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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G03G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G03G |
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管理番号 | 1132576 |
異議申立番号 | 異議2003-73871 |
総通号数 | 76 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-09-09 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-26 |
確定日 | 2006-01-10 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3471873号「画像形成方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3471873号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件特許第3471873号の請求項1ないし4係る発明は、平成5年12月27日(優先権主張 平成4年12月28日)に特許出願され、平成15年9月12日に設定登録がなされ、その後、吉田春男より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年8月1日に訂正請求がなされたものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 本件訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、訂正の内容は次のとおりである。 (a)特許請求の範囲の請求項1における「該感光層が電荷発生物質としてのオキシチタニウムフタロシアニン及び電荷輸送物質を含有し、」の記載を、「該感光層が電荷発生物質としてのオキシチタニウムフタロシアニン及び電荷輸送物質を含有し(但し、該感光層が下記化合物(1) 【外1】 を含有する場合を除く。)、」と訂正する。 (b)同じく請求項4における「電荷輸送層を有する請求項1乃至3のいずれかに記載の画像形成方法。」の記載を、「電荷輸送層を有し、該電荷輸送物質が下記化合物(4)、(8)または(9) 【外2】 である請求項1乃至3のいずれかに記載の画像形成方法。」と訂正する。 (c)明細書の段落【0007】における「該感光層が電荷発生物質としてのオキシチタニウムフタロシアニン及び電荷輸送物質を含有し、」の記載を、「該感光層が電荷発生物質としてのオキシチタニウムフタロシアニン及び電荷輸送物質を含有し(但し、該感光層が下記化合物(1) を含有する場合を除く。)、」と訂正する。 (d)明細書の段落【0015】における「【外1】」を、「【外4】」と訂正する。 (e)明細書の段落【0019】における「【外2】」を、「【外5】」と訂正(e-1)すると共に、化合物No.(1)の化学式を削除する(e-2)。 (f)明細書の段落【0020】における「【外3】」を、「【外6】」と訂正する。 (g)明細書の段落【0037】における「【実施例】 実施例1」を、「【実施例】 参考例1」と訂正する。 (h)明細書の段落【0040】における「次に、前記の化合物(1)の電荷輸送物質」を、「次に、下記化合物(1) の電荷輸送物質」と訂正する。 (i)明細書の段落【0041】における「本実施例においては」を、「本参考例においては」と訂正する。 (j)明細書の段落【0043】における「実施例2」を「参考例2」と訂正(j-1)し、「化合物例(1)を9部と化合物例(7)を」を、「化合物(1)を9部と化合物(7)を」と訂正(j-2)し、「実施例1と同様にして」を、「参考例1と同様にして」と訂正(j-3)する。 (k)明細書の段落【0044】における「実施例3」を、「実施例1」と訂正し、「実施例1と同様にして」を、「参考例1と同様にして」と訂正する。 (l)明細書の段落【0046】における「次に、前記の化合物例(2)の電荷輸送物質」を、「次に、前記の化合物(2)の電荷輸送物質」と訂正する。 (m)明細書の段落【0047】における「得られた感光体を実施例1と同様にして」を、「得られた感光体を参考例1と同様にして」と訂正する。 (n)明細書の段落【0048】における「実施例4」を「実施例2」と訂正(n-1)し、「化合物例(3)」を、「化合物(3)」と訂正(n-2)し、「実施例1と同様にして」を、「参考例1と同様にして」と訂正(n-3)する。 (o)明細書の段落【0049】における「実施例5」を「実施例3」と訂正(o-1)し、「化合物例(4)」を、「化合物(4)」と訂正する」と訂正(o-2)し、「実施例1と同様にして」を、「参考例1と同様にして」と訂正(o-3)する。 (p)明細書の段落【0050】における「実施例6」を「実施例4」と訂正(p-1)し、「化合物例(8)」を、「化合物(8)」と訂正(p-2)し、「実施例1と同様にして」を、「参考例1と同様にして」と訂正(p-3)する。 (q)明細書の段落【0051】における「実施例7」を「実施例5」と訂正(q-1)し、「化合物例(9)」を、「化合物(9)」と訂正(q-2)し、「実施例6と同様にして」を、「実施例4と同様にして」と訂正(q-3)する。 (r)明細書の段落【0052】における「実施例1と同様にして・・・」を、「参考例1と同様にして・・・」と訂正する。 (s)明細書の段落【0053】における「【外4】」を、「【外8】」と訂正する。 (t)明細書の段落【0054】における「電荷輸送物質として化合物例(1)を・・・」を、「電荷輸送物質として前記の化合物(1)を・・・」と訂正(t-1)し、併せて「実施例1と同様にして・・・」を、「参考例1と同様にして・・・」と訂正(t-2)する。 (u)明細書の段落【0056】の「表1」おける最左欄の「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例4」、「実施例5」、「実施例6」、「実施例7」の各記載を順に、「参考例1」、「参考例2」、「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例4」、「実施例5」と訂正する。 (v)明細書の段落【0056】の「表1」において、「実施例3」(訂正後「実施例1」)の「画像評価」欄における「10,000まで優れる」の記載を削除する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 訂正(a)は、訂正前の請求項1に係る発明から、感光体の感光層が上記化合物(1)を含有する場合を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 訂正(b)は、訂正前の請求項4に係る発明において、電荷輸送物質を化合物(4)、(8)または(9)に限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。 訂正(c)、(e-2)、(h)は、上記した特許請求の範囲の減縮の伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載との間に生じた不整合を正すものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。 訂正(g)、(i)、(j-1)、(j-3)(k)、(m)、(n-1)、(n-3)、(o-1)、(o-3)、(p-1)、(p-3)、(q-1)、(q-3)、(r)、(t-2)、(u)は、上記した特許請求の範囲の減縮の伴い、特許請求の範囲に係る発明に含まれなくなった実施例1、2を参考例1、2に変更し、実施例3ないし7の例番号を繰り上げるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。 訂正(j-2)、(l)、(n-2)、(o-2)、(p-2)、(q-2)、(t-1)は、化合物の表記について「化合物例」と「化合物」とが混在し不明りょうになっていたのを表記を統一することで明りょうにするものであるから明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。 訂正(d)、(e-1)、(f)、(s)の訂正は、訂正(a)、(b)によって明細書中の外字が増加したことに伴い、外字番号を振り直すものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。 訂正(v)は、訂正前の「実施例3」について、明細書の段落【0047】の記載と矛盾する「画像評価」欄にある記載を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。 そして、上記訂正(b)は、願書に添付された明細書の段落【0019】、【0020】の記載に基づくものであるから、願書に添付された明細書に記載の事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 その他の訂正も、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 3.訂正の適否に関する結論 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 第3.特許異議申立について 1.本件特許発明 上記のとおり訂正請求が認められるから、本件の請求項1ないし4に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲、請求項1ないし4に記載された次のとおりものである。 「【請求項1】円筒状電子写真感光体に対し、帯電を行うことにより電荷を付与する帯電工程、該電荷を付与された電子写真感光体に露光を行うことにより静電潜像を形成する画像露光工程、該静電潜像を現像することにより可視画像を形成する現像工程、及び該可視画像を被転写部材に転写する転写工程を有し、該帯電工程、画像露光工程、現像工程及び転写工程を該電子写真感光体が一回転する間に行う画像形成方法において、該電子写真感光体が導電性支持体上に感光層を有し、該感光層が電荷発生物質としてのオキシチタニウムフタロシアニン及び電荷輸送物質を含有し(但し、該感光層が下記化合物(1) 【外1】 を含有する場合を除く。)、該電荷発生物質の仕事関数(WFCG)及び電荷輸送物質の仕事関数(WFCT)が下記式 -0.2<WFCG-WFCT≦0(eV) を満足し、 該電子写真感光体が一回転するのに要する時間が1.5秒以下であることを特徴とする画像形成方法。 【請求項2】 前記オキシチタニウムフタロシアニンの結晶形が、CuKα特性X線回折における回折角(2θ±0.2°)が9.0°、14.2°、23.9°及び27.1°に強いピークを有する請求項1記載の画像形成方法。 【請求項3】 前記WFCG及びWFCTが下記式 -0.1<WFCG-WFCT≦0(eV) を満足する請求項1または2記載の画像形成方法。 【請求項4】 前記感光層が電荷発生物質を含有する電荷発生層、及び電荷輸送物質を含有する電荷輸送層を有し、 該電荷輸送物質が下記化合物(4)、(8)または(9) 【外2】 である請求項1乃至3のいずれかに記載の画像形成方法。」 上記請求項1ないし4に係る発明を、以下順に「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」、「本件発明4」という。 2.異議申立の理由及び取消理由の概要 異議申立人・吉田春男は、 甲第1号証:特開平4-170546公報(以下「刊行物2」という。)、 甲第2号証:特開平4-318557号公報(以下「刊行物1」という。)、 甲第3号証:特開平4-274473号公報(以下「刊行物4」という。)、 甲第4号証:特開平4-155347号公報(以下「刊行物5」という。)、 甲第5号証:「第29回電子写真学会講習会 90年代のイメージング技術の基礎-材料からシステムまで-」1990年7月12日発行、68〜85頁 (以下「刊行物6」という。)、 甲第6号証:「電子写真学会 第45回研究討論会 予稿集」、日時 昭和55年7月7日、8日、26〜30頁」(以下「刊行物7」という。)、 甲第7号証:「電子写真学会誌 VOL.27、NO.1、1988、31〜37頁 (以下「刊行物8」という。)、 甲第8号証:特開平4-195055号公報(以下「刊行物9」という。)、 甲第9号証:特開平2-214867号公報(以下「刊行物3」という。)、 参考資料1:特開平6-202357号公報 を提出して、 (1)訂正前の本件請求項1に係る発明は、その本件の優先日前日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであること、 (2)訂正前の本件請求項1ないし4に係る発明は、その本件の優先日日本国内において頒布された甲第1ないし9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることから、 訂正前の本件請求項1ないし4に係る発明の特許は取り消されるべきものである旨主張している。 当審においては、 (I)訂正前の本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、その本件の優先日前日本国内において頒布された上記刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、 (II)訂正前の本件出願は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 旨の取消理由を通知した。 3.刊行物の記載事項 (1)刊行物1(特開平4-318557号公報)には、次の事項が記載されている。 (1a)「【請求項1】 導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、該感光層が平均粒径0.15μm以下のオキシチタニウムフタロシアニンを含有することを特徴とする電子写真感光体。 【請求項2】 前記オキシチタニウムフタロシアニンが、CuKα特性X線回折における回折角2θ±0.2°が9.0°,14.2°,23.9°,27.1°に強いピークを有することを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。 【請求項3】 前記感光層が電荷発生層と電荷輸送層とを有し、該電荷発生層が前記平均粒径0.15μm以下のオキシチタニウムフタロシアニンを含有することを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。 【請求項4】 請求項1ないし3記載の電子写真感光体を備えた電子写真装置。 【請求項5】 請求項1ないし3記載の電子写真感光体を備え、かつリモート端末からの画像情報を受信する受信手段を有するファクシミリ。」(特許請求の範囲)、 (1b)「・・・TiOPcを電荷発生物質として用いた電子感光体は、・・・黒ポチ状の画像欠陥や電位変動を生じ易いという欠点があった。 従って、本発明の目的は、TiOPcを用いた電子写真感光体の持つ優れた特性を損なうことなく、高温高湿下ににおいても黒ポチ状の画像欠陥が生じにくく、しかも電位変動が少ない電子写真感光体を提供することにある。」(段落【0010】、【0011】)、 (1c)「電荷輸送層は主として電荷輸送物質とバインダー樹脂とを溶剤中に溶解させた塗料を塗工乾燥して形成する。用いられる電荷輸送物質としては各種のトリアリールアミン系化合物、ヒドラゾン系化合物、スチルベン系化合物、ピラゾリン系化合物、オキサゾール系化合物、トリアリルメタン系化合物、チアゾール系化合物などを挙げられる。」(段落【0023】)、 (1d)「図1に本発明の電子写真感光体を用いた一般的な転写式電子写真装置の概略構成例を示した。 図において、・・・該感光体1はその回転過程で帯電手段2によりその周面に正または負の所定電位の均一帯電を受け、次いで露光部3にて不図示の像露光手段により光像露光L(スリット露光、レーザービーム走査露光など)を受ける。これにより感光体周面に露光像に対応した静電潜像が順次形成されていく。 その静電潜像はついで現像手段で現像されそのトナー現像像が転写手段5により・・・給紙された転写材Pの面に順次転写されていく。」(段落【0025】〜【0027】)、 (1e)「本発明の電子写真感光体は電子写真複写機に利用するのみならず、レーザービームプリンター、CRTプリンター、LEDプリンター・・・など電子写真応用分野にも広く用いることができる。」(段落【0036】)、 (1f)[製造例1]には、低結晶性のTiOPc2.0gにn-ブチルエーテル40mlを加えミリング処理を室温下(22℃)20時間行ない、この分散液より固形分を取りだしメタノール、水で十分に洗浄、乾燥したこと、この結晶のX線回折における回折角2θ±0.2°は9.0°、14.2°、23.9°、27.1°に強いピークを有していたこと(段落【0038】〜【0040】)、 (1g)実施例1には、30φ、260mmのAIシリンダーを基本とし、その上に導電層を形成し、次に、この上に中間層を形成し、次に製造例1で作成した顔料3重量部とポリビニルブチラール(商品名エスレックBM-2積水化学製)2部およびシクロヘキサノン80部をサンドミル装置で分散した後、メチルエチルケトン115部を加えて平均粒径0.15μmのTiOPcを含む電荷発生層分散液を得、これを前記中間層上に塗布し電荷発生層を形成したこと、ビスフェノールZポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量22000)10部と下記【化1】の構造で示される電荷輸送物質10部をモノクロルベンゼン50部、ジクロルメタン10部に溶解し、この塗料を電荷発生層の上に塗布し、乾燥して電荷輸送層を形成したこと、得られた感光体について、画像評価を行ったこと、評価はキャノン製LBP(商品名「レーザーショット」)を使用したこと(段落【0043】〜【0047】) 【化1】 刊行物2(特開平4-170549号公報)には、次の事項が記載されている。 (2a)「導電性支持体上に少なくとも電荷発生層と電荷輸送層を順に積層して成る電子写真感光体において、前記電荷発生層がフタロシアニン顔料を含有することを特徴とする電子写真感光体。」(特許請求の範囲、請求項1)、 (2b)「前記フタロシアニン顔料がオキシチタニウムフタロシアニンであることを特徴とする請求項(1)記載の電子写真感光体。」(同請求項2)、 (2c)「導電性支持体上に少なくとも電荷発生層と電荷輸送層を順に積層して成る電子写真感光体を用いかつ反転現像プロセスを有する電子写真方法において、前記電荷発生層がフタロシアニン顔料を含有しかつ潜像形成プロセスにおける感光体の暗部電位が絶対値で700〜1000Vの範囲でプロセススピ-ドが150mm/sec以上であることを特徴とする電子写真方法。」(同請求項5)、 (2d)「前記フタロシアニン顔料がオキシチタニウムフタロシアニンであることを特徴とする請求項(5)記載の電子写真方法。」(同請求項6)、 (2e)「電荷発生材料としてオキシチタニウムフタロシアニン等のフタロシアニン顔料を用いた場合には、十分な高感度を有するため、プロセススピードが150mm/sec以上の高速で使用しても十分な光応答性が得られ、・・・」(2頁右下欄5〜9行)、 (2f)「第1図に本発明の電子写真感光体を用いた一般的な転写式電子写真装置の概略構成例を示した。 図において、・・・該感光体1は・・・均一帯電を受け、次いで露光部3にて不図示の像露光手段により光像露光L(スリット露光・レーザービーム走査露光など)を受ける。これにより感光体周面に露光像に対応した静電潜像が順次形成されていく。 その静電潜像はついで現像手段4でトナー現像されそのトナー現像像が転写手段5により・・・順次転写されていく。」(4頁左上欄9行〜右上欄4行)、 (2g)「合成例 オキシチタニウムフタロシアニンの合成 フタロジニトリル50gと四塩化チタン22.5g及びα-クロロナフタレン630mlの混合物をN2気流中240〜250℃で4時間加熱、攪拌して反応を行った。生成物をろ過し、得られたジクロロチタニウムフタロシアニンと濃アンモニア水380mlの混合物を1時間加熱還流した。生成物をソックスレーを用いてアセトン洗浄し、22gのオキシチタニウムフタロムシアニンを得た。」(5頁左上欄8〜18行)、 (2h)実施例1には、φ80×l 360mmのAlシリンダ-を支持体とし、支持体上に散乱防止導電層を形成し、次に、下引き層をもうけ、次に、前記合成例にて合成したオキシチタニウムフタロシアニン、ポリビニルブチラ-ル樹脂(商品名:エスレックBX-1、積水化学製)、及びシクロヘキサノンをサンドミル装置で分散し、これにテトラヒドロフランを加えて下引き層上に浸漬法で塗布し、0.15μmの電荷発生層を形成し、ついで、電荷輸送層として下記構造式のスチルベン化合物10部とビスフェノ-ルZ型ポリカ-ボネ-ト樹脂(三菱ガス化学製)10部を、モノクロルベンゼン45部、ジクロルメタン15部に溶解して塗布液を作成した。これを電荷発生層上に浸漬法で塗布し、26μmの電荷輸送層を形成したこと、 こうして作成した感光体を半導体レ-ザ-光源を有するレ-ザ-複写機(CLC-1、キャノン製)に装着し、プロセススピ-ド160mm/sec、Vdが-900Vとなるように帯電条件を設定したこと(5頁右上欄1行〜右下欄4行)、 (2i)実施例3には、レ-ザ-複写機のプロセススピ-ドを320mm/secとなるように改造し、Vd 設定を-8000、現像バイアスを-650Vに設定し、実施例1の感光体を用いて実施例1と同様に画像評価を行ったこと(6頁左上欄16行〜右上欄1行)。 同じく刊行物3(特開平2-214867号公報)には、次の事項が記載されている。 (3a)「電荷発生材料と電荷輸送材料を含有する感光層を導電性支持体上に有する感光体において、電荷発生材料として、そのX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)27.3°に主たる回折ピークを示すオキシチタニウムフタロシアニンを用い、電荷輸送材料として下記一般式(I) (式中・・・で表わす。)で表される化合物を用いることを特徴とする電子写真用感光体。」(特許請求の範囲、請求項1)、 (3b)「本発明の電子写真用感光体は高感度で、残留電位が低く帯電性が高く、かつ、繰返しによる変動が小さく、特に、画像濃度に影響する帯電安定性が良好であることから、高耐久性感光体として用いることができる。又750〜850nmの領域の感度が高いことから、特に半導体レーザプリンタ用感光体に適している。」(4頁右上欄19行〜左下欄6行)、 (3c)製造例1には、第1図に示される、フラッグ角(2θ±0.2°)で27.3に鋭いピークを示すが、他のピークは比較的幅広いピークとなるオキシチタニウムフタロシアニンを製造したこと、製造例2には、第2図に示される、フラッグ角(2θ±0.2°)で27.3に鋭いピークを示し、9.0°、14°、24°付近に他のピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを製造したこと(4頁左下欄12行〜5頁左上欄18行、第1図、第2図)、 (3d)実施例1には、製造例1で製造したオキシチタニウムフタロシアニン0.4g、ポリビニルブチラール0.2gを分散した分散液を、ポリエステルフィルム上に蒸着したアルミ蒸着層の上に塗布、乾燥し、電荷発生層を形成したこと、この電荷発生層の上にN、N’-ジフェニル-N、N’-ジ(3-メチルフェニル)-ベンジジン70部、ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学社製、ユーピロンE-2000)100部からなる膜厚17μmの電荷輸送層を積層し、積層型の感光層を有する電子写真感光体を得たこと(5頁左上欄19行〜右上欄13行)、 (3e)実施例2では、実施例1で用いたオキシチタニウムフタロシアニンのかわりに製造例2で製造したオキシチタニウムフタロシアニンを用いた他は実施例1と全く同様にしたこと5頁左下欄6〜11行)、 (3f)実施例3では、実施例1で用いたN、N’-ジフェニル-N、N’-ジ(3-メチルフェニル)-ベンジジンの代りに、表1に示す3-1、3-2、3-3のアリールアミン類を用いて実施例1の方法と同様に感光体を作成し、実施例1と同様にして感度を測定したこと、電荷輸送材料3-3は、次の構造であること(5頁左下欄12〜18行、右下欄の「表」)。 刊行物4(特開平4-274473号公報)には、未定着トナー像を定着する定着装置の発明に関し、次の事項が記載されている。 (4a)「(実験例1)感光ドラム10としてアルミシリンダ上に有機光半導体(OPC)を形成した30mmφのものを用い、周速50mm/secにて駆動し、1次ローラ11により暗部電位-700Vに一様に帯電させた。・・・静電潜像を形成した。現像器13には・・・反転現像を行い、露光された感光ドラム10の表面箇所に現像剤(トナー)を付与した。」(段落【0021】)、 (4b)「(実験例3)画像形成装置の概要は図1に示されたものと略同じ構成の自動両面プリント装置を用いたが、主要な構成要素として感光ドラム10の周速度が異なり、本実験例では100mm/secとした。又、・・・転写ローラ(不図示)を用いた。感光ドラム10の周囲のプロセス構成は、この他は実験例1と同じとした。」(段落【0036】)。 刊行物5(特開平4-155347号公報)には、次の事項が記載されている。 (5a)「導電性基板上に電荷発生層と電荷輸送層とを積層してなり、前記電荷発生層は電荷発生材料を含み、前記電荷輸送層は電荷輸送材料を含み、前記電荷発生材料のイオン化ポテンシャルIPgが前記電荷輸送材料のイオン化ポテンシャルIPtよりも小さく、その差が0.35eV以内にあり、かつ前記電荷発生層のイオン化ポテンシャルIPglと前記電荷輸送層のイオン化ポテンシャルIPtlとの差が、-0.1乃至+0.1eVの範囲にあることを特徴とする電子写真感光体。」(特許請求の範囲1)、 (5b)「電荷発生材料としては、・・・特に正孔輸送性の電荷発生材料であってイオン化ポテンシャルの絶対値が4.9eV〜5.4eVのものが本件発明のイオン化ポテンシャルの関係を満足させやすいため好適である。・・・スクエアリリウム系顔料、フタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料は4.9eV〜5.4eVのイオン化ポテンシャルを有する正孔輸送性の電荷発生材料であり」(2頁右下欄16行〜3頁左上欄15行)、 (5c)「ここでイオン化ポテンシャルとは試料を準備し、試料に紫外線ランプから放出された光をモノクロメーターにより分光し、試料表面に励起エネルギーの低い方から高い方に走査していくと、ある波長の光で光電効果による電子放出が始まり、この電子放出の始まる波長のエネルギー換算した値をイオン化ポテンシャルと呼び、本発明ではこの値をイオン化ポテンシャルとした。このような測定は、例えば表面分析装置(例えば商品名AC-1型、理研計器(株))を用いて容易に実施することができ、各イオン化ポテンシャルの測定に際しては試料形態を選ぶことによって対応可能である。」(7頁左上欄15行〜右上欄6行)、 (5d)実施例1には、電荷発生材料としてスクエアリリウム系顔料である例示化合物I-6の化合物(IPg=5.05eV)を含む電荷発生層を形成し、ついで電荷発生層の上に電荷輸送物質として化合物 a)(式省略)(IPt:5.19eV、電荷移動度3.09×10-5cm2/V-sec) を含む電荷輸送層を形成し電子写真感光体を形成したこと、このようにして作成された電子写真感光体を用いて、帯電電位Vo、暗中にて1秒放置後の表面電位Vdを測定し、次いで感光体表面に光を照射し、初期感度(Vd/DT(V/sec))、光照射1秒後のコントラスト電位(Vc)、 光照射10秒後の残留電位VRPを測定し、暗減衰率DDRを計算により求めたこと、実施例2ないし6、及び比較例1ないし6では、電荷発生材料並びに電荷輸送材料を変えた以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作成し、同様に評価したこと、第1表にはその結果を示したこと(8頁右上欄3行〜9頁右上欄最下行)。 (5e)「発明の効果 本発明の電子写真感光体は、・・・光照射時の電荷発生層から電荷輸送層への電荷の注入が迅速で高感度であり、かつ初期帯電後の暗減衰率並びに残留電位が小さく光照射後のコントラスト電位が高いという優れた効果を奏する。尚、電荷輸送材料のイオン化ポテンシャルが電荷発生材料のイオン化ポテンシャルの値よりも大きくなりすぎると、電荷発生層と電荷輸送層のイオン化ポテンシャルの関係を前記範囲内に設定することが困難となり、感光体の残留電位が高くなり、十分な静電コントラストを得ることはできず、感度も不充分となる。また電荷発生材料のイオン化ポテンシャルが電荷輸送材料のイオン化ポテンシャルよりも大きい場合には、電荷発生層と、電荷輸送層のイオン化ポテンシャルの関係を前記範囲内に設定することが困難となり、感光体の暗減衰率が大きくなって十分な静電コントラストを得ることはできない。」(9頁右下欄2行〜10頁左上欄3行)。 刊行物6(「第29回電子写真学会講習会 90年代のイメージング技術の基礎-材料からシステムまで-」1990年7月12日発行、68〜85頁)は、「有機感光体デバイスの設計と諸特性」と題し、次の事項が記載されている。 (6a)「1.はじめに」の項に、「ここではOPC感光体の感度、耐久性を支配する諸因子について解説し、それらの性能向上のための技術を紹介する。」こと(68頁3〜13行)、 (6b)「 積層型感光体において、感度は、CGL中でのキャリア生成効率、CTLへのキャリア注入効率及びCTLでのキャリアの移動度により決まる。従って、感度向上のためには、キャリア生成効率の高いCGMと、移動度が大きくCGMとの適合性が良く注入効率の良い組合せとなるCTMの選択が必要となる。」(71頁3〜7行)、 (6c)「(1)キャリア生成材料」の項に、「光プリンター用のCGMとしてはフタロシアニン系が最も広く使用されている。フタロシアニン系化合物としては、無金属やCu、TiO、・・・を中心金属として有するものが報告されている。フタロシアニン顔料は結晶多形が多く、結晶形により感度が大きく異なる例も報告されている。」こと(74頁、20〜24行)、 (6d)「(2)キャリア輸送材料」の項に、「CTMに要求される性能としては、CGLからCTL中へのキャリア注入を損なわず且つ高い移動度を有することが挙げられる。CTMは図-8に示すように窒素原子を含んだπ電子共役系の広がった化合物が使用されている。キャリア注入効率の向上にはCTMのIpを充分に小さくする必要があるが、使用するCGMとの組み合わせによってIpの最適値が決定される。CGMのIpに比べCTMのIpがあまり小さい場合には感度は向上するが、帯電能の低下や繰り返し使用での疲労の増加を招くこともある。」こと(76頁、図下1〜9行)、 (6e)「 4.高性能化と感光体設計 4-1 高感度化 ここではLD用CGMとして広く用いられているチタニルフタロシアニン(TiOPc)を例にとり、感度を支配する諸因子について述べる。TiOPcは図-9に示すように種々の結晶形をとり、結晶形によりその感度は約3倍も異なる(表-1)。このことは、CGM分子の配向状態を制御することにより感度の向上が図れることを示唆している。CGMからCTLへのキャリア注入特性も結晶形を変えることにより大きく異なる。図-10は、感度のCTMのIpに対する依存性を示す。A-TiOPcではCTMのIpの減少に伴ない感度は向上する。しかしY-TiOPcではCTMのIpの大小に拘らずほぼ一定の感度を示している。同様の感度のCTMのIpの依存性はアゾ系CGMでも報告されている。」(79頁1〜22行)、 (6f)結晶系の異なるA-TiOPc及びY-TiOPcの感度のCTMIp依存性(80頁「図-10」)。 刊行物7(「昭和55年度 電子写真学会 第45回研究討論会 予稿集」、昭和55年7月7日、8日、26〜30頁」)は、「積層有機光導電体の開発」と題し、次の事項が記載されている。 (7a)「先にも述べた通り、CGL/CTLの組み合わせではCGLにあったIpのCTLを選択する必要があるが、その関係は図6の様になると考えている。CTLのIpがCGLのIpに対して上にあるか下にあるか、またその位置により、帯電のしにくさあるいは残留電位の発生が観測されるのであろう。化合物(I)をCGLにした場合のCTL用輸送剤のIpと、その組み合わせで作成した感光体の帯電々位、残留電位との関係を示すと図7の様な傾向にある。TNFとの電荷移動錯体を形成させ、その吸収から求めた化合物(II)、(III)のIpはそれぞれ2.70eV、2.61eVで、(II)はわずかに残留電位を示す組み合わせ、(III)は(I)に対して最適の組み合わせになっている。この帯電々位、残留電位とIpとの関係は感光体をくり返して使用する場合、更にその傾向が強められるため、最適なIpの範囲は非常に小さくなってしまう。例えば(III)に代って(IV)、(V)の化合物を電荷担体輸送剤として用いると多数回画像形成工程を行なったときにいづれも残留電位が上昇してしまい、コピ-としては地汚れが発生する危険性があった。従って(I)の発生剤に対しては(III)の輸送剤を組合わせるのが最適であるとの結論を得た。・・・ (IV)Ip:2.63eV (IV)Ip:2.66eV」(29頁17行〜30頁16行)。 刊行物8(「電子写真学会誌 VOL.27、NO.1、1988、31〜37頁)は、「過渡電流波形解析による積層有機感光体の評価(第3報)」と題し、次の事項が記載されている。 (8a)「 4.まとめ 本研究ではいくつかのキャリア発生剤(CGM)とキャリア輸送剤(CTM)を組み合わせ、CGL-CTL間の接合状態を変化させた場合の積層感光体の過渡電流特性と感光体特性について検討した。その結果、両特性間には良い対応が認められ、基本的にはCGMとCTMのイオン化ポテンシャルが近い組み合わせが良好な特性を示すことが示唆された。またこれら積層感光体の過渡電流量の測定からCGLからCTLへのホ-ル注入過程におけるエネルギ-バリアやトラップ準位、不純物等に関する情報が得られ、本測定法が積層光体の構成部材の適合化に有効であることが示された。」(36頁右欄図下1行〜37頁左欄10行)、 刊行物9(特開平4-195055号公報)には、次の事項が記載されている。 (9a)「(1)導電性支持体上に、電荷発生層と電荷輸送層とが該支持体側からこの順序で設けられた電子写真感光体において、該電荷発生層が酸化電位0.7V未満の電荷発生材料を含有すると共に、該電荷輸送層が酸化電位0.7V以上の電荷発生材料を含有することを特徴とする電子写真感光体。 (2)該電荷発生層に含有される電荷発生材料がチタニルフタロシアニンであることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体。」(12頁右下欄の特許請求の範囲、請求項1、2)」、 (9b)「本発明に用いるチタニルフタロシアニンは複数の結晶型を有することが知られており、それらはCu-Kα線のX線回折スペクトルにおける回折角(ブラッグ角=2θ±0.2°)において強いピークを有する結晶型例えば、下記の第2図〜第6図に示される各種のものがある:・・・ 第6図 9.0°;14.2°;23.9°及び27.1°に強いピークを有する結晶型等。」(3頁左上欄3行〜右上欄8行)、 (9c)本発明に用いる電荷輸送材料であって、その酸化電位が0.7(V)未満のものとしては次のものを挙げることができること 電荷輸送材料の中で、その酸化電位が0.7(V)以上のものとしては例えば次のものを挙げることができること、 (3頁右上欄9行〜5頁右上欄、12頁右上欄〜左下欄)。 4 当審の判断 4-1 特許法第29条第1、2項違反について (1)本件発明1について 刊行物1には、30φ、260mmのAlシリンダーの基体上に電荷発生層と電荷輸送層をこの順に有し、電荷発生層が結晶のX線回折における回折角9.0°、14.2°、23.9°、27.1°に強いピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを含有し、電荷輸送層が【化1】で示される、本件明細書記載の「化合物No.(1)」を含有する電子写真感光体をレーザープリンターに用いた画像形成方法が記載され、このような画像形成方法が帯電、画像露光、現像及び転写の各工程を有することも記載されている。 そして、刊行物1記載のTiOPcが電荷発生物質であり、「化合物No.(1)」が電荷輸送物質であることは明白である。 また、刊行物1に記載のレーザープリンターが、電子写真感光体が一回転する間に、帯電工程、画像露光工程、現像工程及び転写工程を行い画像を形成することは刊行物1の記載から明白である。 そこで、本件発明1と刊行物1に記載された発明を対比すると、両者は、 「円筒状電子写真感光体に対し、帯電を行うことにより電荷を付与する帯電工程、該電荷を付与された電子写真感光体に露光を行うことにより静電潜像を形成する画像露光工程、該静電潜像を現像することにより可視画像を形成する現像工程、及び該可視画像を被転写部材に転写する転写工程を有し、該帯電工程、画像露光工程、現像工程及び転写工程を該電子写真感光体が一回転する間に行う画像形成方法において、該電子写真感光体が導電性支持体上に感光層を有し、該感光層が電荷発生物質としてのTiOPc及び電荷輸送物質を含有する画像形成方法である点。」で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 相違点:本件発明1では感光層が「化合物No.(1)」を含有する場合を除外し、電荷発生物質の仕事関数(WFCG)及び電荷輸送物質の仕事関数(WFCT)が下記式 -0.2<WFCG-WFCT≦0(eV) を満足し、かつ電子写真感光体が1回転するのに要する時間を1.5秒以下に規定するのに対し、刊行物1に記載された発明では、感光層に前記「化合物No.(1)」を含有させるものであり、電子写真感光体が1回転するのに要する時間を1.5秒以下とすることは示されていない点。 相違点について検討する。 ア.本件発明は、TiOPcを用いた電子写真感光体は高速プロセスで用いると、得られる画像に、カブリ、黒スジ及び濃度ムラが生じるという問題を解決することを発明課題とし(本件明細書、段落【0005】参照)、電子写真感光体が一回転するのに要する時間を1.5秒以下とした画像形成方法において、導電性支持体上の感光層に、電荷発生物質としてのオキシチタニウムフタロシアニン及び電荷輸送物質を含有させ、かつ、オキシチタニウムフタロシアニン及び電荷輸送物質の仕事関数を上記特定の式を満たすものとしたものである。 一方、本件明細書の記載によるとオキシチタニウムフタロシアニンの仕事関数は5.3eV、前記「化合物No.(1)」の仕事関数は5.4eVであるから、刊行物1における感光体の「電荷発生物質の仕事関数WFCG-電荷輸送物質の仕事関数WFCT」(eV)は-0.1となる。 また、刊行物1には、電荷輸送材料としては前記「化合物No.(1)」に限らず、種々の物質を使用できることが記載されている(1c)。 しかし、刊行物1には、電子写真感光体が1回転するのに要する時間を1.5秒以下とする画像形成方法、電荷発生物質の仕事関数(WFCG)及び電荷輸送物質の仕事関数(WFCT)の関係については何ら記載されていないから、刊行物1記載の電荷輸送層において「化合物No.(1)」に代えて、他の電荷輸送物質を用いることが示されているとしても、仕事関数(WFCT)が上記式を満たす電荷輸送物質を用い、かつ刊行物1記載の感光体の回転時間を1.5秒以下とすることが当業者に容易に想到し得たとすることはできない。 イ.上記相違点に係る構成については、刊行物2にも示されていない。 すなわち、刊行物2の実施例には、直径80mmのAlシリンダーの支持体(導電性支持体)上に少なくとも電荷発生層と電荷輸送層をこの順に有して成り、電荷発生層がオキシチタニウムフタロシアニンを、電荷輸送層が本件明細書記載の「化合物No.(7)」の電荷輸送物質を含有する電子写真感光体をレーザー複写機に用いた画像形成方法が記載され(2h)、実施例3には、レーザー複写機のプロセススピ-ドが320mm/secとなるようにしたことも記載されている(2i)。そしてこの場合、電子写真感光体の1回転するのに要する時間が1.5秒以下であることは明らかである。 しかし、刊行物2に記載のオキシチタニウムフタロシアニンの仕事関数は不明であるから、「-0.2<WFCG-WFCT≦0(eV)」の関係を満足するオキシチタニウムフタロシアニンと電荷輸送物質を組合せて感光層に含有させることが開示されているとすることはできない。 また、刊行物2では、オキシチタニウムフタロシアニンと「化合物No.(7)」の仕事関数の差について全く記載されていないので、感光層にオキシチタニウムフタロシアニンと電荷輸送物質を含有させるとき、それらの仕事関数が「-0.2<WFCG-WFCT≦0(eV)」の関係を満たすようにオキシチタニウムフタロシアニンと電荷輸送物質を選ぶことが示唆されているということもできない。 請求人は参考資料(本件出願後に頒布された特開平6-202357号公報)を提出して、オキシチタニウムフタロシアニンの結晶形態が本件発明の実施例と異なるものについても「化合物No.(7)」と組み合わせ、感光体の回転時間を1.5秒以下の高速で使用したときに良好な結果が得られているから、刊行物2のオキシチタニウムフタロシアニンと「化合物No.(7)」の仕事関数の差は、「-0.2<WFCG-WFCT≦0(eV)」の関係を満たしていると主張するが、参考資料には、結晶形態の異なるオキシチタニウムフタロシアニンの仕事関数が同じであることは示されておらず、参考資料によっても、刊行物2に「-0.2<WFCG-WFCT≦0(eV)」の関係を満足するオキシチタニウムフタロシアニンと電荷輸送物質を組合せて感光層に含有させることが示されているとすることはできない。 ウ.また、上記相違点については、以下に示すとおり、刊行物3ないし9にも記載されていない。 すなわち、刊行物3には、オキシチタニウムフタロシアニンを電荷発生物質に用いる場合に、電荷輸送物質として本件明細書に記載の「化合物No.(3)」(段落【0019】)を用いることが記載されているが(3a、3c)、オキシチタニウムフタロシアニンと化合物No.(3)の仕事関数の差」と感光体の性能との関係については全く認識がない。したがって、刊行物3の記載も相違点1に係る構成を示唆するものではない。 刊行物4には、導電性基体上に感光層を形成した電子写真感光体を用いる画像形成方法において、直径30mmの感光体を周速100mm/secで駆動することが記載され、この感光体の回転時間は1.5秒以下であることは明らかであるが、感光層に「-0.2<WFCG-WFCT≦0(eV)」の関係を満足するオキシチタニウムフタロシアニンと電荷輸送物質を含有させることは一切記載がない。 刊行物5には、電荷発生材料のイオン化ポテンシャルIPgが前記電荷輸送材料のイオン化ポテンシャルIPtよりも小さく、その差が0.35eV以内である電子写真感光体が記載されており、イオン化ポテンシャルはその測定方法から見て、本件発明1の「仕事関数」に相当するものと認められるから、刊行物5には、感光層に「-0.35<WFCG-WFCT≦0(eV)」の関係を満足する感光層を設けることが示され、また、電荷発生材料としてチタニルフタロシアニンを使用することが例示されている。 しかし、刊行物5の感光体は円筒状のものではなく、感光層にオキシチタニウムフタロシアニンを使用し、電子写真感光体が1回転するのに要する時間を1.5秒以下とする画像形成方法において、特に「-0.2<WFCG-WFCT≦0(eV)」の関係を満足するものとすることは示されていない。 刊行物6には、OPC感光体の性能向上のための技術に関し、層構成、感度の向上等について記載され、刊行物7には、高感度の感光体の開発に関し、積層感光体の作成例、その性能等が、刊行物8には、CGL-CTLの組合せ、それらのイオン化ポテンシャルの関係、積層感光体の性能等について記載されているが、OPC感光体において感光層に「-0.2<WFCG-WFCT≦0(eV)」の関係を満足するオキシチタニウムフタロシアニンと電荷輸送物質を含有させることは記載も示唆もない。 刊行物9には、導電性基体上に感光層を形成した電子写真感光体を用いる画像形成方法と共に、電荷発生材料の例としてX線回折スペクトルにおける回折角において特定の強いピークを有するオキシチタニウムフタロシアニン(9b)、電荷輸送材料の例として本件明細書の段落【0019】、【0020】に記載された化合物No.(2)(電荷輸送材(10))、No.(5)(電荷輸送材(9))、No.(7)(電荷輸送材(22))等が記載されているが(9c)、酸化電位の異なる2種類の電荷輸送材料を使用するものであって、電荷輸送材料全体の仕事関数は不明であり、感光層に「-0.2<WFCG-WFCT≦0(eV)」の関係を満足するオキシチタニウムフタロシアニンと電荷輸送物質を含有させ、かつ感光体の回転時間を1.5秒以下とすることは記載も示唆もない。 エ.そして、本件発明1は全体として、高速で繰り返し使用しても優れた画像を安定して得ることができるという特有の効果が奏されるものである。 したがって、本件発明1は刊行物2に記載された発明ではなく、また刊行物1ないし9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2)本件発明2ないし4について 本件発明2ないし4は、本件発明1の構成をすべて備えた上で、更に、本件発明2では、オキシチタニウムフタロシアニンについて「CuKα特性X線回折」における回折角が9.0°、14.2°、23.9°及び27.1°に強いピークを有するものに限定するものであり、本件発明3は、WFCG-WFCT」の下限について範囲が狭くなる限定を加えるものであり、本件発明4は、感光層の層構成と電荷輸送物質に限定を加えたものであるから、いずれも、上記4-1(1)で述べたのと同様な理由により、刊行物1ないし9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4-2 特許法第36条違反について 取消理由通知において訂正前の本件明細書に記載不備があるとした点は、訂正前の明細書の【表1】の実施例3の画像評価の欄に「10,000枚まで優れる。」と記載されているが、段落【0046】には、実施例3では連続画像出し耐久試験は行わなかったことが記載されており、記載に矛盾があるというものである。 訂正請求により【表1】に記載の「10,000枚まで優れる。」は削除されたのでこの記載不備は解消した。 したがって、本件出願は、明細書に記載上の不備があるため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとすることはできない。 第4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件の請求項1ないし4に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件の請求項1ないし4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 画像形成方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】円筒状電子写真感光体に対し、帯電を行うことにより電荷を付与する帯電工程、 該電荷を付与された電子写真感光体に露光を行うことにより静電潜像を形成する画像露光工程、 該静電潜像を現像することにより可視画像を形成する現像工程、及び 該可視画像を被転写部材に転写する転写工程を有し、 該帯電工程、画像露光工程、現像工程及び転写工程を該電子写真感光体が一回転する間に行う画像形成方法において、 該電子写真感光体が導電性支持体上に感光層を有し、 該感光層が電荷発生物質としてのオキシチタニウムフタロシアニン及び電荷輸送物質を含有し(但し、該感光層が下記化合物(1) 【外1】 を含有する場合を除く。)、 該電荷発生物質の仕事関数(WF CG)及び電荷輸送物質の仕事関数(WF CT)が下記式 -0.2<WF CG-WF CT≦0(eV) を満足し、 該電子写真感光体が一回転するのに要する時間が1.5秒以下であることを特徴とする画像形成方法。 【請求項2】前記オキシチタニウムフタロシアニンの結晶形が、CuKα特性X線回折における回折角(2θ±0.2°)が9.0°、14.2°、23.9°及び27.1°に強いピークを有する請求項1記載の画像形成方法。 【請求項3】前記WF CG及びWF CTが下記式 -0.1<WF CG-WF CT≦0(eV) を満足する請求項1または2記載の画像形成方法。 【請求項4】前記感光層が電荷発生物質を含有する電荷発生層、及び電荷輸送物質を含有する電荷輸送層を有し、 該電荷輸送物質が下記化合物(4)、(8)または(9) 【外2】 である請求項1乃至3のいずれかに記載の画像形成方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、画像形成方法に関し、詳しくは特定の物質を含有する電子写真感光体を高速のプロセスで用いる画像形成方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 有機光導電性物質を用いた電子写真感光体は、極めて生産性が高い、無機物質に比較して材料設計が容易で感度領域などをコントロールし易い、比較的安価であるなどの利点を有し、これまで幅広く検討されてきた。特に有機光導電性染料や顔料といった所謂電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層を有する電子写真感光体は、従来の電子写真感光体の欠点とされていた感度や耐久性などについても良好な特性を示すものが多く、実用化もされている。 【0003】 近年、電荷発生物質の中でもオキシチタニウムフタロシアニン(以下、TiOPcともいう)が注目されている。TiOPcは600〜800nm付近の長波長の光に非常に高い感度を有するため、光源がLEDや半導体レーザーである電子写真プリンタやデジタル複写機用の電子写真感光体に用いる電荷発生物質として極めて有用である。 【0004】 一方、電子写真装置には、更なる高画質化、高速化及び高耐久化が求められている。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、TiOPcを用いた電子写真感光体は、高感度ではあるものの、高速のプロセスで用いると、得られる画像に、カブリ、黒スジ及び濃度ムラなどが生じてしまった。 【0006】 本発明の目的は、高速で繰り返し使用しても安定して優れた画像を得ることのできる画像形成方法を提供することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】 即ち、本発明は、円筒状電子写真感光体に対し、帯電を行うことにより電荷を付与する帯電工程、 該電荷を付与された電子写真感光体に露光を行うことにより静電潜像を形成する画像露光工程、 該静電潜像を現像することにより可視画像を形成する現像工程、及び 該可視画像を被転写部材に転写する転写工程を有し、 該帯電工程、画像露光工程、現像工程及び転写工程を該電子写真感光体が一回転する間に行う画像形成方法において、 該電子写真感光体が導電性支持体上に感光層を有し、 該感光層が電荷発生物質としてのオキシチタニウムフタロシアニン及び電荷輸送物質を含有し(但し、該感光層が下記化合物(1) 【外3】 を含有する場合を除く。)、 該電荷発生物質の仕事関数(WF CG)及び電荷輸送物質の仕事関数(WF CT)が下記式 -0.2<WF CG-WF CT≦0(eV) を満足し、 該電子写真感光体が一回転するのに要する時間が1.5秒以下であることを特徴とする画像形成方法である。 【0008】 前述したようにTiOPcを含有する電子写真感光体を高速プロセスで用いるとカブリ、黒スジ及び濃度ムラなどの画像欠陥が生じ易い。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。TiOPcが極めて高感度であることから、光キャリアの発生量も非常に多いと推定される。そのため高速プロセスでは、発生した光キャリアの、電荷輸送物質への注入、輸送及び再結合が十分に行われる前に、即ち光キャリアが感光層中に蓄積された状態で次の電子写真プロセスが適用されてしまう。この残留キャリアがメモリーとして得られる画像に悪影響を及ぼす(表面電位の立ち下がり)のである。この傾向は、電荷発生物質が高感度であればある程、プロセスサイクルが短ければ短い程顕著になる。 【0009】 そこで、本発明者らは、TiOPcの仕事関数(WF CG)と用いる電荷輸送物質の仕事関数(WF CT)が下記式 -0.2<WF CG-WF CT≦0(eV) を満足するような電子写真感光体を、感光体が1.5秒以内で1回転するという高速プロセスで用いることによって、本願発明の効果、即ち高画質、高速及び高耐久が実現できることを見出したのである。 【0010】 WF CG-WF CTが-0.2eV以下であると本願発明の効果が十分に得られず、0を越えると光キャリアの注入などが促進され過ぎ、電子写真感光体が表面の電荷を十分に保持できなくなる。 【0011】 尚、本発明における仕事関数の測定は、理研計器製表面分析装置AC-1型(低エネルギー光電子計測装置)を用いて、大気中において紫外線により励起された光電子を測定することにより、サンプル表面を分析することによって行った。 【0012】 本発明に用いられる電子写真感光体が有する感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質を同一の層に含有する所謂単一層型でも、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層を有する所謂積層型でもよい。本発明においては、導電性支持体、電荷発生層及び電荷輸送層をこの順に有する電子写真感光体が好ましい。 【0013】 電荷発生層は、TiOPcを適当な溶剤を用いて適当な結着樹脂に分散した溶液を塗布し、乾燥することによって形成される。膜厚は5μm以下であることが好ましく、特には0.1〜2μmであることが好ましい。 【0014】 本発明に用いられるTiOPcは下記式で示される。 【0015】 【外4】 (式中、X1、X2、X3及びX4はClまたBrを示し、h、i、j及びkは0〜4の整数を示す。)TiOPcの合成法や電子写真特性に関する文献としては、例えば特開昭57-148745号公報、同59-36254号公報、同59-44054号公報、同59-31965号公報、同61-239248号公報及び同62-67094号公報などが挙げられる。TiOPcの結晶形には、他のフタロシアニン化合物と同様にさまざまな種類が存在する。例えば、特開昭59-49544号公報(USP4,444,861)、特開昭59-166959号公報、特開昭61-239248号公報(USP4,728,592)、特開昭62-67094号公報(USP4,664,997)、特開昭63-366号公報、特開昭63-116158号公報、特開昭63-198067号公報及び特開昭64-17066号公報に各々結晶形の異なるTiOPcが報告されている。 【0016】 これらの中で特にCuKα特性X線回折における回折角2θ±0.2°が9.0°、14.2°、23.9°及び27.1°に強いピークを有する結晶形のTiOPcが高い感度を有し、本発明が非常に有効に作用する。 【0017】 尚、TiOPcの仕事関数は結晶形態によっても異なるが、おおむね5.2〜5.4eV程度の値を示す。 【0018】 電荷輸送層は、電荷輸送物質を適当な溶剤を用いて適当な結着樹脂に溶解した溶液を塗布し、乾燥することによって形成される。用いることのできる電荷輸送物質の好ましい例を以下に示すが、前記の-0.2<WF CG-WF CT≦0(eV)を満足するものであれば下記の物質に限定されるものではない。また、本発明においては、混合物の仕事関数が上記関係を満足していれば、電荷輸送物質を2種以上用いることもできる。この場合、電荷輸送物質を樹脂中に分散した状態で仕事関数を測定することが好ましい。 【0019】 【外5】 【0020】 【外6】 【0021】 本発明においては、WF CG-WF CT≧-0.1(eV)であることが好ましい。 【0022】 本発明においては、電荷輸送物質と結着樹脂の配合比率は、重量比で1:2〜2:1であることが好ましく、特には4:5〜3:2であることが好ましい。電荷輸送物質の比率が小さ過ぎるとモビリティが低くなり、本発明の効果が得られなくなることがあり、逆に電荷輸送物質の比率が大き過ぎると電荷輸送層の膜としての機械的強度が低くなり過ぎることがある。 【0023】 また、電荷輸送層の膜厚は5〜40μmであることが好ましく、特には15〜30μmであることが好ましい。 【0024】 感光層が単一層型の場合も、上記と同様の材料を用いることができ、膜厚は5〜40μmであることが好ましく、特には15〜30μmであることが好ましい。 【0025】 本発明に用いられる導電性支持体としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス、バナジウム、モリブデン、クロム、チタン、ニッケル、インジウム、金及び白金などが挙げられる。また、こうした金属あるいは合金を、真空蒸着法によって被覆形成したプラスチック(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート及びアクリル樹脂など)や、導電性粒子(例えばカーボンブラック及び銀粒子など)を適当なバインダー樹脂と共にプラスチックまたは金属あるいは合金の基板上に被覆した支持体あるいは導電性粒子をプラスチックや紙に含浸した支持体などが挙げられる。 【0026】 本発明においては、導電性支持体と感光層の間にバリヤー機能と接着機能を持つ下引層を設けることもできる。下引層はカゼイン、ポリビニルアルコール、ニトロセルロース、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、共重合ナイロン、アルコキシメチル化ナイロンなど)、ポリウレタン及び酸化アルミニウムなどによって形成できる。下引層の膜厚は5μm以下であることが好ましく、特には0.1〜3μmであることが好ましい。 【0027】 更に、本発明においては、感光層を外部からの機械的及び化学的悪影響から保護するために、保護層として樹脂層や、導電性粒子や電荷輸送物質を含有する樹脂層などを感光層上に設けることもできる。 【0028】 本発明の電子写真感光体は電子写真複写機に利用するのみならず、ファクシミリ、レーザービームプリンター、CRTプリンター、LEDプリンター、液晶プリンター及びレーザー製版などの電子写真応用分野にも広く用いることができる。 【0029】 図1に本発明の画像形成方法を用いた電子写真装置の概略構成を示す。 【0030】 図において、1はドラム状の本発明の電子写真感光体であり、軸1aを中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。該感光体1は、回転過程で帯電手段2により、その周面に正または負の所定電位の均一帯電を受け、次いで、不図示の像露光手段により、露光部3に光像露光L(スリット露光やレーザービーム走査露光など)を受ける。このようにして感光体周面に露光像に対応した静電潜像が順次形成されていく。 【0031】 形成された静電潜像は、次いで現像手段4でトナー現像され、このトナー現像像は、不図示の給紙部から感光体1と転写手段5との間に感光体1の回転と同期取りされて給送された転写材Pに、転写手段5により順次転写されていく。 【0032】 像転写を受けた転写材Pは、感光体面から分離された像定着手段8へ導入されて像定着を受けて複写物(コピー)として機外へプリントアウトされる。 【0033】 像転写後の感光体1の表面は、クリーニング手段6によって転写残りトナーの除去を受けて清浄面化された後、前露光手段7により除電処理され、繰り返し像形成に使用される。 【0034】 本発明においては、上述電子写真感光体1、帯電手段2、現像手段4及びクリーニング手段6などの構成要素のうち、複数のものを装置ユニットとして一体に結合して構成し、このユニットを装置本体に対して着脱自在に構成しても良い。例えば、帯電手段2、現像手段4及びクリーニング手段6の少なくとも1つを感光体と共に一体に支持してユニットを形成し、装置本体のレールなどの案内手段を用いて装置本体に着脱自在の単一ユニットとしても良い。 【0035】 また、光像露光Lは、電子写真装置を複写機やプリンターとして使用する場合には、原稿からの反射光や透過光を感光体に照射すること、あるいは、センサーで原稿を読取り、信号化し、この信号に従ってレーザービームの走査、LEDアレイの駆動、または液晶シャッターアレイの駆動などを行い感光体に光を照射することなどにより行われる。 【0036】 次に本発明を実施例に従って説明する。 【0037】 【実施例】 参考例1 30φ×260mmのアルミニウムシリンダーに、以下の材料より構成される塗料を浸漬法で塗布し、140℃で30分間熱硬化して18μmの導電層を形成した。 ・導電性顔料:酸化スズコート処理酸化チタン 10部(重量部、以下同様) ・抵抗調節用顔料:酸化チタン 10部 ・結着樹脂:フェノール樹脂 10部 ・レベリング剤:シリコーンオイル 0.001部 ・溶剤:メタノール/メチルセロソルブ(重量比)=1/1 20部 【0038】 次に、N-メトキシメチル化ナイロン3部と共重合ナイロン3部とを、メタノール65部とn-ブタノール30部との混合溶剤に溶解した溶液を、前記導電層上に浸漬法で塗布し、乾燥することによって、膜厚が0.5μmの下引層を形成した。 【0039】 次に、TiOPc結晶粉末(CuKα特性X線回折における回折角2θ±0.2°が9.0°、14.2°、23.9°及び27.1°に強いピークを有するもの、WF CG=5.3eV)3部、ポリビニルブチラール樹脂2部及びシクロヘキサノン80部をφ1mmガラスビーズを用いたサンドミル装置で6時間分散した後、この溶液に酢酸エチル100部加えて電荷発生層用分散液を得た。この溶液を前記下引層上に浸漬法で塗布し、乾燥することによって、膜厚が0.2μmの電荷発生層を形成した。 【0040】 次に、下記化合物(1) 【外7】 の電荷輸送物質(WF CT=5.4eV)10部とポリカーボネートZ樹脂10部を、モノクロルベンゼン50部とジクロルメタン10部との混合溶剤に溶解した。この塗料を前述の電荷発生層の上に浸漬法で塗布し、乾燥することによって膜厚が23μmの電荷輸送層を形成した。 【0041】 得られた感光体の電位の安定性を、実際の電子写真装置と同様の構成を有する潜像試験機によって評価した。この試験機は感光体の径及びプロセススピードを任意に設定できるようになっており、本参考例においてはプロセススピードを72mm/秒、即ち感光体が一回転するのに要する時間を1.3秒とした。また、電位の安定性は、初期の暗部電位Vdを-650Vに、明部電位V1を-150Vに設定し、帯電及び露光のプロセスを1,000回繰り返した後に各電位を測定し、変化量を求めることにより評価した。 【0042】 更に、感光体をレーザービームプリンター(LBP-NX、キヤノン(株)製)に装着し、プロセススピードを上記の値に設定し、10,000枚の連続画像出し耐久試験を行い、得られた画像を目視にて評価した。結果を表1に示す。 【0043】 参考例2 電荷輸送物質として前記の化合物(1)を9部と化合物(7)を1部(WF CT=5.45eV)を用いた以外は、参考例1と同様にして感光体を作成し、評価した。但し、プロセススピードを94mm/秒(感光体が一回転するのに要する時間1.0秒)とした。結果を表1に示す。 【0044】 実施例1 支持体として40φ×260mmのアルミニウムシリンダーを用いた以外は、参考例1と同様にして導電層と下引層を形成した。 【0045】 次に、TiOPc結晶粉末(CuKα特性X線回折における回折角2θ±0.2°が9.5°、9.7°、11.7°、15.0°、23.5°、24.1°及び27.3°に強いピークを有するもの、WF CG=5.2eV)3部、ポリビニルブチラール樹脂2部及びシクロヘキサノン80部をφ1mmガラスビーズを用いたサンドミル装置で24時間分散した後、この溶液にメチルエチルケトン100部加えて電荷発生層用分散液を得た。この溶液を前記下引層上に浸漬法で塗布し、乾燥することによって、膜厚が0.2μmの電荷発生層を形成した。 【0046】 次に、前記の化合物(2)の電荷輸送物質(WF CT=5.35eV)9部とポリカーボネートZ樹脂10部を、モノクロルベンゼン50部と、ジクロルメタン10部の混合溶剤に溶解した。この塗料を前述の電荷発生層の上に浸漬法で塗布し、乾燥することによって、膜厚が25μmの電荷輸送層を形成した。 【0047】 得られた感光体を参考例1と同様にして評価した。但し、プロセススピードを90mm/秒(感光体が一回転するのに要する時間1.4秒)とし、更に感光体の径が異なるため、連続画像出し耐久試験は行わなかった。結果を表1に示す。 【0048】 実施例2 電荷輸送物質として前記の化合物(3)(WF CT=5.3eV)を12部用いた以外は参考例1と同様にして感光体を作成し、評価した。但し、プロセススピードを120mm/秒(感光体が一回転するのに要する時間0.79秒)とした。結果を表1に示す。 【0049】 実施例3 電荷輸送物質として前記の化合物(4)(WF CT=5.35eV)を用い、電荷輸送層の膜厚を25μmとした以外は参考例1と同様にして感光体を作成し、評価した。但し、プロセススピードを67mm/秒(感光体が一回転するのに要する時間1.4秒)とした。結果を表1に示す。 【0050】 実施例4 電荷輸送物質として前記の化合物(8)(WF CT=5.47eV)を用いた以外は参考例1と同様にして感光体を作成し、評価した。但し、プロセススピードを63mm/秒(感光体が一回転するのに要する時間1.5秒)とした。結果を表1に示す。 【0051】 実施例5 電荷輸送物質として前記の化合物(9)(WF CG=5.49eV)を用いた以外は実施例4と同様にして感光体を作成し、評価した。結果を表1に示す。 【0052】 比較例1 電荷輸送物質として下記式で示される比較化合物(A)(WF CT=5.55eV)を用いた以外は参考例1と同様にして感光体を作成し、評価した。 【0053】 【外8】 結果を表1に示す。 【0054】 比較例2 電荷輸送物質として前記の化合物(1)を4部と比較例1で用いた電荷輸送物質6部(WF CT=5.52eV)を用いた以外は参考例1と同様にして感光体を作成し、評価を得た。結果を表1に示す。 【0055】 実験例1 プロセススピードを24mm/秒(感光体が一回転するのに要する時間3.9秒)とした以外は比較例2と同様にして電子写真感光体を作成し、評価した。結果を表1に示す。 【0056】 【表1】 【0057】 【発明の効果】 以上のように、本発明によれば、高速で繰り返し使用しても優れた画像を安定して得ることのできる画像形成方法を提供することができた。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の画像形成方法を用いた電子写真装置の概略構成の例を示す図である。 【符号の説明】 1 本発明の電子写真感光体 1a 軸 2 帯電手段 3 露光部 4 現像手段 5 転写手段 6 クリーニング手段 7 前露光手段 8 像定着手段 L 光像露光 P 転写材 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-12-12 |
出願番号 | 特願平5-330729 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(G03G)
P 1 651・ 121- YA (G03G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 磯貝 香苗 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
伏見 隆夫 秋月 美紀子 |
登録日 | 2003-09-12 |
登録番号 | 特許第3471873号(P3471873) |
権利者 | キヤノン株式会社 |
発明の名称 | 画像形成方法 |
代理人 | 内尾 裕一 |
代理人 | 西山 恵三 |
代理人 | 内尾 裕一 |
代理人 | 西山 恵三 |