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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  F15B
管理番号 1133138
審判番号 無効2005-80003  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-05-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-12-27 
確定日 2006-01-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3456966号発明「シリンダ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3456966号の請求項1ないし3に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3456966号に係る主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成12年11月 9日 出願(特願2000-342560号)
平成15年 8月 1日 設定登録
平成16年12月27日 本件無効審判請求
平成17年 3月22日 審判事件答弁書、訂正請求書
平成17年 5月25日 審判事件弁駁書
平成17年 9月 2日 口頭審理、口頭審理陳述要領書(請求人、被請求
人)
平成17年 9月14日 上申書(被請求人)
平成17年 9月30日 上申書(請求人)

第2 訂正請求について
1. 訂正請求の内容
被請求人は平成17年3月22日付けで訂正請求書を提出し訂正を求めた(以下、この訂正を「本件訂正」という。)が、その訂正の内容は、次のとおりである。
[訂正事項1]
特許査定時の明細書(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】 シリンダチューブと、
前記シリンダチューブ内を摺動自在に移動するピストンと、
前記ピストンに一端部が固定され他端部が前記シリンダチューブから延び出るピストンロッドと、
前記シリンダチューブに外嵌または内嵌され前記シリンダチューブの端部を密閉するエンドカバーと、
前記エンドカバーを前記シリンダチューブに着脱可能に固定するため前記エンドカバーに螺合されるロックナットとを含むシリンダであって、
前記シリンダチューブの端部には、前記シリンダチューブの側壁に斜めに交差する角度で前記シリンダチューブと一体に形成されたフランジ部が形成され、
前記シリンダチューブの一端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの側壁に交差する方向の外側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部は前記シリンダチューブに外設された前記ロックナットと前記エンドカバーとで挟持され、
前記シリンダチューブの他端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの側壁に交差する方向の内側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部は前記シリンダチューブに内設された前記エンドカバーと前記ロックナットとで挟持され、
前記エンドカバーと前記ロックナットとで前記フランジ部を挟持することにより、前記シリンダチューブと前記エンドカバーと前記ロックナットとが着脱可能に固定される、シリンダ。」
の記載を、
「【請求項1】 金属製パイプよりなるシリンダチューブと、
前記シリンダチューブ内を摺動自在に移動するピストンと、
前記ピストンに一端部が固定され他端部が前記シリンダチューブから延び出るピストンロッドと、
前記シリンダチューブに外嵌または内嵌され前記シリンダチューブの端部を密閉するエンドカバーと、
前記エンドカバーを前記シリンダチューブに着脱可能に固定するため前記エンドカバーに螺合されるロックナットとを含むシリンダであって、
前記シリンダチューブの端部には、前記シリンダチューブの側壁に斜めに交差する角度で前記シリンダチューブと一体に形成されたフランジ部が形成され、
前記シリンダチューブの一端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部を全周にわたってラッパ状に拡げることにより外側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部は、前記シリンダチューブに外設された前記エンドカバーと、当該フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部のエンドカバーとは反対側の斜面に当接する係着部が形成された前記ロックナットとで挟持され、
前記シリンダチューブの他端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部を全周にわたって内側に絞り込むことにより内側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部は、前記シリンダチューブに内設された前記エンドカバーと、当該フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部の外側斜面に当接する係着部が形成された前記ロックナットとで挟持され、
前記エンドカバーと前記ロックナットとで前記フランジ部を挟持することにより、前記シリンダチューブと前記エンドカバーと前記ロックナットとが着脱可能に固定される、シリンダ。」
と訂正する。
なお、下線は訂正箇所を明示するために当審で付したものである。(以下同様である。)

[訂正事項2]
特許明細書の特許請求の範囲の請求項2の
「【請求項2】 前記エンドカバーまたは前記ロックナットのインロー部と前記フランジ部との間にシール部材が挟持された、請求項1に記載のシリンダ。」
の記載を、
「【請求項2】 前記エンドカバーのインロー部と前記フランジ部との間にシール部材が挟持され、前記シリンダチューブ他端部のエンドカバーには、該シリンダチューブの外側へ延び出る面を囲繞してインロー部が形成され、該インロー部の互いに直行する面と当該他端部のフランジ部の斜めに延びる内側面とに囲まれて形成される三角形の隙間に、前記シール部材が配置されている、請求項1に記載のシリンダ。」
と訂正する。

[訂正事項3]
特許明細書の発明の詳細な説明欄の段落【0007】の
「【課題を解決するための手段】本発明は、シリンダチューブと、シリンダチューブ内を摺動自在に移動するピストンと、ピストンに一端部が固定され他端部が前記シリンダチューブから延び出るピストンロッドと、シリンダチューブに外嵌または内嵌され前記シリンダチューブの端部を密閉するエンドカバーと、エンドカバーをシリンダチューブに着脱可能に固定するためエンドカバーに螺合されるロックナットとを含むシリンダであって、シリンダチューブの端部には、シリンダチューブの側壁に斜めに交差する角度でシリンダチューブと一体に形成されたフランジ部が形成され、シリンダチューブの一端部のフランジ部は、シリンダチューブの側壁に交差する方向の外側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部はシリンダチューブに外設されたロックナットとエンドカバーとで挟持され、シリンダチューブの他端部のフランジ部は、シリンダチューブの側壁に交差する方向の内側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部はシリンダチューブに内設されたエンドカバーとロックナットとで挟持され、エンドカバーとロックナットとでフランジ部を挟持することにより、シリンダチューブとエンドカバーとロックナットとが着脱可能に固定される、シリンダである。」
の記載を、
「【課題を解決するための手段】
本発明は、金属製パイプよりなるシリンダチューブと、シリンダチューブ内を摺動自在に移動するピストンと、ピストンに一端部が固定され他端部が前記シリンダチューブから延び出るピストンロッドと、シリンダチューブに外嵌または内嵌され前記シリンダチューブの端部を密閉するエンドカバーと、エンドカバーをシリンダチューブに着脱可能に固定するためエンドカバーに螺合されるロックナットとを含むシリンダであって、シリンダチューブの端部には、シリンダチューブの側壁に斜めに交差する角度でシリンダチューブと一体に形成されたフランジ部が形成され、シリンダチューブの一端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部を全周にわたってラッパ状に拡げることにより外側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部は、前記シリンダチューブに外設された前記エンドカバーと、当該フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部のエンドカバーとは反対側の斜面に当接する係着部が形成された前記ロックナットとで挟持され、前記シリンダチューブの他端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁側を全周にわたって内側に絞り込むことにより内側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部は、前記シリンダチューブに内設された前記エンドカバーと、当該フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部の外側斜面に当接する係着部が形成された前記ロックナットとで挟持され、エンドカバーとロックナットとでフランジ部を挟持することにより、シリンダチューブとエンドカバーとロックナットとが着脱可能に固定される、シリンダである。」
と訂正する。

[訂正事項4]
特許明細書の発明の詳細な説明欄の段落【0010】の
「本発明において、エンドカバーまたはロックナットのインロー部とフランジ部との間にシール部材を挟持することが好ましい。」
の記載を、
「本発明において、エンドカバーのインロー部とフランジ部との間にシール部材が挟持され、前記シリンダチューブ他端部のエンドカバーには、該シリンダチューブの外側へ延び出る面を囲繞してインロー部が形成され、該インロー部の互いに直行する面と当該他端部のフランジ部の斜めに延びる内側面とに囲まれて形成される三角形の隙間に、前記シール部材が配置されていることが好ましい。」
と訂正する。

2.訂正の可否に対する判断
(1)訂正事項1について
上記訂正事項1の訂正は、訂正前の請求項1に係る発明における発明特定事項である「シリンダチューブ」について、「金属製パイプよりなる」との限定を付加し、以下同様に、「シリンダチューブの一端部のフランジ部」について、その形状が「端縁部を全周にわたってラッパ状に拡げることにより」形成されるとの限定を付加すると共に、該フランジ部を挟持する「ロックナット」について、「当該フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部のエンドカバーとは反対側の斜面に当接する係着部が形成された」との限定を付加し、「シリンダチューブの他端部のフランジ部」について、その形状が「端縁部を全周にわたって内側に絞り込むことにより」形成されるとの限定を付加すると共に、該フランジ部を挟持する「ロックナット」について、「フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部の外側斜面に当接する係着部が形成された」との限定を付加するものであり、いずれも構成を限定する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
そして当該訂正は、特許明細書の段落【0016】、【0021】及び【0024】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
上記訂正事項2の訂正は、訂正前の請求項2に係る発明における発明特定事項である「エンドカバーまたは前記ロックナットのインロー部」という選択的な記載を「エンドカバーのインロー部」に限定し、同じく発明特定事項である「シール部材」の配置について、「シリンダチューブ他端部のエンドカバーには、該シリンダチューブの外側へ延び出る面を囲繞してインロー部が形成され、該インロー部の互いに直行する面と当該他端部のフランジ部の斜めに延びる内側面とに囲まれて形成される三角形の隙間に」配置されるとの限定を付加するものであり、いずれも構成を限定する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
そして当該訂正は、特許明細書の段落【0023】に基づくものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
上記訂正事項3の訂正は、訂正前の特許明細書の発明の詳細な説明欄の段落【0007】の記載を、訂正された請求項1に係る発明の構成に整合させるための訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第3項に掲げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
(4)訂正事項4について
上記訂正事項4の訂正は、訂正前の特許明細書の発明の詳細な説明欄の段落【0010】の記載を、訂正された請求項2に係る発明の構成に整合させるための訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第3項に掲げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。

3.むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし4は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び、同条第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 本件特許の請求項1ないし3に係る発明
本件訂正が認められるため、訂正明細書の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本願発明3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 金属製パイプよりなるシリンダチューブと、
前記シリンダチューブ内を摺動自在に移動するピストンと、
前記ピストンに一端部が固定され他端部が前記シリンダチューブから延び出るピストンロッドと、
前記シリンダチューブに外嵌または内嵌され前記シリンダチューブの端部を密閉するエンドカバーと、
前記エンドカバーを前記シリンダチューブに着脱可能に固定するため前記エンドカバーに螺合されるロックナットとを含むシリンダであって、
前記シリンダチューブの端部には、前記シリンダチューブの側壁に斜めに交差する角度で前記シリンダチューブと一体に形成されたフランジ部が形成され、
前記シリンダチューブの一端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部を全周にわたってラッパ状に拡げることにより外側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部は、前記シリンダチューブに外設された前記エンドカバーと、当該フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部のエンドカバーとは反対側の斜面に当接する係着部が形成された前記ロックナットとで挟持され、
前記シリンダチューブの他端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部を全周にわたって内側に絞り込むことにより内側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部は、前記シリンダチューブに内設された前記エンドカバーと、当該フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部の外側斜面に当接する係着部が形成された前記ロックナットとで挟持され、
前記エンドカバーと前記ロックナットとで前記フランジ部を挟持することにより、前記シリンダチューブと前記エンドカバーと前記ロックナットとが着脱可能に固定される、シリンダ。
【請求項2】 前記エンドカバーのインロー部と前記フランジ部との間にシール部材が挟持され、前記シリンダチューブ他端部のエンドカバーには、該シリンダチューブの外側へ延び出る面を囲繞してインロー部が形成され、該インロー部の互いに直行する面と当該他端部のフランジ部の斜めに延びる内側面とに囲まれて形成される三角形の隙間に、前記シール部材が配置されている、請求項1に記載のシリンダ。
【請求項3】 前記エンドカバーを貫いて前記シリンダチューブ内に通じる流路が形成された、請求項1または請求項2に記載のシリンダ。」

第4 当事者の主張
1.請求人の主張の概要
請求人が主張する無効理由は、概略次のとおりである。
[無効理由1]
本件発明1ないし3は、以下の甲第1ないし10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲第1号証:実願昭54-122882号(実開昭56-39604号)の
マイクロフィルム
甲第2号証:実願昭49-143390号(実開昭51-70386号)の
マイクロフィルム
甲第3号証:実願平5-22703号(実開平6-80982号)のCD-
ROM
甲第4号証:実願昭56-70040号(実開昭57-182606号)の
マイクロフィルム
甲第5号証:実願昭63-93423号(実開平2-14807号)のマイ
クロフィルム
甲第6号証:実願昭49-42223号(実開昭50-131491号)の
マイクロフィルム
甲第7号証:実願昭48-38923号(実開昭49-138288号)の
マイクロフィルム
甲第8号証:実願昭59-61665号(実開昭60-173704号)の
マイクロフィルム
甲第9号証:「ハンドブック シール,ゴム・プラスチック製品」、三菱電
線工業(株)機器部品事業部編集・発行、昭和63年12月1
5日改訂、p.177-178
甲第10号証:「機械設計ハンドブック」、株式会社朝倉書店、昭和45年
7月30日3刷発行、p.602
なお、請求人が平成17年9月2日付けで提出した口頭審理陳述要領書に添付した甲第11号証(「JIS工業用語大辞典【第5版】」、財団法人日本規格協会、2001年3月30日第5版第1刷発行、p.1037)、及び、同じく請求人が平成17年9月30日付けで提出した上申書に添付した甲第12号証(特開平6-235485号公報)は、参考資料として取り扱うこととする。
[無効理由2]
訂正後の請求項2の記載は不明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができない。

2.被請求人の主張の概要
被請求人の主張は、概略次のとおりである。
[無効理由1に対して]
本件発明1ないし3は、甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではないので、特許法第29条第2項の規定に該当しない。
また、甲第9号証については、その頒布性を認めることができないので、「頒布された刊行物」に該当しない。
[無効理由2に対して]
訂正後の請求項2の記載は不明確とはいえず、特許法第36条第6項第2号の規定に違反しない。

第5 無効理由2についての検討
まず、上記無効理由2について検討する。
請求人は、請求項2の「シリンダチューブの外側へ延び出る面を」との記載について、他の特許請求の範囲中の「内側・外側」の記載がシリンダチューブの端部に形成されているフランジ部の傾斜方向に基づいて、シリンダチューブの半径方向内方を内側、外方を外側と表記しているとして、前記記載はシリンダチューブの側壁から半径方向の外方へ向かって延び出ることを意味するとし、また、当該記載が内向フランジ部が形成されているシリンダ他端部に関する記載であることから、シリンダ他端部に形成されたフランジ部の延び出る方向について矛盾した記載となっている旨主張している。
しかしながら、シリンダチューブの内側・外側という概念は、シリンダチューブの半径方向に限定して解釈されるものではなく、内部空間側・外部空間側として解釈されるのが相当である。また、「シリンダチューブの外側へ延び出る面を」有するのが「シリンダチューブ他端部のエンドカバー」であることは、訂正後の請求項2の記載、及び、本件の特許明細書の段落【0023】の記載から明らかであり、そして当該記載から、エンドカバーがシリンダチューブの内部から外部に延び出ており、その延び出た面を囲繞してインロー部が形成されていることも明らかである。
そうしてみると、訂正後の請求項2の「シリンダチューブの外側へ延び出る面を」との記載は、シリンダチューブ他端部のエンドカバーに関する記載として何ら不明確な点はないので、特許法第36条第6項第2号の規定に違反しているとはいえない。

第6 無効理由1について
次に、無効理由1について検討する。
1.甲第9号証の頒布性について
被請求人は、口頭審理において、甲第9号証に「非売品」との表示があることを理由として、その頒布性が認められないと主張している。
しかしながら、当該表示は甲第9号証が一般的な商品として販売されていたものではないことを示すだけであり、その頒布性、公知性を否定するものではない。また、この種の一企業が発行する非売品のハンドブックは、関連部署・企業等に広く頒布されているのが一般的であり、そうしてみると、甲第9号証も関連部署・企業等に広く頒布されていたとするのが相当である。
したがって、甲第9号証は「頒布された刊行物」と認める。

2.各甲号証に記載の発明または技術的事項
(1)甲第1号証記載の発明
甲第1号証には、「油圧シリンダ」に関し、図面と共に以下の事項が記載されている。
なお、一部拗音・促音が直音で表されていると思われる箇所については、当審で拗音・促音に直して表記することとした。
(ア)「符号1はシリンダチューブで、このシリンダチューブ1の両端は、取付部2をもつシリンダボトム3と、内部にシール4を嵌装したシリンダヘッド5とによってそれぞれ密封されており、このシリンダチューブ1内には、図示は省略しているが、外周にシールを嵌着したピストンが摺動自在に挿入され、その内部を圧力室A,Bに区画している。そして、このピストンの一端からはピストンロッド6が延び、このピストンロッド6は、圧力室Bとシリンダヘッド5を貫通して外部に突出し、かつ先端に前記シリンダボトム3側の取付部2と対応する他方の取付部7が設けられている。
一方、前記シリンダボトム3およびシリンダヘッド5には、圧力室A,Bを油圧源とリザーバに対して選択的に連通する為の油ポート8,9が構成されており、」(第2頁第7行〜第3頁第3行)
(イ)「本実施例油圧シリンダのシリンダチューブ1には、そのシリンダボトム3側端部の内側に、軸方向に延設され、かつ開口部に向うにしたがって、その断面肉厚が大きくなる様形成された楔状の鍔部1aが設けられて成る。」(第3頁第15〜19行)
(ウ)「13は、前記シリンダチューブ1の鍔部1aとシリンダボトム3の嵌入端部10との間に設けられた断面楔形状の内部空間14内に介装されたコアで、その断面形状は、前記内部空間14の形状に合わせて楔形状と成っている。また、15は前記シリンダボトム3をシリンダチューブ1に取外し可能に結合して成る袋ナット状のカラーで、このカラー15は、その軸穴16が2段円筒状に形成され、そして、小径軸穴16aは、前記シリンダボトム3に環合できる如く形成され、かつその穴壁には前記雄ねじ部12に対応してこれと螺合する雌ねじ部16bが螺設されて成り、一方、大径軸穴16cは前記シリンダチューブ1の一端部に環合できる如く設けられている。」(第4頁第12行〜第5頁第5行)
(エ)「したがって、今このシリンダボトム3をシリンダチューブ1から分解しようとする場合は、まずカラー15を反締付方向に回転させていくことによってシリンダボトム3から取外し、しかる後このシリンダボトム3をシリンダチューブ1の内方に押し込んでいき、シリンダチューブ1のシリンダヘッド側から取外す様にしている。」(第5頁第9〜16行)
(オ)「油圧シリンダのシリンダボトム側が以上の様に構成されている関係上、シリンダヘッド側の構成は、第2図に示す様に、シリンダヘッド5をシリンダチューブ1の内方に押し込むことなく、シリンダチューブ1の外方に直接取外せる様な構成とする必要がある。(なお、このシリンダヘッド側の構成は第2図に示す構造に限定されるものではない。)すなわち、このシリンダヘッド側の構成を述べるに、シリンダチューブ1のシリンダヘッド5側端部の外周側には楔状の鍔部1bを形成してあり、またこの鍔部1bの内側には断面楔状のコア13′が介装されている。一方、この鍔部1bの周面には、2つ割に分割可能に形成されたリング体17が環着され、さらにこのリング体17にはこのリング体17を把持固定するカラー18が環着されて成る。そして、シリンダヘッド5のフランジ部5aおよびリング体17のフランジ部17aの相対応する位置には、円周方向に一定間隔おきにねじ穴が螺設され、このねじ穴にボルト19が螺入され、これによってシリンダヘッド5をシリンダチューブ1に締結して成る。」(第5頁第17行〜第6頁17行)
以上の記載事項(ア)ないし(オ)並びに第1図及び第2図の記載からみて、シリンダチューブ1とシリンダヘッド5及びシリンダボトム3とリング体17及びカラー15とが着脱可能に固定されることは明らかである。
また、記載事項(ウ)には「シリンダチューブ1の鍔部1aとシリンダボトム3の嵌入端部10との間に」「断面楔形状の内部空間14」が設けられると記載されており、この記載に基づいて第1図を参酌すると、シリンダボトムの嵌入端部10には、シリンダボトム3のシリンダチューブ1から外部へ延び出る面を囲繞して直行する面を有したインロー部が形成され、当該インロー部の互いに直行する面と鍔部1aの内側面とで三角形の隙間が形成されていると認められる。
そうしてみると、甲第1号証には次の発明(以下、「引用発明1」ないし「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明1]
「シリンダチューブ1と、
前記シリンダチューブ1内を摺動自在に移動するピストンと、
前記ピストンに一端部が固定され他端部が前記シリンダチューブ1から延び出るピストンロッド6と、
前記シリンダチューブ1に外嵌または内嵌され前記シリンダチューブ1の端部を密閉するシリンダヘッド5及びシリンダボトム3と、
前記シリンダボトム3を前記シリンダチューブ1に着脱可能に固定するため前記シリンダボトム3に螺合されるカラー15とを含むシリンダであって、
前記シリンダチューブ1の端部には、前記シリンダチューブ1の側壁に斜めに交差する角度で前記シリンダチューブ1と一体に形成された鍔部1a、1bが形成され、
前記シリンダチューブ1の一端部の鍔部1bは、前記シリンダチューブ1の端縁部に全周にわたって外側へ向かって傾斜した部位が形成され、該鍔部1bは、前記シリンダチューブ1に外設された前記シリンダヘッド5と、当該鍔部1bと同じ角度で斜めに延びて鍔部1bのシリンダヘッド5とは反対側の斜面に当接する係着部が形成された前記リング体17とで挟持され、
前記シリンダチューブ1の他端部の鍔部1aは、前記シリンダチューブ1の端縁部に全周にわたって内側へ向かって傾斜した部位が形成され、該鍔部1aは、前記シリンダチューブ1に内設された前記シリンダボトム3と、当該鍔部1aの外側に当接する前記カラー15とで挟持され、
前記シリンダヘッド5及びシリンダボトム3と前記リング体17及びカラー15とで前記鍔部1b及び1aを挟持することにより、前記シリンダチューブ1と前記シリンダヘッド5及びシリンダボトム3と前記リング体17及びカラー15とが着脱可能に固定される、シリンダ。」
[引用発明2]
「引用発明1において、
前記シリンダボトム3のインロー部と前記鍔部1aとの間にコア13が挟持され、前記シリンダチューブ1他端部のシリンダボトム3には、該シリンダチューブ1の外側へ延び出る面を囲繞してインロー部が形成され、該インロー部の互いに直行する面と当該他端部の鍔部1aの斜めに延びる内側面とに囲まれて形成される三角形の隙間に、前記コア13が配置されている、シリンダ。」
[引用発明3]
「引用発明1または2において、
前記シリンダヘッド5及びシリンダボトム3を貫いて前記シリンダチューブ1内に通じる油ポート9及び8が形成された、シリンダ。」

(2)甲第3号証記載の事項
甲第3号証には、「管継手」に関し、図面と共に以下の事項が記載されている。
(カ)「 図1から明らかなように、この考案による管継手はナットつば部5bの内面に形成された内側傾斜面5cと、接続管端部が内側傾斜面5cと同一傾斜角度でラッパ状に成形されたフレアー部6aとを備えている。継手本体端部には接続管軸に平行に内周側突起1aと外周側突起1bとが形成される。内周側突起1aと外周側突起1bとの間には接続管軸と同心円上に環状溝1cが設けられ、パッキン2が嵌装される。ナット5は接続管6の外径よりやや大きい内径の開口部5aを有する。
図2に示すように、ナット5の締付け完了時には内周側突起1aと外周側突起1bはフレアー部6aの内周面6bと当接する。外周側突起1bが内周側突起1aより先んじて内周面6bに当接することにより、パッキン2の外周方向へのはみ出しを防止する。また、外周側突起1bの先端角度βがフレアー部6aの傾斜角度αより小さいことによってもパッキン2のはみ出しを防止でき、シール性の向上を図っている。」(第4頁第25行〜第5頁第9行、段落【0008】及び【0009】参照)

(3)甲第4号証記載の事項
甲第4号証には、「シリンダのポート位置変更機構」に関し、図面と共に以下の事項が記載されている。
(キ)「ロックナット10は、前記スリーブ9のテーパー部T1と合致するテーパー部T2を有しており、テーパー部T1とT2を摺接させた状態で、ロックナット10はロッドカバー3に螺合されている。」(第5頁第13〜17行)

(4)甲第7号証記載の事項
甲第7号証には、「流体圧シリンダ」に関し、図面と共に以下の事項が記載されている。
(ク)「上記のような本考案を実施したところシリンダチューブの肉厚2mm、18-8ステンレス、ヘッドカバーの材質軽合金において80mmのチューブ内径で流体圧7kg/cm2で十分実用に耐えるシリンダを製作することができ、」(第8頁第16〜20行)

(5)甲第8号証記載の事項
甲第8号証には、「油圧シリンダ」に関し、図面と共に以下の事項が記載されている。
(ケ)「金属ライナの端部を外周方向にテーパ状に拡げた拡径部を形成し、金属ライナの外側にほぼ均一的な肉厚の複合材チューブを嵌合一体化し、前記拡径膨出部を、シリンダヘッドまたはボトムに対してボルト結合される締結リングを介して挟持固定したことを特徴とする油圧シリンダ。」(第1頁第5〜10行、実用新案登録請求の範囲参照)
(コ)「シリンダチューブ1の推力発生時の抜け止めのため、チューブ端部の外側に膨出部5が形成され、この膨出部5を締結リング4で係止保持するのである。
この場合、膨出部5は、第3図のように端面方向から形成したスリット6に、軸に直交方向から繊維を巻いたコア7を入れたり、第4図のように、外側に折曲したつば部8の間にコア7を入れたりして形成していた。
しかし、このようにコア7をつくるのは、工数的に多大なものを要求されるし、シリンダ推力に充分に耐える強度(抜け止め)をもたせるには、複合材を相当厚くしなければならなかった。
(考案の目的)
本考案はこのような問題を解消することを目的とする。」(第2頁第4〜19行)
(サ)「(実施例)
第1図は本考案の第1実施例を示す。シリンダチューブ9は、内周に金属ライナ10、外周に複合材チューブ12が2重チューブ状に形成されたもので、その端部には膨出部13が形成される。(11はピストンロッドを示す)
膨出部13は、金属ライナ10の端部にテーパ状に拡径部15を形成し、この拡径部15外周に他の部分と同一の肉厚で複合材チューブ12を嵌合一体形成したものである。
膨出部13の内側には、外周がテーパ状の内径部材16と、外側には内周がテーパ状の外径部材17が嵌合して、これらにより締結リング18を構成し、この締結リング18をボルト19を介してンリンダヘッド(またはボトム)20に結合して、シリンダチューブ9を押圧挟持する。
このように構成すると、従来に比べて膨出部13を簡単につくることができる上、シリンダの高い推力に対して、十分な抜け止め強度を発揮する。」(第3頁第8行〜第4頁第6行)

(6)甲第9号証記載の事項
甲第9号証には、Oリングの使用例として、直交する面の隅部とその隅部に対向した斜面とで形成される三角形の隙間にシール部材として配置することが、図面(178頁の図7.12を参照)と共に記載されている。

3.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と引用発明1とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、後者の「シリンダヘッド5」及び「シリンダボトム3」は前者の一端部の「エンドカバー」及び他端部の「エンドカバー」にそれぞれ相当し、以下同様に、「リング体17」及び「カラー15」は一端部及び他端部の「ロックナット」に、「鍔部1b」及び「鍔部1a」は一端部及び他端部の「フランジ部」に、それぞれ相当する。
また、後者の「前記シリンダボトム3に螺合されるカラー15」と前者の「前記エンドカバーに螺合されるロックナット」とは、「他端部側のエンドカバーに螺合されるロックナット」である限りにおいて一致し、後者の「一端部の鍔部1bは、前記シリンダチューブ1の端縁部に全周にわたって外側へ向かって傾斜した部位が形成され」ることと前者の「一端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部を全周にわたってラッパ状に拡げることにより外側へ向かって傾斜して形成され」ることとは、「一端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部に全周にわたって外側へ向かって傾斜した部位が形成され」ることである限りにおいて一致し、後者の「他端部の鍔部1aは、前記シリンダチューブ1の端縁部に全周にわたって内側へ向かって傾斜した部位が形成され」ることと前者の「他端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部を全周にわたって内側に絞り込むことにより内側へ向かって傾斜して形成され」ることとは、「他端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部に全周にわたって内側へ向かって傾斜した部位が形成され」ることである限りにおいて一致し、後者の「鍔部1aの外側に当接するカラー15」と前者の「フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部の外側斜面に当接する係着部が形成された前記ロックナット」とは、「フランジ部の外側に当接するロックナット」である限りにおいて一致する。
そうしてみると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点1]
「シリンダチューブと、
前記シリンダチューブ内を摺動自在に移動するピストンと、
前記ピストンに一端部が固定され他端部が前記シリンダチューブから延び出るピストンロッドと、
前記シリンダチューブに外嵌または内嵌され前記シリンダチューブの端部を密閉するエンドカバーと、
前記エンドカバーを前記シリンダチューブに着脱可能に固定するため他端部側の前記エンドカバーに螺合されるロックナットとを含むシリンダであって、
前記シリンダチューブの端部には、前記シリンダチューブの側壁に斜めに交差する角度で前記シリンダチューブと一体に形成されたフランジ部が形成され、
前記シリンダチューブの一端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部に全周にわたって外側へ向かって傾斜した部位が形成され、該フランジ部は、前記シリンダチューブに外設された前記エンドカバーと、当該フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部のエンドカバーとは反対側の斜面に当接する係着部が形成された前記ロックナットとで挟持され、
前記シリンダチューブの他端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部に全周にわたって内側へ向かって傾斜した部位が形成され、該フランジ部は、前記シリンダチューブに内設された前記エンドカバーと、当該フランジ部の外側に当接する前記ロックナットとで挟持され、
前記エンドカバーと前記ロックナットとで前記フランジ部を挟持することにより、前記シリンダチューブと前記エンドカバーと前記ロックナットとが着脱可能に固定される、シリンダ。」
[相違点1]
本件発明1のシリンダチューブは「金属製パイプよりなる」ものであるのに対して、引用発明1のシリンダチューブはそのような材質でない点。
[相違点2]
本件発明1は「エンドカバーに螺合されるロックナット」に関して特段の限定がないのに対して、引用発明1はシリンダチューブの他端部側のみが螺合するものであり、一端部側のリング体17はシリンダヘッド5にボルト19により締結されるものであり、螺合するものでない点。
[相違点3]
本件発明1は、一端部のフランジ部が「シリンダチューブの端縁部を全周にわたってラッパ状に拡げることにより」外側へ向かって傾斜して形成されるものであるのに対して、引用発明1は、鍔部1bは外側に向かって傾斜した部位が形成されるものであり、ラッパ状に拡げたものでない点。
[相違点4]
本件発明1は、他端部のフランジ部が「シリンダチューブの端縁部を全周にわたって内側に絞り込むことにより」内側へ向かって傾斜して形成されるものであり、また、ロックナットに「当該フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部の外側斜面に当接する係着部が形成され」ているのに対して、引用発明1は、鍔部1aは単に内側へ向かって傾斜した部位が形成されるものであり内側に絞り込んだものでない点、及び、カラー15は鍔部1aの外側に当接しているに過ぎない点。

上記各相違点について検討する。
[相違点1について]
甲第7号証には、金属製パイプによりシリンダチューブを形成する点が記載されている(上記「2.(4)」を参照)。また、シリンダチューブの材質は、使用目的や加工性の観点等々から、適宜選択しうる事項である。
そうしてみると、引用発明1のシリンダチューブの材質として、甲第7号証に記載の事項に基づいて金属製のパイプを採用し、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到しうることであり、また格別の困難性はない。
[相違点2について]
甲第4号証には、ロックナット10をシリンダチューブに外嵌するロッドカバー3に螺合する構成が記載されている(上記「2.(3)」を参照)。
引用発明1は、既にシリンダチューブ1の他端部においてカラー15がシリンダボトム3に螺合するよう構成されているものであるから、シリンダチューブ1の反対側の端部である一端部においても同様の構造を採用し、シリンダチューブ1に外嵌するシリンダヘッド5にリング体17が螺合するように構成することは、当業者の通常の創作活動の範疇で想起しうることといえる。
そうしてみると、引用発明1に甲第4号証に記載の上記の構成を採用し、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たことである。
[相違点3について]
甲第8号証には、シリンダチューブの端部の構造として、シリンダチューブから外側に膨出する部位を別途形成していたことに換えて、シリンダチューブを金属ライナで形成し、その端部をテーパ状すなわちラッパ状に拡げた拡径部15を形成し、この拡径部15外周に複合材チューブ12を嵌合一体形成した拡径膨出部13を形成し、この拡径膨出部13を内径部材16と外径部材17とで挟持する技術的事項が記載されており(上記「2.(5)」を参照)、このシリンダチューブ端部の構造が、シリンダチューブを金属製パイプのみにより構成したことによっても実現できることは明らかである。
上記の[相違点1について]で述べたように、引用発明1におけるシリンダチューブを金属製パイプにより形成することに格別の困難性はない。
そうしてみると、引用発明1に、シリンダチューブの材質として甲第7号証に記載の金属製パイプを採用し、一端部の鍔部1bの形状に甲第8号証記載の上記技術的事項を適用して、上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、単なる公知技術の寄せ集めに過ぎず、当業者が容易に想到し得たことといえる。
[相違点4について]
上記の[相違点3について]で述べたように、甲第8号証には、シリンダ本体から膨出する部位を形成することに換えて、シリンダチューブを金属製パイプで構成し、シリンダチューブ本体を外側に拡径して傾斜させ膨出部を形成する技術的事項が記載されており、言い換えれば、シリンダチューブ本体を金属製パイプで構成することにより、シリンダチューブ端部の膨出部を、端部形状の金属加工により形成可能とした技術的事項が記載されているともいえる。
引用発明1において、シリンダチューブ1の他端部の鍔部1aは、詳細には、シリンダチューブ1の外径をそのままにして端縁部に向かって厚みを増加させて内側へ向かって傾斜した部位を形成しており(甲第1号証の第1図を参照)、シリンダチューブの内側に向かって膨出部を形成しているといえる。
上記の[相違点3について]で述べたように、引用発明1のシリンダチューブを、甲第7号証記載の金属製パイプで形成し、一端部の鍔部1bの形状を甲第8号証記載の技術的事項に基づいて拡径により形成することは、当業者が容易に想到し得たことといえるので、シリンダチューブの他端部側となる鍔部1aの膨出部の形状に関しても同様に、甲第8号証記載の技術的事項と同じ解決手段である金属加工により形成しようとすることは、きわめて自然な発想であるといえる。そして、この金属加工を適用するに際し、引用発明1における他端部の鍔部1bの具体的形状に則して「内側に向かって絞り込む」ことにより形成することは、技術の具体的適用に伴う設計的な事項にすぎない。
また、引用発明1の鍔部1aをシリンダチューブ内側に向かって絞り込まれた形状とした際には、この鍔部1aの外側に当接していたカラー15についても、鍔部1aの形状に則して同じ角度で斜めに延びて鍔部1aの外側斜面に当接するような形状とすることは、格別困難なこととはいえない。
そうしてみると、引用発明1に、シリンダチューブの材質として甲第7号証に記載の金属製パイプを採用し、他端部の鍔部1aの形成に甲第8号証記載の技術的事項を適用し、それに付随してカラー15の形状を変更し、上記相違点4に係る本件発明1の構成とすることは、単なる公知技術の寄せ集めに過ぎず、当業者が容易に想到し得たことといえる。

そして、本件発明1の作用効果も、引用発明1及び甲第4、7及び8号証記載の技術的事項から当業者が予測できる範囲のものに過ぎず、格別なものがあるとは認められない。

なお、被請求人は平成17年9月14日付けの上申書において、シリンダチューブの両端に形成されるフランジ部の有する弾性復元力に言及して次のように主張している。
「(3)ア 特に、組み付けの際、・・・中略・・・ロックナットの係着部が両端のフランジ部の仮想線で示した方向の傾斜面に当接し、これら金属製のフランジ部がそれぞれ径方向内側へ斜めに押さえ込まれる作用を有することから、当該金属製フランジ部の変形による弾性復元力(スプリングバック)が少なからず働き、これが回り止め(緩み止め)となって少ない力で確りと組み付けることが可能となると同時に、各フランジ部に対して係着部が斜めに密着するため密着面積が比較的広くなり、組み付けの安定性も高く、寸法精度もフランジ傾斜面に当接する当該ロックナットの係着部の同心度が維持できれば十分となる。」(第2頁第22行〜第3頁第6行)
上記被請求人の主張は、フランジ部が金属製であることに基づいた作用効果に関する主張と解されるが、しかしながら、上記各相違点の検討中で述べたとおり、引用発明1に甲第7号証記載の事項及び甲第8号証記載の事項を適用した結果、本件発明1と同じ形状の金属製のフランジ部が形成されるものであり、同じ形状の金属製フランジ部であれば、同様の作用効果を有しているとするのが相当である。
よって、被請求人の上記主張は採用することはできない。

したがって、本件発明1は、引用発明1及び甲第4、7及び8号証記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
本件発明1を引用する本件発明2と引用発明2とを対比すると、後者の「コア13」と前者の「シール部材」とは、エンドカバーのインロー部とフランジ部との間に挟持される「部材」である限りにおいて一致する。
そうしてみると、両者は、上記一致点1に加えて次の一致点2で一致し、上記相違点1ないし4に加えて次の相違点5で相違する。
[一致点2]
「エンドカバーのインロー部とフランジ部との間に部材が挟持され、シリンダチューブ他端部のエンドカバーには、該シリンダチューブの外側へ延び出る面を囲繞してインロー部が形成され、該インロー部の互いに直行する面と当該他端部のフランジ部の斜めに延びる内側面とに囲まれて形成される三角形の隙間に、前記部材が配置されている、シリンダ。」
[相違点5]
本件発明2においては、エンドカバーのインロー部とフランジ部との間に挟持される部材が「シール部材」であるのに対して、引用発明2においては、「コア13」であり、シール部材であるか明らかでない点。

相違点1ないし4については、検討済みであるので、相違点5について以下検討する。
[相違点5について]
甲第9号証には、直交する面の隅部とその隅部に対向した斜面とで形成される三角形の隙間に、Oリングをシール部材として配置することが記載されている(上記「2.(6)」を参照)。
また、甲第3号証には、環状溝1cとフレアー部6aとで形成される空間にパッキン2をシール部材として配置することが記載されている(上記「2.(2)」を参照)。
引用発明2においては、フランジ部10aと鍔部1aとの間に形成される空間とは別の箇所(環状溝10b)にシール部材(Oリング11)が設けられてはいるが、三角形の隙間に配置されるコア13についてもシール性が期待されていると解すのが相当である。
そうしてみると、引用発明2におけるコア13に換えて、甲第9号証または甲第3号証に記載されたシール部材を配置し、相違点5に係る本件発明2のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことといえる。

そして、本件発明2の作用効果も、引用発明2及び甲第3、4、7ないし9号証記載の技術的事項から当業者が予測できる範囲のものに過ぎず、格別なものがあるとは認められない。

したがって、本件発明2は、引用発明2及び甲第3、4、7ないし9号証記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について
本件発明1または2を引用する本件発明3と引用発明3とを対比すると、後者の「油ポート9及び8」は前者の「流路」に相当する。
そうしてみると、両者は、上記一致点1及び2に加えて一致点3で一致し、上記相違点1ないし5で相違する。
[一致点3]
「エンドカバーを貫いてシリンダチューブ内に通じる流路が形成された、シリンダ。」

相違点1ないし5については検討済みである。

そして、本件発明3の作用効果も、引用発明3及び甲第3、4、7ないし9号証記載の技術的事項から当業者が予測できる範囲のものに過ぎず、格別なものがあるとは認められない。

したがって、本件発明3は、引用発明3及び甲第3、4、7ないし9号証記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 まとめ
本件発明1ないし3に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
シリンダ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】金属製パイプよりなるシリンダチューブと、
前記シリンダチューブ内を摺動自在に移動するピストンと、
前記ピストンに一端部が固定され他端部が前記シリンダチューブから延び出るピストンロッドと、
前記シリンダチューブに外嵌または内嵌され前記シリンダチューブの端部を密閉するエンドカバーと、
前記エンドカバーを前記シリンダチューブに着脱可能に固定するため前記エンドカバーに螺合されるロックナットとを含むシリンダであって、
前記シリンダチューブの端部には、前記シリンダチューブの側壁に斜めに交差する角度で前記シリンダチューブと一体に形成されたフランジ部が形成され、
前記シリンダチューブの一端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部を全周にわたってラッパ状に拡げることにより外側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部は、前記シリンダチューブに外設された前記エンドカバーと、当該フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部のエンドカバーとは反対側の斜面に当接する係着部が形成された前記ロックナットとで挟持され、
前記シリンダチューブの他端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部を全周にわたって内側に絞り込むことにより内側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部は、前記シリンダチューブに内設された前記エンドカバーと、当該フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部の外側斜面に当接する係着部が形成された前記ロックナットとで挟持され、
前記エンドカバーと前記ロックナットとで前記フランジ部を挟持することにより、前記シリンダチューブと前記エンドカバーと前記ロックナットとが着脱可能に固定される、シリンダ。
【請求項2】前記エンドカバーのインロー部と前記フランジ部との間にシール部材が挟持され、前記シリンダチューブ他端部のエンドカバーには、該シリンダチューブの外側へ延び出る面を囲繞してインロー部が形成され、該インロー部の互いに直交する面と当該他端部のフランジ部の斜めに延びる内側面とに囲まれて形成される三角形の隙間に、前記シール部材が配置されている、請求項1に記載のシリンダ。
【請求項3】前記エンドカバーを貫いて前記シリンダチューブ内に通じる流路が形成された、請求項1または請求項2に記載のシリンダ。
【請求項4】前記シリンダチューブは内面が塗料または琺瑯で被覆された、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のシリンダ。
【請求項5】前記シリンダチューブは内外面ともに同一塗料または琺瑯で被覆された、請求項4に記載のシリンダ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はシリンダに関し、特に、油圧、水圧、気圧などを利用するアクチュエータの一種としての分解可能なシリンダに関する。
【0002】
【従来の技術】
図10は本発明の背景となる従来のシリンダの一例を示す断面図解図である。このシリンダ1では、シリンダチューブ2の両端に位置するエンドカバー3,4とシリンダチューブ2との結合は、シリンダチューブ2の両端をエンドカバー3,4に対してカシメて圧着固定していた。すなわち、エンドカバー3,4の嵌合部外周に溝5を設け、該溝5にシリンダチューブ2の端縁部をローラなどで噛み込むように絞り込み固定していた。さらにその上から、エンドカバー3,4の一部をローラーなどで押しつぶし、シリンダチューブ2の端縁部とエンドカバー3,4の溝5との嵌合が外れないようにしている例もある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図10に示した従来のシリンダでは、シリンダチューブ2とエンドカバー3,4とが分解不可能だったため、シリンダ1内の各部に設けられたシール部材6などが磨耗や劣化した場合にその部分だけ取り替えたり修理したりすることができず、そのような場合には、シリンダ1全体を交換しなければならなかった。また、分解が困難なため、異なる部材毎の分別廃棄や再利用も困難であった。そのため、従来のシリンダでは省資源やリサイクルの要請に応えることができなかった。
【0004】
また従来、細長い棒状の連結部材の両端部に形成されたボルト部をエンドカバーに挿通し、該ボルト部にナットを着脱可能に螺着することにより、シリンダチューブに対してエンドカバーを着脱可能に取り付けたものがある。しかし、この場合には、シリンダチューブの側方に細長い棒状の連結部材を何本も配設しなければならないため、見た目のスマートさに欠ける。また、連結部材を覆い隠すカバーを取り付けた場合には、シリンダを設置するためにより大きなスペースが必要となる。
【0005】
さらに、これらの従来例では、シリンダチューブとエンドカバーとが固定されておりエンドカバーに設けられているポート孔の向きを自由に変えることが出来なかったため、施工の際に配管や取り付けの自由度に欠けた。
【0006】
それゆえに、本発明の主たる目的は、分解修理が可能でスマートかつコンパクトなシリンダを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、金属製パイプよりなるシリンダチューブと、シリンダチューブ内を摺動自在に移動するピストンと、ピストンに一端部が固定され他端部が前記シリンダチューブから延び出るピストンロッドと、シリンダチューブに外嵌または内嵌され前記シリンダチューブの端部を密閉するエンドカバーと、エンドカバーをシリンダチューブに着脱可能に固定するためエンドカバーに螺合されるロックナットとを含むシリンダであって、シリンダチューブの端部には、シリンダチューブの側壁に斜めに交差する角度でシリンダチューブと一体に形成されたフランジ部が形成され、シリンダチューブの一端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部を全周にわたってラッパ状に拡げることにより外側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部は、前記シリンダチューブに外設された前記エンドカバーと、当該フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部のエンドカバーとは反対側の斜面に当接する係着部が形成された前記ロックナットとで挟持され、前記シリンダチューブの他端部のフランジ部は、前記シリンダチューブの端縁部を全周にわたって内側に絞り込むことにより内側へ向かって傾斜して形成され、該フランジ部は、前記シリンダチューブに内設された前記エンドカバーと、当該フランジ部と同じ角度で斜めに延びてフランジ部の外側斜面に当接する係着部が形成された前記ロックナットとで挟持され、エンドカバーとロックナットとでフランジ部を挟持することにより、シリンダチューブとエンドカバーとロックナットとが着脱可能に固定される、シリンダである。
【0008】
【0009】
【0010】
本発明において、エンドカバーのインロー部とフランジ部との間にシール部材が挟持され、前記シリンダチューブ他端部のエンドカバーには、該シリンダチューブの外側へ延び出る面を囲繞してインロー部が形成され、該インロー部の互いに直交する面と当該他端部のフランジ部の斜めに延びる内側面とに囲まれて形成される三角形の隙間に、前記シール部材が配置されていることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明において、エンドカバーを貫いてシリンダチューブ内に通じる流路が形成されることが好ましい。
【0012】
本発明にかかるシリンダでは、エンドカバーとロックナットとを着脱可能に螺合することにより、シリンダチューブのフランジ部を両側から挟持して、エンドカバーとロックナットとシリンダチューブの三者を一体に固定することができる。そのため、エンドカバーとロックナットを取り外することにより、三者を容易に分解することができ、シリンダチューブ内部各部の修理などを行うことができる。また、スマートかつコンパクトなシリンダとすることができる。さらに、エンドカバーは、エンドカバーとロックナットとの締結を少し緩めた状態で回動させることができるため、エンドカバーの側壁に流路を設けた場合には、流路の開口部(ポート)の向きを360度変更することができる。そのため、このシリンダは施工の際の取り付けや配管の自由度が高い。
【0013】
また、本発明において、シリンダチューブは内面が塗料または琺瑯で被覆されることが好ましい。その場合には、シリンダチューブの内面を高精度に機械加工することなく、平滑度を高めることができるので、加工コストを低減化できる。
【0014】
さらに、本発明において、シリンダチューブは内外面ともに同一塗料または琺瑯で被覆されてもよい。その場合には、シリンダチューブの内面を高精度に機械加工することなく、平滑度を高めることができるとともに、外面の塗装もできるので、加工コストをさらに低減化できる。
【0015】
本発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明の実施の形態の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1は本発明にかかるシリンダの実施形態の一例を示す斜視図解図である。このシリンダ10は、シリンダチューブ12を含む。図2は、図1に示すシリンダに用いたシリンダチューブの側面図解図である。このシリンダチューブ12は、アルミ、鋼、ステンレスなどの金属製のパイプである。シリンダチューブ12の内部は、図示左側から図示右側にわたって同一内径の円筒状となっている。シリンダチューブ12の図示左端には外向フランジ部14が形成される。外向フランジ部14は、延長線がシリンダチューブ12の中心線と斜めに交差するよう形成される。この角度は、好ましくはたとえば約30°〜60°の角度であるが特に限定するものではない。この外向フランジ部14は、シリンダチューブ12の図示左端縁部を全周にわたってラッパ状に拡げることにより形成される。一方、シリンダチューブ12の図示右端には内向フランジ部16が形成される。この内向フランジ部16は、延長線がシリンダチューブ12の中心線と約45度の角度で交差するよう斜めに延びて形成される。内向フランジ部16は、シリンダチューブ12の図示右端縁部を全周にわたって内側に絞り込むことにより形成される。
【0017】
図3は図1に示すシリンダの図示左端を拡大して示す図解図であり、図4はその断面図解図である。シリンダチューブ12内にはピストン18が摺動自在に内蔵される。ピストン18の外周部には、ピストン18の摺動方向前後の圧力漏れを防ぐ円環状のピストンバッキン20が複数嵌合される。ピストンパッキン20の断面形状は、それぞれたとえば略V字形状である。ピストン18の一方主面の中央部には、ピストンロッド24の一端部がワッシャ22を介しながら螺合される。ピストンロッド24の他端部はシリンダチューブ12の外側に延び出される。
【0018】
シリンダチューブ12の図示左端には、外設エンドカバー26が外側から嵌合される。外設エンドカバー26には、シリンダチューブ12に嵌合される面を囲繞してインロー部28が形成される。インロ-部28は、シリンダチューブ12の中心線に対して平行に延びる面と直交する面とを備える。外設エンドカバー26とシリンダチューブ12とは、インロー部28において嵌め合わされる。その際、インロー部28の互いに直交する面と外向フランジ部14の斜めに延びる面とで囲まれて形成される断面三角形の円環状の隙間に、シール部材として弾性を有するOリング30が配置される。
【0019】
外設エンドカバー26の中央部には、シリンダチューブ12の中心線と一致して延びる貫通孔が形成され、該貫通孔にピストンロッド24が摺動自在に挿通される。そして、外設エンドカバー26には、ピストンロッド24との間を密閉しつつ摺動させるためのロッドパッキン32、およびダストシール34が設けられる。すなわち、外設エンドカバー26は、シリンダチューブ12の一端部を密閉するとともに、ピストンロッド24を摺動自在に支持するロッドカバーとしても作用するものである。
【0020】
また、外設エンドカバー26の側壁には、ピストンロッド24と直交する向きに延びるポート36が穿設される。さらに、外設エンドカバー26の内部には、ボート36からピストンロッド24の周囲を経由してシリンダチューブ内に連通する流路38が穿設される。ピストンロッド24の周囲にピストンロッド24と平行に延びる流路38の本数や太さは適宜選択される。なお、ポート36、52および流路38は、シリンダチューブ12内に圧力媒体(圧力油、圧力水などの液体や、圧縮空気などの気体)を流出入させるものである。
【0021】
さらに、シリンダチューブ12には、筒状のロックナット40が外嵌される。ロックナット40の内径が小さい一端側はシリンダチューブ12の外周部に外嵌され、外径が大きい他端側は外設エンドカバー26に外嵌される。ロックナット40の内壁面の中間には、外向フランジ部14と同じ角度で斜めに延びる面を備える円環状の係着部40aが形成される。係着部40aは外向フランジ部14の外設エンドカバー26とは反対側の斜面に当接される。ロックナット40の内壁に形成された雌ネジ40bと外設エンドカバー26の外壁に形成された雄ネジ26aとを螺合させて締め付けると、係着部40aが外向フランジ部14を外設エンドカバー26方向へ押圧し、ロックナット40の係着部40aと外設エンドカバー26との間に外向フランジ部14が挟持される。このとき、Oリング30は、外向フランジ部14とインロー部28との間で圧縮されて弾性変形し、両者の間を完全にシールする。
【0022】
図5(A)は図1に示すシリンダの図示右端を示す端面図解図であり、図5(B)は図1に示すシリンダの図示右端側を示す側面図解図であり、図6は図1に示すシリンダの図示右端側を示す断面図解図である。
【0023】
シリンダチューブ12の図示右端には、内設エンドカバー44が内側から嵌合される。内設エンドカバー44には、シリンダチューブ12内から外側へ延び出る面を囲繞してインロー部46が形成される。インロ-部46は、シリンダチューブ12の中心線に対して平行に延びる面と直交する面とを備える。そして、インロー部46の互いに直交する面と内向フランジ部16の斜めに延びる面とに囲まれて形成される三角形の隙間に、シール部材として弾性を有するOリング48が配置される。また、内設エンドカバー44の中央部には、シリンダチューブ12の中心線と一致して延びる流路としての貫通孔が形成され、該貫通孔がポート52とされる。
【0024】
さらに、内設エンドカバー44のシリンダチューブ12から延び出ている部分には、筒状のロックナット50が外嵌される。ロックナット50の一端側は内設エンドカバー44の外周部に外嵌され、他端側には内向フランジ部16と同じ角度で斜めに延びる係着部50aが形成される。係着部50aは内向フランジ部16の外側斜面に当接される。ロックナット50の内壁に形成された雌ネジ50bと内設エンドカバー44の外壁に形成された雄ネジ44aとを螺合させて締め付けると、内設エンドカバー44がシリンダチューブ12外へと付勢され、内設エンドカバー44のインロー部46とロックナット50の係着部50aとの間に内向フランジ部16が挟持される。このとき、Oリング48は、インロー部46の互いに直交する面と内向フランジ部16の内側斜面との間で圧縮されて弾性変形し、両者の間を完全にシールする。
【0025】
外設エンドカバー26、ロックナット40、内設エンドカバー44、ロックナット50の側壁には、それぞれ分解や組み立ての際に工具を係着して締め込みや取り外しなどの作業を行うための工具係着部42が形成される。工具係着部42は、図3に示すように、カギスパナを係着させるための凹部や切り欠きでもよく、図5に示すようにスパナ等を係着させるためのスリ割加工などを施しても良い。
【0026】
この実施形態のシリンダ10では、シリンダチューブ12の一端部に外向フランジ部14を設け、他端部に内向フランジ部16を設けた構造なので、内設エンドカバー44、ピストン18などは、図2図示左側からシリンダチューブ12内に挿入することができ、ロックナット40などは図2図示右側からシリンダチューブ12に外嵌することができる。そのため、構造がシンプルで組み立ても容易である。
【0027】
また、この実施形態のシリンダ10では、外設エンドカバー26とロックナット40の着脱および内設エンドカバー44とロックナット50の着脱がそれぞれ容易なので、シリンダチューブ12内のOリングやパッキンなどが磨耗した際などに分解修理を容易に行うことができる。また、外設エンドカバー26とロックナット40との螺合を少し緩めることにより、外設エンドカバー26は、シリンダチューブ12の中心軸の周りに360度回転させることができる。その後、外設エンドカバー26とロックナット40とを締結することによりポート36の向きも固定される。したがって、外設エンドカバー26に設けられたポート36の向きを自由に設定し直すことができ、配管などもまとめやすくなり組み付けなども省力化でき、美観も向上する。内設エンドカバー44の側面にポートを設けた場合には同様にロックナット50との螺合を緩めてポートの向きを適宜調整することができる。
【0028】
さらに、外向フランジ14および内向フランジ16をシリンダチューブ12に対して斜めに延びるよう形成し、外設エンドカバー26のインロー部28および、内設エンドカバー44のインロー部46との間にそれぞれ形成される断面二等辺三角形の円環状の隙間にOリング30,48を適度に圧縮挟持することにより、シリンダチューブ12の両端の密閉を実現しているため、構造がシンプルで長手方向に最小スペースで組み付けることができる。
【0029】
図7は本発明にかかる他の実施形態の要部を拡大して示す一部断面図解図である。図7に示すシリンダ10は、図4に示したものに比べて外設エンドカバー26とシリンダチューブ12との密閉を保つOリング30の圧縮挟持方法が違う。この実施形態では、外設エンドカバー26のインロー部に円環状のOリング溝29が設けられ、該Oリング溝29にOリング30が収納される。そして、Oリング溝29とシリンダーチューブ12の内径面でOリング30を圧縮して密閉を保つ構造としている。また、この外設エンドカバー26は外向フランジ部14の外側斜面と同じ角度で延びる係着部26aを備え、該係着部26aとロックナット40の係着部40aとの間で外向フランジ部14を挟持している。この構造では、Oリング溝29を設ける必要から外設エンドカバー26の全長が第一実施形態より若干長くなってしまうが、シリンダーチューブ12と外向フランジ部14の同心精度が第1実施例ほど要求されず、加工が容易であるという利点がある。
【0030】
図8は本発明にかかるさらに他の実施形態の要部を示す一部断面図解図である。図8のシリンダ10は、シリンダチューブ12の内設エンドカバー44側からピストンロッド24を延び出させた構造である。また、内設エンドカバー44の側壁にポート52が設けられ、流路54がピストンロッド24と交差する方向に斜めに延びるよう形成される。この構造は、シリンダ10を比較的大径にする場合に適する。また、この内設エンドカバー44は内向フランジ部16の外側斜面と同じ角度で延びる係着部44bを備え、該係着部44bとロックナット50の係着部50aとの間で外向フランジ部16を挟持している。
【0031】
なお、シリンダチューブ12の両端からピストンロッドを出すようにしてもよい。
【0032】
また、図9は本発明のシリンダチューブの内面の状態を示す拡大図解図である。このシリンダチューブ12はステンレス、鋼管、アルミ管など内径の真円度がある程度満足できるシームレスパイプで形成される。そして、内面がテフロン(登録商標)塗装、エポキシ樹脂系の紛体静電塗装、樹脂または琺瑯加工などの手段で被覆される。これによりシリンダチューブ12の内面の平滑度をあげ、対磨耗性の向上、パッキンやピストン等との摩擦の減少などの効果を得ることができる。この場合には、シリンダチューブ12の表面を高精度に機械加工することなく、平滑度を高めることができるので、加工コストを低減化できる。
【0033】
さらに、本発明において、シリンダチューブ12は内外面ともに、同一塗料等でディッピング法等により被覆してもよい。この場合には、シリンダチューブ12の内面を高精度に機械加工することなく、内面の平滑度を高めることができると同時に、外面の塗装もできるので、加工コストをさらに低減化できる。同様に、シリンダチューブ12の内外面を琺瑯で被覆してもよい。
【0034】
【発明の効果】
本発明にかかるシリンダによれば、エンドカバーとロックナットが着脱自在に設けられているので、シリンダチューブ内のOリングやパッキンなどが磨耗した際などに分解修理、分別廃棄、リサイクルなどを容易に行うことができる。また、細長い棒状の連結部材をシリンダチューブのまわりに配置する必要などもなく、構造がシンプルかつスマートである。さらに、エンドカバーとロックナットとの螺合を緩めることによりエンドカバーの側面に設けたポートの向きを自由に設定し直すことができ、配管などもまとめやすくなり組み付けなども省力化でき、美観も向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明にかかるシリンダの実施形態の一例を示す斜視図解図である。
【図2】
図1に示すシリンダに用いたシリンダチューブの一部を切り欠いて示す側面図解図である。
【図3】
図1に示すシリンダの図示左端を拡大して示す図解図である。
【図4】
図1に示すシリンダの図示左端の断面図解図である。
【図5】
(A)は図1に示すシリンダの図示右端を示す端面図解図であり、(B)は図1に示すシリンダの図示右端側を示す側面図解図である。
【図6】
図1に示すシリンダの図示右端側を示す断面図解図である。
【図7】
本発明にかかる他の実施形態の要部の一部を切り欠いて拡大して示す図解図である。
【図8】
本発明にかかるさらに他の実施形態の要部の一部を切り欠いて拡大して示す図解図である。
【図9】
図2に示すシリンダチューブの内面の状態を示す拡大図解図である。
【図10】
本発明の背景となる従来のシリンダの一例を示す断面図解図である。
【符号の説明】
10 シリンダ
12 シリンダチューブ
14 外向フランジ部
16 内向フランジ部
18 ピストン
20 ピストンパッキン
22 ワッシャ
24 ピストンロッド
26 外設エンドカバー
28 インロー部
30 Oリング
32 ロッドパッキン
34 ダストシール
36 ポート
38 流路
40 ロックナット
40a 係着部
40b 雌ネジ
42 工具係着部
44 内設エンドカバー
46 インロー部
48 Oリング
50 ロックナット
50a 係着部
50b 雄ネジ
52 ポート
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-11-02 
結審通知日 2005-11-08 
審決日 2005-11-21 
出願番号 特願2000-342560(P2000-342560)
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (F15B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 唐 強  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 平田 信勝
村本 佳史
登録日 2003-08-01 
登録番号 特許第3456966号(P3456966)
発明の名称 シリンダ  
代理人 柳野 隆生  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  
代理人 柳野 隆生  

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