• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) H01M
管理番号 1130714
審判番号 無効2004-35147  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-03-19 
確定日 2006-03-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第2646657号発明「非水電解液二次電池」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2646657号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
特許出願(特願昭63-125188号) 昭和63年 5月23日
特許登録 平成 9年 5月 9日
特許異議申立(株式会社ユアサコーポレーション)
平成10年 2月20日
特許異議申立(日立マクセル株式会社) 平成10年 2月26日
特許異議申立(新神戸電機株式会社) 平成10年 2月27日
訂正請求書 平成12年 4月13日
異議決定(訂正認容、特許維持) 平成12年 6月 6日
無効審判請求 平成16年 3月19日
答弁書 平成16年 6月 7日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成16年 8月20日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成16年 8月27日
口頭審理(特許庁審判廷) 平成16年 8月27日
上申書(請求人) 平成16年 9月27日
上申書(被請求人) 平成16年10月27日

II.本件発明
本件特許については、平成12年4月13日付けで訂正請求がなされ、これを認容する平成12年6月6日付け特許異議決定がなされているから、訂正後の請求項1に係る発明は、平成12年4月13日付け訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものであると認める(以下、「本件発明」という)。
「有機焼成体よりなる負極と、LiXMO2(MはCo又はNiの少なくとも1種を表し、0.05≦x≦1.10である。)を含んだ正極と、電解液とが容器内に収納されてなり、上記電解液量を調整することで容器内に容量1AH当たり0.4cc以上の空隙が設けられてなることを特徴とする非水電解液二次電池。」

III.請求人の主張及び証拠方法
1.請求人の主張
請求人は、本件発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、無効審判請求書に添付して甲第1号証乃至甲第20号証を、口頭審理陳述要領書に添付して甲第21号証乃至甲第24号証を、また口頭審理後に提出された上申書に添付して甲第25号証乃至甲第37号証をそれぞれ提出して、次のとおり無効理由1〜3を主張している。
無効理由1:
本件発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
無効理由2:
本件発明は、甲第3号証又は甲第1号証若しくは甲第2号証に記載された発明と、甲第4号証に記載された発明と周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
無効理由3:
本件特許明細書は、その特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が不備であるから、本件発明についての特許は、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

2.証拠方法
請求人が提出した証拠方法とその主な証拠の記載事項は、次のとおりである。
(審判請求時に提出されたもの)
(1)甲第1号証:特開昭62-55875号公報
(1a)「1.遷移金属のカルコゲン化合物からなる正極材と;リチウム金属を含む物質からなる負極材と;(a)プロピレンカーボネート・・・、(b)tert-ブチルエーテル・・・ならびに(c)リチウム塩からなる非水電解液とから構成されることを特徴とする二次電池。
2.負極材がリチウム含有有機物焼成体である特許請求の範囲第1項記載の電池。」(特許請求の範囲)
(1b)「従来、リチウム金属を含む物質を負極材として用いる二次電池としてLiClO4/プロピレンカーボネートにニトロメタン、SO2等の添加剤を加えたもの・・・等を非水電解液として用いたものがある。・・・しかしながらこれらは充放電サイクルが短いというリチウム二次電池の問題点を充分解決していない。・・・本発明者らは充放電サイクルを向上させた二次電池を得ることを目的として・・・本発明に至った。」(第1頁左下欄下から第2行〜右下欄第15行)
(1c)「遷移金属のカルコゲン化合物の具体例としてはTiO2、・・・LiCoO2・・・などの酸化物;・・・があげられる。」(第4頁右上欄第7行〜19行)
(1d)「本発明における負極材においてリチウム金属を含む物質としては・・・リチウム含有有機物焼成体があげられる。」(第2頁右上欄第8行〜12行)
(1e)「リチウム含有有機物焼成体において有機物としては合成ポリマー、天然高分子化合物、石炭、コークスおよびピッチがあげられる。・・・
有機物焼成体を製造する方法としては、通常、有機物を不活性ガスたとえば窒素ガス雰囲気下で加熱、熱処理する方法があげられる。加熱温度は通常300℃以上、好ましくは500〜1500℃、加熱時間は、・・・
この焼成体は、多孔質(好ましくは密度1.8g/cm3以下)で、高い電導性・・・を示す。」(第2頁右上欄第15行〜第3頁左下欄末行)
(1f)「本発明の電池の一例を第1図に基づいて説明する。図において(1)は正極缶(正極集電体)、(2)は集電用金属製ネット、(3)は正極材、(4)は非水電解液を含有したセパレーター、(5)はガスケット、(6)は負極材、(7)は集電用金属製ネット、(8)は負極缶(負極集電体)である。」(第4頁左下欄第5行〜10行)
(1g)「次に具体的に電池の作製法を説明する。正極缶(1)の底面に集電用金属製ネット(2)を置き、その上に正極材(成型体)(3)を圧着する。次に正極材(3)上に非水電解液を含有したセパレーター(4)を載置した後、L字状のガスケット(5)を正極缶(1)の壁面に沿って挿入する。次いで負極材(6)を負極缶(8)に集電用金属製ネット(7)を介在させて密着させた後、セパレーター(4)上に載置し正極缶(1)の開口部を内方へ折曲し封口する。」(第4頁左下欄第11行〜19行)
(1h)「実施例1
二酸化マンガン、アセチレンブラックおよびポリエチレン粉末を混合して加圧成型して作製した正極材180mgをステンレス製正極缶の底面に置いたニッケル製ネット上に圧着した。次に前記成型体上にポリプロピレン製セパレーターを載置した後、プロピレンカーボネート75容積%とtert-ブチルメチルエーテル25容積%の混合溶媒に1モル/lの濃度で過塩素酸リチウムを溶解させた非水電解液を注入し、ガスケットを挿入した。その後リチウム箔8mgを密着させたステンレス製負極缶をセパレーター上に載置し、正極缶の開口端部分を内方へ折曲し封口部分をガラスハーメチックシールして電池を作製した。」(第4頁右下欄第3行〜16行)
(1i)「実施例2
ポリ(1-クロロ-2-フェニルアセチレン)の粉末43gを電気炉に設けられた石英管中に入れ、窒素ガスを石英管中に通じながら室温から500℃まで2時間で昇温し、・・・次に500℃から800℃まで90分間で昇温し800℃で3時間焼成した。その後・・・冷却を行ない・・・ポリ(1-クロロ-2-フェニルアセチレン)焼成体・・・を得た。
この焼成体2gとポリエチレン粉末0.2gとを混合してよく混練した後金型に入れて、400kg/cm2Gの圧力下で厚み1mmの成型体を得、直径16mmの円板上(この「円板上」は、「円板状」の誤記と認める。)に切り出した。・・・
この成型体を・・・正極とし、リチウム箔を負極とし実施例1と同じ非水電解液が入ったガラス製容器内に両極を入れ密封した。
次に・・・通電し、その結果・・・リチウムが含有したポリ(1-クロロ-2-フェニルアセチレン)焼成体を得た。
実施例1においてリチウム箔の代わりに上記リチウムを含有した成型体を用い、それ以外は同様に操作して電池を作製した。・・・充放電サイクル試験を実施したところ500サイクルまでは可逆性良好な充放電特性が得られた。」(第4頁右下欄末行〜第5頁右上欄第6行)
(1j)「実施例3
ステンレス製正極缶の底面にニッケル製ネットを置き、その上に五酸化バナジウムにアセチレンブラックおよびテフロンを添加し、混練、成型した正極材240mgを圧着した。次に正極材上にプロピレンカーボネート85容積%とtert-ブチルメチルエーテル15容積%の混合溶媒に1モル/lの濃度で過塩素酸リチウムを溶解させた非水電解液を含有したガラス繊維マットよりなるセパレーターを載置し、ガスケットを挿入した。
次いで、実施例2と同様に作製したポリ(1-クロロ-2-フェニルアセチレン)焼成体100mgに金属リチウム箔8mgをはり合わせ、ステンレス製負極缶にニッケル製ネットを介在させて密着させた後、セパレーター上に載置し、正極缶の開口部を内方へ折曲し封口した。・・・充放電サイクル試験を実施したところ500サイクルまでは可逆性良好な充放電特性が得られた。」(第5頁右上欄第7行〜左下欄第4行)
(1k)第1図には、全周に鍔のある帽子状で、内部に負極材(6)が設けられた負極缶(8)の鍔部を正極缶内の断面L字状のガスケット(5)の水平部分上に載置し、正極缶(1)の開口部の折曲に伴い、断面L字状のガスケット(5)の垂直部分を負極缶(8)の鍔部上面に圧接させて封口したボタン形電池の断面図が示され、該ボタン形電池の断面図によれば、帽子状の負極缶(8)の筒状壁内面と負極材(6)の外周面との間に、符号の付されていない空白部分が存在する。(第7頁第1図)
(2)甲第2号証:特開昭63-2247号公報
(2a)「リチウム塩を溶解した有機溶媒を電解液とし、遷移金属のカルコゲン化合物からなるものを正極材とし、乱層構造をもつ焼成体炭素と金属リチウムを電池内で電気的に接触させたものを負極材としたことを特徴とする有機電解液二次電池。」(特許請求の範囲第1項)
(2b)「従来、二次電池として、低密度の非晶質の有機物焼成体とリチウムを接触させたものを負極材としたものがある・・・しかしながらこのような二次電池は、充放電サイクルが短いという問題点がある。・・・本発明者らは充放電サイクルを向上させた二次電池を得ることを目的として・・・本発明に至った。」(第1頁左下欄下から第2行〜右下欄第8行)
(2c)「本発明における負極材を構成する焼成体炭素は乱層構造のものである。・・・乱層構造のものがすぐれており、結晶質のもの(グラファイト)および非晶質(アモルファス)のものは充電効率が悪い。密度は1.8より大きく通常1.9〜2.2g/cm3、好ましくは2.0〜2.2g/cm3である。・・・乱層構造をもつ焼成体炭素としてフェノール樹脂焼成体およびピッチ焼成体があげられる。このうち好ましいのはピッチ焼成体である。」(第1頁右下欄第15行〜第2頁左上欄第10行)
(2d)「遷移金属のカルコゲン化合物の具体例としては、TiO2、・・・LiCoO2・・・などの酸化物;・・・があげられる。」(第2頁右上欄第17行〜左下欄第1行)
(2e)「本発明の電池の一例を第1図に基づいて説明する。図において(1)は正極缶(正極集電体)、(2)は集電用金属製ネット、(3)は正極材(正極活物質)、(4)は有機電解液を含有したセパレーター、(5)はガスケット、(6)は乱層構造をもつ焼成体炭素、(7)は金属リチウム、(8)は集電用金属製ネット、(9)は負極缶(負極集電体)である。」(第3頁左下欄第15行〜右上欄第1行)
(2f)「次に具体的に電池の作製法を説明する。正極缶(1)の底面に集電用金属製ネット(2)を置き、その上に正極材(成型体)(3)を圧着する。次に正極材(3)上に有機電解液を含有したセパレーター(4)を載置した後、L字状のガスケット(5)を正極缶(1)の壁面に沿って挿入する。次いで乱層構造をもつ焼成体炭素(6)に金属リチウム(7)をはり合わせたものを負極缶(9)に集電用金属製ネット(8)を介在させて密着させた後、セパレーター(4)上に載置し正極缶(1)の開口部を内方へ折曲し封口する。」(第3頁右下欄第4行〜13行)
(2g)「実施例1
コールタールピッチ40gを電気炉に設けられた石英管中に入れ、窒素ガスを石英管中に通じながら室温から700℃まで8時間で昇温し、その温度で1時間放置した。次に700℃〜1400℃まで3時間で昇温し、その温度で1時間焼成した。その後・・・冷却を行ない・・・ピッチ焼成体・・・を得た。この焼成体はX線回折により結晶子径58.9Åの乱層構造であり密度は2.13g/cm3であった。
この焼成体2gとポリエチレン粉末0.2gとを混合してよく混練した後金型に入れて、400kg/cm2Gの圧力下で厚み0.8mmの成型体を得、直径16mmの円板状に切り出した。・・・
ステンレス製正極缶の底面にニッケル製ネットを置き、その上に二酸化マンガンにアセチレンブラックおよびテフロンを添加し、混練、成型した正極材180mgを圧着した。次に正極材上に1モル/l濃度で過塩素酸リチウムを溶解したプロピレンカーボネート溶液である有機電解液を含有したガラス繊維マットよりなるセパレーターを載置し、ガスケットを挿入した。
次いで、先に作製したピッチ焼成体100mgに金属リチウム箔8mgをはり合わせ、ステンレス製負極缶にニッケル製ネットを介在させて密着させた後、セパレーター上に載置し、正極缶の開口部を内方へ折曲し封口した。・・・充放電サイクル試験を実施したところ300サイクルまでは可逆性良好な充放電特性が得られた。」(第4頁左上欄第5行〜右上欄第17行)
(2h)第1図には、周壁が大略截頭円錐状で、内部に焼成体炭素(6)と金属リチウム(7)が設けられた負極缶(9)の周壁下端を正極缶内の断面L字状のガスケット(5)の水平部分上に載置し、正極缶(1)の開口部の折曲に伴い、断面L字状のガスケット(5)の垂直部分を負極缶(9)の周壁外面に圧接させて封口したボタン形電池の断面図が示され、該ボタン形電池の断面図によれば、負極缶(9)の大略截頭円錐状壁内面と焼成体炭素(6)と金属リチウム(7)の外周面との間に、符号の付されていない空白部分が存在する。(第5頁第1図)
(3)甲第3号証:特開昭62-90863号公報
(3a)「構成要素として少なくとも、正、負電極、セパレーター、非水電解液からなる二次電池であって、下記I及び/又は下記IIを正、負いずれか一方の極の活物質として用いることを特徴とする二次電池。
I:層状構造を有し、一般式
AxMyNzO2(但しAはアルカリ金属から選ばれた少なくとも一種であり、Mは遷移金属であり、NはAl,In,Snの群から選ばれた少なくとも一種を表わし、x,y,zは各々0.05≦x≦1.10,0.85≦y≦1.00,0.001≦z≦0.10の数を表わす。)
で示される複合酸化物。
II:BET法比表面積A(m2/g)が0.1<A<100の範囲で、かつX線回折における結晶厚みLc(Å)と真密度ρ(g/cm3)の値が下記条件1.70<ρ<2.18かつ10<Lc<120ρ-189を満たす範囲にある炭素質材料のn-ドープ体。」(特許請求の範囲第1項)
(3b)「陽イオンを取り込んだ黒鉛層間化合物は極めて不安定であり、特に電解液と極めて高い反応性を有していることは、エイ・エヌ・ディ(A.N.Dey)等の「ジャーナル・オブ・エレクトロケミカル・ソサイエティー(Journal of Electrochemical Society)vol 117 No2 第222〜224頁 1970年」の記載から明らかであり、層間化合物を形成し得る黒鉛、グラファイトを負極として用いた場合、自己放電等電池としての安定性に欠けると共に、前述の利用率も極めて低く実用に耐え得るものではなかった。
[発明が解決しようとする問題点]
前述の如く、インターカレーション又はドーピングを利用した新しい群の電極活物質は本来期待されている性能は未だに実用的な観点からは実現されていないのが現状である。
[問題点を解決するための手段及び作用]
本発明は、前述の問題点を解決し、電池性能、特にサイクル性、自己放電特性に優れた高性能、高エネルギー密度の小型軽量二次電池を提供するためになされたものである。」(第3頁左上欄第2行〜右欄第2行)
(3c)「本発明の新規な層状複合金属酸化物は一般式AxMyNzO2で示されるものであって、Aはアルカリ金属から選ばれた少なくとも一種、例えばLi、Na、Kであり、中でもLiが好ましい。xの値は充電状態、放電状態により変動し、その範囲は0.05≦x≦1.10である。」(第3頁左下欄第2行〜7行)
(3d)「Mは遷移金属を表わし、中でもNi、Coが好ましい。yの値は充電状態、放電状態により変動しないが、0.85≦y≦1.00の範囲である。」(第3頁左下欄第14行〜16行)
(3e)「NはAl、In、Snの群から選ばれた少なくとも一種であり、中でもSnが好ましい。・・・zの値は充電、放電により変動しないが、0.001≦z≦1.10の範囲、好ましくは0.005≦z≦0.075の範囲である。」(第3頁左下欄第20行〜右上欄第7行)
(3f)「本発明で用いられる炭素質材料は・・・BET法比表面積A(m2/g)が0.1より大きく、100未満でなければならない。・・・0.1m2/g以下の場合はあまりに表面積が小さく、電極表面での円滑な電気化学的反応が進行しにくく好ましくない。又、100m2/g以上の比表面積を有する場合は、サイクル寿命特性、自己放電特性、・・・等の面で特性の低下が見られ好ましくない。かかる現象はあまりに表面積が大きいが故に電極表面での種々の副反応が起こり、電池性能に悪影響を及ぼしているものと推察される。・・・
即ち、ρの値が1.70以下又はLcの値が10以下の場合は、炭素質材料が十分に炭化していない、即ち炭素の結晶成長が進んでおらず、無定形部分が非常に多いことを意味する。又、その為、この範囲にある炭素質材料はその炭化過程において表面積が必然的に大きくなり、本発明の範囲のBET法比表面積の値を逸脱する。・・・
一方、ρの値が2.18以上又はLcの値が120ρ-189の値以上の場合、炭素質材料の炭化が余りに進み過ぎ、即ち炭素の結晶化の進んだ黒鉛、グラファイトに近い構造を有していることを意味する。
・・・(中略)・・・ρの値が2.18以上、又はLcの値が120ρ-189の値以上の炭素質材料を用いた場合、前述の如く、黒鉛、グラファイト的な挙動が発現し、サイクル寿命、自己放電特性が悪く、更には利用率が著しく低く、・・・好ましくない。
かかる本発明の条件を満たす炭素質材料として例えば、種々の有機化合物の熱分解、又は焼成炭化により得られる。この場合、熱履歴温度条件は重要であり、・・・熱履歴温度が低い場合には炭化が十分でなく、・・・本発明の条件とする炭素質材料とならない。その温度下限は物により若干異なるが、通常600℃以上、好ましくは800℃以上である。更に重要なのは熱履歴温度上限であり、通常の黒鉛、グラファイトや炭素繊維製造で行われている3000℃に近い温度での熱処理は、結晶の成長が余りに進み過ぎ、二次電池としての機能が著しく損なわれる。2400℃以下、好ましくは1800℃以下、更には1400℃以下が好ましい範囲である。かかる熱処理条件において、昇温速度、冷却速度、熱処理時間等は目的に応じ任意の条件を選択することができる。」(第4頁右上欄第7行〜第5頁左下欄第6行)
(3g)「本発明の条件範囲を満たす炭素質材料の一例を示せば、例えば気相成長法炭素繊維が挙げられる。該気相成長法炭素繊維は例えば、特開昭59-207823号公報に記載の如く、ベンゼン、メタン、一酸化炭素等の炭素源化合物を遷移金属触媒等の存在下気相熱分解(例えば600℃〜1500℃の温度において)せしめて得られる炭素材料であり、公知のこれに類する方法によって得られる全てのものを言い、・・・通常かかる方法により繊維状、即ち炭素繊維として得られるが、本発明においては繊維状としてそのまま用いても良いが、粉砕された粉粒状として用いても良い。」(第5頁左下欄第9行〜右下欄第4行)
(3h)「又、他の例を示せば、ピッチ系炭素質材料が挙げられる。本発明で用いられるピッチ類の一例を示せば、石油ピッチ、アスファルトピッチ、コールタールピッチ、原油分解ピッチ、石油スラッジピッチ等の石油、石炭の熱分解により得られるピッチ、テトラベンゾフェナジン等の有機低分子化合物の熱分解により得られるピッチ等が挙げられる。」(第6頁右上欄第3行〜11行)
(3i)「かかるピッチ系焼成炭化物の具体例を示せば、ニードルコークス等が挙げられる。
更に本発明で用いられる炭素質材料を例示すれば、アクリロニトリルを主成分とする重合体の焼成炭化物が挙げられる。」(6頁左下欄第3行〜7行)
(3j)「本発明の活物質IIは、前述の如く負極として用いた場合に特に優れた性能を発揮するが、この時用いられる正極としては特に限定されないが、一例で示せば、TiS2,TiS3,MoS3,・・・,Li(1-x)CoO2,Li(1-x)NiO2・・・が挙げられる。
特に好ましい組合せとして、本発明の活物質Iを正極として、本発明の活物質IIを負極として用いる組合せが最も好ましい。」(第8頁右上欄第13〜左下欄第1行)
(3k)「又、用いられる電解液の有機溶媒としては、・・・。更に好ましくは環状カーボネート類である。
これらの代表例としては、・・・プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート・・・をあげることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。」(第8頁左下欄第16行〜右下欄第19行)
(3l)「電池の構造としては、特に限定されるものではないが、正極、負極、更に要すればセパレーターを単層又は複層としたペーパー型電池、積層型電池、又は正極、負極、更に要すればセパレーターをロール状に巻いた円筒状電池等の形態が一例として挙げられる。」(第9頁左上欄第1行〜7行)
(3m)「実施例1
アントラセン油をAr雰囲気下で・・・1200℃で1時間焼成炭化した。この炭素質材料・・・の試料を・・・塗工液とし、・・・製膜した。これをSUSネットにはさみ、第1図に示す電池の負極とした。
一方、・・・Li1.03Co0.95Sn0.042O2の組成を有する複合酸化物を得た。この複合酸化物を・・・と混合した後、・・・塗布した。これをSUSネットではさんだものを正極とし、0.6モル濃度のLiClO4プロピレンカーボネート溶液を電解液として電池評価を行った。・・・定電流2mAで充電を・・・この後、・・・放電を行った。・・・サイクルに伴う電流効率及び利用率の変化を第3図-Aに示す。」(第9頁右上欄第10行〜右下欄第9行)
(3n)第3図-Aとして、約500までのサイクル数にわたって、利用率、電流効率の線図が示され、それらの値は、きわめて僅かだけ減少傾向であることが示されている。(第22頁第3図)
(4)甲第4号証:David Linden主編「HANDBOOK OF BATTERIES AND FUEL CELLS」、McGraw-Hill Book Company、1984年
(4a)「1 基本概念
1.1 電池の構成
電池は、電気化学的な酸化還元(レドックス)反応を利用して、活物質のもつ化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する装置である。
(中略)
電池自体は、円筒形、ボタン形、平板形、多面体形の様々な形状と配置によって組み立てられ、電池構成品は特定の電池形状に収納できるように設計されている。電池は漏出や乾燥を防ぐために様々な方法でシールされている。ある電池は蓄積されたガスを逃がす排気手段や他の方法を備えている。端子接続のための適切な電池のケース又は容器及び手段が電池を完成するために採用されている。」(第1-3〜4頁)
(4b)「3 電池の選択と応用の配慮
3.1 一般的特徴
“理想的”な電気化学的セル又は電池は、安価で無限のエネルギーをもち、すべての出力レベルを扱え、広い温度範囲で作動可能であり、長い寿命をもち、完全に安全で消費者耐久性を備えていなければならない。」(第3-1頁)
(4c)「3.3 電池の選択に際して考慮すべき主要な事項
電池の選択に重要で影響を及ぼす要因は次の点を含む。
(中略)
12 安全性と信頼性:変化許容範囲、放出ガス又は漏液からの解放、危険物又は毒物成分の使用の可能性、流出物又は放出ガスの種類、高温など;過酷又は危険な条件下での作動。」(第3-14〜15頁)
(4d)「11 リチウム電池
11.1 一般的特徴
高エネルギー密度電池システムの本格的な開発は、1960年代に始まり、リチウム負極を使用した非水電解液電池の開発に集中した。リチウム電池は、最初に軍事用として1970年代初めに使用された。しかし、最適な電池の構造と組成と安全性の問題を解決しなければならなかった。」(第11-1頁)
(4e)「11.4 リチウム電池の安全性と取扱い
リチウム電池又はバッテリーのデザイン及び使用は、安全かつ信頼性のある操作を保障するために注意を払わなければならない。多くのバッテリー系と同様に、いくつかのバッテリーは、適切に使用されない場合、危険が多いので、物理的・電気的な誤用を避けるように注意しなければならない。このことは、リチウム電池では、組成物が有毒及び/又は可燃性であり、リチウムの比較的低融点(180.5℃)は電池内部が高温になるのを防止しなければならないので、特に重要である。」(第11-19頁)
(4f)「5.安全装置:電池の取扱いは、電池やバッテリーに組込まれる安全装置によって変わる。これらの安全装置は、電池内の過剰な圧力上昇を防止する電池安全弁機構、過剰な温度上昇を防止する熱遮断装置、電気フューズ、及びダイオードを含む。電池の安全性を維持するように、電気化学的な系に依存して、電池は、密閉式又は機械的なクリンプシールが使用され、電池構成物を有効に含有する。」(第11-20頁)
(4g)「11.4.2 安全性の考え方
リチウム電池の使用中に起こりうる電気的、物理的な誤使用(注:大電流放電・短絡、強制放電・電圧の反転、充電、過熱、物理的な誤使用)とそれに対する一般的なコメント、対策を表11.8に示す。特定の電池の挙動については、この章の他の個所でカバーされている。個々の電池の特性に関する詳細はメーカのデータを参考にすべきである。」(第11-20頁)
(4h)「11.5 リチウム/二酸化硫黄電池
11.5.2 構造
Li/SO2電池は、一般に図11.9に示すように円筒形構造で製造される。長方形のリチウム箔、多孔質のポリプロピレンセパレータ、正極(アルミニウム穿孔板支持体上にプレスしたテフロン-カーボンブラック混合物)及び第二セパレータ層をスパイラル状に巻回した、ジェリーロール状の構造を使用する。この設計は表面積が大きく、電池抵抗が小さいため、高電流と低温特性が得られる。ロールをニッケルメッキした鋼缶に挿入し、電気的な接続をとり、トップをシールし、電解液/活物質を加える。過熱や短絡などの不注意な誤使用によって電池内圧が過大なレベルに至った場合には、安全破裂弁が解放し、破裂や爆発を防止する。安全弁は、電池作動時や貯蔵時の上限温度よりも高い、約90℃で作動し、過剰な圧力を安全に解放し電池の破裂を防ぐ。」(第11-23〜24頁)
(4i)「11.9 リチウム/フッ化炭素電池
11.9.2 構造
Li/(CF)n系は、いろいろなサイズと形状に適合でき、平坦コイン又はボタン形、円筒形、角形で入手でき、容量範囲は0.020〜25Ahである。大型電池も開発中である。
図11.49は、ボタン形電池の構造を示す。Li/(CF)n電池は一般に、集電体上に巻かれたリチウム箔負極と、ニッケル集電体上にポリカーボンモノフッ化物とカーボンブラックをテフロンで結合した正極とで形成される。ニッケルメッキした鋼又はステンレス鋼がケース材料として使用されている。ボタン形電池は、ポリプロピレンガスケットでクリンプシールされている。円筒形電池は、スパイラル状に巻回し(ジェリーロール構造)可撓性の電極を使用し、電池はクリンプ又は密閉式にシールされている。」(第11-57〜58頁)
(4j)「18 密閉型ニッケル・カドミウム電池
18.1 一般特性
密閉型ニッケル・カドミウム電池には、充電時のガス発生による電池の内圧上昇を防ぐために、特別な電池設計の特徴を組み込んでいる。その結果、電池は密閉化が可能になり、充電以外の取扱いや保守が不要となった。」(第18-1頁)
(4k)「18.3 電池構造
密閉型Ni-Cd電池は様々な構造のものが入手できる。最も一般的なタイプは、容量が0.07〜10Ahの範囲の円筒形と、容量が0.02〜0.50Ahの範囲のより小さなボタン形である。角形及び楕円形電池も生産されているが、大きさに制限がある。」(第18-3頁)
(4l)「18.3.1 円筒形電池
円筒形電池は、その円筒形設計が量産しやすく、優れた機械的強度や電気的特性がこの設計により達成されるので、最も広く使用されている。図18.1に円筒形電池の断面図を示す。(中略)
製造後、正極電極と負極電極を適当な大きさに切断し、セパレータ材料をそれらの間に挿入しジェリーロール状に巻回する。セパレータ材料は、一般に水酸化カリウム電解液をよく吸収し、酸素を透過しやすいナイロン又はポリプロピレン不織布を使用する。ロールは堅固なニッケルメッキ鋼板の缶に挿入し、電気的に接続する。負極板を缶に、正極板を上蓋に溶接する。作動するのに十分な非常に少量の電解液をセパレータに吸収させる。遊離した液体電解液はない。円筒形電池の蓋には、過剰な過充電又は過放電速度に起因する過剰な圧力が蓄積された場合の電池の破裂を防止するために、フェイル-セイフ安全弁を組み込んでいる。」(第18-3頁)
(4m)「18.3.2 ボタン形電池
ボタン形電池は、通常、プレスされた電極板を使用する。活物質は円板又は平板状の型で加圧成形される。電極は、図18.2に示すように、サンドイッチ形に組み立てられる。
場合によっては、電気的な接続と機械的な強度を高めるために、電極の裏側をエクスパンドメタルや穿孔板で補強する。ボタン形電池は、フェイルーセイフ装置を備えていないが、異常な環境下で発生する過大な圧力上昇を解放するために、膨らむか、電気的接続を遮断するか密閉を開放するかの構造となっている。」(第18-3〜4頁)
(4n)「18.6 電池サイズ及び製造者
表18.3に、代表的な密閉型Ni-Cd電池、並びに主要な電気的及び物理的な規格を示す。」(第18-17〜18頁)
(5)甲第5号証:特開昭57-208079号公報
(5a)「リチウムを負極活物質とし、負極電極基板が黒鉛を主成分とするものよりなることを特徴とする再充電可能なリチウム電池。」(特許請求の範囲)
(5b)「実施例
黒鉛粉末にフッ素樹脂を5%混合し、この混合粉末を加圧成型後300℃で熱処理した黒鉛粉末成型体を電極基板とし、この基板にリチウムイオンを混入して得た黒鉛層間化合物を負極とする。・・・
正極活物質としてV2O5(五酸化バナジウム)を用い・・・正極とする。
そして電解液はプロピレンカーボネイトとジメトキシエタンとの混合溶媒に1モルの過塩素酸リチウムを溶解したものであり、これをポリプロピレン不織布よりなるセパレータに含浸して使用した。」(第1頁右下欄第15行〜第2頁左上欄第12行)
(5c)第1図にボタン形二次電池の断面図が記載されており、正極、セパレータ、負極の順に積層された電池本体の周囲に、符号の付されていない空白部分が存在している。(第3頁第1図)
(6)甲第6号証:特開昭62-271371号公報
(6a)「リチウムあるいはリチウムを主体とするアルカリ金属を含有してなる有機物焼成体を負極とし、リチウムあるいはリチウムを主体とするアルカリ金属薄層を内面に形成した金属容器内に、上記負極を着設したことを特徴とする非水溶媒二次電池。」(特許請求の範囲)
(6b)「電解液は、溶媒がプロピレンカーボネイト、・・・の非プロトン性有機溶媒で、溶質には過塩素酸リチウムのようなリチウム塩を用い、・・・」(第2頁左上欄第15行〜18行)
(6c)「(実施例)
第1図(イ)は、本発明による電池の一実施例であるボタン型非水溶媒二次電池の断面図で・・・(2)は酸化バナジウム(V2O5)等の遷移金属カルコゲン化合物と、カーボン粉、ニッケル粉よりなる混合物を成形して得た正極で、・・・」(第2頁右上欄第16行〜左下欄第3行)
(6d)第1図のボタン形二次電池の断面図には、正極、セパレータ、負極の順に積層された電池本体の周囲に、符号の付されていない空白部分が存在している。(第3頁第1図)
(7)甲第7号証:特開昭62-243247号公報
(7a)「再充電可能な活物質よりなる正極とリチウムを活物質とする負極とをセパレータを介して巻回した渦巻電極体を備えるものであって、前記負極はリチウムと合金化する金属を一対のリチウム板で挟持したものよりなることを特徴とする非水系二次電池。」(特許請求の範囲第1項)
(7b)「本発明は三酸化モリブデン、五酸化バナジウム、チタン或いはニオブの硫化物などの再充電可能な活物質よるなる正極と、リチウムを活物質とする負極とを備えた非水系二次電池に関するものである。」(第1頁右下欄第4〜8行)
(7c)「第2図は上記正負極を用いて組立てた円筒型非水系二次電池を示し、負極(4)と正極(5)とをポリプロピレン不織布よりなるセパレータ(6)を介して巻回した渦巻電極体が負極端子兼用の外装缶(7)内に収納されている。」(第2頁左下欄末行〜右下欄第4行)
(7d)第2図に示す円筒型電池の縦断面図には、巻回体の巻芯部分に符号の付されていない空白部分が存在する。(第3頁第2図)
(8)甲第8号証:実開昭63-75954号公報
(8a)「リチウム又はリチウムを含む合金を活物質とし片面側に負極集電体を配置した負極板と、再充電可能な活物質よりなる正極板とを有し、前記正負極板の負極集電体が外側に位置するように前記正負極板をセパレータを介して巻回した渦巻電極体を備えた非水系二次電池。」(実用新案登録請求の範囲第1項)
(8b)「本考案はリチウム又はリチウムを含む合金を活物質とする負極板と、二硫化チタン、二硫化モリブデン、硫化ニオブ或いは五酸化バナジウムなどの再充電可能な活物質よるなる正極板とを・・・備える非水系二次電池に関するものである。」(第1頁16行〜2頁1行)
(8c)「負極板(3)の負極集電体(4)が外側に位置するように前記正負極板をポリプロピレン不織布よりなるセパレータ(5)を介して巻回して渦巻電極体を構成している。」(第4頁7行〜10行)
(8d)第1図に示す円筒型電池の縦断面図において、巻回体の巻芯部分に符号の付されていない空白部分が存在する。(第8頁第1図)
(9)甲第9号証:特開昭63-119171号公報(昭和61年11月7日出願、昭和63年5月23日公開)
(10)甲第10号証:荒川正泰、鳶島真一、山木準一、CPM86-104, 第1〜8頁「グラファイト電極上における炭酸プロピレンの酸化還元反応」(電子通信学会技術研究報告、第86巻、No.319、1987年1月23日)
(10a)「リチウム二次電池の開発を進める上で重要な要因となるのは、・・(2)電池の充放電に対して安定な電解液の開発である。」(第1頁左欄第7行〜10行)
(10b)「我々は、電解液の安定性と言う観点から、プロピレンカーボネート(PC)を溶媒に用いるリチウム電池における充放電時の電解液の分解反応を例に取り、電解液の劣化機構解明を行ったのでこれを報告する。」(第1頁左欄下から第5行〜末行)
(10c)「正極材料はグラファイト粉末・・・を、ポリテトラフルオロエチレンで結着して作成した。・・・この正極材料を・・・加圧し、・・・円形正極とした。・・・負極はポンチで打ち抜いた・・・リチウム金属・・・を同径のニッケルネットに圧着しニッケルリード線を付けた。参照極にはリチウム金属を用いた。電解液は1モルのLiClO4を含むPC溶液・・・をそのまま用いた。」(第2頁左欄第2行〜17行)
(10d)「1 放電時における分解反応の機構
Deyらは、グラファイトを正極に用いたリチウム電池で、電解液溶媒であるPCの分解によりプロピレンガスが発生する事を見いだし、(1)式の電気化学反応を提案した〔6〕。
これに対し、Dousekらは、PCがリチウムと水銀のアマルガムで分解することから、グラファイト表面における触媒作用によりPCがリチウムと反応すると考えた〔7〕。
Eichingerは、グラファイトインターカレイション化合物(GIC)がPCを分解する反応機構(式(2)(3))を提案した〔8〕。」(第2頁右欄第3行〜16行)
(10e)「上記の反応機構はすべて、ガス発生量が電池に流れた電気量に一致する(ガス発生効率が100%)というDeyらの報告を支持しているが、我々は、ガスの発生効率が100%以下であることを見いだした〔9〕。」(第2頁右欄第17行〜21行)
(10f)「ガス発生速度の電圧依存性は、正極材料によっても異なる。図6は、正極材料にそれぞれグラファイト粉末、アセチレンブラック、ケッチェンブラックを用いたときのガス発生速度の電圧依存性を示した図である。傾きは、グラファイト>アセチレンブラック>ケッチェンブラックの順になっており、これは各正極材料における触媒効果の違いを示しているものと思われる。」(第4頁右欄下から第9行〜末行)
(10g)「2 充電時における分解反応の機構
(中略)
ガス発生量は充電時ほど多くはなく、図8に示す定電圧充電の結果からわかるように、ガス発生速度の電圧依存性は見いだせなかった。」(第5頁右欄下から第4行〜末行)
(11)甲第11号証:M.Arakawa and J.Yamaki, J. Electroanal. Chem. 第219巻 (1987年)第273-280頁
(11a)「グラファイト正極を使用したリチウム電池の定電圧放電試験を電流密度0.75mA/cm2、2.26mA/cm2及び4.52mA/cm2で行った。放電電圧は急激に低下し、各々の場合とも約0.9Vの比較的定常なプラトー電圧に達した。PC分解に伴う著しいガス発生が放電試験の間で得られた。放電試験の間にカソードから発生したガスの代表的な質量スペクトルを図1に示す。主成分は、質量スペクトル(M/Z=39、41及び42)から、プロピレンであると同定された。」(第274頁下から4行〜275頁4行)
(12)甲第12号証:A.N.Dey and B.P.Sullivan,「グラファイト上のプロピレンカーボネートの電気化学的分解」 ELECTROCHEMICAL SCIENCE, J. Electrochem. Soc. February, 1970年、第222-224頁
(12a)「我々は、PC(プロピレンカーボネート)がグラファイト正極上で電気化学的に分解し、ほぼ100%のクーロン効率でプロピレンガスと炭酸イオンを発生することを示す証拠をこの報告書で提示したい。」(第222頁左欄第10行〜13行)
(12b)「ガルバノスタティック電気分解の間、かなりのガス発生がグラファイト正極上で認められた。見掛け電流密度2mA/cm2でのガス発生速度を、異なるサイズの電極について、図3にプロットした。(同一電流密度で)総電流を2倍にすると、ガス発生速度は2倍以上になる。ガス発生速度はまた、電流密度を増加すると増加することが認められた。」(第223頁左欄下から第7行〜右欄第2行)
(12c)「発生したガスのガスクロ分析から、主要成分(95%超え)はプロピレンであった。微量(1%未満)のCO2、H2及びエチレンが検出された。電解液のガスクロ分析は、電気分解後、新しい組成物としてプロピレンと微量の水分の存在を示した。他の新しい組成物は検出されなかった。」(第223頁右欄第3行〜10行)
(12d)「我々は、次の電気化学的反応を提案し、プロピレンの形成を説明する。」(第223頁右欄第11行〜14行)
(12e)「したがって、PCは、グラファイト基材上で、リチウムに対して実質的に正の電位で、極めて効率的に電気化学的に分解することが確認できた。」(第224頁左欄第11行〜14行)
(13)甲第13号証:J.O.Besenhard and H.P.Fritz,「アルカリ及びNR4+塩の有機溶液中でのグラファイトのカソード還元」 Electroanalytical Chemistry and Interfacial Electrochemistry, 第53巻(1974年)第329-333頁
(13a)「遊離LiによるPCの還元は、熱力学データより予測できるが、不動態皮膜により非常にゆっくりと起こる。しかし、この反応は、水銀アマルガムにより活性化されたLiでは非常に早く、主生成物としてLiCO3とプロペンを生じる。これらの生成物はまた、LiClO4/PC中で、Liに対して+0.6〜1Vの電位で、グラファイト正極に形成される。」(第332頁下から第2行〜第333頁第6行)
(14)甲14号証:G.Eichinger,「プロピレンカーボネートのカソード分解反応」 J. Electroanal. Chem. 第74巻 (1976年)、第183-193頁
(14a)「Dey及びSullivan〔5〕によって報告されているように、PCは、グラファイト電極上で、リチウムに対し約+0.6Vの電位(電流密度2mA/cm2)で分解し、プロペンと炭酸塩を形成する。この反応は表面効果に基づく。しかし、新たな結果は、溶媒が分解するのとほぼ同じ電位(SCEに対し約-2.0V)で、アルカリ金属のグラファイト格子中へのインタカレーションが起こることを指摘している〔8,9〕。」(第184頁下から第6行〜末行)
(14b)「グラファイトと他の活物質の中間の状態を示す高表面積電極として、カーボンフェルトを選択した。(中略)これらの結果は、カーボンフェルトの場合、アルカリ金属のインタカレーションよりも溶媒の分解が起こることを指摘している。これはカーボンフェルトが層状組織を有しないからである。PC中でのカソード分極を数時間行なうと、電極は白色の析出物で覆われ、これは炭酸塩であることが定量分析から明らかになった。プロペンの形成もc.v.(サイクリックボルタンメトリ)から明らかになった。」(第187頁下から第13行〜第188頁第3行)
(14c)「すべての実験において、測定電極において著しいガス発生が起こった。」(第189頁下から第6〜5行)
(15)甲第15号証:最新電池ハンドブック、第2版、ダヴィッド・リンデン編、高村勉監訳、(株)朝倉書店、1996年12月20日初版第1刷、第638頁及び652頁
(16)甲第16号証:特開平1-294372号公報(昭和63年5月23日出願、平成1年11月28日公開、出願人:ソニー株式会社)
(17)甲第17号証:山口祥司、炭素、1999年(No.186)第39〜44頁
(17a)「非晶質炭素系負極を用いたリチウムイオン電池は主としてPC系電解液が用いられてきたが、PC系電解液中で黒鉛にリチウムをインターカレーションしようとしてもPCが黒鉛上で分解しLi-GICを形成することができないことが知られている。そこで黒鉛系負極でも分解しないエチレンカーボネート(EC)系電解液が開発され実用化されることとなった。」(第40頁左欄下から第14〜8行)
(18)甲第18号証:平成12年3月22日付面接記録
(19)甲第19号証:平成12年3月22日付面接において被請求人が提出した資料
(20)甲第20号証:平成10年11月18日付特許異議意見書

(口頭審理時に提出されたもの)
(21)甲第21号証:実開昭59-178866号公報
(21a)「発電要素への電解液の注液はこの発電要素を電池外装缶に挿入後、電池外装缶の上方開口部より注液装置を用いて行なわれる。この注液の際電解液は電池外装缶内の空気との置換や電極及びセパレータとのなじみを経て発電要素の上部より下部へと浸潤する。」(第1頁下から第3行〜第2頁第3行)
(22)甲第22号証:「特許・実用新案審査基準 第2章 新規性進歩性」特許庁編、発行社団法人発明協会、平成5年7月20日初版発行
(23)甲第23号証:J. A. R. Stiles, J. Power Sources, 26:第233-242頁(1989)
(23a)「リチウム モリブデン ジスルフィド化合物を用いた「AA」サイズの二次電池は、Mori Energy Limitedで、1985年以降パイロットプラント規模で、そして1987年9月以降商用規模で、製造されている(第233頁 Introductionの第1〜3行)
(24)甲第24号証:「最新電池ハンドブック」ダヴィッド・リンデン編、高村勉監訳、(株)朝倉書店、1996年12月20日初版第1刷)第623〜626頁、657頁

(口頭審理後に提出されたもの)
(25)甲第25号証:US特許4,104,451号明細書及び抄訳
(25a)「セルの電気化学的特性に及ぼす特定の電解液組成物の影響は、その相対的な安定性に基づいて著しいか、その影響は他の要因に基づいている。一つの特定の電解液組成物は、所定の負極-正極の組み合わせに非常に効果があるかもしれないが、別の組み合わせには効果がないかもしれない。この理由は、第2の組み合わせには効力がないか、サイクル中に存在する条件下でそれ自身が反応するかのいずれかである。」(第1欄第40〜48行)
(26)甲第26号証:Sanjay L. Deshpande and Douglas N. Bennion; Lithium Dimethyl Sulfite Graphite Cell, J. Electrochem. Soc.: ELECTROCHEMICAL SCIENCE AND TECHNOLOGY,Vol.125,No.5(May,1978),第687〜692頁及び抄訳
(27)甲第27号証:電解液実験報告(2004年7月12日付)
(28)甲第28号証:特開昭51-76531号公報
(28a)「リチウムを含む陰極と、リチウム・イオンを含む融解塩電解質と、少なくとも1つの選択された遷移金属カルコゲン化物を含む陽極とを有する再充電可能な電気エネルギ蓄積装置において、前記陽極は、・・・電気エネルギ蓄積装置。」(特許請求の範囲第1項)
(28b)「陽極材料が元素の硫黄であったときには起こらなかったいくつかの問題が、遷移金属カルコゲン化物を陽極材料として使用した場合に生じるということである。更に詳細には、活性陽極材料として硫化鉄を使用した電池の放電中には、硫化鉄はリチウムと反応して元素の鉄と硫化リチウムを形成する。このように生じた鉄と硫化リチウムは原の硫化鉄の容積の約2倍の容積を占める。従って、このような容積の膨張を許容するようにマトリックス内に十分な空の空間が残されていなければならない。」(第4頁右上欄第7〜17行)
(28c)「カルコゲン化物に対してあたえられる空間の体積は、このような膨張を許容するに十分な大きさでなければならない。また、電極内に満足すべきイオン伝導をあたえるためには、溶融塩電解質に対して約20乃至70%の自由容積を割当てなければならない。従って、カルコゲン化物は、通常はあたえられた容積の約15乃至40%だけを占めるであろう。」(第6頁左上欄第8行〜18行)
(29)甲第29号証:US特許4,029,860号明細書
(29a)「セルは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属、多くは合金を負極活物質として、金属カルコゲン化物を正極活物質として、及び金属硫化物又は金属カルコゲン化物を正極電極中の活物質として使用する。・・・これらのセルは溶融塩電解質を使用して、高温で作動することができる。」(第1欄第17行〜25行)
(29b)「これらの高温セルに加えて、本発明はまた、常温で作動される他のタイプのセルにも適用可能である。」(第1欄第39〜41行)
(29c)「セルは、・・・外部ハウジング11に収容されている。ハウジングは、膨張スペースを除いて、正極電極と負極電極の中間の電気的に絶縁された多孔性のファブリック19を浸透する液体電解質19で充填されている。」(第3欄第11〜14行)
(29d)第1図には、ハウジング内に「空隙」を残して電解液が充填されていることが記載されている。
(30)甲第30号証:特開昭57-136760号公報
(30a)「軽金属を負極活物質、非水プロトン系溶媒を電解液とする電池において、金属製電槽内容積の1.0〜20%の容積を有する金属製ベローズを設け、密閉構造とする有機電解質電池。」(特許請求の範囲第1項)
(30b)「最近、非水電解液の電池が高エネルギー密度電池として注目され、小型ボタン形電池として、例えば、負極活物質にリチウム、正極活物質に・・・酸化物や・・・ハロゲン化物等を用い、・・・実用化されている。その理由としては、・・・本質的にガス発生がなく密閉化しやすい。但し、外部から水分が侵入したりすれば激しいガス発生を起こすことがあり、材料は十分吟味精製し、制作過程にも細心の注意が必要である。」(第1頁左下欄第15行〜右下欄第11行)
(30c)「海水中へ浸漬して使用したとしても、・・・ベローズ5はさほど体積補償を行う必要はない。すなわち海面下1000mの圧力・・・がかかったとしても、電解液の体積変化はたかだか0.5%内外であって、むしろ温度変化による体積変化の方が大きい。ところが・・・水温はいつも5℃〜10℃の範囲であることから、さほど広い温度範囲をカバ-する必要はない。従ってせいぜいベローズ5の体積変化の範囲は電池内容積の1〜3%位で十分である。しかし、電池内のガス発生を全く無しとするわけにはいかないことから、これに応えるためにベローズ5は、電池容積の10%程度の体積変化能力を与えればよい。従ってベローズ5の体積調整範囲は、電池内容積の20%以下で十分であり、数%でも実用上さしつかえない。」(第2頁左下欄第2行〜右下欄第1行)。
(31)甲第31号証:特開昭58-111265号公報
(31a)「リチウム塩を溶解した有機溶媒を電解液とし、負極材料として、リチウム-水銀合金を用いることを特徴とする有機電解液二次電池。」(特許請求の範囲)
(31b)「正極材料は、リチウムとの反応に対してすぐれた可逆性をもつといわれているバナジン酸銅(Cu2V2O7)を活物質として用いた。」(第2頁右下欄第14〜16行)
(31c)「本発明の負極材料について急速充放電に対する依存性を検討するために第5図に示すようなセルを構成した。セル構成は、負極材料(リチウムアマルガムまたはリチウム金属単体)16、2枚で・・・セパレータ17をはさみ、負極材料の外側にニッケル線リード18を溶接したニッケルネット19をそれぞれ圧着し、さらにその外側から、フッ素樹脂製の板20で固定したもので、これをガラスセル21中の・・・プロピレンカーボネート電解液電解液22に浸漬し、シリコーンゴム栓23で密封したものである。・・・10mA定電流充放電では、リチウム金属単体の場合、試験直後から充電されている側でガス発生がみられたが、リチウムアマルガムの場合、数サイクル充放電を繰り返した後にはじめて充電側のガス発生がみられた。」(第4頁左上欄第14行〜左下欄第2行)
(31d)第5図には、2枚の負極材料16でセパレータ17をはさみ、ガラスセル21中のプロピレンカーボネート電解液22に浸漬し、シリコーンゴム栓23で密封して構成した負極材料についての充放電試験用のセルの縦断面図が示され、該充放電試験用のセルの縦断面図によれば、ガラスセル21内に電解液22が「空隙」を残して充填されていることが示されている。(第6頁第5図)
(32)甲第32号証:特開昭58-121563号公報
(32a)「塩化チオニル、塩化スルフリル、塩化ホスホリルなどのオキシハロゲン化物を電解液の溶媒および正極活物質とし、アルカリ金属を負極活物質とする無機電解質電池において、電池内に電解液の10〜30容量%に相当する空間を設けたことを特徴とする無機電解質電池。」(特許請求の範囲)
(32b)「従来構造の電池はそのような高温下で使用すると電池容器にふくれが生じ、場合によっては電池容器と金属蓋との溶接部分が剥れて破裂するということすら生じる。
本発明者らはそのような電池のふくれの原因の究明とそれに対する防止対策を見出すべく種々研究を重ねた結果、そのような高温下での電池のふくれは電解液の膨脹によって引き起こされること、そして電池内に電解液の10〜30容量%に相当する空間を設けるときは、高温下での使用においてもふくれが生じず、かつ電池性能の低下がない無機電解質電池が得られることを見出し、本発明を完成するにいたった。」(第1頁右欄第12行〜第2頁左上欄第4行)
(32c)「第2図に示すように、従来電池と同程度の体積比率〔(空間/電解液)×100〕をもつ電池A、Bではふくれ見られるが、電解液に対する空間の体積比率を10%に増加させた電池Cではふくれがほとんど認められず、さらに体積比率を増加させた電池D、E、Fではふくれがまったく認められなかった。」(第3頁左上欄第8〜14行)
(32d)第2図には、空間の体積比率が電池Aの5%から電池Cの10%へ増加するにつれて、電池のふくれが直線的に減少すること、空間の体積比率が10%を超える電池D〜Fは、電池のふくれがほとんど0であること、が示されている。(第2頁第1表、第3頁第2図)
(33)甲第33号証:特開昭61-39464号公報
(33a)「軽金属からなる負極と、導電性高分子からなる正極と、有機電解質を溶媒に溶かした(「有機電解質を溶媒に溶かした」は、「電解質を有機溶媒に溶かした」の誤記と認める)有機電解液とを備えた二次電池であって、この二次電池内に、前記有機電解液と接触する状態で乾燥剤が挿入されていることを特徴とする有機電解液二次電池。」(特許請求の範囲第1項)
(33b)「電池に水分が混入すると、電池作動時にガスを発生したり、電極の劣化を促進する等不具合の原因となる。・・・
本発明は・・・電池制作時に空気中の水分が電池内に混入したとしても、その水分が電池に悪影響を及ぼさない状態とすることにある。」(第1頁右下欄第8行〜第2頁左上欄第1行)
(33c)第1図には、第1実施例の有機電解液二次電池の断面図が、第2図には、第2実施例の有機電解液二次電池の断面図が示され、これら第1図、第2図の断面図によれば、電池容器内に空隙を残して有機電解液が充填されていることが示されている。
(34)甲第34号証:特開昭62-110258号公報
(34a)「本発明の対象とする二次電池では、放電時に正極活物質中にLiが反応して入ってくるので、正極は膨張し、放電時にはLiが出てゆくので正極は収縮する。そしてこのサイクルをくり返すと、正極は膨張収縮をくり返すことになる。TiS2にカーボンブラックを用いた正極も、サイクルに伴い膨張収縮を起こすものであった。
TiS2にカーボンブラックとポリ4フッ化エチレン樹脂を混合して形成した正極をビーカーセル中でリチウム照合電極に対して、その充放電挙動を測定すると、・・・その集電性の高さゆえにそのサイクル性はすぐれたものであった。
また同様の検討をTiS2以外に、・・・等の活物質についても・・・いずれも良いサイクル性を示した。しかし、上記のいずれの活物質の場合にも、深い放電、特にリチウムの照合電極に対して、1.0V以下の電位に達すると、正極からのガス発生が起った。
これは電解液の溶媒にプロピレンカーボネート、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン等の有機溶媒を使った時のカーボン特有の現象で、その電解触媒作用によって、電解液の分解を起こしたためである。この分解は、電池の性能を著しくそこなうばかりか、ガス発生により密封電池の内圧を高め、電池の破壊さえ起こす恐れがある。そこでこの問題を解決するためにカーボンブラック以外の導電材料として、金属 Cu粉体や・・・TiO粉体等を検討したが、いずれも活物質利用率が低くサイクル性も悪く、カーボンブラックに匹敵するものとはならなかった。」(第1頁右下欄第17行〜右上欄第9行)
(35)甲第35号証:特開昭62-115666号公報
(35a)「このような二次電池では、放電時に正極活物質中にLiが反応して入ってくるので、正極は膨張し、放電時には、Liが出てゆくので正極は収縮する。そしてこのサイクルをくり返すと、正極は膨張収縮をくり返すことになる。TiS2にカーボンブラックを用いた正極も、サイクルに伴い膨張収縮を起こすものであった。
TiS2にカーボンブラックとポリ4フッ化エチレン樹脂を混合して形成した正極をビーカーセル中でリチウム照合電極に対して、その充放電挙動を測定すると、・・・その集電性の高さゆえにそのサイクル性はすぐれたものであった。
また同様の検討をTiS2以外に、・・・等の活物質についても・・・いずれも良いサイクル性を示した。しかし、上記のいずれの活物質の場合にも、深い放電、特にリチウムの照合電極に対して、1.0V以下の電位に達すると、正極からのガス発生が起った。
これは電解液の溶媒にプロピレンカーボネート、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン等の有機溶媒を使った時のカーボン特有の現象で、その電解触媒作用によって、電解液の分解を起こしたためである。この分解は、電池の性能を著しくそこなうばかりか、ガス発生により密封電池の内圧を高め、電池の破壊さえ起こす恐れがある。そこでこの問題を解決するためにカーボンブラック以外の導電材料として、金属 Cu粉体や・・・TiO粉体等を検討したが、いずれも活物質利用率が低くサイクル性も悪く、カーボンブラックに匹敵するものとはならなかった。」(第1頁右下欄第18行〜右上欄第10行)
(36)甲第36号証:特開昭63-114056号公報(昭和63年5月18日公開)
(36a)「水素/炭素の原子比が0.15未満;・・・G値が2.5未満;かつ、・・・面間隔(d002)が3.37Å以上;及び・・・(Lc)が150Å以下;である炭素質物を担持体とし、活物質がリチウム又はリチウムを主体とするアルカリ金属である負極体を具備していることを特徴とする非水溶媒二次電池。」(特許請求の範)
(36b)「負極体の担持体は、後述する炭素質物の粉末成形体である。この炭素質物は、H/C 0.15未満、G値2.5未満、及びd0023.37Å以上でかつ、Lc 150Å以下のパラメータで特定される炭素質物である。
ここで、G値とは、・・・その炭素質物の黒鉛化度の尺度に相当する。
すなわち、この炭素質物は結晶質部分と非結晶質部分との集合体であるが、G値はこの集合体組織における結晶質部分の割合を示すパラメータである。(中略)
これらパラメータのいずれもが、とりわけH/C及びd002、Lcのいずれもが、上記範囲から逸脱している場合は、負極体における充放電時の過電圧が大きくなり、その結果、負極体からガスが発生して電池の安全性が著しく損われる。しかも充放電サイクル特性も不満足になる。
・・・(中略)・・・
このようなパラメータを有する炭素質物は、・・・有機高分子化合物、縮合多環炭素水素化合物、多環複素環系化合物の1種又は2種以上を焼成・熱分解し炭素化することによって調整することができる。この炭素化過程で重要な因子は熱処理温度であって、この温度が低すぎる場合は、炭素化が進まず、また高すぎる場合は炭素質状態から黒鉛に転化してG値が大きくなってしまうからである。用いる出発源によっても異なるが、熱処理温度は通常800〜3000℃の範囲に設定される。」(第3頁左上欄第1行〜左下欄第4行)
(36c)「本発明の二次電池は、上記した炭素質物の担持体にLiまたはLiを主体とするアルカリ金属を担持せしめて負極体とし、・・・
このときの担持の方法としては、・・・Liイオン又はアルカリ金属イオンは担持体の層間にドープされてそのに担持されることになる。(第3頁右下欄第19行〜第4頁右上欄第12行)
(37)甲第37号証:本件の「特許願」書類の表紙

なお、甲第9、15〜17、23及び24号証の刊行物は、本件特許の出願前に頒布されたものとは認められないから、本件発明に29条第1項第3号乃至同条第2項の規定を適用する際の先行する技術思想乃至技術水準を立証する証拠方法としては採用できない。

IV.被請求人の反論と証拠方法
1.被請求人の反論
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、本件発明に係る特許には、請求人が主張するような無効理由は存在しない旨主張している。
なお、被請求人の具体的な主張は、下記「V.2.被請求人の主張に対して」の項に記載のとおりである。
2.証拠方法
被請求人が提出した参考資料1乃至参考資料3は、次のとおりである。
(1)参考資料1:被請求人従業員、永峰政幸作成に係る平成16年9月17日付「陳述書」
リチウムイオン二次電池(有機電解液系二次電池)の開発の経緯を説明するもの。
(2)参考資料2:被請求人従業員、山平隆幸作成に係る平成16年10月15日付「陳述書2」
有機電解液系二次電池における負極材料と充放電時のガス発生との関係を説明するもの。
(3)参考資料3:被請求人従業員、山平隆幸作成に係る平成16年10月15日付「陳述書3」
本件発明の開発過程において行った実験結果の業務報告書について説明するもの。

V.当審の判断
1.無効理由2について
(1-1)甲第1号証記載の発明
甲第1号証の上記(1a)の第1項には、「遷移金属のカルコゲン化合物からなる正極材と;リチウム金属を含む物質からなる負極材と;(a)プロピレンカーボネート・・・、(b)tert-ブチルエーテル・・・ならびに(c)リチウム塩からなる非水電解液とから構成されることを特徴とする二次電池」と記載され、上記(1a)の第2項には、該第1項を引用して、「負極材がリチウム含有有機物焼成体である」と記載され、また、上記(1c)には、正極材の「遷移金属のカルコゲン化合物」について、「遷移金属のカルコゲン化合物の具体例としては、・・・LiCoO2・・・などの酸化物;・・・があげられる。」と記載され、さらに、上記(1g)には、電池を作製する際に、「正極缶(1)の開口部を内方へ折曲し封口」することが記載されているから、「遷移金属のカルコゲン化合物」として「LiCoO2」を選択した場合について、これらの記載を本件発明の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、
「有機焼成体よりなる負極と、LiCoO2を含んだ正極と、電解液とが容器内に収納されてなる非水電解液二次電池」という発明(以下、「甲1発明」という)が記載されていると云える。

(1-2)本件発明と甲1発明との一致点、相違点
本件発明と甲1発明とを対比すると、両者は、
「有機焼成体よりなる負極と、LiCoO2を含んだ正極と、電解液とが容器内に収納されてなる非水電解液二次電池。」である点で一致するが、次の点で相違する。
相違点:
本件発明では、「電解液量を調整することで容器内に容量1AH当たり0.4cc以上の空隙が設けられてなる」のに対し、甲1発明では、そのような空隙を設けることについて規定されていない点。

(1-3)相違点の検討
(1)甲第1号証第1図の「空白部分」について
甲1発明に「空隙」が存在するか否かについて、改めて甲第1号証を検討すると、甲第1号証記載の発明は、従来のリチウム二次電池の充放電サイクルが短いという問題点を背景とし、充放電サイクルを向上させた二次電池を得ることを目的とし(上記(1b)参照)、上記(1a)の構成要件を採用したものである。
甲第1号証には、電池の容器内に「空隙」を設けるとの明示の記載は存在しないが、電池の一例として第1図が示され、上記(1f)には、第1図に基づき、「図において(1)は正極缶(正極集電体)、(2)は集電用金属製ネット、(3)は正極材、(4)は非水電解液を含有したセパレーター、(5)はガスケット、(6)は負極材、(7)は集電用金属製ネット、(8)は負極缶(負極集電体)である。」と図面中の各部材に付された符号の説明がなされ、また、上記(1g)には、「正極缶(1)の底面に集電用金属製ネット(2)を置き、その上に正極材(成型体)(3)を圧着する。次に正極材(3)上に非水電解液を含有したセパレーター(4)を載置した後、L字状のガスケット(5)を正極缶(1)の壁面に沿って挿入する。次いで負極材(6)を負極缶(8)に集電用金属製ネット(7)を介在させて密着させた後、セパレーター(4)上に載置し正極缶(1)の開口部を内方へ折曲し封口する。」という電池の作製法が記載されている。さらに、第1図の電池断面図には、全周に鍔のある帽子状で、内部に円板状負極材(6)が設けられた負極缶(8)の鍔部を正極缶内の断面L字状のガスケット(5)の水平部分上に載置し、正極缶(1)の開口部の折曲に伴い、断面L字状のガスケット(5)の垂直部分を負極缶(8)の鍔部上面に圧接させて封口したボタン形電池の断面図が示され、該ボタン形電池の断面図によれば、帽子状の負極缶(8)の筒状壁内面と負極材(6)の外周面との間に、符号の付されていない「空白部分」が存在する(上記(1j)参照)。

(2)甲第1号証第1図の「空白部分」が「空隙」であるか否かについて
そこで、甲第1号証第1図の「空白部分」が本件発明における「空隙」に相当するか否かについて、以下、検討する。
密閉型の電池では、温度変化や電池反応に伴い、容器内の電解液や電極材料等が膨張したり、ガスが発生したりして、容器内圧が高くなり、液漏れや容器の破裂が発生する恐れがあるので、そのような膨張や発生ガスを収容し液漏れや容器の破裂を防止するなどのために、電池容器内に空隙を設けることは、本件特許の出願前において通常のことである(例えば、甲第32号証、「新訂版 新しい電池」吉澤四郎監修、東京電機大学出版局(昭和54年9月10日第2版第2刷発行)第246〜256頁、「電池及び蓄電池」田川博著、共立出版(昭和39年6月1日初版7刷発行)第77頁第21〜23行、「電池ハンドブック」吉沢四郎監修、(株)電気書院(昭和50年4月15日第1版第1刷発行)第2-66頁第14〜17行、特開昭61-294755号公報第3頁左上欄第1〜4行、特開昭61-294772号公報第3頁左上欄第2〜4行参照)。
そして、このような事情は、密閉型の電池であれば、電池の種類、電解液の種類等によって変わらず、電解液が水系であるニッケル-カドミウム二次電池、鉛蓄電池、乾電池等だけでなく、電解液が非水系である非水電解液二次電池においても当てはまると云える。実際、甲第31号証には、2枚の負極材料16でセパレータ17をはさみ、ガラスセル21中のプロピレンカーボネート電解液(すなわち、非水電解液)22に浸漬し、シリコーンゴム栓23で密封して構成した負極材料についての充放電試験用のセルが記載され(上記(31c)参照)、その縦断面図を示す第5図には、ガラスセル(すなわち、電池容器)22内に非水電解液22が「空隙」を残して充填されていることが示されている(上記(31d)参照)。また、甲第33号証には、軽金属からなる負極と、導電性高分子からなる正極と、電解質を有機溶媒に溶かした有機電解液(すなわち、非水電解液)とを備えた二次電池において(上記(33a)参照)、その実施例の二次電池断面を示す第1、2図には、電池容器内に空隙を残して非水電解液が充填されていることが示されている(上記(33c)参照)。
してみると、甲1発明の封口された(すなわち、密閉型の)非水電解液二次電池は、負極材外周面と負極缶内面との間に第1図に示された符号の付されていない「空白部分」であって電解液が存在しない空間、すなわち、「空隙」が存在するものと解するのが相当である。
しかしながら、甲第1号証には、「容量1AH当たり0.4cc以上の空隙」を設けることについての明示的な記載がないから、以下、他の甲号証や周知事項に基づいて、そのような構成を容易に想到し得るか否かについてさらに検討する。

(3)本件発明における「容量1AH当たり0.4cc以上の空隙」を設けることの技術的意義について
「容量1AH当たり0.4cc以上の空隙」を設ける旨の本件発明の構成を容易に想到し得るか否かを検討する前に、まず、本件発明における「容量1AH当たり0.4cc以上の空隙」を設けることの技術的意義について検討する。
本件特許明細書によれば、本件発明は、「有機焼成体を負極の電極材料に用い、LiXCoO2(x=0.05〜1.10)を用いると、充放電中にガスが発生し、このガスの発生による内圧の上昇によって電解液の漏出や電池の破損の原因となり、実用上不都合を生じている。」(本件特許公報第3欄第36〜40行)という問題点を背景とし、「非水電解液二次電池の充放電の繰り返しにより発生するガスを原因とした電解液の漏出及び電池の破損等を防止し、長期間充放電を繰り返すことができる信頼性の高い非水電解液二次電池を提供することを目的として」(同第3欄第41〜45行)、「電解液量を調整することで容器内に容量1AH当たり0.4cc以上の空隙が設けられてなる」という構成を採用し、「充放電の繰り返しによりガスが発生した場合でも、当該ガスは容器内に設けられた空隙に収容され、電池内部の気圧が当該電池内に収容された電解液が外部に漏出たり変形したりするほど上昇することがない。」(同第5欄第29〜33行)等の作用効果を奏するものとされている。
ここで、非水電解液二次電池における充放電に伴って発生するガスは、非水電解液の分解に基づくもので、電池容器内で消費されずにガス状態のまま順次蓄積されるものと認められるし、また、10サイクルの充放電後の弁の状態や該サイクル後60日保存後の弁の状態が、比較例では、変形乃至弁作動であるのに対し、実施例では、「変化なし」乃至「変形少」であること(同第5頁表1等参照)を併せ考慮すると、本件発明は、「充放電の繰り返しにより発生し消費されないガスを容器内に設けられた空隙に収容、蓄積し、空隙が設けられていない場合や空隙量が規定値より小さい場合よりも空隙内の気圧の上昇乃至電池容器の内圧上昇を緩和し、当該電池内に収容された電解液が外部に漏出したり、安全弁が作動乃至変形したり、電池が破損したりするのを防止するか、又は、それらの事態が生起するのを遅らせ、長期間充放電を繰り返すことができる」という作用効果を奏するものと云える。

(4)甲1発明における充放電中のガス発生について
そこで、まず、甲1発明の電池系において、充放電中にガスが発生し、このガスの発生による内圧の上昇によって電解液の漏出や電池の破損の原因となるという本件発明と同様の問題点に対する認識が本件特許の出願前に存在したか否かについて検討する。
甲第36号証には、水素/炭素の原子比が0.15未満、G値が2.5未満、面間隔(d002)が3.37Å以上、(Lc)が150Å以下である炭素質物を担持体とし、活物質がリチウム又はリチウムを主体とするアルカリ金属である負極体を具備した非水溶媒二次電池において(上記(36a)参照)、炭素質物のこれらパラメータのいずれもが、とりわけH/C及びd002、Lcのいずれもが、特定範囲から逸脱している場合は、負極体における充放電時の過電圧が大きくなり、その結果、負極体からガスが発生して電池の安全性が著しく損われること、このようなパラメータを逸脱する炭素質物は、有機高分子化合物等の熱処理温度が高すぎ、炭素質状態から黒鉛に転化してG値が大きくなってしまったもの等であることが記載されている(上記(36b)参照)。そうすると、甲第36号証に記載された発生ガスは、充放電時の過電圧による非水電解液の分解に基づくものであり、電池容器内で消費されずにガス状態のまま順次蓄積され、究極的には、電池の安全性を損なう可能性があるものと云える。また、そのガス発生量は、充放電に伴うものであることから、大略、放電容量に比例するものであると云える。
これに対して、甲1発明の非水電解液二次電池においては、負極の有機焼成体は、好ましくは500〜1500℃の加熱、熱処理により製造されたものとされ、黒鉛のような高い熱処理温度で製造されるものは、好ましいものとされていないものの、500〜1500℃の加熱、熱処理により製造されたものに限定されておらず、黒鉛のようなものも包含していると云える。それ故、負極の有機焼成体として黒鉛のようなものを選択した場合には、甲第36号証に記載された前記教示からみて、充放電時の過電圧が大きくなり、その結果、負極体から放電容量に大略比例する量のガスが発生し、電池容器内で消費されることなくガス状態のまま順次蓄積され、究極的には、電池の安全性を損なう可能性があることは、容易に予測し得ることと云うべきである。

(5)電池容器内の空隙の作用効果について
次に、電池容器内の空隙の作用効果について検討する。
甲第4号証には、密閉型ニッケル-カドミウム二次電池について、充電時のガス発生による電池の内圧上昇を防止するために、特別な電池設計の特徴を組み込んでおり、その結果、電池は密閉化が可能になったこと(上記(4j)参照)、円筒形ニッケル-カドミウム電池の蓋には、過剰な過充電又は過放電速度に起因する過剰な圧力が蓄積された場合の電池の破裂を防止するために、フェイル-セイフ安全弁を組み込んでいること(上記(4l)参照)、ボタン形ニッケル-カドミウム電池は、フェイルーセイフ装置を備えていないが、異常な環境下で発生する過大な圧力上昇を解放するために、膨らむか、電気的接続を遮断するか密閉を開放するかの構造となっていること(上記(4m)参照)などが記載されている。
そして、密閉型ニッケル-カドミウム二次電池おいて、充電時のガス発生による電池の内圧上昇を防止するために組み込まれた特別な電池設計の特徴として、次のような事項が本件特許の出願前において周知である(例えば、「新訂版 新しい電池」吉澤四郎監修、東京電機大学出版局(昭和54年9月10日第2版第2刷発行)第246〜256頁参照)。すなわち、正極における酸素の発生を負極における水素の発生に優先させ、充電時に正極で発生した酸素を負極や補助電極に導き、充電時には、
O2+2H2O+4e-→4OH- という電気化学的反応で、充電終了後の放置時及び放電時には、
Cd+1/2O2+H2O→Cd(OH)2 という化学的反応で、それぞれ酸素を消費する等の手段が採用され、そのため、電極が露出する程度に電解液量は制限されている(すなわち、「空隙」が形成されている)。そして、充電時において、正極で発生した酸素は、「空隙」を介して負極や補助電極に導かれ、そこで消費される量より上回る場合には、その上回る量の酸素が「空隙」に徐々に蓄積され、容器内圧を上昇させるが(同第252頁図9.21参照)、放置時や放電時には、「空隙」に蓄積されていた酸素も負極や補助電極に導かれて消費され、上昇していた容器内圧を下降させるように構成されている。また、過大な容器内圧の上昇に対し、電池の破裂を防止するために一時的に開いて内圧を解放する安全弁等を設けることも周知である。したがって、密閉型ニッケル-カドミウム二次電池において、正極で発生し、負極で消費されるまでの一時的な期間ではあるが、安全弁が作動する前段階において、充電に伴い発生するガス(酸素)を「空隙」に収容、蓄積すること、すなわち、二次電池における「空隙」が、安全弁の作動前において、充放電に伴い発生するガスを収容、蓄積する機能を持つことは、本件特許の出願前において周知のことである。
また、甲第32号証には、電解液の膨張による電解液の体積増加分を収容するために電池内に電解液の10〜30容量%に相当する空隙を設け、それにより電池容器のふくれや破裂を防止する旨(上記(32b)参照)、電解液に対する空間の体積比率を増加すれば、電池のふくれが減少する旨(上記(32d)参照)が記載されている。そして、このような記載からみれば、電池内構成物質の膨張によりその体積増加分だけ空隙内の気体が圧縮され、気体の押し除けられた領域が収容空間となり体積増加分が収容されること、その際、該空隙内の気体は、圧縮により圧力が増加し、容器内圧も上昇するが、空隙を大きくすることにより、内圧上昇の程度を緩和し、電池容器のふくれや破裂が生じる圧力に到達するのを防止できることが教示されていると云える。
そして、密閉型の電池において、空隙が小さければ、電池内構成物質の膨張や少量のガス発生ですぐに内圧が上昇し、安全弁が作動したり、電池容器が破裂したりするような内圧に到達することは、前記教示やボイルシャルルの法則からみて当業者に自明のことであるし、本件特許の出願前において、周知のことでもある(例えば、特開昭61-294755号公報第3頁左上欄第1〜4行、特開昭61-294772号公報第3頁左上欄第2〜4行参照)。
以上のような周知乃至当業者に自明の事項は、換言すれば、空隙を大きくすることにより、安全弁の作動乃至電池容器の破裂までにより多くのガスを収容できること、そして、そのガスが充放電に伴い発生し、容器内で消費されず順次蓄積される場合においても、安全弁の作動乃至電池容器の破裂までの充放電期間を長期化できることは周知のことと云える。

(6)非水電解液電池の寿命と電池容器の密封性について
非水電解液電池の寿命と電池容器の密封性との関連について検討するに、非水電解液電池においては、水分が存在すると激しいガス発生を起こし電池機能が阻害されることは、本件特許の出願前において周知のことであり、そのような水分の混入防止のため、材料の吟味精製、乾燥雰囲気での電解液注入等の対策が採られている(例えば、甲第30号証の外、「電池」吉澤四郎編、(株)講談社(1982年5月1日発行)185頁、225〜229頁参照)。
それ故、非水電解液電池においては、外気等の水分が侵入しないように完全に密封されているところ、内圧が上昇し、電池容器が破裂すれば、電池寿命の終焉になることは当然であるが、電池容器の破裂を防止するため内圧を逃がす安全弁を設けた場合においても、安全弁が作動すると、安全弁を介して外気等の水分が侵入し、電池寿命の終焉となることは、本件特許の出願前に周知のことである。

(1-4)本件発明の「容量1AH当たり0.4cc以上の空隙」という相違点の容易性について
上記(1-3)(4)〜(6)の事項を考慮すると、甲第1発明の非水電解液二次電池は、充放電に伴ってガスが発生し、容器内で消費されずに蓄積し、徐々に内圧が上昇することが予測し得るところ、発生ガスの蓄積により徐々に内圧が上昇し、究極的には、電池容器の破裂や安全弁の作動により電池寿命が終焉となることが当業者に自明であり、かつ、空隙を大きくすることにより、安全弁の作動乃至電池容器の破裂までにより多くのガスを収容、蓄積でき、充放電期間を長期化できることも当業者に周知のことであるから(例えば、甲第32号証、特開昭61-294755号公報第3頁左上欄第1〜4行、特開昭61-294772号公報第3頁左上欄第2〜4行参照)、甲1発明の非水電解液二次電池において、安全弁の作動乃至電池容器の破裂までの電池寿命を永くするために、電池容器内の「空隙」を所定以上の大きさとすることは、当業者が容易に想到し得ることと云うべきである。
そして、充放電に伴って発生するガスの量は、負極の有機焼成体の種類、電解液の種類等により大きく異なると認められる(例えば、上記(10f)、(17a)参照)にも拘わらず、本件発明における「0.4cc」は、特定の条件で実験をした結果から、0.4cc以上としておけば、他の条件でもある程度安定的な結果が得られるであろうという推定に基づいて出された数値と認められる。したがって、その数値自体には臨界的な意義はないから、「空隙」の大きさを「容量1AH当たり0.4cc以上」とすることは、電池容器内の「空隙」を所定以上の大きさとする際に、当業者ならば実験により簡単に導き出すことができる程度のものと云える。

(1-5)小括
以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1号証、甲第4号証に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと云うべきである。

2.被請求人の主張に対して
(2-1)被請求人の技術的背景に関する主張に対して
(1)被請求人は、「非水電解液二次電池においては、電極が、常に、電解液に完全に浸っていることが電池効率の観点から要求され、電池性能を最大限にするという観点からは、常にセパレータ全体を湿潤させる必要があることから、電池容器内には電解液がより多く存在することが望ましい。」(上申書第2頁末行〜第3頁第3行)と主張している。
しかしながら、電池における電解液は、電池の電気化学的な反応に際して、正・負極間においてイオンを移動させるイオン電導体として機能するものである。それ故、正・負電極や電極間のセパレータが、常に、電解液に完全に浸っていることが電池効率の観点から必要であるけれども、正・負極間においてイオン電導体として機能しない遊離の電解液は、電池反応に関与せず、電池容器の無駄な体積を増やすだけであるから、電池容器内には電解液がより多く存在することが望ましいという被請求人の主張は、妥当なものとは云えない。

(2)被請求人は、「本件特許の出願日における当業者は、・・・電池を小型化し、かつ体積エネルギー密度を最大化して電池効率を最大限にする観点から、余分な空間をできる限り少なくし、電池容器内一杯に電解液を注入することを当然と考えていた」(同第3頁第13〜18頁)と主張している。
しかしながら、電池の体積エネルギー密度を向上する上で、電池反応に関与する電池内容物を最大限詰め込み、電池反応に関与しない無駄な電解液や空隙をできるだけ少なくしようとする課題が存在するとしても、電池反応に対する関与の有無に関係なく、(無駄な遊離の)電解液を容器内一杯に注入しなければならないという技術常識が存在したとは認められない。そして、そのことは、前記(1-3)(2)で述べた密閉型の電池における周知事項や、前記(1)で述べた電解液の機能からみても明らかである。
なお、参考資料1の永峰政幸作成の陳述書には、「コイン型リチウムイオン一次電池においては、電池缶を組み立てる時点で、電解液を最大限に入れることが技術常識でした。」、「本件特許第2646657号の発明者らは、コイン型リチウムイオン一次電池における技術常識を前提として、電池缶内に電解液を最大限に充填しました。」と述べられている。しかしながら、そのような陳述書は、永峰政幸氏個人の見解を述べたものに過ぎず、そのような陳述書のみで、リチウムイオン電池において、電解液を容器内一杯に注入しなければならないという技術常識が存在していた旨が立証されるとは云えない。
したがって、当業者は、電池容器内一杯に電解液を注入することを当然と考えていた旨の被請求人の主張は、採用できない。

(3)被請求人は、「本件特許の出願日における当業者は、非水電解液二次電池において、通常の充放電時に発生するガスにより、電解液の漏出や電池の破損が生じることまでは認識していなかったから、そのようなガスを収容する目的で、敢えて電池性能(特に小型化、高容量化)を犠牲にする可能性があるにも拘わらず電池容器内に『空隙』を設けるという発想は、全く存在しなかった。すなわち、本件特許の出願日における当業者は、非水電解液二次電池を開発するに当たり、電池性能を犠牲にして『充放電時に発生するガスを収容する目的で容器内に空隙を設ける』という発想はない」(上申書第3頁第7〜15行)と主張している。
しかしながら、前記(1-3)(4)で述べたように、甲第36号証には、本件発明や甲1発明等と同様の有機焼成体よりなる負極を具備する非水電解液二次電池において、有機焼成体が所定のパラメータ範囲を逸脱している場合、充放電時にガスが発生し、電池の安全性が著しく損なわれることが記載されているから、被請求人の「非水電解液二次電池において、通常の充放電時に発生するガスにより、電解液の漏出や電池の破損が生じることまでは認識していなかった」という主張は、妥当なものでなく採用できない。
また、密閉型ニッケル-カドミウム二次電池の「空隙」は、正極で発生した酸素を「空隙」を介して負極や補助電極に導くだけでなく、安全弁の作動前において、充放電に伴い発生するガスを収容、蓄積する機能を持つことは、前記(1-3)(5)で述べたように、本件特許の出願前において周知のことである。さらに、電池内の「空隙」が、電池内構成物質の膨張やガスの発生に対し、内圧上昇の程度を緩和し、電池容器のふくれや破損が生じる圧力に到達するのを防止する機能を持つことも、前記(1-3)(5)で述べたように、本件特許の出願前において周知のことである。
したがって、被請求人の「(充放電に伴い発生する)ガスを収容する目的で、敢えて電池性能(特に小型化、高容量化)を犠牲にする可能性があるにも拘わらず電池容器内に「空隙」を設けるという発想は、全く存在しなかった。」という主張は、妥当なものではない。

(4)被請求人は、「本件特許の発明者は、開発当初は電解液を容器内一杯に注入していたが、評価中に電池の蓋が開放されてしまうなど、頻繁に評価不可能となる事態が発生したため、材料・構造・設計・製造技術など多方面から原因究明に務めた結果、電解液を容器内一杯に注入せず、電池缶内に適切な「空隙」を設けることにより、これを回避できることを突き止め、本件特許の構成に想到したものである。」(上申書第3頁第19〜24行)と主張している。
しかしながら、前記(3)で述べたように、電池内の「空隙」が、充放電に伴い発生するガスを収容、蓄積する機能、及び、電池内構成物質の膨張やガスの発生に対し、内圧上昇の程度を緩和し、電池容器のふくれや破裂が生じる圧力に到達するのを防止する機能を持つことは、本件特許の出願前において周知のことである。それ故、本件発明の発明者が電池内に適切な「空隙」を設けることにより、電池容器の破損等を回避できることを突き止めた旨は、前示の周知技術レベルに到達したことを意味するに過ぎず、格別に評価すべき事項ではないと云うべきである。
したがって、被請求人の前記主張は、採用できない。

(2-2)被請求人の甲各号証の記載に関する主張に対して
(1)被請求人の甲第1号証の記載に関する主張に対して
(i)被請求人は、甲第1号証には、そもそも空隙ができる旨の記載は一切存在しないし、また、電池性能を最大限にするという観点からは、常にセパレータ全体を湿潤させる必要があり、電池容器内には電解液がより多く存在することが望ましいから、甲第1号証の実施例3においても、非水電解液が電池容器内一杯に注入され、空隙は存在していないものと推察するのが自然且つ合理的である旨を主張している(上申書第4頁第18行〜第5頁第1行)。
しかしながら、甲1号証の第1図に記載された電池には、「空隙」が存在するものと解するのが妥当であることは、前記(1-3)(1)で述べたように、甲第1号証の第1図の電池断面図には、符号が付されていない「空白部分」が存在すること、前記(1-3)(2)で述べたように、密閉型の電池では、温度変化や電池反応に伴い、容器内の電解液や電極材料等が膨張したり、ガスが発生したりして、容器内圧が高くなり、液漏れや容器の破裂が発生する恐れがあるので、そのような膨張や発生ガスを収容し、液漏れや容器の破裂を防止するなどのために、電池容器内に空隙を設けることは、本件特許の出願前において通常のことであること、そのような事情は、密閉型の電池であれば、電池の種類、電解液の種類等によって変わらず、電解液が水系であるニッケル-カドミウム二次電池、鉛蓄電池、乾電池等だけでなく、電解液が非水系である非水電解液二次電池においても当てはまると云えること、そして、実際、甲第31号証及び甲第32号証の非水電解液二次電池の断面を示す図面には、電池容器内に空隙を残して非水電解液が充填されていることが示されていることから明らかである。
したがって、甲第1号証の実施例3においても、電池容器内に空隙は存在していないと推察するのが自然且つ合理的である旨の被請求人の主張は採用できない。
(ii)被請求人は、「甲第1号証の実施例3の負極材料に炭素材料とリチウム箔を貼り合せて使用した系においてガスが発生しているか、及び発生するとしてもどの程度発生するかについて、少なくとも甲第1号証には何らの記載もないし、また、この実施例の記載からはこの様な系においてガスが発生すると認めることはできない。なお、請求人の引用する甲第36号証及び甲第10号証はいずれも、リチウムイオン電池においてグラファイト正極上で電解液が分解することを示しているが、甲第1号証の実施例3におけるようなリチウム箔を炭素材料に貼り合わせた例ではない。」(上申書第7頁第5〜12行)と主張している。
しかしながら、甲第1号証には、負極材として、炭素質焼成体とリチウム箔を貼り合せて使用したものだけでなく、甲第36号証に記載のものと同様の(リチウム箔を貼り合せることなく)リチウムを含有した炭素質焼成体を使用するもの(実施例2参照)も記載されている。また、炭素質焼成体とリチウム箔を貼り合せて使用したものも、充放電を繰り返すことにより、リチウム箔のリチウムは、リチウムイオンとして炭素質焼成体にドープされるから、甲第36号証に記載のものと同様のリチウムを含有した炭素質焼成体を使用する電池系となることは明らかである。したがって、甲第1号証記載の電池系でガスが発生することは、甲第36号証記載の電池系におけるガス発生の教示から明らかであり、被請求人の前記主張は、妥当なものではない。

(2)被請求人の甲第4号証の記載乃至周知の密閉型ニッケル-カドミウム二次電池に関する主張に対して
(i)被請求人は、“本件特許発明の技術であるリチウム複合酸化物を正極活物質として用い、炭素質材料を負極活物質として用いる非水電解液二次電池は、密閉型ニッケル-カドミウム二次電池等の1984年当時に知られていた二次電池とは異なる新しいタイプの電池であるから、それら従来の電池に関する知見を当然に適用できるものではない”(上申書第10頁第15〜20行参照)と主張している。
しかしながら、前記(1-3)(5)や前記(2-1)(3)で述べたように、密閉型ニッケル-カドミウム二次電池の「空隙」は、安全弁の作動前において、充放電に伴い発生するガスを収容、蓄積する機能を持っており、そのような機能の点で本件発明の「空隙」と共通する部分を有している。そして、そのような電池内の「空隙」の機能は、密閉型の電池であれば、種類に依存しないことが明らかである。
したがって、密閉型ニッケル-カドミウム二次電池の「空隙」を甲1発明のような密閉型を前提とする非水電解液二次電池に適用できないという被請求人の主張は、妥当なものとは云えない。
(ii)被請求人は、“密閉型ニッケル-カドミウム二次電池の「空隙」は、本件発明のように、通常の充放電時に発生するガスによる、電解液の漏出や電池の破損が生じることを防止するための圧力緩衝機能を発揮させる目的で設けられたものではない”(上申書第10頁第23〜末行)と主張している。
しかしながら、前記(1-3)(5)で述べたように、電池内の「空隙」が、電池内で発生するガスに対し、電解液の漏出や電池の破損が生じることを防止するための圧力緩衝機能を有することは、本件特許の出願前周知のことであるから、密閉型ニッケル-カドミウム二次電池の「空隙」がそのような圧力緩衝機能を有することも周知である。
したがって、密閉型ニッケル-カドミウム二次電池の「空隙」は、通常の充放電時に発生するガスによる圧力緩衝機能を発揮させる目的で設けられたものではないという被請求人の主張は、採用できない。

(3)被請求人の甲第31号証、甲第33号証の記載に関する主張に対して
被請求人は、甲第31号証の第5図に関して、「第5図は『充放電試験用のセル』の断面図である(甲第31号証、第(5)頁左上欄4行)。このような試験用のセルはいわゆる『ビーカーセル』と称される試験のために構成されたセルであって、市販用の電池のように軽量小型化という課題が無く、また電池内部に空隙を設けて安全性を確保する必要も無い。従って、甲第31号証には、リチウムメタル二次電池で発生したガスを収容する目的で『空隙』を設けた旨の記載も示唆も無い。しかも、リチウムメタル二次電池においてガスはほとんど発生しないか、発生したとしてもその量はわずかである(参考資料2)。」(上申書第19頁第8〜16行)と、また、甲第33号証の第1図、第2図に関して、「第1図及び第2図は試験用のいわゆる『ビーカーセル』であり、既に述べたように、市販用の電池のように軽量小型化という課題が無く、また電池内部に空隙を設けて安全性を確保する必要も無い電池である。」(上申書第20頁第9〜12行)と、それぞれ主張している。
しかしながら、甲第31号証の第5図、及び、甲第33号証の第1図、第2図に記載されたものは、非水電解液を用いた「充放電試験用のセル」ではあるが、「非水電解液二次電池」であることに間違いはないし、「空隙」が存在することは、それらの図面の記載から明らかである。それ故、甲第31号証、甲第33号証のこのような記載からみれば、本件特許の出願前において、非水電解液二次電池の容器内に空隙を設ける必要がないと当業者に考えられていたとは認められない。前記(1-3)(2)や前記(2-2)(1)(i)で述べたように、密閉型の電池容器内に空隙を設けることは、電解液が水系であるニッケル-カドミウム二次電池、鉛蓄電池、乾電池等だけでなく、電解液が非水系である非水電解液二次電池においても当てはまると云える。
したがって、非水電解液二次電池の容器内に空隙を設ける必要はない旨の被請求人の主張は、採用できない。

(4)被請求人の甲第32号証の記載に関する主張に対して
被請求人は、「甲第32号証に記載の電池は、リチウム金属電池であり、さらに一次電池である点において、本件発明のリチウムイオン二次電池とは全く異なる構成の電池である。また、甲第32号証に記載の発明は、密閉構造として用いる電池であり、その上で85〜100℃という高温下で使用する場合の電解液の膨張を問題としている(請求項1、第(1)頁右欄4〜11行)。甲第32号証には本件発明におけるようなリチウムイオン二次電池における充放電の繰り返しにより発生したガスについても、このようなガス収容のための「空隙」についても全く記載されていない。」(上申書第19頁第20〜末行)と主張している。
しかしながら、前記(1-3)(5)で述べたように、甲第32号証の記載から、電池内構成物質の膨張によりその体積増加分だけ空隙内の気体が圧縮され、気体の押し除けられた領域が新たな収容空間として体積増加分が収容されること、その際、該空隙内の気体は、圧縮により圧力が増加し、容器内圧も上昇するが、空隙を大きくすることにより、内圧上昇の程度を緩和し、電池容器のふくれや破裂が生じる圧力に到達するのを防止できることが教示されていると云える。そして、本件発明における「空隙」と、甲第32号証に記載の「空隙」は、新たに形成された収容空間に収容されるものが、本件発明では「発生したガス」であるのに対し、甲第32号証では、「電池内構成物質の体積増加分」であるという差異は存在するとしても、「空隙」における気体の圧縮により圧力上昇を伴う収容空間が形成される点で格別に相違するとは云えない。また、このような電池容器内の「空隙」の機能は、密閉型であれば、電池の種類に依存しないことは明らかである。
したがって、甲第32号証には二次電池における充放電の繰り返しにより発生したガス収容のための「空隙」について記載されていない旨の被請求人の主張は、採用できない。

(5)被請求人の甲第36号証の記載に関する主張に対して
被請求人は、甲第36号証に記載の発明は、過電圧という異常時のガス発生に関するものである旨主張している(上申書第22頁第4〜6行)。
しかしながら、電池における過電圧は、充電を続ける際などにおいても発生するものであるし、また、甲第36号証の上記(36b)における「負極体における充放電時の過電圧が大きくなり、その結果、負極体からガスが発生して電池の安全性が著しく損われる。」という記載からみても、甲第36号証が教示するガス発生は、充放電に伴うものであることは明らかである。
したがって、甲第36号証に記載の発明は、過電圧という異常時のガス発生に関するものである旨の被請求人の主張は、採用できない。

VI.むすび
以上のとおり、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当するから、上記無効理由1、無効理由3について検討するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-01-11 
結審通知日 2005-01-13 
審決日 2005-01-25 
出願番号 特願昭63-125188
審決分類 P 1 112・ 121- Z (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉水 純子  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 原 賢一
綿谷 晶廣
登録日 1997-05-09 
登録番号 特許第2646657号(P2646657)
発明の名称 非水電解液二次電池  
代理人 高石 秀樹  
代理人 関山 和華子  
代理人 津国 肇  
代理人 小川 信夫  
代理人 渡辺 光  
代理人 束田 幸四郎  
代理人 伊藤 温  
代理人 市川 さつき  
代理人 城山康文  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 古田 啓昌  
代理人 熊倉 禎男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ