列の比較。・・・GluRAはGluRK1と同一である。・・・GluRK1と2つのカイネート結合タンパク質に保存されているペプチド配列を基にデザインされた2つの縮重オリゴヌクレオチドプライマーが、PCRによるラット脳cDNAからのホモロガス配列の増幅のために使用された。・・・推定グルタメート受容体をコードする、PCR生成物から単離された配列を有する完全長cDNAクローンは、λZAPIIとλgt10ベクターで構築されたラットcDNAライブラリーを32Pで標識されたPCR断片をプローブとしてスクリーニングすることにより得られた。その完全な配列は、GenBank-EMBLデータベースに登録番号M36418(GluRA)、M36419(GluRB)、M36420(GluRC)、M36421(GluRD)で登録された。」と記載されている。(557頁図1)

(a4)「受容体をコードするmRNAをあらわすin situ ハイブリダイゼーションにより視覚化されたラット脳における受容体発現パターンは、神経軸索において、顕著に発現しており、詳細な相違は局所的分布によって明白である(図4)。大脳皮質において、GluR-B mRNAは、すべての層において一様に見つかったのに対し、GluR-A、-C、-D mRNAの発現パターンは、層間によって明らかに異なっていた。・・・海馬において、GluR-A、-B、-C mRNAは、歯状回、錐体細胞層において豊富に発現しており、CA1とCA3の間に発現の勾配は見られない。反対に、GluR-D mRNAレベルはCA1と歯状回において比較的高く、CA3-CA4においてはっきりと減少している。局所的分布パターンの相違は視床下部・視床・扁桃体領域において見られた。GluR-A及び-B mRNAは、GluR-C及び-D mRNAの発現が少ない腹側内側領域のような視床下部核において発現している。GluR-D遺伝子は、偏在的に視床において発現しているようであり、特に、網状視床核において高いレベルで発現しているが、すべての受容体の視床でのmRNAレベルは低い(図4、E〜H)。小脳扁桃において、GluR-C mRNAは、扁桃体外側核のような制限された位置で検出されているが、GluR-A、-B mRNAはすべての核で豊富である。小脳における4つのmRNAの差次的な細胞分布が図に示されている。低いパワーの暗視野(図4、I〜L)と高いパワーの明視野は、GluR-A mRNAが連続的な太線で示されており、プルキンエ細胞とベルグマングリア細胞に散らばって、同時に発現していることを示している。」(558頁中欄下8行〜560頁左欄1行)
(a5)「結論として、我々の結果は、AMPA薬理学の特性を示し、脳において豊富に差次的発現している複数のグルタメート受容体の存在を示した。」(560頁下12行〜下8行)

(4-1-2)引用例3 Science(Aug.1990), Vol.249, p.1033-1037
引用例3には、次の事項が記載されている。
(b1)「我々は、現在、GluR1遺伝子が、巨大なグルタメート受容体サブユニット遺伝子ファミリーのメンバーであるかどうか、これらの関連遺伝子によりコードされるタンパク質がKAサブタイプ以外のグルタメート受容体のサブユニットとして機能しているかどうか検証した。GluR2とGluR3をコードする相補的DNAクローンは、成熟したラットの前脳ライブラリーから、放射能標識されたGluR1cDNAの断片をプローブとして、低緊縮条件下のハイブリダイゼーションによるスクリーニングによって単離された。非グリコシル化型の成熟GluR2とGluR3の推定分子量は、それぞれ96400と98000である。」(1033頁右欄5行〜21行)

(b2)「我々は成熟ラット脳におけるGluR1、GluR2、GluR3RNAの分布について、放射能ラベルしたアンチセンスプローブとin situハイブリダイゼーション組織化学により試験した。GluR1、GluR2、GluR3プローブにより得られたハイブリダイゼーションパターンは、ほとんど同一であり、海馬のCA1-CA3領域と歯状回において強くハイブリダイゼーションが見られた(図4)。これらの領域の高解像度分析によると、ハイブリダイゼーションシグナルは、CA1-CA3領域の錐体細胞層と歯状回の顆粒層が起源である。すべての3つのプローブの少々弱いハイブリダイゼーションが梨状皮質、尾状被殻、小脳扁桃、視床下部において見られた。低いレベルのハイブリダイゼーションが視床において検出され、線維束において、ほとんどシグナルは見られなかった。」(1036頁左欄19行〜38行)

(b3)「結論として、関連しているが、異なったグルタメート受容体をコードしている遺伝子のファミリーが存在している。遺伝子のすべての構成要素は現在のところ不明であるが、予備的な結果では、少なくとも2つのさらなる関連遺伝子が存在することが示唆されている。」(1036頁左欄下21行〜下16)

(b4)図1には、GluR1〜3のアミノ酸配列が記載されており、注釈には、「GluR1、GluR2、GluR3グルタメート受容体サブユニット遺伝子ファミリーの推定アミノ酸配列のアライメント。」と記載されている。

5.特許法第29条第2項について
(5-1)本願発明1について
本願発明1は「配列表の配列番号2に記載されたアミノ酸配列を有するか又は該アミノ酸配列のうち1又は数個のアミノ酸が置換し、欠失し若しくは該アミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列を有し、グルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質」というものであり、これは、本願明細書におけるGluR4に相当するものである。

引用例1には、GluRA〜Dをコードする遺伝子をクローニングして配列決定し、それにより推定されたアミノ酸配列とともに、それらの受容体間において保存された領域が記載されており、GluRA〜Dがラット脳の大脳皮質、視床下部、小脳等の複数の部位において発現していることが記載されている。また、引用例3には、GluR1〜3遺伝子をクローニングして配列決定し、それにより推定されたアミノ酸配列とともに、それらの受容体間において保存された領域が記載されており、GluR1〜3がラット脳の海馬、視床下部、小脳扁桃等の複数の部位において発現していることが記載されている。そして、引用例1のGluRAは「GluR-K1と100%」相同なものであり(記載事項(a2)参照)、GluR-K1は(3-1)で上述したとおり本願明細書及び引用例3のグルタメート受容体サブユニットGluR1に相当するものである。
本願発明1と引用例1又は3に記載された発明を対比すると、両者は、「GluR1と類似するグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質」である点で一致し、本願発明1は、配列番号2に記載されたアミノ酸配列を有するか又は該アミノ酸配列のうち1又は数個のアミノ酸が置換し、欠失し若しくは該アミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列を有するものであるのに対し、引用例1又は3に記載された発明には、そのような配列が記載されていない点で相違する。

しかしながら、上記引用例1、3に記載されるように、本願出願日当時、すでにGluR1に類似する複数のグルタメート受容体サブユニットがクローニングされていることを考慮すれば、さらなる新規なグルタメート受容体ファミリーのメンバーをクローニングしようとすることは、当業者にとって極めて自然なことである。そして、引用例1、3に記載されるように、グルタメート受容体ファミリーの発現が確認されているラット脳部位由来のライブラリーを作成し、引用例1、3に記載されるグルタメート受容体サブユニットのアミノ酸配列のうち、保存性の高い領域に対応するポリヌクレオチドをプローブとしてスクリーニングする等の周知の手法により、引用例1、3に記載されるグルタメート受容体サブユニットと同様の性質を有する新たなメンバーを得ようとすることは、当業者であれば容易に想起することである。

そして、本願発明1の配列番号2に記載されたアミノ酸配列を有するタンパク質は、そのような手法で得られ得るものであり、また、得られた本願発明1のグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質(GluR4)が引用例1、3に記載された公知のものに比べて格別な効果を奏するものとも認められない。

また、有用なタンパク質のアミノ酸配列が知られたときに、当該タンパク質に対して「欠失・置換・付加」技術を用いて改変体を種々作成するなどして新規の類似タンパク質を提供することは、本願出願日当時、周知慣用の技術であったことに鑑みると、配列番号2に記載されたアミノ酸配列を有するタンパク質のうち、1又は数個のアミノ酸を「欠失・置換・付加」した改変体を作成することも当業者が容易になし得たことである。

(5-2)本願発明3、5について
本願発明3は、配列番号4に記載されたアミノ酸配列を有するグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質(GuluR5)に関するものであり、本願発明5は、配列番号6に記載されたアミノ酸配列を有するグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質(GluR6)に関するものである。
(5-1)で述べた本願発明1のGluR4と同様に、さらなるグルタメート受容体サブユニットのメンバーのクローニングを期待して、引用例1、3に記載されるグルタメート受容体のアミノ酸配列のうち、保存性の高い領域に対応するポリヌクレオチドをプローブとし、グルタメート受容体ファミリーの発現が確認されているラット脳部位由来のライブラリーをスクリーニングする等の周知の手法により、引用例1、3に記載されるグルタメート受容体サブユニットと同様の性質を有する新たなメンバーをクローニングし、そのアミノ酸配列を決定し、その「欠失、置換、付加」体を取得することは、当業者が容易に想到することである。

そして、本願発明3、5の配列番号4、6に記載されたアミノ酸配列を有するタンパク質は、そのような手法で得られ得るものであり、また、得られた配列番号4に記載されたアミノ酸配列を有するグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質(GluR5)及び、配列番号6に記載されたアミノ酸配列を有するグルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質(GluR6)が引用例1、3に記載された公知のものに比べて格別な効果を奏するものとも認められない。

(5-3)結論
したがって、本願発明1、3、5は、引用例1又は3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.特許法第36条第3項について
本願発明7は、「配列表の配列番号8に記載されたアミノ酸配列を有するか又は該アミノ酸配列のうち1又は数個のアミノ酸が置換し、欠失し若しくは該アミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列を有し、グルタメート受容体サブユニットとして機能するタンパク質。」というものであり、GluR7に関するものである。
GluR7に関して、本願明細書をみると、実施例19には、GluR7遺伝子をコードするcDNAクローンを、低緊縮ハイブリダイゼーションスクリーニングプロトコール(実施例2参照)およびプローブとして約1.2kbp(ヌクレオチド705〜2048)のGluR5cDNAの放射能標識断片を用いて、成熟ラットの前脳ライブラリーから分離し、この選択されたクローンを、制限酵素切断地図およびスクリーニングによって同定し、図51、52に、GluR7クローンからの断片35-T3(図51)およびU35(図52)の配列が記載されている。そして、図51及び52の配列を結合したものが、配列番号8に相当する。すなわち、GluR7について本願明細書に具体的に記載されているのは、GluR7をコードするDNAの断片の配列を決定し、それに対応するアミノ酸配列を推定したところまでであり、GluR7をコードする全長遺伝子については、得られていない。そして、GluR7の断片である「配列番号8を有するタンパク質」が「グルタメート受容体サブユニットとして機能する」ことを確認したものでもない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明7を容易に実施することができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明1、3、5は、引用例1又は3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願は、本願発明7について、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。
よって、その余の本願請求項に係る発明について検討するまでもなく、本特許出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-08-18 
結審通知日 2005-08-23 
審決日 2005-09-22 
出願番号 特願2000-10054(P2000-10054)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高堀 栄二  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 鵜飼 健
冨永 みどり
発明の名称 グルタメート受容体組成物および方法  
代理人 谷川 英次郎  

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