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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G01M
審判 一部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  G01M
管理番号 1130869
異議申立番号 異議2003-72885  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-06-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-26 
確定日 2006-01-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第3410896号「非球面レンズの偏心測定方法および装置」の請求項1ないし16、20ないし27に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3410896号の請求項1ないし9、20ないし27に係る特許を取り消す。 同請求項10ないし16に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許出願 平成8年3月14日(先の出願に基づく優先 権主張 平成7年7月28日)
特許権設定登録 平成15年3月20日
特許異議申立て(申立人有限会社オフィスアテナ、請求項1-16,20 -27に係る特許に対して)
平成15年11月26日
取消理由通知 平成17年4月8日(発送日 平成17年4 月19日)
訂正請求 平成17年6月20日
訂正拒絶理由通知 平成17年7月14日(発送日 平成17年 8月2日)
訂正請求書の補正 平成17年10月3日

2.訂正の適否
(1)本件訂正請求の趣旨は、本件特許第3410896号の明細書を、訂正請求書に添付した明細書のとおり、訂正しようとするものである。

(2)訂正の内容
特許権者が求めている訂正は、以下の訂正事項a.を含むものである。
a.特許請求の範囲の請求項1に
「【請求項1】被検レンズを被検面と逆側の面の球面部で保持する保持手段と、照明用の光源と、この光源からの光束を収束性もしくは発散性の光束として被検面に照射する照射用光学系と、被検面からの反射光を結像させる結像光学系と、この結像光学系による上記反射光の像の重心位置を検出する重心位置検出手段と、上記保持手段に保持された被検レンズと照射用光学系との間隔を調整する間隔調整手段と、上記重心位置検出手段が検出する、被検面の近軸球面による反射光の像の重心位置および、所定の非球面部分からの反射光の像の重心位置と、上記近軸球面の曲率半径と上記所定の非球面部分の曲率半径との差:ΔRとをデータとして、被検面の偏心量もしくは被検面の偏心量および偏心の方向を演算し、上記間隔調整手段を制御する制御・演算手段とを有し、上記保持手段の中心軸と、照射用光学系から被検レンズの被検面に照射される光束の光軸と、上記結像光学系の光軸とが実質的に合致し、上記間隔調整手段は、上記光軸の合致性を実質的に保って間隔調整を行なうものであることを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。」
とあるのを、
「【請求項1】被検レンズを被検面と逆側の面の球面部で保持する保持手段と、照明用の光源と、この光源からの光束を収束性もしくは発散性の光束として被検面に照射する照射用光学系と、被検面からの反射光を結像させる結像光学系と、この結像光学系による上記反射光の像の重心位置を検出する重心位置検出手段と、上記保持手段に保持された被検レンズと照射用光学系との間隔を調整する間隔調整手段と、上記重心位置検出手段が検出する、被検面の近軸球面による反射光の、上記結像光学系による像の重心位置および、所定の非球面部分からの反射光の、上記結像光学系による像の重心位置と、上記近軸球面の曲率半径と上記所定の非球面部分の曲率半径との差:ΔRとをデータとして、被検面の偏心量もしくは被検面の偏心量および偏心の方向を演算し、上記間隔調整手段を制御する制御・演算手段とを有し、上記保持手段の中心軸と、照射用光学系から被検レンズの被検面に照射される光束の光軸と、上記結像光学系の光軸とが実質的に合致し、上記結像光学系は、被検面からの反射光を単一光束として透過させるように構成され、上記間隔調整手段は、上記光軸の合致性を実質的に保って間隔調整を行なうものであることを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。」
と訂正する。

(3)訂正拒絶の理由
この訂正に対して、当審が通知した訂正拒絶の理由の抜粋は、次のものである。
『 訂正事項aについて
請求項1について、訂正前に「被検面の近軸球面による反射光の像の重心位置」、「所定の非球面部分からの反射光の像の重心位置」と記載していたのを、それぞれ「被検面の近軸球面による反射光の、上記結像光学系による像の重心位置」、「所定の非球面部分からの反射光の、上記結像光学系による像の重心位置」と訂正するとともに、訂正により「上記結像光学系は、被検面からの反射光を単一光束として透過させるように構成され、」という記載を追加するものであるが、訂正前の本特許明細書に、「結像光学系は、被検面からの反射光を単一光束として透過させる」との記載はなく、「単一光束」という用語記載すらなく、新規事項の追加に該当する。そして、今回の訂正明細書に「単一光束」の定義がされておらず、したがって当然に「結像光学系は、被検面からの反射光を単一光束として透過させるように構成され、」というのは、どのような技術内容を指すのか、不明確である。
上記不明確である点を、本件請求項1の実施例である図1-3の場合について詳細にいうと、用語「光束」は、本件の場合「光線束(pencil of rays)」の意味と認められ、「被検面」が「近軸球面」と「所定の被球面部分」の2つの反射部分からなるのであれば、結像光学系には、「近軸球面」からの反射光線束を結像光学系を透過させて結像させる光線束と、「所定の被球面部分」からの反射光線束を結像光学系を透過させて結像させる場合の光線束という2つの光線束が透過することが明らかであるのに、訂正に係る請求項1は、「結像光学系は、被検面からの反射光を単一光束として透過させるように構成され、」と技術内容が不明確な記載をしているに過ぎないからである。
したがって、訂正事項aは、平成15年改正前の特許法第126条第1項の規定を満足しない(つまり、今回の訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明、のいずれをも訂正の目的としていない)とともに、「結像光学系は、被検面からの反射光を単一光束として透過させるように構成され、」というのは、新規事項の追加に該当するから、特許法第126条第2項の規定を満足しない。』

(4)これに対して、特許権者は、平成17年10月3日付けで手続補正書(訂正請求書の補正)を提出した。

(5)平成17年10月3日付け手続補正(訂正請求書の補正)についての判断
[結論]平成17年10月3日付け手続補正(訂正請求書の補正)を認めない。
[理由]
補正内容
本件補正は、平成17年6月20日付け訂正請求書で訂正した明細書の特許請求の範囲の請求項1において、次の事項α,βの補正をすることを含むものである。

補正事項α 補正前(訂正したもの)は「光束を収束性もしくは発散性の光束として被検面に照射する」であったのを、「光束を、単体構造のレンズから射出する収束性もしくは発散性の光束として被検面に照射する」と補正する。

補正事項β 補正前(訂正したもの)は、「結像光学系は、被検面からの反射光を単一光束として透過させるように構成され、」であったのを、「結像光学系は、被検面にもっとも近いレンズが上記単体構造のレンズであり、」と補正するものである。

補正事項についての検討
補正事項αは、照射光学系について「単体構造のレンズから射出する」という新たな訂正事項を加えるものである。
そして、補正事項βは、補正前(訂正したもの)は「結像光学系は、被検面からの反射光を単一光束として透過させるように構成され、」であって、前記訂正拒絶の理由で通知したとおりに不明りょうなものであり、今回の補正はそれを、「結像光学系は、被検面にもっとも近いレンズが上記単体構造のレンズであり、」と補正するものであり、両者(訂正したもの、補正したものの両者)とも結像光学系について減縮しようという点では同じであるが、減縮内容に関して、「反射光を単一光束として透過させる」ということと、「被検面にもっとも近いレンズが前記単体構造のレンズであり、」ということに脈絡はなく訂正事項を変更するものである。
したがって、これら補正事項ア、イを含む本件補正は、平成15年改正前の特許法第120条の4第3項で準用する特許法第131条第2項の規定(請求書の補正は、その要旨を変更するものであってはならない)に違反するものである。

[むすび]
したがって、その余の補正事項を検討するまでもなく、本件補正は、認められない。
(訂正請求書の要旨を変更する補正について判断している平成08(行ケ)第00222号判決を参照)

(6)むすび
上記したとおり、本件補正は認められないものであるから、本件訂正は、前記当審が通知した前記訂正拒絶の理由で実質上示したとおり、平成15年改正前の特許法第120条の4第2項の規定、及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項の規定を満足しないから、当該訂正は認められない。
3.特許異議申立てについて
(1)申立ての理由の概要
特許異議申立人有限会社オフィスアテナは、甲第1-7号証を提出し、請求項1ないし16,請求項20ないし27に係る発明の特許は、甲第1-7号証により、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから取り消すべき旨、主張している。
甲第1号証:特開平6-258181号公報(「刊行物1」と呼ぶ)
甲第2号証:特開平1-296132号公報(「刊行物2」と呼ぶ)
甲第3号証:特開平5-196540号公報(「刊行物3」と呼ぶ)
甲第4号証:特開平5-11173号公報(「刊行物4」と呼ぶ)
甲第5号証:特開平7-128188号公報(「刊行物5」と呼ぶ)
甲第6号証:特開平6-273267号公報(「刊行物6」と呼ぶ)
甲第7号証:オプトロニクス技術活用のための光学部品の使いかたと留意 点 (末田哲夫著、昭和61年1月20日 株式会社オプト ロニクス社発行 )(「刊行物7」と呼ぶ)

(2)本件請求項1ないし16,請求項20ないし27に係る発明
前記「2.訂正の適否」の欄で示したとおり、訂正は認められないものであり、本件請求項1に係る発明は、前記「2.(2)a」の欄の記載されたもののうちで、訂正前の請求項1に記載のとおりのものである。
そして、本件請求項2ないし16,請求項20ないし27に係る発明は、次のものである。
「【請求項2】請求項1記載の非球面レンズの偏心測定装置において、間隔調整手段が、保持手段を保持して保持手段の中心軸方向へ変位させるステージ機構であることを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項3】請求項1記載の非球面レンズの偏心測定装置において、照射用光学系が、光源からの光束を平行光束化するレンズと、平行光束化された光束を被検面に照射する照射レンズとを有し、間隔調整手段が、上記照射レンズを光軸方向へ変位させるステージ機構であることを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項4】被検レンズを被検面と逆側の面の球面部で保持する保持手段と、照明用の光源と、この光源からの光束を収束性もしくは発散性の光束として被検面に照射する照射用光学系と、被検面からの反射光束を結像させる結像光学系と、この結像光学系による上記反射光の像の重心位置を検出する手段であって、結像光学系における結像光路を2分する光路分離手段と、分離された一方の光路において、被検面の近軸球面からの反射光の像の重心位置を検出する第1の重心検出手段と、他方の光路において、所定の非球面部分からの反射光の像の重心位置を検出する第2の重心検出手段とを有する重心位置検出手段と、上記重心位置検出手段が検出する、被検面の近軸球面による反射光の像の重心位置および、所定の非球面部分からの反射光の像の重心位置と、上記近軸球面の曲率半径と上記所定の非球面部分の曲率半径との差:ΔRとをデータとして、被検面の偏心量もしくは被検面の偏心量および偏心の方向を演算する制御・演算手段とを有し、上記保持手段の中心軸と、照射用光学系から被検レンズの被検面に照射される光束の光軸と、上記結像光学系の光軸とが実質的に合致していることを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項5】請求項1または2または3または4記載の非球面レンズの偏心測定装置において、被検レンズのデータを制御・演算手段に入力する入力手段を有することを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項6】請求項1または2または3または4または5記載の非球面レンズの偏心測定装置において、保持手段が、保持した被検レンズを中心軸の回りに回転させる回転手段と、回転角検出手段とを有することを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項7】請求項1または2または3または4または5記載の非球面レンズの偏心測定装置を用いる非球面レンズの偏心測定方法であって、被検面における近軸球面からの反射光の像の重心位置と、所定の非球面部分からの反射光の像の重心位置、および上記2つの重心位置の間の距離に基づき、被検面の偏心量または偏心量と偏心方向を所定の演算により算出することを特徴とする非球面レンズの偏心測定方法。
【請求項8】請求項6記載の非球面レンズの偏心測定装置を用いる非球面レンズの偏心測定方法であって、回転手段の回転に伴い、被検面の近軸球面からの反射光の像の重心位置が描く円の大きさと、所定の非球面部分からの反射光の像の重心位置が描く円の大きさに基づき、所定の演算により被検面の偏心量を算出し、または、上記偏心量の算出に加え、上記回転における初期位相に基づき所定の演算により偏心方向を所定の演算により算出することを特徴とする非球面レンズの偏心測定方法。
【請求項9】請求項7または8記載の非球面の偏心測定方法において、保持体中心軸に対して互いに180度異なる2つの保持態位で、被検レンズを保持させ、各保持態位に対して、反射光の像の重心位置もしくは重心位置の描く円の大きさを測定し、測定データの演算により保持手段の形状誤差を消去したのち、所定の演算により被検面の偏心量を算出し、または、上記偏心量の算出に加え、上記回転における初期位相に基づき所定の演算により偏心方向を所定の演算により算出することを特徴とする非球面レンズの偏心測定方法。
【請求項10】両面が非球面である被検レンズを、保持手段により一方の面の側の非球面部分で保持し、他方の面の側から光照射し、上記一方の面および他方の面からの反射光を結像光学系を介して撮像手段に入射せしめ、上記他方の面の近軸球面の曲率中心近傍を物点とする第1の結像スポットが上記結像光学系の光軸上に位置するように被検レンズの保持状態を調整し、上記他方の面の所定の非球面部の曲率中心近傍を物点とする第2の結像スポットの位置と上記一方の面の近軸球面の曲率中心近傍を物点とする第3の結像スポットの位置とを上記撮像手段の出力により測定し、上記被検レンズのデータと、上記第2,第3の結像スポットの位置とにより、上記他方の面における偏心量:εaもしくは偏心量:εaと偏心方向:θaとを算出し、上記第3の結像スポットの位置および、上記一方の面の近軸球面の曲率中心の所定位置からのずれ量を表す量として、上記一方の面の非球面形状と上記保持手段におけるレンズ保持部の形状に応じて一義的に定まる係数:ξにより、上記一方の面の偏心量:εbもしくは偏心量:εbと偏心方向:θbとを算出することを特徴とする非球面レンズの偏心測定方法。
【請求項11】請求項10記載の偏心測定方法を実施する装置であって、両面が非球面である被検レンズを、一方の面の側の非球面部分で可調整に保持する保持手段と、照明用の光源と、上記保持手段に保持された被検レンズに対し、上記光源からの光を、他方の面の側から収束性しくは発散性の光束として照射する照射用光学系と、上記保持手段の中心軸を光軸に略合致させ、被検レンズによる反射光を結像させる結像光学系と、結像光学系による結像スポットを撮像する撮像手段と、撮像手段による撮像対象として、第1,第2,第3の結像スポットを選択する撮像対象選択手段と、撮像手段の出力により、上記他方の面の偏心量:εaもしくは偏心量:εaと偏心方向:θaおよび、上記一方の面の偏心量:εbもしくは偏心量:εbと偏心方向:θbとを算出する演算手段とを有することを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項12】請求項11記載の偏心測定装置において、撮像手段が単一の撮像素子を有し、この撮像素子により撮像する結像スポットを選択するための撮像対象選択手段が、保持手段と結像光学系との間の距離を、結像光学系の光軸方向に調整する間隔調整手段を有することを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項13】請求項12記載の偏心測定装置において、間隔調整手段により、保持手段と結像光学系との間の距離を自動的に調整する制御手段を有することを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項14】請求項11記載の偏心測定装置において、撮像手段が3つの撮像素子を有し、これら撮像素子が第1,第2,第3の結像スポットを別個に撮像できる位置関係を有し、撮像対象選択手段が、上記3つの撮像素子の演算手段への出力を切り替える手段を有することを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項15】請求項11または12または13または14記載の偏心測定装置において、保持手段のレンズ保持部が非反射処理されていることを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項16】請求項11または12または13または14記載の偏心測定装置において、保持手段のレンズ保持部が中空円筒状であり、その外周面が保持位置側を頂点側とする円錐面状であることを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。」、
「【請求項20】非球面レンズを被検レンズとして保持する保持手段と、照明用の光源と、この照明用の光源からの光束を収束性もしくは発散性の光束として被検レンズに照射する照射用光学系と、上記保持手段の中心軸と実質的に合致した光軸を持ち、被検レンズの、偏心を測定すべき被検非球面からの反射光束を結像させる結像光学系と、この結像光学系による、被検非球面の近軸曲率中心近傍を物点とする像と、所定非球面部分の曲率中心近傍を物点とする像とを分離する像分離手段と、この像分離手段により分離された各像の重心位置を検出する重心位置検出手段と、被検レンズのデータと、重心位置検出手段の検出結果に基づき、被検レンズにおける被検非球面の偏心量もしくは偏心量と偏心方向とを演算する制御・演算手段と、上記保持手段に保持される被検レンズの、保持手段に対する保持態位を規制し、もしくは規制と調整とを行なう規制・調整手段とを有することを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項21】請求項20記載の偏心測定装置において、規制・調整手段が、保持手段の中心軸に直交する面内で、上記中心軸から被検レンズのレンズ径の1/2の距離の位置に2つの互いに直交する当接面をもつ、L字状の規制部材であることを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項22】請求項21記載の偏心測定装置において、規制・調整手段が、L字状の規制部材の他に、保持手段に保持された被検レンズを、保持手段の中心軸を回転軸として回転させる回転手段を有することを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項23】請求項20記載の偏心測定装置において、規制・調整手段が、保持手段の中心軸に直交する面内において、互いに直交する所定の2方向へ、被検レンズを独立に変位させる2つの押圧部材と、これら押圧部材を変位させる変位手段とを有し、制御・演算手段が、被検レンズの被検非球面の近軸曲率中心近傍を物点とする反射光束の像の重心位置に応じて、上記近軸曲率中心を保持手段の中心軸上に位置させるための上記2つの押圧部材の変位量を算出することを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項24】請求項23記載の偏心測定装置において、制御・演算手段が、算出した変位量に応じて、被検レンズの被検非球面の近軸曲率中心が保持手段の中心軸上に位置するように、変位手段を制御するようにしたことを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項25】請求項20記載の偏心測定装置において、規制・調整手段が、保持手段の中心軸に直交する面内において、保持手段の中心軸方向へ被検レンズを変位させる押圧部材と、この押圧部材を変位させる変位手段と、上記保持手段に保持された被検レンズを、保持手段の中心軸を回転軸として回転させる回転手段とを有し、制御・演算手段が上記回転手段を制御するとともに、被検レンズの被検非球面の近軸曲率中心近傍を物点とする反射光束の像の重心位置に応じて、上記近軸曲率中心を保持手段の中心軸上に位置させるための上記押圧部材の変位量を算出することを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項26】請求項25記載の偏心測定装置において、制御・演算手段が、算出した変位量に応じて、被検レンズの被検非球面の近軸曲率中心近傍が保持手段の中心軸上に位置するように、変位手段を制御するようにしたことを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。
【請求項27】請求項23または24または25または26記載の偏心測定装置において、重心位置検出手段が、倍率の異なる像検出系を有することを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。」

(3)引用刊行物
当審の取消の理由の通知で引用した刊行物は、前記刊行物1-7(甲第1-7号証)である。

(4)刊行物1記載の発明
刊行物1の実施例3(段落【0027】-【0033】及び図5)に係る発明(以下で、「刊行物1記載の発明」という)は、次のアないしクの事項からなるものである。
ア.被検レンズ6を被検面(第1面6a)と逆側の面の球面部(球面側6b)で保持する保持手段(回転スピンドル24)を有する。

イ.照明用光源1と、この光源1からの光束を収束性の光束として被検面に照射する照射用光学系(コリメータレンズ2と、対物レンズ30からなる。対物レンズ30は、これを分割して形成された円柱状の第1の対物レンズ30aと、円環状の第2の対物レンズから構成されている。)を有する。

ウ.被検面(第1面6a)からの反射光を結像させる結像光学系を有する。結像光学系は、対物レンズ30と、ビームスプリッタ31と、ビームスプリッタ32,35と第1の集光レンズ33aと第2の集光レンズ33bからなる。そして、図5をみると、ビームスプリッタ32により、光位置検出素子34a上で結像する光路と、光位置検出素子34b上で結像する光路とに分離されている。

エ.結像光学系による反射光の点像Pの位置を検出する光位置検出素子34a,34bを有する。

オ.保持手段(回転スピンドル24)に保持された被検レンズ6と、照射用光学系の対物レンズ30a,bとの間隔を調整する間隔調整手段を有する。 (明細書段落「【0029】第1,第2の対物レンズ30a,30bは、それぞれ光軸方向に移動可能に設けられており、……」を参照。移動可能のための手段があるのは自明である)

カ.被検面(第1面6a)の近軸球面(第1面6aの中心部6g)での反射光による点像Pの位置、周辺部6hでの反射光による点像Pの位置をデータとして、非球面の偏心を演算により求める演算手段を有する。
(明細書段落「【0033】……、被検レンズ6を回転スピンドル24により回転させると、被検レンズ6の第1面6aの中心部6gならびに周辺部6hが回転スピンドル24の回転軸に対して偏心している場合、第1の光位置検出素子34a、第2の光位置検出素子34b上のそれぞの点像Pはある大きさの半径をもって回転する。この回転半径を演算部36で求めることにより、被検レンズ6の第1面6aの中心部6g、周辺部6hの偏心状態が求められる。さらに、中心部6gを基準として、周辺部6hの偏心を演算により求めることにより、非球面の偏心が求められる。……」の記載を参照。演算手段があるのは自明である)

キ.図5には、保持手段の中心軸と、照射用光学系から被検レンズの被検面に照射される光束の光軸と、結像光学系の光軸とが、偏心測定に支障がない範囲内の合致と言う意味で実質的に合致している偏心測定装置が示されており、同図5からみて、間隔調整の移動(対物レンズ30a,30b)は、上記光軸の合致性を実質的に保って間隔調整を行なうものであることも明らかである。

ク.段落【0027】,【0029】の記載から、照射用光学系が、光源からの光束を平行光束化するコリメートレンズ2と、平行光束化された光束を被検面に照射する対物レンズ30a,bを具備するものであること、間隔調整手段が、対物レンズ30a,bを光軸方向へ変位させる手段であることが明らかである。

したがって、前記ア-クを整理して記載すると、
刊行物1記載の発明は、
被検レンズ6を被検面(第1面6a)と逆側の面の球面部(球面側6b)で保持する保持手段(回転スピンドル24)と、照明用光源1と、この光源1からの光束を収束性の光束として被検面に照射する照射用光学系と、被検面(第1面6a)からの反射光を結像させる結像光学系と、結像光学系による反射光の点像Pの位置を検出する光位置検出素子34a,34bと、保持手段(回転スピンドル24)に保持された被検レンズ6と、照射用光学系の対物レンズ30a,bとの間隔を調整する間隔調整手段と、被検面(第1面6a)の近軸球面(第1面6aの中心部6g)での反射光による点像Pの位置、周辺部6hでの反射光による点像Pの位置をデータとして、非球面の偏心を演算する演算手段とを有し、上記保持手段の中心軸と、照射用光学系から被検レンズの被検面に照射される光束の光軸と、上記結像光学系の光軸とが合致し、上記間隔調整手段は、上記光軸の合致性を保って間隔調整を行なうものを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置であって、
照射用光学系が、光源からの光束を平行光束化するレンズと、平行光束化された光束を被検面に照射する対物レンズ30a,bであって、間隔調整手段が、対物レンズ30a,bを光軸方向へ変位させる手段であることを特徴とし、
結像光学系による点像を検出する手段が、結像光路を2分する光路分離手段(ビームスプリッタ32)と、分離された一方の光路において、被検面の近軸球面からの反射光の点像位置を検出する第1の光位置検出素子34aと、他方の光路において、所定の非球面部分(周辺部分)からの反射光の点像位置を検出する第2の光位置検出素子34bを有するものであることを特徴とする、
偏心測定装置、
である。

(5)対比・検討
(5)-1 本件請求項1について
本件請求項1に係る発明と、刊行物1記載の発明を対比すると、本件請求項1に係る発明で、反射光の像の重心位置を検出する、というのは、刊行物1で反射光の点像位置を検出するということと、反射光の像を検出することにおいて共通しており、
本願請求項1に係る発明で、被検レンズと照射用光学系との間隔を調整するということと、刊行物1で、被検レンズと照射用光学系の対物レンズとの間隔を調整することとは、いずれも、被検レンズと照射光学系の対物レンズ(この対物レンズは、本件特許明細書では、段落【0129】の照射レンズ10に相当している)の間隔を調整する、という点において共通しているから、両者は、
被検レンズを被検面と逆側の面の球面部で保持する保持手段と、照明用の光源と、この光源からの光束を収束性の光束として被検面に照射する照射用光学系と、被検面からの反射光を結像させる結像光学系と、この結像光学系による上記反射光の像の位置を検出する像位置検出手段と、上記保持手段に保持された被検レンズと照射用光学系の対物レンズとの間隔を調整する間隔調整手段と、上記像位置検出手段が検出する、被検面の近軸球面による反射光の像の位置および、所定の非球面部分からの反射光の像の位置とをデータとして、被検面の偏心を演算する手段を有し、上記保持手段の中心軸と、照射用光学系から被検レンズの被検面に照射される光束の光軸と、上記結像光学系の光軸とが合致し、上記間隔調整手段は、上記光軸の合致性を保って間隔調整を行なうものであることを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置、 である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1
本件請求項1に係る発明は、反射光の重心位置を検出する重心位置検出手段を有するものであるのに対し、刊行物1記載の発明は、反射光の点像Pの位置を検出する光位置検出素子である点。

相違点2
本件請求項1に係る発明は、重心位置検出手段の個数について記載がなく、結像光路を2分するビームスプリッタについても記載がないのに対し、刊行物1記載の発明は、反射光の点像Pの位置を検出する光位置検出素子の個数が、計2個(光位置検出素子34aと34b)である点。

相違点3 本件請求項1に係る発明は、被検面の近軸球面による反射光の像の重心位置および、所定の非球面部分からの反射光の像の重心位置と、上記近軸球面の曲率半径と上記所定の非球面部分の曲率半径との差:ΔRとをデータとして、被検面の偏心量もしくは被検面の偏心量および偏心の方向を演算するのに対し、刊行物1記載の発明は、被検面の近軸球面による反射光の点像位置Pおよび、所定の非球面部分からの反射光の像の点像位置Pとをデータとして、被検面の偏心を演算するとしか記載がない、すなわち、ΔRをデータとすることについて記載がない、ものである点。

相違点4
本件請求項1に係る発明は、間隔調整手段は、被検レンズと照射光学系との間隔を調整する手段であり、かつ、該間隔調整手段を制御する制御・演算手段を有するものであるのに、刊行物1記載の間隔調整手段は、被検レンズと、照射光学系の対物レンズとの間隔を対物レンズを移動することで間隔を調整する手段であり、間隔調整についての制御・演算手段について記載がない点。

前記相違点について検討すると、
相違点1について
被検レンズ面の偏心測定の技術分野において、偏心量・偏心方向を測定するのは普通のことであり、レンズ面を撮像した反射像において、レンズ偏心に係る結像が1点に集束せず、広がりをもつことは当然にあることであり、その場合は、結像の重心位置や中心位置を検出して、これを結像の位置として、偏心量の演算に用いることが従来周知であるから(例として、特開平5-312670号公報の明細書段落【0015】の「各スポット像の重心の位置を測定」という記載、刊行物1の段落【0022】の「点像Pの中心座標を検出」という記載、特開平3-107739号公報の第6頁左上欄第3-14行の記載及び特開平7-55634号公報の明細書段落【0007】の「結像されたスポット像の位置を、スポット像の重心の座標として検知し」という記載を参照)、刊行物1記載の発明において、点像位置として結像の重心位置を採用することは、当業者が普通に採用する事項である。

相違点2について
刊行物1記載の発明の限定記載(ビームスプリッタの使用、点像位置検出手段の個数に関する限定)を大まかにとらえて単に「反射光の重心位置を検出する重心検出手段」とすることに困難はない。

相違点3について
非球面の偏心量について、本件特許第3410896号の明細書は段落【0111】〜【0115】で、第1配備状態として、被検面の近軸球面からの反射光の像の重心位置を求めるのに、像がレチクルの中心に適当に近ければよく、従って「大まかな調整」でよいとし、段落【0116】で、「上記反射光の像は、被検面の近軸球面からの反射光の像であり、反射光の反射角は入射角に等しいから、被検面の近軸球面の曲率中心が結像光学系の光軸から光軸直交方向に「δ」だけずれているとすると、上記重心位置:X1,Y1に対応する物点は、上記光軸から上記曲率中心の位置へ向かって「2δ」だけずれた点である。」と記載し、段落【0117】で「次いで、……「所定の非球面部分」の曲率中心(理想上の曲率中心)に向かって集光するように被検レンズの位置を調整する」という位置調整をし、段落【0121】、【0122】で、「被検レンズ1の上記位置調整が完了した状態を「第2配備状態」と言う。第2配備状態において画像処理装置15が検出する、レチクル13上の反射光の像の重心位置は制御・演算手段17に取り込まれ、第2配備状態における重心位置:X2,Y2として記憶される。」、「このときの反射光の像は所定の非球面部分:f(H)からの反射光の像であり、被検面の非球面部分の曲率中心が結像光学系の光軸から光軸直交方向に「δ’」だけずれているとすると、上記重心位置:X2,Y2に対応する物点は、上記光軸から上記曲率中心の位置へ向かって「2δ’」だけずれた点である。」と、δ、重心位置:X1,Y1、δ1、重心位置:X2,Y2について、記載した後、段落【0124】で、被検面1aの偏心量:θ(ラジアン)は、sinθ=(δ’-δ)/ΔR、(ΔRは、近軸球面の曲率半径と所定の非球面部分の曲率半径との差)であると定義している。

さて、刊行物1記載の発明も、非球面レンズ面6aは、被検面の近軸球面(中心部6g)による反射光の点像位置Pに係る曲率半径と、周辺部6hに係る曲率半径を有するものであり、被検面の近軸球面による反射光の点像位置P(重心位置:X1,Y1に相当)および、所定の非球面部分からの反射光の像の点像位置P(重心位置:X2,Y2に相当)が得られ、それにより、被検面の近軸球面の曲率中心位置が結像光学系の光軸から光軸直交方向に例えば「δ1」だけずれていること、および、被検面の非球面部分の曲率中心位置が結像光学系の光軸から光軸直交方向に例えば「δ1’」だけずれていることを求めるものであることは明らかと認められる。
一方、刊行物5には、「【0017】……。この状態で前記回転ホルダ3を回転させると、非球面レンズ2の非球面側の中心部2aの曲率中心2eの位置が、回転ホルダ3の回転軸3aからずれている場合、このずれ量が偏心顕微鏡1で振れとなって検出されるため、この振れが0となるように、前記回転ホルダ3上で非球面レンズ2を移動させ、非球面レンズ2の位置を心出し調整する。」とした上で、「【0018】次に、偏心顕微鏡1の光軸1aを、回転ホルダ3の回転軸3aに対して相対的に傾かせ、非球面レンズ2の非球面側の周辺部2bの曲率中心2fの位置を検出できるように図2のごとくセットする。この状態で前記回転ホルダ3を回転させると、非球面レンズ2の非球面側の周辺部2bの曲率中心2fの位置が、回転ホルダ3の回転軸3aからずれている場合、これが偏心顕微鏡1で振れとなって検出される。非球面レンズ2の非球面側の中心部2aの曲率中心2eと球面側2cの曲率中心2gを結ぶ軸を非球面レンズ2の光軸2dとし、非球面レンズ2の非球面側の中心部2aの曲率中心2eと非球面側の周辺部2bの曲率中心2fを結ぶ軸を非球面レンズ2の非球面軸2hとすると、非球面レンズ2の非球面形状が既知ならば、非球面レンズ2の前記光軸2dに対する前記非球面軸2hの傾き、すなわち非球面レンズ2の偏心が求められる。」とし、「【0019】すなわち、非球面レンズ2の非球面側の中心部2aの曲率半径の大きさをRa 、周辺部2bの曲率半径の大きさをRb とし、光軸2dと周辺部2bの曲率中心2fとのずれ量をδとするならば、ずれ量δが小さい時、線分2e2fの長さは、非球面レンズ2の非球面側の中心部2aの曲率半径Ra と、前記非球面レンズ2の非球面側の周辺部2bの曲率半径Rb との差にほぼ等しくなり、すなわち(Ra -Rb )にほぼ等しくなるので、非球面レンズ2の前記光軸2dに対する前記非球面軸2hの傾きεは、以下に示す式(1)に従って求められる。
ε=Sin-1{δ/(Ra -Rb )}・・・(1)」としており、これは、非球面中心部光軸に対して、非球面中心部2aの曲率中心2eと、非球面周辺部2bの曲率中心2fを結ぶ線(非球面軸)が、どれだけ傾いているか(εラジアン傾いている)をみることで、偏心量を定義したものである。 したがって、刊行物1記載の発明において、刊行物1の明細書段落【0019】の「中心部6gを基準として、周辺部6hの偏心を演算により求める」を実践するに際して、刊行物5で、「非球面レンズ2の非球面側の中心部2aの曲率中心2eの位置が、回転ホルダ3の回転軸3aからずれている場合、このずれ量が偏心顕微鏡1で振れとなって検出されるため、この振れが0となるように、前記回転ホルダ3上で非球面レンズ2を移動させ、非球面レンズ2の位置を心出し調整する。」と同様の操作、つまり、δ1=0となるように、非球面レンズ6の心出しの調整をして後、被検面の非球面部分の曲率中心位置が結像光学系の光軸から光軸直交方向に例えば「δ1’」だけずれていることを求めて、このδ1’を、該2つの曲率中心位置s1,s2間の距離とほぼ等しい量であるΔRで割り算して、非球面レンズの偏心量を求めることは、当業者が容易に想到できたものであり、δ1=0とするための心出し位置調整をしてから、偏心量を求めるか[本件特許明細書の請求項23-26で、「近軸曲率中心を中心軸上に位置させ」と心出し位置調整をしているとおりである]、本願請求項1に係る発明のように、(δ’-δ)/ΔR [この式でδはゼロに近い値にするのが好ましい]の演算をして、偏心量を求めるようにするかは、当業者が必要に応じて選択できた程度の、設計的事項である。
また、近軸部分(中心部6g)に係る曲率中心位置に対して、周辺部6hに係る曲率中心位置がどの方位であるかを測定することで、偏心方向を求めることは、従来周知事項である。

相違点4について
刊行物6には、非球面レンズの偏心を測定する装置において、オートコリメータの集光レンズと被検レンズとの相対位置を容易に調整できるオートコリメータ装置を用いることが記載されており、その際、基台5(照射光学系に相当)を被検レンズに対して移動させることで、被検レンズと基台5との間隔を、照射光が非球面の近軸球面に照射されることで発生させられた反射スポット像の面積が最小となるように基台5を微動させることで、最適なファーカシングポイントを決定することが可能となること、そして、これらの操作を演算処理装置に行わせることも記載されている。
また特開平7-55634号公報の明細書段落【0025】-【0031】にも、被検レンズ面からの反射光束の結像を得るのに、光源とスポット結像位置検知手段等をまとめて固定ステージに載置して、該固定ステージ手段を自動制御により、被検レンズに対して進退させて、位置決めすることが示されている。
したがって、刊行物1記載の発明において、被検レンズと対物レンズとの間隔調整手段に代えて、被検レンズと照射光学系との間隔を調整する手段を設けようにすること、そしてその際、手動式に換えて自動式の間隔調整手段にすること、つまり、間隔調整手段を制御する制御・演算手段を有するものを採用することは、当業者が容易に相当できたものである。

そして、相違点1-4を総合的に判断しても、それによる効果は、当業者の予想範囲内のものであり、本件請求項1に係る発明は、刊行物1,5,6に記載の発明および従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(5)-2 本件請求項2について
本件請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、間隔調整を「被検レンズを保持して保持手段の中心軸方向へ変位させるステージ機構」で行うという構成を採用したものである。
しかし、「照明光学系の対物レンズ」の方を中心軸方向に移動させることで間隔調整することに代えて、被検レンズを保持する保持手段の方をステージ機構で中心軸方向に移動させることで間隔調整することは、当業者が容易に想到できた程度の事項である。
したがって、本件請求項2に係る発明は、本件請求項1に係る発明と同様に、刊行物1,5,6に記載の発明および従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(5)-3 本件請求項3について
本件請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明において、間隔調整手段が、「照射レンズを光軸方向へ変位させるステージ機構である」との限定を付加したものであるが、照射レンズは、刊行物1の対物レンズに相当するものであり、刊行物1記載の発明は、対物レンズを光軸方向へ変位させるものであるから、この限定事項は、刊行物1に記載されている事項に過ぎない。 したがって、本件請求項3に係る発明も、本件請求項1に係る発明と同様に、刊行物1,5,6に記載の発明および従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(5)-4 本件請求項4について
本件請求項4に係る発明と、刊行物1記載の発明を対比すると、本件請求項4に係る発明で、反射光の像の重心位置を検出する、ということと、刊行物1記載の発明で、反射光の点像位置を検出するということと、反射光の像の位置を検出することにおいて共通しており、
刊行物1記載の発明の「光路分離手段(ビームスプリッタ32)」、「被検面(第1面6a)の近軸球面(第1面6aの中心部6g)での反射光による点像Pの位置を検出する光位置検出素子34a」および「周辺部6hでの反射光による点像Pの位置を検出する光位置検出素子34b」がそれぞれ、本件請求項4に係る発明の「結像光学系における結像光路を2分する光路分離手段」、「分離された一方の光路において、被検面の近軸球面からの反射光の像の重心位置を検出する第1の重心検出手段」および「他方の光路において、所定の非球面部分からの反射光の像の重心位置を検出する第2の重心検出手段」に相当するから、
両者は、
被検レンズを被検面と逆側の面の球面部で保持する保持手段と、照明用の光源と、この光源からの光束を収束性もしくは発散性の光束として被検面に照射する照射用光学系と、被検面からの反射光束を結像させる結像光学系と、この結像光学系による上記反射光の像の重心位置を検出する手段であって、結像光学系における結像光路を2分する光路分離手段と、分離された一方の光路において、被検面の近軸球面からの反射光の像の重心位置を検出する第1の重心検出手段と、他方の光路において、所定の非球面部分からの反射光の像の重心位置を検出する第2の重心検出手段とを有する重心位置検出手段と、上記重心位置検出手段が検出する、被検面の近軸球面による反射光の像の重心位置および、所定の非球面部分からの反射光の像の重心位置と、上記近軸球面の曲率半径と上記所定の非球面部分の曲率半径との差:ΔRとをデータとして、被検面の偏心量もしくは被検面の偏心量および偏心の方向を演算する制御・演算手段とを有し、上記保持手段の中心軸と、照射用光学系から被検レンズの被検面に照射される光束の光軸と、上記結像光学系の光軸とが実質的に合致していることを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置。 である点で一致し、両者は、相違点1,3(前記「(5)-1」参照」)の外に次の相違点5で相違する

相違点5
本件請求項4は、「間隔調整手段」について全く記載がないものであるのに対し、刊行物1記載の発明は、照射光学系の対物レンズとの間隔を対物レンズを移動することで間隔を調整する手段を含む発明である点。

前記相違点について検討すると、
相違点1,3についての判断は、前記「(5)-1」で示したとおりである。

相違点5について検討すると、
刊行物1記載の発明は、照射光学系の対物レンズとの間隔を対物レンズを移動することで間隔を調整する手段を含む発明であると、詳細に限定記載したものであるが、これらについて言及しないようにすることに困難はない。
したがって、本件請求項4に係る発明も、刊行物1,5,6および従来周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

(5)-5 本件請求項5について
本件請求項5に係る発明は、請求項1から4を択一的に引用するものであるが、請求項1を引用する請求項1に係る発明と、刊行物1記載の発明を対比すると、両者は、相違点1-4で相違する外に、次の相違点6で相違する。

相違点6
本件請求項5に係る発明は、被検レンズのデータを制御・演算手段に入力する入力手段を有するのに対し、刊行物1記載の発明はそれについて記載がない点。

前記相違点6について検討すると、
相違点3についての検討(「(5)-1」参照)で記載したとおり、刊行物1記載の発明で、ΔRを用いて、偏心量を演算するのは、当然のことであり、また、「相違点4について」で記載したとおり、間隔調整手段を制御する制御・演算手段を有するものを採用することは、当業者が容易に相当できたものであり、そうした場合、その制御や演算のためには、被検レンズのデータ(例えば、被球面レンズの近軸球面の曲率半径データおよび周辺部の曲率半径データ、レンズの大きさや形状や厚み等のデータ)が必要であるのは明らかなことであるから、それらデータを制御・演算手段に入力する入力手段を設けるのは、当然のことである。

したがって、本件請求項5に係る発明も、刊行物1,5,6および従来周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

(5)-7 本件請求項6について
本件請求項6に係る発明は、請求項1から5を択一的に引用するものであるが、請求項1を引用する請求項1に係る発明と、刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明は、本件請求項6に係る発明と同じく、レンズ保持手段(回転スピンドル24)が、保持した被検レンズを中心軸の回りに回転させる手段を有する非球面レンズの偏心測定方法である点で一致するから、両者は、相違点1-4の外に次の点で相違する。

相違点7
本件請求項6に係る発明は、レンズ保持手段が回転角検出手段を有するのに、刊行物1記載の発明は、レンズ保持手段(回転スピンドル)が、回転角検出手段を有することについて記載がない点。

前記相違点7について検討すると、
刊行物1記載の発明で、「第1の光位置検出素子34a、第2の光位置検出素子34b上のそれぞの点像Pはある大きさの半径をもって回転する。」と記載されていることからも判るように、点像Pの回転角度と、保持部に保持した被検レンズの回転角度は、対応関係があることは自明であり、それら情報が被検レンズの偏心方向を知るために必要であることは当然であるから、回転スピンドルの回転角度を検知するべく、刊行物1記載の発明において、回転スピンドルの回転角度検出手段を設けることは、当業者が普通に採用する事項である。
(例として、特開平3-37544号公報第2頁右下欄第9-10行に「前記回転角測定部により近軸曲率中心の偏心方向を求め」と記載があり、同頁同欄第18-20行に、「測定装置1は被検レンズ2を回転ホルダー3と、回転ホルダーの回転角を検出する回転角検出部9と、」と記載がある点を参照)

したがって、本件請求項6に係る発明も、刊行物1,5,6および従来周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

(5)-7 本件請求項7について
本件請求項7に係る発明は、請求項1-5を択一的に引用する方法発明であるが、本件請求項7に係る発明で請求項1を引用するものと、刊行物1に記載の発明を対比すると、両者は、相違点1-4で相違する外に、次の点で相違する。

相違点8
本件請求項7に係る発明は、「被検面における近軸球面からの反射光の像の重心位置と、所定の非球面部分からの反射光の像の重心位置、および上記2つの重心位置の間の距離に基づき、被検面の偏心量または偏心方向を所定の演算により算出することを特徴とする非球面レンズにおける偏心測定方法」であるのに、刊行物1に記載の発明はそれについて記載がない点。
前記相違点8について検討すると
刊行物1で、第1面6aの近軸中心部6gに係る曲率中心が、回転スピンドルの回転軸上に載るように被検レンズの位置調整をして、点像の振れをなくしてから(つまり、中心部6gに係る点像が回転の中心になるようにしてから)、周辺部6hにかかる点像の回転半径(つまり、回転半径は、中心部6gに係る点像と、周辺部6hに係る点像の距離となる。刊行物1の段落【0033】に「中心部gを基準として、周辺部6hの偏心を演算により求める」と記載されている)および、周辺部6hに係る点像の回転中心に対する方位を測定して、被検レンズ面の偏心量または偏心方向を所定の演算により算出する方法は、当業者が容易に想到できたものである。(刊行物5の段落【0017】に非球面レンズの偏心測定について、非球面レンズの中心部の曲率中心に係る点像について、振れを無くす心出し調整をしてからの偏心量測定が記載されている)。

したがって、本件請求項7に係る発明も、刊行物1,5,6および従来周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

(5)-8 本件請求項8について
本件請求項8は、請求項6を引用するものであり、請求項6は、請求項1を択一的に引用するものである。
請求項1を引用している請求項6を択一的に引用する本件請求項8に係る発明と刊行物1記載の発明を対比すると、両者は、相違点1-4,7で相違する外に次の相違点9で相違する。

相違点9
本件請求項8に係る発明は、「被検面の近軸球面からの反射光の像の重心位置が描く円の大きさと、所定の非球面部分からの反射光の像の重心位置が描く円の大きさに基づき、所定の演算により被検面の偏心量を算出し、または、上記偏心量の算出に加え、上記回転における初期位相に基づき所定の演算により偏心方向を所定の演算により算出することを特徴とする非球面レンズの偏心測定方法。」であるのに、刊行物1記載の発明は、それについて記載がない点。

前記相違点9について検討すると、
前記「相違点3について」および「相違点8について」で記載したとおり、刊行物1記載の発明で、被検面の近軸球面からの反射光の点像(像の重心位置に相当)が描く円の大きさが可及的に、ゼロとなるように心出し調整をすることは当業者が容易に想到できたものである。本件特許の明細書においても、例えば段落【0246】で、「回転に伴い、被検レンズ1の中心軸axからのずれを補正するので、……被検レンズ1の被検非球面の近軸曲率中心を中心軸axに合致させることができる。」と心出し調整を推奨しているとおりである。
しかし、特開平3-37544号公報第2頁右上欄第11-19行に「非球面レンズの偏心測定装置において、被検レンズにおけるレンズ受け部とは反対側のレンズ面の近軸曲率中心の回転軸に対する心出し作業は作業者の熟練を要し、少なくとも偏心量を1/1000mm以下に心出しする必要性があるため極めて困難な作業であり」というように、合致した時点でも近軸曲率中心と中心軸は微かにずれているものであり、それにより反射光の点像は微小な円を描き、その回転半径が無視できるに足りるものであるに過ぎない。
したがって、刊行物1記載の発明において、被検面の近軸球面からの反射光の点像(像の中心位置)が描く円の大きさ(偏心量計算に際して無視できるくらいに微小であるという大きさ)と、周辺部分の点像が描く円の大きさに基づき、所定の演算に基づき被検面の偏心量を算出することは、当業者が容易に想到できたことである。
そして、回転における初期位相に基づいて所定の演算により偏心方向を算出することは、当業者が普通に行う程度のことである。

したがって、本件請求項8に係る発明も、刊行物1,5,6および従来周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

(5)-9 本件請求項9について
本件請求項9に係る発明は、請求項7,8を択一的に引用するものであり、請求項7は請求項1を択一的に引用するものである。
請求項1を引用している請求項7を択一的に引用する請求項9に係る発明と、刊行物1記載の発明を対比すると両者は、相違点1-4,8の点で相違する外に、次の相違点10で相違する。

相違点10
本件請求項9に係る発明は、「保持体中心軸に対して互いに180度異なる2つの保持態位で、被検レンズを保持させ、各保持態位に対して、反射光の像の重心位置もしくは重心位置の描く円の大きさを測定し、測定データの演算により保持手段の形状誤差を消去したのち、所定の演算により被検面の偏心量を算出し、または、上記偏心量の算出に加え、上記回転における初期位相に基づき所定の演算により偏心方向を所定の演算により算出することを特徴とする非球面レンズの偏心測定方法」であるのに、刊行物1記載の発明はそれについて記載がない点。

前記相違点10について検討すると、
刊行物3に「【0035】(1) :測定誤差原因のひとつにスピンドルモータモータ1の精度及びスピンドルモータ1とレンズ受け部2の同心加工誤差がある。この誤差の大部分は、変位計3によって被検レンズ5の1回転周期のほぼサイン波として検出される。したがって、レンズ受け部2と被検レンズ5の相対位置を回転軸を中心に180度回転した状態でも測定し、2回の測定の和から偏心による変位成分だけ求めることができる。すなわち、誤差成分は位相が180度ずれて加算されるから0となる。また、この誤差は再現性があるから、この結果を一度記憶して測定ごとに結果に補正をかければよい。」と記載があるから、刊行物1記載の発明で、回転スピンドル中心軸に対して互いに180度異なる2つの保持態位で、被検レンズを保持させて、各保持態位に対して、反射光の像の重心位置もしくは重心位置の描く円の大きさを測定し、測定データの演算により保持手段の形状誤差を消去したのち、所定の演算により被検面の偏心量を算出することは当業者が容易に想到できたものである。
また、回転における初期位相に基づき所定の演算により偏心方向を算出することも当業者が普通に行う程度の事項である。

したがって、本件請求項9に係る発明は、刊行物1,3,5,6および従来周知技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

(5)-10 本件請求項10について
本件請求項10に係る発明は、次の(A),(B),(C)の構成からなるものである。
(A)「両面が非球面である被検レンズを、保持手段により一方の面の側の非球面部分で保持し、他方の面の側から光照射し、上記一方の面および他方の面からの反射光を結像光学系を介して撮像手段に入射せしめ、上記他方の面の近軸球面の曲率中心近傍を物点とする第1の結像スポットが上記結像光学系の光軸上に位置するように被検レンズの保持状態を調整し、」
(B)「上記他方の面の所定の非球面部の曲率中心近傍を物点とする第2の結像スポットの位置と上記一方の面の近軸球面の曲率中心近傍を物点とする第3の結像スポットの位置とを上記撮像手段の出力により測定し、上記被検レンズのデータと、上記第2,第3の結像スポットの位置とにより、上記他方の面における偏心量:εaもしくは偏心量:εaと偏心方向:θaとを算出し、」、
(C)「上記第3の結像スポットの位置および、上記一方の面の近軸球面の曲率中心の所定位置からのずれ量を表す量として、上記一方の面の非球面形状と上記保持手段におけるレンズ保持部の形状に応じて一義的に定まる係数:ξにより、上記一方の面の偏心量:εbもしくは偏心量:εbと偏心方向:θbとを算出することを特徴とする非球面レンズの偏心測定方法」
これについて検討すると、(B)の構成は刊行物1-7のいずれにも全く記載がなく、当業者と雖も、(B)の構成は容易に想到できるものではなく、本件請求項10に係る方法発明により、両面非球面の被検レンズの他方の面の偏心量、偏心の方向および一方の面の偏心量、偏心の方向が測定できる効果がある。
刊行物1の技術思想を刊行物2に採用することで本件請求項10に係る構成(B)が容易に導出できるかについて以下で、検討する。
刊行物2には、第1,第3の結像スポットの位置を測定することは記載されているものの、第2の結像スポットの位置を測定することは記載されておらず、刊行物1には、第1の結像スポット(他方の面の近軸球面の曲率中心近傍を物点とする結像スポット)と、第2の結像スポット(他方の面の周辺部分の曲率中心近傍を物点とする結像スポット)の位置を測定して、これら第1,第2のスポット位置を用いて、他方の面の偏心量を用いることが記載されているに過ぎず、第3のスポット位置を測定することについて記載がないものであり、刊行物1,2に記載の発明を組合せ合わせ用いたとしても、依然として、本件請求項10に記載の「第2,第3の結像スポットの位置とにより、上記他方の面における偏心量:εa……を算出」するという構成[本件明細書段落【0201】〜【02015】で、第2の結像スポットの重心位置座標(Xa,Ya)と、第3の結像スポットの重心位置座標(Xb,Yb)とにより他方の非球面1aの偏心量εaを求めている]は、導くことができない。
したがって、本件請求項10に係る発明は、刊行物1-7のいずれにも記載されておらず、また刊行物1-7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(5)-11 本件請求項11について
本件請求項11に係る発明は、請求項10を引用しており、請求項10の方法発明を実施する装置発明である。
本件請求項11における「第1,第2,第3の結像スポットを選択する撮像対象選択手段と、撮像手段の出力により、上記他方の面の偏心量:εa……を算出する演算手段」という構成は、刊行物1-6のいずれにも記載がなく、またそれら刊行物1-6記載の発明を組み合わせても、導くことができないものである。
そして、請求項11に係る発明により、両面非球面の被検レンズの他方の面の偏心量、偏心の方向および一方の面の偏心量、偏心の方向が測定できる効果がある。
したがって、本件請求項11に係る発明は、刊行物1-7のいずれにも記載されておらず、また刊行物1-7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(5)-12 本件請求項12-16について
本件請求項12-16はいずれも、本件請求項11を引用する従属請求項であり、本件請求項12-16に係る発明は、いずれも刊行物1-7に記載されておらず、また刊行物1-7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(5)-13 本件請求項20について
本件請求項20に係る発明と刊行物1記載の発明を対比すると、両者は、 非球面レンズを被検レンズとして保持する保持手段と、照明用の光源と、この照明用の光源からの光束を収束性の光束として被検レンズに照射する照射用光学系と、上記保持手段の中心軸と実質的に合致した光軸を持ち、被検レンズの、偏心を測定すべき被検非球面からの反射光束を結像させる結像光学系と、この結像光学系による、被検非球面の近軸曲率中心近傍を物点とする像と、所定非球面部分の曲率中心近傍を物点とする像とを分離する像分離手段と、この像分離手段により分離された各像の重心位置を検出する重心位置検出手段と、重心位置検出手段の検出結果に基づき、被検レンズにおける被検非球面の偏心量を演算する制御・演算手段を有することを特徴とする非球面レンズの偏心測定装置、
である点で一致し、相違点1,5(「(5)-1」及び「(5)-4」を参照)の外に、次の点で相違する。

相違点11
本件請求項20に係る発明は、被検レンズのデータと重心位置検出手段の検出結果に基づき、被検レンズにおける被検非球面の偏心量を制御・演算するのに対し、刊行物1記載の発明は、被検面の近軸球面による反射光の点像位置Pおよび、所定の非球面部分からの反射光の像の点像位置Pとをデータとして、被検面の偏心を演算するとしか記載がない、つまり、被検レンズのデータに基づいて演算することについて記載がない点。

相違点12
本件請求項20に係る発明は、「保持手段に保持される被検レンズの、保持手段に対する保持態位を規制し、もしくは規制と調整とを行なう規制・調整手段とを有する」のに対し、刊行物1記載の発明は、回転スピンドル24に被検レンズを保持するものであるものの、レンズ保持態位の規制ないし調整を行う規制・調整手段について記載がない点。

相違点について検討すると、
相違点1,5についての判断は、「(5)-1」,「(5)-4」で示したとおりである。

相違点11について検討すると、
ΔRは、被検レンズのデータであるから、被検レンズのデータはΔRのことであると読み替えれば、相違点11は、相違点3(「(5)-1」参照)に帰着する。
すなわち「相違点3について」で示したと同様の論理により、刊行物1記載の発明において、被検レンズのデータであるΔRと被検面の近軸球面による反射光の点像位置Pおよび、所定の非球面部分からの反射光の像の点像位置Pの検出結果に基づき、被検レンズにおける被検非球面の偏心量を演算するようにすることは、当業者が容易に想到できたものであり、点像位置検出を重心位置検出とすることは、当業者が普通に採用する事項である。

相違点12について検討すると、
非球面の被検レンズの偏心量測定の技術分野において、偏心量の測定において、回転保持部材上の被検レンズについて、心出し位置調整をすることは従来周知であり(例えば、刊行物3の段落【0025】,【0026】の記載、および刊行物5の段落【0017】の記載参照および、特開平4-268433号公報の図5を参照)、刊行物3に記載のものは、スピンドルモータで回転駆動されるレンズ受け部でレンズを保持するに際し、この心出しを位置微調装置4で行うものと認められ、この位置微調装置4は、被検レンズの保持手段に対する保持態位を規制し、もしくは規制と調整とを行なう規制・調整手段であるから、刊行物1記載の発明において、心出しのために、被検レンズの保持手段に対する保持態位を規制し、もしくは規制と調整とを行なう規制・調整手段を設けることは当業者が容易に想到できたものである。
そして、相違点1,5,11,12を総合的に判断しても、本件請求項20に係る発明は、刊行物1,3,5,6に記載された発明および従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(5)-14 本件請求項21,22について
本件請求項21は、請求項20を引用するものであり、請求項20に記載の規制・調整手段が、「保持手段の中心軸に直交する面内で、上記中心軸から被検レンズのレンズ径の1/2の距離の位置に2つの互いに直交する当接面をもつ、L字状の規制部材である」と限定するものである。
この限定について検討すると、
刊行物3に記載の、心出し用の位置微調装置4は、図2で、中心軸から被検レンズのレンズ径の1/2の距離の位置で下から上への押圧による一方向の位置調整が示されているに過ぎないが、心出しのために、左右方向への押圧による位置調整もあった方が便宜であることは、当業者が容易に予想できたものであり、
また、レンズの心出しに用いる規制部材としてV字状のものを採用することが従来周知(特開平6-320376号公報には、V字状のブロックを用いて、X・Y両方向にレンズを規制し、レンズをXY両方向位置へ位置決め制御できるものである)であり、V字状の治具でXY方向の移動の規制をするのに代えて、L字状の治具を用いてもXY方向の移動の規制ができることは当業者が直ちに判ることであるから、
刊行物1記載の発明において、規制・調整手段を用い、規制・調整手段が保持手段の中心軸に直交する面内で、上記中心軸から被検レンズのレンズ径の1/2の距離の位置に2つの互いに直交する当接面をもつ、L字状の規制部材であるようにすることは、当業者が容易に想到できたものである。
したがって、本件請求項21に係る発明は、本件請求項20に係る発明と同様に、刊行物1,3,5,6に記載された発明及び従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

また、本件請求項22は、請求項21を引用し、請求項21に係る発明に「被検レンズを、保持手段の中心軸を回転軸として回転させる回転手段を有する」との構成を追加したものであるが、これは、非球面レンズの偏心測定において、当業者が当然に採用する構成に過ぎない。
したがって、本件請求項22に係る発明も、本件請求項21に係る発明と同様に、刊行物1,3,5,6に記載された発明及び従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(5)-16 本件請求項23,24について
本件請求項23は、本件請求項20における規制・調整手段について「保持手段の中心軸に直交する面内において、互いに直交する所定の2方向へ、被検レンズを独立に変位させる2つの押圧部材と、これら押圧部材を変位させる変位手段とを有し、制御・演算手段が、被検レンズの被検非球面の近軸曲率中心近傍を物点とする反射光束の像の重心位置に応じて、上記近軸曲率中心を保持手段の中心軸上に位置させるための上記2つの押圧部材の変位量を算出することを特徴とする」ものであるとの限定をするものである。
これについて検討すると、保持手段の中心軸に直交する面内において、互いに直交する所定の2方向へ、被検非球面レンズを独立に変位させる2つの押圧部材と、これら押圧部材を変位させる変位手段とを有し、制御・演算手段により、被検レンズの被検非球面の近軸曲率中心を、上記近軸曲率中心を保持手段の中心軸上に位置させるための上記2つの押圧部材の変位量を算出することは従来周知である(例として、特開平4-268433号公報の明細書段落【0019】-【0022】の記載および第5図を参照)。
また、レンズ縁への一方向だけへの押圧変位制御とレンズの回転によって、心出しを図ろうとするものではあるが、被検レンズの被検非球面の近軸曲率中心近傍を物点とする反射光束の重心位置に応じて、上記近軸曲率中心を保持手段の中心軸上に位置させるために変位量を算出することが従来周知であるから(前記特開平7-55634号公報の明細書段落【0007】,【0012】-【0015】および【0032】を参照)。
したがって、刊行物1記載の発明において、規制・調整手段を設け、規制・調整手段が保持手段の中心軸に直交する面内において、互いに直交する所定の2方向へ、被検レンズを独立に変位させる2つの押圧部材と、これら押圧部材を変位させる変位手段とを有し、制御・演算手段が、被検レンズの被検非球面の近軸曲率中心近傍を物点とする反射光束の像の重心位置に応じて、上記近軸曲率中心を保持手段の中心軸上に位置させるための上記2つの押圧部材の変位量を算出することは当業者が容易に想到できたものである。
よって、本件請求項23に係る発明は、刊行物1,3,5,6に記載された発明及び従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
また、本件請求項24に係る発明は、請求項23を引用するものであって、本件請求項23に係る発明において、「制御・演算手段が、算出した変位量に応じて、被検レンズの被検非球面の近軸曲率中心が保持手段の中心軸上に位置するように、変位手段を制御する」との限定を付加したものであるが、これは非球面レンズの偏心測定において当業者が普通に採用する事項に過ぎないから、本件請求項24に係る発明も、刊行物1,3,5,6に記載された発明及び従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(5)-17 請求項25,26に係る発明について
請求項25は、請求項20を引用するものであって、請求項20に係る発明において規制・調整手段が、「保持手段の中心軸に直交する面内において、保持手段の中心軸方向へ被検レンズを変位させる押圧部材と、この押圧部材を変位させる変位手段と、上記保持手段に保持された被検レンズを、保持手段の中心軸を回転軸として回転させる回転手段とを有し、制御・演算手段が上記回転手段を制御するとともに、被検レンズの被検非球面の近軸曲率中心近傍を物点とする反射光束の像の重心位置に応じて、上記近軸曲率中心を保持手段の中心軸上に位置させるための上記押圧部材の変位量を算出する」との限定をしたものであるが、この限定内容は、従来周知技術のものである(前記特開平7-55634号公報の明細書段落【0007】,【0012】-【0015】および【0032】の記載を参照)。
したがって、刊行物1記載の発明において、それがもし、手動で非球面レンズの心出し調整するものであったとしても、それに代えて前記従来周知の、規制・調整手段を採用することは当業者が容易に想到できたものである。
よって、請求項25に係る発明は、刊行物1,3,5,6に記載された発明及び従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

そしてまた、本件請求項26に係る発明は、請求項25に係る発明において、「制御・演算手段が、算出した変位量に応じて、被検レンズの被検非球面の近軸曲率中心が保持手段の中心軸上に位置するように、変位手段を制御する」との限定を付加したものであるが、これは当然の事項に過ぎず、本件請求項26に係る発明も、刊行物1,3,5、6に記載された発明及び従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(5)-18 本件請求項27について
本件請求項27は、請求項23-27を択一的に引用するものである。
請求項25の発明を択一的に引用する請求項27の発明は、請求項25の発明において、「重心位置検出手段が、倍率の異なる像検出系を有することを特徴とする」との限定を追加したものであるが、前記特開平5-312670号公報に、レンズ面での反射による像の振れ量を求めるに際し、「【0022】……ここで反射光束は反射してレーザーダイオード51の発光点と光学的に共役な位置に集光する。この反射光による像は拡大レンズ58によって拡大されてテレビカメラ59の撮像面に再結像する。モニターテレビ40上でこのスポット像を観察する。」と拡大(倍率増大)の記載があり、刊行物6の明細書にも「【0023】図7の実施例は、ビームスプリッタ12と位置検出手段15との間に、ミラー23と、コリメータレンズ13の見かけの焦点距離を延ばす作用を持つ凹レンズのようなコンバータレンズ24を配置したものである。……」、「【0024】このような構成とすれば、オートコリメータの感度を上げることができる。すなわち、コンバータレンズ24の倍率をX、図7(b) に図示するように被検レンズ1の光軸に対する傾きをθ、コリメータレンズ13の焦点距離をf′、位置検出手段15上での反射スポット像の移動距離をδとした場合、コンバータレンズを配置しない場合には、δ=f′tanθで表される。これに対し、コンバータレンズ24を使用した場合の移動距離δ′は、δ′=f′Xtanθとなり、感度が向上する。」として、倍率を向上させることが記載されているから、刊行物1記載の発明において、倍率を向上した像検出系を、倍率が普通の検出系と併用することは、当業者が容易に想到できたものである。

したがって、請求項27に係る発明は、刊行物1,3,5,6に記載された発明および従来周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、請求項1-9、および20-27に係る発明は、上記刊行物1,3,5,6に記載された発明および従来周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-9、および20-27に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、平成15年改正前の特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項10-16に係る発明の特許については、他に取消の理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-11-30 
出願番号 特願平8-57812
審決分類 P 1 652・ 841- ZE (G01M)
P 1 652・ 121- ZE (G01M)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 田邉 英治  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 櫻井 仁
菊井 広行
登録日 2003-03-20 
登録番号 特許第3410896号(P3410896)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 非球面レンズの偏心測定方法および装置  
代理人 樺山 亨  
代理人 本多 章悟  

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