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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04H
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 E04H
管理番号 1130726
審判番号 不服2004-9951  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-10-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-13 
確定日 2006-02-14 
事件の表示 平成9年特許願第89800号「振動制御機構」拒絶査定不服審判事件〔平成10年10月20日出願公開、特開平10-280726〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯
本願は、平成9年4月8日の出願であって、平成16年4月8日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年5月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年6月14日付で手続補正がなされた。

【2】平成16年6月14日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年6月14日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正
本件補正は、請求項1を次のとおりに補正することを含むものである。
「構造物に作用する外力によって相対変形する第1構材と第2構材に取付けられ、構造物の振動を抑える振動制御機構において、
前記第1構材に一端が回転可能に取付けられた第1アームと、前記第2構材に一端が回転可能に取付けられ前記第1アームの長さと異なる第2アームと、前記第1アームと前記第2アームとの軸線或いはこれらの軸線の延長線が交わる角度が鋭角となるように、それぞれの自由端を回転可能に連結し円弧運動するエネルギー低減吸収手段と、を有することを特徴とする振動制御機構。」(以下、「補正発明」という。)
上記補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正発明が、その特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由で引用された、特開平8-218682号公報(以下「刊行物」という。)には、以下の記載がある。
「【請求項1】二枚の第一の板体と、この二枚の第一の板体に挟まれて圧接され、且つこの第一の板体に対して相対的に回転運動可能な第二の板体とをそれぞれの基端部で結合し、前記第一および第二の板体のうち一方の板体の他端部を基礎に、他方の板体の他端部を構造物に結合した免震ダンパーにおいて、
前記第一および第二の板体の基端部に圧縮面圧を調整自在に加える油圧シリンダーを備えてなる免震ダンパー。」
「【0009】【実施例】本発明の免震ダンパーの実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の免震ダンパーの平面図、図2は図1の一点鎖線II-IIに沿った断面図、図3は図1の免震ダンパーを設置した構造物の概略断面図、図4は図3の一点鎖線IV-IVに沿った平面図、図5は図3の一点鎖線V-Vに沿った平面図である。本実施例においては、図3及び図5に示すように、基礎26の上に積層ゴム23を載置し、更にこの積層ゴム23の上に構造物20を設置してなる免震システムに適用した免震ダンパー1を例示する。本発明の免震ダンパー1は、図1及び図2に示されているように、先端部分が尖り状に形成され、また基端部分が円板形状に形成された二枚の第一のディスク2,3と、この第一のディスク2,3と略同じ形状を有し基端部分において前記第一のディスク2,3に対して回転可能に結合された第二のディスク4と、これら第一のディスク2,3及び第二のディスク4の間に介装された摩擦材5,6と、これらディスク2,3,4に上から圧縮面圧を与えて圧接する油圧シリンダー7とを主要部として備える。
【0010】前記摩擦材5と6は、革、銅を主成分とした焼結金属あるいはその他の材質で出来た円板状体からなり、図2に示されているように、第二のディスク4の表裏両面にそれぞれ固定され、上側の摩擦材5には上方から第一のディスク2が当てられる一方、下側の摩擦材6には下側から第二のディスク3が当てられる。
【0011】そして、第一及び第二のディスク2,3,4及び摩擦材5,6には、ほぼ中心部に通孔が形成されていて、この通孔には基底板8bを備えたシャフト8が挿通される。このシャフト8の基底板8bは基礎11の上に載置されており、シャフト8の先端に形成された螺子山8aには、油圧シリンダー7を備えた円板状の押さえ部材9が螺合せしめられ、これによって第一のディスク2,3と第2のディスク4とを相対的に回動可能に結合すると共に両部材を摩擦材5,6の介在の下に圧接させている。
【0012】また、押さえ部材9の第一のディスク2に対向する面には円環状の凹部7cが形成されており、この凹部7cには円環形状の押圧パッド7dが摺動可能に嵌合され、さらに、凹部7cの上面には内部に連通するノズル7bが固定され、このノズル7bが油圧パイプ7aを介して油圧供給装置25(図3参照)に連通するようにして、油圧シリンダー7が押さえ部材9に形成されている。かような構成の油圧シリンダー7において、油圧供給装置25から油圧パイプ7aおよびノズル7bを介して凹部7cに油が圧送供給されると、押圧パッド7dが凹部7c内を摺動して第一のディスク2に圧縮面圧を加え、これによって第一のディスク2,3と第2のディスク4とを相対的に圧接させることができる。
【0013】さらに、第一のディスク2,3の先端部の孔2a,3aにはベアリング(図示せず)等の介在のもとに第一の固定ピン10aが挿通されて取付けられる一方、第二のディスク4の先端部4aにも同様にベアリング(図示せず)の介在のもとに第二の固定ピン(図示せず)が取付けられて、それぞれに先端可動部分結合点を構成する。
【0014】以上の構成の免震ダンパー1を、図3のような構造物20の免震システムに組込むに当っては、図1の点線矢印で示した相対回転運動方向を、図5に示した構造物平面の長手方向(x方向)あるいは短手方向(y方向)の両辺に沿うようにして各複数個ずつ配置し、免震ダンパー1の第一の固定ピン10aを固定部材10によって構造物20の基礎11に結合し、第二の固定ピンも固定部材13によって基礎梁12に結合する。また、構造物20には、免震ダンパー1や前述した積層ゴム23に加えて、地震等の振動を検知するために構造物の所定地上階及び地下階の長手方向両端部に設置され、それぞれに交差する両方向の加速度、速度及び長さ等の変位を検知可能なセンサー21,24と、免震ダンパー1の油圧シリンダー7に油を圧送するための油圧供給装置25と、センサー21,24からの振動情報にしたがって油圧供給装置25を制御する電算機22とを備える。
【0015】かかる免震システムにおいて、地震の力が構造物20に加わると、構造物20は積層ゴム4によって緩和された固有周期で揺れる。するとセンサー21,24が、その揺れのx,y両方向の変位データ(加速度、速度及び長さ等の変位データ)を検知して電算機22に送信し、この揺れを減衰するために最適な油圧圧送パターンを電算機22で計算し、油圧供給装置25に制御信号を送信する。」
「【0018】【発明の効果】本発明の免震ダンパーは、第一及び第二の板体の基端部に調整自在に圧縮面圧を加えることができる油圧シリンダーを備えるので、強度や入力方向が不確定な外力が構造物に作用したり、重量の偏りによってねじれ振動を生じるような構造物であっても、この免震ダンパーの複数個を建造物の例えば交差する二方向(建造物の長手方向および短手方向等)に配置すれば、この外力の強度、入力方向および振動性状に応じて、適宜、免震ダンパーの圧縮面圧を変化させて、構造物の振動を減衰することができる。」
そして、第一の板体(ディスク2,3)と第二の板体(ディスク4)とに形成された、基底板8bのシャフト8を挿通する通孔の中心と、先端部の孔2a,3a,4aの中心との距離は同一ないしほぼ同一であること、第一の板体2,3と第二の板体4との軸線が交わる角度が鋭角であること、上記通孔の中心が外力により振動する際には円弧運動(特定方向の揺れの際には直線運動)することが当業者に明らかであるから、刊行物には以下の発明が記載されていると認められる。
「構造物20に作用する外力によって相対変形する基礎11と基礎梁12とに取付けられ、構造物の振動を抑える免震ダンパー1において、
基礎11に一端が回転可能に取付けられた第一の板体2,3と、
基礎梁12に一端が回転可能に取付けられ前記第一の板体2,3の長さと同一ないしほぼ同一の第二の板体4と、
第一の板体2,3と第二の板体4との軸線が交わる角度が鋭角となるように、それぞれの自由端を回転可能に連結する連結手段とを有し、
この連結手段は、シャフト8を備える基底板8aと各板体2〜4の基端部に圧縮面圧を調整自在に加えることにより構造物の振動を減衰させる油圧シリンダー7を備える押さえ部材9とで構成された連結手段であり、
シャフト8は、基礎11と基礎梁12とが相対変形するとき円弧運動する、免震ダンパー1。」

(3)対比・判断
補正発明と、上記刊行物記載の発明とを対比すると、刊行物記載の発明の「基礎11」、「基礎梁12」、「免震ダンパー1」、「第一の板体2,3」、「第二の板体4」、及び「シャフト8を備える基底板8aと各板体2〜4の基端部に圧縮面圧を調整自在に加えることにより構造物の振動を減衰させる油圧シリンダー7を備える押さえ部材9とで構成された連結手段」は、補正発明の「第1構材」、「第2構材」、「振動制御機構」、「第1アーム」、「第2アーム」、及び「エネルギー低減吸収手段」にそれぞれ相当するから、両者は、
「構造物に作用する外力によって相対変形する第1構材と第2構材に取付けられ、構造物の振動を抑える振動制御機構において、
前記第1構材に一端が回転可能に取付けられた第1アームと、
前記第2構材に一端が回転可能に取付けられた第2アームと、
前記第1アームと前記第2アームとの軸線が交わる角度が鋭角となるように、それぞれの自由端を回転可能に連結し円弧運動するエネルギー低減吸収手段と、
を有する、振動制御機構。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点:補正発明は、第2アームが第1アームとは長さが異なるものであるのに対し、刊行物記載の発明は、両アームの長さが同一あるいはほぼ同一である点

上記相違点について検討する。
補正発明が、第1アームと第2アームの長さを異なるものとした点に、格別の技術的意義や作用効果は認められず、アームの回転量やアームの配置、納まり等を考慮して当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

請求人は、審判請求書において、次のとおり主張する。
「C.本願発明(当審注:「補正発明」。以下、同様。)と引用文献(「刊行物」)との対比
本願発明の振動制御機構のアームと引用文献1(「刊行物」)のディスクの連結部分が円弧運動する点では同一と言える。
しかし、円弧運動の仕方が本願発明と引用文献1では異なる。
引用文献の図5に基づいて説明すると、構造物20がX方向に揺れたとき(基礎11と基礎梁12が相対変形する)、第一のディスク2、3と第二のディスク4は略同一の長さであるので、免震ダンパー1xのシャフト8は若干Y方向へ円弧運動する。
しかしながら、これは、例えば、基礎11が不動で基礎梁12だけが移動することを想定した場合であって、基礎11と基礎梁12が接近したり離れたりする動きをすると、シャフト8はY方向へ直動するだけで円弧運動はしない。また、構造物20がX方向に揺れているとき、免震ダンパー1yは充分に機能しない。
これに対して、本願発明では、明細書の図5に示すように、建物20がX方向へ揺れたとき、X方向に沿って配置された制振装置ユニット12A、Y方向に沿って配置された制振装置ユニット12Bの連結シャフト28は円弧運動して、建物の揺れを減衰する。
これは、第1アーム22と第2アーム30は長さが異なり、引用文献1のように二等辺三角形を描いていないからであり、本願発明では、上部構造体16と下部構造体18が接近したり離れたりする動きをしても、連結部材は必ず円弧運動をする。
このように、ディスク間の摩擦力により抵抗力を発揮させ、構造物の揺れ方向や揺れ方により、円弧運動しない引用文献1の免震ダンパーから、本願のように、どのような揺れ方向、揺れ方においても、第1アームと第2アームの連結部に設けられたエネルギー低減吸収手段を幾何学的に大きく円弧運動させ、常に減衰力を発揮する振動制御機構を想到できる訳がない。」

確かに、刊行物記載の発明の「免震ダンパー」の連結部は、特定の方向に移動する場合に直動(直線運動)するが、補正発明のように両アームの長さを異ならせた場合においても、特定の方向に移動する場合にその連結部が直動することは明らかであり、「(補正発明において)連結部材は必ず円弧運動をする。」という請求人の上記主張は誤りであり、理由がない。
また、補正発明において、建物の揺れを減衰する機能を果たすのは、両アームの連結部のエネルギー低減吸収手段であり、その構成は何ら具体的に限定されたものではないから、この点、刊行物記載の発明と何ら差異はない。そうすると、補正発明が、該連結部が両アームの長さを異ならせたことにより「第1アームと第2アームの連結部に設けられたエネルギー低減吸収手段を幾何学的に大きく円弧運動させ」るものであるとしても、当該「円弧運動」自体は、減衰力を何ら生じさせるものではないから、「(補正発明は)エネルギー低減吸収手段を幾何学的に大きく円弧運動させ、常に減衰力を発揮する」ものであるという請求人の主張には、理由がない。

したがって、補正発明は、上記刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定によりその特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

以上のように、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正却下の決定の結論]のとおり、決定する。

【3】本願発明について
(1)本願発明
本願の各請求項に係る発明は、平成16年6月14日付手続補正が上記のとおり却下されたので、平成16年1月23日付手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】構造物に作用する外力によって相対変形する第1構材と第2構材に取付けられ、構造物の振動を抑える振動制御機構において、
前記第1構材に一端が回転可能に取付けられた第1アームと、前記第2構材に一端が回転可能に取付けられた第2アームと、前記第1アームと前記第2アームとの軸線或いはこれらの軸線の延長線が交わる角度が鋭角となるように、それぞれの自由端を回転可能に連結し円弧運動するエネルギー低減吸収手段と、を有することを特徴とする振動制御機構。
【請求項2】〜【請求項13】(記載を省略)」
(以下、請求項1記載の発明を「本願発明」という。)

(2)引用刊行物
これに対し、原査定の拒絶の理由で引用された刊行物、及び、その記載事項は、上記【2】(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、上記【2】で検討した補正発明から、第2アームの長さに関する限定事項である「第1アームの長さと異なる(第2アーム)」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明は、補正発明が有していた刊行物記載の発明との相違点を有しないものであるから、本願発明と刊行物記載の発明との間に差異はない。

(4)むすび
したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-15 
結審通知日 2005-03-22 
審決日 2005-04-11 
出願番号 特願平9-89800
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E04H)
P 1 8・ 113- Z (E04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷部 善太郎高橋 三成萩田 裕介  
特許庁審判長 山 田 忠 夫
特許庁審判官 伊 波 猛
高 橋 祐 介
発明の名称 振動制御機構  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 西元 勝一  
代理人 加藤 和詳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 西元 勝一  
代理人 西元 勝一  
代理人 福田 浩志  
代理人 福田 浩志  

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