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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61H
管理番号 1132284
審判番号 無効2004-80055  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-02-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-05-11 
確定日 2006-03-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第3121727号発明「椅子式エアーマッサージ機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第3121727号(平成6年8月17日出願、平成12年10月20日設定登録。)の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「圧搾空気の給排気に伴って膨縮し、膨脹時に使用者を押上げる座部用袋体が配設された座部、及びこの座部の後部に所定の傾斜角度をもって設けられた背もたれ部とを有する椅子本体と、前記座部の前部に設けられ、かつ、圧搾空気の給排気に伴って膨縮し、膨脹時に使用者の脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置部と、圧搾空気を供給する圧搾空気供給手段と、この圧搾空気供給手段からの圧搾空気を給排気管を介して前記各袋体に分配して供給する分配手段と、前記座部用袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて前記脚用袋体への給排気を行う動作モードを含む複数の動作モードを入力する入力手段と、この入力手段から前記動作モードの中から所望の動作モードが入力されたときこの動作モードに応じて前記袋体への給排気を行うように前記圧搾空気供給手段及び分配手段を制御する制御手段とを備え、前記座部用袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて前記脚用袋体への給排気を行う動作モードにおいて、前記脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態で、前記座部用袋体が使用者を押上げるように膨脹することを特徴とする椅子式エアーマッサージ機。」

2.請求人の主張
これに対して、請求人は、甲第1号証ないし甲第34号証を提出すると共に、次の理由を挙げて、本件発明の特許は特許法第123条第1項第2号により無効とすべきものである旨主張している。
(1)本件発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(以下、「無効理由a」という。)
(2)本件発明は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(以下、「無効理由b」という。)
(3)本件発明は、甲第2号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(以下、「無効理由c」という。)
(4)本件発明は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(以下、「無効理由d」という。)

3.被請求人の主張
一方、被請求人は、乙第1号証を提出すると共に、請求人のこれらの主張は、全く当を得ておらず、本件発明は、当該主張による理由によって容易に発明できたものとはいえず、特許法第123条第1項第2号によって無効にされるべきものではない旨主張している。

4.甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証
(1)甲第2号証(特公昭44-13638号公報)には、「指圧装置」に関し、第1図〜第9図と共に、以下の事項が記載されている。
・「従来、わが国においては古来より按摩およびマッサージとして特別の技能と経験を有する技術者による手技の指圧療法が盛んに行われてきたものであった」(1頁左欄28〜31行)
・「1は背凭れ部2、腰掛部3、肘掛部4それに首筋当部5より構成される安楽椅子で腰掛部3の下部には空気圧発生装置6が内装されている。」(1頁右欄18〜21行)
・「空気圧発生装置6には空気圧縮機7とこれを駆動するモーター8があり、」(1頁右欄27〜28行)
・「各ポートは接続ホース26によって椅子1の各部内に内装された多数の各蛇腹状の伸縮筒27に連接されている。」(2頁左欄19〜21行)
・「各蛇腹状の伸縮筒27の上端には硬質ゴム製の指圧頭部29が取り付けられている。」(2頁左欄26〜27行)
・「手元スイッチ32を入れるとモーター8が回転し、Vベルト10を介して空気圧縮機7が駆動され圧縮空気を圧力タンク16へ送り込む。」(2頁左欄37〜39行)
・「分給回転バルブ19の回転子20を緩かに低速・・・回転させる。そこで圧力タンク16からの圧縮空気は最初にa1〜a4のポートから各伸縮筒27へ送り込まれ続いてb1〜b4ポート、c1〜c4ポート、d1〜d4ポート、e1〜e4ポートそしてf1〜f4ポートへ漸次回転子20の給入孔24が連通するから椅子1の各部の蛇腹状伸縮筒27へ圧縮空気は逐次分配されて送り込まれて行くのである。」(2頁左欄43行〜右欄6行)
・「蛇腹状伸縮筒27は第8図参考図に見られるように・・・指圧の急所と言われている個所を参考にして・・・大腿部から脚にかけて24点・・・が椅子1に適当に配設されている。」(2頁右欄30〜36行)
・「なお本発明指圧装置においては蛇腹状伸縮筒27内の圧力と、その伸縮回数も必要に応じて調節し得るもので、両者の相互調節によって、強くゆっくりと、強く速く、弱くゆっくりと、そして弱く速くなど使用者の好みに応じた指圧感を求めることもできる。」(3頁左欄9〜14行)
・また、第1〜4図には、腰掛部3の座面、及び、腰掛部3の前部に配置され肘掛部4で左右が仕切られた脚載置部の肘掛部4の内壁面に、それぞれ複数の蛇腹状伸縮筒27が配設されている構成、腰掛部3の後部に背凭れ部2が所定の傾斜角度をもって設けられている構成が示され、第8図には、大腿部から脚にかけて24点の指圧の急所と言われている個所がa〜fの符号で示されている。

上記の記載事項及び図示内容を総合すると、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
「上端に指圧頭部29が取り付けられ、圧縮空気が送り込まれる複数の蛇腹状伸縮筒27を有する指圧装置であって、該蛇腹状伸縮筒27が配設された腰掛部3、腰掛部3の前部に配置され肘掛部4の内壁面に該蛇腹状伸縮筒27が配設された脚載置部、及び腰掛部3の後部に所定の傾斜角度をもって設けられた背凭れ部2とを有する安楽椅子1と、圧縮空気を送り込む空気圧縮機7と、この空気圧縮機7からの圧縮空気を接続ホース26を介して前記各蛇腹状伸縮筒27に逐次分配して送り込む分給回転バルブ19と、蛇腹状伸縮筒27内の圧力と伸縮回数を調節する手段とを備える指圧装置。」

(2)甲第3号証(意匠登録第296760号公報)には、座部及びこの座部の後部に所定の傾斜角度をもって設けられた背もたれ部を有する椅子本体と、前記座部の前部に設けられかつ使用者の左右の脚部をそれぞれその両側及び後側から包囲する凹状の脚載置部と、指圧子と、を備えた指圧椅子が記載されている。

(3)甲第5号証(「ナショナルエアーマッサーあしラーク」のパンフレット)には、着脱式の複数の空気袋体からなり、ふくらはぎ部に装着された空気袋体に圧搾空気が供給されてふくらはぎを圧迫した後に、太もも部に装着された空気袋体に圧搾空気が供給されて太ももを圧迫するエアーマッサージ機が記載されている。

5.当審の判断
(1)無効理由dについて
まず、無効理由dについて検討する。
ところで、本件特許明細書の段落【0011】の「そして、前記脚載置部12の両側には側壁12a、12bが設けられてており、この両側壁12a、12bの中間部には中間壁12cが設けられている。そして、前記側壁12aと中間壁12cおよび側壁12bと中間壁12cとの間にはこれら各側壁12a〜12cにより略U字状の溝12d、12eが形成され、この溝12d、12eは脚のふくらはぎの部分を支持するようになっている。」なる記載、段落【0012】の「前記側壁12aと中間壁12cの互いに対向する側壁および側壁12bと中間壁12cの互いに対向する側壁には、それぞれ前記溝12d、12eに載せられた脚のふくらはぎの部分をマッサージするための上記した各袋体と同様の材質からなる脚用袋体15a、15bおよび16a、16bが配設されている。そして、これら脚用袋体15a、15bおよび16a、16bは、圧搾空気が供給され膨脹したとき脚部のふくらはぎ部分を両側から包み込むような大きさとした偏平形状に形成されている。」なる記載、及び、段落【0027】の「この様に腿用袋体4および尻用袋体5への圧搾空気の供給と前記脚用袋体15aないし16bへの圧搾空気の供給が同時になされることにより、腿用袋体4および尻用袋体5が膨脹し腿部あるいは尻部を押圧しながら身体を上方に押し上げるが、このとき脚用袋体15aないし16bも同時に膨脹し脚用袋体15aないし16bの間に位置する脚部は膨脹した脚用袋体15aないし16bによって両側から包み込まれるようにして挾持され押さえられるために腿部あるいは尻部の上方への押上げに伴って脚部ないし腿分等の筋肉は引き伸ばされ、つまりストレッチされるので効果的な筋肉疲労の解消が図れるのである。」なる記載によれば、本件発明において、「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態」とは、「袋体の膨張により使用者の脚部を両側から挟持した状態」を意味することは明らかである。
上記の点を踏まえて本件発明と甲第2号証発明とを比較すると、甲第2号証発明は、少なくとも本件発明の「座部用袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて脚用袋体への給排気を行う動作モードにおいて、前記脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態で、前記座部用袋体が使用者を押上げるように膨脹する」態様構成を備えておらず、また、甲第2号証には、上記態様構成を示唆する記載もない。さらに、上記態様構成は、甲第3号証及び甲第5号証にも開示されていないものである。
そして、本件発明は、かかる態様構成により、「腿部および尻部の筋肉は引き伸ばされることになり、ストレッチされつつ同時にマッサージがなされる」という明細書に記載の効果を奏するものである。
確かに、甲第2号証発明は、「上端に指圧頭部29が取り付けられ、圧縮空気が送り込まれる複数の蛇腹状伸縮筒27」、「該蛇腹状伸縮筒27が配設された腰掛部3」及び「肘掛部4の内壁面に該蛇腹状伸縮筒27が配設された脚載置部」を備えており、一方、マッサージ装置において、指圧頭部付きの蛇腹状伸縮筒を用いたタイプと袋体を用いたタイプの双方共に周知のものであるから、「蛇腹状伸縮筒」と「袋体」の一方を他方で置換すること自体は当業者が必要に応じて適宜なし得ることと認められるが、仮に、甲第2号証発明において、肘掛部4の内壁面に配設された「蛇腹状伸縮筒27」を「袋体」で置換したとしても、該置換した袋体は、単に、右脚の右外側部分と、左脚の左外側部分とに配設されているだけのものとなり、本件発明の実施例における中間壁もないから、「袋体の膨張により使用者の脚部を両側から挟持した状態」になり得ないものである。
また、甲第2号証発明は、複数の蛇腹状伸縮筒27に圧縮空気を逐次分配するようにしたものであるが、該蛇腹状伸縮筒27により、甲第2号証の第8図の如く大腿部から脚にかけてa〜fの符号で示された指圧の急所を、当該符号の順に逐次押圧する実施例のみならず押圧順を適宜変更したものを考慮しても、各指圧の急所が異なるタイミングで押圧されるにとどまり、腿部又は尻部の筋肉が引き伸ばされることにならないのは明らかである。
したがって、甲第2号証発明は、ストレッチ効果を奏するための上記態様構成を開示するものとは到底いえない。
つぎに、甲第3号証には、使用者の左右の脚部をそれぞれその両側及び後側から包囲する凹状の脚載置部を有する指圧椅子が記載されており、仮に、この脚載置部の両側内面に袋体を配設するように改変した場合には、「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態」になり得ると解されるものの、このものは、座部用袋体を備えておらず、したがって、ストレッチ効果を奏するための上記態様構成が全く考慮されていないことは明らかである。
さらに、甲第5号証には、ふくらはぎ部に装着された空気袋体に圧搾空気が供給されてふくらはぎを圧迫した後に、太もも部に装着された空気袋体に圧搾空気が供給されて太ももを圧迫するエアーマッサージ機が記載されてはいるが、このものは、単に、空気袋体の膨張により、ふくらはぎ部から太もも部へ順次加圧を行うだけのものであり、ストレッチ効果を奏するための上記態様構成とは全く無関係のものである。
本件発明は、「腿部を含む脚部、尻部の筋肉をストレッチしつつマッサージをする」ことを課題として、「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態で、前記座部用袋体が使用者を押上げるように膨脹する」構成要件を採用することにより、「座部用袋体が膨脹して身体が上方に持ち上げられるとき、膨脹した脚用袋体によって使用者の脚部はその両側から挟持されているので、腿部および尻部の筋肉は引き伸ばされることになり、ストレッチされつつ同時にマッサージがなされるという効果を奏する」ものであり、このような課題や作用効果について開示のない甲第2号証、甲第3号証に基いて、当業者といえども、「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態」とする構成を想到することは困難であり、まして、「脚用袋体が膨脹して使用者の脚部を挟持した状態で、前記座部用袋体が使用者を押上げるように膨脹する」構成を想到することはさらに困難である。
また、単に装着式の複数の袋体からなるマッサージ機を開示する甲第5号証をあわせて検討しても、前記構成を想到することが困難であることに変わりはない。
なお、請求人が提出した他の証拠を参酌しても、上記態様構成が周知技術であると解するに足る証拠は見出せない。
そうすると、本件発明が、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証に記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
したがって、無効理由dには理由がない。

(2)無効理由aないしcについて
つぎに、無効理由aないしcについて検討する。
上記(1)で検討したように、本件発明が、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証に記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない以上、本件発明が、甲第2号証に記載の発明及び周知技術に基いて、あるいは、甲第2号証、甲第3号証に記載の発明及び周知技術に基いて、さらには、甲第2号証、甲第5号証に記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないのは明らかである。
したがって、無効理由aないしcにも理由がない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定を適用する。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-09-14 
結審通知日 2004-09-15 
審決日 2004-09-28 
出願番号 特願平6-193027
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61H)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 平上 悦司
内藤 真徳
登録日 2000-10-20 
登録番号 特許第3121727号(P3121727)
発明の名称 椅子式エアーマッサージ機  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 飯塚 暁夫  
代理人 河野 哲  
代理人 尾崎 英男  
代理人 峰 隆司  
代理人 角田 嘉宏  

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