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| 審決分類 |
審判 全部申し立て C22C 審判 全部申し立て C22C 審判 全部申し立て C22C |
|---|---|
| 管理番号 | 1132609 |
| 異議申立番号 | 異議2003-73133 |
| 総通号数 | 76 |
| 発行国 | 日本国特許庁(JP) |
| 公報種別 | 特許決定公報 |
| 発行日 | 1999-07-21 |
| 種別 | 異議の決定 |
| 異議申立日 | 2003-12-16 |
| 確定日 | 2005-12-19 |
| 異議申立件数 | 1 |
| 訂正明細書 | 有 |
| 事件の表示 | 特許第3455407号「冷間工具鋼」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
| 結論 | 訂正を認める。 特許第3455407号の請求項1に係る特許を維持する。 |
| 理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第3455407号の手続きの経緯は次のとおりである。 特許出願 平成10年 1月 6日 設定登録 平成15年 7月25日 特許公報発行 平成15年10月14日 特許異議申立 平成15年12月16日 取消理由通知 平成16年 9月17日付け 訂正請求 平成16年11月29日 特許異議意見書 平成16年11月29日 審尋(対特許異議申立人) 平成17年 1月25日付け 回答書(特許異議申立人) 平成17年 4月 1日 上申書(特許権者) 平成17年11月21日 2.訂正の適否についての判断 2-1.訂正の要旨 (1)訂正事項a:明細書段落【0011】の 「好ましくは7.8%以上、より好ましくは8.3%以上必要である。」を、 「好ましくは7.8%以上、より好ましくは8.2%以上必要である。」と訂正する。 (2)訂正事項b:明細書段落【0017】の 「上述したように、M7C3型炭化物の粒径を5〜15μm、面積率1〜9%とするためには、請求項に示した成分組成のものを溶製した後、1000〜1040℃で焼入れすることにより実現することができる。しかし、1040℃を超えると、炭化物が急速にマトリックス(基地)中へ溶け込み、炭化物粒径が小さくなるため、所定の炭化物が得られない。また、焼入れ時に旧オーステナイト粒が粗大化し、靱性、疲労強度の低下が生じる。さらに、焼入れ時に残留オーステナイトが多く残存し、焼戻しても十分な硬さが得られない。一方、1000℃未満では、炭化物がマトリックス(基地)中へ溶け込まず、所定の炭化物が得られない。また、炭化物がマトリックス中へ溶け込まないので、硬さを得るために必要な炭素が不足することから、所定の粒径および面積率を得ることができない。」を、 「上述したように、M7C3型炭化物の粒径を5〜15μm、面積率1〜9%とするためには、請求項に示した成分組成のものを溶製した後、1040℃で焼入れすることにより実現することができる。この1040℃であれば所定の粒径および面積率の炭化物が得られ、また、焼入れ時に旧オーステナイト粒が粗大化することなく、靱性、疲労強度の低下も防止でき、さらに、焼戻しても十分な硬さが得られる。」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項aは、明細書中の表1における本発明鋼No.1のCr含有量の数値に基づき、Crのより好ましい含有量の下限値をその数値に整合させるものであるから、誤記の訂正乃至明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項bは、焼入れ温度と炭化物粒径及び面積率との関係を実施例に基づいて明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 そして、これらの訂正事項a、bは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 なお、訂正請求書に添付された訂正明細書段落【0017】末行の「・・・焼戻しても十分な硬さが得られない。」は、訂正請求書の訂正事項bと整合していないが、前後の記載からみて、「・・・焼戻しても十分な硬さが得られる。」の明らかな誤記と認められるし、また、平成17年11月21日付け上申書で特許権者も明らかな誤記である旨述べているから、明細書段落【0017】に関する訂正については、訂正請求書の訂正事項bのとおりであると認定した。 2-3.訂正の適否についての結論 以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項乃至第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 3-1.本件発明 訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 重量%で、 C:0.75〜0.89%、 Si:2.0%以下、 Mn:0.1〜2.0%、 Cr:7.8〜11.0%、 MoまたはWのいずれか1種または2種をMo当量(Mo+1/2W):0.7〜5.0%、 VまたはNbのいずれか1種または2種をV当量(V+1/2Nb):0.1〜2.5%、 残部Feおよび不可避的不純物よりなり、M7C3型炭化物の粒径を5〜15μm、面積率1〜9%とすることにより耐疲労強度の優れた型寿命を有することを特徴とする冷間工具鋼。」 3-2.異議申立て及び取消理由の概要 特許異議申立人は、甲第1、2号証を提出し、要するところ、次の申立理由1,2を主張している。 申立理由1: 本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、又は、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してなされたものである。 申立理由2: 本件特許明細書には、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含んでいるから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。 当審が通知した取消理由は、上記申立理由1,2と同趣旨のものである(以下、「取消理由1,2」という)。 3-3.引用した刊行物とその記載事項 (1)刊行物1:特開平6-212253号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証) (1a)特許請求の範囲の請求項1,2: 「【請求項1】 C:0.75〜1.75%、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0%、Mo:1.3〜5.0%、V:0.1〜5.0%(各重量%)を含有し、残部Feおよび不純物からなる鋼材を450℃以上の温度で焼もどすことを特徴とする冷間工具鋼の製造方法。 【請求項2】 C:0.75〜1.75%、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0%、Mo:1.3〜5.0%、V:0.1〜5.0%を含有し、さらにREM:0.001〜0.5%、Cu:0.1〜2.0%、Ni:0.2〜2.0%、W:0.1〜3.0%、Co:0.1〜5.0%、Nb:0.01〜3%、Ti:2.0%以下およびZr:2.0以下(各重量%)のうち1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不純物からなる鋼材を450℃以上の温度で焼もどすことを特徴とする冷間工具鋼の製造方法。」 (1b)段落【0004】: 「・・・炭素および炭化物形成元素間に適切なバランスを保持せしめて一次の共晶炭化物を少くすることによって靭性を高い状態にするとともに、各成分組成範囲を特定し、これを450℃以上の高温焼もどし処理を施して二次硬化硬さを増大させることにより、冷間工具鋼の寿命と放電加工性が大巾に改善されるという知見を得、本発明に至った。」 (1c)段落【0006】: 「本発明における各成分組成範囲の限定理由は以下の通りである。 C:Cはマルテンサイトの硬さを高め、高温焼もどしにより特殊炭化物を形成して二次硬化に寄与し、またさらにCr,Mo,Vと炭化物を形成して耐摩耗性に寄与する必須元素である。このC量はCr量と相関をもつが、0.75%(重量)未満では焼入焼もどし硬さが低く、且つ耐摩耗性が低下し、逆に1.75%(重量)を超えると靭性が低下するため0.75〜1.75%(重量)とする。 Si:Siは高温焼もどし硬さの増大に有効であり、また硬さを低下させることなく靭性を向上させる。・・・ Mn:Mnは脱酸および脱硫剤として作用し、鋼の清浄度を向上させるとともに焼入性を良好にする。・・・ Cr:Crは焼入時に基地中に固溶して焼入性を高めるとともにCr炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させるが、5%(重量)未満ではこのような効果が小さく、逆に11%(重量)を超えると靭性を劣化させる。 Mo:Moは焼入時に基地中に固溶するとともに炭化物を形成して耐摩耗性を向上させ、焼入れおよび焼もどし抵抗性を高めるのに有効な元素である。このような効果を発揮し、特に高温焼もどしでHRC62以上の高硬度を得るためには1.3%(重量)以上含有させる必要があるが、5%(重量)を超えてもその効果の増大はそれ程ではなく熱間加工性を劣化させるようになる。 V:Vは基地のオーステナイト系結晶粒の粗大化を防止し、微細な炭化物を形成して耐摩耗性および焼入性の向上に寄与する。これら効果は0.1%(重量)未満では期待できず、また5.0%を超えると加工性が劣化する。 REM,Cu,Ni,W,Co,Nb,Ti,Zr:これら各元素は強度および靭性の向上に寄与するものであるが、・・・ S,Pb,Se,Bi,Te,Ca:これら各元素はいずれも被削性を向上させるのに有効なものであり、・・・」 (1d)【0007】: 「本発明の製法は、上記各組成の鋼材を焼きなましし、後焼入れし、しかる後450℃以上の高温で焼もどしすることによって製造する。この際の焼入れ温度は1000〜1060℃以内の高温で行うことが好適である、また後段の焼もどし温度は450〜550℃が好適である。なお、かくして製造された冷間工具鋼は冷間ダイス、ポンチ、抜型用等の用途に使用される。本発明はこの方法により製造されてから高温焼もどしにより、焼入れ時の残留応力が除去されて安定組織となるとともに二次硬化硬さが増大し、硬さおよび靭性が共に優れ、工具としての使用時のかじりを起し、あるには放電加工等により工具に熱が生ずる場合にも割れを生ずることなく工具寿命が延長され、加工性が大巾に向上するようになる。またさらに工具表面にTiC等を物理蒸着する場合の表面処理性も良好となる。これら高温焼もどしによる利点は焼もどし温度が450℃未満では充分に発揮されない。」 (1e)段落【0008】〜【0014】: 「【実施例】次に本発明を実施例により詳細に説明する。表1に示す成分組成の鋼材を表2の焼入れ温度焼入れ、しかる後表2の焼もどし温度で焼もどして本発明の冷間工具鋼とする。なお、比較鋼として従来法で製造した従来から用いられているJIS SKD11,SKD12その他を溶製し、両者について硬さ、シャルピー衝撃値、曲げ抗折力、焼付荷重、比摩耗量、残留応力およびワイヤーカット性につき試験した。それら特性値の試験結果を表2に示す。シャルピー衝撃値はφ30mmの材料を15×15×60mmに切削加工して焼入(油冷)焼もどし(空冷)処理し、中央部深さ2mm、平面粗度0.25以下、10mmRノッチを形成して試験片とした。また、残留応力はφ200×300mmlの材料を焼入れ(加熱温度に15分保持空冷)焼もどし(加熱温度に2時間保持空冷×2回)を行ない、表層中央部に20mm角、深さ0.5mmの電解研磨をし、この研磨面をX線法により測定(長手方向)し、その他の各試験条件は次のとおりである。 (イ)曲げ抗折力……φ8×130mmの試験片につき、支点間距離100mm、中央1点荷重とし試験片が破断する際の破断荷重で示す。 (ロ)比摩耗量……大越式迅速摩擦試験機により相手材SCM415(HB190)、摩擦速度2.9m/sec、摩擦距離200mm、摩擦荷重6.5kgとした。 (ハ)焼付荷重……相手材としてSCM415(焼きなまし)を用い、摩擦速度30〜100mm/sec、接触面圧5〜50kgf/mm2、潤滑油として油脂系とした。 (ニ)ワイヤーカット性……ワイヤーカットにより10mm長さ切断し、切断面における100μ長さ以上の割れ数で示す。 表2より、本発明で製造した鋼はいずれもHRC62以上の硬さを有するとともに高靭性を有し、しかも耐摩耗性、焼付荷重およびワイヤーカット性ともに優れていることがわかる。 次に、供試材No.1,7および16(SKD11)を用いて二次硬化硬さおよびシャルピー衝撃値に及ぼす高温焼入れ後の焼もどし温度の影響を調べた。その結果を表3に示す。 この表3より、本発明で製造にかかるNo.1およびNo.7において焼もどし温度が200℃、300℃、400℃の場合の二次硬化硬さは充分でなく、500℃で所望の硬さとなり、また500℃における衝撃値は400℃の場合に比べてわずかに低下するが依然として高靭性を保有している。これらのことから高硬度および高靭性をともに具備させるための焼もどし温度は450℃以上とすることが必要といえる。これに対し、従来材では高温焼もどしを施したとしても硬さおよび衝撃値とも本発明鋼に比べてかなり劣るものであることがわかる。」 (1f)第4頁表1: 供試材の本発明鋼No.1の化学成分は、C:1.01%、Si:1.03%、Mn:0.45%、Cr:7.85%、Mo:1.94%、V:0.31%、残部Feであり、本発明鋼No.2の化学成分は、C:0.95%、Si:1.53%、Mn:0.36%、Cr:10.95%、Mo:2.71%、V:0.31%、残部Feであり、本発明鋼No.3の化学成分は、C:1.65%、Si:1.73%、Mn:0.51%、Cr:8.41%、Mo:2.23%、V:3.21%、残部Feであり、本発明鋼No.4の化学成分は、C:0.78%、Si:1.21%、Mn:0.51%、Cr:7.03%、Mo:2.83%、V:0.15%、残部Feである。 (1g)第5頁表2: 供試材No.1の焼入温度は1040℃、焼もどし温度は530℃であり、供試材No.2の焼入温度は1040℃、焼もどし温度は520℃であり、供試材No.3の焼入温度は1060℃、焼もどし温度は540℃であり、供試材No.4の焼入温度は1040℃、焼もどし温度は530℃である。 (1h)第6頁表3: 供試材No.1の焼入温度は1040℃、焼もどし温度は200℃、300℃、400℃、500℃である。 (2)刊行物2:「JISハンドブック 鉄鋼」財団法人日本規格協会(1991年4月20日発行)第1454〜1459頁 (2a)第1454頁表1: 「合金工具鋼鋼材」の「種類の記号」がSKS3、SKS31、SKS93、SKS94、SKS95、SKD1、SKD11、SKD12は、「主として冷間金型用」である。 (2b)第1458頁表7: 冷間金型用であるSKS3、SKS31、SKS93、SKS94、SKS95、SKD1、SKD11、SKD12の焼入れの熱処理温度は、790〜1050℃である。 3-4.当審の判断 (1)取消理由1について (1-1)刊行物1に記載された発明 刊行物1の上記(1a)の請求項1には、 「C:0.75〜1.75%、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0%、Mo:1.3〜5.0%、V:0.1〜5.0%(各重量%)を含有し、残部Feおよび不純物からなる鋼材を450℃以上の温度で焼もどすことを特徴とする冷間工具鋼の製造方法。」と記載されており、そのような製造方法により製造された「冷間工具鋼」も記載されていると云えるから、刊行物1には、 「C:0.75〜1.75%、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0%、Mo:1.3〜5.0%、V:0.1〜5.0%(各重量%)を含有し、残部Feおよび不純物からなる鋼材を450℃以上の温度で焼もどすことにより製造された冷間工具鋼」という発明(以下、「刊行物1A発明」という)が記載されていると認められる。 また、刊行物1の上記(1a)の請求項2には、 「C:0.75〜1.75%、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0%、Mo:1.3〜5.0%、V:0.1〜5.0%を含有し、さらにREM:0.001〜0.5%、Cu:0.1〜2.0%、Ni:0.2〜2.0%、W:0.1〜3.0%、Co:0.1〜5.0%、Nb:0.01〜3%、Ti:2.0%以下およびZr:2.0以下(各重量%)のうち1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不純物からなる鋼材を450℃以上の温度で焼もどすことを特徴とする冷間工具鋼の製造方法。」と記載されており、そのような製造方法により製造された「冷間工具鋼」も記載されていると云えるから、選択成分のREM、Cu、Ni、W、Co、Nb、Ti及びZrからWとNbのうち1種または2種を選択する場合について、この記載を整理すると、刊行物1には、 「C:0.75〜1.75%、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.1〜2.0%、Cr:5.0〜11.0%、Mo:1.3〜5.0%、V:0.1〜5.0%を含有し、さらにW:0.1〜3.0%、Nb:0.01〜3%のうち1種または2種を含有し、残部Feおよび不純物からなる鋼材を450℃以上の温度で焼もどすことにより製造された冷間工具鋼」という発明(以下、「刊行物1B発明」という)が記載されていると認められる。 (1-2)本件発明と刊行物1A発明との対比 本件発明は、Mo、WのうちMoを選択し、V、NbのうちVを選択する場合の態様を包含するから、そのような態様の本件発明と刊行物1A発明を対比すると、刊行物1A発明における冷間工具鋼の成分組成は、その素材である鋼材の成分組成とほぼ一致すると認められるから、両者は、 「重量%で、C:0.75〜0.89%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%、Cr:7.8〜11.0%、Mo1種をMo当量:1.3〜5.0%、V1種をV当量:0.1〜2.5%、残部Feおよび不可避的不純物よりなる冷間工具鋼」である点で一致するが、次の点で相違している。 相違点: 本件発明では、冷間工具鋼が、「M7C3型炭化物の粒径を5〜15μm、面積率1〜9%とすることにより耐疲労強度の優れた型寿命を有する」のに対し、刊行物1A発明では、そのような規定がなされていない点。 (1-3)本件発明と刊行物1B発明との対比 本件発明は、Mo、WのうちMo1種又はMoとWの2種を選択し、V、NbのうちV1種又はVとNbの2種を選択する場合の態様を包含するから、そのような態様の本件発明と刊行物1B発明を対比すると、刊行物1B発明における冷間工具鋼の成分組成は、その素材である鋼材の成分組成とほぼ一致すると認められるし、また、刊行物1B発明におけるMo当量及びV当量は、それぞれ、1.3〜6.5%、0.1〜6.5%となるから、両者は、 「重量%で、C:0.75〜0.89%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%、Cr:7.8〜11.0%、Mo1種またはMoとWの2種をMo当量(Mo+1/2W):1.3〜5.0%、V1種またはVとNbの2種をV当量(V+1/2Nb):0.1〜2.5%、残部Feおよび不可避的不純物よりなる冷間工具鋼」である点で一致するが、上記(1-2)で述べたと同じ相違点で相違している。 (1-4)相違点についての判断 本件発明は、「耐摩耗性を兼ね供えた引張圧縮疲労強度の優れた高寿命が得られる冷間工具鋼を提供することを目的」(段落【0007】)とし、「実際の金型において、疲労に起因した破損は、M7C3型炭化物の割れによる亀裂発生、および亀裂伝播が大きな要因を占めていることを見出し、そのためには、M7C3型炭化物の粒径が15μm以下の場合に著しく軽減することを見出した」(段落【0014】)、「引張圧縮疲労試験の結果によれば、M7C3型炭化物の粒径が15μmを越えると著しく破断繰返し数(N)が減少する・・・。一方、大越式摩耗試験の結果によると、M7C3型炭化物の粒径が5μm未満で著しく耐摩耗性の減少が現れる・・・」(段落【0015】)、「M7C3型炭化物サイズが5μm未満では、摩耗による金型の廃却において、また、M7C3型炭化物の粒径が15μmを越えると、炭化物の割れによる廃却から金型寿命としての指数であるショット数の減少することが判る」(段落【0016】)、「M7C3型炭化物の面積率は、耐摩耗性の観点からは炭化物が多いほど良好となり、少なくとも1%以上のM7C3型炭化物が必要となる。一方、耐疲労特性の点から、炭化物をできるかぎり均一に分散させるため、9%以下とすることが望ましい。」(段落【0017】)等の知見に基づき、前記相違点で示される特定事項を採用したものと認められる。 これに対し、刊行物1には、炭化物に関し、「炭素および炭化物形成元素間に適切なバランスを保持せしめて一次の共晶炭化物を少くすることによって靭性を高い状態にする」(1b)こと、「Cは・・・高温焼もどしにより特殊炭化物を形成して二次硬化に寄与し、またさらにCr,Mo,Vと炭化物を形成して耐摩耗性に寄与する」(1c)こと、「Crは・・・Cr炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる」(1c)こと、「Moは・・・炭化物を形成して耐摩耗性を向上させ」(1c)ること、「Vは・・・、微細な炭化物を形成して耐摩耗性および焼入性の向上に寄与する」(1c)ことが記載されているものの、前記相違点で示される本件発明の特定事項である炭化物の粒径や面積率について記載されていないし、また、炭化物と耐疲労強度や型寿命との関係についても全く記載されていない。 刊行物2には、合金工具鋼鋼材であるSKS3〜SKD12が主として冷間金型用であること、そして、この冷間金型用であるSKS3〜SKD12の焼入れ温度が790〜1050℃であることが記載されているのみで、前記相違点で示される本件発明の特定事項である炭化物の粒径や面積率について記載されていないし、また、炭化物と耐疲労強度や型寿命との関係についても全く記載されていない。 そこで、冷間工具鋼の製造方法の面から前記相違点について検討する。本件明細書には、本件発明の冷間工具鋼の製造方法に関し、「M7C3型炭化物の粒径を5〜15μm、面積率1〜9%とするためには、請求項に示した成分組成のものを溶製した後、1040℃で焼入れすることにより実現することができる。」(段落【0017】)と記載されているが、この記載では、「請求項に示した成分組成のものを溶製した後、1040℃で焼入れすること」が、「M7C3型炭化物の粒径を5〜15μm、面積率1〜9%とするため」の必要にして十分な条件であるのか、又は、必要な条件に過ぎないのかが必ずしも明りょうでない。そして、特許権者が提出した上申書によれば、M7C3型炭化物のサイズは、溶製時の鋼塊サイズ、圧延又は鍛造時の圧鍛比によっても影響されることが示され(図2と関連記載参照)、また、本件明細書には、本件発明の実施例として、溶製時の鋼塊サイズを600kg、鍛造時の鍛錬比を15sとする旨が記載されている(段落【0018】参照)。これに対し、刊行物1には、冷間工具鋼の製造方法に関し、上記(1d)には、「本発明の製法は、上記各組成の鋼材を焼きなましし、後焼入れし、しかる後450℃以上の高温で焼もどしすることによって製造する。この際の焼入れ温度は1000〜1060℃以内の高温で行うことが好適である」と記載され、また、上記(1e)〜(1h)には、C、Si、Mn、Cr、Mo、Vを含有し、残部Feである所定成分組成の鋼材を1040〜1060℃で焼入れする旨が記載されているから、本件発明と刊行物1記載の発明とは、冷間工具鋼の製造方法における焼入れ熱処理条件の点でも一致する部分が存在すると云える。しかしながら、本件発明の冷間工具鋼の実施例における製造方法は、溶製時の鋼塊サイズが600kg、鍛造時の鍛錬比が15sであるのに対し、刊行物1には、溶製時の鋼塊サイズや鍛造時の鍛錬比について記載されておらず、冷間工具鋼におけるM7C3型炭化物の粒径及び面積率に影響を与える製造条件が同一であるとは云えないから、製造方法の面からみても、刊行物1記載の発明が前記相違点で示される本件発明の「M7C3型炭化物の粒径を5〜15μm、面積率1〜9%とすることにより耐疲労強度の優れた型寿命を有する」という特定事項を満足しているとは云えない。 したがって、本件発明は、刊行物1に記載された発明であるとは云えないし、また、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも云えない。 なお、特許異議申立人は、回答書において、本件明細書に従来技術として記載された特開平2-277745号公報(以下、「参考資料1」という)に記載された発明(以下、「参考資料発明」という)は、成分組成が本件発明と重複し、焼入れ熱処理条件が類似していること、及び、参考資料1のNo5、8、9の鋼は、本件発明における炭化物の面積率に関する特定事項を満足することを根拠として、本件発明は、参考資料発明と実質的に同一であるか、又は、該参考資料発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。しかしながら、No5、8、9の鋼は、本件発明の成分組成を満足するものではないし、また、炭化物の粒径を5〜15μmとする旨の特定事項を満足するものでもない。しかも、参考資料発明の冷間工具鋼の製造方法は、炭化物の量や粒度を調整するために、1150〜1250℃で10〜20時間の高温拡散処理を含むものであるし(第4頁右上欄第7〜16行、左下欄第15〜20行参照)、また、前述したような、溶製時の鋼塊サイズや鍛造時の鍛錬比について規定されていないから、本件発明の冷間工具鋼の製造方法と一致するとは云えない。それ故、参考資料発明は、本件発明と成分組成が一致するものであったとしても、前記相違点で示される本件発明の「M7C3型炭化物の粒径を5〜15μm、面積率1〜9%とすることにより耐疲労強度の優れた型寿命を有する」という特定事項を満足しているとは云えない。したがって、特許異議申立人の前記主張は採用できない。 よって、本件特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してなされたものであるとは云えない。 (2)取消理由2について (2-1)取消理由2の概要 取消理由2において特許異議申立書の記載を引用して指摘した、補正が適法になされたものではない旨の具体的理由は、要するところ次の(イ)(ロ)のとおりである。 (イ)本件特許明細書段落【0011】のCrのより好ましい含有量としての「8.3%」という数値は、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、当初明細書という)に記載されておらず、しかも、当初明細書の記載からみて自明のものとも認められないから、当初明細書に記載した事項の範囲内のものではない。 (ロ)本件特許明細書段落【0017】のM7C3型炭化物の所定粒径と面積率を得るための焼入れ温度の限定理由は、当初明細書に記載されておらず、しかも、当初明細書の記載からみて自明のものとも認められないから、当初明細書に記載した事項の範囲内のものではない。 (2-2)上記(イ)(ロ)についての判断 上記(イ)及び(ロ)の理由は、段落【0011】及び【0017】の記載が上記2.で述べたとおりに訂正され、当初明細書に記載した事項の範囲内のものとなったから、もはや解消されたと云うべきである。 よって、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるとは云えない。 4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
| 発明の名称 |
(54)【発明の名称】 冷間工具鋼 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】重量%で、 C:0.75〜0.89%、 Si:2.0%以下、 Mn:0.1〜2.0%、 Cr:7.8〜11.0%、 MoまたはWのいずれか1種または2種をMo当量(Mo+1/2W):0.7〜5.0%、 VまたはNbのいずれか1種または2種をV当量(V+1/2Nb):0.1〜2.5%、 残部Feおよび不可避的不純物よりなり、M7C3型炭化物の粒径を5〜15μm、面積率1〜9%とすることにより耐疲労強度の優れた型寿命を有することを特徴とする冷間工具鋼。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、耐疲労強度の優れた高寿命型用冷間工具鋼に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 従来、冷間加工用工具には、JIS-SKD11が広く使用されている。しかし、塑性加工技術の進歩や被加工材の高強度化に伴い、使用される工具への応力負荷が大きくなり、500℃焼き戻しで60HRCの硬さが得られるSKD11でさえ、粗大なM7C3型炭化物により耐摩耗性は確保しているが、一方で、M7C3型炭化物は型寿命の低下をもたらす一因となっている。このような問題に対して、例えば特開平1-201442号公報、特開平2-247357号公報、特開平2-277745号公報、特開平3-134136号公報、および特開平5-156407号公報の発明が提案されている。 【0003】 この特開平1-201442号公報は、重量%で、C:0.90〜1.35%、Si:0.70〜1.40%、Mn:1.0%以下、S:0.004%以下、Cr:8.0〜10.0、MoとWの1種または2種をMo+W/2で1.5〜2.5%、VとNbの1種または2種をV+Nb/2で0.15〜2.5%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなり、さらに焼入れ焼もどし組織において、M7C3型炭化物の面積率を2%以上9%以下、MC炭化物の面積率を2.5%以下とした転造ダイス用鋼にある。確かに、この発明には、炭化物についての面積率、および粒径を規制しているが、しかし、主に靱性の向上、炭化物の連鎖状分布を経路とした亀裂伝播の抑制を目的としたものである。これに対し、本発明は金型寿命のばらつき、極度な低寿命をもたらす因子がM7C3型炭化物の割れによる亀裂発生、および亀裂伝播が大きな要因であることを見出し、そのためにはM7C3型炭化物を15μm以下とすることにより、金型寿命のばらつき、および極度な低寿命金型を低減し、金型の平均寿命の向上をはかると言うものである。 【0004】 また、特開平2-247357号公報は、上述の特開平1-201442号公報に、さらに、不純物であるAs,Sn,Sb,Cu,B,Pb,Biの合計量が0.13%以下からなる転造ダイス用鋼にある。さらに、特開平2-277745号公報は、焼入焼もどし組織において、粒径2μm以上のMC型残留炭化物とM6C型残留炭化物の1種または2種の合計の面積率が3%以下、粒径2μm以上のM7C3型残留炭化物の面積率が1%以下と規制したものである。いずれも、特開平1-201442号公報と同様に、主に靱性の向上、炭化物の連鎖状分布を経路とした亀裂伝播の抑制を目的としたものである。これに対し、本発明は、前述のように、M7C3型炭化物の割れによる亀裂発生、および亀裂伝播が大きな要因であることを見出し、しかも、そのM7C3型炭化物の破壊起点が粒径15μm以下であることを見出したものである。 【0005】 特開平3-134136号公報も、上述の特開平1-201442号公報に、さらに、不可避的不純物のうち、Pは0.02%以下、Sは0.005%以下、Oは30ppm以下、Nは300ppm以下であり、さらに焼入焼もどし組織において、粒径2μm以上のM7C3型残留炭化物の面積率が8%以下、粒径2μm以上のMC型残留炭化物およびM6C型残留炭化物の1種または2種の合計の面積率が3%以下である高硬度、高靱性冷間工具であり、また、特開平5-156407号公報は、焼入焼もどし後において、M7C3型一次炭化物が面積率で4.0%以下、MC型一次炭化物が面積率で0.5%以下、一次炭化物の最大粒径が実質的に20μm以下で基地中に均一に分散したミクロ組織となり、さらに1050℃〜1100℃の焼入温度から、500℃までの焼入冷却速度を25℃/minとして焼入れし、これを高温焼もどしした場合の硬さがHRC64以上を得ることのできる高性能転造ダイス用鋼にある。 【0006】 特開平3-134136号公報、および特開平5-156407号公報のいずれも、主に靱性の向上、炭化物の連鎖状分布を経路とした亀裂伝播の抑制を目的としたものである。これに対し、本発明は前述同様に、M7C3型炭化物の割れによる亀裂発生、および亀裂伝播が大きな要因であることを見出し、しかも、そのM7C3型炭化物の破壊起点が粒径15μmであることから、M7C3型炭化物を15μm以下とすることにより、金型寿命のばらつき、および極度な低寿命金型を低減し、金型の平均寿命の向上を図ることにある。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 上述した従来技術は、靱性また強度の点から炭化物サイズを規制したものである。この理由は、一次炭化物の欠落による微少欠損を生じたり、クラックの進展経路となることを防ぐためである。これに対し、近年の塑性加工技術の進歩や被加工材の高強度化に伴い、工具の耐摩耗性向上を目的に、さらに耐疲労性を兼ね供えた金型に適した工具鋼が必要とされることから、本発明は、耐摩耗性を兼ね供えた引張圧縮疲労強度の優れた高寿命が得られる冷間工具鋼を提供することを目的とするものである。 【0008】 【課題を解決するための手段】 その発明の要旨とするところは、 重量%で、C:0.75〜0.89%、Si:2.0%以下、Mn:0.1〜2.0%、Cr:7.8〜11.0%、MoまたはWのいずれか1種または2種をMo当量(Mo+1/2W):0.7〜5.0%、VまたはNbのいずれか1種または2種をV当量(V+1/2Nb):0.1〜2.5%、残部Feおよび不可避的不純物よりなり、M7C3型炭化物の粒径を5〜15μm、面積率1〜9%とすることにより耐疲労強度の優れた型寿命を有することを特徴とする冷間工具鋼にある。 【0009】 【発明の実施の形態】 以下に、本発明鋼の各化学成分の作用およびその限定理由を説明する。 Cは、焼入焼戻により、十分なマトリックス硬さを与えると共に、Cr,Mo,V,Nbなどと結合して炭化物を形成し、高温強度、耐摩耗性を与える元素である。しかし、添加量が多過ぎると、凝固時に粗大炭化物が過剰に析出し靱性を阻害することから、Cの上限を0.89%とした。一方、0.65%未満では、十分な二次硬化硬さが得られないので、その下限を0.65%としたが、強度と靱性の最適バランスを得るためには、0.75〜0.89%の範囲が望ましい。 【0010】 Siは、主に脱酸剤として添加されると共に、耐酸化性、焼入性に有効な元素であると共に、焼戻過程において炭化物の凝集を抑え二次硬化を促進する元素である。しかし、2.0%を越えて添加すると、靱性を低下させるので、その上限を2.0%とした。 Mnは、Siと同様に脱酸剤として添加し鋼の清浄度を高めると共に焼入れ性を高める元素である。しかしながら、2.0%を越えて添加すると、冷間加工性を阻害するうえに靱性を低下させるので、その上限を2.0%とした。 【0011】 Crは、焼入れ性を高めると共に、焼戻軟化抵抗を高める有効な元素である。この効果を満足するためには、好ましくは7.8%以上、より好ましくは8.2%以上必要である。従って、その下限を7.8%とした。一方、Crは、凝固時にCと結合して巨大一次炭化物を形成し易く、過剰な添加は、靱性を低下させるため、その上限を11.0%、とした。 【0012】 MoおよびWは、共に微細な炭化物を形成し、二次硬化に寄与する重要な元素であると共に、耐軟化抵抗性を改善する元素である。ただし、その効果はMoの方がWよりも2倍強く、同じ効果を得るのに、WはMoの2倍必要である。この両元素の効果は、Mo当量(Mo+1/2W)で表すことができる。本発明成分系においては、Mo当量で少なくとも0.7%以上が必要である。逆に、Mo当量の過剰添加は、靱性を低下を招くので、その上限を5.0%とした。 【0013】 V、Nbは、共に二次硬化に有効であり、Cと硬い炭化物を形成して耐摩耗性の向上に大きく寄与すると共に結晶粒を微細化する。ただし、その効果はVの方がNbよりも2倍強く、同じ効果を得るのに、NbはVの2倍必要である。この両元素の効果はV当量(V+1/2Nb)で表すことができる。本発明成分系においては、高温焼戻し硬度を得るためには、V当量で少なくとも0.1%以上が必要である。過剰な添加は靱性を劣化させるため、その上限を2.5%とした。 【0014】 次に、冷間工具鋼において、凝固時に晶出する共晶炭化物であるが、従来は靱性、または強度の点から炭化物のサイズを規定していたものである。その理由は、一次炭化物の欠落による微小欠損を生じたり、クラックの進展経路となることを防ぐために規制したものである。しかし、この点を詳しく究明した結果、本発明の最大の特徴は、特に冷間工具鋼としての金型ダイス等の工具寿命を左右する要因としての引張圧縮疲労での優れた寿命が必要で、実際の金型において、疲労に起因した破損は、M7C3型炭化物の割れによる亀裂発生、および亀裂伝播が大きな要因を占めていることを見出し、そのためには、M7C3型炭化物の粒径が15μm以下の場合に著しく軽減することを見出したものである。 【0015】 図1は、M7C3型炭化物サイズと破断繰返し数および耐摩耗性との関係を示す図である。この図によれば、引張圧縮疲労試験の結果によれば、M7C3型炭化物の粒径が15μmを越えると著しく破断繰返し数(N)が減少することが判明した。一方、大越式摩耗試験の結果によると、M7C3型炭化物の粒径が5μm未満で著しく耐摩耗性の減少が現れることが判明した。 【0016】 図2は、M7C3型炭化物サイズと金型寿命(ショット数)との関係を示す図である。この図によれば、摩耗による金型の廃却、および炭化物の割れに起因した廃却からの金型寿命を試験した結果、M7C3型炭化物サイズが5μm未満では、摩耗による金型の廃却において、また、M7C3型炭化物の粒径が15μmを越えると、炭化物の割れによる廃却から金型寿命としての指数であるショット数の減少することが判る。その結果、両者の要因による金型寿命によって、M7C3型炭化物の粒径を5〜15μmの範囲に規制することが最適であることを究明した。すなわち、M7C3型炭化物の粒径について、引張圧縮疲労と疲労に起因した破損から15μm以下が好ましい。また、耐摩耗性の観点から5μm以上が望ましい。 【0017】 さらに、M7C3型炭化物の面積率は、耐摩耗性の観点からは炭化物が多いほど良好となり、少なくとも1%以上のM7C3型炭化物が必要となる。一方、耐疲労特性の点から、炭化物をできるかぎり均一に分散させるため、9%以下とすることが望ましい。従って、M7C3型炭化物の面積率を1〜9%とした。 上述したように、M7C3型炭化物の粒径を5〜15μm、面積率1〜9%とするためには、請求項に示した成分組成のものを溶製した後、1040℃で焼入れすることにより実現することができる。この1040℃であれば所定の粒径および面積率の炭化物が得られ、また、焼入れ時に旧オーステナイト粒が粗大化することなく、靱性、疲労強度の低下も防止でき、さらに、焼戻しても十分な硬さが得られない。 【0018】 【実施例】 以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。 表1に示す組成の鋼600kgを真空誘導溶解炉にて出鋼した後、加熱温度1100℃、鍛錬比15sで鍛伸を行い、室温まで徐冷した後、860℃にて焼鈍を施し供試材とした。この試験片および金型は、1040℃に30分保持後、空冷して焼入し、520℃で60分保持後空冷処理を2回施した。また、引張圧縮疲労試験は、平行部、径5×15mmの試験片を加工後、油圧サーボ試験機を用い、応力振幅1300MPa、応力比R=-1、室温の条件下で行った。 【0019】 【表1】 ![]() 【0020】 大越式摩耗試験は、SCM420(86HRB)を相手材とし、摩耗距離200m、最終荷重62Nの条件下で行い、試験結果は比較鋼4の摩耗量を100として表した。さらに、実機での金型試験は、径120×100mmの鍛造用金型を作製し、SCM420を被加工材として試験を行った。金型は摩耗または割れによって廃却となり、割れによって廃却された金型は、廃却金型の内部を調査した結果、炭化物の割れが破壊起点となった。また、炭化物の規定方法としては、測定面、T面1/4部、粒径は画像処理装置による円相当径、面積率は画像処理装置により測定し、M7C3炭化物については、本発明では、2μm以上の炭化物を全てM7C3型炭化物とみなした。 【0021】 その結果を表2に示す。表2に示すように、本発明鋼No1〜3はいずれもM7C3炭化物粒径5〜15μmであり、しかも、M7C3炭化物面積率(%)が1〜9%の範囲であり、その場合の硬さ(HRC)は、いずれも59HRC以上の硬さを維持した上で、従来の冷間工具鋼No4〜5よりもはるかに優れた引張圧縮疲労強度、金型寿命延長をはかることが出来た。 【0022】 【表2】 ![]() 【0023】 【発明の効果】 以上述べたように、本発明鋼は、冷間工具鋼としてのM7C3炭化物の粒径およびM7C3炭化物の面積率を一定範囲に規制することにより、極めて優れた型寿命を確保することが可能となり、金型用工具鋼として従来のものに比べて経済的で極めて有利なものとなった。 【図面の簡単な説明】 【図1】 M7C3型炭化物サイズと破断繰返し数および耐摩耗性との関係を示す図である。 【図2】 M7C3型炭化物サイズと金型寿命(ショット数)との関係を示す図である。 【図面】 ![]() ![]() |
| 訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
| 異議決定日 | 2005-11-29 |
| 出願番号 | 特願平10-607 |
| 審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(C22C)
P 1 651・ 121- YA (C22C) P 1 651・ 55- YA (C22C) |
| 最終処分 | 維持 |
| 前審関与審査官 | 中村 朝幸 |
| 特許庁審判長 |
綿谷 晶廣 |
| 特許庁審判官 |
酒井 美知子 平塚 義三 |
| 登録日 | 2003-07-25 |
| 登録番号 | 特許第3455407号(P3455407) |
| 権利者 | 山陽特殊製鋼株式会社 |
| 発明の名称 | 冷間工具鋼 |
| 代理人 | 杉岡 幹二 |
| 代理人 | 穂上 照忠 |
| 代理人 | 椎名 彊 |
| 代理人 | 椎名 彊 |