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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1130854
異議申立番号 異議2002-70306  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-04-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-02-06 
確定日 2005-12-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3196895号「脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3196895号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続きの経緯
特許第3196895号の請求項1〜3に係る発明は、平成11年7月27日(優先権主張、平成10年7月27日、日本)に出願されたものであって、平成13年6月8日にその特許の設定登録がなされ、その後、特許異議の申立がなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年1月27日付けで訂正請求がなされたものである。
II.訂正請求について
1.訂正の内容
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の【請求項1】の記載である
「主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または、炭素数1〜3のアルキル基)であり、連鎖状粒子を含有しない」を、
「主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または、炭素数1〜3のアルキル基)であり、脂肪族ポリエステルに対し不活性な平均粒子径1〜4μmの滑剤粒子を含有する脂肪族ポリエステルであって、連鎖状粒子を含有しない」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の【請求項1】の記載である
「三次元平均表面粗さ(SRa)が0.01〜0.1μmであり、」を、
「三次元平均表面粗さ(SRa)が0.018〜0.069μmであり、」と訂正する。
(3)訂正事項c
特許請求の範囲の【請求項1】の記載である
「粗さの中心面における1mm2当たりの突起数(PCC値)」を「粗さの中心面から0.00625μm以上の高さを有する突起の1mm2当たりの突起数(PCC値)」と訂正する。
(4)訂正事項d
明細書の段落【0011】の記載である
「主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または、炭素数1〜3のアルキル基)であり、連鎖状粒子を含有しない」を、
「主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または、炭素数1〜3のアルキル基)であり、脂肪族ポリエステルに対し不活性な平均粒子径1〜4μmの滑剤粒子を含有する脂肪族ポリエステルであって、連鎖状粒子を含有しない」と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書の段落【0011】の記載である
「三次元平均表面粗さ(SRa)が0.01〜0.1μmであり、」を、
「三次元平均表面粗さ(SRa)が0.018〜0.069μmであり、」と訂正する。
(6)訂正事項f
明細書の段落【0011】の記載である
「粗さの中心面における1mm2当たりの突起数(PCC値)」を「粗さの中心面から0.00625μm以上の高さを有する突起の1mm2当たりの突起数(PCC値)」と訂正する。
2.訂正の適否の判断
(1)訂正事項a〜訂正事項cについて
訂正事項a〜訂正事項cは、特許請求の範囲を減縮することを目的とする訂正に該当し、これらは、本件訂正前の明細書段落【0022】〜【0028】、【0038】の、滑剤粒子の粒径についての記載、また、実施例の具体的なSRaの値についての記載、細書の段落【0057】のPCCについての記載によるものである。
(2)訂正事項d〜訂正事項fについて
訂正事項d〜訂正事項fは、 特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載を整合させるものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、いずれの訂正事項も、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、この訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項において準用する同法第126条第2項〜第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.本件発明
訂正後の請求項1〜3に係る発明(以下、これらを、本件発明1〜本件発明3という。)は、訂正明細書の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または、炭素数1〜3のアルキル基)であり、脂肪族ポリエステルに対し不活性な平均粒子径1〜4μmの滑剤粒子を含有する脂肪族ポリエステルであって、連鎖状粒子を含有しない脂肪族ポリエステルを主成分としたフィルムであって、少なくとも片面の三次元平均表面粗さ(SRa)が0.018〜0.069μmであり、かつ粗さの中心面から0.00625μm以上の高さを有する突起の1mm2当たりの突起数(PCC値)が下記式(1)を満足することを特徴とする脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム。
PCC値≦7000-45000×SRa ・・・(1)
(なお、SRaとは表面粗さ曲線をサインカーブで近似した際の中心面(基準面)における平均粗さを意味し、触針式三次元表面粗さ計を用いて得た各点の高さを測定し、これらの測定値を三次元表面粗さ解析装置に取り込んで解析することにより得られる値である。)
【請求項2】 前記突起数(PCC値)が1000個/mm2以上であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム。
【請求項3】 前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1又は2記載の脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム。
IV.特許異議申立について
[1]特許異議申立の概要
特許異議申立人 東セロ株式会社は、甲第1号証(特開平9-67511号公報)、甲第2号証(特開平5-124100号公報)、参考資料1(特開2000-103879号公報)、参考資料2(商品名「SYLYSIA」のカタログ)を提出して、訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、また、訂正前の請求項1〜3に係る発明は、前記甲第1〜2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、請求項1〜3に係る発明の特許は、その明細書の記載が不備であるから、特許法第36条第4項または第6項(第4号を除く)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから取り消されるべき旨主張し、
特許異議申立人 浅野みどりは、甲第1号証(特開平5-124100号公報)、甲第2号証(「超微粒子ハンドブック」、株式会社フジ・テクノシステム、1990年9月5日発行、第151〜157頁)、甲第3号証(特開平3-131633号公報)、甲第4号証(特開昭61-102232号公報)、甲第5号証(特開平8-34913号公報)、甲第6号証(特開平9-278997号公報)、参考資料1(特開2000-44702号公報)、参考資料2(特開2000-273212号公報)、参考資料3(特開2000-281816号公報)、参考資料4(特開2000-290400号公報)を提出して、訂正前の請求項1〜3に係る発明は、前記甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから取り消されるべき旨主張し、
特許異議申立人 三菱樹脂株式会社は、甲第1号証の1(特開平10-219088号公報)、甲第1号証の2(三菱樹脂株式会社 技術開発センター 比留間隆の作成した特開平10-219088号公報の実施例4に係る実験成績報告書)、甲第2号証の1(特開平8-34913号公報)、甲第2号証の2(三菱樹脂株式会社 技術開発センター 比留間隆の作成した特開平8-34913号公報の比較例8に係る実験成績報告書)、甲第3号証(特開平6-256480号公報)、甲第4号証(特開平8-245771号公報)、甲第5号証(特開平7-32470)、甲第6号証(特開平5-124100号公報)、甲第7号証(「繊維学会誌」Vol.54 No.5 1998(1998年5月発行)第261〜269頁)、参考資料1(摩擦測定機(株式会社東洋精機製作所)に係るパンフレット)を提出して、訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、また、訂正前の請求項1〜3に係る発明は、前記甲第1号証の1、甲第2号証の1に記載された発明であるから、訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1〜3に係る発明は、前記甲第3〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、請求項1〜3に係る発明の特許は、その明細書の記載が不備であるから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから取り消されるべき旨主張し、
特許異議申立人 ユニチカ株式会社は、甲第1号証(特開平9-278997号公報)、甲第2号証(ユニチカ株式会社 宇治プラスチック工場内 楠幹夫の作成した実験報告書)、甲第3号証(特開平6-57013号公報)、甲第4号証(特開平6-114924号公報)、甲第5号証(特開平8-309847号公報)、甲第6号証(特開平10-138355号公報)を提出して、訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、また、訂正前の請求項1〜3に係る発明は、前記甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1〜3に係る発明は、前記甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、請求項1〜3に係る発明の特許は、その明細書の記載が不備であるから、特許法第36条第4項または第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから取り消されるべき旨、主張している。
[2]当審の取消理由通知の概要
1.特許査定時の請求項1に記載されている「連鎖状粒子を含有しない」の用語については、願書に最初に添付された明細書(出願当初の明細書)には何ら記載がされていないから、「連鎖状粒子を含有しない」と補正することは、出願当初の明細書に記載された範囲内においてされたものということはできず、訂正前の請求項1〜2に係る発明の特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
2.訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
3.訂正前の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
4.訂正前の請求項1〜3に係る特許は、明細書の記載が不備であり、特許法第36条第4項、6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
[3]判断
1.特許法第36条第4項、6項違反について
1.-1 訂正後の明細書(以下、本件明細書という)には、以下の記載がされている。
「【0011】即ち、本発明の第1の発明は、主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または、炭素数1〜3のアルキル基)であり、連鎖状粒子を含有しない脂肪族ポリエステルを主成分としたフィルムであって、少なくとも片面の三次元平均表面粗さ(SRa)が0.018〜0.069μmであり、かつ粗さの中心面から0.00625μm以上の高さを有する突起の1mm2当たりの突起数(PCC値)が下記式(1)を満足することを特徴とする脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムである。
PCC値≦7000-45000×SRa ・・・(1)
(なお、SRaとは表面粗さ曲線をサインカーブで近似した際の中心面(基準面)における平均粗さを意味し、触針式三次元表面粗さ計を用いて得た各点の高さを測定し、これらの測定値を三次元表面粗さ解析装置に取り込んで解析することにより得られる値である。)」
「【0012】第2の発明は、前記突起数(PCC値)が1000個/mm2以上であることを特徴とする前記第1の発明に記載の脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムである。」
「【0035】本発明において、脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムの少なくとも片面の三次元平均表面粗さ(SRa)は、0.01〜0.1μmの範囲であることが必要である。SRaが0.01μm未満では、ハンドリング性が不良となる。一方、SRaが0.1μmを超えると、透明性や耐削れ性が不良となる。
【0036】更に、脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムにおいて、粗さの中心面における1mm2当たりの突起数(PCC値)は、下記式(1)を満足することが必要である。PCC値が下記式(1)の範囲を満足しないと、透明性が不良となる。
PCC値≦7000-45000×SRa ・・・(1)また、PCC値は1000個/mm2以上であることが好ましい。PCC値が1000個/mm2未満では、ハンドリング性や走行性が不良となりやすい。
【0038】前記の粗さの中心面における単位面積当たりの突起数(PCC値)及び三次元平均表面粗さ(SRa)は、滑剤粒子及びフィルムの製膜条件によって制御することができる。滑剤粒子の種類及び含有量は、PCC値及びSRaが前記範囲内を満足するならば特に限定されない。滑剤粒子の平均粒子径は、0.01〜5μmが好ましく、1〜4μmが特に好ましい。滑剤粒子の含有量は、0.01〜0.5重量%が好ましく、特に好ましくは0.03〜0.3重量%である。
【0039】滑剤粒子の平均粒子径または含有量のいずれか一方が上記範囲を満足しない場合には、SRaを0.01〜0.1μmとし、PCC値とSRaとの不等式を同時の満足させることが困難となる。また、PCC値とSRaとの不等式を満足させるためには、前記の滑剤粒子の平均粒径及び含有量の好適な範囲内で、比較的大きな平均粒子径の滑剤粒子を少量含有させることがさらに好適である。」
「【0041】本発明のフィルムにおいて、フィルムの延伸条件は、添加する滑剤に依存して変化する。PCC値及びSRaが所定の範囲内に入るような延伸条件が選択される。例えば、縦方向に1段以上延伸した後横方向に延伸する方法の場合、縦方向の延伸が終了した後の縦方向の屈折率(Nx)が1.555以下であることが好ましい。Nxが大きすぎると製造工程中で表面突起の形成が不十分となりやすく、ハンドリング性または走行性が不良となりやすい。」
「【0052】(1)三次元平均表面粗さ(SRa)フィルム表面を触針式三次元表面粗さ計(SE-3AK、株式会社小坂研究所社製)を用いて、針の半径2μm、荷重30mgの条件下に、フィルムの長手方向にカットオフ値0.25mmで、測定長1mmにわたって、針のスピード0.1mm/secで測定し、2μmピッチで500点に分割し、各点の高さを量子化幅0.00312μmで三次元粗さ解析装置(SPA-11)に取り込ませた。これと同様の操作をフィルムの幅方向について2μm間隔で連続的に150回、即ちフィルムの幅方向0.3mmにわたって行ない、解析装置にデータを取り込ませた。また、X倍率は200倍、Y倍率は500倍、Z倍率は20000倍とした。」
「【0062】実施例1、2、3、及び比較例1、2
L-ラクチド100重量部に対し、触媒としてオクチル酸スズ0.03重量部を反応缶に仕込み、缶内の温度を190℃で1時間反応を行った。反応終了後、得られた反応系を減圧にして、残留するL-ラクチドを留去して、ポリ乳酸を得た。得られたポリ乳酸の還元粘度は1.9dl/gであった。滑剤粒子として、平均粒子径1.8μmの凝集体シリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製SYLYSIA350)を用いた。滑剤粒子は、L-ラクチド中に分散されたスラリーの形態で、L-ラクチド重合反応開始前に、様々な添加量で添加された。得られたポリ乳酸に対する滑剤粒子の含有量を表1中に示した。また、平均粒子径は電子顕微鏡を用いて求めた。
【0063】上記ポリ乳酸を110℃で4時間真空乾燥させた後、200℃でTダイから押し出し、表面温度16℃のキャスティングドラム上に静電荷により密着させ急冷固化し、キャストフィルムを得た。該キャストフィルムを72℃に加熱したロールで加温した後、長手方向に3.3倍延伸した。その後、テンター内で60℃に予熱し75℃に昇温しながら幅方向に4.0倍延伸し、150℃で熱固定した。さらに、150℃で横弛緩処理を行い、幅方向に3%リラックスさせた後、厚みが12μmのポリ乳酸二軸延伸フィルムを得た。これらの延伸フィルムの特性値を表1に示す。ここで、縦延伸終了後の縦方向の屈折率Nxは1.469であった。また、実施例1〜3および比較例1で得られたフィルムは透明性良好であったが、比較例2で得られたフィルムの透明性は不良であった。
【0064】実施例4
滑剤粒子を、平均粒子径1.65μmの球状シリカ粒子(水澤化学工業株式会社製AMT-シリカ#100B、AMT-シリカ#100B)0.10重量部に変更した以外は実施例1と同様にフィルムを作成した。得られた結果を表1に示す。縦延伸終了後の縦方向の屈折率Nxは1.467であった。得られたフィルムの透明性は良好であった。
【0065】比較例3
滑剤粒子を、平均粒子径5.8μmの球状シリカ粒子(水澤化学工業株式会社製AMT-シリカ#500B)0.12重量部に変更した以外は実施例1と同様にフィルムを作成した。得られた結果を表1に示す。縦延伸終了後の縦方向の屈折率Nxは1.467であった。得られたフィルムの透明性は不良であった。
【0066】比較例4
滑剤粒子として、平均粒子径7nmのシリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、商品名アエロジル300)を用い、有機系潤滑剤としてニュートロンS(日本精化株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてフィルムを作成した。得られた結果を表1に示す。
【0067】比較例5
有機系潤滑剤を添加しなかった以外は、比較例4と同様にしてフィルムを作成した。得られた結果を表1に示す。」
1.-2 上記記載の内容を踏まえて、明細書の記載について、当業者が容易に本件発明を実施し得る程度に記載されているか否かについて検討する。
(i)請求項1に記載された「三次元平均表面粗さ(SRa)が0.018〜0.069μm」ついて
SRaについては、明細書段落【0011】に「SRaとは表面粗さ曲線をサインカーブで近似した際の中心面(基準面)における平均粗さを意味し、触針式三次元表面粗さ計を用いて得た各点の高さを測定し、これらの測定値を三次元表面粗さ解析装置に取り込んで解析することにより得られる値である。」と記載され、明細書段落【0053】にも同様のことが記載されている。
また、段落【0038】には、「前記の粗さの中心面における単位面積当たりの突起数(PCC値)及び三次元平均表面粗さ(SRa)は、滑剤粒子及びフィルムの製膜条件によって制御することができる。滑剤粒子の種類及び含有量は、PCC値及びSRaが前記範囲内を満足するならば特に限定されない。滑剤粒子の平均粒子径は、0.01〜5μmが好ましく、1〜4μmが特に好ましい。滑剤粒子の含有量は、0.01〜0.5重量%が好ましく、特に好ましくは0.03〜0.3重量%である。」と記載され、段落【0039】には、「滑剤粒子の平均粒子径または含有量のいずれか一方が上記範囲を満足しない場合には、SRaを0.01〜0.1μmとし、PCC値とSRaとの不等式を同時の満足させることが困難となる。」と記載され、さらに段落【0041】には「本発明のフィルムにおいて、フィルムの延伸条件は、添加する滑剤に依存して変化する。PCC値及びSRaが所定の範囲内に入るような延伸条件が選択される。例えば、縦方向に1段以上延伸した後横方向に延伸する方法の場合、縦方向の延伸が終了した後の縦方向の屈折率(Nx)が1.555以下であることが好ましい。Nxが大きすぎると製造工程中で表面突起の形成が不十分となりやすく、ハンドリング性または走行性が不良となりやすい。」と記載されている。
しかしながら、前記SRaについては、段落【0062】に、「得られたポリ乳酸の還元粘度は1.9dl/gであった。滑剤粒子として、平均粒子径1.8μmの凝集体シリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製SYLYSIA350)を用いた。滑剤粒子は、L-ラクチド中に分散されたスラリーの形態で、L-ラクチド重合反応開始前に、様々な添加量で添加された。得られたポリ乳酸に対する滑剤粒子の含有量を表1中に示した。また、平均粒子径は電子顕微鏡を用いて求めた。」と記載され、段落【0063】には、「上記ポリ乳酸を110℃で4時間真空乾燥させた後、200℃でTダイから押し出し、表面温度16℃のキャスティングドラム上に静電荷により密着させ急冷固化し、キャストフィルムを得た。該キャストフィルムを72℃に加熱したロールで加温した後、長手方向に3.3倍延伸した。その後、テンター内で60℃に予熱し75℃に昇温しながら幅方向に4.0倍延伸し、150℃で熱固定した。さらに、150℃で横弛緩処理を行い、幅方向に3%リラックスさせた後、厚みが12μmのポリ乳酸二軸延伸フィルムを得た。これらの延伸フィルムの特性値を表1に示す。ここで、縦延伸終了後の縦方向の屈折率Nxは1.469であった。また、実施例1〜3および比較例1で得られたフィルムは透明性良好であったが、比較例2で得られたフィルムの透明性は不良であった。」と記載され、段落【0064】〜段落【0067】には実施例4、比較例3〜4について記載されているが、実施例1〜3及び比較例1〜2においては、無機粒子の平均粒子径が同一のものを採用しているにもかかわらず、それぞれのSRa値については異なった値となっており、また、本件発明で規定する範囲内の平均粒子径1〜4μmの範囲にあるものを採用した場合においても、比較例1〜2からも明らかなとおり、本件発明で規定するSRa値に含まれないフイルムが得られているのである。
また、段落【0038】には、「三次元平均表面粗さ(SRa)は、滑剤粒子及びフィルムの製膜条件によって制御することができる。滑剤粒子の種類及び含有量は、PCC値及びSRaが前記範囲内を満足するならば特に限定されない。」と記載しながら、フイルムの製膜条件と滑剤粒子の種類との関係については具体的になにも記載がされていないのである。
さらに、段落【0041】には、「フィルムの延伸条件は、添加する滑剤に依存して変化する。PCC値及びSRaが所定の範囲内に入るような延伸条件が選択される。例えば、縦方向に1段以上延伸した後横方向に延伸する方法の場合、縦方向の延伸が終了した後の縦方向の屈折率(Nx)が1.555以下であることが好ましい。」と記載されているものの、延伸条件と添加する滑剤との依存関係についても何等具体的な記載はされていないし、「縦方向の屈折率(Nx)」とは如何なる方向において測定した屈折率であるのかも不明である。
そうすると、本件発明のSRa値を求めるに当たっては、一つの製造条件を設定すれば求められる、というものとはいえず、本件明細書には、SRaの必要な値を得るための具体的な条件が何等記載されていない。
したがって、「三次元平均表面粗さSRaが0.018〜0.069μm」とすることについては、当業者が実施例の数値を手掛かりにするとしても、限られた実施例の数値からのみでは、前記SRaの値を有する脂肪族ポリエステル二軸延伸フイルムを得るには過度の試行錯誤を強いるものというべきである。
(ii)「かつ粗さの中心面から0.00625μm以上の高さを有する突起の1mm2当たりの突起数(PCC値)が下記式(1)を満足することを特徴とする脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムである。
PCC値≦7000-45000×SRa ・・・(1)」について
段落【0036】には、「脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムにおいて、粗さの中心面における1mm2当たりの突起数(PCC値)は、下記式(1)を満足することが必要である。PCC値が下記式(1)の範囲を満足しないと、透明性が不良となる。
PCC値≦7000-45000×SRa ・・・(1)
また、PCC値は1000個/mm2以上であることが好ましい。PCC値が1000個/mm2未満では、ハンドリング性や走行性が不良となりやすい。」と記載されているにもかかわらず、段落【0038】には、「前記の粗さの中心面における単位面積当たりの突起数(PCC値)及び三次元平均表面粗さ(SRa)は、滑剤粒子及びフィルムの製膜条件によって制御することができる。」との記載、段落【0041】には、「本発明のフィルムにおいて、フィルムの延伸条件は、添加する滑剤に依存して変化する。PCC値及びSRaが所定の範囲内に入るような延伸条件が選択される。」との記載があるのみで、具体的な「滑剤粒子及びフィルムの製膜条件によって制御」や「フィルムの延伸条件」については、記載がされていなく、如何にしたらよいのか不明である。
さらに、段落【0039】には、「滑剤粒子の平均粒子径または含有量のいずれか一方が上記範囲を満足しない場合には、SRaを0.01〜0.1μmとし、PCC値とSRaとの不等式を同時の満足させることが困難となる。また、PCC値とSRaとの不等式を満足させるためには、前記の滑剤粒子の平均粒径及び含有量の好適な範囲内で、比較的大きな平均粒子径の滑剤粒子を少量含有させることがさらに好適である。」と記載されているが、具体的に「滑剤粒子の平均粒径及び含有量」や「比較的大きな平均粒子径の滑剤粒子を少量含有させる」をどのように設定すればPCC値が1000個/mm2以上となるのか詳細な説明には具体的に記載されていなく不明である。
そして、PCC値とSRa値とは密接な関係にあるのであるから、SRa値について本件発明の範囲内ものとするためには如何にしたらよいのか不明であり、またPCCの値についても同様不明であることからすれば、「PCC値≦7000-45000×SRa」とすることについては、当業者が実施例の数値を手掛かりにするとしても、限られた実施例のみでは、前記値の脂肪族ポリエステル二軸延伸フイルムを得るには過度の試行錯誤を強いるものといえる。
1.-3 むすび
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものがその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に、記載されているとはいえず、本件特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2.特許法第29条第2項違反について
2.-1 当審が取消理由通知において引用した刊行物及び記載内容
★刊行物1(特開平6-57013号公報:特許異議申立人 ユニチカ株式会社の提出した甲第3号証)には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】 実質的にシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体から成り、表面ヘーズと内部ヘーズ(10μm当たり)の和が10%以下で、200℃における熱収縮率が5%以下、少なくとも片面の三次元表面粗さSRaが0.01μm以上0.05μm以下であり、更に粗さの中心面における単位面積当たりの突起数PCC値が1200個/mm2以上であり、且つ空気抜け速さが500秒以下であることを特徴とするシンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルム。」
「【0012】本発明のシンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムの少なくとも片面の三次元表面粗さSRaは0.01μm以上0.05μm以下の範囲内にある事が必要である。SRaが0.01μm未満ではハンドリング特性及び走行特性が不良になり0.05μmを越えると、例えば磁気テープ用途では電磁変換特性が不良になり、写真、製版用途では透明性が減少するため好ましくなく、フィルムコンデンサー用途では耐電圧特性の低下の問題を生じる。
【0013】また、粗さの中心面における単位面積当たりの突起数PCC値は1200個/mm2以上であることが必要である。PCC値が1200個/mm2未満では走行特性が不良となる。PCC値について特に上限は設けていないが、SRaが0.05μm以下の場合5000個/mm2以上とすることは困難である。更に、本発明のシンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムの空気抜け速さは500秒以下である必要がある。更に好ましくは300秒以下である。即ち、空気抜け速さを500秒以下、更に好ましくは300秒以下にすることにより、高速作業時においても、フィルムの厚みや強度とは無関係にハンドリング特性が良好なシンジオタクチックポリスチレン系二軸延伸フィルムが得られる。反対に、空気抜け速さが500秒を越えた場合、高速作業時のハンドリング特性が不良となり、例えばフィルムを高速でロール状に巻き取る場合にフィルムと巻き取りロールの間に空気が取り込まれしわが生じやすく、巻姿が不良になったり、フィルムが巻き込む空気層の潤滑効果によってフィルムが幅方向に蛇行してロールの端面の不揃いが生じたりする。」
★刊行物2(特開平5-124100号公報:特許異議申立人 東セロ株式会社の提出した甲第2号証、特許異議申立人 三菱樹脂株式会社の提出した甲第6号証、特許異議申立人 浅野みどりの提出した甲第1号証)には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】 一次粒子の平均粒径が1〜400nm、連鎖係数が3〜200である連鎖状粒子を0.005〜5重量%含有し、更に平均粒径が0.3〜2μmの不活性粒子を含有する二軸配向ポリエステルフイルムであって、該フイルム表面の平均突起高さが50〜500nm、突起個数が1000個/mm2以上、突起先端曲率半径が0.3〜3.0μmであることを特徴とする二軸配向ポリエステルフイルム。
【請求項2】 前記連鎖状粒子の分岐指数が1〜50である請求項1の二軸配向ポリエステルフイルム。
【請求項3】 請求項1又は2のフイルムを少なくとも片側表層に積層してなることを特徴とする二軸配向ポリエステルフイルム。」 「【 0005】【課題を解決するための手段】この目的に沿う本発明の二軸配向ポリエステルフイルムは、一次粒子の平均粒径が1〜400nm、連鎖係数が3〜200である連鎖状粒子を0.005〜5重量%含有し、更に平均粒径が0.3〜2μmの不活性粒子を含有する二軸配向ポリエステルフイルムであって、該フイルム表面の平均突起高さが50〜500nm、突起個数が1000個/mm2以上、突起先端曲率半径が0.3〜3.0μmであるものからなる。」
「【0014】また、本発明のフイルム表面の突起高さは50〜500nm、好ましくは100〜300nmの範囲である必要がある。この範囲より小さくても大きくても耐スクラッチ性は不良となる。
【0015】本発明のフイルム表面の突起個数は1000個/mm2以上である必要がある。これより少ないと耐スクラッチ性は不良となり好ましくない。」
「【0036】【発明の効果】本発明の二軸配向ポリエステルフイルムは、特定の構造を持った連鎖状粒子を特定量含有させたフイルムとしたので、粒子とポリエステルフイルムが特異な相互作用を示し、フイルムの表面構造が特異なものとなるので、フイルムの加工工程で加工速度が増大しても、耐スクラッチ性に優れているため表面に傷が入るといったトラブルがなくなる。また、走行性がよく、透明性もよいので、包装材料用、工業材料用としても好適であるといった如き優れた効果を奏するものである。」
★刊行物3(特開平6-256480号公報:特許異議申立人 三菱樹脂株式会社の提出した甲第3号証)には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】一般式(I)を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルより得られる生分解性包装用フイルム。
-O-CHR-CO- ・・・(I)
・・・」
「【0008】本発明のフイルムは・・・或は二軸延伸法といった方法で延伸製膜される。・・・」
★刊行物4(特開平8-245771号公報:特許異議申立人 三菱樹脂株式会社の提出した甲第4号証)には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】 酸成分としてテレフタル酸95〜99モル%およびイソフタル酸1〜5モル%と、グリコール成分としてエチレングリコール95〜99モル%およびジエチレングリコール1〜5モル%とを含んでなる共重合ポリエステル二軸延伸フィルムであって、下記式(1)〜(4)を同時に満足することを特徴とする包装用ポリエステルフィルム。
【数1】235≦Tm≦250 ………(1)
[COOH]≦45 ………(2)
0.150≦ΔP≦0.165………(3)
0.01≦Ra≦0.07 ………(4)
[上記式中、Tmはフィルムの融点(℃)、[COOH]はフィルム中の末端カルボキシル基量(当量/106 g)、ΔPはフィルムの面配向度、Raはフィルム表面の中心線平均粗さ(μm)を表す]」
「【0014】本発明においては上記したような方法により表面を適度に粗面化したフィルムを得ることができるが、フィルム製造時の巻き性や包装用フィルムに加工する際の作業性をさらに高度に満足させるために、フィルム表面の中心線平均粗さ(Ra)が0.01〜0.07μm、好ましくは0.02〜0.05μmの範囲とする。Raが0.01μm未満では、フィルム製造時の巻き特性や作業性が劣るようになるのでので好ましくない。またRaが0.07μmを超えると、フィルム表面の粗面化の度合いが大き過ぎて、フィルムがシモフリ状になったり、フィルムの透明性を損なったり、フィルムが滑り過ぎて巻き特性が劣るようになるため好ましくない。」
★刊行物5(特開平7-32470号公報:特許異議申立人 三菱樹脂株式会社の提出した甲第5号証)には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】 実質的にシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体からなり、少なくとも片面の三次元表面粗さSRaと粗さの中心面における単位面積当たりの突起数PCC値がPCC≦15000×SRa+1500の関係を満足し、且つ空気抜け速さが900秒以下であることを特徴とするポリスチレン系延伸フィルム。」
「【0012】本発明のシンジオタクチックポリスチレン系延伸フィルムの少なくとも片面の三次元表面粗さSRaと粗さの中心面における単位面積当たりの突起数PCC値はPCC≦15000×SRa+1500の関係を満足する必要がある。PCC値とSRaがこの関係を満足している場合、透明性に優れたフィルムが得られる。一方、PCC値がこの範囲より大きくなると透明性が低下するために好ましくない。PCC値の下限については特に限定されないが、500個/mm2未満では走行性及び耐削れ性が不良となる場合があり、あまり好ましくない。また、SRaは0.01μm以上、0.1μm以下であることが好ましい。SRaが0.01μm以下の場合、走行性及び耐削れ性が不良となりやすい。また、SRaが0.1μm以上の場合、透明性と走行性及び耐削れ性の両方の特性を同時に満足するフィルムを得ることが困難となる。」
2.-2 判断
【1】本件発明1について
刊行物3には、一般式-O-CHR-CO-を主たる繰り返し単位とする二軸延伸脂肪族ポリエステルフイルムが示されている。
また、刊行物1には、スチレン系フイルムにおいて、フィルム表面の中心線平均粗さまたは三次元表面粗さがある範囲の値をとるとフイルムの作業性(ハンドリング性)や、透明性に影響があることが記載され、三次元表面粗さSRaは0.01μm以上0.05μm以下の範囲内にある、としている。
また、刊行物2には、二軸延伸ポリエステルフイルムにおいて、表面の平均突起高さ、突起個数などが、透明性や作業性などに影響することが示されている。
刊行物4には、包装用ポリエステルフイルムにおいて、フィルム表面の中心線平均粗さがある範囲の値をとるとフイルムの作業性や、透明性に影響があることが記載され、フィルム表面の中心線平均粗さ(Ra)が0.01〜0.07μmのものが好ましいことが示されている。
刊行物5には、ポリエステル系フイルムにおいて、三次元表面粗さがある範囲の値をとるとフイルムのハンドリング性に影響があることが記載され、SRaは0.01μm以上、0.1μm以下であることが好ましいとしている。
そうすると、刊行物1〜2、4〜5の記載から、フィルム表面の中心線平均粗さ、または三次元表面粗さの値が、フイルムの作業性や透明性に影響するものであることは容易に理解できるところであり、ハンドリング性(作業性)や透明性についてフィルム表面の中心線平均粗さまたは三次元表面粗さをある値にすれば改善できるであろうことは、刊行物1〜2、4〜5に記載の技術から容易に理解できるところである。
そうであれば、刊行物3に記載の二軸延伸脂肪族ポリエステルフイルムにおいても、刊行物1〜2、4〜5に記載された技術を適用して、ハンドリング性や透明性などの改善を目的に、刊行物1〜2、4〜5に示されている三次元表面粗さの値を採用してみることは容易に予測できることというべきである。
そして、本件発明1のSRaの値が、前記刊行物1〜2、4〜5に記載された数値の範囲のものから、特にかけ離れたものであって格別予測できない数値を規定しているともいえない。
また、本件発明1の突起個数(PPC値)についても、刊行物1、4〜5に記載されているものから特にかけ離れた数値ということはできない。
そして、本件請求項1に記載の式
PCC値≦7000-45000×SRa
についてみても、刊行物1、4〜5に示された技術から好ましい範囲を数式にした程度のものといえ、前記式による特定が特異的なものを示しているとはいえない。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
【2】本件発明2について
本件発明2は、本件発明1おいて、「突起数(PCC値)が1000個/mm2以上である」との限定を付したものであるが、刊行物2には、フイルムにおいて、単位面積当たりの突起数が1200個/mm2以上であれば、透明性やハンドリング特性が良くなることが記載されている。
そうすると、フイルムの材質が異なるとはいえ、フイルムの透明性やハンドリング性の改善ができる技術が記載されていれば、この技術を脂肪族ポリエステルフイルムに適用して、透明性やハンドリング性の改善の効果を確認する程度のことは当業者であれば容易に想到しうるものといえる。
したがって、本件発明2は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
【3】本件発明3について
本件発明3は、本件発明1おいて、脂肪族ポリエステルについて「ポリ乳酸である」との限定を付したものであるが、刊行物3には、ポリ乳酸はフイルムとして成形されることが示されているから、脂肪族ポリエステルについてポリ乳酸と限定することが当業者の予測を超えるものということはできない。
したがって、本件発明3は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
V.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1〜3に係る特許は、その明細書の記載が不備であるから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、また、本件訂正後の請求項1〜3に係る発明は、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件訂正後の請求項1〜3に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認められ、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または、炭素数1〜3のアルキル基)であり、脂肪族ポリエステルに対し不活性な平均粒子径1〜4μmの滑剤粒子を含有する脂肪族ポリエステルであって、連鎖状粒子を含有しない脂肪族ポリエステルを主成分としたフィルムであって、少なくとも片面の三次元平均表面粗さ(SRa)が0.018〜0.069μmであり、かつ粗さの中心面から0.00625μm以上の高さを有する突起の1mm2当たりの突起数(PCC値)が下記式(1)を満足することを特徴とする脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム。
PCC値≦7000-45000×SRa …(1)
(なお、SRaとは表面粗さ曲線をサインカーブで近似した際の中心面(基準面)における平均粗さを意味し、触針式三次元表面粗さ計を用いて得た各点の高さを測定し、これらの測定値を三次元表面粗さ解析装置に取り込んで解析することにより得られる値である。)
【請求項2】前記突起数(PCC値)が1000個/mm2以上であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム。
【請求項3】前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1又は2記載の脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム、特に包装用途などに好適なハンドリング性(巻き性)および透明性に優れた脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、食品をはじめ各種商品を包装するフィルムには、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、およびナイロン6などに代表されるポリオレフィン、芳香族ポリエステル、ポリアミドなどの各種プラスチックが使用されている。これらの包装材用フィルムは、使用後回収され、焼却廃棄されるか或いは土中に埋められるかのいずれかの手段により処理されている。しかし、その回収には多大の労力を要する故に、現実には回収しきれずに放置され環境公害等の様々な問題を引き起こしていることは周知の通りである。また、焼却する場合、火力が強すぎて炉の損傷が激しいうえに大量の燃料を必要とするためコスト高となる。一方、土中に埋められる場合は、廃棄物が生分解性を有しておらず、土中に半永久的に残存してしまうという問題点があった。このような状況から、良好な生分解性を有する各種包装用フィルムを求める動きが高まっている。
【0003】
そこで、上記のポリエチレン等に生分解性を付与すべく、例えば澱粉等の生分解性を有する成分をブレンドすることが種々検討されている。更には、光分解性を付与する方法、或いは、光分解性を付与したポリエチレンと澱粉の生分解性を有する成分をブレンドする方法等が検討され、上述の問題の解決策として注目されている。然しながらこれらの方法では、澱粉成分は生分解性を有するので土中で微生物によって分解されるが、澱粉以外のポリマー部分は分解されない。このため、結局は上記問題の根本的解決策とはならない。
【0004】
これらのことから、近年の環境保護に関する社会的な認識の高まりと共に、プラスチック加工品全般に対し、自然環境のなかに廃棄されたとき、経時的に分解・消失し、自然環境に悪影響を及ぼさないプラスチック製品が求められていた。
【0005】
上記問題の根本的解決策として、ポリマー自身が生分解性を有する各種生分解性高分子素材が検討されている。中でもポリ乳酸は、自然環境下に棄却された場合に容易に分解されること、例えばポリ乳酸フィルムは土壌中において自然に加水分解されたのち微生物によって無害な分解物となることを利点として、従来より種々開発されてきた。、具体的には例えば、ポリ乳酸フィルムは、医薬用の成型品として(特公昭41-2734号、特公昭63-68155号等)、また、医薬用途以外の使い捨て用途の生分解性汎用材料の基本原料として応用が種々検討されている。
【0006】
その中でも、脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムは透明性、生分解性、汎用フィルムと同等の優れた機械的性質を有することから、一般包装材をはじめ幅広い用途に、応用が期待されている。
【0007】
一般にフィルムは、成形加工時の巻取り性、及び製品使用時の滑り性が要求される。この滑り性が不十分な場合、フィルムの製造時及び加工時にハンドリング性が不良となり、フィルムの走行時にガイドロール等との接触において滑り性不良により、張力が増大し、フィルム表面に擦り傷が発生して走行性が悪くなる。この滑り性を改良するために、フィルム中に、脂肪酸エステル系や脂肪酸系および脂肪酸アマイド系などの有機系潤滑剤、及びシリカ、炭酸カルシウムなどの無機微粒子(アンチブロッキング剤)などを含有させた例が、特開平8-34913号公報、および特開平9-278997号公報に開示されている。
【0008】
しかし、包装用の袋に用いる場合、ポリ乳酸フィルムはポリオレフィン等からなるシーラントフィルムとラミネートし、ヒートシールにより内容物を密閉する必要がある。ハンドリング性の改良のために、特開平8-34913号公報および特開平9-278997号公報に記載の有機系潤滑剤をポリ乳酸フィルムに添加すると、走行性は改善されるが、ポリ乳酸フィルムとシーラントフィルムとの間の接着強度が低下して接着不十分となり、包装用の袋として使用することは困難である。このように、上記記載の有機系潤滑剤またはアンチブロッキング剤の添加のみでは、包装用途に要求される製袋後のヒートシール部との接着性を維持しながら、透明性とハンドリング性(巻き性)を両立させる事は困難であった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の課題を解決し、特に包装用途などに好適なハンドリング性(巻き性)および透明性に優れた脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記のような状況に鑑みなされたものであって、上記の課題を解決することができた脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムとは、以下のとおりである。
【0011】
即ち、本発明の第1の発明は、主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または、炭素数1〜3のアルキル基)であり、脂肪族ポリエステルに対し不活性な平均粒子径1〜4μmの滑剤粒子を含有する脂肪族ポリエステルであって、連鎖状粒子を含有しない脂肪族ポリエステルを主成分としたフィルムであって、少なくとも片面の三次元平均表面粗さ(SRa)が0.018〜0.069μmであり、かつ粗さの中心面から0.00625μm以上の高さを有する突起の1mm2当たりの突起数(PCC値)が下記式(1)を満足することを特徴とする脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムである。
PCC値≦7000-45000×SRa …(1)
(なお、SRaとは表面粗さ曲線をサインカーブで近似した際の中心面(基準面)における平均粗さを意味し、触針式三次元表面粗さ計を用いて得た各点の高さを測定し、これらの測定値を三次元表面粗さ解析装置に取り込んで解析することにより得られる値である。)
【0012】
第2の発明は、前記突起数(PCC値)が1000個/mm2以上であることを特徴とする前記第1の発明に記載の脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムである。
【0013】
第3の発明は、前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする前記第1又は第2の発明に記載の脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムである。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる脂肪族ポリエステルとは、主たる繰り返し単位が一般式-O-CHR-CO-(Rは水素または炭素数1〜3のアルキル基)であるポリエステルをいう。
【0015】
ここで、脂肪族ポリエステルの繰り返し単位は、すべて上記一般式で表されることが好ましいが、必要に応じて、脂肪族ポリエステルとしての性能を損なわない範囲で、上記一般式で表される繰り返し単位以外の単位を含んでも良い。具体的には、例えば、分子中の繰り返し単位のうちの70モル%以上が上記一般式で表される繰り返し単位であることが好ましく、より好ましくは、80モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上であり、特に好ましくは95モル%以上である。
【0016】
ただし、脂肪族ポリエステル中には、通常、芳香族成分は含まれない。必要に応じて、脂肪族ポリエステルとしての性能を損なわない範囲で、芳香族成分を採用しても良いが、その場合、芳香族構造を含む繰り返し単位の比率は、分子中の繰り返し単位のうちの10モル%以下であることが好ましく、より好ましくは、5モル%以下であり、さらに好ましくは3モル%以下である。
【0017】
脂肪族ポリエステルの具体例としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(2-オキシ酪酸)等が挙げられるが、これらに限定されない。この中でも、ポリ乳酸が性能及び価格の点で最も好ましい。また、脂肪族ポリエステルは単独重合体であってもよく、上記一般式から選択される複数種の繰り返し成分が共重合された共重合体であってもよい。さらに、脂肪族ポリエステルは、単一のポリマーであってもよく、または複数種の脂肪族ポリエステルの混合物であってもよい。
【0018】
脂肪族ポリエステルの構成炭素原子中に不斉炭素が存在する場合、L-体、DL-体、D-体といった光学異性体が存在し得るが、それらのいずれも採用でき、また、それら異性体の混合物も採用できる。
【0019】
さらに、脂肪族ポリエステルには、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の高分子材料が混合されても構わない。他の高分子材料が混合される場合、好ましくは、脂肪族ポリエステルは、脂肪族ポリエステルと他の高分子材料との総重量のうちの70重量%以上であり、より好ましくは、80重量%以上であり、さらに好ましくは、90重量%であり、特に好ましくは、95重量%以上である。上述した脂肪族ポリエステル(以下、単に「ポリマー」ということがある。)は、公知の方法、例えば、対応するα-オキシ酸の脱水環状エステル化合物の開環重合などの方法で製造され、本発明のフィルムの原料となる。
【0020】
本発明で使用する脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、好ましくは、5000〜50万である。より好ましくは、1〜50万である。さらに好ましくは、4〜30万であり、特に好ましくは、5〜30万である。重量平均分子量が小さすぎる場合には、得られるフィルムの物性が低下しやすく、且つ、生分解速度が速すぎる傾向があるので好ましくない。また、フィルム製造時の製膜機からの押出性、2軸延伸機での延伸性を十分確保するためには重量平均分子量は1万以上であることが好ましい。一方、重量平均分子量が高すぎる場合には、脂肪族ポリエステルの溶融押出しが困難になるという問題が生じやすい。
【0021】
上記脂肪族ポリエステルには、公知の添加剤を必要に応じて含有させることができる。例えば、潤滑剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐光剤、耐衝撃性改良剤、結晶核剤、着色防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、離型剤、抗菌剤、または難燃剤などを含有させてもよい。例えば、必要に応じて帯電防止性等を考慮して、ラウリルホスフェートカリウム塩等のアニオン系界面活性剤、四級アンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤、脂肪族高級アルコールや高級脂肪酸のエチレンオキサイド付加物等のノニオン系界面活性剤、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールブロック共重合体等のポリアルキレングリコール類、ジメチルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーンオイル、高級アルコキシ変性シリコーンオイル等のシリコーンオイル類を一種または二種以上含有させることができる。
【0022】
本発明において、フィルムのハンドリング性を改善するためには、脂肪族ポリエステルに対し不活性な粒子である、無機粒子、有機塩粒子または耐熱性高分子粒子を脂肪族ポリエステル中に含有させ、フィルム表面に適切な表面凹凸を付与することが好ましい。
【0023】
無機粒子としては、例えばシリカ、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、カオリナイト等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸リチウム、硫酸バリウム、フッ化リチウム等の金属の塩、等が挙げられる。
【0024】
特に、良好なハンドリング性を維持しながら、透明性に優れたフィルムを得るためには、脂肪族ポリエステルと屈折率の近い粒子であるシリカを用いることが好ましく、なかでも1次粒子が凝集してできた凝集体のシリカ粒子、破砕型シリカ、ガラスフィラーが特に好ましい。
【0025】
有機塩粒子としては、蓚酸カルシウム、または、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、もしくはマグネシウム等のテレフタル酸塩等が挙げられる。
【0026】
耐熱性高分子粒子の例としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸などのビニル系モノマーの単独または共重合体が挙げられる。具体的には、例えば、架橋ポリスチレン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル樹脂などの架橋高分子粒子、およびシリコーン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂等の耐熱性有機粒子が挙げられる。
【0027】
また、フィルムの透明性とハンドリング性を両立する為には、2種以上の滑剤粒子を併用することも好ましい。特に、フィルムの製膜中に変形する滑剤粒子(例えば、架橋度の低い架橋ポリスチレン、架橋アクリル等の架橋高分子粒子、一次粒子の凝集体であるシリカ等)とフィルム製膜中に変形しない通常の滑剤粒子を組み合わせることが好ましい。
【0028】
上記滑剤粒子の脂肪族ポリエステルへの添加方法は、特に限定されず、公知の任意の方法が可能である。具体的には、例えば、脂肪族ポリエステルとしてポリ乳酸を使用する場合であれば、ラクチドを重合させる前に、溶融したラクチドに滑剤粒子を分散させる方法、及びラクチドの重合反応中に滑剤を分散させる方法などがある。
【0029】
このようにして調整されたフィルム用脂肪族ポリエステル組成物は、従来公知の方法により、フィルムに成形される。好ましくは、フィルムは成形後にさらに延伸される。具体的には、縦方向または横方向に延伸する一軸延伸法、インフレーション法、または同時二軸延伸法、もしくは逐次二軸延伸法などの二軸延伸方を用いる。逐次ニ軸延伸法としては、例えば、縦延伸および横延伸を順に行ってもよく、あるいは横延伸および縦延伸を順に行ってもよい。また、横・縦・縦延伸法、縦・横・縦延伸法、縦・縦・横延伸法などの延伸方法を適用することができる。さらに必要に応じて、熱固定処理、縦弛緩処理、または横弛緩処理などを施してもよい。さらに好ましくは、二軸延伸後に熱固定される。
【0030】
例えば、脂肪族ポリエステルフィルムを押出成形法により製造する場合には、公知のT-ダイ法、インフレーション法等が適用でき、これらの方法により未延伸フィルムを得ることができる。押出し温度は、用いる脂肪族ポリエステルの融解温度(Tm)〜Tm+70℃の範囲、より好ましくは、Tm+20〜Tm+50℃の範囲である。押出し温度が低すぎると、押出機に対して負荷がかかりすぎるために安定して押出し成形を行うことが困難となりやすい。また逆に、押出し温度が高すぎると、脂肪族ポリエステルが分解しやすくなるので好ましくない。脂肪族ポリエステルフィルムを製造するのに用いる押出機のダイとしては、環状又は線状のスリットを有するものを用いることができる。また、ダイの温度については押出温度と同様の温度が適用される。
【0031】
脂肪族ポリエステルからなる未延伸フィルムの二軸延伸は、一軸目の延伸と二軸目の延伸を逐次に行っても、同時に行っても良い。延伸温度は、用いる脂肪族ポリエステルのTg(ガラス転移点)〜Tg+50℃の範囲が好ましい。さらに好ましくはTg+10〜Tg+40℃の範囲である。延伸温度が低すぎると延伸が困難であり、逆に高すぎると厚み均一性または得られたフィルムの機械的強度が低下し好ましくない。
【0032】
縦、横の延伸はそれぞれ1段階でも多段階に分けて行っても良いが、それぞれの延伸方向に最終的には少なくとも3倍以上、更に好ましくは、3.5倍以上、また縦・横面積倍率で9倍以上、更に好ましくは12倍以上延伸することが厚みの均一性や機械的性質の点から好ましい。縦、横延伸比がそれぞれ3倍以下、また面積倍率で9倍以下では、厚み均一性の良いフィルムは得るのが困難になり、また、機械的強度等の物性の充分な向上が得られにくい。脂肪族ポリエステルを主成分とする基材フィルムの厚みは、10〜250μmであることが好ましく、さらに好ましくは12〜250μmである。
【0033】
尚、二軸延伸フィルムにおける長手方向は縦延伸方向を意味し、また幅方向は横延伸方向を意味する。延伸倍率の上限は、特に限定されない。ただし、延伸中にフィルムが破断しないように制御されることが好ましい。
【0034】
脂肪族ポリエステルフィルムは、その製造プロセス中に、他の樹脂との共押出し工程またはコーティング工程を設けて、複層フィルムとしてもよい。また、脂肪族ポリエステルフィルムは、用途によっては、表面エネルギーを向上する目的で、もしくは接着性や濡れ性をよくする目的で、コロナ放電処理、コーティング処理、プラズマ処理または火炎処理を行ってもよい。
【0035】
本発明において、脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムの少なくとも片面の三次元平均表面粗さ(SRa)は、0.01〜0.1μmの範囲であることが必要である。SRaが0.01μm未満では、ハンドリング性が不良となる。一方、SRaが0.1μmを超えると、透明性や耐削れ性が不良となる。
【0036】
更に、脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムにおいて、粗さの中心面における1mm2当たりの突起数(PCC値)は、下記式(1)を満足することが必要である。PCC値が下記式(1)の範囲を満足しないと、透明性が不良となる。
PCC値≦7000-45000×SRa …(1)
また、PCC値は1000個/mm2以上であることが好ましい。PCC値が1000個/mm2未満では、ハンドリング性や走行性が不良となりやすい。
【0037】
本発明でいう粗さの中心面とは、表面粗さ曲線をサインカーブで近似した際に、その平面よりも高い位置に存在する凸状部の体積の合計と、その面よりも低い位置に形成される凹状部の体積の合計が同じになる平面のことである。
【0038】
前記の粗さの中心面における単位面積当たりの突起数(PCC値)及び三次元平均表面粗さ(SRa)は、滑剤粒子及びフィルムの製膜条件によって制御することができる。滑剤粒子の種類及び含有量は、PCC値及びSRaが前記範囲内を満足するならば特に限定されない。滑剤粒子の平均粒子径は、0.01〜5μmが好ましく、1〜4μmが特に好ましい。滑剤粒子の含有量は、0.01〜0.5重量%が好ましく、特に好ましくは0.03〜0.3重量%である。
【0039】
滑剤粒子の平均粒子径または含有量のいずれか一方が上記範囲を満足しない場合には、SRaを0.01〜0.1μmとし、PCC値とSRaとの不等式を同時の満足させることが困難となる。また、PCC値とSRaとの不等式を満足させるためには、前記の滑剤粒子の平均粒径及び含有量の好適な範囲内で、比較的大きな平均粒子径の滑剤粒子を少量含有させることがさらに好適である。
【0040】
フィルムの滑り性を改善するための手段として、前述した滑剤粒子以外に、有機系潤滑剤をフィルム中に添加することが知られている。有機系潤滑剤としては、炭化水素樹脂、脂肪酸エステル、パラフィン、高級脂肪酸、脂肪族ケトン、および脂肪酸アミド等が挙げられる。しかしながら、本発明では、フィルムの表面形態に関するSRa及びPCC値を、所定の値とすることにより、滑り性の特性付与が可能であるため、必ずしも、有機系潤滑剤を添加する必要は無い。また、有機系潤滑剤を添加すると、有機系潤滑剤がフィルム表面にブリードアウトしやすい。このため、ポリオレフィン等とのシーラントフィルムとラミネートした後の接着強度が、不十分となりやすい。したがって、有機系潤滑剤は添加しない方が好ましい。
【0041】
本発明のフィルムにおいて、フィルムの延伸条件は、添加する滑剤に依存して変化する。PCC値及びSRaが所定の範囲内に入るような延伸条件が選択される。例えば、縦方向に1段以上延伸した後横方向に延伸する方法の場合、縦方向の延伸が終了した後の縦方向の屈折率(Nx)が1.555以下であることが好ましい。Nxが大きすぎると製造工程中で表面突起の形成が不十分となりやすく、ハンドリング性または走行性が不良となりやすい。
【0042】
好ましい実施態様において、脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムには、ヒートシール性を有する樹脂層すなわち、シーラント層が積層される。ヒートシール性を有する樹脂層には、オレフィン系樹脂、例えばポリエチレン、およびポリプロピレンなどが挙げられる。
【0043】
本発明のフィルムには、必要に応じて、接着改質層を積層することができる。接着改質層とは、脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム上に存在し、シーラント層などの各種材料と脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムとの間の接着力を改良する層をいう。接着改質層の材料はシーラント層と脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムとの接着力を改良し得る材料が使用され得る。例えば、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリウレタン等から選ばれる、少なくとも1種およびまたは2種以上の共重合体(ブロックおよびグラフト体を含む)などが挙げられる。
【0044】
接着改質層に、さらに本発明の効果を損なわない範囲で、帯電防止剤、無機滑剤、紫外線吸収剤、有機滑剤、抗菌剤、光酸化触媒などの添加剤を含有させることができる。これらの添加剤は、例えば、接着改質剤層を構成する樹脂を含む塗布剤中に含有させる方法により、脂肪族ポリエステルフィルムの表面に付与される。
【0045】
接着改質層を形成するために、上記接着力を改質する材料を含む塗布液を脂肪族ポリエステルフィルムに塗布する方法としては、グラビア方式、リバース方式、ダイ方式、バー方式、ディップ方式などの公知の塗布方式を用い得る。
【0046】
塗布液の塗布量は、好ましくは、固形分として0.005〜10g/m2であり、より好ましくは、0.02〜0.5g/m2である。塗布量が少なすぎる場合には、脂肪族ポリエステルフィルムとシーラント層などとの間の十分な接着強度が得られにくい。塗布量が多すぎる場合には、ブロッキングが発生しやすく、実用上問題が発生しやすい。
【0047】
接着改質層は、脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムに上記塗布液を塗布・乾燥することにより形成してもよい。または、未延伸もしくは一軸延伸後の脂肪族ポリエステルフィルムに上記塗布液を塗布した後、乾燥し、必要に応じて、さらに一軸延伸あるいは二軸延伸後熱固定を行っても良い。
【0048】
脂肪族ポリエステルフィルム上に接着改質層を積層する場合、脂肪族ポリエステルフィルムと接着改質層との接着性をさらに良くする為、脂肪族ポリエステルフィルムにコロナ処理、火炎処理、電子線照射等による表面処理をしてもよい。また、さらに接着性や印刷性をよくするために、該接着改質層にさらにコロナ処理、火炎処理、電子線照射等による表面処理をすることもできる。
【0049】
未延伸もしくは一軸延伸後の脂肪族ポリエステルフィルムに上記塗布液を塗布した後、乾燥及び延伸する場合、塗布後の乾燥温度は、その後の延伸に影響しない範囲に調節される。さらに延伸、140℃以上で熱固定を行えば、塗膜が強固になり、接着改質層と脂肪族ポリエステルフィルムとの接着性が飛躍的に向上する。
【0050】
このようにして得られる易接着脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムは、各種機能を有する層と良好な接着強度を有し、広範囲の用途で使用され得る。各種機能を有する層としては、例えば、写真感光層、ジアゾ感光層、マット層、磁性層、インクジェットインキ受容層、ハードコート層、印刷インキやUVインキ、ドライラミネートや押し出しラミネート等の接着剤、金属あるいは無機物またはそれらの酸化物の真空蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD、プラズマ重合等で得られる薄膜層、有機バリアー層などが挙げられる。
【0051】
【実施例】
以下に実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、フィルムの評価方法を以下に示す。
【0052】
(1)三次元平均表面粗さ(SRa)
フィルム表面を触針式三次元表面粗さ計(SE-3AK、株式会社小坂研究所社製)を用いて、針の半径2μm、荷重30mgの条件下に、フィルムの長手方向にカットオフ値0.25mmで、測定長1mmにわたって、針のスピード0.1mm/secで測定し、2μmピッチで500点に分割し、各点の高さを量子化幅0.00312μmで三次元粗さ解析装置(SPA-11)に取り込ませた。これと同様の操作をフィルムの幅方向について2μm間隔で連続的に150回、即ちフィルムの幅方向0.3mmにわたって行ない、解析装置にデータを取り込ませた。また、X倍率は200倍、Y倍率は500倍、Z倍率は20000倍とした。
【0053】
ここで、SRaとは、表面粗さ曲線をサインカーブで近似した際の中心面(基準面)における平均粗さを意味し(中心面とはサインカーブにおける凸状側のトータル体積と凹状側のトータル体積が同じになる平面である)、具体的には、触針式三次元表面粗さ計により、一定間隔で離れた所定数の測定箇所(点)の高さを測定し、これらの測定値を三次元粗さ解析装置に取り込んで解析することにより得られる値である。
【0054】
中心面上にX軸およびY軸からなる直行座標軸系を置き、中心面に直行する軸をZ軸とし、中心面上にX軸方向長さLx、Y軸方向長さLy、面積Lx×Ly=SMの部分を抜き取り、この抜き取り部分から、SRaは、以下の式で計算され、μm単位で表される。
【0055】
【数1】

【0056】
ここで、Z=f(x、y)は、上記直交座標軸上の位置(x、y)におけるフィルム表面の高さZを表す関数を意味し、L=500、Ly=150である。
【0057】
(2)PCC値
上記SRaの算出時における基準高さを有する基準面から0.00625μm以上の高さを持つ突起数を計算し、1mm2当たりについて表した。
【0058】
(3)ヘイズ
JIS-K6714に準じ、日本精密光学(株)製300Aを用いてヘイズを測定した。
【0059】
(4)屈折率
アタゴ光学社製アッベ屈折計1Tを用い、フィルムの長手方向の屈折率を求めた。
【0060】
(5)フィルムのハンドリング特性
広幅のロールに巻かれたフィルムを2500mスリットして、小幅のロールに巻き直すに際して、ロール端部の巻きずれ、しわ、バブル等を生じないで問題のないロールが得られるかどうかを4段階で評価し、次のランク付けで評価した。
1級;問題のないスリットロールを得ることは極めて困難。
2級;低速(150m/分)で問題のないスリットロールが得られる。
3級;中速(200m/分)で問題のないスリットロールが得られる。
4級;高速(250m/分)で問題のないスリットロールが得られる。
【0061】
(6)接着性評価
各実施例、比較例で得られた脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムのコロナ処理面上に、接着剤AD585/CAT-10(東洋モートン社製)を2g/m2塗布した後、常法に従って、厚み60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(P1120、東洋紡績製)をドライラミネート法にて貼り合わせてシーラント層を設け、脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム積層体を得た。得られた積層体の乾燥時の剥離強度及び湿潤時の状態における剥離強度を測定した。測定は、引張速度100mm/分での90°剥離試験により行われた。表1中の「乾燥」は温度23℃、湿度65%RHにおける測定値である。「湿潤」は、フィルムが湿潤した状態での測定値を示す。フィルムが湿潤した状態での測定は、測定試料にスポイトで水滴をたらして、フィルムを湿潤状態として行った。
【0062】
実施例1、2、3、及び比較例1、2
L-ラクチド100重量部に対し、触媒としてオクチル酸スズ0.03重量部を反応缶に仕込み、缶内の温度を190℃で1時間反応を行った。反応終了後、得られた反応系を減圧にして、残留するL-ラクチドを留去して、ポリ乳酸を得た。得られたポリ乳酸の還元粘度は1.9dl/gであった。滑剤粒子として、平均粒子径1.8μmの凝集体シリカ粒子(富士シリシア化学株式会社製SYLYSIA350)を用いた。滑剤粒子は、L-ラクチド中に分散されたスラリーの形態で、L-ラクチド重合反応開始前に、様々な添加量で添加された。得られたポリ乳酸に対する滑剤粒子の含有量を表1中に示した。また、平均粒子径は電子顕微鏡を用いて求めた。
【0063】
上記ポリ乳酸を110℃で4時間真空乾燥させた後、200℃でTダイから押し出し、表面温度16℃のキャスティングドラム上に静電荷により密着させ急冷固化し、キャストフィルムを得た。該キャストフィルムを72℃に加熱したロールで加温した後、長手方向に3.3倍延伸した。その後、テンター内で60℃に予熱し75℃に昇温しながら幅方向に4.0倍延伸し、150℃で熱固定した。さらに、150℃で横弛緩処理を行い、幅方向に3%リラックスさせた後、厚みが12μmのポリ乳酸二軸延伸フィルムを得た。これらの延伸フィルムの特性値を表1に示す。ここで、縦延伸終了後の縦方向の屈折率Nxは1.469であった。また、実施例1〜3および比較例1で得られたフィルムは透明性良好であったが、比較例2で得られたフィルムの透明性は不良であった。
【0064】
実施例4
滑剤粒子を、平均粒子径1.65μmの球状シリカ粒子(水澤化学工業株式会社製AMT-シリカ#100B、AMT-シリカ#100B)0.10重量部に変更した以外は実施例1と同様にフィルムを作成した。得られた結果を表1に示す。縦延伸終了後の縦方向の屈折率Nxは1.467であった。得られたフィルムの透明性は良好であった。
【0065】
比較例3
滑剤粒子を、平均粒子径5.8μmの球状シリカ粒子(水澤化学工業株式会社製AMT-シリカ#500B)0.12重量部に変更した以外は実施例1と同様にフィルムを作成した。得られた結果を表1に示す。縦延伸終了後の縦方向の屈折率Nxは1.467であった。得られたフィルムの透明性は不良であった。
【0066】
比較例4
滑剤粒子として、平均粒子径7nmのシリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、商品名アエロジル300)を用い、有機系潤滑剤としてニュートロンS(日本精化株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてフィルムを作成した。得られた結果を表1に示す。
【0067】
比較例5
有機系潤滑剤を添加しなかった以外は、比較例4と同様にしてフィルムを作成した。得られた結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【発明の効果】
本発明の脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルムは、製袋後のヒートシール部との接着性を維持しながら、透明性とハンドリング特性(巻き性)という相反する特性を両立しているため、一般包装用フィルムとして極めて有用である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-02-10 
出願番号 特願平11-212321
審決分類 P 1 651・ 536- ZA (C08J)
P 1 651・ 121- ZA (C08J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 谷口 浩行
特許庁審判官 中島 次一
船岡 嘉彦
登録日 2001-06-08 
登録番号 特許第3196895号(P3196895)
権利者 東洋紡績株式会社
発明の名称 脂肪族ポリエステル二軸延伸フィルム  
代理人 鳥居 和久  
代理人 谷口 操  
代理人 高島 一  
代理人 幸 芳  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 土井 京子  
代理人 東尾 正博  
代理人 谷口 操  
代理人 幸 芳  
代理人 高島 一  
代理人 山本 健二  
代理人 山本 健二  
代理人 土井 京子  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 庄子 幸男  
代理人 鎌田 文二  
代理人 栗原 弘幸  
代理人 栗原 弘幸  

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