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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A63F
審判 全部申し立て 出願日、優先日、請求日  A63F
審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  A63F
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A63F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A63F
管理番号 1130871
異議申立番号 異議2003-73826  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-04-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2006-01-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第3463065号「運転者訓練システム」の請求項1ないし21に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3463065号の請求項1ないし21に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願からの主立った経緯を箇条書きにすると次のとおりである。
・1991年(平成3年)8月1日 特許権者(出願時の名称は「アタリ ゲームズ コーポレーション」)にて本件国際出願(パリ条約に基づく優先権主張 1990年8月1日 米国)
・平成15年8月22日 特許第3463065号として設定登録(請求項1〜21)
・同年12月26日 特許異議申立人渡辺正之より全請求項に係る特許に対して特許異議申立
・平成16年7月5日付け 当審にて取消理由を通知
・平成17年1月17日 特許権者より意見書及び訂正請求書提出
・同年2月7日付け 当審にて訂正拒絶理由を通知
・同年8月15日 特許権者より意見書及び手続補正書(訂正請求書)提出

第2 訂正の許否の判断
1.補正の採否
平成17年8月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前に、「訂正前請求項21を請求項17と改めた上で、「第7項記載のシステムにおいて」とあったのを「第16項記載のシステムにおいて」と訂正する。」としていたものを、「訂正前請求項21を請求項17と改めた上で、「第7項記載のシステムにおいて」とあったのを「第5項記載のシステムにおいて」と訂正する。」と補正するものである。以下、請求の範囲の各項を「請求項」という。
訂正請求は、請求項5,6,12,13の削除を訂正事項に含んでおり、「訂正前請求項21を請求項17と改め」ることは上記削除に付随した訂正であり、補正後の請求項5に対応する補正前のそれは請求項7である。
そうすると、本件補正は訂正前請求項21(訂正後請求項17)が引用する請求項につき、補正前は請求項16(訂正前請求項20に対応)を引用する旨訂正したものを、実質的には訂正前の請求項7を引用するように補正するものであるから、訂正事項の削除に当たり、訂正請求の要旨を変更するものではない。
したがって、本件補正を採用する。

2.訂正事項
本件補正が採用されるから、平成17年8月15日付けで補正された同年1月17日付け訂正請求による訂正事項は次のとおりである。
[訂正事項1]訂正前請求項1記載の「前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路である運転者訓練システム。」を、「前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路であって、前記シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、前記少なくとも1つのパラメータと前記シミュレートされた乗物の位置情報とが前記パラメータを最大にすることなく前記前回の移動経路として記憶されており、前記初期の移動経路以後の前記シミュレーション環境を通るそれぞれの後続する移動経路については、それぞれその時点までに少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通る移動経路が前記前回の移動経路として記憶される運転者訓練システム。」と訂正する。
[訂正事項2]訂正前請求項5,6,12,13を削除する。
[訂正事項3]訂正前請求項7を請求項5と改めた上で(訂正前請求項5,6削除に伴う。)、「前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路である運転者訓練システム。」との記載を、
「前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路であって、前記シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、前記少なくとも1つのパラメータと前記現在シミュレートされている乗物の位置情報とが前記パラメータを最大にすることなく前記前回の移動経路として記憶されており、前記初期の移動経路以後の前記シミュレーション環境を通るそれぞれの後続する移動経路については、それぞれその時点までに少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通る移動経路が前記前回の移動経路として記憶される運転者訓練システム。」と訂正する。
[訂正事項4]訂正前請求項8を請求項6と改めた上で、「前記前回のバッファが選択された前記最良の移動経路とそのパラメータで上書きされる運転者訓練システム。」との記載を、
「前記前回のバッファが選択された前記最良の移動経路とそのパラメータで上書きされ、前記移動経路であって、前記シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、前記少なくとも1つのパラメータと前記現在シミュレートされている乗物の位置情報とが前記パラメータを最大にすることなく前記前回のバッファに記憶されており、前記初期の移動経路以後の前記シミュレーション環境を通るそれぞれの後続する移動経路については、前記比較手段が前記前回のバッファに上書きするために前記最良の移動経路を選択する運転者訓練システム。」と訂正する。
[訂正事項5]訂正前請求項9,10,11,15,16,17,18,21を、それぞれ請求項7,8,9,11,12,13,14,17と改めるとともに、これら各請求項の「第8項記載のシステムにおいて」、「第9項記載のシステムにおいて」、「第10項記載のシステムにおいて」、「第14項記載のシステムにおいて」、「第14項記載のシステムにおいて」、「第14項記載のシステムにおいて」、「第14項記載のシステムにおいて」及び「第7項記載のシステムにおいて」との各記載を、「第6項記載のシステムにおいて」、「第7項記載のシステムにおいて」、「第8項記載のシステムにおいて」、「第10項記載のシステムにおいて」、「第10項記載のシステムにおいて」、「第10項記載のシステムにおいて」、「第10項記載のシステムにおいて」及び「第5項記載のシステムにおいて」と訂正する。
[訂正事項6]訂正前請求項14を請求項10と改めた上で、「シミュレートされている現在の移動経路についてのパラメータが最高化基準を満たすならば、現在の移動経路は前記前回のバッファに記憶された前記前回の移動経路に置き換わって記憶される運転者訓練システム。」との記載を、
「前記シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、前記少なくとも1つのパラメータと前記現在シミュレートされている乗物の位置情報とが前記パラメータを最高にすることなく前記前回のバッファに記憶されており、前記初期の移動経路以後の前記シミュレーション環境を通るそれぞれの後続する移動経路については、シミュレートされている現在の移動経路についてのパラメータが最高化基準を満たすならば、現在の移動経路は前記前回のバッファに記憶された前記前回の移動経路に置き換わって記憶される運転者訓練システム。」と訂正する。
[訂正事項7]訂正前請求項19を請求項15と改めた上で、その記載を、
「プロセッサと、一組の入力装置と、シミュレーション環境を表示する表示手段とを備える乗物をシミュレートするためのシステムにおいて、以下の(a)から(g)のステップが繰り返して実行され、現在の繰り返し段階で計算され記憶される一連の位置情報が含まれる移動経路と、現在の繰り返し段階より前の繰り返し段階である過去の繰り返し段階で計算され記憶された一連の位置情報が含まれる移動経路のうちその成績を示す少なくとも1つのパラーメータを最良にするものと、を比較する運転者訓練方法であって、
(a)コンピュータプログラムによって、入力装置からプロセッサへ乗物の位置の変化を示す信号を受信するステップと、
(b)プロセッサで、前回の位置情報と信号で示される変化とに基づいて、シミュレートされる乗物の位置情報を計算するステップと
(c)プロセッサに、シミュレーション環境を通る現在の移動経路を示す一連の位置情報を記憶するステップと、
(d)プロセッサで、少なくとも1つのパラーメータを最良にしてシミュレーション環境を通った最良の移動経路を選択するため、現在の移動経路に関する少なくとも一つのパラメータを測定するステップと、
(e)プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は初期化後の現在の繰り返し段階で計算された移動経路であり、その後の最良の移動経路をその後の現在の繰り返し段階で計算された移動経路のパラメータとの比較によって選択する、最良の移動経路を選択するステップと、
(f)プロセッサに、前記比較の結果に従って選択された移動経路を最良の移動経路として記憶するステップと、
(g)表示手段により、現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と前記最良の移動経路を示す乗物とを同時に表示するステップと、
(h)ステップ(a)から(g)を複数回繰り返すステップとを実行する運転者訓練方法。」と訂正する。
[訂正事項8]訂正前請求項20を請求項16と改めた上で、その記載を、
「プロセッサと、一組の入力装置と、シミュレーション環境を表示する表示手段と記憶手段とを備える乗物をシミュレートするためのシステムであって、以下の(a)から(g)の手段を繰り返して実行することにより、現在の繰り返しの段階で計算され記憶される一連の位置情報が含まれる移動経路と、現在の繰り返し段階より前の繰り返し段階である過去の繰り返し段階で計算され記憶された一連の位置情報が含まれる移動経路のうちその成績を示す少なくとも1つのパラーメータを最良にするものと、を比較するシステムであり、
(a)コンピュータプログラムによって、入力装置からプロセッサへ乗物の位置の変化を示す信号を受信する手段と、
(b)プロセッサで、前回の位置情報と信号で示される変化とに基づいて、シミュレートされる乗物の位置情報を計算する手段と
(c)プロセッサに、シミュレーション環境を通る現在の移動経路を示す一連の位置情報を記憶する手段と、
(d)プロセッサで、少なくとも1つのパラーメータを最良にしてシミュレーション環境を通った最良の移動経路を選択するため、現在の移動経路に関する少なくとも一つのパラメータを測定する手段と、
(e)プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は初期化後の現在の繰り返し段階で計算された移動経路であり、その後の最良の移動経路をその後の現在の繰り返し段階で計算された移動経路のパラメータとの比較によって選択する、最良の移動経路を選択する手段と、
(f)プロセッサに、前記比較の結果に従って選択された移動経路を最良の移動経路として記憶する手段と、
(g)表示手段により、現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と前回の移動経路を示す乗物とを同時に表示する手段と、
(h)手段(a)から(g)を複数回繰り返す手段とを備える運転者訓練システム。」と訂正する。
[訂正事項9]発明の詳細な説明の「最高タイム」(特許明細書(平成15年3月17日付け手続補正書)2頁3行、特許掲載公報14欄46行)を「最大タイム」と、「機能266」(特許明細書12頁18行、特許掲載公報15欄16行)を「機能226」とそれぞれ訂正する。

3.訂正事項1,3,4についての判断
(1)訂正事項1について特許権者は、「「初期の移動経路においては、(中略)前記前回の移動経路として記憶されており」との文言は、「初回のシミュレーションの際に用意されている初期値としての前回の移動経路が記憶されている」ことを意味していることは明確です。」(平成17年8月15日付け意見書4頁7〜10行)と主張している。
しかし、訂正事項1の「前記シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、前記少なくとも1つのパラメータと前記シミュレートされた乗物の位置情報とが前記パラメータを最大にすることなく前記前回の移動経路として記憶されており、前記初期の移動経路以後の前記シミュレーション環境を通るそれぞれの後続する移動経路については、それぞれその時点までに少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通る移動経路が前記前回の移動経路として記憶される」との記載によれば、初期の移動経路において前回の移動経路として記憶されるのは、「前記少なくとも1つのパラメータと前記シミュレートされた乗物の位置情報」である。特許権者の上記主張によれば、初回のシミュレーションの際(1回もシミュレートされていない状態)に、初期値として「シミュレートされた乗物の位置情報」が前回の移動経路として記憶されていることになるから、上記主張をそのまま採用することはできない。上記主張のとおりであるとすると、一般ユーザに提供する前に、シミュレートを行って、その際の少なくとも1つのパラメータとシミュレートされた乗物の位置情報を記憶すると解さねばならない。そのようなことは、願書に添付した明細書・図面(以下、これらを併せて「特許明細書」という。)には記載されていない。特許明細書には、「ラップカーのベストタイムは、プロセッサ114が状態260に移行した後、初期化される。ベストタイムは、システムによって認められた最高タイム、例えば60進法(決定注;「16進法」の誤記と解する。)の表記法で7FFFFFFF、であると設定される。」(特許掲載公報14欄44〜47行)との記載があり、初回のシミュレーションの際(1回もシミュレートされていない状態)に、前回の移動経路の情報として少なくとも1つのパラメータが記憶されていることが記載されていることは認められるものの、「シミュレートされた乗物の位置情報」までもが記憶されていると認めることはできない。
特許権者は、「1回目のシミュレーションでも、2回目以降のシミュレーションと同様に、「前回の移動経路」を記憶するための変数(またはメモリ上の記憶領域)は、一般的には、確保されます。」(平成17年8月15日付け意見書6頁18〜20行)と主張するが、メモリ上の記憶領域を確保することが自明であるとしても、それだけではシミュレートされた乗物の位置情報が前回の移動経路として記憶されていることにはならない。特許権者はさらに、「「記録初期化」216と呼ばれる関数に移ると、プロセッサ114はオブザーバカーとラップカーの記録を初期化する。オブザーバカーとラップカーの周回時の位置は、「ラップ1」や「ラップ0」と呼ばれる固有のバッファーに各々記録あるいは格納される。」(特許掲載公報13欄11〜15行)との記載を根拠に、「特許明細書中でも、初期値としても、「前回の移動経路」を記憶しております。」(平成17年8月15日付け意見書7頁2〜3行)とも主張している。しかし、特許明細書には前記記載に続けて、「「ラップ0」は、オブザーバカーがラップカーを抜いたときにはいつも「ラップ1」によって、上書きされる。」(特許掲載公報13欄15〜17行)との記載があるほか、「よりよいタイムが達成されたならば、プロセッサ114は、ベストラップ情報を更新するため、決定状態298から状態304に移行する。次に状態306に移行し、プロセッサ114はラップカーをスタートラインに配置してその位置を記憶し、状態308では「ラップ1」に記憶されたラップ・バッファ情報をベストラップ・バッファ「ラップ0」に移し、状態308から状態300に移行して上記した処理を続ける。」(同16欄24〜32行)との記載がある。そうすると、「「ラップ0」は、オブザーバカーがラップカーを抜いたときにはいつも「ラップ1」によって、上書きされる。」との記載は、周回終了時についての記載であって、周回開始前についての記載と解することはできないから、その直前の「オブザーバカーとラップカーの周回時の位置は、「ラップ1」や「ラップ0」と呼ばれる固有のバッファーに各々記録あるいは格納される。」との記載についても、1回目のシミュレーションに先立ち「ラップ0」に、「シミュレートされた乗物の位置情報」を記憶することを述べたものと解することはできない。
したがって、特許権者の主張を採用することはできない。他方、「シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、」との文言を「初回のシミュレーションの際」以外の意味に解すると訂正事項1の意味を全く理解できない。

(2)訂正事項3,4を訂正事項1と比較すると、「前記シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、前記少なくとも1つのパラメータと前記シミュレートされた乗物の位置情報とが前記パラメータを最大にすることなく前記前回の移動経路として記憶されており」との構文が、「前記シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、前記少なくとも1つのパラメータと前記現在シミュレートされている乗物の位置情報とが前記パラメータを最大にすることなく前記前回の移動経路として記憶されており」(訂正事項3)又は「前記シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、前記少なくとも1つのパラメータと前記現在シミュレートされている乗物の位置情報とが前記パラメータを最大にすることなく前記前回のバッファに記憶されており」(訂正事項4)となっている(下線はいずれも当審にて加入)点で若干異なる。すなわち、前回の移動経路として又は前回のバッファに記憶されるものが、「前記少なくとも1つのパラメータ」を除くと訂正事項1では「前記シミュレートされた乗物の位置情報」であり、訂正事項3,4では「前記現在シミュレートされている乗物の位置情報」とされており、これらは明らかに異なる情報であるから、訂正事項1,3,4全体を合理的に解釈することができない。訂正事項3,4だけなら、「前記前回の移動経路として記憶されており」との文言を「1回目のシミュレーション終了後」に記憶するという趣旨で理解できなくもないが、その場合であっても「前記パラメータを最大にすることなく」との意味を理解できない。

(3)ところで、平成15年改正前特許法120条の4第2項は、訂正請求の目的を「特許請求の範囲の減縮」(1号)、「誤記又は誤訳の訂正」(2号)又は「明りようでない記載の釈明」(3号)に制限しているところ、これら各号の一に該当するというためには、訂正事項の趣旨を明確に理解できることが前提である。訂正事項の趣旨を明確に理解できないような訂正請求は平成15年改正前特許法120条の4第2項に違反するというべきである。
訂正事項1,3,4はほぼ同一の構文であるから、一貫した解釈をしなければならないが、(2)で述べたことから不可能又は著しく困難である。(2)の下線部分は明らかに異なる意味であり、その一方が特許明細書に記載されていると仮にしても、他方は特許明細書に記載されていないことになる。
さらに、訂正事項1の場合、「前記シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、前記少なくとも1つのパラメータと前記シミュレートされた乗物の位置情報とが前記パラメータを最大にすることなく前記前回の移動経路として記憶されており」との文言が、初回のシミュレーションの際に前回の移動経路(ラップカー)として、少なくとも1つのパラメータとシミュレートされた乗物の位置情報とが前記パラメータを最大にすることなく記憶されているとの趣旨であるとすると、訂正事項1は特許明細書に記載された事項ではなく、特許明細書の記載から自明な事項でもない。
以上のとおりであるから、訂正事項1,3,4は、平成15年改正前特許法120条の4第2項各号に掲げる事項を目的としないか、又は同条3項で準用する平成15年改正前特許法126条2項が読み替えられて準用される平成6年改正前特許法126条第1項ただし書きの規定に適合しない。

4.訂正の許否の判断の結論
訂正事項1は訂正要件を満たさないから、本件訂正を認めない。

第3 特許異議申立についての判断その1
1.本件発明
訂正が認められないから、特許請求の範囲の記載は、次のとおり(特許明細書の記載どおり)である。以下、請求項1〜21に係る発明を請求項番号に応じて「本件発明1」〜「本件発明21」という。
【請求項1】シミュレーション装置を利用した運転者訓練システムにおいて、
前記シミュレーション装置によりシミュレートされる乗物を制御する複数のシミュレーション入力装置と、
前記使用者の視界を構成するミュレーション環境を表示するビデオ表示器と、
前記入力装置に応じて、前記シミュレーション環境における前記シミュレートされる乗物の位置情報を決定するモデリング手段と、
前記シミュレーション環境を通る現在シミュレートされている乗物の前記位置情報を含む現在の移動経路を記憶し、前記シミュレーション環境を通った過去にシミュレートされた乗物の位置情報を含む前回の移動経路を記憶する記憶手段と、
前記前回の移動経路と現在の移動経路とを前記ビデオ表示器に伝達する伝達手段とを備え、
前記記憶手段は、前記現在及び前回の移動経路と共にその成績を示す少なくとも一つのパラメータを記憶し、
前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路である運転者訓練システム。
【請求項2】第1項記載のシステムにおいて、前記入力装置はアクセルペダルとブレーキペダルとステアリングホイールとを備える運転者訓練システム。
【請求項3】第2項記載のシステムにおいて、前記入力装置はギアシフトを更に備える運転者訓練システム。
【請求項4】第3項記載のシステムにおいて、前記入力装置はクラッチペダルを更に備える運転者訓練システム。
【請求項5】第2項記載のシステムにおいて、前記ステアリングホイールは前記記憶手段からフィードバック信号を受信して、シミュレートされる乗物の進行方向を方向転換する運転者訓練システム。
【請求項6】第1項記載の装置において、前記記憶手段からの信号を受信するスピーカーを更に備える運転者訓練システム。
【請求項7】現実の乗物の制御を模擬する複数のシミュレーション制御器と、
使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を提供するビデオ表示器と、
前記シミュレーション制御器に応じて、現在シミュレートされている乗物と前回シミュレートされた乗物とを含む使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を発生するプロセッサと、
前記シミュレーション環境を通る現在シミュレートされている乗物の位置情報を含む現在の移動経路を記憶し、前記シミュレーション環境を通った過去にシミュレートされた乗物の位置情報を含む前回の移動経路を記憶する記憶手段とを備え、
前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路である運転者訓練システム。
【請求項8】シミュレーション装置を利用した運転者訓練システムにおいて、
前記シミュレーション装置においてシミュレートされる乗物を制御する複数のシミュレーション入力装置と、
使用者の視界を構成するシミュレーション環境を表示するビデオ表示器と、
前記入力装置に応じて、前記シミュレーション環境における前記シミュレートされる乗物の位置情報を決定するモデリング手段と、
現在のバッファと前回のバッファを有する記憶手段と、
現在の移動経路についてのパラメータと、前回の移動経路についてのパラメータとを比較する比較手段と、
前記前回の移動経路と前記現在の移動経路とをビデオ表示器に伝達する伝達手段とを有する運転者訓練システムであって、
前記記憶手段は、前記シミュレーション環境を通る現在シミュレートされる乗物の位置情報を含む現在の移動経路とその成績を示す少なくとも一つのパラメータとを前記現在のバッファに記憶し、前記シミュレーション環境を通った過去にシミュレートされた乗物の位置情報を含む前回の移動経路とその成績を示す少なくとも一つのパラメータとを前記前回のバッファに記憶し、
比較手段は現在の移動経路についてのパラメータと前記前回の移動経路についてのパラメータとを比較して、前記比較の結果選択された移動経路を最良の移動経路とし、
選択された前記最良の移動経路が現在の移動経路である場合、前記前回のバッファが選択された前記最良の移動経路とそのパラメータで上書きされる運転者訓練システム。
【請求項9】第8項記載のシステムにおいて、前記入力装置はアクセルペダルとブレーキペダルとステアリングホイールとを備える運転者訓練システム。
【請求項10】第9項記載のシステムにおいて、前記入力装置はギアシフトを更に備える運転者訓練システム。
【請求項11】第10項記載のシステムにおいて、前記入力装置はクラッチペダルを更に備える運転者訓練システム。
【請求項12】第9項記載のシステムにおいて、前記ステアリングホイールは前記記憶手段からのフィードバック信号を受信して、シミュレートされる乗物の進行方向を方向転換する運転者訓練システム。
【請求項13】第8項記載のシステムにおいて、前記記憶手段からの信号を受信するスピーカーを更に備える運転者訓練システム。
【請求項14】現実の乗物の制御を模擬する複数のシミュレーション制御器と、
ビデオ表示器と、
シミュレートされている乗物と前回シミュレートされた乗物とを有するシミュレーション環境を発生するプロセッサと、
使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を、前記使用者への提供のために前記ビデオ表示器に伝達する伝達手段と、
前記前回の移動経路とパラメータと記憶する前回のバッファと、
前記前回のバッファに含まれる前記前回の移動経路のパラメータと現在の移動経路のパラメータとを比較する比較手段と、
前回シミュレートされた乗物は、予め選択された最高化基準に従って今までシミュレートされた移動経路の中で、少なくとも一つのパラメータを最高にしてシミュレーション環境を通った前回の移動経路とそのパラメータとの記録であり、
シミュレートされている現在の移動経路についてのパラメータが最高化基準を満たすならば、現在の移動経路は前記前回のバッファに記憶された前記前回の移動経路に置き換わって記憶される運転者訓練システム。
【請求項15】第14項記載のシステムにおいて、前記パラメータは移動経路を走行した時間であり、前記最高化基準は移動経路を走行した最小時間である運転者訓練システム。
【請求項16】第14項記載のシステムにおいて、シミュレートされる乗物は道路上を移動する乗物である運転者訓練システム。
【請求項17】第14項記載のシステムにおいて、シミュレーション環境は三次元グラフィック表示を有する運転者訓練システム。
【請求項18】第14項記載のシステムにおいて、プロセッサは乗物の位置情報を決定するモデルプロセスを有する運転者訓練システム。
【請求項19】プロセッサと、一組の入力装置と、シミュレーション環境を表示する表示手段とを備える乗物をシミュレートするためのシステムにおいて実行される運転者訓練方法であって、
(a)コンピュータプログラムによって、入力装置からプロセッサへ乗物の位置の変化を示す信号を受信するステップと、
(b)プロセッサで、前回の位置情報と信号で示される変化とに基づいて、シミュレートされる乗物の位置情報を計算するステップと
(c)プロセッサに、シミュレーション環境を通る現在の移動経路を示す一連の位置情報を記憶するステップと、
(d)プロセッサで、現在の移動経路に関する少なくとも一つのパラメータを測定するステップと、
(e)プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路であり、その後の最良の移動経路は現在の移動経路のパラメータとの比較によって選択する、最良の移動経路を選択するステップと、
(f)プロセッサーに、前記比較の結果に従って選択された移動経路を最良の移動経路として記憶するステップと、
(g)表示手段により、現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と前回の移動経路を示す乗物とを同時に表示するステップと、
(h)ステップ(a)から(g)を複数時間繰り返すステップとを実行する運転者訓練方法。
【請求項20】プロセッサと、一組の入力装置と、シミュレーション環境を表示する表示手段と記憶手段とを備える乗物をシミュレートするためのシステムであって、記憶手段は、
(a)コンピュータプログラムによって、入力装置からプロセッサへ乗物の位置の変化を示す信号を受信する手段と、
(b)プロセッサで、前回の位置情報と信号で示される変化とに基づいて、シミュレートされる乗物の位置情報を計算する手段と
(c)プロセッサに、シミュレーション環境を通る現在の移動経路を示す一連の位置情報を記憶する手段と、
(d)プロセッサで、現在の移動経路を示す少なくとも一つのパラメータを測定する手段と、
(e)プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路であり、その後の最良の移動経路は現在の移動経路のパラメータとの比較によって選択する、最良の移動経路を選択する手段と、
(f)プロセッサーに、前記比較の結果に従って選択された移動経路を最良の移動経路として記憶する手段と、
(g)表示手段により、現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と前回の移動経路を示す乗物とを同時に表示する手段と、
(h)手段(a)から(g)を複数時間繰り返す手段とを備える運転者訓練システム。
【請求項21】第7項記載のシステムにおいて、前記パラメータはシミュレーション環境を走行する経過時間である運転者訓練システム。

2.本件出願日の認定
(1)請求項5には「前記ステアリングホイールは前記記憶手段からフィードバック信号を受信して、シミュレートされる乗物の進行方向を方向転換する」と、請求項12には「前記ステアリングホイールは前記記憶手段からのフィードバック信号を受信して、シミュレートされる乗物の進行方向を方向転換する」とそれぞれ記載されている。願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」といい、添付図面を「当初図面」といい、これらを併せて「当初明細書等」という。)には、「前記ステアリングホイールは前記反復練習手段からのフィードバック信号に応答する」(【請求項5】)との記載があり、当初図面のFIG.1にはゲームプロセス120からステアリングホイール112に向かう矢印が図示されている。これら記載又は図示によれば、何らかの信号が反復練習手段又はゲームプロセス120からステアリングホイール112に入力されることは認める。また、記憶手段が反復練習手段又はゲームプロセスの一部であることも認める。しかし、反復練習手段又はゲームプロセス120のうちの記憶手段からステアリングホイールにフィードバック信号が入力されることまでが当初明細書等に記載されており、そのフィードバック信号を受信してシミュレートされる乗物の進行方向を方向転換することが当初明細書等に記載されているとまでは認めることができないし、そのことは当初明細書等の記載から自明ということはできない。
(2)請求項6,13には「前記記憶手段からの信号を受信するスピーカーを更に備える」と記載されている。当初明細書に「前記反復練習手段に応答するスピーカーをさらに備えた」(【請求項6】)、「ゲームプロセス120は、自動車の新しい設定に「道路規則」を適用しそして、ビデオディスプレイ122とスピーカ124を駆動する信号を与える。」(特表平5-501981号公報(後記引用例1)の記載ク)及び「段階236では衝突音が作り出される。」(引用例1第4頁右上欄7行)と記載があり、当初図面のFIG.1にはゲームプロセス120からスピーカに向かう矢印が図示されている。これら記載又は図示によれば、何らかの信号がゲームプロセス120からスピーカに入力されることや衝突音が作り出されることは認める。また、記憶手段がゲームプロセスの一部であることも認める。しかし、ゲームプロセス120のうちの記憶手段からスピーカに信号が入力されることまでが当初明細書等に記載されているとまでは認めることができないし、そのことは当初明細書等の記載から自明ということはできない。
(3)請求項20には、「(a)コンピュータプログラムによって、入力装置からプロセッサへ乗物の位置の変化を示す信号を受信する手段と、
(b)プロセッサで、前回の位置情報と信号で示される変化とに基づいて、シミュレートされる乗物の位置情報を計算する手段と
(c)プロセッサに、シミュレーション環境を通る現在の移動経路を示す一連の位置情報を記憶する手段と、
(d)プロセッサで、現在の移動経路を示す少なくとも一つのパラメータを測定する手段と、
(e)プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路であり、その後の最良の移動経路は現在の移動経路のパラメータとの比較によって選択する、最良の移動経路を選択する手段と、
(f)プロセッサーに、前記比較の結果に従って選択された移動経路を最良の移動経路として記憶する手段と、
(g)表示手段により、現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と前回の移動経路を示す乗物とを同時に表示する手段と、
(h)手段(a)から(g)を複数時間繰り返す手段」との記載がある。(h)の「複数時間」は「複数回」の自明な誤記と理解できるけれども、手段を繰り返す手段とは何のことか不明である(後記記載不備の理由の1つとなる。)ばかりか、手段を繰り返し動作させる手段との意味に善解したとしても、そのような手段は当初明細書等に記載されておらず、自明な事項でもない。
(4)本件については、出願後の平成13年10月3日付け及び平成15年3月17日付けで手続補正がされており、上記請求項5,6,12,13,20の記載は、平成13年10月3日付け又は平成15年3月17日付け手続補正で加入されたものである。
したがって、これら手続補正のいずれかは明細書の要旨を変更する補正であるから、本件出願日は平成5年改正前特許法40条の規定により、その手続補正がされた日であり、早くとも平成13年10月3日である。当然、優先権主張は認めない。
(5)適用される法律
上記のとおり、本件出願日は早くとも平成13年10月3日であるが、特許異議申立の審理に当たり、平成13年10月3日当時の特許法を適用することは適当ではない。なぜなら、平成13年10月3日当時の特許法においては、違法な補正が特許取消理由となることはあっても、出願日を繰り下げることにはならないから、出願日は再び平成3年8月1日となるとの循環論に陥るからである。
すなわち、平成5年改正前特許法40条の趣旨は、適用される特許法は現実出願日のままとしておいて、特許を取り消すかどうか、又は無効にするかどうかの判断において、当該出願日を繰り下げるだけの法律効果を有すると解するべきである。そのため、例えば以下において「特許法36条」とあるのは「平成6年改正前特許法36条」の趣旨である。

3.記載不備
(1)2.で述べた請求項5,12の「ステアリングホイールは前記記憶手段からフィードバック信号を受信して、シミュレートされる乗物の進行方向を方向転換する」との記載を自然に解釈すれば、記憶手段からステアリングホイールに対してフィードバック信号が入力され、その信号によって乗物の進行方向が方向転換されるということである。しかし、「ステアリングホイール」は入力装置の1つであって、操作者が操作するものであり、上記記載はこれに反する記載であるから、その意味を理解できない。
「ステアリングホイールは前記記憶手段からフィードバック信号を受信」と「シミュレートされる乗物の進行方向を方向転換する」(主語はステアリングホイール)を独立した構成と解釈すると、上記の困難はないものの、どのようなフィードバック信号を受信し、その結果「ステアリングホイール」がどのように影響を受けるのか不明である。
したがって、請求項5,12が「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した」(特許法36条5項2号)と認めることはできないばかりか、発明の詳細な説明は、請求項5,12に係る発明を当業者が容易に実施できる程度に記載(同条4項)したと認めることはできない。

(2)請求項19に「(e)プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路であり、その後の最良の移動経路は現在の移動経路のパラメータとの比較によって選択する、最良の移動経路を選択するステップ」、「(f)プロセッサーに、前記比較の結果に従って選択された移動経路を最良の移動経路として記憶するステップ」及び「(g)表示手段により、現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と前回の移動経路を示す乗物とを同時に表示するステップ」との各記載がある。
「最良の移動経路」を、請求項1記載の「今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路」と同趣旨に解する(これ以外の解釈は困難である)としても、(g)において表示されるのは「前回の移動経路を示す乗物」であって、「前回までの最良の移動経路を示す乗物」ではない。
他方、発明の詳細な説明には、現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と同時に表示されるものは、前回までの最良の移動経路を示す乗物とされているから、請求項19が「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」(特許法36条5項1号)又は「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した」(同項2号)と認めることはできない。

(3)請求項20に「(d)プロセッサで、現在の移動経路を示す少なくとも一つのパラメータを測定する手段」、「(e)プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路であり、その後の最良の移動経路は現在の移動経路のパラメータとの比較によって選択する、最良の移動経路を選択する手段」、「(f)プロセッサーに、前記比較の結果に従って選択された移動経路を最良の移動経路として記憶する手段」及び「(g)表示手段により、現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と前回の移動経路を示す乗物とを同時に表示する手段」と記載されている。
(d)の「現在の移動経路を示す少なくとも一つのパラメータ」(下線は当審にて加入)とは何か不明であり(請求項19の「現在の移動経路に関する少なくとも一つのパラメータ」とは明らかに異なる表現である。)、その不明なパラメータをいかにして測定するかも不明である。
「最良の移動経路」を、請求項1記載の「今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路」と同趣旨に解するとしても、(g)において表示されるのは「前回の移動経路を示す乗物」であって、「前回までの最良の移動経路を示す乗物」ではないから、(2)で述べたと同様の記載不備がある。
さらに、(a)〜(h)は「記憶手段」の構成とされているが、(c)及び(f)以外は、通常「記憶手段」との用語が観念させるものとはほど遠い。
また、請求項20には「(h)手段(a)から(g)を複数時間(決定注;「複数回の自明な誤記と解する。)繰り返す手段」とあり、手段を繰り返す手段とは何のことか不明であるばかりか、手段を繰り返し動作させる手段との意味に善解したとしても、(e)及び(f)は1回のシミュレーション終了時の手段であり、他は1回のシミュレーション中での手段であるから、どのように繰り返すのか不明である。さらに、「繰り返す手段」が他の手段と独立した手段であるとは、一体どういうことなのか、換言すれば、同手段がいかなる構成から成立しているものか理解できない。特に、(e)及び(f)の繰り返しは、シミュレーションの繰り返しにより行われるのだから、これを繰り返す別途の手段が存するとはどういうことなのか全く理解できない。
したがって、請求項20が「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」(特許法36条5項1号)又は「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した」(同項2号)と認めることはできない。

(4)請求項21には「前記パラメータはシミュレーション環境を走行する経過時間である」とあるが、請求項21が引用する請求項7には「前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路である」とあり、パラメータとしての経過時間が最大であるということは、ワースト記録ということである。これは、発明の詳細な記載と整合しないし、そのようにすることの意義を認めることもできない。
したがって、請求項21が「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」(特許法36条5項1号)又は「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した」(同項2号)と認めることはできない。

(5)以上のとおりであるから、請求項5,12,19〜21に係る特許は、特許法36条4項又は5項に規定する要件を満たさないとして、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされた特許である。

4.引用刊行物の記載事項
取消理由に引用した特表平5-501981号公報(本件の公表公報であり、以下「引用例1」という。)には、次のア〜ソの記載が図示とともにある。摘記に当たっては、改行等を省略することがある。
ア.「乗物シミュレータの使用者のための運転者訓練システムにおいて、
前記乗物シミュレータを制御するための複数の模擬入力装置と、
模擬状況景色を前記使用者に提供するためのビデオ表示器と、
前記模擬状況での前記乗物シミュレータの状態の情報を判断するための前記入力装置に応答する模範手段と、
記憶手段を有し、前記乗物シミュレータの前記模擬状況を通る従前のルートを格納するために前記状態の情報に応答し、この模擬状況において前記従前のルートは現在のルートとともに前記ビデオ表示器に伝達される反復練習手段とを備えた運転者訓練システム。」(1頁左下欄2〜10行)
イ.「第1項記載の装置において、前記入力装置はアクセルペダルとブレーキペダルとステアリングホイールとを備えたことを特徴とする運転者訓練システム。」(同欄11〜12行)
ウ.「第2項記載の装置において、前記入力手段はさらにギアシフトを備えたことを特徴とする運転者訓練システム。」(同欄13〜14行)
エ.「第3項記載の装置において、前記入力手段はさらにクラッチペダルを備えたことを特徴とする運転者訓練システム。」(同欄15〜16行)
オ.「第3項記載の装置において、前記ステアリングホイールは前記反復練習手段からのフィードバック信号に応答することを特徴とする運転者訓練システム。」(同欄17〜18行)
カ.「第1項記載の装置において、前記反復練習手段に応答するスピーカーをさらに備えたことを特徴とする運転者訓練システム。」(同欄19〜20行)
キ.「実際の乗物の製御に類似する複数の模擬制御器と、使用者に個人的なフィードバックを提供するための視覚表示装置と、個人的なフィードバックを起こすために前記模擬制御器に応答し、模擬状況と現行の乗物シミュレータと従前のシミュレータであって他の従前の模擬ルートに関する少なくとも一つのパラメータを最大にする状況を通るルートの記録である従前のシミュレータとを含むプロセッサとを備えたアーケードゲーム。」(同欄21〜27行)
ク.「モデルプロセス116は、入力装置104〜112からのデジタル信号を受け、シミュレータカーの速度と加速方向量を形成する。このように、時間Tで、所定のデータ、例えば自動車の平行座標がモデルプロセス116によって決定される。所定のデータは、データバス118を介して、ゲームプロセス120に利用できる。したがって、ゲームプロセス120は、自動車の新しい設定に「道路規則」を適用しそして、ビデオディスプレイ122とスピーカ124を駆動する信号を与える。」(2頁右下欄25行〜3頁左上欄2行)
ケ.「ここで図3を参照すると、使用者102(図1)は模擬実験される乗物の内部でオブザーバーの場所に位置するとみなすことができる。図3は、図1のビデオ画面122に作り出された別の画面描写を表したものである。図3で描写された場面は、使用者102がオブザーバー・カー(図示せず)とも呼ばれる乗物シミュレータを運転してスタートライン136にさしかかろうとしている場面である。スタートライン136で待ちかまえているのは「ゴースト」カーまたはラップカー150である。」(3頁右上欄3〜9行)
コ.「ラップカー150はそれまでに運転者102によりなされた全ての周回の中で、トラック134を回る最もよい周回タイムを描写する。このようにして、運転者102は反復練習といわれる自己改善方法を与えられる。すなわち、トラックを回ることをn回目に繰り返す場合、運転者102はそれまでの(n-1)周に蓄積されたベストタイムを打ち破ることに取り組む。ここで記載及び図示されたアーケードゲームの実施例としてのシステム100には、性能すなわち時間を示す単独のパラメータがある。」(同欄10〜16行)
サ.「図4は別の画面表示であり、使用者102によって運転されるオブザーバー・カーの前方にラップカー150が表示される。ラップカー150は、意図的に輪郭として表示される。それで使用者102は衝突の心配なしに実際にラップカー150を「通り抜けて」追い越せる。」(3頁左下欄24〜27行)
シ.「「イニットプレコード」216と呼ばれる機能に移ると、プロセッサ114はオブザーバーとラップカーの記録を初期設定する。オブザーバーとラップカーの周回時の位置が記録され、すなわち、それぞれ「周回1」や「周回0」と呼ばれる特有のバッファーにセーブされる。「周回0」は、オブザーバー・カーがラップカーを抜いたときに「周回1」に置き換えられる。」(3頁右下欄24〜28行)
ス.「ランプカーのベストタイムはプロセッサ114が段階260に移ってから初期化される。ベストタイムは、システムによって許される可能な限り高いタイム、例えば60進数(決定注;「16進数」の誤記と解する。)の表記法においては7FFFFFFFが設定される。」(4頁右上欄26〜28行)
セ.「従って、最初の周回の後、衝突もなくまた使用者102が中断もしなかったと仮定すると、(・・・)、オブザーバー・カーは図3に示される従前のパラメーター表示164に最初の周回タイムが表示されて自動的に新しいラップカーとなる。」(同欄末行〜同頁左下欄3行)
ソ.「判断段階298からは、もし正当な周回とより良いタイムを達成していればプロセッサ114は段階304に移行し、最高の周回の情報を最新のものとする。」(4頁右下欄18〜19行)

5.引用例1記載の発明の認定
引用例1の記載ス〜セによれば、記載アの「従前のルート」は、過去最高のタイムを記録したルートであり、これが記憶手段に格納されるものと認められる。
したがって、記載アの「運転者訓練システム」であって、記載イ〜カの限定事項を備えたものは次のようなものと認めることができる。
「乗物シミュレータの使用者のための運転者訓練システムにおいて、
前記乗物シミュレータを制御するための、アクセルペダルとブレーキペダルとステアリングホイールとギアシフトとクラッチペダルを備えた模擬入力装置と、
模擬状況景色を前記使用者に提供するためのビデオ表示器と、
前記模擬状況での前記乗物シミュレータの状態の情報を判断するための前記入力装置に応答する模範手段と、
過去最高のタイムを記録したルートを従前のルートとして格納する記憶手段を有し、
前記記憶手段には前記乗物シミュレータの前記模擬状況を通る従前のルートのうち、過去最高のタイムを記録したルートを格納し、前記状態の情報に応答し、この模擬状況において前記従前のルートは現在のルートとともに前記ビデオ表示器に伝達される反復練習手段とを備え、
前記ステアリングホイールは前記反復練習手段からのフィードバック信号に応答するように構成し、
前記反復練習手段に応答するスピーカーをさらに備えた運転者訓練システム。」(以下「引用発明」という。)

6.本件発明1の進歩性の判断
引用発明が「シミュレーション装置を利用した運転者訓練システム」であること、引用発明の「ビデオ表示器」が「使用者の視界を構成するミュレーション環境を表示する」こと、引用発明の「模範手段」が本件発明1の「前記入力装置に応じて、前記シミュレーション環境における前記シミュレートされる乗物の位置情報を決定するモデリング手段」に相当することは自明である。
引用発明において、現在のルートが従前のルートの記録を更新すれば、それが新たな過去最高のタイムを記録した従前のルートとなるのだから、従前のルート及び現在のルートはともに記憶手段に格納されていると認めることができる。そして、引用発明の「ルート」と本件発明1の「移動経路」に相違はないから、引用発明において格納されている「従前のルート」は本件発明1の「今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路」と異ならず、引用発明の「記憶手段」も「現在及び前回の移動経路と共にその成績を示す少なくとも一つのパラメータを記憶」するものである。ただし、引用発明において記憶されているパラメータが、それを最大にしたものが「過去最高のタイム」となるようなパラメータであるとまでは認めることができない。換言すると、引用発明の「過去最高のタイムを記録したルート」と本件発明1の「今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路」とは、「今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータに基づいて決定された移動経路」である点で一致する。
さらに、引用発明では「従前のルートは現在のルートとともに前記ビデオ表示器に伝達される」のだから、本件発明1の「前記前回の移動経路と現在の移動経路とを前記ビデオ表示器に伝達する伝達手段」を備えている。
したがって、本件発明1と引用発明とは、
「シミュレーション装置を利用した運転者訓練システムにおいて、
前記シミュレーション装置によりシミュレートされる乗物を制御する複数のシミュレーション入力装置と、
前記使用者の視界を構成するミュレーション環境を表示するビデオ表示器と、
前記入力装置に応じて、前記シミュレーション環境における前記シミュレートされる乗物の位置情報を決定するモデリング手段と、
前記シミュレーション環境を通る現在シミュレートされている乗物の前記位置情報を含む現在の移動経路を記憶し、前記シミュレーション環境を通った過去にシミュレートされた乗物の位置情報を含む前回の移動経路を記憶する記憶手段と、
前記前回の移動経路と現在の移動経路とを前記ビデオ表示器に伝達する伝達手段とを備え、
前記記憶手段は、前記現在及び前回の移動経路と共にその成績を示す少なくとも一つのパラメータを記憶し、
前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータに基づいて決定された移動経路である運転者訓練システム。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点〉「今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータに基づいて決定された移動経路」が、本件発明1では、今までシミュレートされた移動経路の内で、記憶手段に記憶された少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路」とされているのに対し、引用発明では「過去最高のタイムを記録したルート」とされている点。
この相違点について検討すると、タイムとは走行に要した時間であるから、過去最高のタイムとは最小時間で走行したことであり、タイムをパラメータとした場合には、「過去最高のタイムを記録したルート」はそのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路ではないけれども、タイムの代わりに走行速度に相当するものをパラメータとすれば(あるいは、経過時間に伴いダウンカウントするダウンカウンタを用い、カウンタの残存値をパラメータとしてもよい。)、「パラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路」に該当する。要するに、この相違点は何をパラメータとするかの相違点にすぎず、タイムに代えて走行速度に相当するパラメータを選択することにより相違点に係る本件発明1の構成に至ることは当業者にとって想到容易である。
すなわち、本件発明1は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

7.本件発明2〜4の進歩性の判断
本件発明2は本件発明1を「前記入力装置はアクセルペダルとブレーキペダルとステアリングホイールとを備える」と限定し、本件発明3は本件発明2を「前記入力装置はギアシフトを更に備える」と限定し、本件発明4は本件発明3を「前記入力装置はクラッチペダルを更に備える」と限定するものである。
しかし、引用発明の入力装置はこれら限定事項を備えているから、これら限定事項は本件発明2〜4と引用発明との相違点を生じさせるものではない。
したがって、本件発明2〜4も引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

8.本件発明6の進歩性の判断
本件発明6は本件発明1を「記憶手段からの信号を受信するスピーカーを更に備える」と限定するものである。引用発明も「反復練習手段に応答するスピーカー」を備えているから、本件発明6と引用発明との新たな相違点は、スピーカーが「記憶手段からの信号を受信する」かどうかの点である。
引用発明の「記憶手段」は、現在のルート及び従前のルートを記憶するものであるが、それらだけを記憶するものには当然限定されない。他方、ゲームあるいはシミュレーションシステムにおいては、ゲーム中あるいはシミュレーション実行中に、例えばBGMを流すことは普通に行われている。そうである以上、引用発明の「記憶手段」において、現在のルート及び従前のルートを記憶したのとは別の領域に、BGMを記憶しておき、これを運転訓練中に流すことは設計事項というべきであり、それは相違点に係る本件発明6の構成を採用することでもある。
したがって、本件発明6は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

9.本件発明7の新規性の判断
若干表現は異なるものの、引用発明が「現実の乗物の制御を模擬する複数のシミュレーション制御器」及び「シミュレーション制御器に応じて、現在シミュレートされている乗物と前回シミュレートされた乗物とを含む使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を発生するプロセッサ」を有すること、並びに引用発明の「ビデオ表示器」が「使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を提供する」ことは自明である。
6.で述べたことの多くは、本件発明7と引用発明との対比にも当てはまる。本件発明7は本件発明1とは、「前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路である」点では一致するものの、そのパラメータが記憶手段に記憶されているかどうか(本件発明1では記憶されているが、本件発明7にはその限定がない。)の点で異なるため、6.で述べた相違点が本件発明7と引用発明との相違点となるかどうかは改めて検討しなければならない。引用発明の「過去最高のタイムを記録したルート」は走行時間をパラメータとした場合には、そのパラメータを最小にしてシミュレーション環境を通った移動経路であるが、走行時間に代えて走行速度等をパラメータとした場合には、そのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路である。そして、最大にすべきパラメータが記憶されているかどうかは本件発明7の構成要件とされていないのであるから、引用発明の「過去最高のタイムを記録したルート」は、本件発明7の「前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路」と異ならない。
したがって、本件発明7と引用発明とは、
「現実の乗物の制御を模擬する複数のシミュレーション制御器と、
使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を提供するビデオ表示器と、
前記シミュレーション制御器に応じて、現在シミュレートされている乗物と前回シミュレートされた乗物とを含む使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を発生するプロセッサと、
前記シミュレーション環境を通る現在シミュレートされている乗物の位置情報を含む現在の移動経路を記憶し、前記シミュレーション環境を通った過去にシミュレートされた乗物の位置情報を含む前回の移動経路を記憶する記憶手段とを備え、
前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路である運転者訓練システム。」である点で一致し、両者に相違点は存在しない。すなわち、本件発明7は引用発明そのものであり、特許法29条1項3号に該当する発明である。

10.本件発明8の新規性の判断
引用発明の「記憶手段」が、現在のルート及び従前のルートを記憶することは既に述べたとおりであり、これらルートをそれぞれ記憶する領域は、本件発明8の「現在のバッファ」及び「前回のバッファ」に相当する。仮に、「現在のバッファと前回のバッファを有する」との文言が、単一記憶手段の個別領域として確保されているのではなく、別個の記憶手段であるとの趣旨であるとしても、引用例1の記載シにあるとおり、実質的相違点を構成するものではない。
また、引用発明において「過去最高のタイムを記録したルートを格納」するに当たっては、記載シにあるとおり、「周回0」と呼ばれるバッファー(本件発明8の「前回のバッファ」)が「周回1」と呼ばれるバッファー(本件発明8の「現在のバッファ」)に置き換えられるように構成されており、これは本件発明8の「選択された前記最良の移動経路が現在の移動経路である場合、前記前回のバッファが選択された前記最良の移動経路とそのパラメータで上書きされる」と異ならない。
したがって、本件発明8と引用発明とは、
「シミュレーション装置を利用した運転者訓練システムにおいて、
前記シミュレーション装置においてシミュレートされる乗物を制御する複数のシミュレーション入力装置と、
使用者の視界を構成するシミュレーション環境を表示するビデオ表示器と、
前記入力装置に応じて、前記シミュレーション環境における前記シミュレートされる乗物の位置情報を決定するモデリング手段と、
現在のバッファと前回のバッファを有する記憶手段と、
現在の移動経路についてのパラメータと、前回の移動経路についてのパラメータとを比較する比較手段と、
前記前回の移動経路と前記現在の移動経路とをビデオ表示器に伝達する伝達手段とを有する運転者訓練システムであって、
前記記憶手段は、前記シミュレーション環境を通る現在シミュレートされる乗物の位置情報を含む現在の移動経路とその成績を示す少なくとも一つのパラメータとを前記現在のバッファに記憶し、前記シミュレーション環境を通った過去にシミュレートされた乗物の位置情報を含む前回の移動経路とその成績を示す少なくとも一つのパラメータとを前記前回のバッファに記憶し、
比較手段は現在の移動経路についてのパラメータと前記前回の移動経路についてのパラメータとを比較して、前記比較の結果選択された移動経路を最良の移動経路とし、
選択された前記最良の移動経路が現在の移動経路である場合、前記前回のバッファが選択された前記最良の移動経路とそのパラメータで上書きされる運転者訓練システム。」である点で一致し、両者に相違点は存在しない。すなわち、本件発明8は引用発明そのものであり、特許法29条1項3号に該当する発明である。

11.本件発明9〜11の新規性の判断
本件発明9は本件発明8を「前記入力装置はアクセルペダルとブレーキペダルとステアリングホイールとを備える」と限定し、本件発明10は本件発明9を「前記入力装置はギアシフトを更に備える」と限定し、本件発明11は本件発明10を「前記入力装置はクラッチペダルを更に備える」と限定するものである。
しかし、引用発明の入力装置はこれら限定事項を備えているから、これら限定事項は本件発明9〜11と引用発明との相違点を生じさせるものではない。
したがって、本件発明9〜11も引用発明そのものであり、特許法29条1項3号に該当する発明である。

12.本件発明13の進歩性の判断
本件発明13は本件発明8を「記憶手段からの信号を受信するスピーカーを更に備える」と限定するものである。引用発明も「反復練習手段に応答するスピーカー」を備えているから、本件発明13と引用発明との相違点は、スピーカーが「記憶手段からの信号を受信する」かどうかの点のみである。
引用発明の「記憶手段」は、現在のルート及び従前のルートを記憶するものであるが、それらだけを記憶するものには当然限定されない。他方、ゲームあるいはシミュレーションシステムにおいては、ゲーム中あるいはシミュレーション実行中に、例えばBGMを流すことは普通に行われている。そうである以上、引用発明の「記憶手段」において、現在のルート及び従前のルートを記憶したのとは別の領域に、BGMを記憶しておき、これを運転訓練中に流すことは設計事項というべきである、それは相違点に係る本件発明13の構成を採用することでもある。
したがって、本件発明13は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

13.本件発明14の新規性の判断
引用発明が「現実の乗物の制御を模擬する複数のシミュレーション制御器」、「シミュレートされている乗物と前回シミュレートされた乗物とを有するシミュレーション環境を発生するプロセッサ」、「使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を、前記使用者への提供のために前デオ表示器に伝達する伝達手段」を有することは自明である。
引用発明が「前回の移動経路とパラメータと記憶する前回のバッファ」を有することは既に述べたとおりであり、引用発明が「前回のバッファに含まれる前回の移動経路のパラメータと現在の移動経路のパラメータとを比較する比較手段」を有することは自明である。
引用発明の「従前のルート」は過去最高のタイムを記録したルートであるから、「前回のバッファ」に記憶されるのは「予め選択された最高化基準に従って今までシミュレートされた移動経路の中で、少なくとも一つのパラメータを最高にしてシミュレーション環境を通った前回の移動経路とそのパラメータとの記録」であり、「シミュレートされている現在の移動経路についてのパラメータが最高化基準を満たすならば、現在の移動経路は前記前回のバッファに記憶された前記前回の移動経路に置き換わって記憶される」ことは自明である。
したがって、本件発明14と引用発明とは、
「現実の乗物の制御を模擬する複数のシミュレーション制御器と、
ビデオ表示器と、
シミュレートされている乗物と前回シミュレートされた乗物とを有するシミュレーション環境を発生するプロセッサと、
使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を、前記使用者への提供のために前記ビデオ表示器に伝達する伝達手段と、
前記前回の移動経路とパラメータと記憶する前回のバッファと、
前記前回のバッファに含まれる前記前回の移動経路のパラメータと現在の移動経路のパラメータとを比較する比較手段と、
前回シミュレートされた乗物は、予め選択された最高化基準に従って今までシミュレートされた移動経路の中で、少なくとも一つのパラメータを最高にしてシミュレーション環境を通った前回の移動経路とそのパラメータとの記録であり、
シミュレートされている現在の移動経路についてのパラメータが最高化基準を満たすならば、現在の移動経路は前記前回のバッファに記憶された前記前回の移動経路に置き換わって記憶される運転者訓練システム。」である点で一致し、両者に相違点は存在しない。すなわち、本件発明14は引用発明そのものであり、特許法29条1項3号に該当する発明である。

14.本件発明15,16,18の新規性の判断
本件発明15は本件発明14を「前記パラメータは移動経路を走行した時間であり、前記最高化基準は移動経路を走行した最小時間である」と、本件発明16は本件発明14を「シミュレートされる乗物は道路上を移動する乗物である」と、本件発明18は本件発明14を「プロセッサは乗物の位置情報を決定するモデルプロセスを有する」とそれぞれ限定するものである。
引用発明の「従前のルート」は「過去最高のタイムを記録したルート」であるから、パラメータに相当するのは「移動経路を走行した時間」であり、「前記パラメータは移動経路を走行した時間であり、前記最高化基準は移動経路を走行した最小時間である」との限定を有する。また、引用発明の乗物として、「道路上を移動する乗物」が含まれていること、及び引用発明のプロセッサに相当するものが「乗物の位置情報を決定するモデルプロセスを有する」ことは自明である。したがって、上記限定事項は本件発明15,16,18と引用発明との相違点をもたらさない。
すなわち、本件発明15,16,18は引用発明そのものであり、特許法29条1項3号に該当する発明である。

15.本件発明17の新規性又は進歩性の判断
本件発明17は本件発明14を「シミュレーション環境は三次元グラフィック表示を有する」と限定するものである。
同限定について引用例1には記載がないけれども、本件の特許明細書の発明の詳細な説明にも記載がない。
引用例1の図面と本件添付図面は同一であるから、【第2図】〜【第5図】のような表示を「三次元グラフィック表示」というのなら、引用発明は上記限定を有することになるから、実質的相違にはならない。そうでないとすると、実質的相違があることになるが、三次元グラフィック表示とする程度のことは設計事項に属するから、本件発明17は進歩性を有さない。
すなわち、本件発明17は引用発明そのものである(特許法29条1項3号該当)か引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条1項又は2項の規定により特許を受けることができない。

16.本件発明19の新規性の判断
請求項19には3.で述べた記載不備があるため、(g)の「前回の移動経路を示す乗物とを同時に表示する」は、「前回までの最良の移動経路を示す乗物」の趣旨であり、「複数時間」は「複数回」の誤記であるとして、本件発明19の新規性について検討する。
引用発明と本件発明19とは、発明のカテゴリが異なるため、引用発明を使用する運転者訓練方法(以下「引用方法発明」という。)と本件発明19を対比する。
引用方法発明が「プロセッサと、一組の入力装置と、シミュレーション環境を表示する表示手段とを備える乗物をシミュレートするためのシステムにおいて実行される運転者訓練方法」であることは自明である。
引用発明の「入力装置」は、模範手段(プロセッサ)に対し乗物の位置の変化を示す信号を与えるためのものであるから、引用方法発明は「(a)コンピュータプログラムによって、入力装置からプロセッサへ乗物の位置の変化を示す信号を受信するステップ」を有する。
引用方法発明が「(b)プロセッサで、前回の位置情報と信号で示される変化とに基づいて、シミュレートされる乗物の位置情報を計算するステップ」を有することは自明である。
引用発明では「従前のルート」を表示するのであり、そのルートが実際にシミュレーションされた際には、同ルートが現在のルートであったのだから、引用方法発明が「(c)プロセッサに、シミュレーション環境を通る現在の移動経路を示す一連の位置情報を記憶するステップ」を有することは明らかである。
また、過去最高のタイムであるかどうかは、現在のルートのタイムを測定しなければ判明しないことであるから、引用方法発明が「(d)プロセッサで、現在の移動経路に関する少なくとも一つのパラメータを測定するステップ」を有することは明らかである。
本件発明19の「(e)プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路であり、その後の最良の移動経路は現在の移動経路のパラメータとの比較によって選択する、最良の移動経路を選択するステップ」との文言は必ずしも明確ではないが、「初期化後」とは1回目のシミュレーション時の意味であり、「最良の移動経路を選択」するには比較対象となる2つの移動経路が必要であることから、「初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路であり」とは、1回目のシミュレーション時の現在の移動経路は必ず2回目の最良の移動経路に選択されることを意味し、同じく「その後の最良の移動経路は現在の移動経路のパラメータとの比較によって選択する」とは、2回目以降のシミュレーション時の現在の移動経路はそれまでの最良の移動経路とのパラメータ比較により、パラメータが優れている方が次回の最良の移動経路に選択されることを意味すると解すべきである。同解釈に従えば、引用方法発明が「(e)プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路であり、その後の最良の移動経路は現在の移動経路のパラメータとの比較によって選択する、最良の移動経路を選択するステップ」及び「(f)プロセッサーに、前記比較の結果に従って選択された移動経路を最良の移動経路として記憶するステップ」を有することは明らかである。
引用発明では「従前のルートは現在のルートとともに前記ビデオ表示器に伝達される」のだから、引用方法発明が「(g)表示手段により、現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と前回の移動経路を示す乗物とを同時に表示するステップ」を有することは明らかである。
引用方法発明において、使用者が訓練を繰り返すことは当然想定されることがらであり、訓練を繰り返すことは「(h)ステップ(a)から(g)を複数回繰り返すステップとを実行する」ことと異ならないから、引用方法発明は実質的に「(h)ステップ(a)から(g)を複数時間繰り返すステップとを実行する運転者訓練方法」であるといえる。
したがって、本件発明19と引用方法発明とは、
「プロセッサと、一組の入力装置と、シミュレーション環境を表示する表示手段とを備える乗物をシミュレートするためのシステムにおいて実行される運転者訓練方法であって、
(a)コンピュータプログラムによって、入力装置からプロセッサへ乗物の位置の変化を示す信号を受信するステップと、
(b)プロセッサで、前回の位置情報と信号で示される変化とに基づいて、シミュレートされる乗物の位置情報を計算するステップと
(c)プロセッサに、シミュレーション環境を通る現在の移動経路を示す一連の位置情報を記憶するステップと、
(d)プロセッサで、現在の移動経路に関する少なくとも一つのパラメータを測定するステップと、
(e)プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路であり、その後の最良の移動経路は現在の移動経路のパラメータとの比較によって選択する、最良の移動経路を選択するステップと、
(f)プロセッサーに、前記比較の結果に従って選択された移動経路を最良の移動経路として記憶するステップと、
(g)表示手段により、現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と前回の移動経路を示す乗物とを同時に表示するステップと、
(h)ステップ(a)から(g)を複数時間繰り返すステップとを実行する運転者訓練方法。」である点で一致し、両者に相違点は存在しない。すなわち、本件発明19は引用発明そのものであり、特許法29条1項3号に該当する発明である。

17.本件発明21の新規性の判断
請求項21には3.で述べた記載不備がある。そこで、請求項21が引用する請求項7の「少なくとも一つのパラメータを最大にして」が「少なくとも一つのパラメータを最良にして」の誤記であると解する。
請求項21は、上記解釈のもとで請求項7に係る発明に「前記パラメータはシミュレーション環境を走行する経過時間である」との限定を加えたものであるが、引用発明の「過去最高のタイム」は、まさに「シミュレーション環境を走行する経過時間」を最良とするものであるから、上記限定によって相違点は生じない。
すなわち、本件発明21は引用方法発明そのものであるから、特許法29条1項3号に該当する発明である。

第4 特許異議申立についての判断その2
1.引用刊行物の記載事項
取消理由に引用した「月刊GAMEST」1989年8月号49頁(異議申立人の提出した甲第1号証。以下「引用例2」という。)には、次のア〜カの記載又は図示がある。
ア.「アメリカの名門ATARI社からシミュレータに限りなく近いドライブゲームが出たぞ。3-Dのリアルさや、スピードの速さなどは一見の価値アリだ!!」(甲第1号証2葉目において、本文上段に横書きで記載されている部分)
イ.「アメリカのアタリ社(・・・)がドライブゲームを作り、大ヒットして日本にも上陸した。その名も“Hard Drivin’”(ハードドライビン)。」(同頁本文1段目1〜8行)
ウ.「操作についてですが、自車は、オートマチック車とマニュアル車が選べます。オートマチック車はギアを使わなくても変速してくれるのでアクセルとブレーキ以外は使いません。
マニュアル車は、ギアをかえる時にクラッチペダルを踏まないとギアが動かないようになっています。これはもうゲームというより、限り無くシミュレータに近いものがあります。」(同頁2段目左から6行〜3段目8行)
エ.「ハンドルは、自車のスピードに合わせて重くなったりするので要チェック。」(4段目4〜6行)
オ.「このゲームには一定のラップタイムがあり、そのタイムより早く走ると予選通過となり、チャンピオンシップへの権利を得ることができます。
チャンピオンシップでは、ライバルカー(当たり判定はなし)との競争になります。競争に勝つと、とりあえずゲームオーバーになりますが、今度のチャンピオンシップは、勝った人(ライバルカー)との勝負になります。走行ラインも狂いもなく再現されるので、参考にしたりできるでしょう。」(同頁4段目13〜27行)
カ.自車の計器とともに、自車からみた走行コースが表示されたいくつかの表示画面が図示されている。

同じく引用した「Hard Drivin’ Operator’s Manual」(異議申立人の提出した甲第3号証。以下「引用例3」という。)には、次のキ〜コの記載がある。
キ.「CopyrightマルC(実際の表記は登録商標を意味する○囲みのCである。)1989 by Atari Games Corporation」(甲第3号証2葉目左上欄1行)
ク.「「ハード・ドライビン」は、アーケードゲームのように見えるかも知れませんが、現実の車のようにドライブできます。」(1-4頁右欄19〜20行)
ケ.「技量のあるプレイヤは「チャレンジ」ラップで究極の対決(アタリ・ゲームでは「遺恨対決」と呼んでいます)を行えます。シミュレータは、記録に残っている最良のドライバがドライブした車の経路を覚えております。プレイヤが資格付与ラップタイムを打ち破ったとき、このプレイヤは、過去の勝者の車に一対一で挑戦することができます。」(1-5頁左欄7行〜右欄2行)
コ.「「ハード・ドライビン」は、連続フォース・フィードバック(決定注;特許異議申立人の提出した翻訳文には「ビードバック」とあるが誤記と認める。)を備えたセンターフィール・ステアリング、調節可能旋回シート、アクセル、ブレーキ、クラッチの諸ペダル、4速スティック・シフト、中解像度モニタを備えています。」(1-5頁右欄3〜6行)

2.公然実施発明の認定
引用例2,3は、いずれも本件優先日(1990年8月1日)前に、アメリカのアタリ社(Atari Games Corporation)により公然実施された“Hard Drivin’”(ハードドライビン)なる名称のアーケードゲーム(以下「公然実施発明」という。)についての説明である。
引用例2,3の上記記載のみからは、チャンピオンシップ(遺恨対決)において、ライバルカーの記録を破った際に、破った際の車の経路が新たなライバルカーの経路として記憶されることまでは直接的には認定できないが、そのようにしないのであれば、次にライバルカーとなるのが「記録に残っている最良のドライバがドライブした車」であることにはならないから、記憶が更新されると解すべきである。そのことは、株式会社テンゲンが発行した「ハードドライビン ゲームマニュアル」(特許異議申立人が提出した甲第4号証)に、「メガドライブ版HARD DRIVIN’は、この業務用HARD DRIVIN’のおもしろさを忠実に再現するとともに、家庭用ゲームとして皆様に、より楽しんでいただくための数々の工夫を凝らしています。」(5頁(甲第4号証3葉目右欄))及び「チャンピオンシップ チャンピオンと1対1で、スタントトラックでタイムを競います。・・・先にあなたがゴールすると勝ちで、新しいチャンピオンとなります。ハードドライビンでは、チャンピオンが通ったコースとスピードを覚えており、もし、あなたがチャンピオンになったら、次にチャンピオンシップをするときは、自分の過去の記録に挑戦することになります。」(7頁(甲第4号証4葉目右欄))と記載されていることからも頷ける。なお、株式会社テンゲンが上記ゲームを販売した時期がいつであるかは、公然実施発明の認定を左右しない。なぜなら、「業務用HARD DRIVIN’」は公然実施発明を指すと解され、株式会社テンゲンが販売したゲームは、これを家庭用ゲームに移植したものであるから、「チャンピオンシップ」についての上記記載は公然実施発明にも当てはまると推認できるからである。
したがって、公然実施発明は次のような特徴を有することを認めることができる。
・シミュレータに限りなく近いドライブゲームであること。
・ステアリング、アクセルペダル、ブレーキペダル、クラッチペダル、4速スティック・シフト及び中解像度モニタを備えること。
・自車の計器とともに、自車からみた走行コースが表示されること。
・3-Dのリアルさをもって表示されること。
・一定のラップタイムより早く走ると予選通過となり、チャンピオンシップへの権利を得ることができ、チャンピオンシップ(遺恨対決)では、ライバルカーの走行ラインが狂いもなく再現されること。
・記録に残っている最良のドライバがドライブした車の経路(以下「最良経路」という。)を記憶し、チャンピオンシップにおいて先にゴールすると、新たな最良経路として記憶されること。

3.本件発明1と公然実施発明との一致点及び相違点の認定
本件発明1は「運転者訓練システム」であり公然実施発明は「ドライブゲーム」であるが、共通して「シミュレーション装置を利用した運転シミュレーションシステム」ということができる。
公然実施発明の「ステアリング」、「アクセルペダル」、「ブレーキペダル」、「クラッチペダル」及び「4速スティック・シフト」は、本件発明1の「前記シミュレーション装置によりシミュレートされる乗物を制御する複数のシミュレーション入力装置」に相当する。
公然実施発明が「前記入力装置に応じて、前記シミュレーション環境における前記シミュレートされる乗物の位置情報を決定するモデリング手段」を有することは自明である。
公然実施発明では、最良経路(本件発明1の「前回の移動経路」に相当する。)を覚えているから、最良経路とともにその際のタイム又はそれに相当するパラメータを記憶する記憶手段を有している。さらに、チャンピオンシップでその記録を破れば、新たに最良経路となるのだから、「現在の移動経路」及びその際のタイム若しくはそれに相当するパラメータを記憶する記憶手段も有している。
ただし、公然実施発明において記憶されている「タイム又はそれに相当するパラメータ」が、それを最大にした際に最良経路となるようなパラメータであるとまでは認めることができない。そのため、引用発明の最良経路と本件発明1の「今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路」とは、「今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータに基づいて決定された移動経路」である点で一致する。
公然実施発明では、チャンピオンシップにおいて、自車からみた走行コースだけでなく、ライバルカーの走行ラインが再現されるのだから、「前記前回の移動経路と現在の移動経路とを前記ビデオ表示器に伝達する伝達手段」を備えている。
したがって、本件発明1と公然実施発明とは、
「シミュレーション装置を利用した運転シミュレーションシステムにおいて、
前記シミュレーション装置によりシミュレートされる乗物を制御する複数のシミュレーション入力装置と、
前記使用者の視界を構成するミュレーション環境を表示するビデオ表示器と、
前記入力装置に応じて、前記シミュレーション環境における前記シミュレートされる乗物の位置情報を決定するモデリング手段と、
前記シミュレーション環境を通る現在シミュレートされている乗物の前記位置情報を含む現在の移動経路を記憶し、前記シミュレーション環境を通った過去にシミュレートされた乗物の位置情報を含む前回の移動経路を記憶する記憶手段と、
前記前回の移動経路と現在の移動経路とを前記ビデオ表示器に伝達する伝達手段とを備え、
前記記憶手段は、前記現在及び前回の移動経路と共にその成績を示す少なくとも一つのパラメータを記憶し、
前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータに基づいて決定された移動経路である運転シミュレーションシステム。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点a〉本件発明1が「運転者訓練システム」であるのに対し、公然実施発明は「ドライブゲーム」である点。なお、この相違点は、本件発明1〜18,20,21と公然実施発明との共通相違点である。
〈相違点b〉「今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータに基づいて決定された移動経路」が、本件発明1では、今までシミュレートされた移動経路の内で、記憶手段に記憶された少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路」とされているのに対し、公然実施発明では記録に残っている最良のドライバがドライブした車の経路である点。

4.上記相違点についての判断及び本件発明1の進歩性の判断
(1)相違点aについて
公然実施発明はシミュレータに限りなく近いドライブゲーム(シミュレーションゲームの1つ)であるから、公然実施発明はゲームとして楽しむだけでなく、運転訓練にも利用できるものである。
そうである以上、相違点aは単に利用形態の認識の相違にすぎず、実質的な相違であるということはできない。
以下、本件発明2〜18,20,21に係る発明の新規性又は進歩性を検討するに当たっては、「運転者訓練システム」であるか「ドライブゲーム」であるかは、相違点として扱わない。
(2)相違点bについて
「第3 6」で述べたと同様の理由により、当業者にとって想到容易である。
(3)本件発明1の進歩性の判断
相違点a,bは実質的相違でないか、当業者にとって想到容易な相違点でしかなく、これら相違点に係る構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本件発明1は公然実施発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

5.本件発明2〜4の進歩性の判断
本件発明2は本件発明1を「前記入力装置はアクセルペダルとブレーキペダルとステアリングホイールとを備える」と限定し、本件発明3は本件発明2を「前記入力装置はギアシフトを更に備える」と限定し、本件発明4は本件発明3を「前記入力装置はクラッチペダルを更に備える」と限定するものである。
しかし、公然実施発明はこれら限定事項を備えているから、これら限定事項は本件発明2〜4と公然実施発明との相違点を生じさせるものではない。
したがって、本件発明2〜4も公然実施発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

6.本件発明7の新規性の判断
公然実施発明が「現実の乗物の制御を模擬する複数のシミュレーション制御器」及び「シミュレーション制御器に応じて、現在シミュレートされている乗物と前回シミュレートされた乗物とを含む使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を発生するプロセッサ」を有すること、並びに公然実施発明の「中解像度モニタ」が「使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を提供する」ことは自明である。
4.で述べたことの多くは、本件発明7と公然実施発明との対比にも当てはまる。本件発明7は本件発明1とは、「前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路である」点では一致するものの、そのパラメータが記憶手段に記憶されているかどうか(本件発明1では記憶されているが、本件発明7にはその限定がない。)の点で異なるため、4.で述べた相違点bが本件発明7と公然実施発明との相違点となるかどうかは改めて検討しなければならない。公然実施発明の最良経路は走行時間をパラメータとした場合には、そのパラメータを最小にしてシミュレーション環境を通った移動経路であるが、走行時間に代えて走行速度をパラメータとした場合には、そのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路である。そして、最大にすべきパラメータが記憶されているかどうかは本件発明7の構成要件とされていないのであるから、公然実施発明の最良経路は、本件発明7の「前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路」と異ならない。
したがって、本件発明7と公然実施発明とは、
「現実の乗物の制御を模擬する複数のシミュレーション制御器と、
使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を提供するビデオ表示器と、
前記シミュレーション制御器に応じて、現在シミュレートされている乗物と前回シミュレートされた乗物とを含む使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を発生するプロセッサと、
前記シミュレーション環境を通る現在シミュレートされている乗物の位置情報を含む現在の移動経路を記憶し、前記シミュレーション環境を通った過去にシミュレートされた乗物の位置情報を含む前回の移動経路を記憶する記憶手段とを備え、
前記記憶手段によって記憶された前記前回の移動経路は、今までシミュレートされた移動経路の内で、少なくとも一つのパラメータを最大にしてシミュレーション環境を通った移動経路である運転者訓練システム。」である点で一致し、両者に相違点は存在しない。すなわち、本件発明7は公然実施発明そのものであり、特許法29条1項3号に該当する発明である。

7.本件発明8の進歩性の判断
公然実施発明が、最良経路及びその際のタイム若しくはそれに相当するパラメータ、並びに現在の移動経路及びその際のタイム若しくはそれに相当するパラメータを記憶する記憶手段を有していることは、3.で述べたとおりであり、これらをそれぞれ記憶する領域は、本件発明8の「現在のバッファ」及び「前回のバッファ」に相当する。仮に、「現在のバッファと前回のバッファを有する」との文言が、単一記憶手段の個別領域として確保されているのではなく、別個の記憶手段であるとの趣旨であるとすれば、相違点になるけれども、設計事項程度の軽微な相違であり、実質的相違点とするほどのものではない。
また、公然実施発明においては、チャンピオンシップにおいて最良経路よりもよい記録をだすと、新たな最良経路となるのだから、本件発明8の「現在の移動経路についてのパラメータと、前回の移動経路についてのパラメータとを比較する比較手段」及び「比較手段は現在の移動経路についてのパラメータと前記前回の移動経路についてのパラメータとを比較して、前記比較の結果選択された移動経路を最良の移動経路とし、」との構成を有し、最良経路の最良経路及びその際のタイム若しくはそれに相当するパラメータは更新される。そして、本件発明8の「選択された前記最良の移動経路が現在の移動経路である場合、前記前回のバッファが選択された前記最良の移動経路とそのパラメータで上書きされる」ことは、移動経路とそのパラメータが更新されることの一態様であるから、「選択された前記最良の移動経路が現在の移動経路である場合、前記最良の移動経路とそのパラメータが更新される」点で、本件発明8と公然実施発明は一致する。
したがって、本件発明8と公然実施発明とは、
「シミュレーション装置を利用した運転者訓練システムにおいて、
前記シミュレーション装置においてシミュレートされる乗物を制御する複数のシミュレーション入力装置と、
使用者の視界を構成するシミュレーション環境を表示するビデオ表示器と、
前記入力装置に応じて、前記シミュレーション環境における前記シミュレートされる乗物の位置情報を決定するモデリング手段と、
現在のバッファと前回のバッファを有する記憶手段と、
現在の移動経路についてのパラメータと、前回の移動経路についてのパラメータとを比較する比較手段と、
前記前回の移動経路と前記現在の移動経路とをビデオ表示器に伝達する伝達手段とを有する運転者訓練システムであって、
前記記憶手段は、前記シミュレーション環境を通る現在シミュレートされる乗物の位置情報を含む現在の移動経路とその成績を示す少なくとも一つのパラメータとを前記現在のバッファに記憶し、前記シミュレーション環境を通った過去にシミュレートされた乗物の位置情報を含む前回の移動経路とその成績を示す少なくとも一つのパラメータとを前記前回のバッファに記憶し、
比較手段は現在の移動経路についてのパラメータと前記前回の移動経路についてのパラメータとを比較して、前記比較の結果選択された移動経路を最良の移動経路とし、
選択された前記最良の移動経路が現在の移動経路である場合、前記最良の移動経路とそのパラメータが更新される運転者訓練システム。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点〉最良の移動経路とそのパラメータの更新につき、本件発明8では「前記前回のバッファが選択された前記最良の移動経路とそのパラメータで上書きされる」のに対し、公然実施発明では上書きされるのかどうか明らかでない点。
この相違点について検討するに、公然実施発明において、記録が更新された際に、それまでの最良経路及びその際のタイム若しくはそれに相当するパラメータを記憶し続けなければならない理由はない。そうであれば、記録更新時に最良経路及びその際のタイム若しくはそれに相当するパラメータを前回のバッファに上書きすることは設計事項というべきである。
すなわち、本件発明8は公然実施発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

8.本件発明9〜11の進歩性の判断
本件発明9は本件発明8を「前記入力装置はアクセルペダルとブレーキペダルとステアリングホイールとを備える」と限定し、本件発明10は本件発明9を「前記入力装置はギアシフトを更に備える」と限定し、本件発明11は本件発明10を「前記入力装置はクラッチペダルを更に備える」と限定するものである。
しかし、公然実施発明はこれら限定事項を備えているから、これら限定事項は本件発明9〜11と公然実施発明との相違点を生じさせるものではない。
したがって、本件発明9〜11も公然実施発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

8.本件発明6,13の進歩性の判断
本件発明6は本件発明1を、本件発明13は本件発明8をそれぞれ、「記憶手段からの信号を受信するスピーカーを更に備える」と限定するものである。公然実施発明がスピーカーを備えているかどうか明らかでないけれども、ゲームあるいはシミュレーションシステムにおいては、ゲーム中あるいはシミュレーション実行中に、例えばBGMを流すことは普通に行われている。そうである以上、公然実施発明において、記憶手段にBGMを記憶しておき、これを運転訓練中に流すことは設計事項というべきである、それは上記限定事項に係る本件発明6,13の構成を採用することでもある。
したがって、本件発明6,13は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

9.本件発明14の新規性の判断
公然実施発明における最良経路及びその際のタイム若しくはそれに相当するパラメータは、本件発明14の「予め選択された最高化基準に従って今までシミュレートされた移動経路の中で、少なくとも一つのパラメータを最高にしてシミュレーション環境を通った前回の移動経路とそのパラメータ」と異ならない。公然実施発明のチャンピオンシップにおいて、先にゴールすると新たな最良経路として記憶されることことは、本件発明14でいう「シミュレートされている現在の移動経路についてのパラメータが最高化基準を満たすならば、現在の移動経路は前記前回のバッファに記憶された前記前回の移動経路に置き換わって記憶される」ことと異ならない。
したがって、本件発明14と公然実施発明とは、
「現実の乗物の制御を模擬する複数のシミュレーション制御器と、
ビデオ表示器と、
シミュレートされている乗物と前回シミュレートされた乗物とを有するシミュレーション環境を発生するプロセッサと、
使用者ごとの操作に応じたシミュレーション環境を、前記使用者への提供のために前記ビデオ表示器に伝達する伝達手段と、
前記前回の移動経路とパラメータと記憶する前回のバッファと、
前記前回のバッファに含まれる前記前回の移動経路のパラメータと現在の移動経路のパラメータとを比較する比較手段と、
前回シミュレートされた乗物は、予め選択された最高化基準に従って今までシミュレートされた移動経路の中で、少なくとも一つのパラメータを最高にしてシミュレーション環境を通った前回の移動経路とそのパラメータとの記録であり、
シミュレートされている現在の移動経路についてのパラメータが最高化基準を満たすならば、現在の移動経路は前記前回のバッファに記憶された前記前回の移動経路に置き換わって記憶される運転者訓練システム。」である点で一致し、両者に相違点は存在しない。すなわち、本件発明14は公然実施発明そのものであり、特許法29条1項3号に該当する発明である。

10.本件発明15〜18の新規性の判断
本件発明15は本件発明14を「前記パラメータは移動経路を走行した時間であり、前記最高化基準は移動経路を走行した最小時間である」と、本件発明16は本件発明14を「シミュレートされる乗物は道路上を移動する乗物である」と、本件発明17は本件発明14を「シミュレーション環境は三次元グラフィック表示を有する」と、本件発明18は本件発明14を「プロセッサは乗物の位置情報を決定するモデルプロセスを有する」と、それぞれ限定するものである。
しかし、公然実施発明がこれら限定事項を備えることは明らかであるから、れら限定事項によって本件発明15〜18と公然実施発明との相違点は生じない。
したがって、本件発明15〜18は公然実施発明そのものであり、特許法29条1項3号に該当する。

11.本件発明19の進歩性の判断
(1)本件発明19と公然実施された発明との一致点及び相違点の認定
請求項19には「第3 3」で述べた記載不備があるため、(g)の「前回の移動経路を示す乗物」は、「前回までの最良の移動経路を示す乗物」の趣旨であり、「複数時間」は「複数回」の誤記であるとして、本件発明19の進歩性について検討する。
公然実施発明と本件発明19とは、発明のカテゴリが異なるため、公然実施発明を使用する方法(以下「公然実施方法発明」という。)と本件発明19を対比する。
「運転者訓練システム」であるか「ドライブゲーム」であるかを、相違点として扱わないことは、4(1)で述べたとおりである。それと同様に、「運転者訓練システム」を使用する方法(運転者訓練方法)とドライブゲームを使用する方法も実質的に相違しない(訓練に重きををおけば運転者訓練方法といえるし、ゲームに重きを置けばゲーム方法であろうが、単に認識の相違の問題であると同時に、ゲーム方法であっても、訓練にならないというわけではないから、両者を実質的に区別することはできない。)。
公然実施方法発明が「プロセッサと、一組の入力装置と、シミュレーション環境を表示する表示手段とを備える乗物をシミュレートするためのシステムにおいて実行される運転者訓練方法」であること、「(a)コンピュータプログラムによって、入力装置からプロセッサへ乗物の位置の変化を示す信号を受信するステップ」を実行すること、「(b)プロセッサで、前回の位置情報と信号で示される変化とに基づいて、シミュレートされる乗物の位置情報を計算するステップ」を実行することは自明である。
公然実施発明では最良経路を記憶し、現在の移動経路がその後最良経路となる可能性があるのだから、現在の移動経路も記憶しなければならない。したがって、公然実施方法発明が「(c)プロセッサに、シミュレーション環境を通る現在の移動経路を示す一連の位置情報を記憶するステップ」及び「(d)プロセッサで、現在の移動経路に関する少なくとも一つのパラメータを測定するステップ」を実行することは明らかである。
本件発明19の「(e)プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路であり、その後の最良の移動経路は現在の移動経路のパラメータとの比較によって選択する、最良の移動経路を選択するステップ」との文言は必ずしも明確ではないが、「初期化後」とは1回目のシミュレーション時の意味であり、「最良の移動経路を選択」するには比較対象となる2つの移動経路が必要であることから、「初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路であり」とは、1回目のシミュレーション時の現在の移動経路は必ず2回目の最良の移動経路に選択されることを意味し、同じく「その後の最良の移動経路は現在の移動経路のパラメータとの比較によって選択する」とは、2回目以降のシミュレーション時の現在の移動経路はそれまでの最良の移動経路とのパラメータ比較により、パラメータが優れている方が次回の最良の移動経路に選択されることを意味すると解すべきである。同解釈に従えば、公然実施方法発明が(e)のうちの「最良の移動経路は現在の移動経路のパラメータとの比較によって選択する、最良の移動経路を選択するステップ」及び「(f)プロセッサーに、前記比較の結果に従って選択された移動経路を最良の移動経路として記憶するステップ」を実行することは認めることができるが、「(e)プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路」であることは認めることができない。なぜなら、チャンピオンシップへの権利を得るためには、一定のラップタイムより早く走ることが条件となっているから、1回目のシミュレーション時の記録が悪ければ、その時の現在の移動経路が2回目の最良の移動経路に選択されるとは限らないからである。
公然実施発明では、ライバルカー(最良経路を記録した車)の走行ラインが再現されるのであるから、公然実施方法発明が「(g)表示手段により、現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と前回の移動経路を示す乗物とを同時に表示するステップ」を実行することは明らかである。
したがって、本件発明19と公然実施方法発明とは、
「プロセッサと、一組の入力装置と、シミュレーション環境を表示する表示手段とを備える乗物をシミュレートするためのシステムにおいて実行される運転者訓練方法であって、
(a)コンピュータプログラムによって、入力装置からプロセッサへ乗物の位置の変化を示す信号を受信するステップと、
(b)プロセッサで、前回の位置情報と信号で示される変化とに基づいて、シミュレートされる乗物の位置情報を計算するステップと
(c)プロセッサに、シミュレーション環境を通る現在の移動経路を示す一連の位置情報を記憶するステップと、
(d)プロセッサで、現在の移動経路に関する少なくとも一つのパラメータを測定するステップと、
(e)プロセッサで、最良の移動経路は現在の移動経路のパラメータとの比較によって選択する、最良の移動経路を選択するステップと、
(f)プロセッサーに、前記比較の結果に従って選択された移動経路を最良の移動経路として記憶するステップと、
(g)表示手段により、現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と前回の移動経路を示す乗物とを同時に表示するステップとを実行する運転者訓練方法。」である点で一致し、次の各点で相違する。
〈相違点c〉本件発明19が「プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路」とされるステップを実行するのに対し、公然実施方法発明は同ステップを実行するとはいえない点。
〈相違点d〉本件発明19が「ステップ(a)から(g)を複数回繰り返すステップとを実行する」のに対し、公然実施方法発明は同ステップを実行するとはいえない点。

(2)相違点cについての判断
公然実施発明は、チャンピオンシップの条件として一定のラップタイムより早く走ることを課しており、ゲーム性に重きをおいた場合には、プレイヤの興趣を喚起し、顧客吸引力という点で有効かもしれない。しかし、アーケードゲームが運転訓練にも使用できることは、常識といえることがらであり(引用例2,3にもそのことを窺わせる記載がある。)、運転訓練に重きをおいた場合には、運転訓練システムとしてより有効となるような改変を当業者であれば試みるべきである。
ところで、運転訓練に限らずおよそ訓練一般においては、自己記録更新を目標とすることが多いことは周知の事実である。そして、公然実施方法発明のチャンピオンシップではチャンピオンよりも速く走行することを目標として、「現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と前回の移動経路(最良経路)を示す乗物とを同時に表示する」のであるが、目標とするものが自己記録更新であれば、現在の移動経路を示す計算された各々の位置でのシミュレーション環境と同時に表示すべきは、自己最高記録を示す乗物である。そうである以上、自己最高記録を示した際の移動経路は、その記録が一定のラップタイムを上回るかどうかに関係なく、目標とすべき移動経路としてタイム(パラメータ)とともに、記憶しなければならない。そして、1回目のシミュレーションの際の移動経路は、2回目シミュレーション時での自己最高記録となるのだから、公然実施方法発明を「プロセッサで、初期化後の最良の移動経路は現在の移動経路」とされるステップを実行するように、すなわち相違点cに係る本件発明19の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(3)相違点dについて
訓練一般において、繰り返しが技量向上の上で有効であることは広く知られたことがらである。そうである以上、公然実施方法発明を繰り返すことは当業者にとって想到容易であり、相違点cに係る本件発明19の構成を採用した上で、公然実施方法発明を繰り返すことは相違点dに係る本件発明19の構成を採用することにほかならない。
したがって、相違点dに係る本件発明19の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(4)本件発明19の進歩性の判断
相違点c及び相違点dに係る本件発明19の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本件発明19は公然実施方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

12.本件発明21の新規性の判断
請求項21には「第3 3」で述べた記載不備がある。そこで、請求項21が引用する請求項7の「少なくとも一つのパラメータを最大にして」が「少なくとも一つのパラメータを最良にして」の誤記であると解する。
請求項21は、上記解釈のもとで請求項7に係る発明に「前記パラメータはシミュレーション環境を走行する経過時間である」との限定を加えたものであるが、公然実施発明の最良経路は、まさに「シミュレーション環境を走行する経過時間」を最良とする移動経路であるから、上記限定によって相違点は生じない。
すなわち、本件発明21は公然実施発明そのものであるから、特許法29条1項3号に該当する。

13.予備的判断
本件訂正を認めることができないことは既に述べたとおりである。ところで、訂正事項1の「前記シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、前記少なくとも1つのパラメータと前記シミュレートされた乗物の位置情報とが前記パラメータを最大にすることなく前記前回の移動経路として記憶されており」を「1回目のシミュレーション時の前記少なくとも1つのパラメータが、前記前回の移動経路のパラメータとして記憶されているパラメータを上回るように、前記前回の移動経路のパラメータが設定されている」の趣旨である(前回の移動経路まで記憶しているのではない)と解し、並びに訂正事項3のの「前記シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、前記少なくとも1つのパラメータと前記現在シミュレートされている乗物の位置情報とが前記パラメータを最大にすることなく前記前回の移動経路として記憶されており」、訂正事項4の「前記シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、前記少なくとも1つのパラメータと前記現在シミュレートされている乗物の位置情報とが前記パラメータを最大にすることなく前記前回のバッファに記憶されており」及び訂正事項6の「前記シミュレーション環境を通る初期の移動経路においては、前記少なくとも1つのパラメータと前記現在シミュレートされている乗物の位置情報とが前記パラメータを最高にすることなく前記前回のバッファに記憶されており」については、「1回目シミュレーション時の少なくとも1つパラメータがいくらであっても、1回目シミュレーション時の移動経路が2回目シミュレーション時の「前回の移動経路」となるとの趣旨であると解した上で、本件訂正後の請求項1〜17に係る発明(以下「訂正発明1〜17」という。)についての判断をしておく。
そうすると、訂正事項3,4,6は、発明のカテゴリーこそ異なるものの、11.で「相違点c」として認定したものと実質的に同じことがらである。そうである以上、訂正事項3,4,6が認められるとしても、11(2)で述べたと同様の理由により、当業者にとって想到容易な相違点が生じるにすぎないから、新規性だけでなく進歩性を肯定しなければならなくなるほどの訂正事項ではない。
訂正事項1は、それに加えて、前回の移動経路のパラメータの初期設定値に限定を加えるものであるが、1回目シミュレーション時の移動経路を必ず2回目の「前回の移動経路」とする以上、1回目シミュレーション時のパラメータが必ず初期設定値を上回るように、初期設定値を選んでおくことには何の困難性もない。
また、訂正事項7の「以下の(a)から(g)のステップが繰り返して実行され、現在の繰り返し段階で計算され記憶される一連の位置情報が含まれる移動経路と、現在の繰り返し段階より前の繰り返し段階である過去の繰り返し段階で計算され記憶された一連の位置情報が含まれる移動経路のうちその成績を示す少なくとも1つのパラーメータを最良にするものと、を比較する運転者訓練方法」について、特許権者は運転訓練方法を限定的に減縮すると主張するが、実質的には訂正前請求項19に記載された事項を重複して記載したにすぎない。すなわち訂正発明15は訂正前の請求項19に係る発明と実質的に同一であるから、新たな判断をするまでもなく、公然実施方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
訂正事項8によっても、訂正後請求項16に「(h)手段(a)から(g)を複数回繰り返す手段」との記載は残存しており、この記載の意味を理解できないことは、「第3 3(3)」で述べたとおりであるから、訂正後請求項16の記載は特許法36条5項に規定する要件を満たしていない。仮に、訂正後請求項16を意味あるものとして理解できるとしても、訂正後請求項15と訂正後請求項16は、その記載上カテゴリが相違するだけであり、訂正発明15に進歩性がない以上、訂正発明16に進歩性があると理解することは到底できない。
したがって、訂正発明1〜14は公然実施発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正発明15は公然実施方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正後の請求項16,17の記載は特許法36条5項に規定する要件を満たしておらず、訂正後の請求項16,17の記載を善解すると、訂正発明16,17に進歩性はない。

第5 むすび
以上のとおり、請求項5,12,19〜21の記載は特許法36条5項に規定する要件を満たしておらず、本件発明1〜4,6〜11,13〜18は引用発明又は公然実施発明と同一であるか又は引用発明若しくは公然実施発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項19の記載不備を善解すれば本件発明19は引用方法発明と同一であるか又は公然実施方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明21についての誤記を善解すれば本件発明21は引用発明又は公然実施発明と同一であるから、本件発明1〜4,6〜11,13〜21は特許法29条1項(2号又は3号該当)又は2項の規定により特許を受けることができない。
すなわち、請求項1〜21に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされた特許である。よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令205号)4条2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-09-07 
出願番号 特願平3-514136
審決分類 P 1 651・ 03- ZB (A63F)
P 1 651・ 121- ZB (A63F)
P 1 651・ 534- ZB (A63F)
P 1 651・ 532- ZB (A63F)
P 1 651・ 113- ZB (A63F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 ▲吉▼川 康史  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 砂川 克
谷山 稔男
登録日 2003-08-22 
登録番号 特許第3463065号(P3463065)
権利者 ミッドウェイ ゲームズ ウエスト インコーポレイテッド
発明の名称 運転者訓練システム  
代理人 松倉 秀実  
代理人 川口 嘉之  
代理人 遠山 勉  
代理人 佐藤 宗徳  
代理人 永田 豊  
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