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審決分類 |
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L 審判 全部無効 2項進歩性 H01L |
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管理番号 | 1133147 |
審判番号 | 無効2005-80089 |
総通号数 | 77 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1991-12-18 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2005-03-23 |
確定日 | 2006-01-11 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2808809号発明「ワイヤボンディング方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2808809号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続きの経緯 本件特許第2808809号の請求項1に係る発明についての出願は、平成2年4月4日に特許出願され、平成10年7月31日に特許権の設定登録がされたものである。これに対して、平成17年3月23日に審判請求人である長谷川 芳樹から請求項1に係る発明の特許を無効とすることについての審判請求がなされ、平成17年6月9日に被請求人である松下電器産業株式会社から答弁書及び訂正請求書が提出され、請求人から平成17年8月12日に弁駁書が提出された。その後、平成17年10月7日に口頭審理陳述要領書が請求人から提出され、平成17年10月18日に被請求人から口頭審理陳述要領書が提出され、平成17年10月25日に口頭審理がなされ、平成17年10月26日に被請求人から上申書が提出されたものである。 II.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 (1)訂正事項a 【請求項1】中の「ボンディングを行うチップ」を「ボンディングを行う前記基板に搭載されたチップ」と訂正する。 (2)訂正事項b 明細書中第2頁左欄27行の 「〜ボンディングを行うチップ〜」を「〜ボンディングを行う前記基板に搭載されたチップ〜」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項aは、「チップ」と「基板」の位置関係を限定したものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書第5頁4〜5行の記載「2は基板1に搭載されたチップ」に基づくものである。 また、上記訂正事項bは、特許請求の範囲の訂正に伴って、訂正後の特許請求の範囲に整合させて明りょうにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。 そして、上記訂正事項a、bは、いずれも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3.まとめ 以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.本件発明 上記II.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成17年6月9日付けの訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】ワイヤが挿通されたキャピラリを下降させて、このワイヤの下端部に電気的スパークにより形成されたボールを、キャピラリにより基板に押し付けてボンディングし、次いでキャピラリを次のボンディングを行う前記基板に搭載されたチップと反対側へ運動させてワイヤにしごきを付与しながら上昇させるとともに、上記ボールから直立する被加熱部の上端部からワイヤを折り曲げながら、キャピラリをチップ上面に下降させて、キャピラリによりワイヤをチップにボンディングすることを特徴とするワイヤボンディング方法 。」 IV.請求人の主張 請求人は、証拠方法として、下記の甲第1号証〜甲第4号証及び参考資料1〜6を提出し、本件の訂正前の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正前発明1」いう。)は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、当該特許は無効とすべきであると主張している。 また、本件特許請求の範囲の記載は、(1)「しごきを付与する」の意味(2)「チップ」と「基板」の位置関係、が各々明確でないから、本件特許は特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、本件特許は、無効とすべきものであると主張する。 記 甲第1号証:特開昭63-219131号公報 甲第2号証:特開平1-293626号公報 甲第3号証:特開昭63-42135号公報 甲第4号証:特開昭54-58352号公報 参考資料1:特開昭61-287133号公報 参考資料2:特開昭63-96931号公報 参考資料3:渡辺健二,「多様化する半導体パッケージとアセンブリシステム」,電子材料、1989年12月号,工業調査会,p.37-p.43 参考資料4:特開昭57-87143号公報 参考資料5:特開昭58-139435号公報 参考資料6:特開昭58-220436号公報 なお、甲第1〜4号証の成立については争いがない。 V.証拠の記載事項 (1)甲第1号証(特開昭63-219131号公報) (1a)「本発明は半導体装置の製造工程中のワイヤーボンディングにおいて、隣接する電極との短絡の防止に関する。」(第1頁左欄12〜14行) (1b)「第2図において最初にリード端子3にボールの圧着を行ない図3の如くキャピラリー7の動作軌跡に従がい細線2を成形する。第4図において電極6に細線2の熱圧着を行ない第5図の如く電極6とリード端子3間を接続する。」(第2頁左欄5〜9行) (2)甲第2号証(特開平1-293626号公報) (2a)「本発明は、ICカード等のフレキシブル配線板に適するワイヤボンディング法に関するものであり、特に、薄型化を要求されるフレキシブル配線板に好適なワイヤボンディング法に関するものである。」(第1頁左欄18行〜右欄2行) (2b)「半導体チップ3に取り付けられたAuワイヤ4のルーピングが半導体チップ3の上面よりも0.3〜0.4mm高くなり、このルーピングの突出したAuワイヤの部分は、ICカードのように薄型化が要求される実装手段として問題を生じている。」(第1頁右欄17行〜第2頁左上欄2行) (2c)「本発明ではワイヤボンディングにおいて、〜従来のワイヤボンディングにおける第一次接合側と第二次接合側とを交換し、ワイヤルーピングを低くおさえることに着目したものである。〜本発明は、薄型化を実現しうるワイヤボンディングを提供することを目的とするものである。」(第2頁左上欄20行〜右上欄16行) (2d)「半導体チップ側電極とフレキシブル配線板におけるワイヤボンディング法において、先ず半導体チップ側電極にAuボールによるAuバンプを形成し、次にフレキシブル配線板側電極に対してAuワイヤの先端に形成した前記AuバンプにAuワイヤをウエッジ状の第二次接合を行うことを特徴とするものである。」(第2頁右上欄18行〜左下欄7行) (2e)「Auワイヤ4の先端には、トーチ電極6により新たにAuボール8が形成される(第1図(c))。Auボール8を有するAuワイヤ4はキャピラリ5と共にフレキシブル配線板1の電極2の端子部に移動され、Auワイヤ4は、その先端に形成したAuボール8を前記電極2の端子に接続する(第1図(d))。そして、Auワイヤ4の他端を半導体チップ3上のAuバンプ7Aに接続するため、キャピラリ5よりAuワイヤ4を所定の長さだけ引き出して、第1図(e)に示すように、Auワイヤ4の接合部をAuバンプ7A上に高温状態に加圧して接着する。」(第2頁右下欄第9行〜第3頁左上欄1行) (2f)「半導体チップ3の表面からAuワイヤのルーピングの高さを充分低く押さえることができ、このためフレキシブル配線板に対してのAuワイヤの取り付けを薄型状となすことを可能とした。」(第3頁左上欄20行〜右上欄3行) (2g)第1図(d)〜第1図(f)には、フレキシブル配線板に第1ボンディングを行い、半導体チップに第2ボンディングをする際のキャピラリの動きが開示されている。 (3)甲第3号証(特開昭63-42135号公報) (3a)「第1ボンディング点と第2ボンディング点との間をワイヤで接続するワイヤボンディング方法において、第1ボンディング点にワイヤを接続後、キャピラリを少し上昇させ、続いて第2ボンディング点と逆方向にわずかに移動させ、その後ワイヤループ形成に必要な量だけキャピラリを上昇させてワイヤを繰り出し、次にキャピラリを前記したワイヤループ形成に必要な量を半径とした円軌道をもって第2ボンディング点上方に移動させてワイヤを第2ボンディング点に接続することを特徴とするワイヤボンディング方法。」(特許請求の範囲) (3b)「単に、第1ボンディング点よりキャピラリを上昇させてワイヤを繰り出し、その後キャピタリを円軌道で第2ボンディング点に移動させているので、ワイヤが円軌道の中心から曲るとは限らない。このため、ワイヤの曲り部分が円軌道の中心から下方の場合には、形成されたワイヤループ形状は、ワイヤが多く出すぎていることによってループのたれ、曲り等が発生する。〜本発明の目的は、ループ形状の高さが安定し、良好なワイヤループ形成が行えるワイヤボンディン方法を提供することにある。」(第1頁右欄11行〜第2頁左上欄4行) (3c)「第1ボンディング点にワイヤを接続後、キャピラリを少し上昇させ、続いて第2ボンディング点と逆方向にわずかに移動させることにより、キャピラリの下端に位置するワイヤの部分にくせが付く。そこで次にワイヤループ形成に必要な量だけキャピラリを上昇させてワイヤを繰り出し、次にキャピラリを前記したワイヤループ形成に必要な量を半径とした円軌道をもって第2ボンディング点上方に移動させると、ワイヤは前記くせの部分より曲げられるので、くせの部分がワイヤループの頂点となり、ループ形状の高さが安定し、良好なワイヤループ形状が得られる。」(第2頁左上欄16行〜右上欄7行) (3d)「第1ボンディング点Aにワイヤ1を接続後、キャピラリ2はB点まで上昇する。このB点で一旦又は瞬時停止した後、次にキャピラリ2を第2ボンディング点Gと逆方向にわずかにC点まで水平移動させる。これにより、ワイヤ1は、第2図(b)に示すように、A点からC点に傾斜した形状となり、キャピラリ2の下端に位置するワイヤ1の部分にくせ1aが付く。次にC点でキャピラリ2を一旦又は瞬時停止させ、その後キャピラリ2をワイヤループ形成に必要な量H〜の半分の高さのD点まで上昇させてワイヤ1を繰り出す。続いてキャピラリ2を〜第1ボンディング点Aの真上のE点に位置させて停止させる。〜次にキャピラリ2を〜第2ボンディングGの上方のF点まで移動させ、続いて第2ボンティング点Gに下降させてボンディングする。」(第2頁右上欄14行〜左下欄16行) (3e)「くせ1aの部分がワイヤループの頂点となるので、ワイヤループ形状が安定し、ループのたれ、曲りが防止される。またくせ1aの部分がワイヤループの頂点となることにより、このくせ1aの部分の設定によりループ高さを制御することができる。」(第2頁左下欄19行〜右下欄4行) (3f)「キャピラリ2のA点からB点への移動量及びB点からC点への移動量について説明する。A点からB点への移動量は、200〜1,000μmの範囲に設定する。この値は、ワイヤ1の強度(ワイヤ径、硬さ等)により最適値を設定する。」(第2頁右下欄11〜16行) (4)甲第4号証(特開昭54-58352号公報) (4a)「本発明は半導体ペレットと外部リードとの間をワイヤで接続するワイヤボンディング方法に関するものである。」(第1頁左欄17〜19行) (4b)「第1ボンディング点Aである半導体ペレット6にボンディング後にキャピラリ1を第2ボンディング点Bの方向と逆方向にlだけ移動させ、その後キャピラリ1を外部リード7のボンディング位置Bに移動させてワイヤ接続するものである。」(第2頁左下欄5〜10行) (4c)「キャピラリがバックする時にワイヤをペレット側に押し戻すために、ワイヤループの形状が高く形成され、ペレットショート、タブショートの発生を防止することができる。」(第2頁左下欄18行〜右下欄1行) (5)参考資料1(特開昭61-287133号公報) (5a)「ダイアタッチ部2上に集積回路チップ1が搭載され、集積回路1のボンディング面が、ダイアチップ部2のボンディング面より低い位置関係にある構成(第2図(a)) (6)参考資料2(特開昭63-96931号公報) (6a)絶縁性基板1上に半導体チップ1が搭載され、集積回路1のボンディング面が絶縁性基板1のボンディング面よりも低い位置関係にある構成(第1図(a),第2図) (7)参考資料3(渡辺健二,「多様化する半導体パッケージとアセンブリシステム」,電子材料、1989年12月号,工業調査会,p.37-p.1) (7a)「ワイヤループ高さが高いほどワイヤ流れは起こりやすいので、ループをできるだけ低くしなければならないが、反面チップ端とワイヤ間のショートを招くおそれもあり、ワイヤボンディングとしては、ワイヤループ形状を精密に制御しなければならない。また、図9に示すような薄形パッケージでは、ワイヤループを低く安定してボンディングしなければならない。ループ制御のためにキャピラリの運動軌跡の一例、およびこれによるループ形状の例を図10に示す。」(第41頁右欄20〜28行) (7b)第10図には、リバース量を含むキャピラリの運動軌跡とワイヤループ形状例が開示されている。(第40頁第10図) VI.被請求人の主張 被請求人は、平成17年6月9日付け答弁書、訂正請求書、及び平成17年10月18日付け口頭審理陳述要領書を提出し「本件審判請求は成り立たない、との審決を求める。」と主張している。 VII.当審の判断 1.進歩性について 本件発明の進歩性について、甲第1号証乃至甲第4号証、特に、甲第2号証と甲第3号証とから、当業者が容易に想到し得たか否かについて検討する。 まず、甲第2号証には、摘記事項(2e)に摘記したように、 「Auワイヤ4の先端には、トーチ電極6により新たにAuボール8が形成される。Auボール8を有するAuワイヤ4はキャピラリ5と共にフレキシブル配線板1の電極2の端子部に移動され、Auワイヤ4は、その先端に形成したAuボール8を前記電極2の端子に接続する。そして、Auワイヤ4の他端を半導体チップ3上のAuバンプ7Aに接続するため、キャピラリ5よりAuワイヤ4を所定の長さだけ引き出して、第1図(e)に示すように、Auワイヤ4の接合部をAuバンプ7A上に高温状態に加圧して接着する。」 が記載されている。 ここで、 「Auワイヤ4はキャピラリ5と共にフレキシブル配線板1の電極2の端子部に移動」とは、Auワイヤがキャピラリ内に挿通された構成であり、また、この場面でのキャピラリの移動は下降する方向への移動であるから、「ワイヤが挿通されたキャピラリを下降」と認められる。 また、「その先端に形成したAuボール8を前記電極2の端子に接続」とは、トーチ電極によるAuボール形成が電気的スパークによるAuボール形成であり、電極の端子に接続するためには、キャピラリにより基板に押し付けてボンディングするのが通常のボンディング手法であるから、「ワイヤの下端部に電気的スパークにより形成されたボールをキャピラリにより基板に押し付けてボンディング」と認められる。 さらに、「Auワイヤ4の他端を半導体チップ3上に接続するため、キャピラリ5よりAuワイヤ4を所定の長さだけ引き出して、Auワイヤ4の接合部を加圧して半導体チップ上に接着する」とは、キャピラリの動きに着目すると、キャピラリからAuワイヤを所定の長さだけ引き出すためには、「キャピラリを上昇させるとともに、次のボンディングを行う方向にワイヤを折り曲げながら移動し、キャピラリをチップ上面に下降させて、キャピラリによりワイヤをチップにボンディンすること」と認められる。 以上の検討及び他の摘記事項(2a)〜(2d),(2f),(2g)から、甲第2号証には 「ワイヤが挿通されたキャピラリを下降させて、このワイヤの下端部に電気的スパークにより形成されたボールをキャピラリにより基板に押し付けてボンディングし、キャピラリを上昇させるとともに、次のボンディングを行う方向にワイヤを折り曲げながら移動し、キャピラリをチップ上面に下降させて、キャピラリによりワイヤをチップにボンディンするワイヤボンディング方法」 の発明が記載されている(以下、「引用発明」という。) 本件発明と引用発明とを対比すると、両者は、 「ワイヤが挿通されたキャピラリを下降させて、このワイヤの下端部に電気的スパークにより形成されたボールを、キャピラリにより基板に押し付けてボンディングし、キャピラリを上昇させるとともに、ワイヤを折り曲げながら移動し、キャピラリをチップ上面に下降させて、キャピラリによりワイヤをチップにボンディンするワイヤボンディング方法」 の点で一致し、以下の各点で相違する。 (1)本件発明では、キャピラリは、次のボンディングを行う基板に搭載されたチップと反対側へ運動させて、ワイヤにしごきを付与しながら上昇させるのに対して、引用発明では、キャピラリをそのように上昇させていない点(以下、「第1の相違点」という。) (2)本件発明では、ボールから直立する被加熱部の上端部からワイヤを折り曲げているのに対して、引用発明では、ワイヤをそのように折り曲げることを明記していない点(以下、「第2の相違点」という。) 以下、各相違点について検討する。 第1の相違点について 甲第3号証において、摘記事項(3b)には、ループ形状の高さを安定させた良好なループ形状を得ること、すなわちループ形状を制御するという技術的課題が開示され、また、摘記事項(3a)、(3c) には、その課題に対して、第1ボンディング点にワイヤを接続後、キャピラリを少し上昇させ、続いて第2ボンディング点と逆方向にわずかに移動させたワイヤループの形成技術が開示されている。 そして、摘記事項(3d)には、第1ボンディング点にワイヤを接続後、キャピラリを少し上昇させ、続いて第2ボンディング点と逆方向にわずかに移動させることにより、キャピラリの下端に位置するワイヤの部分にくせがつき、このくせの部分がワイヤループの頂点となり、ループ形状の高さが安定し、良好なワイヤループ形状が得られることが開示されている。ここで、当該くせの部分の形成のされ方、及びその機能を考慮すると、当該くせは、本件発明においてワイヤに付与されたしごきと実質的に等価である。 また、当該技術をワイヤが第1ボンディング点と第2ボンディング点のボンディング面の高低を限定して解釈しなければならない理由は見あたらず、第1ボンディング面が第2ボンディング面よりもボンディング面が必ず高い場合にのみ適用される技術と解する必然性は認められない。 さらに、参考資料3の摘記事項(7a)、(7b)には、薄形パッケージのワイヤボンディングにおいて、キャピラリのリバース運動を採用することによって、ワイヤループの形状を低く安定化させることができ、その結果、ワイヤ間のショートを防止できる効果が開示されており、これによれば、ワイヤループの形状を低く安定化させるためにキャピラリをリバース運動させることが通常のことといえる。 したがって、甲第2号証において、ワイヤのループ形状の制御の必要性という当業者であれば通常配慮する共通の技術的課題について、特に、薄型パッケージに対応するために、ループ形状の高さを安定したボンディングを実現する手法として、甲第3号証に記載されたワイヤループの形成技術を採用して、キャピラリを次のボンディングを行う基板に搭載されたチップと反対側へ運動させて、ワイヤにしごきを付与しながら上昇させることは、当業者であれば、容易に想到しうる事項と認められる。 第2の相違点について 甲第3号証には、ワイヤループの高さを安定させるために、第1ボンディング点Aにワイヤ1を接続後、キャピラリ2はB点まで上昇させ、このB点で一旦又は瞬時停止した後、次にキャピラリ2を第2ボンディング点Gと逆方向にわずかにC点まで水平移動させ、その結果、キャピラリ2の下端に位置するワイヤ1の部分にくせ1aをつけ、さらにワイヤループ形成に必要なワイヤ1を繰り出すワイヤループの形成技術が開示されている。(摘記事項(3d))。ここで、当該キャピラリ2がB点まで上昇するキャピラリ動作の結果、ワイヤの形状は、ワイヤに直立部分が形成され、その後、当該直立部の上端部にくせが付与され、さらに、当該くせを起点として正確にワイヤを曲げるワイヤのループ形成技術が開示されているものと認められる。 したがって、甲第2号証において、ワイヤのループ形状の制御の必要性という共通の技術的課題に配慮し、甲第3号証に記載されたワイヤのループ形成技術を採用して、引用発明におけるボールから直立する被加熱部の上端部からワイヤを折り曲げることは、当業者であれば、上記ループ形成技術の手順に従い、キャピラリをワイヤにしごきを付与しながら上昇させてループ形成することに伴って適宜にできることである。 そして、参考資料3には、キャピラリのリバース運動を採用することによって、ワイヤループの形状を低く安定化させることができ、その結果、ワイヤ間のショートを防止できる効果、及び、ワイヤに直立部分が形成され、その上端部から正確に折り曲げられることによりワイヤループの形状の制御性が向上してワイヤ間のショート等の防止に役立つ効果が記載されているから、本件発明の効果も甲第2号証、甲第3号証及び参考資料3の記載から予測される範囲で格別なものではない。 よって、本件発明は、甲第2号証、甲第3号証、及び参考資料3の記載から、当業者であれば容易に発明できたものと認められ、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。 2.明細書の記載要件違反について (1)「しごきを付与する」の意味 請求人は、本件発明におけるワイヤに付与される「しごき」について、明細書中に「しごき」を定義又は説明する記載がなく、また、「しごき」は当業者に一般的に知られている用語ではないので、「しごきを付与する」とは、何を意味しているのか不明瞭であり、本件発明は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものとは認められない旨を主張している。 以下、当該主張について検討する。 本件特許において、明細書中の第1図(a)では、ワイヤ4は、キャピラリ3の中心に挿通されていることが示されている。そして、第1図(b)では、チップ2と反対側にリバース運動させることが波線矢印によって示されている。ここで、第1図(a)から第1図(b)への動きを推察すると、キャピラリ3の中心孔に挿通されていたワイヤ4は、このリバース運動時に、この中心孔の内壁面にこすり付けられるように摺動し、この動きがワイヤに対して与える微少な加圧変形を受けるものと認められる。本件発明は、このワイヤに対する加圧変形を「しごきを付与する」ものと表現しているものと認められる。 また、甲第3号証の摘記事項(3d)において、「次にキャピラリ2を第2ボンディング点Gと逆方向にわずかにC点まで水平移動させる。これにより、〜キャピラリ2の下端に位置するワイヤ1の部分にくせ1aが付く」と記載されており、この「くせ1a」は、本件発明と同様に、ワイヤが逆方向にわずかな運動、すなわちリバース運動によって、中心孔の内壁面にこすり付けられるように摺動することで発生するものと認められる。したがって、リバース運動によりワイヤに対して生じる何らかの加圧変形を本件発明では「しごき」と表現したものと認められる。 とすれば、本件発明における「しごきを付与する」とは、キャピラリのリバース運動によってワイヤが中心孔の内壁面にこすりつける動作により加圧変形を生じさせる動作と解することができる。 したがって、本件特許発明の特許請求の範囲及び発明な詳細な説明における「しごきを付与する」との記載は、不明りょうな表現とは認められず、本件発明の特許出願時の特許法第36条第3項及び第4項の規定に違反するから特許を受けることができないとの請求人の主張は認められない。 (2)「基板」と「チップ」の位置関係 本件発明の目的は、本件特許公報左欄19〜20行によれば、ワイヤループ高を低く形成できるワイヤボンディング方法を提供することである。 すなわち、ワイヤボンディングにおいて、ワイヤの下端部に電気的スパークにより溶融ボールを形成する場合、ワイヤのボールに連続する部分が、溶融熱により高温に加熱されることから剛度が変り、剛性が変った被加熱部が、ボールから垂直に直立することにより生じる諸問題を解決することを目的としている。ここで、諸問題とは、チップ上面からのワイヤループ高が高くなるために生じる電子部品の肉厚大形化、高ループワイヤのアンテナ作用による電気的ノイズの悪影響、ワイヤループの倒れによる相隣るワイヤ同士の接触による短絡、といった技術的課題をいう。 そして、当該技術的課題を解決するための構成について検討すると、当該技術的課題は、半導体チップのボンディング面の位置が基板のボンディング面の位置よりも高い位置関係にある場合に初めて直面する技術的課題であることから、半導体チップのボンディング面の位置が基板のボンディング面の位置よりも高い位置にあることが、本件発明において発明に欠くことのできない事項として認められることとなる。 ここで、本件発明の請求項1における「基板1に搭載されたチップ」という記載が当該本件発明において発明に欠くことのできない事項を表現するものに該当するが、当該記載は、基板とチップのボンディング面の高低については何ら限定されておらず、たとえば、摘記事項(5a)、(6a)に示すような基板に搭載されたチップにおいて、チップのボンディング面が基板のボンディング面よりも低い位置関係にある構成も含み得る構成が存在しうることからすると、特許請求の範囲の表現として不明瞭な記載である。 したがって、本件訂正明細書の特許請求の範囲には、発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載されているとは認めることができず、本件発明の特許出願時の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 VIII.むすび 以上のとおりであるから、本件発明は、甲第2号証、甲第3号証に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、また、本件特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものである。 したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号及び第4号に該当し無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ワイヤボンディング方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】ワイヤが挿通されたキャピラリを下降させて、このワイヤの下端部に電気的スパークにより形成されたボールを、キャピラリにより基板に押し付けてボンディングし、次いでキャピラリを次のボンディングを行う前記基板に搭載されたチップと反対側へ運動させてワイヤにしごきを付与しながら上昇させるとともに、上記ボールから直立する被加熱部の上端部からワイヤを折り曲げながら、キャピラリをチップ上面に下降させて、キャピラリによりワイヤをチップにボンディングすることを特徴とするワイヤボンディング方法。 【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明はワイヤボンディング方法に関し、ワイヤ下端部のボールを基板にボンディングした後、ワイヤを被加熱部の上端部から折り曲げて、チップにボンディングすることにより、ワイヤループ高を低くするようにしたものである。 〔従来の技術〕 基板とチップを接続するワイヤボンディングは、キャピラリに挿通されたワイヤの下端部に、電気的スパークにより溶融ボールを形成し、次いで雰囲気熱により冷却硬化したボールを、キャピラリによりチップに押し付けてボンディングした後、キャピラリを上昇させ、次いで基板へ下降させ、ワイヤの他端部側を基板に押し付けてボンディングするようになっている。一般に、前者のボンディングはボールボンディング、後者のボンディングはステッチボンディングと呼ばれる。 第2図は、このようにしてボンディングされた従来のワイヤループを示すものであって、100は基板、101はチップ、102はワイヤ、103はチップ101にボンディングされたボール、104はキャピラリ、矢印はキャピラリ104の軌跡である。 〔発明が解決しようとする課題〕 上記のようにワイヤ102の下端部に電気的スパークにより溶融ボール103を形成する場合、ワイヤ102のボール103に連続する部分102aは、溶融熱により高温(一般に1000℃弱)に加熱されることから剛度が変る。 このため、第2図に示すように、剛性が変った被加熱部102aは、ボール103から垂直に直立する。 このように、被加熱部102aがチップ101上に直立すると、チップ上面からのワイヤループ高h1は高くなって(一般に0.2から0.3mm)、次いで樹脂封止やモールドプレスなどにより形成される電子部品は肉厚大形化するだけでなく、高ループワイヤのアンテナ作用により、チップ101に形成された電気回路にノイズなどの電気的悪影響を与えやすく、更にはワイヤループの倒れにより、相隣るワイヤ同士が接触して短絡しやすい問題があった。 したがって本発明は、ワイヤループ高を低く形成することができるワイヤボンディング方法を提供することを目的とする。 〔課題を解決するための手段〕 このために本発明は、キャピラリを下降させて、ワイヤの下端部に電気的スパークにより形成されたボールを、キャピラリにより基板に押し付けてボンディングし、 次いでキャピラリを次のボンディングを行う前記基板に搭載されたチップと反対側へ運動させてワイヤにしごきを付与しながら上昇させるとともに、上記ボールから直立する被加熱部の上端部からワイヤを折り曲げながら、キャピラリをチップ上面に下降させて、キャピラリによりワイヤをチップにボンディングするようにしたものである。 〔作用〕 上記構成によれば、ボールは基板にボンディングされることから、ボールに連続する被加熱部は基板上に直立することとなり、被加熱部の高さはチップ厚に相殺されて、ワイヤループ高を低くできる。 〔実施例〕 次に、図面を参照しながら本発明の実施例を説明する。 第1図(a)〜(d)は、ワイヤボンディングの作業順を示すものであって、1はリードフレームなどの基板、2は基板1に搭載されたチップ、3はキャピラリ,4はキャピラリ3に挿通されたワイヤである。ワイヤ4の下端部には、トーチ電極による電気的スパークにより、ボール5が形成されている。またボール5に連続するワイヤ4の下端部は、電気的スパークにともなう溶融熱により加熱されて、その被加熱部4aは加熱されなかった部分と剛性が変っている。なおボール5は、電気的スパークにより溶融形成された後、雰囲気温度に冷却されて、基板1にボンディングされる際には硬化している。 同図(a)に示すように、キャピラリ3を垂直に下降させて、キャピラリ3によりボール5を基板1に押し付けてボールボンディングする。次いで同図(b)に示すように、キャピラリ3を垂直に上昇させた後、キャピラリ3を円弧状に下降させて、ワイヤ4をチップ2の上面に押し付けてステッチボンディングし、(同図(c))、次いでボンディング部分をワイヤカットして、キャピラリ3を上昇させる(同図(d))。 上記被加熱部4aは、加熱されて剛性が変っていることから、ボール5から垂直に直立しており、第1図(c)に示すように、キャピラリ3を上昇位置からチップ2へ向って円弧状に下降させると、ワイヤ4は被加熱部4aの上端部4bから折れ曲りながら屈曲する。 このように、基板1に対してボール5のボンディングを行い、次いで上記上端部4bからワイヤ4を折り曲げて、チップ2に対するボンディングを行えば、チップ2上面からのワイヤループ高h1を低くできる。因みに、代表的なチップ厚h2は0.3〜0.5mm、被加熱部高h3は0.5mm程度、ワイヤループ高h1は0.1mm以下であり、被加熱部高h3はチップ厚h2にほぼ等しいことから、被加熱部高h3はチップ厚h2によりほぼ相殺され、全体高h1+h2を著しく低くできる。 なお第1図(b)において、キャピラリ3を上昇させる場合、破線矢印に示すように、キャピラリ3を、次のボンディングを行うチップ2と反対側にリバース運動させることにより、ワイヤ4にしごきを付与すれば、チップ2からのワイヤ4の立ち上がり角度α(同図(d))を大きくして、ワイヤ4がチップ2の上面に接地短絡するのを防止できる。 〔発明の効果〕 以上説明したように本発明は、ワイヤが挿通されたキャピラリを下降させて、このワイヤの下端部に電気的スパークにより形成されたボールを、キャピラリにより基板に押し付けてボンディングし、 次いでキャピラリを次のボンディングを行うチップと反対側へ運動させてワイヤにしごきを付与しながら上昇させるとともに、上記ボールから直立する被加熱部の上端部からワイヤを折り曲げながら、キャピラリをチップ上面に下降させて、キャピラリによりワイヤをチップにボンディングするようにしているので、ワイヤループ高を低くして、肉薄でコンパクトな電子部品を形成でき、またワイヤループのアンテナ作用を解消し、更にはワイヤループの倒れによる短絡を防止できる。 またキャピラリを次のボンディングを行うチップと反対側へ運動させてワイヤにしごきを付与しながら上昇させることにより、チップからのワイヤの立ち上がり角度を大きくして、ワイヤがチップの上面に接地短絡するのを防止することができる。 【図面の簡単な説明】 図は本発明の実施例を示すものであって、第1図(a)、(b)、(c)、(d)はボンディング作業順の側面図、第2図は従来手段の側面図である。 1・・・基板 2・・・チップ 3・・・キャピラリ 4・・・ワイヤ 4a・・・被加熱部 5・・・ボール |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2005-11-14 |
結審通知日 | 2005-11-16 |
審決日 | 2005-11-30 |
出願番号 | 特願平2-89921 |
審決分類 |
P
1
113・
537-
ZA
(H01L)
P 1 113・ 121- ZA (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 川真田 秀男 |
特許庁審判長 |
城所 宏 |
特許庁審判官 |
大嶋 洋一 市川 裕司 |
登録日 | 1998-07-31 |
登録番号 | 特許第2808809号(P2808809) |
発明の名称 | ワイヤボンディング方法 |
代理人 | 岩橋 文雄 |
代理人 | 石田 悟 |
代理人 | 藤井 兼太郎 |
代理人 | 深石 賢治 |
代理人 | 柴田 昌聰 |
代理人 | 岩橋 文雄 |
復代理人 | 藤井 兼太郎 |