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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D02G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D02G
管理番号 1130864
異議申立番号 異議2003-70368  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-02-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-04 
確定日 2006-01-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第3314718号「織編物とその製造法および複合糸」の請求項1ないし18に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3314718号の請求項1ないし18に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3314718号は、平成10年4月15日(優先権主張、平成9年4月15日、同年5月23日、同年5月26日)に出願され、平成14年6月7日にその特許権の設定登録がされたものであって、これに対して関口勝宏、帝人ファイバー株式会社及びユニチカ株式会社より特許異議の申立てがなされ、平成16年9月29日付け取消理由通知書(以下、「本件取消理由通知書」という。)を発送したところ、同年12月7日付け特許異議意見書(以下、「本件取消理由意見書」という。)と共に同日付け訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)が提出され、これに対し平成17年5月17日付け訂正拒絶理由通知書(以下、「本件訂正拒絶理由通知書」という。)を発送したところ、同年7月15日付け意見書(以下、「本件訂正拒絶理由意見書」という。)と共に同日付け手続補正書(訂正請求書)(以下、「本件補正書」という。)が提出されたものである。

2.本件訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の適否

2-1.本件補正書による補正(以下、「本件補正」という。)の適否

1)本件補正は、本件訂正請求書に関するものであるが、本件補正書に添付した「「請求の理由」全文(補正後)」及び「全文訂正明細書(補正後)」は、以下のア)及びイ)に例示されるように、本件補正書の「5.補正の内容」に記載した補正しようとする事項、即ち、補正事項を適正に反映したものとなっていない部分がある。

ア)本件補正書の「5.補正の内容」の「(1)」〜「(3)」によれば、ここに記載の補正事項は、本件訂正請求書の「6.請求の理由」、「(3)訂正の趣旨」の「(ハ)〜(ホ)」(本件訂正請求書4頁6行〜5頁15行)に記載された訂正事項3〜5(以下、「補正前訂正事項3〜5」という。)を、本件訂正請求書において訂正しようとする事項、即ち、訂正事項から削除するものである。
しかしながら、本件補正書に添付した「「請求の理由」全文(補正後)」の3頁6〜10行には、補正前訂正事項4と同じ内容のものが、訂正事項3として、記載されている。

イ)本件補正前の本件訂正請求書に添付した全文訂正明細書の段落【0016】の記載は、以下のとおりである。

「8≦CB(山/cm)≦30
TS≧0.265cN/dtex
(b) 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの伸度が、35%以下であること。
(c) 前記他のポリエステルマルチフィラメント糸Bが仮撚り加工されたポリエステルマルチフィラメント糸であること。
(d) 前記複合糸が、該仮撚り加工されたポリエステルマルチフィラメント糸Bのトルクと逆方向に撚糸されていること。
(e) 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸Aおよび他のポリエステルフィラメント糸Bに対する、コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの占める割合が、重量比で、
0.2≦A/(A+B)≦0.8
であること。」

一方、「全文訂正明細書(補正後)」の段落【0016】は、以下のとおりに記載されており、先に述べた本件補正前の同段落の記載は補正されているにも拘わらず、本件補正書の「5.補正の内容」には、この補正を補正事項として記載していない。

「8≦CB(山/cm)≦30
TS≧0.265cN/dtex
(b) 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの伸度が、35%以下であること。
(c) 前記他のポリエステルマルチフィラメント糸Bが仮撚り加工されたポリエステルマルチフィラメント糸であること。
(d) 前記複合糸が、該仮撚り加工されたポリエステルマルチフィラメント糸Bのトルクと逆方向に撚糸されていること。
(d) 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸Aおよび他のポリエステルフィラメント糸Bに対する、コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの占める割合が、重量比で、
0.2≦A/(A+B)≦0.8
であること。
(f) 前記複合糸が、撚り係数α3,000〜25,000で加撚されていること。」

2)そこで、本件補正書を見ると、本件補正書の「5.補正の内容」の「(1)」〜「(3)」によれば、本件補正は、旧訂正事項3〜5、具体的には、願書に添付した明細書における特許請求の範囲請求項14〜18についての訂正を、本件訂正請求書における訂正事項から削除するもので、結局は、以下の事項aを本件訂正請求書に係る訂正事項にする補正であると認められる。

事項a;明細書の【特許請求の範囲】の記載を、
「【請求項1】 コンジュゲートマルチフィラメント糸が撚糸された螺旋状のマルチフィラメント集合体からなり、該マルチフィラメント集合体は螺旋状として実質的に位相がずれることなく個々のフィラメントが集合形態を保っており、かつその中心部分の長さ方向に空洞構造を有する中空構造体糸で構成されてなることを特徴とする織編物。
【請求項2】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸が、けん縮発現されてなるコンジュゲートマルチフィラメント糸であることを特徴とする請求項1記載の織編物。
【請求項3】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸が、中空繊維からなることを特徴とする請求項1または2記載の織編物。
【請求項4】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸のけん縮数(CB)が、8≦CB(山/cm)≦30であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の織編物。
【請求項5】 熱収縮特性の異なる少なくとも2種類のポリエステル重合体からなる螺旋状のけん縮発現能を有するコンジュゲートマルチフィラメント糸Aと、他のポリエステルマルチフィラメント糸Bとが引き揃えて撚糸されてなり、該コンジュゲートマルチフィラメント糸Aは、螺旋状として実質的に位相がずれることなく個々のフィラメントが集合形態を保っており、かつ撚係数αが3,000〜20,000の範囲で加撚されてなることを特徴とする複合糸。
ただし、撚係数α=T×D1/2T:撚り数(t/m)
D:複合糸の繊度(dtex)
【請求項6】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの発現けん縮数(CB)および収縮応力(TS)が、次式
8≦CB(山/cm)≦30
TS≧0.265cN/dtex
を満足することを特徴とする請求項5記載の複合糸。
【請求項7】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの伸度が35%以下であることを特徴とする請求項5または6記載の複合糸。
【請求項8】 前記他のポリエステルマルチフィラメント糸Bが仮撚り加工されたポリエステルマルチフィラメント糸であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の複合糸。
【請求項9】 前記複合糸が、該仮撚り加工されたポリエステルマルチフィラメント糸Bのトルクと逆方向に撚糸されていることを特徴とする請求項8記載の複合糸。
【請求項10】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸Aおよび他のポリエステルフィラメント糸Bに対する、コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの占める割合が、重量比で、
0.2≦A/(A+B)≦0.8
であることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の複合糸。
【請求項11】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの繊度が30〜350dtexであり、他のポリエステルマルチフィラメント糸Bの繊度が30〜800dtexであることを特徴とする特徴とする請求項5〜10のいずれかに記載の複合糸。
【請求項14】 請求項6〜13のいずれかに記載の複合糸にリラックス熱処理を施し、けん縮を発現せしめてなるものであることを特徴とする複合糸。
【請求項15】 前記複合糸が、中心部分の長さ方向に空洞構造を有する中空構造体糸であることを特徴とする請求項6〜14のいずれかに記載の複合糸。
【請求項16】 請求項6〜15のいずれかに記載の複合糸で構成されてなる織編物。
【請求項17】 熱収縮特性の異なる極限粘度0.35〜0.45の低粘度ポリエステル成分と極限粘度0.65〜0.85の高低粘度ポリエステル成分とからなり、両者間の極限粘度差が0.20〜0.40であるコンジュゲートマルチフィラメント糸であって、かつ、伸度が35%以下で、発現けん縮数(CB)と収縮応力(TS)が次式:
8≦CB(山/cm)≦30
TS≧0.265cN/dtex
を満足するコンジュゲートマルチフィラメント糸に、撚係数αが3,000〜25,000となるように加撚し、
ただし、撚係数α=T×D1/2T:撚り数(t/m)
D:コンジュゲートマルチフィラメント糸の繊度(dtex)<次いで、得られた撚糸を用いて製織編後、100℃以上の温度でリラックス湿熱処理を施して、螺旋状として実質的に位相がずれることなく個々のフィラメントが集合形態を保った状態で捲縮を発現せしめるとともに、該コンジュゲートマルチフィラメント糸の中心部の長さ方向に空洞状の中空構造を形成せしめることを特徴とする織編物の製造法。
【請求項18】 リラックス湿熱処理して該コンジュゲートマルチフィラメント糸に空洞状の中空構造を形成せしめてから、アルカリ減量処理と染色を行なうことを特徴とする請求項17記載の織編物の製造法。」と訂正する。

これに対し、本件訂正請求書には、上記事項aが、訂正事項として、記載されていたとは認められない。
してみると、本件補正は、本件訂正請求書の請求の趣旨の要旨を変更するもので、特許法第120条の4第3項の規定により準用する同法第131条第2項に規定する要件に違反するものであるから、不適法なものであって、採用できない。

3)なお、念のために、本件補正書に添付した「全文訂正明細書(補正後)」を見ると、本件補正は、少なくとも以下の事項bを本件訂正請求書に係る訂正事項にする補正であると、一応、認められる。

事項b;明細書の【特許請求の範囲】の記載を、
「【請求項1】 コンジュゲートマルチフィラメント糸が撚糸された螺旋状のマルチフィラメント集合体からなり、該マルチフィラメント集合体は螺旋状として実質的に位相がずれることなく個々のフィラメントが集合形態を保っており、かつその中心部分の長さ方向に空洞構造を有する中空構造体糸で構成されてなることを特徴とする織編物。
【請求項2】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸が、けん縮発現されてなるコンジュゲートマルチフィラメント糸であることを特徴とする請求項1記載の織編物。
【請求項3】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸が、中空繊維からなることを特徴とする請求項1または2記載の織編物。
【請求項4】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸のけん縮数(CB)が、8≦CB(山/cm)≦30であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の織編物。
【請求項5】 熱収縮特性の異なる少なくとも2種類のポリエステル重合体からなる螺旋状のけん縮発現能を有するコンジュゲートマルチフィラメント糸Aと、他のポリエステルマルチフィラメント糸Bとが引き揃えて撚糸されてなり、該コンジュゲートマルチフィラメント糸Aは、螺旋状として実質的に位相がずれることなく個々のフィラメントが集合形態を保っており、かつ撚係数αが3,000〜20,000の範囲で加撚されてなることを特徴とする複合糸。
ただし、撚係数α=T×D1/2
T:撚り数(t/m)
D:複合糸の繊度(dtex)
【請求項6】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの発現けん縮数(CB)および収縮応力(TS)が、次式
8≦CB(山/cm)≦30
TS≧0.265cN/dtexを満足すること
を特徴とする請求項5記載の複合糸。
【請求項7】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの伸度が35%以下であることを特徴とする請求項5または6記載の複合糸。
【請求項8】 前記他のポリエステルマルチフィラメント糸Bが仮撚り加工されたポリエステルマルチフィラメント糸であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の複合糸。
【請求項9】 前記複合糸が、該仮撚り加工されたポリエステルマルチフィラメント糸Bのトルクと逆方向に撚糸されていることを特徴とする請求項8記載の複合糸。
【請求項10】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸Aおよび他のポリエステルフィラメント糸Bに対する、コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの占める割合が、重量比で、
0.2≦A/(A+B)≦0.8
であることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の複合糸。
【請求項11】 前記コンジュゲートマルチフィラメント糸Aの繊度が30〜350dtexであり、他のポリエステルマルチフィラメント糸Bの繊度が30〜800dtexであることを特徴とする特徴とする請求項5〜10のいずれかに記載の複合糸。
【請求項12】 請求項5〜11のいずれかに記載の複合糸にリラックス熱処理を施し、けん縮を発現せしめてなるものであることを特徴とする複合糸。
【請求項13】 前記複合糸が、中心部分の長さ方向に空洞構造を有する中空構造体糸であることを特徴とする請求項12に記載の複合糸。
【請求項14】 請求項12または請求項13に記載の複合糸で構成されてなる織編物。
【請求項15】 熱収縮特性の異なる極限粘度0.35〜0.45の低粘度ポリエステル成分と極限粘度0.65〜0.85の高低粘度ポリエステル成分とからなり、両者間の極限粘度差が0.20〜0.40であるコンジュゲートマルチフィラメント糸であって、かつ、伸度が35%以下で、発現けん縮数(CB)と収縮応力(TS)が次式:
8≦CB(山/cm)≦30
TS≧0.265cN/dtex
を満足するコンジュゲートマルチフィラメント糸に、撚係数αが3,000〜25,000となるように加撚し、
ただし、撚係数α=T×D1/2T:撚り数(t/m)
D:コンジュゲートマルチフィラメント糸の繊度(dtex)
次いで、得られた撚糸を用いて製織編後、100℃以上の温度でリラックス湿熱処理を施して、螺旋状として実質的に位相がずれることなく個々のフィラメントが集合形態を保った状態で捲縮を発現せしめるとともに、該コンジュゲートマルチフィラメント糸の中心部の長さ方向に空洞状の中空構造を形成せしめることを特徴とする織編物の製造法。
【請求項16】 リラックス湿熱処理して該コンジュゲートマルチフィラメント糸に空洞状の中空構造を形成せしめてから、アルカリ減量処理と染色を行なうことを特徴とする請求項15記載の織編物の製造法。」と訂正する。

これに対し、本件訂正請求書には、上記事項bが、訂正事項として、記載されていたとは認められない。
してみると、上述したように、一応、認定された本件補正も、本件訂正請求書の請求の趣旨の要旨を変更するもので、特許法第120条の4第3項の規定により準用する同法第131条第2項に規定する要件に違反するものであるから、不適法なものであって、採用できない。

4)以上のことから、本件補正は、到底、採用できるものではない。

2-2.本件訂正拒絶理由通知書の内容
本件訂正拒絶理由通知書において示した、本件訂正請求書に係る請求は拒絶すべきであるとする理由は、以下のとおりである。

「A.(決定注;ここにおける「A.」は、本件訂正拒絶理由通知書において「1.」であったが、本決定の「1.」の項番と区別するために変更している。以下の同様。)本件訂正
本件訂正は、以下の訂正事項を有するものと認める。

訂正事項a;
【特許請求の範囲】の【請求項14】、【請求項15】の記載を、
「【請求項12】 請求項5〜11のいずれかに記載の複合糸にリラックス熱処理を施し、けん縮を発現せしめてなるものであることを特徴とする熱処理された複合糸。
【請求項13】 前記複合糸が、中心部分の長さ方向に空洞構造を有する中空構造体糸であることを特徴とする請求項12に記載の熱処理された複合糸。」と訂正する。

訂正事項b;
【特許請求の範囲】の【請求項17】の記載を、
「【請求項15】 熱収縮特性の異なる極限粘度0.35〜0.45の低粘度ポリエステル成分と極限粘度0.65〜0.85の高低粘度ポリエステル成分とからなり、両者間の極限粘度差が0.20〜0.40であるコンジュゲートマルチフィラメント糸であって、かつ、伸度が35%以下で、発現けん縮数(CB)と収縮応力(TS)が次式:
8≦CB(山/cm)≦30
TS≧0.265cN/dtex
を満足するコンジュゲートマルチフィラメント糸に、撚係数αが3,000〜30,000となるように加撚し、
ただし、撚係数α=T×D1/2T:撚り数(t/m)
D:コンジュゲートマルチフィラメント糸の繊度(dtex)
次いで、得られた撚糸を用いて製織編後、100℃以上の温度でリラックス湿熱処理を施して、螺旋状として実質的に位相がずれることなく個々のフィラメントが集合形態を保った状態で捲縮を発現せしめるとともに、該コンジュゲートマルチフィラメント糸の中心部の長さ方向に空洞状の中空構造を形成せしめることを特徴とする織編物の製造法。」と訂正する。

訂正事項c;段落【0013】及び【0014】の記載につき、
「【0013】・・・中空繊維からなること、および前記マルチフィラメント糸が、撚係数αが3,000〜30,000の範囲で加撚されてなることが好ましい態様として含まれる。
【0014】ただし、撚係数α=T×D1/2T:撚り数(t/m)
D:コンジュゲートマルチフィラメント糸の繊度(dtex)
・・・」とあるのを、
「【0013】・・・中空繊維からなることが好ましい態様として含まれる。
【0014】ただし、撚係数α=T×D1/2T:撚り数(t/m)
D:コンジュゲートマルチフィラメント糸の繊度(dtex)
・・・」と訂正する。

訂正事項d;段落【0016】及び【0017】の記載につき、
「【0016】・・・であること。
(f) 前記複合糸が、撚係数α3,000〜25,000で加撚されていること。
【0017】ただし、撚係数α=T×D1/2T:撚り数(t/m)
D:複合糸の繊度(dtex)
・・・」とあるのを、
「【0016】・・・であること。
【0017】ただし、撚係数α=T×D1/2T:撚り数(t/m)
D:複合糸の繊度(dtex)
・・・」と訂正する。

B.訂正の適否

B-1.訂正事項aについて
訂正後の【請求項12】の記載は、以下に記載のとおりである。

「【請求項12】 請求項5〜11のいずれかに記載の複合糸にリラックス熱処理を施し、けん縮を発現せしめてなるものであることを特徴とする熱処理された複合糸。」

そして、この記載によれば、「複合糸にリラックス熱処理を施し」の記載と、「熱処理された複合糸」の記載が認められるが、前者記載の「リラックス熱処理」と後者記載の「熱処理」との、発明特定事項としての関係が不明りょうであるから、本訂正は、請求項の記載を不明りょうとするものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえないし、また、不明りょうである以上、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正を目的とするものともいえない。
また、本訂正は、訂正前の【請求項14】において、その末尾に記載された「複合糸」につき、これを修飾する「熱処理された」なる記載を挿入する訂正である。そして、同【請求項14】においては、「リラックス熱処理を施し」と記載された事項を発明特定事項としており、仮に、上記した挿入される「熱処理された」なる記載が「リラックス熱処理を施し」と記載された事項を、再度、実質的に、記載するものであるとしても、このような訂正は、やはり、上述したいずれの事項をも目的とするものとはいえない。
更に、訂正前の【請求項15】を、訂正後の【請求項13】とする本訂正についても、上で述べたのと同様に、上述したいずれの事項をも目的とするものとはいえない。

B-2.訂正事項bについて
本訂正は、訂正前の【請求項17】に記載の「コンジュゲートマルチフィラメント糸に、撚係数αが3,000〜25,000となるように加撚し、」を、「コンジュゲートマルチフィラメント糸に、撚係数αが3,000〜30,000となるように加撚し、」と訂正するもので、コンジュゲートマルチフィラメント糸を加撚するに際し、この加撚の程度を、撚係数αで3,000〜25,000の範囲から、3,000〜30,000の範囲へと拡張するものであるから、本訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的とするものとはいえない。
また、仮に、本訂正が上述したいずれかの事項を目的とするものとしても、上で述べたことから、本訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張するものである。

B-3.訂正事項cについて
訂正前の段落【0013】には撚係数αに関係する記載があり、これを受けて、段落【0014】には撚係数αの説明が記載されていた。これに対し、訂正後の段落【0014】には、ただし書きとして、撚係数αの説明が記載されているが、ここにおいて説明を記載する意味が、段落【0013】を見ても、不明りょうとなっており、このように、記載を不明りょうにする本訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえないし、また、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正を目的とするものともいえない。

B-4.訂正事項dについて
本訂正は、先に「B-3」で述べたのと同じ理由により、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえないし、また、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正を目的とするものともいえない。

C.まとめ
本件訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書きに規定するいずれの目的にも適合していないから、又は、同条第3項の規定により準用する同法第126条第3項の規定に適合しないから、拒絶すべきである。」

2-3.判断
本件訂正拒絶理由通知書において示した、本件訂正請求書に係る請求は拒絶すべきであるとする理由は、先に「2-2」で述べたとおりで、妥当であって、本件訂正は認められない。
権利者は、本件訂正拒絶理由意見書において、本件補正が認められることにより、上記理由は解消する旨の主張をするが、本件補正は、先に「2-1」で述べたように、採用できないことから、前記主張に理由はない。

3.本件取消理由通知書の内容
本件取消理由通知書において示した取消理由は、「本件請求項1〜18に係る特許は、明細書又は図面の記載が不備な、特許法第36条第4項又は第6項の規定に違反した特許出願に対して、なされたものであるから、取り消されるものである。」というもので、ここにいう不備とは、概要、以下のa〜cのことである。

a.請求項1には、「マルチフィラメント集合体は螺旋状として実質的に位相がずれることなく個々のフィラメントが集合形態を保っており、」と記載されているが、その記載内容が不明である。(以下、「不備a」という。)

b.請求項1に係る発明は、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明(以下、「本件説明」という。)によれば、コンジュゲートマルチフィラメント糸がけん縮発現した後の織編物に係るものである。
その一方で、本件説明によれば、請求項4において「コンジュゲートマルチフィラメント糸が、撚係数αが3,000〜30,000の範囲で加撚されてなる」と記載された事項は、けん縮発現する前のコンジュゲートマルチフィラメント糸に係る事項である。
してみると、請求項1を引用して記載する請求項4の記載は、コンジュゲートマルチフィラメント糸がけん縮発現する前に関する事項と、後に関する事項とが混在していることになり、不明確となっている。(以下、「不備b」という。)

c.請求項6〜18の中にも、不備bとして述べたように、コンジュゲートマルチフィラメント糸がけん縮発現する前に関する事項と、後に関する事項とが混在して記載されているものがあり、記載が不明確となっている。(以下、「不備c」という。)

4.当審の判断
本件取消理由通知書において示した取消理由の概要は、先に「3」で述べたとおりで、該取消理由は妥当である。
以下に補足する。

4-1.不備aについて

1)本件明細書の請求項1の記載は、以下のとおりである。

「コンジュゲートマルチフィラメント糸が撚糸された螺旋状のマルチフィラメント集合体からなり、該マルチフィラメント集合体は螺旋状として実質的に位相がずれることなく個々のフィラメントが集合形態を保っており、かつその中心部分の長さ方向に空洞構造を有する中空構造体糸で構成されてなることを特徴とする織編物。」

そして、ここには、「マルチフィラメント集合体は螺旋状として実質的に位相がずれることなく個々のフィラメントが集合形態を保っており、」(以下、「本件記載」という。)との記載が認められ、ここに記載の内容を、請求項1に係る発明を特定する事項としているが、位相の意味が不明であり、更に、位相なるものが実質的にずれることなく、とはどの様な意味なのかが不明であって、本件記載の記載内容が不明確となっている。

2)権利者は、本件取消理由意見書において、要するに、「螺旋状として実質的に位相がずれることなく個々のフィラメントが集合形態を保っており」なる記載とは、「個々のフィラメントの捲縮の山と谷の位置が概ね揃い、隣接する個々のフィラメント同士が、その少なくとも一部において接触している程度に集合状態にあるもの」を意味する旨、主張する。
しかしながら、上記記載は、個々のフィラメントが山と谷を形成するように捲縮されていることについて記載していないし、また、隣接する個々のフィラメント同士がどの程度に接触するかについてすら記載していないのであるから、隣接する個々のフィラメント同士が少なくとも一部において接触していることについて記載している訳はない。これらのことは、本件説明を見ても同様である。
したがって、権利者の主張は、本件明細書の記載に基づかないもので、当を得たものではない。

3)権利者は、本件取消理由意見書において、図5及び図3を挙げているので、これらを中心に、図面についても見ておく。

3-1)本件説明には、図5に関連して、以下の記載が認められる。

「【0036】次に、本発明の中空構造体糸からなる織編物について説明する。まず、製織、製編にするに当たり、上述のコンジュゲートマルチフィラメント糸に追撚を施こす。追撚はフィラメント糸を収束し、織・編物で弛緩熱処理を施したときに、熱収縮の異なる2種のポリエステル重合体の収縮差によって生じる螺旋状けん縮が、マルチフィラメント糸の製糸したときの集合体として、例えば、図5に示すように、螺旋状としての位相がずれないで、個々のフィラメントは集合形態を保ったままの状態に、できるだけ保つことによつて発現しやすくする。このマルチフィラメント糸の集合体の螺旋状けん縮の発現によって、マルチフィラメント集合体の中心部に空洞を生じる。」

この記載によれば、図5は「螺旋状としての位相がずれないで、個々のフィラメントは集合形態を保ったままの状態」のものを示していることがうかがえる。
しかしながら、図5に関するこの記載が、本件記載における「螺旋状として実質的に位相がずれることなく個々のフィラメントが集合形態を保っており、」との記載内容を定義するものとして記載されていないのは、その記載から明らかであって、更に図5は「螺旋状としての位相がずれないで、個々のフィラメントは集合形態を保ったままの状態」のものを示す例として記載されているに過ぎないことから、図5という図面自体が上記記載内容を定義するものでもないことは明らかで、これらの記載をもって、本件記載の記載内容が、発明を特定する事項として、明確であるとはいえない。

3-2)また、本件説明には、図3及び図4に関連して、以下の記載が認められる。

「【0041】・・・。図3は、マルチフィラメント糸の撚糸構造体における中空状態を示す側面写真である。図4は、図3の要部を示す拡大写真である。」

この記載を見ても、図3及び4が、本件記載の定義に関するものであることすら、明細書からはうかがえず、図3及び4という図面自体から、本件記載の記載内容が、発明を特定する事項として、明確であるとはいえない。

3-3)更に、他の図、即ち、図1、2、6〜9を見ても、やはり、本件記載の記載内容が、発明を特定する事項として、明確とはいえない。
特に、これら図面に記載のものをみても、本件記載の記載内容が不明なこともあって、これらの全てが、本件記載の内容を満たしているのかが不明である。

4)したがって、特許請求の範囲の記載は、明細書全体の記載からして、特許を受けようとする発明が明確であることに適合しないし、そうである以上、本件説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

4-2.不備bについて
請求項1に係る発明は、コンジュゲートマルチフィラメント糸がけん縮発現した後の織編物に係るものであって、これを引用して記載する請求項4の記載は、コンジュゲートマルチフィラメント糸がけん縮発現する前に関する事項と、後に関する事項とが混在していることになり、不明確となっている。
したがって、特許請求の範囲の記載は、明細書全体の記載からして、特許を受けようとする発明が明確であることに適合しないし、そうである以上、本件説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
権利者は、本件取消理由意見書において、不備bについては、本件訂正が認められることにより解消する旨の主張をするが、本件訂正は、先に「2」で述べたように、認められないことから、前記主張に理由はない。

4-3.不備cについて

1)本件明細書の請求項6及び請求項15の記載は、以下のとおりである。

「【請求項6】 熱収縮特性の異なる少なくとも2種類のポリエステル重合体からなる螺旋状のけん縮発現能を有するコンジュゲートマルチフィラメント糸Aと、他のポリエステルマルチフィラメント糸Bとが引き揃えて撚糸されてなり、該コンジュゲートマルチフィラメント糸Aは、螺旋状として実質的に位相がずれることなく個々のフィラメントが集合形態を保っており、かつ撚係数αが3,000〜30,000の範囲で加撚されてなることを特徴とする複合糸。
ただし、撚係数α=T×D1/2T:撚り数(t/m)
D:複合糸の繊度(dtex)
【請求項15】 前記複合糸が、中心部分の長さ方向に空洞構造を有する中空構造体糸であることを特徴とする請求項6〜14のいずれかに記載の複合糸。」

2)請求項6に係る発明は、その記載から、コンジュゲートマルチフィラメント糸Aがけん縮発現する前の複合糸に係る発明であると認められ、このことは、本件取消理由意見書における権利者の主張と符合する。
一方、請求項15に係る発明は、「中心部分の長さ方向に空洞構造を有する中空構造体糸である」と特定されており、本件説明の段落【0019】や【0035】によれば、上述のように特定される発明は、コンジュゲートマルチフィラメント糸Aをけん縮発現することによって得られることがうかがえ、「中心部分の長さ方向に空洞構造を有する中空構造体糸である」と記載された事項は、コンジュゲートマルチフィラメント糸Aがけん縮発現した後の複合糸に係る事項である。
してみると、請求項6を引用して記載している請求項15の記載は、コンジュゲートマルチフィラメント糸Aがけん縮発現する前に関する事項と、後に関する事項とが混在していることになり、明細書全体の記載から見て、不明確となっている。
したがって、特許請求の範囲の記載は、明細書全体の記載からして、特許を受けようとする発明が明確であることに適合しないし、そうである以上、本件説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

5.最後に
本件訂正は、本件補正の適否に関わりなく、本件明細書の請求項1については、本件訂正請求書、更には、本件補正書及びこれに添付した「「請求の理由」全文(補正後)」及び「全文訂正明細書(補正後)」の記載全体からして、訂正事項としていないことは明らかである。
そして、本件明細書の請求項1に係る不備aを根拠とする取消理由は、先に「4」で述べたように、妥当であって、仮に、本件補正や本件訂正が認められるとしても、やはり、該取消理由は、妥当なものである。

6.まとめ
本件請求項1〜18に係る特許は、明細書又は図面の記載が不備な、特許法第36条第4項又は第6項の規定に違反した特許出願に対して、なされたものであるから、同法第113条第4項に該当し、取り消されるべきである。
よって、結論のとおりに決定する。
 
異議決定日 2005-11-29 
出願番号 特願平10-121829
審決分類 P 1 651・ 537- Z (D02G)
P 1 651・ 536- Z (D02G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 佐野 健治  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 澤村 茂実
鴨野 研一
登録日 2002-06-07 
登録番号 特許第3314718号(P3314718)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 織編物とその製造法および複合糸  
代理人 三原 秀子  

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